『自分の頭で考える』松村謙三(2019年)を読書。
著者はハズキルーペを爆発的にヒットさせた方です。
広告とM&Aについて知りたかったので、丁度良かった。
広告制作もM&Aも身近な話でないので、概要が知れて良かった。
読み易いが、専門用語が出てくる。
お勧め度:☆☆
内容:☆☆
キーワード:<素人の作ったCMがランキング1位に>宣伝広告、冬季オリンピック、怒り、銀座のクラブ、忖度、絵画、<ハズキルーペは、こうして生まれた>買収、神田通信工業、完全自動化、ギフト、コピー商品、<前例のないディール>日産、神田通信工業、弁護士、帝国ホテル、東武運輸、京成電鉄、阪急電鉄、村上世彰、ファンド、買収、<これからの日本に必要な事>ボーディングスクール、子育て/少子化対策
<はじめに>
・本書のタイトル「自分の頭で考える」は、旧習の広告業界に対する気概を表しています。また本書の後半で、私(※著者)の本業である企業買収を書きますが、そこでの座右の銘でもあります。
・2018年春ハズキルーペのCMが大ブレークし、出演依頼がテレビ局/週刊誌などから殺到しましたが、お断りしていました。出版社からの出版依頼も多数あったのですが、これもお断りしていました。それは20年前にビジネス書を出版したが、「ゴーストライターに書かせますから」と言われたのに、結局自分で書き上げた事があったからです。しかしそれは4刷で4万部が売れ、ベストセラーになりました。
・ところが本書はKADOKAWAさんに「初版で2.5万部刷る」と言われ、引き受けました。本書はCMクリエイターでない私が、なぜCMの賞を3つも取れたかを解き明かす本です。
・それまでは有名人の印象だけが残るイメージCMが主流でした。私はこのブランド価値が残らないCMに疑問を持ち、有名CMクリエイターに任せず、自ら監督/キャスティング/企画/脚本/チーフスタイリストをやりました。これを前半に書いています。
・後半は本業の企業買収/企業再生について書いています。後ろ盾のない私が、有力ファンドと争い、大企業から会社を買収した話などを書いています。また買収した企業の再生についても書いています。
<はしがき>-菊川怜
・ハズキルーペのCMに出演した事は、貴重な体験になりました。松村会長は出演者に随分気を遣ってもらいました。事前にCM製作の意気込みも聞かせてもらいました。話題となった「だーい好き!」も、会長が私の素の部分に気付かれたからです。
・ハズキルーペのCMに出演してからは、多くの人から声を掛けてもらえるようになりました。会長からは会う度にパワーをもらえます。読者の方もパワーをもらって下さい。
<第1章 素人の作ったCMがランキング1位に>
○マーケティングこそトップの仕事
・CMは商品を売るための手段です。ところがCMクリエイターは、タレントに媚び、作品賞を取るためにCMを作っています。CMなどの宣伝広告費は巨額です。宣伝広告こそ経営トップがやるべきです。
○池の中のクジラ
・8年前にハズキルーペの事業を開始しました。その最初の2年間で宣伝広告費に50億円を使いました。テレビCMだけでなく、電車広告/全国紙/チラシ/雑誌などです。しかしこれは早過ぎでした。まだ店舗が8千店しかなかったのです。※8千店は凄い気がするけど。
・石坂浩二さんに赤色のフレームを掛けてもらいました(※テレビCMには、石坂浩二編/渡辺謙編/松岡修造編などがある)。赤が売れないのは「業界の常識」でしたが、それに挑戦したのです。結果、黒と同数売れる大ヒットになりました。
・営業チームが、眼鏡店に什器(※何をする装置かな)/サンプルを無料で置いてもらいました。石坂さんのテレビCMで知名度が上がり、取り扱い店舗は1.6万店まで増えました。
○「冬のオリンピック」でメインスポンサー
・ハズキルーペはシニア向けと思われますが、拡大して見せているだけで、目の負担になりません。さらにパソコン/スマートフォンから出るブルーライトをカットします。ルーペなので子供からシニアまで使えるのです。そこで舘ひろしさんと、ミス日本に選ばれた松野未佳さんのCMを作成したのです。
・その頃電通から「冬のオリンピックのスポンサーになりませんか」と提案があり、最大のスポンサーであるキヤノンと同額のスポンサーになりました(※2018年平昌かな)。これに舘/松野のCMをぶつけたのです。これが大反響になり、ハズキルーペが流行語になります。2015年8月1.6万店舗だったのが、2019年1月5.5万店舗に増えます(※家電店とかにも置いてあった気がする)。これは日本最大のチェーン店です。因みにセブンイレブンは2万店舗、郵便局は2.4万店舗です。
○誰のためにCMはあるのか
・2015年8月~2017年10月は石坂バージョンを多数制作しました。しかし製作サイドに不満を持っていました。そこで地上波に乗せるため、キャスティングを舘/松野に変更しました。製作は大手広告代理店の大物CMクリエイターに依頼したのですが、舘さんがハズキルーペについて語るシーンはなく、満足できませんでした。しかし結果的には冬のオリンピックで大ブレークします。
○渡辺謙さんが提案したテーマは怒り
・次に製作したのが、渡辺謙/菊川怜のCMです(※これが一番印象に残っているかな)。ハリウッド映画『SAYURI』(2005年)の芸妓の鼻緒を結ぶシーンを観て、「横顔で演技できる一流の役者」と感動し、渡辺さんに出演してもらいたいと思っていました。
・渡辺さんに出演を依頼すると、彼から脚本のアイデアを頂きました。そこには「世の中の文字は小さ過ぎて読めない」などが書かれていました。これを基に大手広告代理店に制作を依頼しました。
○要望を無視するCMクリエイター
・大手広告代理店が有力CMクリエイターを連れて来て、パソコンでプレゼンしてくれるのですが、景色をみせるばかりのイメージCMなのです。そのCMクリエイターに絹谷幸二の絵画を見せても「興味がない」と答え、映画について尋ねても「映画も見ない」と答えるのです。「渡辺さんの『怒り』をテーマに案を作って下さい」と依頼しました。
・1週間後、2つの案を持って来ました。1つはスイスの山並みを見せるもので、2つ目はミラノ駅を上空から見せるものでした。当然「怒り」が入っていないので、お断りしました。
・次に連れて来たのが大物クリエイターでした。「彼は渡辺さんと仕事ができるなんて、鳥肌が立つ」と言いました。彼はタレントにゴマをするが、スポンサーを見ないCMクリエイターだったのです。彼に対しても、「『怒り』をテーマに案を作って下さい」と依頼しました。
○無用な忖度で固められたCMの世界
・1週間後、2つの絵コンテを持って来ました。1つ目は、お城で殿様に扮した渡辺さんが、フランシスコ・ザビエルからハズキルーペを受け取るものでした(※時代錯誤で面白そうだけど)。2つ目は、ピアノを弾く渡辺さんが、ハズキルーペを掛けて驚くものでした(※これも面白そう)。これらにも「怒り」は見られず、お断りしました。そこで「企画は私がやります。製作会社のスタッフを集めて下さい」となったのです。
・数日後、製作会社のスタッフが10人位集まりました。そこで私は「テーマは『怒り』です。渡辺/菊川さんに商品名・機能を言ってもらいます。イメージCMではなく、ストレートトークのCMにします」とプレゼンします。
・1週間後、絵コンテを持って来ましたが、タレントを忖度したもので、ガッカリしました。彼らは「タレントにそんな言葉を言わせられない」と拒むのです。結局私が、監督/企画/脚本/チーフスタイリストをやる事になったのです。
○菊川怜さんを起用
・菊川怜さんは東大建築学科を卒業し、スタイル抜群です。オスカープロモーションに出演を依頼し、快諾を頂きました。渡辺/菊川さんが初対面で撮影に入らないように、両人を自宅に招きました。菊川さんにハズキルーペをお尻で踏むシーンを伝えていましたが、「何でもやります」と即答してくれました。「ハズキルーペ大好き」のセリフも実演してくれました。渡辺さんは「怒り」のテーマについて情熱的に語ってくれました。
・CMの撮影に入り、渡辺さんが椅子に座り、書類を投げるシーンがありますが、彼は何度もステージを降りて確認してくれました。彼は「字が小さ過ぎて読めない」の時と、ハズキルーペを掛けた時の表情の対比を作りたかったのです(※もう少し詳しく書かれているが省略)。菊川さんにハートマークをお願いすると、頭上でハートを作りました。これも渡辺さんのアドバイスで、胸元でハートを作る事に変わりました。
・キャスティングは私が決め、映像/カメラマン/CG/音楽のスタッフも私が決めました。そして私が希望する通りの映画みたいなCMになりました。※著者は相当な映画好きだな。
○素人がトップを取った
・この渡辺/菊川さんが共演するCMは、瞬く間に反響を呼びます。CM総合研究所の部門別ランキングで1位になり、総合でもトップ10に入ります。次の武井咲/小泉孝太郎/舘ひろし編は、いきなりランキングで1位になります。さらに『ブレーン』で年間グランプリ優勝、『コマーシャルフォト』で年間ランキング1位、『日経MJ』で年間ランキング1位を受賞し、3冠になります。
・そのため民放/メディアから取材依頼が殺到しましたが、お断りしました。しかし一部から女優に関してクレームがありました。
○セクハラなどの一部批判に反論
・CMも映画と同じく芸術作品です。戦前、安井曾太郎は裸婦の絵画を帝展に出品し、検閲により落選します。しかし今の憲法は表現の自由を保障しています。この手のクレームは表現の自由の侵害です。脚の綺麗な女性がそれを見せ、職業にするのは問題ありません。実際NHKやソフトバンクが、このCMのパロディを作成しています。
○不可能と言われた『黒革の手帖』編
・私は次の武井/小泉/舘さんのCMも陣頭指揮を取ります。武井さんが主役の『黒革の手帖』を見て、着物が綺麗な武井さんにCMに出てもらいたいと思っていたのです。オスカープロモーションの古賀社長が、出演依頼を受けてくれました。男性の方は、『ブラックペアン』に出演していた小泉さんを考えていました。こちらも出演依頼を受けてくれました。
・「銀座のクラブ編」で忘れてはいけないのが舘さんです。実際に彼とクラブに行った事がありますが、その貫録を忘れていませんでした。彼はモントリオール映画祭やブルーリボン主演男優賞などを受賞しています。
○真のマーケティングとは
・「銀座のクラブ編」は、私が真に企画/キャスティング/脚本/チーフスタイリストの陣頭指揮を取りました。渡辺さんの「世の中の文字は小さ過ぎて・・」は、小泉さんが、おしぼりを投げる事になりました。このシーンは2回撮ったのですが、表情の良かった最初のカットを使いました。何回も撮ると、気迫/緊張感などが落ちていくのです。クリント・イーストウッドは、取り直しをしない前提で、撮影しています。
・ナレーションは、滑舌なプロに依頼する事が多いのですが、舘さんに依頼しました。
○有名CMクリエイターから絶賛の嵐
・「銀座のクラブ編」は大反響になり、『CM INDEX』で通信大手3社を抜き、1位になります。タレントから商品を連想する感応度指数と、逆に商品からタレントを連想する感応度指数が断トツだったのです。
・『コマーシャル・フォト』の2018年CMベスト10でも、「渡辺謙、菊川怜編」「武井咲、小泉孝太郎、舘ひろし編」が1位と3位になります。有名CMクリエイターが以下の意見を述べています。
いきなり頭を殴られた感じ。今まで自分が何をやってきたのか。
常識でない事をやり切った。こういうのが視聴者に伝わるんだ。
これをイノベーティブと受け入れる事が、テレビCMの未来に繋がる。
すごいぜ!だ~い好き!と自社製品を褒め倒す。コピーの潔さ。※他に16の意見が記されているが省略。
○新CM「舞台リハーサル編」登場
・「舞台リハーサル編」も私が、企画/脚本/キャスティング/脚本/チーフスタイリストをこなしました。松岡修造さんを起用したのは、ドラマ『陸王』を見たからです。
・企画は「コーラスライン」とプレゼン番組「TED」をミックスしたものを考えていました。当初はマイケル・ダグラス役を舘ひろしさんに、ハズキルーペをお尻で踏む役を小泉孝太郎に考えていましたが、マイケル・ダグラス役を小泉さんに、ハートマークを作る役を舘さんに変えました。広告代理店を通し石原プロモーションにお願いし、舘さんに引き受けてもらいました。
・武井さんの着物は白を基調に、人間国宝に織ってもらいました。松岡さんの衣装は、コナカノの特注スーツで、舘/小泉さんのスーツもブランド品です。※撮影での様々な出来事が書かれているが省略。
○人の心は理論だけでは動かない
・CMの目的は、ブランド力を上げ、かつ商品が売れる事です。ブランド力を付けるだけならイメージCMが効果的です。しかし商品を含めたブランド力を付けるには、大量のCMを流す必要があります。「タレントは覚えているが、商品は覚えていない」が往々にしてあります。
・そこで考えたのが、①何度見ても飽きない、②映画のような映像美、③映像ディレクター/音楽/CGは一流のスタッフで、キャスティングも重要です。それで人の心に突き刺さるCMを作り、商品を買ってもらわなくてはいけません。人は理論・理屈では動かず、感情・感動で動くのです。
○どうすれば人の心を動かせるか
・私が作ったCMには映画のエンディングシーンのような場面があります。右側で機能を紹介し、左側で「だ~い好き」などを言ってもらうシーンです。これはに人間の両脳を刺激しているのです。
・皆さんが普段利用する道には、様々な店があると思います。その大半は利用した事がない店です。人は情報だけでは動かないのです。そこで店の楽しそうな風景のチラシがあったり、知人から「あの店は美味しいよ」とかの情報があると、店に入るのです。CMも同じで、女優に「ハズキルーペ大好き」と繰り返し言われ、購入するのです。
・これがCMの目的です。ところが広告業界は有名タレントなどへの忖度が強く、スポンサーの立場になってCMを制作していません。「有名タレントに、そんなセリフを言わせると、干される」となっています。私にこれができたのは、私が企業の宣伝広告マンでないからです。私はタレント/事務所に忖度する必要はなく、業界の暗黙のルールに従う必要もなかったのです。
○画家の目をしている事業家
・私は絵画にも興味があります。レオナール・フジタ/絹谷幸二/奥谷博などの絵画を所有しています。梅田スカイビルの絹谷幸二美術館には、松村謙三コレクションがあります。
・私は絵画の購入を、見た印象で即断します。そのため絹谷/奥谷さんから、「画家の目をしている事業家」と言われます。事業には直感が重要です。ただし「失敗した」と思ったら、直ぐに手を引きます。これも重要です。
<第2章 ハズキルーペは、こうして生まれた>
○企業買収から生まれたハズキルーペ
・ハズキルーペは、弊社がタカラトミーから買収した5社の内の1社が所有する商品でした。その会社はタカラトミーの事業整理の対象でした。そこでタカラトミーのCOO佐藤慶太さんに売却の意向を間接的に確認したのですが、断られました。
・そこでセガの広井王子さんに仲介してもらって、佐藤さんと面会しました。すると彼は「松村さんは日産や富士通から、労働組合の賛同を得て買収してこられたんですね。それなら買収しても良いですよ。ただし5社まとめてお願いします」と条件を付けられます。しかし私は即断し「買わせて下さい」と即答します。※雇用維持が条件かな。
・大企業の買収はこれからが大変です。「相手先がプリヴェ企業再生グループで大丈夫か」「他に手を挙げている会社はないのか」「なぜ入札にしないのか」などを取締役会で合意し、株主に説明する必要があります。「買収後に労働者解雇/資産売却がないか」など、買収元企業の健全性が問われるため、買収元企業を第三者機関が調査し、入札になりません。弊社は第三者機関のデューデリジェンスで売却先に相応すると評価され、5社を売却できたのです。
※相互に財務状況などを調査する必要がある。デューデリジェンスとは買収先企業に使う言葉と思ったが、双方に使うみたいだな。
・5社の中で特に業績が悪かった会社が、後にハズキルーペを生み出します。当社は4500種類の商品を扱い、毎年3千万円の赤字を計上していました。弊社にはMBA取得者/公認会計士などがいましたが、彼らは「当社は早く処理すべき」と言っていました。当社は17億円の債務がありましたが、その大半はタカラトミーの佐藤さんへの債務でした。
・その3年後当社のローラーシューズ「ヒーリーズ」が大ヒットし、黒字に転換します。その頃テレビ番組でハズキルーペが売れたのです。当時ハズキルーペは鯖江の工場に生産を委託していました。原価が高かったので、富士通から買収した神田通信工業で作らせようと考えます。
・エンジニア20人を連れて鯖江の工場を見学しました。機械も古く、レンズのコーティングは手作業で、不良品も沢山出ていました。社長に不良率を聞くと、30%だったのです。エンジニアらは血液分析装置/超音波診断装置などの精密機械を作っていたので、彼らに任せる事にしました。
○商品アイテム4500種類を1種類に
・当社は4500種類の商品を扱っていました。そのため回転率が1に満たない(1年経っても売れない)商品もありました。倉庫代も膨大になります。輸入品もあるので、海外にも倉庫があり、通関業務は委託していました。さらに経営コンサルタント会社と契約し、高いコンサルタント料を払っていました。
・買収で問題になるのが社内システムです。システムエンジニアがいましたが、レベルは低いものでした。外注したシステムは、オプションの追加で、複雑で高いものになっていました。今では外注したシステムは、全て自社開発に切り替えています。
・システムエンジニアの能力は人事には分かりません。そのためシステムエンジニアに判断してもらいます。ただし高い能力を持つシステムエンジニアを採用すると、自分の地位が奪われるので、そんな人は採用しないので注意が必要です。
○赤字会社を立て直す
・赤字会社の出血は素早く止めなければいけません。まず一番大きな出血から止めるのが重要です。回転率が1に満たない商品は廃棄に決めました。この第1段の絞り込みで90種類に絞りました。これで倉庫代を削減できました。輸入商品は全て切り捨て、物流費も削減しました。圧縮した商品は東武運輸プリヴェの倉庫に移管しました。これで年間1億円のコスト削減になりました。
・有名コンサルタントとの契約も切り、システム開発も自社開発に切り替えました。営業などの間接部門をシステム化し、人件費を大幅に減らしました。余った人員はグループ会社に移ってもらいました。売上高は落ちましたが、黒字化に成功しました。
○全てのリスクはトップが取る
・さらに90種類の商品をハズキルーペだけに絞りました。そしてハズキルーペは、神田通信工業で開発・設計・生産・製造する事になります。神田通信工業も買収時は従業員1千人で、赤字会社でした。神田通信工業も減価償却期間が過ぎた古い機械が並んでいました。それを最新の機械に置き換え、完全自動化した工場に作り替えると宣言します。エンジニアはレンズ/フレームの完全自動化に取り組みます。
・同時に労働環境も改善し、2直制を導入しました。早番は朝6時から所定時間を働き、遅番は16時から所定時間を働きます(※深夜1時に終業かな)。これを2週間で交代します。これで人員の採用は2倍になり、設備の稼働率も2倍になります。
・高額な設備を導入するのに、以前は数年掛かっていました。今は会議は立ってやり、私も出席し、即断即決です。高い機械を買うのに躊躇しません。トップの覚悟・熱意を社員に示す事が重要です。
○メガネ業界世界初、大量生産技術の確立、生産ラインの全自動化
・中国は日本の最新の工作機械を買って、人海戦術で製品を生産・製造しています。そのため人件費で負けます(※生産と製造を分けている。原料を作るのが生産で、原料から製品を作るのが製造かな)。そこで私は機械と機械の間の成型品の移動を人ではなく、ロボットにさせ、自動化を行ったのです。またレンズのコーティングも自動化させました。レンズの自動検査機器も工作機械コンサルタント会社に作らせました。これらにより大量生産技術が確立し、工場は完全自動化されました。
・金型について補足します。レンズはアクリルに270トンの圧力を掛けて成形します。そのため金型の素材は重要です。ところが中国の金型は安物の金属が使われているため、レンズが歪むのです。粗悪な中国製コピー商品を買うと、「安物買いの銭失い」になります。
○ハズキルーペをどう売るか
・ハズキルーペを試し掛けすると、衝動買いします。そのため試し掛けしてもらう事が重要です。そこで営業に専用の什器とサンプルを、全国のメガネ店に置いてもらうようにしました。無償で置いてもらうのですが、当初はハズキルーペが無名で苦戦しました。そこで石坂浩二さんにプラモデルを作るCMをお願いしたのです。このCMが大々的になると、置いてくれるメガネ店が激増しまし、有名デパートなども置いてくれるようになりました。
・テレビCMだけでなく、全国紙・地方紙へのカラー広告、チラシ、電車内の広告、将棋・囲碁・園芸・手芸・料理などの雑誌の広告など、あらゆる媒体で宣伝広告を行いました。2年間で50億円を掛けたのですが、時期尚早でした。
・広告宣伝のやり過ぎでした。認知や取扱店が伴っていませんでした。ハズキルーペにはクールタイプ/標準タイプ/ラージタイプがあり、クールタイプを8800円で売り出したのですが、他のタイプ(1万円)の方が売れました。
・ハズキルーペはメガネ業界で、初めてギフト商品になりました。プレゼントする人は5千円の中国製コピーを贈るのではなく、1万円のハズキルーペを贈るのです。購買層も中間層以上のプチブル層がターゲットです。婦人に服装に合わせ、複数個買ってもらいました。入院のお見舞い返しに、300個買った人もいます。言葉に惑わされてはいけません。数字を信じて下さい。
○メガネ業界にギフト市場を作った
・ハズキルーペが、どうしたら売れるか思案しました。メガネ業界にギフト需要はありませんでした。それはメガネは検眼してから買うからです。しかしハズキルーペはルーペなので検眼は不要です。そのため先の300個の件や、ホールインワンのお祝いに100個購入して頂きました。
・父の日より母の日にプレゼントする人が多いと思いますが、渡辺謙さんがCMに出てからは、父の日の方が売上が多くなりました。ハズキルーペはレンズが3種類、フレーム色が10種類あります。そのため複数購入し、別々の部屋に置かれている人もいます。
○コピー商品と著名性
・粗悪な中国製コピー商品が氾濫しています。彼らはハズキルーペの宣伝広告に、ただ乗りしているのです。そのためハズキルーペは90ヶ国で、意匠権・商標権を登録しています。ただし意匠権は少し形状を変えるだけで、すり抜けられます。また意匠権は20年しか存続しません。
・心強いのが「不正競争防止法」です。これだと著名性を獲得すれば、販売方法などでも叩く事ができます。しかもこの権利に期限はありません。ハズキルーペが大量にCMを打っているのは、著名性を獲得するためです。粗悪なコピー商品を購入し、レンズに歪があったり、簡単に壊れたりして、「ハズキルーペも同じだろう」と思われては困るのです。大量のCMで著名性を獲得し、売上も激増しました。取扱店は5.6万店になり、メガネ業界で最大の店舗数になりました。「不正競争防止法」により、160業者以上を排除しています。
<第3章 前例のないディール> ※複数の買収案件を紹介している。
○後ろ盾のない個人が、大企業から買収
・個人会社が大企業から会社を買収するのは、あり得ない話です。私の「プリヴェ再生グループ」が知られるようになったのは、日産自動車から三河日産自動車販売会社/静岡日産自動車販売会社を買収してからです。
・日産はゴーンによりV字回復しましたが、それまではモデルチェンジが少なく、トヨタ/ホンダと比べ、代わり映えしない車が売られていました。そこでゴーンが新車攻勢を掛け、業績を回復させたのです。
・日産は自動車メーカーは黒字なのに、販売店は赤字なのです。これには理由があります。トヨタは各都道府県の有力企業にディラー権を渡しました。その地縁・人脈で販売量を増やしたのです。一方日産は「技術の日産」で営業を軽視したのです。販売網の構築が遅れたため、日産自体が販売網を構築し、販売会社の社長・取締役は日産から送られました。そのため官僚的になったのです。
・この最初の転機が、三河日産自動車販売会社/静岡日産自動車販売会社の売却です。しかし日産はこれに2つのリスクがありました。1つは、過去に販売会社を売却した事があったのですが、その会社は直ぐに日産を止め、他社に乗り換えたのです。このトラウマがあったのです。
・2つ目は、労働組合との関係です。私が初めて日産の幹部と会った時、「日産は、お金では会社は売りません。信頼関係で売ります」と言われました。さらに「難しい問題は労働組合です。彼らを説得して頂かないいけません」と言われました。
・労働組合と1年の交渉を経て、合意に至ります。電話帳位の厚さの宣誓書に、8ヶ所署名・押印しました。そこには「従業員を解雇しません」とあるのです。契約書ではないので、訴えられる事はないのですが、破ると干されます。
・日産の取締役会で販売会社2社の譲渡が可決され、弊社の名前が世の中に知られるようになります。※この買収でプライベート・エクイティ・ファンド「リップルウッド」と競合した事が書かれているが省略。
○買収スキームLBO
・販売会社2社の買収は、LBO(レバレッジド・バイアウト)を使いました。これは欧米では一般的な手法です。米国にはメザニン資金(※リスクが中程度の資金)を扱うジャンク債市場があります。LBOを使ったのは、大手損保会社がメザニン資本の出し手になると睨んだからです。匿名組合(?)と云うファンドを作り、大手損保会社から資金を調達しました。
・また日産の販売会社のシニア債(※リスクが低い債券)の出し手は東京三菱銀行でしたが、弊社のメインバンクの三井住友銀行にも融資枠を与えました。これは三井住友銀行が日産グループに融資する初めての取引になります。※専門的になってきた。日産は東京三菱銀行系列か。前項は買収前の話で、後項は買収後の話かな。
○20社と競り合い、富士通から買収
・神田通信工業は東証2部上場会社で、創立100年を迎えました。従業員は1千人で、無線精密機械/血液分析装置/超音波診断装置を製造し、他に電話通信事業/金型センサーなどの部門も持ちます。
・富士通は野村証券がアドバイザリー契約をしていました。これは野村証券が芙蓉グループから初めて取った案件です(※富士通は芙蓉グループではなく、古河グループみたいだが)。弊社の監査役が野村証券グループの元常務取締役だったので、当社の売却話しを聞き、彼を伝手に野村証券の担当取締役に会いました。すると既にファンドなど20社が手を挙げていたのです。
・富士通は財務部門が戦略を立てていましたが、その財務部門の幹部と弊社の取締役が旧知の仲だったのです。その伝手で富士通に呼ばれました(※ここでも人脈か)。富士通の幹部は、日産から販売会社を買収した事に関心を持っていました。富士通にも電機労連があり、それへの対応が重要だったのです。「日産の労働組合への対応を確認させて下さい」で分かれます。
・翌日富士通から「最高財務責任者(CFO)と会ってもらえないか」と電話が入ります。富士通を訪れると、CFO/財務部長/法務部長/総務部長が並んでいました。そこでCFOは「当社には47億円の債務がある。野村証券が連れてくるファンドは、『その半分を富士通が持て』などと言ってくる。青目は嫌いだ」と言うのです。私は即断し、「47億円は全額引き受けます。弊社には優秀なアナリスト/公認会計士が10人います。彼らに監査法人が納得する事業計画書を作らせます」と答えます。富士通の決算が迫っていたので、さらに「デューデリジェンスは1週間で済ませます」と答えます。
・富士通本社ビルを出ると、流石に心配になり、社内公認会計士に電話を入れます。すると「製造メーカーのデューデリジェンスは、最低でも1ヶ月掛かります」と答えます。そこで私は「知り合いの大手監査法人から、20人でも30人でも人を集めてくれ」と指示します。
○赤字企業の再生スキーム
・赤字企業を建て直すのは、救急搬送された患者と同じです。まずは原因を突き止め、出血を止める必要があります。また赤字企業を買収する際は、デューデリジェンスの段階で、その目処を付けておくのです。ただし実際の建て直し方を教えてくれる機関は存在しません。自分の頭で考え、悩み、試行錯誤するしかありません。
・足りない知識は、弁護士/公認会計士に頼る必要があります。企業のトップは、法律/会計の専門家からなる買収チームを作り、細かな事案から大きな事案まで即断即決する必要があります。
・弁護士のタイムチャージは高いのですが、M&Aに精通した人に依頼します。有能な弁護士は短時間で的確なアドバイスができます。また彼らは最先端の手法・スキームを知っていますし、独占禁止法に絡む事案も多数経験しています。
・商法の特別法である「金融商品取引法」上のリーガル・リスクには細心の注意が必要です。これに精通しているのが東京地検特捜部の検事です。彼らは金融商品取引法を駆使し、被疑者を立件・起訴する立場だからです。※多分5課位あって、それぞれ担当が違った。ヤメ検が大手企業に入るケースは多々あったと思う。
・同様に商法の特別法である「独占禁止法」に精通している弁護士も必要になります。規模が小さい会社でも、市場占有率が高い場合があります。他に知財に詳しい弁護士も必要です。私は休眠特許を活性化する特許訴訟ファンドを組成した事があり、これがきっかけで政府の知財委員会に選ばれました。
○小泉首相の知財委員会の委員に指名される
・小泉首相の特命で、「知的財産流動化委員会」が発足しました。その時経産省より「信託業法を改正し、特許権を流動化し、特許権を売買する市場を創りたい」と頼まれ、委員になりました。
・特許訴訟ファンドは、特許を侵害した企業に損害賠償訴訟を起こすのが目的です。そのため外国企業を相手にする事もあり、ワシントンのリーガル・アドバイザーのフィネガン・ヘンダーソンに入ってもらいました。
・弁護士を選ぶのに重要なのは、喧嘩に強い弁護士を選ぶ事です。紛争に勝てるかが最も重要です。相手の弱みを見付けて叩いたり、負けると思えば、奇手に出たり、裁判所の和解案に乗ったりする柔軟性も必要です。
○前代未聞の買収劇
・神田通信工業のデューデリジェンスの結果、リスクがある事が分かりましたが、買収する事にしました。債務47億円は弊社が提出した事業計画書が評価されました。そして買収価格は株式/債務を合わせて60億円になりました。
○プリヴェ企業再生グループは晴れて新規上場
・この時投資家ウォーレン・バフェットが上場繊維会社バクシャー・ハサウェイを買収し、後に投資会社に変貌させた事例が浮かびました。現在その会社の時価総額は、トヨタの3倍もあり、フェイスブックより大きくなっています。
・この事業モデルは、日本の銀行の持ち株会社制度で実現できます(※何で銀行に限定したのか)。例えば三井住友銀行を上場廃止し、三井住友ファイナンシャルグループを新規上場させています。この方法で当社の上場を廃止し、プリヴェ企業再生グループ株式会社を新規上場させました。
・その1年後、日産の2件目の静岡日産自動車販売会社を買収する事になったのですが、これは東証の「不適当な合併」に抵触したのです。しかしあえて上場再審査を受ける事にしました。当時は上場会社が、より大きな非上場会社を買収するケースがあり、上場再審査の猶予期間に入っていました。ところが弊社はこの買収が好感され、株価が上昇したのです。※株が上がって適合になったのかな。
○帝国ホテル買収報道
・朝刊トップに「帝国ホテル買収 プリヴェ企業再生グループ」と報道されました。買収で一番気を遣うのが情報漏れです。情報が漏れると潰されるからです。帝国ホテルの大株主は小佐野賢治の国際興業で、そこと買収交渉していました。その国際興業はバイアウトファンド「サーベラス」の傘下にありました。
・この詳細は割愛しますが、結果的にディールを逃します。しかし米国『ウォールストリートジャーナル』/英国『ファイナンシャルタイムズ』に、「プリヴェ企業再生グループの松村は、日本を変えようとしている」などと書かれました。
○米国大統領候補ジュリアーニ氏とディール
・米国大統領候補で元ニューヨーク市長のジュリアーニ氏の選挙ファンドから、弊社の監査役(ジャフコの元常務取締役)に連絡がありました。彼から「上場前のジャフコの株を譲り受け、それが数十倍になった」との感謝の連絡です。そして帝国ホテルの記事を見て、「小泉首相と会うため来日するので、その機会に会いたい」と伝えてきたのです。
・そして六本木ヒルズのホテルで昼食を共にしました。彼は「帝国ホテルは日本のフラグシップホテルなので横槍が入るだろう。私はあなたを支援をする。そのためプリヴェ企業再生グループの株を譲ってもらえないか」と持ち掛けてきたのです。これも即断即決し、譲る事にしました。
○東武鉄道傘下の運輸会社を買収
・東武鉄道は「選択と集中」からグループ企業の買収を進めていました。ところが銀行・証券の投資銀行部門やM&Aブローカーは相手にしていませんでした。しかし東武グループの社長に知り合いがいて、東武鉄道の社長と会い、最終的に運輸会社を買収しました。
・これは弊社の初めての黒字会社の買収でした。経常利益が4億円あり、労働組合の反対があったのですが、日産自動車/富士通の件がトラックレコードになり、買収に成功します。普通買収すると社名を変えますが、東武鉄道が株式の5%を保有する事で、東武の名前を10年間付ける事を許されました。そのため10年間は「東武運輸プリヴェ」で、その後「プリヴェ運輸」に変更しました。
・当社は黒字を続けていましたが、経営改善を行いました。ここでも外部システムを廃止し、運用事業用のシステムを自社開発しました。トラックの運行状況/空便状況/荷物の状況/各トラックの損益状況などが一目で分かるシステムです。それまで配車担当は自分の支店の利益しか考えていなかったのですが、空便に他支店の荷物を乗せるようになりました。また営業も他支店の仕事を積極的の取るように変わりました。
・さらに営業改革を行い、取締役/支店長によるトップ営業に切り替えました。大きな案件は営業マンレベルでは取れないのです。また支店長は自支店だけでなく、他支店のキャパシティも知っているので、支店を超えた商談ができます。
・社長/支店長のコミュニケーションを活発化させ、助け合う気持ちを大切にするようにしました。これにより売上は毎年2桁以上伸び、買収時の2倍以上になりました。
○阪急電鉄とオリエンタルランドの親会社京成電鉄の筆頭株主に
・東武鉄道と京成電鉄の本社が隣り合わせにあり、その場所にスカイツリーを建てる構想がありました(※今のスカイツリーでは)。スカイツリーができれば、京成電鉄の沿線は土地価格が上昇し、また京成電鉄はオリエンタルランドの親会社でもあります。そのため京成電鉄の株式を買い集め、筆頭株主になりました。
・経済同友会の金融市場委員会に出席した時、私の所に村上世彰さんが来ました。そして彼は「なぜ京成電鉄の株を買うの」と訊いてきたので、「電鉄会社は眠れる獅子です。小林一三の時代は野原に鉄道を引くと沿線の土地が値上がりした。京成電鉄と東武鉄道の本社付近にスカイツリーを建てる構想がある」と伝えます(※大幅に省略)。彼は阪神電鉄の株を大量に買っていましたが、「私が京成電鉄の次に阪神電鉄を狙う」と気になっていたのです。
・彼は証券取引法にある5%ルールの隙をついて、転換社債を購入し、株式に転換していたのです。証券取引等監視委員会(SESC)が厳しくチェックしているので、証券取引法をすり抜けるのは不可能です。
○阪急電鉄の筆頭株主、日経新聞の一面トップに
・京成電鉄と同時に阪急電鉄の株も買い集めていました。それは電鉄業界の再編を考えていたからです。私の投資スタンスは「物言う株主」(アクティビスト)と違うのです。彼らは企業に高配当や自社株買いなどを要求し、時には社長の辞任や協力者を取締役に送る要求をします。最終的に株価を上げ、売却して利益を得るのです。
・当時はアクティビストに批判的でした。しかし会社は株主が資金を出しています。取締役は株主のために、利益を追求する義務があるのです。日本のメディアは取締役に同情的ですが、一般の労働者と取締役は違うのです。日本も欧米と同じ競争社会/資本主義である事を忘れてはいけません。
・しかし私はアクティビストとは考えが違います。小林一三が箕面電鉄の監査役をやっていた時、経営危機になりますが、それを乗り越え社長になり、阪急百貨店/宝塚歌劇団/東宝などを設立したのです。梅田駅周辺の不動産は、阪急が買い占めています。
・阪急電鉄の筆頭株主になり、日経新聞の一面トップになりました。その日は取材の対応に追われました。その日の夜、村上氏から夕食の誘いがありましたが、「後が怖いので」と断りました。
○ゴールドマン・サックスから資金調達の提案
・そんな最中にゴールドマン・サックス証券から、「買収資金を集める協力をしたい」と提案があり、「ニューヨークで買収資金集めの会議を開くので、メインの会社として出て欲しい」との依頼がありました。弊社は上場会社でしたが、投資会社に変貌させていました。ゴールドマン・サックスが弊社の下にファンドを組成する提案をしてきたのです。
・ニューヨークでのカンファレンスは3日間で、毎日8件のミーティングがスケジュールされていました。弊社のプレゼンテーションには世界的な投資ファンドが大挙して集まりました。私はプレゼンテーションで日産/富士通/東武鉄道のグループ会社を買収した事や、阪急電鉄/京成電鉄の筆頭株主である事や、次に日立を狙っている事などを話しました。日立グループには1千近い会社が存在しますが、その再生スキームや、株式の20%を保有すれば取締役を送り込める事を話しました。
・プレゼンテーションが終わると、ゴールドマン・サックスのパートナーが「この感じだと、数千億円集まるのでは」と絶賛してくれました。ところがその夜、日本から「ライブドア堀江貴文 家宅捜査」の記事がファックスで届いたのです。翌朝ゴールドマン・サックスから「全てのミーティングがキャンセルになった」と連絡が入りました。私は東京に、保有株を処分するよう指示しました。
・堀江・村上事件を捜査していた東京地検特捜部の副部長・北島孝久は、捜査途中で弊社の顧問弁護士になってくれました。彼はこの事件について「難しい事件だった。インサイダー取引は自白頼りで、村上氏がテレビに出演したので、公判を維持できた。後輩も苦戦したと思う」と述べます。※この事件の詳細は知らないが、テレビによって事実が明らかになったのかな。
・私は村上氏を優秀な人物と思っています。(※世界的な投資家ウォーレン・バフェットとジャンク債の帝王マイケル・ミルケンの話が書かれているが省略)。マイケル・ミルケンは毎年、ミルケン・グローバル・カンファレンスを開いています。これは米国版ダボス会議と呼ばれ、トランプ政権の主要官僚/ブッシュ元大統領/政財界のトップ/有力投資家が参加します。彼は有罪になりましたが、全米で尊敬されているのです。※福音主義かな。もしかしてこれらが99%を怒らせたのでは。
○「報道ステーション」で番組を組まれる
・ある夜突然「報道ステーションに松村さんが出てる」と電話がありました。テレビを点けると、私の顔写真や阪急電鉄/宝塚歌劇団/京成電鉄/ディズニーランド/帝国ホテルの写真が並んでいるのです。本人の了解もなく、今なら訴訟ものです。
・大阪経済同友会(※関西経済同友会?)からパネルディスカッションにパネラーとして参加して欲しいと依頼があり、引き受けました。京都駅に着くと、夥しい数の報道陣がいるので驚きました。東京では阪急電鉄のネームバリューはありませんが、関西では東宝/宝塚/阪急百貨店/阪急不動産を傘下に持つ王者なのです。関西では三越伊勢丹の包み紙は有り難くありません。
・会場に着くと、関西経済同友会の会長・井上礼之(ダイキン)に迎えられました。控室で大阪ガスの社長/松下正幸(松下電器)/宿沢広朗(三井住友銀行)など、各氏を紹介されました(※四面楚歌だな)。パネルディスカッションでは「阪急を買収するのか」などの直接的な質問ばかりでした。関西ではNHKが、このパネルディスカッションを一日中流していたそうです。
○選択と集中
・大企業がグループ会社を売却するのは赤字企業か、「将来市場が縮小する」と考えられる企業です。優良企業は敵対的TOBでないと買収できません。大企業が事業部門やグループ企業を売却するのは、欧米の「選択と集中」から来ており、業界3位以下の事業は切り離すのです。GEの時価総額は一時は60兆円あり、2000~05年で5回もトップになりますが、今は10兆円程度しかありません。「選択と集中」をさらに進めたのが、「ピュア」です。アクティビスト・ファンドが取締役を派遣し、さらに事業の売却を促し、利益を追求しています。
・アクティビストのパートナーの大半は、ハーバード・ビジネススクールやアイビーリーグのビジネススクールのMBA出身者です(※取得者ではなく出身者?)。彼らは同じ理論を持ち、同じ言葉を使います。そのため1%しか保有株がなくても、機関投資家などが賛同するため、GE/P&Gなどに取締役を派遣できるのです。米国の中枢は保守的なサークル社会です。かつては投資銀行ゴールドマン・サックスでしたが、今はファンドのブラックストーンです。※投資銀行からファンドの流れがあるのか。リーマンショックの影響があるのかな。
・トランプ大統領は東大より難しいペンシルベニア大学を卒業し、大学院はウォートン校でMBAを取得しています。彼はエスタブリッシュメントです。今最も人気のあるブラックストーンのインターンシップの定員80人にアイビーリーグ8校から1万数千人が応募しました。
・大統領への献金トップ10の大半は、ファンドのパートナーです。また年収トップ10は、ファンドのパートナーが占めます。彼らの年収は数千億円あります。これらの情報はブルームバーグテレビで得られます。ブルームバーグテレビの契約数は7千万世帯あり、米国民がいかに株式・投資に関心が高いか分かります。日本は四半世紀は遅れています。
○どんな業種を買収するか
・人気のある業種は狙いません。注目される業種は競争が激しく、安定的に利益を得られないのです。典型的なのが仮想通貨ビジネスです。規制されるまでは「我が世の春」でしたが、不正が起こり規制されると一気に暴落しました。これは1997年東証に導入された個別株式オプション市場(?)に似ています。
・また商品サイクルが短い業種(ゲームソフト、映画)や卸業/ブローカー業も避けます。これらの会社は資産がないので、人が会社を辞めると、全く価値がなくなります。※最近は無形資産が注目されているな。
・アパレルメーカーも避けます。以前売上100億円の「東京ブラウス」の案件がありました。棚卸資産が数十億円あったのですが、公認会計士にブランドを精査させると、ほとんどが価値がなくなった商品でした。
・会社法監査が入っていても、段ボール箱の中を開けて確認する事はありません。特にオーナー系非公開会社の決算書は当てになりません。ある薬の卸業の会社をデューデリジェンスした際、期限3年の小切手・手形が多数ありました。これは回収不能で、明らかに粉飾決算です。
・飲食店チェーンもデューデリジェンスした事があります。店舗が数十店舗あったのですが、いずれも老朽化していました。改修に1店舗で5千万円掛かるので、40店舗あれば20億円になります。年間利益が1億円しかない会社で、それは無理です。コンビニの「am/pm」の話もあったのですが家賃が高く、収益性が悪いので断りました(※詳しく説明しているが省略)。サラ金「オリエント信販」の話もありましたが、サラ金規制法が強化される前だったので、見送りました。
・この様にオーナー系会社が赤字で身売りする案件は、資金ショート寸前か民事再生法申請直前です。この場合、直ぐにブリッジローン(繋ぎ融資)が必要になります。また人材も逃げているケースがほとんどです。一方大企業傘下の会社は資産が残っているため、立て直す時間に余裕があります。売上高が少なくとも100億円以上の会社を買収対象にしています。
<第4章 これからの日本に必要な事>
○米国ボーディングスクールの理事に
・米国のボーディングスクール「テイバーアカデミー高校」の理事に、日本人で初めて就任しました(※ボーディングスクールは寄宿学校)。当校は143年の歴史があり、多数の副大統領を輩出しています。ランキングは世界50位の高校です。日本人では出光興産の出光氏、新島襄などが学んでいます。
・ボーディングスクールは4年制で、1クラス10名です。学費は年間600万円以上します。大統領の大半はボーディングスクール出身です。エスタブリッシュメントは大学と同様に、ボーディングスクールを自慢します。ペアレントデーに来る両親はいずれもスマートで、有色人種はまずいません。
・日本からボーディングスクールに入学しても、英語補講特別クラスに入れられ、白人と一緒のクラスに入れられません。結局英語は上達せず、名門大学にも入れず、帰国する事になります。
・日本からボーディングスクールに入学するには、英語力が必須で、中学3年生でTOEFLで80点(?)は必要です。そして国家ライセンスを持つコンサルタントを雇う必要があります。普通は年30万円程度ですが、有色人種だと100万円を吹っ掛けてくる事もあります。有能なコンサルタントは、校長やアドミッション(※試験官かな)と親しくしており、的確なアドバイスができます。入学試験には親の面接もあるので、これも重要です。※経済格差の固定だな。
・理事に就任して驚いたのですが、理事会で理事長の意見に反対する人はいません。理事長の権限は絶大で、意見するのは退職と同じです。
・男女共学ですが、ドラマのような恋愛はありません。酒もドラッグもなしです。コンサルタントは複数雇う事をお勧めします。一般的にボーディングスクールを5~6校受験します。次にレセプションに招待されたり、体験入学します。優秀な生徒は、そこで校長やアドミッションらから、「この高校に来て欲しい」とプレゼンテーションされます。
○アイビーリーグの入学試験は、日本と大きく異なる
・アイビーリーグ8校(ハーバード、プリンストン、イェール、コーネル、コロンビア、ペンシルベニア、ダートマス、ブラウン)は最難関です。SAT/ACTで高得点でないと足切りされます。また面接も重要です。高校の校長やインターン先のゼネラルマネージャーの推薦状が必要です。「寄付金が必要ですか」とよく訊かれますが、大学は巨額な資金を持っているので、必要ありません。
○日本の子育て対策は間違っている
・他の理事などから教育事情を聞くのですが、最近はMBAを取得した女性は、子供を産むと子育てに専念しているようです。父ブッシュ大統領の頃、両立論を唱えていた有名なCEOが退職しました。彼女は「2人の息子がドラッグなどでどうしようもない。私を母親に戻して下さい」と告白しました。それ以降ファーストレディーも「良き妻良き母親として尽くしています」と発言しています。
・米国の専業主婦比率は25%しかありませんが、白人だけを見ると60%を超えます。子沢山の黒人/ヒスパニックが共働きしているのです。
・先進国の育児休暇はほとんどありません。日本の1年間、さらに半年間の延長があるのは優遇され過ぎです(※これは再就職が難しいからでは)。日本政府は保育所を多数作ろうとしていますが、本末転倒です。米国の白人女性は、自分の子供を他人に預けません。他人に愛情を捧げられる人間になってもらうため、愛情を注ぐのです。子供に保育所で寂しい思いをさせたくないのです。
・日本のメディアは、米国の白人女性の60%が専業主婦である事を報道しません。「米国はウーマンリブの国、女性解放運動の国」と報道しているのは嘘です。この点でも、日本は30年遅れています。夫婦別姓が認められないのも遅れています。※日本政府は女性に働いてもらい、GDPを拡大させたい。また中間層が潰れたので、共働きするしかない。
・日本政府が保育所を作ろうとしているのは、本末転倒です。仏国では子供1人に十数万円の育児手当が支給されます。これにより少子化問題は解決しています。また結婚せずに子供を産む女性が60%もいて、結婚制度は崩壊しています。戒律の厳しいカトリックは、権威を失っています。日本も保育所を作るのではなく、子供手当を充実させるべきです。その方が良い子が育ち、結果として国は繁栄します。日本は債権大国なので財政はファイナンスできます。