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『生産性』伊賀泰代を読書。

以前から強い関心があった生産性に関する本を選択。

人材育成が中心で、トップパフォーマー/中高年社員/一般社員など階層別に解説している。ただ抽象的で少し退屈する。
生産性とイノベーションを結び付けている点は面白い。ただしイノベーションに関する解説は少ない。
終盤にロールプレイング研修/資料作成/会議進行などの実用的な解説がある。

日本のホワイトカラーの生産性が低いのは、「調和」「顧客第一」などの日本的価値が障害になっていると思う。

お勧め度:☆☆☆(ビジネスマンは読んでおいた方が良い)
内容:☆☆

キーワード:<はじめに>リーダーシップ、生産性、<軽視される生産性>人事採用、セルフスクリーニング、<生産性向上のための4つのアプローチ>成果物、改善(インプルーブメント)/革新(イノベーション)、付加価値、<ビジネス・イノベーションに不可欠な生産性の意識>Time for innovation/Motivation for innovation、技術的イノベーション/非技術的イノベーション、問題意識、インテル/アップル、<量から質の評価へ>会議/残業、成長、管理部門、<トップパフォーマーの潜在力を引き出す>異動、部下の指導、早期選択、ストレッチゴール/比較対象/ライバル、<人材を諦めない組織へ>中高年社員、再教育、人事評価、<管理職の使命はチームの生産性向上>時間計測、メール/電話、アルバイト/派遣社員、IT化、業務仕分け、長期休暇・時短勤務、言語化、革新、<業務の生産性に直結する研修>ロールプレイング研修、<マッキンゼー流の資料作成方法>アウトプット・イメージ、ブランク資料、<マッキンゼー流の会議の進め方>達成目標、意思決定、ロジック、セッティング、ファシリテーション・スキル、<マクロの視点から>育児/介護、コインの裏返し、人口減少、<おわりに>リーダーシップ

はじめに

・私(※著者)は1993年から2010年まで17年間、コンサルティング・ファームの「マッキンゼー・アンド・カンパニー」に勤めました。そこで感じたのは、日米の企業・社会の大きな2つの違いです。1つは「リーダーシップ」の意識の違いです。日本は「リーダーシップの資質を持つ人は限られる」「リーダーシップを持つ人は、組織に1人いれば良い。それは大勢いると組織が乱れるから」です。一方米国では、「リーダーシップは全ての人に、常に求められる」のです。日本でリーダーシップが求められるのは、緊急時やプロジェクトの立ち上げ時に限られますが、米国では常に求められるのです。これらがリーダーシップの量と質の差を生んでいます。※欧米は階級社会なので、「リーダーシップは幹部だけに求められている」と勘違いしていた。

・もう1つの大きな違いが「生産性」です。マッキンゼーに入社当初、彼らの生産性の高さに驚かされました。「作業の優先順位を明確にし、低いものは割り切る」「コミュニケーションでは先に結論を表明し、無駄な時間を一切作らない」などです。彼らには、生産性を高めようとする強い意志があります。
・彼らは既成概念を排し、ゼロベースで考えます。「リスクは避ける」のではなく、リターンと損失を比較し、高いリターンが期待できれば、積極的にリスクを採り入れます。

・「日本は高い生産性を持つ」と勘違いしてはいけません。日本の製造現場が生産性で圧倒していた時期がありました。そのため「生産性とは工場のオペレーションの効率化」と誤解されています。そのためホワイトカラー/サービス業の生産性に無関心で、欧米先進国より著しく低くいのです。
・また「生産性=コスト削減」と誤解されています。「生産性=付加価値額/投入資源量」なので、生産性を上げるには2つの方法があります。コスト(投入資源量)削減には限りがありますが、付加価値額の増加には限りがありません。欧米企業は付加価値額が低い事業は切り捨て、高い事業に資源を集中しています。彼らは常に生産性向上(=成長)を意識しています。

・私が本書を書こうと思ったのは、日本の工場以外での生産性を問題視したからです。「勝つためには、長く働く必要がある」(長時間労働)などの労働投入型発想では、高い生産性を得られません。このリーダーシップ/生産性以外は、日本は劣っていません。勤勉さ/規律性/分析力/論理思考力/技術力/創造力などはハイレベルです。本書は生産性と共に、革新(イノベーション)/改善(インプルーブメント)について解説します。
※「はじめに」だけで随分長くなった。

序章 軽視される生産性

○最も生産性の高い採用とは
・ビジネスマンであれば生産性の定義を理解していると思いますが、現場ではそれが軽視されています。それは人事採用の分野でも同様です。例えば「採用基準を満たす新卒学生10人を採用する」となった場合、生産性の高い採用は、以下のどれでしょうか。
 ①採用したいと思える学生が、多数応募してくる。
 ②採用の判断を短時間でできる。
 ③内定者が全員入社してくれる。
・いずれも好ましい状況ですが、生産性の観点だと、「採用する10人だけが応募してくる」です(※そうだな)。採用には多大な経費/人手を必要とします。社員が面接/インターンシップなどに駆り出されます。

○量を追う発想は生産性を下げる
・しかし10人しか応募してこないと、「我社は不人気では」「来年の新人は質が低いのでは」となります。そのため採用人数の何百倍もの応募を集め、生産性を下げているのです。広告料/合同説明会/スカウトメール/パンフレット/適性検査などの費用は、応募者数に応じて増大します。
・「採用できる人材は50人に1人。そのため10人採用するには500人の応募が必要」となっています。これは「アウトプットを増やすためには、インプットを増やすしかない」の発想で、生産性の概念は欠如しています。生産性からすれば、「応募者50人の中から、採用できる学生を1人から2人に増やす」のが正しい方向です。最終的に「10人の応募で、10人採用」となれば、投入される努力・費用は大幅に削減されます。

○経営者の見栄という問題
・応募者の増大には、経営者の見栄の問題もあります。「ライバル社は1千人応募があったのに、我社は300人か」となるのです。採用支援企業が「就活ランキング」を発表しています(※こんなのがあるんだ)。これは説明会を開いた回数や就活イベントへの出展回数が考慮されるのです。大量にパンフレットを配布し、無駄に回数を増やし、ランキングを高めると、「人事部はよくやった」となるのです。これにより優秀な社員が面接などに駆り出され、経営資源が無駄に使われるのです。

・日本はバブル崩壊まで、売上/市場シェアを優先し、採算性を度外視していました(※「トップ2に入らないと利益を出せない」とかあった)。今は利益率/資本利益率(ROE)などを重視するようになりました。しかし「質より量」を重んじる風潮は、根強く存在します。人事採用にもそれが残っているのです。「10人採用するのに、応募者を1千人から500人に減らす努力」をすべきです。

○セルフスクリーニングの重要性
・具体的な方法として「セルフスクリーニング」があります。「応募を自社サイトに限定する」「長めの作文を要求する」「ユニークな課題を要求する」などで、気軽な応募を避けられます。連日テレビCMが流れる超有名企業は、これらの方法を取っています。

・よくパンフレットに若手社員を紹介するページがあります。そこには「学生時代に体育会で活躍した社員」「学生時代にNPOで活動した社員」「学生時代に研究一筋だった社員」などが掲載されます。しかしこれでは「誰でもウェルカム」になります。そこで「体育会でリーダーシップを発揮した社員」「NPOでリーダーシップを発揮した社員」「研究でリーダーシップを発揮した社員」とすれば、採用基準が伝わり、セルフスクリーニングが機能します。

○災い転じて生産性向上?
・ファーストリティリングは厳しい労働環境から「ブラック企業」とレッテルを貼られました。そこで経営トップは全社員の給与レベルを公開し、「成果を上げた者には、それなりの報酬を払っている」事を示したのです。これにより学生のセルフスクリーニングを促し、安易な応募が減り、採用の生産性が高まりました。
・逆に「東大生なら誰でも内定が出る」との評判を放置している企業があります。そうすると滑り止めにする東大生が増え、採用の生産性が低下します(※そんなに東大生も多くないと思うけど)。この様に現場では往々にして質より量が優先されています。量を重視した採用により、貴重な経営資源を無駄に使っています。

第1章 生産性向上のための4つのアプローチ

○生産性を上げる2つの方法
・生産性は、「成果物」÷「投入された資源量」であり、「アウトプット」÷「インプット」です。分子には売上/付加価値額、分母には資金/時間/労働者数などが使われます。生産性を上げるには、成果物(分子)を大きくするか、投入資源量(分母)を小さくするしかありません。
・よく行われるのが残業時間を増やして成果物を増やす方法です。しかし残業時間の時給は通常時間より高いので投入資源量が増え、生産性は下がります。忙しくなると人を増やしますが、これでは生産性は高まりません。新しく雇った人は生産性が低く、彼らに生産性が低い仕事を押し付けているだけです。この様な企業では、「昼休みに電気を消す」「コピー枚数の削減」などが行われるだけで、生産性の向上は望めません。

・生産性向上には、投入資源量を減らすだけでなく、成果額を増やす必要があります。そのため企業に、①顧客が価値が高いと感じる商品を開発する(商品開発、サービス設計)、②価格を上げる(プライシング)、③高い価値がある事を顧客に伝える(顧客コミュニケーション)が求められます。②③はマーケティングと呼ばれます。日本で生産性向上=コスト削減となったのは、製造現場に②③が存在しないからです。

○改善(インプルーブメント)と革新(イノベーション)
・生産性向上には「成果物を増やす」「投入資源量を減らす」の2つの方法がありますが、共に「改善」「革新」のアプローチがあり、全部で4種類になります。まずは「アプローチ1:改善による投入資源量の削減」を見ます。製造現場では、「作業手順の変更」「無駄な作業の削除」「部品・工具の置き場の変更」などがあります。ホワイトカラーでは、「グループウェアの導入」「書類・ファイルの管理方法の変更」「ITの活用」などがあります。これらは多くの企業で行われています。

・次に「アプローチ2:革新による投入資源量の削減」を見ます。製造現場では、「ロボット・工作機械の導入」「部品の共通化」などがあります。海外では多くの事例が見られます。米国のクレジットカード会社はインドに語学学校を作り、インド訛りを修正させ、コールセンターをインドに移管しました。
・輸送においてはハブシステムが有効です。複数の拠点間で相互に輸送するより、中心にセンターを設け、そこと各拠点を結ぶ事で輸送効率が高まります(※物流は重要かな)。経理部門はフィリピン、IT部門はインド、人事部門はシンガポールと分散させた欧米企業もあります。

・次に「アプローチ3:改善による付加価値額の増加」を見ます。製造現場では作業員の研修により、付加価値の高い製品を作ったり、ホワイトカラーでは、パッケージを変えて高級感を出したりしています。しかしここで重要なのは、付加価値を判断するのは消費者である点です。また日本では、「付加価値の向上=機能追加や高機能化」と考えています。ところが欧米では「機能を絞り、コストを下げる事で付加価値を上げ、価格を上げる」方法が多用されています。※機能を削って価格を上げる?
・また「原材料費の上昇による価格の上昇」も消費者は受け入れません。値上げが受け入れられるのは、代替品がない場合と、供給量が減り商品が希少になった場合に限られます。付加価値は消費者が判断するのです。

・最後に「アプローチ4:革新による付加価値額の増加」を見ます。日本の化学メーカーは新素材を開発し、付加価値額の向上を達成しています。また創薬ではゲノム解析/iPS細胞などで付加価値額の桁違いの向上を起こそうとしています。これは技術以外の分野でも見られます。フェイスブックは閉じたリアルなコミュニティを作り出し、これにより収集が困難だった個人情報を、簡単に集めるようになりました。利用者自らが、出身地/誕生日などの個人情報を提供するようになったのです。フェイスブックはこのビジネスモデルの革新で、付加価値額(広告料)を向上させました。

○世界と日本の違い
・以上4つの方法を説明しました。日本は製造現場での改善運動からの生産性向上が試みられたため、「アプローチ1:改善による投入資源量の削減」だけが定着しました。そのため企画部門・開発部門などは生産性向上の対象になっていません。商品開発・サービス開発/物流/在庫管理/顧客対応/研究開発/管理部門(人事、経理、法務)など、全ての分野で生産性向上は必要です。
・ホワイトカラーの人は「我々の仕事は自由度が高く、クリエイティブで難度が高い」と自負しています。そのため生産性向上の意識が希薄です。しかし非製造部門の生産性向上も競争力に大きく影響します。

第2章 ビジネス・イノベーションに不可欠な生産性の意識

○イノベーションと生産性の関係
・「イノベーションと生産性向上は両立しない」との誤った概念が存在します(※こんなのあった?生産性を大幅に向上させるのがイノベーションと思うけど)。そこには「生産性を気にしていると、イノベーションは起こせない」との考え方があるのです(※イノベーションを起こすためのコストか)。しかし生産性を意識していない企業が、イノベーションを起こせるとは思えません。生産性向上によりイノベーションに必要な2つの要素「Time for innovation」「Motivation for innovation」(※時間と動機だな)が生み出されるのです。※「生産性向上がイノベーションを促し、そのイノベーションは生産性を向上させる」だな。そうなると正のスパイラルだな。

○Time for innovation
・まず必要なのは「時間的な余裕」です。オペレーショナルな業務(定型的な作業)に追われていると、イノベーションを起こすのは難しくなります。勤務時間の多くをイノベーションのために充てられる企業ほど、イノベーションを起こし易くなります。※詳しい説明があるが省略。
・「生産性を追求すると、職場がギスギスする」「生産性を追求すると、仕事が楽しくなくなる」などの意見もあります。しかし「こんな作業に意味があるのか」と思われるオペレーショナルな作業を続ける方が、社員が疲弊します。そんな作業は機械化・効率化し、ワークライフバランスを改善させる方が職場の雰囲気は明るくなります。
・生産性を向上させる→余裕時間を生み出す→その時間をイノベーションに投資する→イノベーションを起こし、生産性を向上させる。この好循環を定着させるべきです。

○技術的イノベーション vs 非技術的イノベーション
・イノベーションには技術的なものと、非技術的なものがあります。この両者は起こり方が異なります。前者の「技術的イノベーション」は画期的な技術の発見によりますが、その効果は見極められません。人工知能//iPS細胞/遺伝子工学/宇宙開発/量子コンピューターなどがこれに該当します。またインターネットもこれに該当し、当初はその効果を誰も想像できませんでした。

・後者の「非技術的イノベーション」は、貨幣制度の確立/取引所の確立/戸籍・住民票制度/裁判制度/株式会社制度などが該当します。これらは「イノベーションの源が生まれてから、社会に適用された」のではなく、「イノベーティブな発想をして、それを制度化した」ものです。例えば貨幣制度は、現実世界の「物々交換は不便」「価値の保持が難しい」などの問題から貨幣が作られたのです。
・非技術的イノベーションには、「現実の不都合を解決したい」などの明確な目的があります。一方技術的イノベーションは、「宇宙の成り立ちは?」「物質は何からできている?」「生命とは?」などの純粋な好奇心が始まりです。

○Motivation for innovation
・技術的イノベーションと非技術的イノベーションの違いは、企業でも同様です。技術的イノベーションの場合、例えば新素材など、当初は最終的にどの様に使われるか分かっていません。一方ビジネス・イノベーション(※非技術的イノベーション)の場合、「問題意識」と「画期的な解決法への希求心」が常に必要です。企業でビジネス・イノベーションを起こすには、社員に生産性の概念を強く意識させておく必要があります。

・気軽なミーティング/ブレーンストーミング(エイエイオー方式)では、「目新しい商品」「突飛なアイデア」程度の発想しか出てきません。例えば「イチゴ味/ブドウ味のキャンディを販売してきたが、今度はトマト味を作ろう」などです。建築家からコンサルタントに転身した上司は、「土地や予算が無制限にある時は良いアイデアが出ない。制約条件がある方が、良い設計ができる」「日本には10坪に満たない極少住宅がある。そういう時にこそ画期的な設計が生まれる」と言っていました。

・私達は「今の商品の4倍の価値がある物を作ろう」と言われた時、初めて考え始めるのです。そこで「賞味期限を長くし、災害備蓄品として売れないだろうか」「虫歯予防の機能を付加できないだろうか」「高栄養にして、国際援助品として売れないだろうか」などの発想が生まれるのです。「既存ビジネスの生産性を圧倒的に高める方法はないか」を考えるのが重要です。しかしイノベーティブな発想を実行するにはリスクを伴います。例えば「虫歯予防の機能を付加させる」場合、設備投資や新しい販路を開発する必要があります。しかし「4倍以上の価値のあるもの」との掛け声があれば、リスクにも挑戦できます。

○採用分野におけるイノベーション
・私はマッキンゼーで採用分野のマネージャーをしていました。そこで生産性向上を毎年要求されました。そうなると「改善的な手法は全て試みた。画期的な方法はないか」との考えに至ります。
・採用は、履歴書審査→適性検査→面接の順で行われます。この中で適切な評価ができるのは面接です。そのため優秀な応募者が、履歴書審査/適性検査で落とされているのです。面接が最後なのは人件費が高いからです。面接が若手社員から役員の順で行われるのも、そのためです。例えば面接官1人が応募者1人に30分で面接していたものが、面接官2人が応募者30人に同じ時間で面接できるようになれば、生産性は15倍になります。この様な発想が生まれるのは、現状への強い問題意識があります。

・ある企業では、まだ就活を始めていない学生と企業トップとの会話の機会を設け、採用を可能にしています(※インターンかな?)。またSNSでの活動を採用の参考にする企業もあります。人海戦術(応募者の拡大)や条件競争(高い報酬)では、生産性の高い採用はできません。現状への強い問題意識が必要です。

○ビジネス・イノベーションの格差
・今の日本はビジネス・イノベーションの少なさが問題です。経営管理手法/組織運営法などのマネジメント分野、プランディング/プライシングなどのマーケティング分野、企画/人材育成などでのイノベーションが遅れています。

・インテルの「インテル入ってる」の広告は衝撃的でした。これにより「IBM/NECのパソコンでなく、台湾製のパソコンでも十分」となり、インテルは「部品メーカー」から「パソコン・メーカー」に昇格したのです。パソコンはコモディティ商品になり、結局IBM/NECはパソコン事業から撤退しています。また部品メーカーとパソコン・メーカーの地位逆転が起きたのです。※今の半導体不足も同様になるのかな。

・アップルの成功もイノベーションがてんこ盛りです。iTunesで音楽のダウンロードが可能になり、iPodを販売しました。また中国のEMS企業に製造を委託する水平分業を取り入れました。またアップルストアはウィンドウズ/アンドロイドが売られている店舗に比べ、圧倒的に洗礼されています。最近は店舗の名称を変えています。例えば「アップルストア表参道」を「アップル表参道」に変えています。これは物理的な店舗が物を売る場所ではなくなるからです。※ストアがなくなるので、物を売らなくなるのかな?

・この様に海外には、多くの非技術的イノベーションがあります。日本で少ない理由の1つは、生産性に対する希薄さがあります。ビジネス・イノベーションには生産性向上に対する強い希求心が必要です。日本の企業は、経営/財務/マーケティング/人材育成など、あらゆる分野で生産性を向上させる強い意識が必要です。

第3章 量から質の評価へ

○会議の時間短縮は正しい目標ではない
・日本のビジネスで特に問題になっているのが長時間会議です。この対処に、会議時間の上限を決めたり、立って会議をしたり、資料を1枚に制限したりしています。しかしこれらの対応は会議時間の短縮が目的で、生産性の向上が目的になっていません。例えば2日掛かっても、事業方針の詳細が決まれば、「充実した会議」となります。逆に1時間で終わっても、「何と無駄な会議だったのか」と感じる場合もあります。大事なのは量ではなく質なのです。資料を1枚に纏めると、分かり難い資料になります。立って会議すると、後半は議論に集中できなくなります。

○残業規制も量のコントロール
・多くの企業が残業時間の削減に努めています。社員は残業すれば給与が増えるため、なるべく長い時間をかけて仕事をしようとします。これは生産性の低下です。そのため企業は残業時間を規制したり、「ノー残業ディ」を設けています。しかしこれは量のコントロールで、質のコントロールになっていません。※私は自分の時間が欲しいので、精一杯働いて、終わったらサッサと帰る派だったけど。それでも残業は多かった。
・ここでも目指すべきは「生産性を上げる事」です。従って「残業時間を減らす」のではなく、「生産性を向上させる=労働時間を減らす」のが目指す方向です。また「残業時間を減らす」では残業時間が0になれば目標が達成されまが、生産性向上はエンドレスです。

・かつて日本企業は売上高/市場シェアを重視していました。しかし今は海外の機関投資家が増え、利益率/資本利益率(ROE)などを重視するようになりました。これは企業評価が、量から質に変わった事を示しています。

○働き方を変える上司の一言
・日本には「徹夜してでも、良い成果が出れば問題はない」との考え方が根付いています。これは生産性を無視し、成果だけを重視する考え方です。しかしこれにより、「成果は出たが、社員は疲弊した」「そのプロジェクトは成功したが、他は失敗した」などの事態になります。

・例えば社員が徹夜で立派な資料を作った時、上司は「よく頑張ったな」と褒めます。これは仕事の成果と徹夜を褒めています。ここでは「資料は本当に良いな。しかし30時間掛かっているのを、15時間にしないといけないな」と言うべきです。短時間で立派な資料を作った人を褒め、その作成方法を皆で共有するのがベターです。これにより生産性を重視する組織に変えられます。

○成長とは生産性が上がる事
・成長とは生産性が上がる事です。①何時間も掛かっていたが、1時間でできるようになった。②同じ1時間で、高い成果を出せるようになった。これらの繰り返しで、成長する(生産性が上がる)のです。
・日本では日中に目一杯仕事し、家に帰って勉強する人が称賛されます(※正しく自分だ)。しかしこれは家で家事・育児をしない昭和型の社員です。家では介護/コミュニティ活動/ボランティア活動もせず、趣味もないのです。こう云う人は育児休暇も取れず、個人生活がビジネスの犠牲になっています。自分の成長のための投資は、労働時間内にできなくてはいけません。※これは難しいのでは。私の場合、逆に講習の資料は、家で作れと命令されたけど。

○成果主義は量から質の評価へ
・管理職の評価基準には生産性を取り入れるべきです。そうしないと以下の過ちが起きます。
 部下に残業させ、成果を極大化する。
 自分も残業や休日出勤し、成果を極大化する。
 できない社員を育てず、できる社員に仕事を押し付ける。
 バイト・派遣社員を増やす。
 部下の育児休暇・有給休暇を好まない。
 フルタイムで働けない社員の配属を嫌がる。
・なぜこうなるのか。それは成果の絶対量で評価されるからです。これだと一時的に成果は上げられますが、管理職も部下も疲弊し、持続可能ではありません。

・管理職の評価を生産性にすると、以下の利点が生まれます。
 自分や部下の残業が減り、休日出勤も減る。
 できない社員がスキルアップし、できる社員への負担が減る。
 バイト・派遣社員が減る。
 部下の有給休暇の取得が増える。
 フルタイムで働けない人や育児休暇を取る社員が働き易い環境が整う。

・評価基準が変われば、働き方も変わるのです。評価基準を量から質へ変えるべきです(※コストを掲示すれば良いだけで、今は既にそうなっていると思うけど)。また今は目標の達成度合いで評価されるので、目標を低く設定する状況になっています。評価基準を生産性に変える事で、真の成長を継続的に行えます。また生産性を重視する意識は、イノベーションに繋がります。

○管理部門の生産性評価は時系列で
・最後に管理部門(人事、総務、法務)の評価方法について述べます。管理部門では目標の設定が難しいため、スキルベースの評価がよく使われます。しかし資格取得/語学習得しても、仕事の質や量が上がる訳ではありません。しかしここでも質(生産性)を評価する成果主義にすべきです。
・もう1つ難しいのが、部署間で一貫性/公平性を保つ事です。そのためには生産性を時系列で評価すべきです。「生産性の変化率」(※前年比、前年同期比、前年同月比などだな)であれば一貫性/公平性が保たれます。
・またその評価は、特A(革新により生産性が上がった)/A(改善により生産性が上がった。革新への投資も行っている)/B(改善により生産性が上がった。革新への投資を行っていない)/C(生産性の上昇が見られない)/D(生産性が低下した)で行われるべきです。この評価方法であれば管理部門で統一的に評価できます。
・時系列で評価する事で、マネージャーは毎年の成長を具体的に把握できます。またこの評価方法により、社員も生産性を強く意識するようになります。

第4章 トップパフォーマーの潜在力を引き出す

○人材育成での隠れた重要課題
・組織で重要なのが、トップパフォーマーの成長を最大化する事です。しかしこの課題は蔑ろにされています。入社して1・2年経つと、高いパフォーマンスを示す社員が現れます。人材育成で「2対6対2」と云われます。しかしここでのトップパフォーマーとは、さらに限定した数パーセントの社員です。
・彼らは本来の力を発揮できていません。従って彼らが持っている潜在能力と実際に発揮している力の比は、一般社員より随分低くなっています。企業はそれに気付いていません。また本人も高い評価を得ているので、それで満足しているのです。彼らは企業/業界/国境を超えて、同じレベルの人間と出会わせるべきです。

○優秀な人材を失うリスク
・トップパフォーマーが外部の組織運営力に秀でた人に接した時、自分の成長が遅いと感じるでしょう。そんな人は「今の組織に居続けて良いのか」と懸念を抱き、挑戦できる企業に転職したり、起業します。そして企業は「高い給与を払う外資系企業に引き抜かれた」と嘆くのです。
・外資系企業やベンチャー企業は、トップパフォーマーを新規事業の責任者にして、育成する事ができます。マッキンゼーでも同様に対処しています。そのため「マネージャーに昇格させられた」と不平が出るのです。それはマネージャーになると、より高い成果を求められるからです。また同社は「up or out」(昇格か解雇か)が原則です。そのため「昇格すると、首になるのが早まるだけ」の不満があります(※人材の使い捨てだな)。優秀な人材程、職場の変更を要求され、厳しい環境で働く事になります。これは日本と対照的です。

○異動のタイミングと成長カーブの関係
・多くの企業は、職場で数年経つと成長が止まるため、その頃になると異動させます。しかしこの定期異動は一般社員を標準にしており、トップパフォーマーには適していません。そのためトップパフォーマーの人材育成に熱心な企業は、彼らの異動を早めたり、裁量権を与えたり、難しいプロジェクトを任せたりします。「人材育成に熱心」「研修制度が整っている」と云われる企業の多くは、一般社員向けの人材育成制度が充実しているだけの企業です。

○一般社員の成長機会を奪わない
・トップパフォーマーとハイパフォーマー(上位2割)の育成は別にすべきです。そうしないと共に成長が遅れます。ハイパフォーマーには難しい仕事でも、トップパフォーマーだと簡単に成功させるでしょう。
・このレベルの人に多く託されるのが「部下の指導」です。「部下の指導から学ぶ事は多い」と云われますが、トップパフォーマーにはさせるべきではありません。例えば小学生の水泳教室に、泳ぎのレベルが違うA君、泳ぎの上手いB君がいたとします。この場合、A君・B君を他の生徒の指導者にするのではなく、A君には有名スイミングクラブに通わせる/特別の指導者を付けるなどし、B君には他の生徒の指導者になってもらうのが正しい方法です。A君には、より高いレベルに挑戦してもらはないといけません。

○早期選抜が行われない理由
・年功序列の日本企業では、経営者レースが始まる段階になって初めて、トップパフォーマーの選抜が行われます。部長クラスになったトップパフォーマーを子会社/海外支社/未経験の部門などの責任者にし、その結果で選抜するのです。なぜこの様に選抜が遅いのか、それは早い段階で実力差をあからさまにしないためです。これによりトップパフォーマーが一般社員の犠牲になっています。マッキンゼーだと、トップパフォーマーは入社1・2年で、MBA取得者と同レベルに昇格します。それほど厳しい世界です。
・日本でトップパフォーマーの選抜が遅いもう1つの理由は、人事評価の目的が人材育成ではなく昇格・査定に主眼があるからです。どこの企業でも上に行くほどポストは少なくなります。部長の選択は「部長になれない人を落とす」ですが、役員の選択は「役員になれる人だけを選ぶ」作業なのです。そのため役員の適齢になるまで、その他大勢と同等に扱われるのです。一方マッキンゼーではトップパフォーマーの選抜の目的は育成です。そのため年齢に関係なく昇格させます。

・さらに経営環境の変化も遅い理由です。高度成長期はトップパフォーマーにチャレンジの機会を与えられましたが、低成長期になると、それができなくなりました。年齢構成が逆ピラミッドの企業もあり、そんな企業ではトップパフォーマーへの意識的な育成が必要です。

○トップパフォーマーを育てる3つの方法
・トップパフォーマーを育てるポイントを3つ紹介します。1つは「ストレッチゴールを与える」です。ストレッチゴールは簡単には達成できない目標です。トップパフォーマーにはチャレンジングな仕事をさせるべきです。

・2つ目は「比較対象を与える」です。①前年の自分、②社内の他のトップパフォーマー、③社外の同世代のトップパフォーマーの3者です。彼らには前年の自分と比較させるのです。これは昇格の判断のためでなく、成長支援のためです。また社内の他のトップパフォーマーとも比較させ、「自分ももっと早く成長しなければ」との危機感を持たせます。

・3つ目は「圧倒的なライバルを見せる」です。私が出会ったトップパフォーマーには共通点があります。それは30代前半までの海外企業との共同プロジェクトの経験です。彼らは、決断力/リーダーシップ/洞察力を成長させていました。これは海外支店への就任とはレベルが違います。
・またトップパフォーマーへの講習は、講師を変えましょう。①20代で一定規模の組織を率いる起業家、②30代でグローバル企業の日本支社で一部門を率いるプロフェッショナル、③40代で外資系企業のアジア部門を統括するディレクターなどが望ましい。同世代で圧倒的な人を見せる事で、彼らの意識を高めるのです。彼らを現状で満足させてはいけません。

第5章 人材を諦めない組織へ

○放置される戦力外中高年
・本章では社内選抜に漏れた中高年社員の育成について述べます。どこの企業もピラミッド型なので、上級管理職に選ばれなかった社員が多く出現します。そこで彼らのモチベーションが問題になります。高度成長期は子会社の管理職に付けるなどできましたが、今は難しくなりました。さらに近年では定年の延長も行われ、増々中高年社員が増えています。
・トップパフォーマー/ハイパフォーマーの育成に力を入れがちですが、多数である中高年社員の育成を諦めてはいけません。これは「コンビニ/大型商業施設の生産性を向上させるが、個人商店の生産性を放置する」「一部の先進農家の生産性を向上させるが、多数の小規模農家の生産性を放置する」のと同じです。

○組織全体への悪影響
・中高年社員を放置すると組織に悪影響を与えます。年功序列型の企業だと、若手社員の給与が彼らより低く、若手社員は不公平感を持ちます。また実力のない若手社員には、彼らが将来の自分の姿として映り、「組織に左右されない働き方」を考え始めるでしょう。また選抜に漏れた中高年社員により、元部下が上司になる年齢逆転が起きます。これは双方に悪影響です。※中高年をそんなに悪く言うなよ。彼らの実力(生産性)は相当なものだと思うけど。ある意味「完成した人達」と思う。

○解雇制度と育て直しの関係
・日本と米国では解雇の容易さに違いがあります。日本では「能力不足で解雇できない」と考えられています。そうであればなおさら成果を出せない社員の再教育が重要になります。それなのに新人研修/新管理職研修が大半になっています。中高年社員を放置するのは、もったいない話です。※自分の感覚では、新人は「まだ水が満たされていないコップ」で、中高年社員は「既に水が満たされたコップ」かな。

○モチベーションを下げる本当の理由
・彼らに必要なのは「会社は、まだあなた達に期待している」とのメッセージです。それには彼らの現状を正しく伝える事です。彼らが自分の現状を知れば、「頑張らなければ」と思うようになります。多くの企業が彼らに再教育しないのは、「申し訳ない」との遠慮があるからです。彼らに現状を正しく伝える方が、優しい本当の対応です。「具体的に何が悪く、何を期待しているか」を伝えない方が、間違った厳しい対応です。
・米国では期待される成果を出さないと解雇されます。しかしその後適正な仕事を見付け、成功する方が優しい対応です。日本ではそんな人でも抱え続けますが、その方が厳しい対応です。

○成長のためのフィードバックの重要性
・マッキンゼーでは人事評価で、本人の「distinctive」な能力と「development needs」の分野を伝えます。前者は強みで、後者は弱みで、成長へのアドバイスです。後者を「weakness」や「weak points」にしないのは、人事評価の目的が昇格・査定ではなく、成長支援だからです。人事評価は、成長支援とモチベーション向上のために行うべきです。人事評価の目的が昇格・査定だと、「選抜から漏れた中高年社員を評価する必要はない」となるのです。※詳細省略。
・人事評価でのフィードバックは詳細化すべきです。「あの会社への説明は、△△の効果があった」「あの調査は時間が掛かったが、△△の部分は深堀できていた」などです。※当然その時点で伝えたと思うが、再確認かな。

○人を諦めない
・組織の構造がピラミッド型なので、全員が昇格できる訳ではないため、モチベーションの維持は重要です。「成長しない人」が増えると、組織の生産性は大きく低下します。トップパフォーマーは常に成長しているため、厳しいフィードバックを受けていません。一方選択に漏れた中高年社員は人事評価が不要とみなされ、フィードバックを受けていません。前者の「最も伸びしろが大きい人」と、後者の「成長は余り期待できないが、多数の人達」の育成を諦めてはいけません。
※トップパフォーマーだけが高い生産性を持つように述べているが、トップパフォーマーはあくまでも指示や方向を示しただけで、実際は「その他大勢」が生産しているのでは。

第6章 管理職の使命はチームの生産性向上

○部下の育成と仕事の成果は両立しない?
・ここまでにトップパフォーマーと選抜に漏れた中高年社員の育成について述べてきました。本章では、アベレージパフォーマー(※以下一般社員)が生産性を上げるための管理職の役割を述べます。管理職の仕事は「チームの生産性向上のためのリーダーシップの発揮」です。よく「成果を上げるのも大事だが、部下の育成も大事」「忙しくても、部下の育成に時間を掛けろ」などと云われます。これだと2つの仕事があるように思われます。これは「成果は直近の話だが、育成には時間が掛る」と考えられているからです。そのため「部下を育成するより、今自分が頑張れば良い」となるのです。しかし「忙しいからこそ、早く部下をスキルアップさせる」に発想を転換しなければいけません。外資系企業では在籍年数が短いため、部下の育成が益々重要となっています。

・本章からは部下の育成について述べます。本章はOJT/チームマネージメント、第7章は生産性の高いトレーニング(※読むと生産性を高めるためのトレーニングではなく、生産性の高いトレーニングだな)、第8章は資料作成の方法、第9章は会議の生産性を高める方法を述べます。

○ストップウォッチをオフィスに
・マッキンゼーで新人育成を担当していた時、まずやらせたのが「ストップウォッチ(キッチンタイマー)で作業時間を測らせる」でした。生産性の低い新人は、不必要な情報を大量に集め、それを読むのに時間を掛けていました。あるいはグラフを綺麗にするのに時間を掛けています。30分で完成させないといけない資料に、2時間掛けています。「資料を探している時間」「資料を読んでいる時間」「数字を入力している時間」「グラフを作成している時間」などに分けて計測させると、「資料を探している時間」だけで30分掛けていました。
・生産性を高めるのにストップウォッチは有効です。これはダイエットに体重計が必要なのと一緒です。マッキンゼーでは、新人は1年で資料作成の時間を5倍に速めます。さらにマネージャーになる時には3倍に速めています。さらにパートナーになるにはそれを数倍速める必要があります。

・経営は「A bad decision is better than no decision」(誤った判断の方が、決断しないよりマシ)と云われます。時間が極めて重要なのです。私は今でも時間計測し、原稿を書く時間を測っています。工場では時間計測は生産性向上の基本です。ホワイトカラー部門でも時間計測を取り入れるべきです。

○お勉強ではなくスキルアップ
・近年は英文メールの交換が増えています。そこで英文メールを受信し、読み始めてから英文メールを送信するまでの時間を測ります。この結果をグループで共有し、改善方法を検討するのです。※普通は単に返信するだけでなく、間に対応作業が入ると思うけど。そしてこの対応作業の時間はマチマチかな。
・多くの企業が英検/TOEICなどを指標としています。ところがその点数が高ければ、仕事が速い訳ではありません。生産性向上に必要なのは、あくまでも仕事での英文メールへの対応です。短時間で作成できる人の英文メールをテンプレートとしてグループウェア/クラウドに登録し、活用すべきです。ビジネスメールの大半は定型化されています。

・またミスで顧客を怒らせてしまったり、自己都合でスケジュールを変更する場合、メール/電話などで気を遣う必要があります。これらの教育も重要です。

○仕事をブラックボックス化しない
・チームが多忙になっても、安易にアルバイト/派遣社員を雇うべきではありません。こうなるのは、正社員の人件費が高いからです。しかしアルバイト/派遣社員にその仕事を任せてしまうと、生産性の向上は望めなくなります。短期的に雇うのは問題ありませんが、恒常的になるのは問題です。恒常的になるようなら、正社員を増やすべきです。※この辺りはマネージャーが適切に判断していると思うが。
・ITを導入する際は、仕事の必要性の確認やプロセスの見直しが必要です。そうしないと機械化されただけで、非効率なプロセスが温存されます。単なるIT化は、アルバイト/派遣社員の雇用と同じ事です。アルバイト/派遣社員を雇う際やIT化する際は、①それは価値のある仕事なのか、②プロセスの変更は考えられないか、③投資に見合うメリットがあるのかを確認して下さい。

○定期的な業務仕分けの価値
・組織の生産性向上で有効なのが、定期的な「業務仕分け」です。10時間掛る仕事を半分の時間でやるのは簡単ではありませんが、それを止めるのは簡単で、フリー時間も得られます。新しい仕事は増える一方なのに、余り価値がないと思われる仕事を止める機会はありません。そんな仕事は新人に回され、その価値や時間が益々分からなくなっています。価値はゼロではないが、止められない仕事が増え、それが積み重なり、業務全体の1・2割を占めるようになっています。
・そこで1年に1度、仕事の洗い出し(業務仕分け)をし、不要な仕事を廃止にすべきです。これにより管理職は、どの仕事にどれだけ時間が掛かっているかを把握できます。また部下に、その仕事を止められない理由を伝える事もできます。また各スタッフは、組織がどの様な仕事をしているかを共有できます。これにより生産性の高い新しい方法が見つかるかもしれません。また他部署から依頼されていた仕事は、「そんなに時間が掛かっているなら、別の方法でやります」などの改善もあるかもしれません。※メリット山盛りだな。断捨離は重要だ。

・ただし突発的に業務仕分けをすると、自分の仕事・地位を守る人が現れます。そのため定期的に行うべきです。広告業のサイバーエージェントでは社長の下で「捨てる会議」が開かれ、32件の事業/社内慣行が廃止されました。その中には「360度評価」「新卒研修合宿」などがあります。

○長期休職者が出たら大チャンス
・女性の働き方に配慮する企業が増えました。社員が長期休暇や時短勤務し、組織に不協和音が起きる事があります。例えば5人の職場で、1人が長期休暇すると、各自が25%も生産性を高めないといけないのです。これに備え業務仕分けをしておく事が重要になります。
・対処方法としては、「IT化」「苦手な人から得意な人への移管」「得意な人のスキルを苦手な人に伝える」などがあります。また在宅で可能な仕事をリストアップし、それを在宅でやってもらう事も考えられます(制度があれば)。
・これらを考えるのは人事部の仕事と考える管理職がいるかもしれません。しかし本章の冒頭で述べたように、管理職の仕事は「チームの生産性向上のためのリーダーシップの発揮」で、これらの対応に積極的に関与すべきです。現実的な制度を作るためには、人事部と現場の協力が欠かせません。また育児/介護などの長期休暇は、制度改革に取り組む機会になります。

○皆で高め合う体験
・ホワイトカラー部門では、職場内で「より生産性が高い方法はないか」を話し合うべきです。ところが「自分のやり方を知られたくない」「自分のやり方がマズイと評価を下げられる」などから定着していません。一方製造現場は「この手順はこちらにしよう」「部品の置き場はこうしよう」など、厳格に行われています。
・マッキンゼーでは、他人の仕事に積極的にアドバイスします。それは「チームの生産性が向上する」「管理職ではないが、その行動はチームに貢献する」からです。これはチーム全員が「チームの生産性を上げるのは重要」と強く認識しているからです。

○ノウハウの言語化を促進
・仕事のやり方をマニュアル化/テンプレート化し共有する事で、組織の生産性を高められます。本当の意味で仕事ができる人は、生産性が高いやり方を考案し、「言語化」できる人です。「自分にしかできない仕事」に拘っている人は他の仕事にチャレンジせず、「できる人」と呼べません。職人の世界と違い、自己保身する人は「できる人」とは云えません。自分の仕事について他人と問答すると、言語化できます。これにより他人だけでなく、本人も自分の仕事を深く理解できます。
・「自分のやり方を他人に教えると、自分の存在意義がなくなる」と考えるような社員が居てはダメです。管理職は、各スタッフが「自分のスキルを共有し、チームに貢献したい」と思っている職場を作らなくてはいけません。

・同じ業務を長く続けていると、自分の仕事にプライドを持ち、改善する意欲がなくなります。そんな時、新人の質問から生産性が高いやり方が生まれたりします。そのためクリエイティブな仕事をする組織には多様性が欠かせません。

○3割と3%の両方を意識する
・管理職に欠かせないのが「3割と3%の両方の生産性向上を目指す」です。第1章で「生産性向上には、革新(イノベーション)と改善(インプルーブメント)がある」と説明しました。「3割」が革新、「3%」が改善を意味するのです。※それなら素直に「革新と改善の両方の生産性向上を目指す」の方が、理解し易いのでは。まあ聞き慣れたら問題ないか。
・製造現場では、改善に「作業手順の見直し」「部品調達先の変更」などがあり、革新には「設計の変更」「新素材の開発・採用」などがあります。他に革新には「AI/ビッグデータ/IoTの導入」「アナログからデジタル/ハードからソフトなどの事業ドメインの変更」「機能の切り離し/課金方法の変更などのビジネスモデルの変更」などがあります。

・革新には管理職のリーダーシップが必要です。長期的な視野や計画性が要求され、リスク判断が必要になるからです。管理職に「革新は経営陣の仕事」と思わせないため、管理職に先の「3割と3%の両方を目指す」を強く意識させる必要があります。※革新については記述が少ないな。

第7章 業務の生産性に直結する研修

○研修の生産性を上げる
・企業は様々な研修を行っていますが、その効果はあるのでしょうか。100人を集め2時間の研修をすると200時間分の人件費が掛かっているのです。中には抽象的な研修が多くあります。それは企業がその効果を数十年単位で考えているからです(※モチベーションを高める、満足感を高めるなどもあるかな)。一方在籍期間が短い外資系企業では、生産性向上の即効性が求められます。そのため「講義形式」ではなく、「ロールプレイング形式」の研修が大半です。※米国の大学の講義も、議論形式が多いかな。

○判断を練習する研修
・ロールプレイング研修では参加者が役割を分担し、職場を再現する方法です。私がマッキンゼーで最も印象に残る研修は、マネージャー昇格前に受けた研修です。これはコンピュータを使ったロールプレイングゲーム(RPG)の研修でした。各国から集まった5人がチームになり、RPGに挑戦するのです。仮想クライアントから経営課題が与えられ、そのプロジェクトにマネージャーとして取り組むのです。顧客の要望を全て引き受けていると、「部下が過労で、3日休む」となります。またマーケティングが得意な部下が、「財務を担当したい」と言ってきます。それを放置すると、「会社を辞める」と言い出し、フォローに時間を取られます。※省略するが、色々罠が仕掛けられている。

・この研修から「マネージャーに必要なのは、トレードオフの状態で判断を下す事」と分かります。「どの選択肢も正解・不正解はない」「選んだ選択肢に対し、準備が必要」などを学ぶのです。これを学んでいないと、「決断しない管理職」「意思決定しない管理職」になるのです。

○グローバルチームでの働き方を学ぶ
・5人で相談し、ゲームを進めていると、異なる意見が出てきます。「顧客の無謀な要望を聞き、家族を犠牲にすべきではない」「今は要望に従って、クリスマス休暇を十分とれば良い」などです。「財務の仕事がしたい」に対しても、様々な意見が出ました。自分にとっては「当然の選択」でも、他者には「不合理な選択」になっている場合があるのです。そのため選択に対し、説明が必要である事も学びます(※説明責任だな)。講義形成の研修で、「△△国の人は、こう考えるので注意しましょう」などを学びますが、こちらの方がリアルに学べます。※週末に顧客から飲み会に誘われ、出席するか否かの議論が行われているが省略。

○ロールプレイング研修の多彩な価値
・私のマネージャー昇格前の研修はRPGでしたが、通常は普通のロールプレイング形式の研修が行われます。これには次の多くのメリットがあります。

-具体的な話し方の練習ができる-
・「研修は業務に必要な知識や意識を身に付けるためで、現場でのOJTで十分」と多くの企業は考えています。ところが外資系企業では、「研修でビヘイビアー(どう行動すべきか)まで学ぶべき」と考えています。そのためロールプレイング形式の研修で、コミュニケーションの練習まで行っています。私も「仕事を辞めたいと言い出した部下との面談」「大きなミスをした部下との面談」「上司への業務報告を5分間で電話連絡する方法」など、具体的な設定での研修を受けています。これらをOJTでやるのは難しいですが、研修のリスクフリー環境では可能です。
※自分もOJT派だが、この研修は意味があるな。実際いきなり英語で電話が掛かってきて、ビックリした事がある。

-フィードバックが得られる-
・ロールプレイング形式だと、自分の言動に対し、他の参加者からフィードバックが得られます。例えば自分が営業担当になり営業トークすると、その後に顧客担当から「もっと強気になった方が良いのでは」「少し威張ったように感じられる」などのフィードバックが返ってきます。1対多の講義形式では、この効果は望めません。

-相手側の立場を体験できる-
・ロールプレイング形式だと、様々な立場に立てます。例えば営業の研修では、顧客の社長/顧客の実務担当/自社の営業担当/その上司などの役割を担当します。今の自分と異なる立場になると、様々な気付きがあります。

-チームでスキルを共有できる-
・同じ職場の他人が、どの様な仕事をしているのか知らないのが大半です。そのため上司・先輩から教わった方法をずっと続けていたり、自己流の方法を続けていたりします。ところがロールプレイング研修で、他人の方法を学んだり、他人から批評を受ける事ができます。コミュニケーションに関しても、同様に学ぶ事ができます。

-緊急時対応も事前に練習できる-
・緊急事態は稀にしか起きないためOJTでは練習できず、ロールプレイング研修で練習すべきです。消防訓練/避難訓練が行われるのも、そのためです。突発的なトラブルが起きると、生産性は大きく下がります。その理由は以下です。
 対応策が非定型で、管理職/ベテラン社員から多くの時間を奪う。
 緊急対応が優先され、通常業務が影響を受ける。
 平常時にはない対応に、時間が使われる。
 パニック状態になり、2次トラブルを起こし易い。

・実際にトラブルが起こると、トラブルの内容/原因/予防策はあったか/対応での重要ポイントなどを記録しておきます。そしてこれを元に研修内容を設計します。※作るのは大変だ。上司が不在の時のトラブルが紹介されているが省略。

・緊急時対応のロールプレイング研修には、以下のメリットがあります。
 知識だけでなく、言動の練習ができる。
 豊富なフィードバックがある。
 他者の視点に立てる。
 多彩な業務遂行スタイルを学べる。
 稀な事態に備えられる。

・この様にロールプレイング研修には多くのメリットがあります。一方集合研修(※講義形式かな)だと、「面白かった」「勉強になった」「考えさせられた」などの感想が得られますが、生産性の向上には繋がりません。※生産性には繋がり難いが、内容によるが勤労意欲の向上/普遍的知識の習得/向学心の増長など様々な効果があるかな。

○課長も部長も役員も
・外資系企業では、この様なロールプレイング研修をマネージャー/部長/役員(パートナー)にも行っています。役員研修の講師はベテラン・コンサルタントになりますが、講師から学ぶのではなく、参加したメンバーから学ぶのです。若い役員は、シニア役員の話し方などを学ぶ事ができます。グローバル企業は各国のトップ(現地法人の社長)を集めて研修しますが、具体的な課題を与え、それを議論する実践的なものです。
・日本の企業だと、上位の研修は「ありがたいお話」で終わるのですが、そうなっていません。「取締役会での議論ファシリテーションの方法(※会議の準備や進行方法かな)」「競合している時の、顧客キーパーソンとの話法」「業務方針が大幅に変更された時」「大きな問題が起こった時」「部門会議で全スタッフに話す時」「投資家に事業戦略をプレゼンする練習」などがロールプレイングの課題になります。

○最初は現場での新人研修から
・ロールプレイング研修を実施していない企業は、新人のロールプレイング研修から始めて下さい。この取り組みは人事部ではなく、各部門の管理職が身近な問題を解決するために企画・設計するのが良いと思います。これも管理職のリーダーシップです。

・以下に営業におけるロールプレイング研修の具体例を示します。
 参加者は20~50人程度。講師は実績のある営業課長など。6人で1グループとなり、テーブルを4~9卓用意する。
 役割は顧客役2人(社長、購買担当)、自社営業2人(上司、営業担当)、タイムキーパー1人、フィードバック担当1人となる。
 時間配分は、ロールプレイング実践20分/振り返り15分で、合計35分が1セット。これを役割を変えて3回行う。研修の最初に説明30分、最後に全体振り返り30分で、合計3時間弱になる。
 ミッション・カードが1枚×3回(※営業担当かな)、ロール・カードが3枚×3回(※社長、購買担当、上司かな)を用意する。
・ミッション・カードには、「顧客の購買意欲と購買決定の要因を把握する」などを記します。ロール・カードには、それぞれの役割をA4半分程度で記します。例えば購買担当のロール・カードには、「他社の方がコスト面で優れている事を強く主張する」などが記されます。社長役のロール・カードには「相手の話を聞かず、取引条件の質問を繰り返す」「商談の途中で中座する」「何も喋らない」などを記します。※トラブルメーカーになるんだな。事前準備も大変だ。想定した方向に進まないかも。

第8章 マッキンゼー流の資料作成方法

○アウトプット・イメージを持つ
・マッキンゼーでは、資料作成の方法をOJTを通して教え込まれます。本章ではそれについて述べます。最も重要なのは「まず最初にアウトプット・イメージを持つ」です。そうしないとマラソンランナーがゴールを知らないで走り続けるのと一緒です。生産性の高い働き方をするには、これが重要です。ビジネスでは、顧客向け提案書/商品の企画書/調査レポート/会議資料/アンケート結果などの資料を作成します(※文書作成かな)。従って資料作成の時間は生産性に大きく影響します。

・また資料作成の時間は個人差が大きくあります。生産性の高い人は、資料作成に必要な情報の収集が的確です。一方生産性の低い人は、関連する資料を手当たり次第集め、それを全て読んでいます。前者は関連資料を見て、その資料が今回の資料作成に必要かを判断します。不必要と判断した場合は、次の関連資料を探すのです。一方後者は関連資料を全て読み込んでしまいます。※これは資料作成自体の問題ではなく、実際の調査・分析方法の問題だな。

○ブランク資料を作る
・マッキンゼーでは、まず「ブランク資料」を作ります。これにより担当者と上司が、アウトプット・イメージを共有するのです。例えば紳士服メーカーが婦人服に進出する際、その検討資料を作成する場合、以下のブランク資料を作ります。これは最終的に作成する資料の目次と云えます。
 P1 婦人服市場の動向
 P2 各分野の特徴
 P3 紳士服市場とのプロセス毎の比較
 P4 参入案
 P5 今後のスケジュール

 さらに「P1 婦人服市場の動向」を次の様に詳細化します。
 1.婦人服の分野別規模(億円)
 2.紳士服との分野別規模の比較
 3.各分野の伸び率
 さらに「婦人服の分野別規模(億円)」であれば、その表のイメージ(空表)を作成します。

・このブランク資料を上司、さらに顧客と共有するのです。これにより「これでは意思決定できない」「私達(顧客)が求めていたのは、こんな資料ではない」などのトラブルを避けられます。

○ブランク資料は設計図
・情報収集していて、新しい重要な情報を見付けた場合は、ブランク資料を修正します。これは建設において、新しい建材が発売され、設計図を修正するのと一緒です。また情報収集していて、面白い情報に出くわす場合もあります。知的好奇心が強い人は、これを熱心に読み込みますが、今回の目的に無関係なら、やってはいけません。

○頭の中でブランク資料を作るシニア・コンサルタント
・ブランク資料はアンケートによる市場調査/顧客満足度調査や、インタビューによる情報収集などでも作成します。アンケート調査では、最初に集計結果をイメージして、質問を決め、アンケート票を作るのです。アンケートでの失敗は、望んだ結果が得られなかった場合です。
・インタビューでも、最初に質問リストを作るのではなく、アウトプット・イメージ(ブランク資料)を作るのです。そしてインタビューし、そのブランク資料を埋めていけば、インタビュー・レポートが完成します。※質問は何時作るのか。

・コンサルタント会社では、若手は実際にブランク資料を作りますが、シニア・コンサルタントになると、それを頭の中に作ります。そしてインタビューしていて変更の必要が生じた場合、頭の中で修正します。そしてインタビューが終了した時点で、頭の中にインタビュー・レポートが完成します。そのため生産性が高いのです。

○情報遍在によるバイアス
・ブランク資料を作らないと、情報遍在によるバイアス・リスクに陥ります。図は、縦軸に情報量、横軸に情報の必要性を表しています。従って、①情報量は多いが必要ない情報、②情報量は多く、かつ必要な情報、③情報量は少なく必要もない情報、④情報量は少ないが必要な情報の4象限に分かれます。
・ブランク資料を作っていると、②④の必要な情報だけを集めます。ところがブランク資料を作らず、漫然と情報収集すると①②を集め、必要のない①を集めてしまします。今はデータベース/インターネットが普及したため、特にこの危険が高まっています。一般的に古い分野の情報は豊富ですが、新しい分野の情報は不足しています。必要がないのに大量にある①を集めていると、当然生産性は低下します。※これは面白い観点だな。

○分析精度もブランク資料で判断
・情報収集プロセスの次は分析プロセスです。ブランク資料を作っていると、必要な分析しかしません。ところがブランク資料を作っていないと、縦横の合計(?)/平均/標準偏差/相関係数など、様々な分析をしてしまいます。これも時間を無駄に使ってしまいます。
・またブランク資料を作っていると、分析精度でも必要十分なレベルで分析できます。例えば「黒字が10億円以上であれば投資、それ以下であれば却下」となっていれば、赤字が2億円なのか3億円なのか精査する必要はありません。
※ブランク資料のテンプレート化や、実際に作成した資料のデータベース化は有益だろうね。これらをキーワード検索できるようにすれば、さらに初期作業が早くなりそう。

第9章 マッキンゼー流の会議の進め方

○会議は時間短縮ではなく成果を高める
・会議も「量ではなく質」で、生産性を高めるのが重要です。本章はこれについて述べます。

○達成目標を明確にする
・会議も資料作成と同じで、最初にアウトプットの具体的なイメージを作ります。これは「議題リスト」「アジェンダリスト」とは異なります。例えば議題リストで「プロジェクトの予算について」とあるだけだと、「予算について話し合う」「予算の詳細を確認する」「予算の総額を決める」など、様々な目標が考えられます。
・ここに「会議の議題一覧」と「会議の達成目標」の例を示します(※省略)。前者には「話し合う分野」は書かれますが、達成目標は書かれません。後者には達成目標が書かれているので、生産性を高める事ができます。

・会議の達成目標は次の5つに分類されます。①決断する、②洗い出す、③情報共有、④合意する=説得する=納得する、⑤ネクストステップを決める。例えば②の「アイデアを洗い出す」場合、会議でバラバラとアイデアを出してもらうのではなく、事前に営業部門と技術部門にリストを作成してもらい、それを元に会議すれば生産性は高まります。この様に達成目標毎に標準プロセスを標準化しておけば、生産性を高められます。

○資料は説明させない
・会議の生産性を下げるのが、資料を説明する時間です。作成者が資料を説明すれば10分掛かりますが、各参加者が黙読すれば2分で済みます(※資料説明は、共通理解/重点認識などで意味があると思う。また情報の共有漏れがあると怖い)。また資料説明は、作成者が苦労した箇所を重点的に説明するので良くありません。そのためマッキンゼーは資料説明を禁止しています。また「資料は1枚に纏める」としている企業があります。しかしこれだと作成者が3枚分の情報を1枚に纏める余分な作業が生じます。※最初から1枚で作成すれば、問題ないのでは。

○ポジションを取る練習
・生産性の低い会議とは「決まらない会議」です。そこで重要なのが、会議の参加者が自分の意見を決め、それを表明する事です。意思決定できない人は「場合による」「一概に言えない」「情報が足りない」と意思決定を先送りします。
・この意思決定できない人は、それを練習する必要があります。マッキンゼーではこれを「ポジションを取る」と云い、ベーシックなビジネススキルとしています。意思決定が苦手な人は、日頃から練習して下さい。例えばニュースで増税/社会保障などが報じられていますが、自分が最終決断者と思い、意思決定して下さい。実は意思決定できない人が多くいます。※これは「自分の意思を強く主張しない」「調和」など日本の美徳が障害になっているかな。

○意思決定のロジックを問う
・会議では「組織としての意思決定」が必要になります。結論が出なかった場合は、反省しなければいけません。結論が出なかった理由に、以下があります。①意思決定者が欠席した、②意思決定のロジックが明確でない、③データ/資料が揃っていない、④主催者のリーダーシップが不足している。ここで②③に注目し、「情報が足りない」理由ですが、ここで重要なのがロジックと情報の関係です。
・例えば「為替が120円/ドル以上に円高なれば予約する」とのロジックがあれば、為替が119円であれば予約を入れます。これはロジックが確定しているので、情報(為替)さえあれば決定できます。ロジックの有無が重要なのです。※面白い考え方だな。
・例えば「場合による」という人に対しては、「どう云う場合にYesで、どう云う場合にNoなのか」を明確にしてもらうべきです。例えば「顧客の反応次第だな」という場合は、「顧客の4割が満足すれば・・」の様に、判断基準(ロジック)を決めるのです。「情報が足らない」で意思決定できない場合は、「どの情報が、どうなれば決まるのか」を明確にすべきです。

○セッティング効果を利用する
・会議の環境/セッティングも生産性に影響します。マッキンゼーでは、「決めるべき議題が多い時は、事前に資料を配布する」「2つしか議題がない時は、2つ目の資料は会議中に配布する」などの決まりがあります。後者の理由は、1つ目の議論中に、2つ目の資料に気を奪われるからです。

・外資系企業/ベンチャー企業の会議室に、森や海を模したものがあります。これは環境を変えて、生産性を高めようとしているのです。
・また席・机の配置も重要です。司会者と参加者が向き合う配置にすると、司会者の立場が強くなります。机を配置しないと、資料を見なくなり、議論が活発になります。肩書順に座ると、若手の発言は減ります。

○全員がファシリテーション・スキルを鍛える
・ファシリテーション・スキルは司会者だけでなく、全員が持つべきです。多角的な議論を行う手法に「デビルズ・アドボケイト」(悪魔の提唱)があります。これは本人は賛成でも、あえて「それは違うのでは」「こんな場合もあるのでは」と述べ、議論を深めるのです。あるいは「顧客からクレームが来るとしたら、どんなクレームが来るかな」「緊急事態には、どんな事態が考えられるだろうか」「販売延期になるトラブルは、どんなトラブルだろうか」などと述べ、具体化を促すのです。
・あるいは「△△さんには顧客の社長さんの立場になって・・」「△△さんは技術部長、□□さんは営業部長の立場になって・・」とすれば、議論の内容も深まります。

・頻繁に会議を主催する人は、過去の会議を評価して下さい。議題が5つあり、3つ決まれば60%です(※点数の方が良いかな)。そして「あの資料があれば10%アップできたな」「あの議題を途中で止めておけば、後の議題は決まったかな」「あの人には出席してもらわなくて良かったかな」なども評価して下さい。最後に繰り返しますが、目的は「会議時間の短縮」ではなく、「会議の生産性を高める」です。

終章 マクロの視点から

○負担の転嫁には限界がある
・2015年大手化粧品メーカーが働き方の制度を変更しました。その概要は、これまでワーキングマザーは遅番/土日勤務が免除されていたが、免除されなくなりました。背景は「育児をしていない社員の不満」「シフトが回らなくなった」「ワーキングマザーのキャリアアップが難しくなった」などです。同じ様な問題が商社でも起きています。親の介護や夫婦共働きにより、海外赴任できない社員が増えているのです。育児は女性の負担が大きいのですが、介護は「男女平等」が進みつつあり、男性の介護離職も増えています。

・国も企業も育児休暇/介護休暇の制度を充実させてきましたが、先の化粧品メーカーのように、転嫁にも限界があるのです。100人中10人が「配慮すべき人」であれば転嫁できますが、これが60人・70人になると不可能です。そのためにも生産性向上は不可欠です。

○イシューから始めよ
・マッキンゼーの同期に安宅和人がいます。彼は『イシューからはじめよ』を書き、「何が問題なのか」の理解が最も重要としています。多くの企業が長時間労働を問題としています。ところがここでの課題(イシュー)は長時間労働ではなく、生産性の停滞なのです。長時間労働でしか売上を増やせない前時代の意識やビジネスモデルが課題なのです。
・単に長時間労働が課題にされると、「ノー残業ディ」「会議時間の上限」などの解決法が取られます。しかしこれは「コインの裏返し」です。「営業成績が上がらない→営業成績を上げるため、頑張ろう」「コストが高いので、値下げできない→コストを下げよう」「労働時間が長い→労働時間を減らそう」と同じです。本当の課題は、イノベーション(革新)/インプルーブメント(改善)で生産性を高める事です。

・「同一労働同一賃金」は報酬の移転に過ぎません。目指すべきは生産性の向上による付加価値の拡大です。正社員を増やさず、派遣社員/アルバイトばかり増やすのは、雇用継続/社会保障などの負担がない派遣社員/アルバイトの生産性が高いからです(※「コストが低い」の方が的確かな。それに「派遣社員/アルバイトの生産性は低い」と述べていたような)。今必要なのは正社員の生産性を高める事で、これに国・企業は取り組まなければいけません。
・国は高齢者・女性の就業率を高め、外国人労働者を増やそうとしています。これは、インプットを増やして問題を解決する方法です。これも「人が足りない→人を増やそう」の「コインの裏返し」です。これも生産性向上を目指すべきです。

○生産性の低い主体を温存させる日本
・生産性向上は、様々な問題を解決させるキーワードです。地方再生の解決策は「若者の地方移住」ではありません。次の50年で人口は、1.27億人から8千万人に減ります。この減少数は北海道・東北・北陸・中国・四国・九州の人口に相当します。若者が地方に移住しても、微々たるものです。本当の問題は、地方の第1次産業/第3次産業などの全ての産業の生産性が低いためです。これを解決するには、規制緩和/IT活用/自動運転/遠隔医療/遠隔教育/集住促進などの対策が必要です。※生産性が低いのは、人口が集中していないためかな。要するに負のスパイラルになっているかな。

・終身雇用制度も生産性を下げている要因です。優秀な人材が生産性の低い分野に閉じ込められる一方、生産性の高い分野では人材不足が成長の足枷になっています。国は生産性の低い人・産業を支援しています。必要なのは「生産性の低い人・産業への支援」ではなく、「生産性を高めるための支援」です。

○人口減少はチャンス
・日本の人口減少は加速し、25年後には1年間で100万人減少します。これは高齢者・女性の就業や移民で解決できる問題ではありません。これは日本が生産性を高める好機です。※人口が減ればGDPは減少するだろうが、国内の需要もその分減り、極端な供給不足にはならないと思うけど。
・最近「人工知能により職業の多くが消える」と予測されています。リスク許容度が低く、新技術の導入に慎重な日本でも人工知能は導入されるでしょう。しかし日本は人口自体が減少するため失業問題は起きないのです。
・東京圏の通勤時間は、往復で1時間42分です。1週間で1日の労働時間を超え、これは無駄な時間です。今後は在宅勤務/職住接近も課題になるでしょう。※今コロナ禍がこれを後押ししている。

・今政府の「人口減少への対応」、企業の「国際競争力の維持」、個人の「ワークライフバランス」の3つの課題があります。これらを同時に解決する方法が「生産性の向上」です。個人の生産性向上は、企業のパフォーマンスを高め、社会を豊かにします。

おわりに

・2012年私は『採用基準』を出版しました。欧米の「リーダーシップ」が日本に受け入れられるか不安でしたが、全くの杞憂で、多くの方に賛同してもらいました。本書は「生産性」について書きましたが、本書も同様に評価される事を期待しています。
・「コンサルティング・ファームでは、問題解決能力/ロジカル・シンキングが身に付く」と云われています。しかしこの点で日本企業は劣っていないと思います。違いは「リーダーシップと生産性への理解と、その取り組み」です。この2点について、日本は認識を深める必要があります。これは大企業だけでなく、ベンチャー企業も同様です。
・急成長する企業の長時間労働は常態化しています。投資家に高く評価されるとキャッシュフローが潤沢になり、増員で問題解決しようとします。繰り返しますが、日本と世界の差はリーダーシップと生産性です。

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