『フラグメント化する世界』鈴木裕人/三ツ谷翔太(2018年)を読書。
書名に惹かれ選択。
グローバルでスケーラブルな世界はフラグメント化(分権・分散化)し、その中心がコミュニティになるとしている。
確かに一部にその流れはあるが、これが全てではない気がする。
エネルギー/モビリティを頻繁に例にするが、そちらの本を読んだ方が良さそう。
中盤は、そのフラグメント化する世界が日本に有利である事を、6つの視点から解説している。
前半・終盤は用語が専門的・抽象的で、文章はその羅列で難読。
中盤は具体的で理解し易いが、説明不足の感がある。
お勧め度:☆☆
内容:☆☆
キーワード:<プロローグ>グローバル資本主義、コミュニティ、自律分散型、フラグメント化、ICT革新、GAFA、社会インフラ企業、GDPR、格差拡大、ポスト・グローバル資本主義、<フラグメント化する世界を生み出すドライバー>ブレグジット、トランプ、フロンティア、金融緩和、自律分散化、エネルギー・インフラ、ICTインフラ、<フラグメント化する世界とその移行プロセス>エントロピー、経済3主体、移行プロセス、成立要件、日本社会、<フラグメント化する世界の実像とコミュニティ>IoT/AI/ブロックチェーン、エネルギー・インフラ、モビリティ・インフラ、MaaS、ヘルスケア、社会調和、<自動車産業における「100年に1度の変化」>産業政策/エネルギー政策/環境政策/交通政策、CASE、カー・シェアリング/ライド・シェアリング、<フラグメント化する世界における企業経営>脱コミットメント経営、ESC/SDGs、脱選択と集中、ポートフォリオ経営、脱横並び経営、市場性/差異化、脱標準化、デファクトスタンダード/カスタムソリューション、脱大艦巨砲主義、狩猟型/農耕型、脱中央集権型組織、属人性、<フラグメント化する世界で勝ち残る企業・産業>パナソニック/ソニー、東芝/日立、三菱電機/富士電機、電子部品業界/機能材料業界、産業用車両業界/複写機業界、DAJT、ヤマハ発動機/ホンダ/スズキ、三菱重工/川崎重工/IHI、エンジニアリング会社、システム・インテグレーター、商社、<日本がリードするための指針>アプローチ、イノベーション、産業・政策・地域、情報発信、将来ビジョン、<エピローグ>コンサルティング・ファーム
プロローグ 2018年はGAFA時代から日本企業の時代への移行元年
<グローバル資本主義の申し子GAFA>
・本書は「グローバル資本主義」の終焉と「コミュニティ時代」の到来が主題である。GAFAに代表されるグローバル・プラットフォーマーが独占する時代から、自律分散型の企業モデルが復活する時代に変わる。GAFAはそれぞれの分野で「一強体制」となり、急速に事業を拡大させた。そんな中、情報通信技術(ICT)/エネルギー分野で自律分散型の技術革新が勃興し、コミュニティを基盤とした新たな社会システムが構築されている。すなわち次の時代は、個別最適解を出せる、分散型テクノロジーに優れた日本企業の時代になる。※具体例が欲しい。
・コミュニティを基盤とした自律分散型社会を「フラグメント化する世界」と呼ばさせてもらう(※フラグメント化は細分化かな)。フラグメント化は、グローバル・ビジネスを大きく変えるだろう。
○10年単位で見た企業の栄枯盛衰
・1997年/2007年/2017年の国別GDPランキングと企業の時価総額ランキングを図示した。20年前は米国/日本が二大経済大国だった。その10年後、中国のエネルギー企業/通信企業やロシアのガスプロムなどがランクインした。そして直近は、GAFAとマイクロソフトが上位5社を占め、次に中国のテンセント(騰訊控股)/アリババ集団が続く。この時価総額ランキングは、平家物語の「祇園精舎の鐘の声・・」を思わせる。
○GAFAはグローバル資本主義とICT革新の象徴
・GAFAは「グローバル資本主義」と「ICT革新」の象徴である。これを読み解けば、次に来る世界の経営戦略が見えてくる。「グローバル資本主義」は、冷戦終結以降に欧米が進めてきたもので、国境を取り除き、経済を自由化する資本主義のグローバル化である。これによりBRICsなどの新興国は市場に組み込まれ、企業経営はスケーラブル(拡張可能)である事が最も重要になった。※グローバル資本主義=グローバリズムだな。
・GAFAに代表されるプラットフォーマーは、共通のビジネスモデルをグローバル展開し、スケーラビリティを極限まで高めている。そのためGAFA時代の花形になり、市場から高い評価を受けている。
・実際彼らのビジョン/ミッションは世界を意識している。グーグルのは「世界中の情報を整理し、全ての人がアクセスできるようにする」であり、フェイスブックのは「コミュニティ作りを支援し、人と人を繋がり易くする」であり、アマゾンのは「世界で最もお客様を大切にする企業」である。
・もう1つは「ICT革新」であるが、GAFAの影響力は突出している。私達はiPhone/Androidのスマートフォンを使い、Googleで情報検索し、Facebookで情報交換し、Amazonで商品を購入している。この生活スタイルは世界中に浸透している。
○GAFAのサービスはバーチャル社会インフラ
・GAFAは、スマートフォン/IoT/人工知能(AI)によるビッグデータ解析などのICT技術をサービスとして提供し、プラットフォーマーとなった。これにより人と情報(検索)/人と企業(広告)/人と人(SNS)をマッチングさせ、生活の利便性を高め、社会の生産性を高めた。
・また彼らは個人の影響力を高めた。例えばニュース報道はマスメディアに限られていたが、SNS/動画配信などで個人が情報発信する事が可能になった。あるいは個人が商品を不特定多数の人に販売できるようになった。この様に個人の力を高めた。
・いずれにしてもGAFAが提供するサービスは、リアルの水道・電気・ガス・公共交通などに対し、「バーチャル社会インフラ」となった。
○EUvsGAFAの戦い
・無敵に思われるGAFAの衰えに繋がる出来事があった。2018年5月EUによる「一般データ保護規則」(GDPR)の施行である。これは個人情報の取り扱いを厳格化する規則で、欧州的なプライバシー保護である。ところがこれは巨大化する米国GAFAへの対抗手段であり、トランプ政権下での経済覇権争いの一例である(※これも巨大ITに対するEUの対抗か)。これは情報を源泉にするGAFAには、少なからぬ影響があるだろう。
○崩れ始めたグローバル資本主義の前提
・GDPRは、GAFAのスケーラブルである事やビジョンを揺さぶる。人々の経済状況/価値観/嗜好の多様化、新興国企業/新たな業態を持つ企業の台頭、サプライチェーンの複雑化など、世界は複雑化した。そんな中企業は自社・自国のビジネスモデルを世界に押し付け、スケーラビリティを実現してきた。ところがGDPRにより、それが難しくなる。世界は「スケーラブル」から「フラグメント」に変わるため、それに応じて経営を変える必要がある。※近年巨大ITに対する風当たりは強いからな。
・マクロ的に見ても、近年の超低金利は17世紀初頭のジェノバ以来で、資本主義の終焉と云われる。GDPRはグローバル資本主義の限界を象徴する出来事である。※グローバル資本主義が変容するだろうか。分断とかブロック化は云われているが。
○バーチャル社会インフラ企業として求められている事
・GAFAはインフラ企業として、鉄道・電力などのリアルな企業に比べ、高い種益を得ている。彼らが公共財を提供しているなら、収益は鉄道・電力などと同程度に抑えられるべきとの意見もある。また彼らが保有している個人情報は、本来は信頼関係にある政府・地方自治体のみが許されたものである。そのため政府は彼らを警戒している。※確かにこんな観点があるな。特に中国はそうだな。
○格差拡大/二極化を誘引
・さらに彼らは格差拡大と社会の二極化を誘引している。彼らの源泉であるソフトウェア開発の世界は、個人当たりの生産性の格差が著しく大きい。彼らが生み出す価値は、一握りのプログラマーと企業家が生んでいる。また彼らが提供する利便性の高いサービスは、既存企業のサービスを市場から追い出している。結果として、個人と社会の格差をもたらしている。
・この格差拡大はグローバル資本主義の帰結でもあるが、ICTの発展もそれを促進した。これにより欧米ではブレグジットが起き、トランプが当選し、移民排斥が起き、通商摩擦が激化している。これら格差拡大/二極化を踏まえると、ビジネスはフラグメント化する世界を想定さざるを得ない。
<ポスト・グローバル資本主義とフラグメント化する世界>
・このGAFAの栄枯盛衰は「グローバル資本主義の限界」であり、ICT革新は社会構造の変革を促進している(※まだ終焉はしていないかな)。次にくる「ポスト・グローバル資本主義」はスケーラブルな世界ではなく、個別対応が必要なフラグメント化する世界となる。また個人の力が強められる事で、政府と企業/企業と個人/個人と政府の力関係も変わってくる。このフラグメント化する世界をマクロ的(社会レベル)/ミクロ的(個人レベル)に明らかにし、それに日本がどう対応していくべきかが本書の主題である。
・グローバル資本主義は市場・競争環境を複雑化させ、社会構造を二極化させた。これにより政府・企業・個人(家計)の経済主体は、社会的役割の再定義が必要になった(※抽象的過ぎ)。その1つが第4の経済主体「コミュニティ」の出現で、今後はこれが重要な社会基盤になる(※「アラブの春」などを起こしたかな)。GAFA自身もグローバル企業から、地域独占型のコミュニティを基盤とした社会インフラ企業に変化する必要がある。
○企業の存在意義・組織構造の再定義
・こうした社会システムの変化により、企業は存在意義/社会的役割を再定義する必要がある。企業が取るべき方策は個別最適化され、フラグメント化されたものになる。これを実現するための組織/ガバナンス構造は自律分散的になる。つまりマクロ(社会システム)もミクロ(企業)もフラグメント化する事になる。
・日本企業は欧米主導のグローバル資本主義に悪戦苦闘してきたため、このフラグメント化はゲームチェンジの絶好の機会である。日本企業は分権的で、このフラグメント化する世界と親和性が高い。
・本書は、フラグメント化する世界の全体像と、それに日本企業がどう対処すべきかを述べる。第1章では、グローバル資本主義の限界と社会インフラにおける技術革新を述べる。第2章では、世界のフラグメント化を自然科学のアナロジーから解く。またコミュニティの特徴を踏まえ、日本との親和性を述べる。第3章では、ポスト・グローバル資本主義の核となるコミュニティを支えるICT/エネルギー/モビリティの変化を述べる。第4章では、世界のフラグメント化を自動車産業を例に述べる。第5章では、フラグメント化に企業がどう対応すべきかを述べる。第6章では、実際にどんな企業が勝ち組になるかを述べる。第7章では、フラグメント化の移行をリードするための、トップダウン/ボトムアップのアプローチを述べる。本書がフラグメント化に対処する企業経営者/政府関係者の一助となる事を期待する。
※概要は良く分かった。「コミュニティが核になる」が前提なので、これに疑義を持っていたら話に乗れないかな。
第1章 フラグメント化する世界を生み出すドライバー
・プロローグで「スケーラブルな世界」は「フラグメント化する世界」に移行すると述べた。これを促進するのが「グローバル資本主義の限界」と「社会インフラの技術革新」である。これによりコミュニティを基盤としたフラグメント化する世界になる。本章はこの2点について述べる。
<グローバル資本主義の限界>
・グローバル資本主義は世界経済を成長させたが、それを牽引した欧米で逆回転が始まっている。そこでは資本(お金)が絶対的な価値だったが、それがコモディティ化(?)している。また利益と株価の乖離も起きている。
○英米から始まった逆回転
・2016年グローバル資本主義の「逆回転」が始まる。6月英国でEU残留を問う国民投票が行われ、残留反対が多数となった。ブレグジット(brexit)である。その背景は、東欧からの移民(※イスラム難民より東欧か)とEUの独仏を中心とする大陸指向である。さらに11月米大統領選でトランプが勝利し、彼は米国第一を掲げ、移民政策を転換し、TPPからも離脱した。
○フロンティアの喪失と二極化
・資本主義はフロンティアを発見・定義し、中心と周辺を作り、中心がヒト・モノ・カネを収集する事で成長してきた。グローバル資本主義では、バーチャルな金融/IT空間がフロンティアとされた。しかし今日起こっているのが、リアルな世界のフロンティア喪失である。世界経済を牽引したBRICsなどの新興国の経済成長は鈍化した(中所得国の罠)。残るはアフリカであるが、期待できそうにない。先進国では少子高齢化が問題になっている。
・これにより欧米も中国も、バーチャルな金融/IT産業にフロンティアを代替させた。その結果、ウォール街/シティのグローバルな金融機関や、米国のGAFA/中国のBATなどのスケーラブルなIT企業が誕生した。ところがグローバルな金融機関は「リーマンショック」でより厳しく監視されるようになり、ローカルな産業に引き戻された。一方のGAFAもGDPRの導入で地域対応せざるを得なくなった。※製造業などは、グローバル資本主義が十分通用していると思う。
・この様にバーチャル空間でもフロンティアの創出が難しくなり、スケーラブルな世界は個別対応が必要なフラグメント化する世界に移行しつつある。グローバル資本主義による成功は難しくなり、経済的な二極化は国内外で固定化しつつある。さらに難民問題やイスラム圏での政情不安を起こしている。
○金融緩和が資本のコモディティ化を招いた
・この低成長に対し、各国政府は金融政策/産業政策を実施した。日本でも金利引き下げ/国債買い上げなどの金融緩和が行われた。これはトップダウンであり、即効性があるため重用された。一方産業政策での規制緩和は痛みを伴い、即効性も低く、有効に機能していない。
・金融緩和にしても、企業の設備投資がなければ、市場に供給された資金はバランスシートの現金を増やすだけである。実際自動車産業での海外工場建設は一巡している。この様にグローバル資本主義の共通言語である資本(お金)への需要は低い。そのため余剰資金はM&Aに向かっているが、企業を買収したとしても、その重要人材が逃げてしまえば、買収に意味はない。
○変わる株価の意味合い
・グローバル資本主義の変調により、株価のメカニズムも変わりつつある。かつては「将来の利益」で評価されていた。ところがGAFAのようなITプラットフォーマーは、「将来の成長の伸びしろ・期待値」で評価されている(※近い将来から、架空の未来かな。バブルっぽいな)。GAFAの株価収益率(PER)は他の業種に比べ突出して高い。※GAFAはAmazonを除いて、利益は莫大だった気がする。それにも増しても株価が高い(PERが高い)のかな。テスラなどもPERが高かったと思うが、上記の「株価のメカニズムは変わりつつある」は限定的かな。
・米国はこの高PER業種に産業をシフトさせている。しかしトランプはエネルギー産業などの伝統産業を重視しようとしており、それが株価に影響を与えるだろう。しかしITプラットフォーマーのサービスが多面的なステークスホルダーを意識したものになると、利益水準は既存の社会インフラ企業と同程度になり、金融市場での「ラスト・フロンティア」の役割を果たすだろう。※難解。利益が低下(同程度)するので、最後のフロンティアになるかな。
<進む社会インフラにおける技術革新>
・この様なグローバル資本主義の限界により、フラグメント化する世界が必要になった。グローバル資本主義の限界が必要条件なら、ICTをベースとする自律分散型の技術革新は十分条件と云える。具体的には分散型のICTプラットフォーマーを前提とした「再生可能エネルギーの自律分散型エネルギー・システム」である。またこれを前提として交通インフラ(モビリティ・インフラ)にも革新が及ぼうとしている。※何か美辞麗句の羅列。最近よく聞くエネルギー・インフラ/モビリティ・インフラはある程度は関連しているかな。
・スケーラブルな世界は中央集権型だったが、フラグメント化する世界では各地域での個別対応が必要になった。それを可能にしたのが自律分散型のICT革新である。このICT革新はユーザー主導で自律分散的に行われる。これにより「エネルギー・インフラの民主化」「ICTインフラの民主化」と呼べる現象になっている。このICT革新によりコミュニティ単位でのフラグメント化する世界が実現可能になった。
○再生可能エネルギーによる化石燃料バリューチェーンの破壊
・産業構造の変化の中で最も変化が大きいのがエネルギー・インフラの自律分散化である。資本主義をここまで成長させたのは、18世紀半ばからの産業革命と石炭・石油などの化石燃料である。特に転換点になったのが、内燃機関の発明と石炭から石油への移行である。これにより巨大な石油産業/電力産業/自動車産業が生まれた。
・石炭は世界の広範囲で産出されるが、石油は産出地が中近東などに限定される。これで利益を得たのが欧米の石油メジャーである。そしてその最大の利用者が自動車である(※石油化学とかもあるかな)。それと並ぶのが電力で、火力発電所で電力が発電され、送配電されるビジネスモデルが確立した。
・この石油会社/電力会社の供給システムは中央集権型である。しかしこの供給システムが、政策目標となったCO₂削減と再生可能エネルギーの発電コストの低下で変わろうとしている。前者は欧州が推進してきたが、国連気候変動枠組条約締結国会議(COP)により各国の政策目標となった。これにより各国で化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が行われ、技術革新と量産効果により再生可能エネルギーの発電コストは低下した。
・また再生可能エネルギーは分散的に発電される。化石燃料による発電は大型の発電装置が必要だが、太陽光発電の効率は規模と無関係である。また燃料費が掛からないため、限界コストはほぼゼロに近い。※初期費用だけか。
・そのためこれまでは電力供給は半国営企業が行っていたが、各国で自由化が進んでいる。これにより新規参入や地産地消が進み、産業構造の分散化が見られるようになった。この様にエネルギー・インフラはコミュニティ単位での利用が有利になった。
○次世代ICT群による分散型ICTプラットフォーマーの実現
・エネルギー・インフラの分散化・民主化と同時に、ICTインフラの分散化・民主化も進んでいる。インターネットの普及でネットワークは分散化すると思われたが、実態はGAFAなどのプラットフォーマーにより、データは寡占化された。彼らは個人情報などの様々な情報をクラウドに吸い上げ、さらに大量のデータを集めようとしている。
・この中央集権型のアーキテクチャにも変化の兆しが見られる。IoT/エッジ・コンピューティング/ブロックチェーン/AIなどの次世代ICT群による、ICTインフラの分散化である。IoTによりリアル情報を収集し、エッジ・コンピュータで処理するエッジ・コンピューティングの活用が広がつつある。※AIセンサーとかがあるみたい。
・次に挙げるのがフィンテックで利用されてきたブロックチェーン技術の他分野での活用である。ブロックチェーンは信用保証機能を中央集権的でなく自律分散的に行える。またAIのディープラーニングで技術革新が進んでおり、これも自律分散化を支えている。
※エネルギー・インフラ/ICTインフラの自律分散化だけで、世界はフラグメント化していると云えるのかな。
第2章 フラグメント化する世界とその移行プロセス
・世界のフラグメント化は自然科学のアナロジーからも説明できる。本章では「エントロピー増大の法則」やフラグメント化する世界への移行について述べる。またコミュニティを明らかにし、社会システムがどの様に変わるかも述べる。
<なぜ世界はフラグメント化するか>
・世界のフラグメント化は、自然科学からも説明できる。自然科学の「ものの理(ことわり)」は社会科学にも通じる。
○複雑化する世界:エントロピーの増大
・複雑化する世界は「エントロピー増大の法則」から解ける。この法則は「物事は乱雑な方向に進む」「秩序ある状態は、無秩序な状態に変わる」とする法則である。因みにエントロピーとは、乱雑を意味する。※エントロピーの増大は、たまに聞く。
・グローバル資本主義はトップダウンであり、グローバル・スタンダードの確立である。これはエントロピーを減少させる方向で、奇跡的な産物である。これを可能にしたのが、新興市場の拡大やIT・金融のバーチャル経済の勃興などの経済フロンティアの継続的な開拓で、世界経済は「開放系」だった。エントロピー増大の法則が成立するには「閉鎖系」である。※「成長中はエントロピーの増大は起こらず、成長が止まるとエントロピーの増大が始まる」か。
・フラグメント化する世界では、新興国経済は世界経済に組み込まれ、ITプラットフォーマーも公共財化し、リアルな世界でもバーチャルな世界でもフロンティアの拡張は望めなくなる。そうなるとエントロピー増大の法則から逃れられなくなる。しかしこのカオス状態は持続可能性に問題があり、平衡状態に近づける必要がある。※新しい課題が出てきた。
○複雑系科学と自律分散型システム
・この複雑化した世界を学問的に捉えるのが、「複雑系科学」である。この成果が「カオス理論」「ファジー理論」であり、家電製品などに実装されている。またこの解決法に自律分散型システムがある。ところがこれは中央集権型のグローバル資本主義と相反するため、実装されてこなかった。しかしICT・エネルギー分野での技術革新により自律分散型システムの実装が可能になってきた。※自律分散型システムにすべきかは、分野によるのかな。
<フラグメント化する世界への移行プロセス>
・スケーラブルな世界からフラグメント化する世界への移行は、以下の4つのステップが同時並行で進められる。
○ステージ0:経済3主体の均衡(~1980年代)
・経済学の3主体(政府、企業、個人)は安定的な関係にあり、経済サイクルを安定的に循環させた。
○ステージ1:グローバル資本主義下での企業の肥大化(1980年代~現在)
・グローバル資本主義により企業は肥大化した。それを象徴するGAFAは、大量の個人情報を収集し、膨大なトランザクションを持ち、莫大な利益を得た。彼らが提供するサービスは公共的であり、政府の領域にも及んでいる。これに違和感を持つ人も現れた。これにより経済3主体の構図は揺らぎ始めた。
○ステージ2:政府と企業の分権化(2010年代~現在)
・これにより起こったのが、政府と企業の分権化である。中央政府の機能不全が明らかになり、自治体(州政府、市町村など)の自治機能が強化されている。日本では地方創生が謳われ、特区が設定され、コンパクト・シティが構想されている。
・企業ではESG(環境、社会、ガバナンス)/SDGs(持続可能な開発目標)により、グローバル企業は地域貢献を始めた。例えばグローバル・ブランドの代わりに地域密着型のブランドを開発している。あるいはカンパニー制を導入したり、分社化を行っている。
○ステージ3:ICTなどの革新による個人のエンパワーメント化(2010年代~現在)
・ステージ2と並行して起こっているのが個人のエンパワーメント化である。ICT/エネルギー/モビリティなどの社会インフラの自律分散化が背景にある。ICTの進化により個人は情報発信が可能になり、SNSにより共通の趣味・嗜好を持つ者でコミュニティを持てるようになった。これを支えたのがGAFAである。
・エネルギーでは分散型再生可能エネルギーが進化し、モビリティでは自動運転技術によりモビリティ・サービスが進化した。かつて社会インフラは政府が認可した一部の企業しか持てなかったが、個人も分担できるようになった。※本書は一つの事を何倍にも誇張している感がある。ここにはないが、資源の有効活用からシェアリング・ビジネスは盛んになるだろうな。
○ステージ4:政府・企業・個人の新たな関係としてのコミュニティ形成(2020年代~)
・ポスト・グローバル資本主義では、政府・企業と個人の間に形成されたコミュニティが重要な役割を担う。例えば「各家庭が太陽光発電した電力を地域で融通し合う」「自動運転車を地域交通システムでオンデマンドで提供する」などである。
・これによりコミュニティの資産は共有され、富の再分配が行われ、サステナブル(持続可能)な社会インフラとなる。コミュニティは地域性を持ち、多様なものになり、第4の経済主体になり、フラグメント化する世界を支える。※本書はこのステージ4に関する本かな。
○2030年頃までは移行過渡期
・スケーラブルな世界からフラグメント化する世界への移行過渡期で忘れていけないのが、両パラダイムが併存する事である。例えば宇宙開発やベーシックインカム導入などのグローバル資本主義の模索も行われる。そのため政府・企業は、両パラダイムを考慮してマネージメントする必要がある。
<フラグメント化する世界の基盤であるコミュニティの成立要件>
・政府・企業による中央集権型のスケーラブルな世界は、エンパワーメントされた個人による分権・分散型のフラグメント化する世界に移行する。その基盤になるのがコミュニティである。このコミュニティはソフト面とハード面があり、ソフト面では政府から地方への権限移譲(統治の分散化)、ハード面ではエネルギーの地産地消(社会インフラの分散化)である。また企業はグローバル企業としてオペレーションしていたが、所在地との調和を深めローカル企業化する。また現場や個人への権限移譲も進められる。
・個人はSNSなどによりエンパワーメントされる。太陽光発電や自動運転によるモビリティ・サービスなどにより、個人が社会インフラを持てるようになる。※同じ事の繰り返しが多い。
・この結果、政府・企業と個人の間にコミュニティが形成され、重要な経済主体になる。政府と個人の間は「地域」であり、企業と個人の間は「所属組織」である。「地域」では、政府からのトップダウンである自治体は難しくなり、住民からのボトムアップである「街単位」になるだろう。
・これらのコミュニティの成立要件を、モノ(社会インフラ)・カネ(価値配分)・ヒト(意思決定)の順に述べる。
○モノの視点:自律分散型の社会インフラ
・従来の社会インフラ(電力、鉄道、道路、社会保障制度)は中央集権・大規模型だった。政府が税金を収集し、社会インフラの原資にしていた。これは人口・経済成長を前提にしているため、持続性が懸念される。
・これが技術革新により自律分散型に転換しようとしている(詳しくは次章)。エネルギーでは地域で電力供給が自律的に調整できるようになり、モビリティでは個人が所有するクルマが地域で最適の交通手段を提供するようになる。
○カネの視点:公私混合型の価値配分メカニズム
・これは政府・企業・個人の間を富を循環するメカニズムである(※今もそうなっていると思うが)。例えばエネルギーでは、需要ピークのために公用の発電・蓄電インフラを整備するのは非効率である。そこで私用(家庭用)の発電・蓄電設備を組み入れ、エネルギー供給を最適化する。これは「公有と私有の混同」であり、コミュニティの成立要件となる。※公私の融合かな。
・これにより意思決定や社会資本(※社会インフラ?)の構築・運営方法は変わってくる。企業ビジネスの「to G」「to B」「to C」は大きく影響を受け、「to Community」の新たな関係が生まれる。
○ヒトの視点:個人が自律協調する統治メカニズム
・コミュニティの登場により、中央の意思決定による統治は、個人が自律協調する統治に変わる。エネルギーを共同供給したり、個人が所有するクルマを公共交通インフラで利用したりするためには、個人が自律協調する統治メカニズムが必要になる。
・これら3要件を満たすため、コミュニティはそれぞれの地理的条件/住民属性/文化などの固有性を考慮する必要がある。そのため各コミュニティは独自なものになる。また1つの場所に複数のコミュニティが重複して存在する構造になる。
<日本の社会・経済システムは、フラグメント化する世界と相性が良い>
・次にフラグメント化する世界と日本の相性を見る。日本の思想や現状のシステムはフラグメント化の要素を多く含んでおり、相性は「非常に良い」。今抱えている課題を解決していけば、それがフラグメント化する世界への移行になり、これは世界への先駆けになる。また日本はコミュニティが成立し易い環境にある。
○民間資本を活用した社会インフラの形成 ※本項はモノの視点かな。
・明治維新以降、日本は社会インフラの構築に早くから民間資本を利用していた。鉄道では民間企業により鉄道網が整備され、沿線も開発された。この点において日本は「自律分散型の社会インフラ」の構築・運営において、一日の長がある。
○農耕民族的価値観に根差した「社会の公器」としての企業 ※本項はカネの視点かな。
・「公私混合型の価値配分メカニズム」の観点から見ると、日本は古くから農耕型の社会が構築された。そのため共同作業/役割分担により「皆で働き、皆で稼ぐ」社会的文化が生まれた。また種を蒔き、育て、刈り取る自律的なサイクルで拡大再生産ができる事も知った。これらは狩猟民族にない職業観で、日本に「公私混合型の価値配分メカニズム」を導入するのは容易である。※「日本と欧米の違いは、農耕型と狩猟型による」は何となく感じる。
・また日本の多くの企業は、明治維新以降の「欧米に追い付け」の時期や大戦敗戦後に創業しており、存立目的は単なる私企業の利益追求ではなく、国への貢献や地域雇用の創出などの公的性を含有している。これは三菱グループやトヨタグループの綱領を見ても分かる(※日本はCSR先進国かな)。この様に日本企業は、公的部門に対して二律背反的な存在ではない。
○「八百万の神」に根差した自律協調性 ※本項はヒトの視点かな。
・「個人が自律協調する統治メカニズム」に関しては、日本は霞が関を頂点とする中央集権型統治と云われる。しかし一部の自治体では首長がリーダーシップを発揮しているし、自治会が歴史的に地域コミュニティの基盤になっている。また財政的・人的に逼迫している過疎地では、行政の機能を自治会に移管する動きもある(※上水の管理を自治会に任せた話は聞いた事がある)。またマンションには建物/共用サービスを維持管理する組織が存在する。
・グローバル資本主義の中央集権的な統治は、キリスト教/イスラム教のような一神教と親和性が高い。一方フラグメント化する世界での統治には、日本の多神教である「八百万の神」信仰と親和性が高い。
・これらの考察から、日本はフラグメント化する世界を受容し易い特性を備えている。ただし「自律分散型の社会インフラ」「公私混合型の価値配分メカニズム」「個人が自律協調する統治メカニズム」の全てを満足するコミュニティは、まだ現存しない。
第3章 フラグメント化する世界の実像とコミュニティ
・本章ではフラグメント化する世界の具体例を紹介する。今の産業構造はエネルギー/モビリティをICTが支え、それを基盤として生活空間/産業がある。このICT/エネルギー/モビリティの革新を見る事で、コミュニティの実像も見えてくる。
<IoT/AI/ブロックチェーンが社会調和メカニズムを変える>
・これからの社会変革に、IoT/AIなどのICT革新が深く関わる。米国の「インダストリアル・インターネット」、ドイツの「インダストリー4.0」、日本の「ソサエティ5.0」などが代表例である。本節では、IoT/AI/ブロックチェーンが社会システムにどう影響するか見ていく。
・このICT革新は社会変革を後押しする。IoTは自律分散型の意思決定を可能にし、AIはビッグデータにより課題解決を容易にし、ブロックチェーンは契約社会の在り方を変革する。
○AI/IoTが可能にする自律分散化
・IoTは人だけでなく、車両/商品/インフラなどのリアルなものをバーチャル世界に接続させる。また最近は、クラウド/センターなどの中央で処理するのではなく、末端で処理するエッジ・コンピューティングが実装されつつある。
・AIはビッグデータの蓄積に立脚し、最適化計算する仕組みである。従来のAIは人がルールを設定する必要があったが、近年はディープラーニングによりAIがルールを自主学習できるようになった(※ルール設定は4段階位あったはず)。このAI/IoTにより、これまでは政府が画一的なルールを設定していたが、末端での挙動によりルールを柔軟に最適化する社会が可能になった。※ルールは変えられないが、柔軟に応用できるかな。例が欲しいな。
○ブロックチェーンが可能にする中央に依存しない統治機構
・ブロックチェーンは「ビットコイン」で注目されているが、その本質は価値・信用を交換するための技術である。従来の契約は、信託機関などの第3者により正当性が認証・証明されていた。ところがブロックチェーンでは、取引データの中に正当性を担保する暗号が含まれる(※ブロックチェーンも高負荷らしいが)。これにより自律分散型の正当性担保が可能になった。
・本節で述べた様に、IoT/AI/ブロックチェーンは社会調和のメカニズムを変える要因になる。これらにより社会システムは中央集権型から分散型に転換される。
<エネルギーは化石燃料による集中型発電から地産地消へ>
・エネルギーは産業の根幹である。それを水力や石炭・天然ガスなどの化石燃料から得ていたが、昨今は太陽光発電などの再生可能エネルギーが注目されている。太陽光発電などは発電コストが高かったが、劇的に低下している。
・従来は電力会社による中央集権型モデルだったが、コミュニティで電力を融通・調整する分散型モデルに転換する。各家庭の太陽光発電/蓄電池を連携・調整するインフラになる。この最適化にIoT/AIが不可欠である。またブロックチェーンを使えば、電力の融通を正当化できる。
○再生可能エネルギーを使いこなす
・エネルギーの地産地消にも、幾つかのハードルがある。まず電力需要と供給の時間帯での乖離である(ダックカーブ問題)。これを解決するのが蓄電池である。蓄電池も含めた発電コスト(蓄電池パリティ)が既存の発電コストを下回るようになれば、これは加速する。
・再生可能エネルギーは不安定で、余剰電力が発生する。これを系統に流すには系統の増強が必要になる。またこれを地域間で調整するのも負担が大きい。※最近鉄塔の増設が見られるが、これが目的なんだろうな。
○エネルギー・インフラはコミュニティ単位になる
・アセット(家庭用蓄電池など、※当然パネルを含むかな)が公共化され、既存の電力系統と置き換わっていく。ドイツでは地域毎にユーティリティ(※アセット?)を提供する「地域インフラ供給会社」がある。日本でも兵庫県芦屋市で自営網を構築し、各世帯の蓄電池を制御し、電力の需給を平準化している。※自営網を系統に繋げるだろうが、そうなれば細胞化・階層化するな。
・これらは再生可能エネルギーの発電コスト/蓄電池コストの劇的低下やICT革新による。このエネルギー・インフラは、経済の第4の主体であるコミュニティの確立を後押しする。
・このエネルギー・インフラは地域固有性を有する。地域は人口動態/自然資源/電力需給の条件など様々な違いがあり、それを最適化する必要がある。また地域単独での運用は困難で、他地域と連携し最適化する必要がある。
<地域における交通手段の調和>
・船・鉄道などの大規模輸送も自動車による個人の移動も、社会・経済に大きな影響を与えてきた。線路/鉄道車両は膨大なコストが必要なため、公共性を持った。道路の維持管理/環境問題/渋滞/交通事故なども社会的コストとなった。また高齢者の免許返納で、買物弱者も生まれている。この様にモビリティでの課題は多く、地域で最適化する必要が生じている。
○交通手段と利用者の相互調和
・既に進みつつあるのがカー・シェアリング/ライド・シェアリングである。自家用車の共有化や物流での共同輸配送も進みつつある。人の輸送と物の輸送も境界が曖昧になっている。これを同時に行う貨客混載も始まっている(※規制緩和かな。新幹線で貨物が運ばれるようになった)。これらのシェアリング・サービスの目的はアセットの最適化にある。
・さらに行われている最適化がモビリティ・マネージメントである。シンガポールでは、「年齢などの利用者属性に応じた最適ルートを提案する」「タクシー待ち行列をモニタリングし、利用者やタクシー会社に通知する」などの取り組みが行われている。
・某スタートアップは利用者にポイントを付与する事で、混雑の緩和を行っている。これによりピークに対応してきたインフラ投資を削減できる(※首都高も時間帯で料金を変える変動制が導入されたかな)。この様に利用者も含めた最適化が始まっている。
○MaaSは地域交通との密接な連携が理想
・モビリティでのシェアリング・サービス/モビリティ・マネージメントには、2つの前提条件が必要である。1つ目は交通手段間の連携で、2つ目は都市政策との連携である。これらの条件を担保するのが「モビリティ・アズ・ア・サービス」(MaaS)である。
・欧州ではMaaSをレベル分けしている。レベル1は「情報の統合」で、交通手段間の連携が可能になる。レベル2は「予約・決済の統合」で、利用者の利便性が高まる。レベル3は「契約の統合」で、定額課金/ポイント付与などで利用者の行動変容を促せる。レベル4は「政策の統合」で、交通政策と都市政策の連携が可能になる。※MaaSについては詳しくないな。これもその内に勉強だな。
・MaaSは「ピークに合わせたインフラ整備」を「地域の交通手段と人の流れを最適化する」に転換させ、フラグメント化する世界でのコミュニティ構築に寄与する。
<コミュニティでは個人と社会が双方向に調和する>
・ICT/エネルギー/モビリティでの変革により、社会は分散化し、調和型の社会になる。そこで重要になるのが、政府・企業・個人に次ぐ第4の経済主体コミュニティである。
○エネルギーとモビリティの近接化
・フラグメント化する世界では、エネルギーとモビリティは一体となる。再生可能エネルギーの進展により、あらゆるモビリティは電動化される。EVは移動手段だが蓄電池であり、エネルギーの最適化にも寄与する。つまり電力の需給調整と交通の移動調整が連携されるようになる。エネルギーとモビリティの調和の実例がある。カリフォルニア大学内を走るEVは電力価格が高い時は放電し、安い時に充電する。この様にフラグメント化する世界ではエネルギーとモビリティが調和するだけでなく、個人の行動も含めて最適化される。※エネルギー状況により移動が誘導されるのは気持ち良くない。
○モノのサプライチェーンの自律分散化
・フラグメント化する世界では、ヒトの移動だけでなく、モノの循環も変える。今日電子商取引(EC)が盛んだが、そこでのモノの受け取り方も変わる。スウェーデンでは、自動車のトランクを宅配ボックスとして配送している。
・近年では「サーキュラー・エコノミー」の概念がある。これはリユース/リサイクルを拡大したもので、永続的な再生・再利用を目指す。例えば車載電池に残存寿命を測れるセンサーを取り付け、一定程度劣化した物は家庭用の蓄電池として利用する。さらに劣化した物はコミュニティの蓄電池として使えるかもしれない。
○個人と公共の医療福祉が緊密に連携する
・高齢化社会になるとヘルスケアが重要になる。しかし日本は人口減少/経済成長鈍化により、画一的な年金制度/医療制度が行き詰まっている。これにより予防医療が重視されるようになった。実際保険会社とウェアラブル端末のスタートアップが提携し、バイタルデータを取得し、それに応じた保険制度を提供しようとしていいる。
・他に英国では、IoTプロジェクトで市民の運動状況を計測し、最適な運動を推奨する健康プログラムの実証を進めている。また米国では、高齢者向けのリタイアメント・コミュニティが形成されている。ここで移動・居住・購買・消費が完結できる(※米国はゲーテッド・タウンが根付いている)。この様に個人の行動と公共の医療福祉が、コミュニティを単位として連携しようとしている。
○スマート・シティを進展させたレスポンシブ・シティ
・フラグメント化する世界のコミュニティは、エネルギー/モビリティ/ヘルスケアなどが連携するだけでなく、街の在り方自体も変容する。その概念に「レスポンシブ・シティ」(反応型都市)がある。これは住民の要求に反応し、動的に変わる都市である(※これは初耳。どんな都市なのか)。スマート・シティはICTを基盤とする都市、コンパクト・シティは社会コストの削減を目的とする都市だが、フラグメント化する世界では自律分散型に社会調和するのが理想である。
・最近は自治体が仮想通貨を発行し、資金を調達する「イニシャル・コイン・オファリング」(ICO)が増えている(※これに関しても詳しくないな)。あるいはクラウドファンディングで資金調達する自治体もある。この様にコミュニティの財源は多様化する。※これらもICTと関係しているな。
○働き方や組織への帰属もフラグメント化する
・日本は終身雇用であったが、近年兼業・副業にも目が向けられている。フラグメント化する世界では、仕事はさらに分離・仮想化される。まずAR(拡張現実)/VR(仮想現実)により、遠隔地でも対面と同等のコミュニケーションが取れるようになり、「仕事と場所の分離」が進む(※リモートワークだな)。またクラウド・ソーシング(※説明が欲しい)により「仕事と所属の分離」も進む。この様に仕事は場所にも所属にも縛られなくなる。これは仕事のフラグメント化である。
・先の話だが、自律分散組織(DAO)/分散型自動化企業(DAC)の概念もある。これは契約をブロックチェーンを用いて自動化する概念である。※これも説明が欲しいな。
・本節で述べた様に、コミュニティは社会調和を担うようになる。重厚長大のインフラ/社会保障/終身雇用は終焉し、「自律分散型の社会インフラ」になる。コミュニティの資産と個人の資産が連携する「公私混合型の価値配分メカニズム」になり、個人とコミュニティが調和する「個人が自律協調する統治メカニズム」でコミュニティは支えられる。
<フラグメント化する世界の実像>
・本章で見てきた様に、ICT/エネルギー/モビリティの在り方が変わり、人の生活の在り方が変わる。ここで着目すべきは、従来は「大きな中央」が社会の調和を行っていたが、それは「分散化したコミュニティ」が行うようになる。継続的に成長する時代は、中央集権的でスケーラブルな管理が有効で、それが政府であり、社会インフラであり、GAFAだった。ところが低成長・人口減少の時代になると、社会インフラの維持コストを考え、その在り方の見直しが必要になる。そこでコミュニティを基盤として、最適化・調和が行われるようになる。
・日本でもその萌芽が見られ、各コミュニティが地域の固有性(環境、人口動態、生活習慣、公共性の捉え方)を考慮した社会インフラを構築している。フラグメント化する世界では、この社会調和するためのコミュニティが分散的に創出される。
第4章 自動車産業における「100年に1度の変化」
・前章まではフラグメント化する世界の概要を見てきた。本章はフラグメント化する世界への移行がどの様に進んでいるかを、自動車産業で見る。第2章でフラグメント化する世界の移行プロセスを以下とした。
ステージ0:経済3主体の均衡(~1980年代)
ステージ1:グローバル資本主義下での企業の肥大化(1980年代~現在)
ステージ2:政府と企業の分権化(2010年代~現在)
ステージ3:ICTなどの革新による個人のエンパワーメント化(2010年代~現在)
ステージ4:政府・企業・個人の新たな関係としてのコミュニティ形成(2020年代~)
<ステージ0:産業の中核としての自動車産業の発展>
・19世紀後半ダイムラーがレシプロエンジン(内燃機関)を発明し、20世紀になるとフォードが量産を始める(※内燃機関はピストン運動のレシプロエンジンと、回転運動のタービンに分けられる)。この発展と表裏一体だったのが石油産業で、オイルメジャーが生まれる。自動車産業は素材から販売・サービスまでバリューチェーンが長く、20世紀の資本主義を牽引した。
・日本は後発だったが、勤勉性/正確性により競争力を高め、1960年代になると輸出産業に転じる。その後オイルショック/日米貿易摩擦/円高などの困難を乗り越え、成長を続けた。
<ステージ1:グローバル資本主義で日本の自動車産業は勝者に>
・1990年代以降、日本の自動車産業はグローバル資本主義により競争力を急激に高める。それまで自動車産業は閉じたローカルな産業だったが、グローバル競争となる。
○2000年以降の急成長とドイツとの決戦
・日本の自動車の販売台数は、2000年以降で急拡大する。この要因は、①BRICs/東南アジアなどの新興国市場の拡大、②プレミアム・ブランド(レクサスなど)/SUVなどの高収益車種の販売が拡大。②はグローバル資本主義による新富裕層の勃興による。
・米国/フランス/イタリアは、GDP/輸出額で自動車産業の比率を下げるが、日本/ドイツは比率を高めた。日本は自動車産業の利益が最大だが、米国はGAFAなどの広告・情報通信サービスが最大である。
<ステージ2:市場のフラグメント化と日系メーカーの包囲網>
・ステージ2は「政府と企業の同時並行的な分権化」だが、各国の政策的方向性の違いに対応する必要が生じた。自動車産業もグローバル化し、各国の競争力が鮮明になった。新興国は中国/インドのように内製化する国、ノックダウン生産に留まる国などに分かれた。
○自動車産業が対応しなければならない政策的視点
・各国が自国に最も有利な政策を取るようになった。そのため自動車メーカーは進出した国の市場ニーズを考慮するだけでなく、その国の政策も考慮する必要が生じた。具体的には「自動車産業政策」「エネルギー政策」「環境政策」「交通政策」である。
○各国で異なる産業政策の重要性
・産業政策には民間企業の競争力を高めるための「貿易環境の整備」「設備投資・研究開発に対する支援」などがある。前者にTPPなどの「自由貿易協定」(FTP)締結があり、後者に電池工場への設備投資助成などがある。
・そもそも自動車産業をどの程度育成・保護するかが国毎に異なる。それは「自動車産業の重要度」(GDPに占める割合)と「自動車産業の国際的競争力」(生産台数のシェア)で分かる(※グラフあり)。共に高い日本/ドイツは、「負けられない戦い」である。一方「国際的競争力」(シェア)は高いが「需要度」(GDPでの割合)が低い米国/中国/インドなどの国は、自動車産業=内需産業となっており、自動車産業よりIT産業を重視している。これらの国は自動運転/シェアリング・サービス/電動化など、IT産業が自動車産業を主導する方向にある(※この分析は面白い)。他の「国際的競争力」「需要度」が共に低い国は自動車産業を重視しておらず、環境保護(内燃機関の販売禁止)などを重視している。
○パワートレーンの電動化に影響を与えるエネルギー政策
・パワートレーン(※動力系、駆動装置)の電動化に大きな影響を与えるのがエネルギー政策である。内燃機関は大量の石油・天然ガスを必要とし、その国の石油消費の大半を占める。石油の輸入額が大きいのは中国/米国/インド/日本で、貿易赤字の主因が石油なのはインド/フランス/日本である。これらの国はパワートレーンの電動化に積極的である。
・米国はシェールオイルによるエネルギー自給化により、環境政策が逆流している。またブラジルなどではバイオ燃料で走るバイオエタノール車が普及している。
○ユーザー視点から環境政策/交通政策の重要性が増している
・環境政策におけるマクロの観点に、「国連気候変動枠組条約締結国会議」(COP)によるCO₂排出量の削減がある。ミクロの観点では大気汚染の解消のための排ガス規制や都市への乗入規制などがある。これらに共通するのは、自動車メーカー側でなく、ユーザー側の利益を重視している(※ユーザーと云うより、人間や自然かな)。そのため自動車メーカーが信頼を損ねると、この議論が過熱する。※フォルクスワーゲンの例が紹介されている。
・交通政策もユーザー視点からの政策である。この課題は多岐に亘る。日本では高齢化による交通弱者対策、運輸・物流業界におけるドライバー不足などがある。新興国では都市部での交通事故対策、交通渋滞の解消などがある。これらへの対策も、公私のバランス、新技術・サービスの導入などで多様になっている。
・本節で述べた様に、各国で様々な政策が取られており、自動車メーカーは各国個別の対応が必要になる。つまりフラグメント化する世界への対応が必要になる。※本節は「政府と企業の分権化」だったけど、「企業の政策への対応」だったような。
<ステージ3:社会インフラにおける技術革新としてのCASE>
・自動車産業では「100年に1度の変化」と云われる技術革新「CASE」(コネクティッド化、自動運転化、シェアリング化、電動化)が進んでいる。これがフラグメント化する世界への移行を推進している。
○インパクトが最も大きいのは電動化
・社会・産業に最も影響が大きいのが電動化(E)である。エネルギー源が1次エネルギーの化石燃料から2次エネルギーの電力に変わる事で、エネルギーの安定供給が担保される(※これは重要だな)。これは20世紀の資本主義を牽引した自動車産業/石油産業の大転換になる。マクロ的に見れば、石油輸出入による地政学や社会・産業構造を変える。ミクロ的に見れば、家庭/コミュニティで発電した電力だけで自動車を走らせられるようになる。これはフラグメント化する世界の象徴である。この変化は国毎に異なるため、自動車メーカーは個別の対応が必要になる。
○シェアリング化で自動車は社会インフラ化する
・電動化(E)に次いで社会・産業に影響が大きいのが、シェアリング化(S)である。自動車のシェアリングは「所有から使用へ」がコンセプトのため、自動車需要の減少と考えられる。しかしカー・シェアリング/ライド・シェアリングは人口密度の高い都市でしか成立しない(※一気に広まるかも)。あるいはユーザーは自家用車とシェアリング・サービスを併用するかもしれない。よって「所有と使用の併存」で進むだろう。
・そのため自動車は個人の移動手段や成功の象徴だったものが、社会インフラの一部になる。そしてこれは各地域毎の対応になる。すなわちフラグメント化する世界のコミュニティ毎の対応になる。そのため自動車メーカーはグローバル資本主義のスケーラブルな対応とは異なる対応を迫られる。※そんなに大きな対応が必要かな。個人使用を目的とした車種だけでなく、共用を目的とした車種の生産が必要になるかな。
○自動運転化/コネクティッド化は変化の支えになる
・電動化(E)/シェアリング化(S)はフラグメント化する世界への移行の直接的要因になる。一方、自動運転化(A)/コネクティッド化(C)はそれを支える技術となる。自動運転化はシェアリング・サービスでドライバーのコストをゼロにできる。一方のコネクティッド化はICT技術そのもので、CASEの基盤になる。※タクシーを呼べば、無人タクシーが来るようになるかな。
・「100年に1度の変化」と云われる技術革新CASEは、フラグメント化する世界への移行を具現化する。
<ステージ4:コミュニティにおけるEV/シェアリング・サービスの普及>
・フラグメント化する世界への移行の最終プロセスは、「政府・企業・個人の新たな関係としてのコミュニティ形成」である。CASEにより自動車は、フラグメント化する世界におけるコミュニティを支える社会インフラになる。コミュニティにおける自動車の利用パターンを考えると、逆に電動化/シェアリング化のボトルネックが解消される関係にある。※自動車の利用によりボトルネックが解消される?難解。説明が欲しい。
○EVはコミュニティでの利用に適する
・自動車のEV化(電動化)には、2つの課題がある。①EV化は製造過程/発電過程を含めると、必ずしも環境負荷は小さくない。②航続距離が短いため利便性が低い。①は電力がコミュニティ内の再生可能エネルギーで賄えるようになれば、環境負荷は低減される(※これは発電だけだな)。②は人の生活がコミュニティ内で完結するようになれば、問題にならない(※これにはコンパクト・シティ化が必要だな)。コミュニティ内の再生可能エネルギーを使用する事で、エネルギー・コストはゼロになる。これによりEV化が促進される。
○コミュニティ内の交通インフラとしてのシェアリング・サービス
・次にコミュニティとシェアリング化の関係を見る。カー・シェアリング/ライド・シェアリングなどのシェアリング・サービスは公共交通サービスとして捉える方が分かり易い。輸送能力が高いのは鉄道だが、初期投資/インフラ維持のコストが膨大になる。一方タクシー/バス/レンタカーなどの自動車による交通サービスはコストが低い。しかし人口密度が低い地方都市では、タクシー/バスでも採算が合わず、ライド・シェアリングが有効である。日本は高齢化が進むため、ライド・シェアリングが有効である。
○新興国で独自に進化するライド・シェアリング
・新興国でライド・シェアリングが独自に進化している。これらの国では電子商取引(EC)が爆発的に普及したが、宅配システムは整備されておらず、旅客・物流の両面からライド・シェアリングの需要がある。また大都市は交通渋滞が酷いので、4輪車より2輪車の方が需要がある。
・この様にライド・シェアリングは各地域で独自の進化する可能性が高い。従ってコミュニティ単位のビジネスになる。ただし大きな利益が望まれないため、第2章で述べたコミュニティの成立要件「公私混合型の価値配分メカニズム」「個人が自律協調する統治メカニズム」の設計が必要になる。※両者はビジネスにならないための対応だったかな。
<トヨタの危機感は「もうからなくなる」>
・以上の分析から、自動車メーカーは各国の政策方針が制約条件になり、標準化は難しくなる(※標準化の説明はない)。またCASEによる電動化やシェアリング・サービスの普及が、収益を改善させる可能性は低い(※逆に悪化させる要因かな)。日本の自動車メーカーの収益は、SUVなどの高収益の自動車に頼っている(※大衆車では利益はでないらしい)。そのためトヨタは「この変化に対応したとしても、今の高収益構造は維持できない」との危機感を持っている。しかしフラグメント化する世界への移行に上手く対応し、コミュニティ形成に不可欠な立場になれば、収益を維持できるだろう。これは自動車産業に限らない話である。
第5章 フラグメント化する世界における企業経営
・前章ではフラグメント化する世界の影響を自動車業界で述べた。本章ではこの新たな世界で経営効率を維持し、勝ち抜くための経営アプローチを述べる(※以下で使用する「新たな世界」は、「フラグメント化する世界」と同義)。弊社ADLはフレームワークとして「V-SPRO」を提唱している。これはビジョン(V)、戦略(S)、プロセス(P)、リソース(R)、組織(O)を指す。これらに対し6つのアプローチが重要になる。いずれも「自律分散的な企業体」へ移行するためのものである。
①ビジョン-脱コミットメント経営:「稼ぐ力」から「存在意義」を重視する経営へ。
②戦略-脱選択と集中:「あれかこれか」から「あれもこれも」の複眼的経営へ。
③戦略-脱横並び経営:「市場性」から「差異化可能性」で事業性を判断へ。
④プロセス-脱標準化:「デファクトスタンダード」から「カスタムソリューション」へ。
⑤リソース-脱大艦巨砲主義:「狩猟型」から「農耕型」の事業開発アプローチへ。
⑥組織-脱中央集権型組織:「陸軍モデル」から「海兵隊モデル」へ。
<①脱コミットメント経営:「稼ぐ力」から「存在意義」を重視する経営へ> ※これはビジョンについてだな。
・2018年3月期のソニーの決算発表は注目を集めた。それは営業目標を示さず、「人に近づく」をコンセプトとし、その上で利益の質を高めると宣言したからだ。新社長・吉田氏は最高財務責任者(CFO)としてソニーをV字回復させた人物である。そのためより高い利益目標を期待していた市場は失望した。
○コミットメント経営の限界
・日産自動車/伊藤忠商事/アステラス製薬もコミットメント経営の旗を降ろした。これには幾つか要因がある。1つ目は、リーマンショックから10年経ち、企業業績が高原状態にあるからだ。グローバル資本主義が転換点にあり、細分化する市場環境・ニーズへの対応が必要で、右肩上がりの成長は難しくなった。マクロ的にも金融緩和による金余りで、資本に対する期待収益は下がってきた。
○定量目標ありきの経営計画は組織文化を壊す
・2つ目は、高い数値目標がデメリットになるようになった。短期利益の追求により中長期の投資を怠ったり、最悪の場合は品質/会計で不正を招くようになった(※最近大手電機などの不正がが発覚している)。そのため中長期の方向性を示すのが経営者の使命になった。
・3つ目は、世代による価値観の違いである。日本の「ゆとり世代」(1980年代後半~2000年代初頭)、欧米の「ミレニアル世代」、中国の「80後」(バーリンホウ)/「90後」(ジョウリンホウ)は、恵まれた経済環境/ICTインフラ環境/教育環境で育ち、社会で存在感を増しつつある。彼らは仕事では金銭的な報酬より「やりがい」や社会的意義、さらにプライベートを重視する。彼らに「お金を積むから、長時間労働しろ」は通用しなくなった。
・これらから定量的な目標は組織文化や社員を壊す事になった。今や経営資源の中でお金の価値が最も下がったのだ。
○ESC/SDGsが求める「社会の公器としての企業」
・そして株主至上主義のグローバル資本主義に対するアンチテーゼとして、ESG投資(環境、社会、ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)が生まれた。これは「量の競争」から「質の競争」への変化である。政府・企業・個人の関係性や利益配分メカニズムが重視されるフラグメント化する世界では、企業単体ではなく全体最適が大前提となり、そうでない企業は淘汰される。
・ここで2つのポイントを特筆する。1つ目は、この「企業は社会の公器」の発想は、日本では当たり前の発想である。日本では「企業による雇用」と「国家による社会保障」の二重のセーフティーネットがあり、これにより社会の安定と企業の長期的な繁栄がもたらされた。※大半の国がそうでは。
・例えばパナソニックは全都道府県に工場を設置しようとした。残念ながらこれは難しくなったが、自動車メーカーは今でも地元の産業振興に貢献している(※地元とは工場所在地かな。どこでもそうなのでは)。フラグメント化する世界では、企業の土着性や地域コミュニティとの共生が見直される。大トヨタ連合の各社は地元に密着し、それがアイデンティティ(強み)になっている。この共生意識はドイツ/イタリア/東南アジア/中国南部でも見られ、普遍的な価値になっている。※地元密着の具体例が欲しい。
○日本的ESC/SDGsに足りないのはリスクヘッジ
・日本企業は「企業は社会の公器」をコンセプトにしてきたため、ESC/SDGsは既に満たしている。ところが投資家は「良い子」に投資したいのではなく、「リスクが低い企業」に投資したいと考えている。そのため企業は、「ESC/SDGsは長期的リスクヘッジの手法」と捉えるべきだ。例えば、フェイスブックは8700万人の個人情報を流出させ、ESG不適格の烙印を押された。※詳しく説明するには、ESC/SDGsの詳述が必要になる。前章までは冗長的に感じたが、本章からは説明不足に感じる。
・世界の投資の1/4がESG投資に向けられている。日本企業の方向性はESC/SDGsと合致しているが、リスクヘッジしている事を、もっとアピールすべきだ。
<②脱選択と集中:「あれかこれか」から「あれもこれも」の複眼的経営へ> ※これは戦略についてだな。
・グローバル資本主義時代におけるポートフォリオ経営のお手本とされたジェネラル・エレクトリック(GE)が苦境にある。2017年に就任した新CEOは、石油・ガス事業/ヘルスケア事業/照明事業を分社・売却し、電力・再生可能エネルギー事業/航空事業に専念する。これらはスケーラビリティが追求できる事業で、グローバル資本主義に従っている。そのためこれは「GEの終わりの始まり」になるだろう。
○フラグメント化する世界では、ポートフォリオ経営の意味が変わる
・GEの苦境の原因は2つある。1つ目は、「モノ作り」から金融事業/デジタル事業などの「コト作り」への転換を、自前で進めた事にある。これによりバランスシートで深い傷を負った(※自前とは具体的にどんな方法で、それによりどう悪化したのか。これも説明が欲しい)。2つ目は、リーマンショック以降、金融事業の規制が強化され、その影響でGEの主力事業である火力発電の環境が変化したが、それに上手く対応できなかった。
・ポートフォリオ経営は儲かる領域への傾斜配分と、環境変化によるリスクの分散が目的である。グローバル資本主義下では世界共通の原理で動いていたが、フラグメント化する世界では明確な原理はなくなった。そのため「選択と集中」はリスクを高める禁じ手となる。フラグメント化する世界では、経営資源を集中させる「攻めのポートフォリオ経営」より、「守りのポートフォリオ経営」が中心になる。※不確実性が高まったからな。
○見直されるコングロマリット型企業
・日本には「一所懸命」の言葉があるように、1つの事業に専念するのが得意である。その典型が自動車や、日本で独自の進化をしたラーメンだろう。そのため日本では「守りのポートフォリオ経営」を実践し、「投下資本利益率」(ROIC)を不適格判断の指標とした。そのため売上が数千億円~数兆円の企業でも、コングロマリット型企業が多い。世界的に見ても、日本は売上が5千億円~1兆円/1兆円~5兆円の企業が多い。※コングロマリットとは多業種のグループ会社かな。
・フラグメント化する世界では、ポートフォリオ経営も変化する。「コングロマリット・ディスカウント」である。「攻めのポートフォリオ経営をしても相乗効果はなく、資金が不足し、専業メーカーに負けてしまう」と考えられていた。しかしフラグメント化する世界では、「守りのポートフォリオ経営はリスクヘッジが可能で、長期的・安定的なリターンが見込める」となった。
○フラグメント化する世界での理想的な事業ポートフォリオ
・事業ポートフォリオは5つに類型化される。「専業型」「一強多弱型」「連邦型」「連邦クラスター型」「クラスター型」である。フラグメント化する世界では、どの類型が理想なのか。
-専業型-
・この類型は日本が得意だが、経営リスクがある。自動車/工作機械/半導体/通信/Webサービス/製薬でこの企業が多いが、一本足打法ではリスクが高い。この類型は業界再編のM&Aやアライアンスに向かい易いが、この点は日本は苦手である。従って日本で成功しているのは、製品アーキテクチャが複雑かマネージメントが複雑なメカトロニクス産業(自動車、工作機械)に限られる。
-一強多弱型-
・専業型以外がコングロマリット型企業になる。この類型は、専業型が多角化した場合か、連邦型の1つの事業が大きく成長した場合である。この類型には建機・農機や複合機などのメーカーがある。「一強」を強みにし、「多弱」による多様性を持っているため、「守りのポートフォリオ経営」が可能になっている。※ところで「攻め」と「守り」の違いの説明がない。
-連邦型-
・この類型は持株会社の形態を取っており、金融/小売りに存在する(※グループ・ホールディングスだな)。この類型の利点は、コーポレート部門とカンパニー部門が分かれている点である。スケーラブルな事業の存在がこの類型の成立要件になるが、そのような事業は出現しそうにない。※成立要件が満たされていないのに存在する?
-連邦クラスター型-
・この類型は連邦型とクラスター型の「良いとこ取り」である(※連邦型とクラスター型の違いが不明。連邦型とは多業種のグループ会社、クラスター型とは単一業種・多事業の総合系企業かな)。電子部品/機能性材料/製造装置などで見られ、グローバル・ニッチトップとして成功している。この類型の利点は、事業ドメイン毎に事業プラットフォームを定義でき、個別事業としての効率化と事業ドメインでの成長の二兎を追える。新規事業の開発も可能で、環境変化への耐性も待ち合わせる。
-クラスター型-
・この類型は「総合系企業」と呼ばれる企業で、総合電機メーカー/総合化学メーカー/総合重工メーカー/総合商社などがある。これらは「守りのポートフォリオ経営」に徹底してきた企業で、事業間のシナジー効果が重要となる。
○日本は一強多弱型/連邦クラスター型が多い
・フラグメント化する世界では、一強多弱型/連邦クラスター型が有利である。日本で売上が5千億円以上の技術系企業を分類すると、一強多弱型(37%)/専業型(27%)/連邦クラスター型(22%)/クラスター型(9%)/連邦型(6%)となっている。今でも一強多弱型/連邦クラスター型が収益性・安定性で優位にある。
○日本企業の「選択と集中」は周回遅れか
・日本は総合系企業が多く(※クラスター型は9%しかないけど)、事業の整理が進まず、縮小均衡に向かっていると批判される。しかし適度の「選択と集中」で、一強多弱型/連邦クラスター型に進化してきた。そのためこの「守りのポートフォリオ経営」に徹底してきた企業は、フラグメント化する世界で有利になる。
<③脱横並び経営:「市場性」から「差異化可能性」で事業性を判断へ> ※これも戦略についてだな。
・低成長に入った1990年代頃から、成長が望めそうな市場に一斉に参入し、過当競争するようになった。この過当競争により一敗地に塗れたエレクトロニクス業界では事業再編が進み、自社が優位な領域を強化する方向に変わった(※選択と集中は相当進んだと思う)。2018年日立製作所はテレビ事業から撤退し、店ではソニーのテレビを売り始めた。これらの棲み分けで、エレクトロニクス業界は復活しつつある。
○過当競争を招いた市場最優先主義
・各事業の事業性を判断する視点は、「市場性」と自社としての「差異化可能性」である。1つ目の視点は全社で共通である。そのため経営資源が多く、グローバル資本主義的な経営力が高い企業が有利になる。この市場性の最優先は日本だけでなく、成長が鈍化した中国でも問題になるだろう。
○差異化が一番大事
・2つ目の視点「差異化」は、「自社との親和性」と「相対的な優位性」の掛け算になる。前者の「自社との親和性」は、自社のビジョン/経営方向性や、自社が培ってきたイノベーション・プラットフォーム/技術プラットフォームとの整合性である(※先ほどは事業プラットフォームが出てきたが、それかな)。例として日立製作所は、経営方向性「社会イノベーション型ソリューション事業に寄与する」をコア事業の判断に用いた。
・後者の「相対的な優位性」は、コストなどの製品・サービスの競争力(表の競争力)や、特許・知財などの技術的優位性(裏の競争力)である。これらから自社の優位性を判断する。※これらの競争力も「自社との親和性」に含められそう。前者が経営方針との親和性で、後者が実質的な事業性かな。
○「強みを活かす」ではなく「弱みを逆手に取る」
・これに関しては楠木建の「戦略ストーリー」が参考になる。この中核が「クリティカル・コア」で、一見すると非合理に見えるが、全体で見ると合理的になっている。これは「自社の強みを尖らせる」のではなく、「自社の弱みを逆手に取り、裏をかく」戦略である(※これだけでは全く分からない)。真面目な日本企業は「強みを活かす」事を考えるが、ニッチトップの企業は、これを意識している事が多い(※ロングテール/ニッチなどかな。そうであれば1つ目の視点「市場性」だけど)。この様に事業性の判断には「市場性」以上に「差異化」が重要である。
○デジタリゼーションやオープン・イノベーションは差異化に繋がるか
・「デジタリゼーション」「オープン・イノベーション」などの経営手法で差異化できるのだろうか。デジタリゼーションはデジタル技術の活用で、他社に先駆けると一定の優位が保てる。しかしどの企業も同様の取り組みをするので、差異化の源泉にならない。※デジタイゼーションは単なるデジタル化で、デジタライゼーションはデジタル技術の活用かな。なのでデジタリゼーションは後者かな。
・オープン・イノベーションは自社が不足する技術/経営資源を他社から取り入れる経営手法だが、これは当たり前の手法になっている。結局はこれらを用い、差異化できる製品・サービスを提供できるかにある。近年多くの企業がイノベーションのための組織やコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を立ち上げているが、結局はシナリオが重要である。
<④脱標準化:「デファクトスタンダード」から「カスタムソリューション」へ> ※これはプロセスについてだな。
・フラグメント化する世界へ移行すると、自動車産業では部品産業が重要となる(※電動化などで影響が大きいな)。グローバル資本主義では「デファクトスタンダード」が勝ちパターンだったが、これに関し日独で対極的な動きになっている。
○これまではデファクトスタンダードが勝ちパターン
・自動車部品産業の頂点にボッシュがいる。当社の強みは非上場である点で、これにより中長期的な事業・技術開発に取り組める(※短期利益を追求しなくて良い)。他にも産官学連携のエコシステムがあり、技術開発/部品供給を水平分業している。※これだけでは良く分からない。
・その中でも特筆すべきが「デファクトスタンダード戦略」で、自社が開発した技術を顧客と共有・啓蒙し、デファクトスタンダードにした。例えば「コモンレール」はディーゼルエンジンの燃料噴射装置として、欧州の大半のメーカーが搭載している(※トヨタも燃料電池車の特許を公開したが、どうなったか)。他にも安全性能評価の業界標準を作り、ドイツの自動車メーカー、さらに世界へと展開していった。※大体ルールは欧州で作られる事が多い。
・一方このデファクトスタンダード戦略にも陰りが見られる。リーマンショック後、当社は100の商品カテゴリーで標準化を試みたが、実現したのはワイパーだけだった。
○フラグメント化する世界ではカスタムソリューションが見直される
・ボッシュのデファクトスタンダード戦略は、自社の利益を最大化するグローバル資本主義時代のマネジメント手法である。そしてこの根底は単純化・標準化であり、「シンプル・イズ・ベスト」である。そのためカスタマイズを避け、自社のアプローチを世界標準とし、「規模の経済」を活かして市場を寡占化する戦略である。
・しかしフラグメント化する世界で自動車メーカーは顧客に対する価値を高めるため、部品メーカーにカスタマイズを強く要求するようになる。グローバル資本主義では小規模なものは捨てられていたが、フラグメント化する世界では、この「面倒くさい事を良い加減でする」事が重要になる。※ニッチとかロングテールだな。
○「面倒くさい事をちゃんとやる」が日本企業の生きる道
・ボッシュの戦略に対し、日本の自動車メーカーは「面倒くさい事をちゃんとやる」で成長してきた。愛知県刈谷市にはデンソー/アイシン精機/ジェイテクト/豊田自動織機などのサプライヤーがある。もしデンソーがマツダのリクエストに応じていなかったら、「スカイアクティブ」は生まれなかった。
・これらのトヨタ系サプライヤーには「地力を付ける」「実力を付ける」の言葉がある。これらは「顧客の難しい要求に応え、かつ品質・コスト・納期を満たす」を意味する。これこそ「面倒くさい事をちゃんとやる」である。※カスタマイズだな。
○複雑性マネジメントの「擦り合わせプロセスのデジタル化」
・この日本企業の勝ちパターン「面倒くさい事をちゃんとやる」は、日本人の勤勉性(ガンバリズム)により支えられた。しかしこれが長時間労働で成されていれば持続可能でない。そこで重要になるのが「擦り合わせプロセスのデジタル化」である。具体的には自動車産業では「モデルベース開発」(MBD)、機能性材料であれば「マテリアルズ・インフォマティクス」である(※製薬でもあったような)。これは日本が得意としていた「擦り合わせ型開発」を、海外勢が先行してデジタル化したものだ。
・この「擦り合わせプロセスのデジタル化」をどう活用するかが、各社の戦略になる。「グローバルスタンダード戦略」(※デファクトスタンダードでない?)のドイツ勢などはコスト削減のために活用するが、日本企業は「面倒くさい事をちゃんとやる」ために活用する。これは日本の方が正しい活用である。※「擦り合わせプロセスのデジタル化」が良く分からなかったので、この結論も分からない。
<⑤脱大艦巨砲主義:「狩猟型」から「農耕型」の事業開発アプローチへ> ※これはリソースについてだな。
・この30年間、中長期的な成長トレンドにある半導体産業の動きも参考になる。パソコン/携帯電話/スマートフォンなどの民生機器に牽引されてきたが、さらに車載用途やデータセンター向けの需要が加わった。
○フラグメント化が進む成長市場
・フラグメント化する世界でも、半導体市場/自動車部品市場などの成長市場は存在する。ただし中身は単一製品ではなく、細分化されたニッチ市場の集合になる。これは今後拡大するロボット市場も同様である。
○キラーアプリ主導の事業開発アプローチで成功した産業財メーカー
・これまではパソコン/スマートフォン/液晶テレビなどの「キラーアプリ」を開発すれば成長できた(※ハードなのにアプリと云うんだ)。バリューチェーンの中に勝ち馬となるセット・メーカー/デバイス・メーカーを捉え、勝ち馬であるユーザー企業(※トヨタなどかな)の厳しい要求に応え続ければ、「一所懸命」の日本企業は成功できた。※バリューチェーンの中に勝ち馬が沢山いるかな。
○狩猟型から農耕型への再転換
・しかしキラーアプリはスマートフォン/自動車を最後に出てこない。すなわちキラーアプリ/リードユーザーを見付けるのが鍵であった「狩猟型」から、幅広い領域に種をまき、ニッチなアプリケーションを地道に育てて事業化する「農耕型」に転換する必要がある。
○苗床としてのイノベーション・プラットフォーム/テクノロジー・プラットフォーム
・農耕型の事業開発アプローチには、「イノベーション・プラットフォーム」「テクノロジー・プラットフォーム」の定義が有用である(※定義だけで有用になる?)。イノベーション・プラットフォームは価値層/資源層/能力層からなり、これらが起点になり、具現層(アウトプット)を生む。ここで重要なのが、能力層/資源層の技術要素を統合したテクノロジー・プラットフォームである。※「イノベーション・プラットフォーム=価値層+テクノロジー・プラットフォーム(能力層、資源層)」みたいだな。
・成功事例/失敗事例を踏まえ、これらのプラットフォームを定義する事が重要である。これらは暗黙的に共有されている場合が多いが、可視化する事で事業機会を捉える事ができる。※「暗黙知を形式知にする」かな。
<⑥脱中央集権型組織:「陸軍モデル」から「海兵隊モデル」へ> ※これは組織についてだな。
・米軍で最強の部隊が「海兵隊」である。ここでの厳しい訓練も知られているが、組織論の教材にもなっている。この組織は中央集権型の命令系統になっておらず、各隊員が自律的に行動する。この様な組織運営は、複雑性・不確実性が高まるフラグメント化する世界に有効である。またこの組織運営は従来から日本に存在した。
○「うちはガバナンスが効かない会社」
・日本企業のミドル・マネジメントの方は、「うちはガバナンスが効かない会社」とよく発言する。これは自社の「現場力」や「個人の強さ」への自信・畏怖である。逆に言えば、トップダウンによる組織改革で、この様な発言がなくなると、経営陣は危機感を持つべきである。※最近生産性に関する本を読んだが、イノベーションを起こすには、全員が常にその意識を持って行動する事が重要としていた。それに近いかな。
○人に依存しない組織はAIに代替される
・グローバル資本主義のMBAは、組織/業務プロセスから属人性を排するのを理想としている。しかし属人性が排されると、企業間の差異化が難しくなる。こうなると規模の大きな企業が勝ち、勝者総取りになる。
・また属人性が排された組織/業務プロセスは、「ロボティクス・プロセス・オートメーション」(RPA)や人工知能(AI)に置き換わる。当初はその効果が出るが、最終的には差異化が難しくなる。
○「属人性が高い組織」が差異化の源泉
・フラグメント化する世界に対応するためには、組織の属人性が必要になり、これが差異化の源泉になる。そのため「ガバナンスが効かない組織」を残してきた日本企業は有利になる。また属人性が重要になる以上、人材の成長・進化も重要になる。
<日本企業で変革が必要なポイント>
・フラグメント化する世界で6つの重要となる視点を紹介した。どの視点が重要になるかは、企業によって異なる。「②脱選択と集中」で述べたが、日本は売上が数千億円~数兆円の複数事業で構成された大手技術系企業が多い。これらの企業はポートフォリオ経営の見直しが重要になる。日本は「選択と集中」が遅れたが、これは逆にフラグメント化する世界では差異化で有利になる。※日本は解雇規制が厳しいので、過度の「選択と集中」は困難。これが「選択と集中」を遅らせたかな。
・日本は「一強多弱型」「連邦クラスター型」が多く、これらはフラグメント化する世界と親和性が高く、複眼的なポートフォリオ経営が実現し易い。そうなれば「①脱コミットメント経営」の企業の存在意義も見えてくる(※最近パーパスをよく聞くが、これかな)。また「⑥脱中央集権型組織」で述べた日本の自律分散的な組織は強みとして意識されるべきだ。
第6章 フラグメント化する世界で勝ち残る企業・産業
・前章は経営のポイントを、①脱コミットメント経営/②脱選択と集中/③脱横並び経営/④脱標準化/⑤脱大艦巨砲主義/⑥脱中央集権型組織とした。本章では実際にどのような企業が勝ち残るかを述べる。総合電機メーカー/電子部品・機能材料業界/産業用車両・複写機業界/DAIT(デンソー、アイシン精機、ジェイテクト、豊田自動織機)/パーソナル・モビリティ・メーカー/総合重工メーカー/エンジニアリング会社/システム・インテグレーター/商社について述べる。
<総合電機メーカーの復活>
・日本のエレクトロニクス業界、特に総合電機メーカーは20年間どん底にあったが、ここにきて復活している。
○パナソニックは電池を核にパーソナル・インフラ企業に
・特に適応力・対応力を高めたのがパナソニックである。当社は携帯電話/デジタル家電/キラーデバイスで大敗した。2012年社長に就任した津賀氏は構造改革と車載事業への種まきを始め、「BtoBへのシフト」をスローガンにする。デバイスなどの半製品は安定した収益をもたらしている。一方で白物家電(冷蔵庫、洗濯機)の領域(BtoC)も持ち続けた。この両立は、フラグメント化する世界で優位になる。また社会インフラのキーデバイスである蓄電池はグローバルな競争力を持っている。
・前章でマネジメントの6つのポイントを述べたが、これに対しても適切な対応をしている。②脱選択と集中では、赤字事業の切り離しは、システムLSI事業/ヘルスケア事業に留めた。4つのカンパニー制になったが、連邦クラスター型の企業に近づいた(今は7社みたい)。各カンパニーに、白物家電/ソリューション事業/車載事業(蓄電池)などの一強候補事業も見えてきた。
・①脱コミットメント経営では、2桁のROEを掲げず、事業間のシナジーによる「クロス・バリュー・イノベーション」を掲げている。③脱横並び経営では、デジタル家電/半導体事業で余剰となった組み込みソフトウェアのエンジニアを車載事業に配属し、徹底的なカスタマイズにより差異化を図っている。これは「弱みを逆手に取る」である。
・コネクティッド・ソリューションズ社は、ハードウェアとソフトウェアを統合したカスタム・ソリューションを提供している。これは④脱標準化である。また「BtoBへのシフト」を選択した事は、「あれもこれも」の⑤脱大艦巨砲主義である(※「あれもこれも」は②脱選択と集中だったが)。また⑥脱中央集権型組織では、創業者の威光は強いが、各事業で将来的なネタが仕込まれる風土になった。
・当社の課題は、①脱コミットメント経営の中長期的な方向性をどう定めるかである。しかし当社には「社会の公器」「水道哲学」の思想があり、これはフラグメント化する世界との親和性が高い。当社はパーソナル・インフラでキーとなる蓄電池などを提供しており、パーソナル・インフラを提供できる最も近い位置にある。
※1社だけで、こんなにある。「①脱コミットメント経営」は存在意義、「②脱選択と集中」はポートフォリオ経営、「③脱横並び経営」は差異化、「④脱標準化」はカスタマイズ、「⑤脱大艦巨砲主義」は農耕型、「⑥脱中央集権型組織」はボトムアップだったな。
○「人に近づく」ソニー
・2018年3月期ソニーは過去最高益を実現し、フラグメント化する世界への対応を着実に進めている。吉田社長は中期経営計画で利益目標を掲示せず、「人に近づく」とした(①脱コミットメント経営)。②脱選択と集中では、世界トップのイメージセンサー事業/キャッシュカウ(金のなる木)のテレビ・オーディオ事業を残しつつ、デジタル・サービス事業(ゲーム事業、金融事業、映画事業)に重心を移している。
・当社が特に意識しているのが、GAFAに対する差異化である(③脱横並び経営)。GAFAが寡占したプラットフォームではなく、そこで流通するコンテンツ(映画、音楽、キャラクター)を保有する方向を打ち出した。しかしこのコンテンツ事業はユーザーの嗜好性によるためスケールし難く、成功するには一つ一つ丁寧にコンテンツを作るしかない。1989年コロンビア・ピクチャーズを買収し、コンテンツ事業を続けてきた点は、強みになっている。
・当社は「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」が設立趣意書で、「ガバナンスが効かない会社」の代表である(⑥脱中央集権型組織)。当社はキーハード(ウォークマン、AIBO)とコンテンツを結び付け、ビジネスに磨きを掛けるだろう。※当社にはゲーム機もあったのでは。
○東芝と日立の運命を分けたもの
・パナソニック/ソニーの弱電に対し、重電の日立/東芝は明暗が分かれた。2000年代東芝は半導体/原子力に集中し、アナリストに大受けする。しかしリーマンショック後、経営環境が激変し、東日本大震災の福島原発事故で逆回転が始まる。当社は高い経営目標を下げなかったため、不正会計問題を起こす。バランスシートを立て直すため、ヘルスケア事業/家電事業/パソコン事業/メモリー事業を売却する。結果残ったのは、特徴のないインフラ・ソリューション事業だけとなった。
・一方日立は2009年度3月期で過去最大の赤字を計上する。当社は①脱コミットメント経営となる「社会イノベーション事業」を掲げる。その上で、「近づける事業」と「遠ざける事業」により②脱選択と集中を行い、景気変動の影響を強く受けるデバイス事業(半導体、液晶ディスプレイ)を分離する。これにより金メダル(グローバルトップ)は多くないが、銀メダル・銅メダル(業界2位、フォロワー事業)を多く持つ連邦クラスター型の企業に転換した。
・また「顧客協創」を掲げ、社内外の製品/サービスを組み合わせるカスタム・ソリューションの提供を始めた(④脱標準化)。また当社は「うちはガバナンスが効かない会社」を重電で一番耳にする会社で、各事業体の力が強い(⑥脱中央集権型組織)。
○グローバル化優等生日立の悩み
・これは⑤脱大艦巨砲主義に関係するが、「顧客協創」の顧客はエネルギー・インフラでは大手電力会社、モビリティ・インフラでは鉄道会社である。ところがフラグメント化する世界ではこれが替わるため、社会イノベーションを起こす事ができない。
・もう1つの悩みは、「グローバル企業として、利益率2割」を経営目標にしている。ところがフラグメント化する世界では資本効率/利益率の見方も変わるため、自らがポスト・グローバル資本主義を創出する事が求められる(※難解)。この意味で当社は差異化する視点(③脱横並び経営)が弱い。
○中電領域の三菱電機/富士電機
・弱電と重電の中間を中電とすると、そこにはパワー・エレクトロニクス技術の三菱電機/富士電機がある。いずれも有望な連邦クラスター型である。三菱電機はパワー・エレクトロニクス技術/メカトロニクス技術への「穏やかな集中」により、ファクトリー・オートメーション(FA)システム/ビルシステム/パワー半導体のニッチトップになった。
・富士電機の規模は一回り小さいが、パワー・エレクトロニクス技術をコアとする連邦クラスター型企業となった。カスタム・ソリューション事業が中核で、④脱標準化/⑤脱大艦巨砲主義が実践されている。当社は投資余力が少ない点を逆手に、パワー半導体の増産を顧客との共同投資で進めている(③脱横並び経営)。また遮断機の技術を応用したEV向けキーデバイスを開発した(⑤脱大艦巨砲主義)。
・三菱電機/富士電機共、分散型社会インフラのキーデバイス/ソリューションを提供しており、フラグメント化する世界において有利なポジションにある。
<フラグメント化する世界で輝く電子部品業界/機能材料業界>
・電子部品業界/機能材料業界もフラグメント化する世界で誇れる業界である。
○電子部品業界は連邦クラスター型/一強多弱型企業の宝庫
・日本の電子部品は世界に誇れるが、連邦クラスター型/一強多弱型のポートフォリオ構造を持つ。オムロンは売上が1兆円規模だが、マクセルは1~2千億で中規模である。
・一強多弱型企業には、セラミック・コンデンサーの村田製作所、モーターの日本電産などがある。これらの企業は中長期ビジョンを持ち(①脱コミットメント経営)、コア製品はカスタム・ソリューションが可能で(④脱標準化)、その用途を広げようとしている(⑤脱大艦巨砲主義)。また同業他社/隣接領域企業へのM&Aにより事業拡大を図っている。また京セラの「アメーバ経営」、村田製作所の「マトリックス経営」などは、⑥脱中央集権型組織となっている。
○機能材料業界も連邦クラスター型の優良企業が多い
・機能材料業界も連邦クラスター型企業が多い。化学産業は資源・エネルギー産業から参入した石油化学や金属精錬などのコモディティ領域と、ライフサイエンス領域に二極化している(※こんな単純な分類かな)。その中間の機能材料領域で、日本企業の存在感が高まっている(※この業界12社の占有率などが表にされている)。これは③脱横並び経営である。
・機能材料の技術基盤は有機材料/無機材料/金属材料に大別される。海外の企業は、このどれかに特化しているが、日本の企業(三菱ケミカルホールディングス、昭和電工など)は複数に取り組んでいる(②脱選択と集中、⑤脱大艦巨砲主義)。※両社の収益性は低いかな。ニッチトップ企業と総合化学企業に分かれる感じ。
○機能材料領域を代表する日東電工/三井金属/田中貴金属
・機能材料領域で連邦クラスター型を代表するのが日東電工である。当社は「グローバル・ニッチトップ」を掲げ、事業クラスターを自己増殖させている。同社では「三新活動」(新製品開発、新用途開発、新需要創造)が活動アプローチになっている。一時は液晶向け光学フィルムで売上・利益を伸ばすが、今はライフサイエンス領域/モビリティ領域でも優位にある。
・無機材料/金属材料はその物性を変えるのが難しく、ニッチトップ型企業になり易い。三井金属は無機材料にも取り組み、幅広い製品を提供している。また「都市鉱山」を実現するための金属リサイクル事業を持つ。
・田中貴金属は貴金属8元素に特化したトレーディングを行っている。これによりICチップのボンディングワイヤ(金線)/自動車の接点材料/燃料電池の貴金属触媒などのニッチトップ製品事業の集合体の連邦クラスター型企業になっている。
○連邦クラスター型への転換が進む東レ
・機能材料産業には専業型/一強多弱型から連邦クラスター型に転換する企業が多い。その代表が東レである。当社は合成繊維を祖業にするが、それを今でも中核事業にしている(②脱選択と集中)。当社は差異化を地で行っている(③脱横並び経営)。機能性フィルム/エンジニアリング・プラスチック/機能化成品事業(リチウムイオン電池のセパレータなど)/環境・エンジニアリング事業が、繊維と並ぶ主力事業になっている。また繊維事業から派生した炭素繊維事業も収益源になっている。またボトムアップ的な組織風土と複雑性マネジメント(※説明が欲しい)が融合し、日本型経営の典型になっている(⑥脱中央集権型組織)。
・この様に機能材料産業には多様な大手・中堅企業が存在し、フラグメント化する世界でも存在感を示すだろう。
<一強多弱型の産業用車両業界と複写機業界は日本の十八番>
・日本の電子部品業界/機能材料業界には連邦クラスター型が多い。もう1つ日本が得意なのが一強多弱型である。これには一定規模の市場が必要で、産業用車両業界/複写機業界がこれに該当する。
○グローバル・ニッチトップの典型、産業用車両メーカー
・産業用車両とは、グローバルの市場規模が数10~100万台規模で、建設機械(※以下建機)/農業機械/フォークリフトなどが該当する。これらは多様な仕様が求められるため、フラグメント化する世界を先取りした業界である。建機の日立建機/コマツ、農機のクボタ、フォークリフトの豊田自動織機があり、それぞれがグローバルトップを争っている。
○一強多弱型の強みを活かして成長するコマツ
・1990年代に国内の建機市場は成熟する。コマツは一旦は多角化を試みるが、2000年以降は新興国需要に応じ、建機事業に集中する。一方で自動車用プレス機/太陽電池製造装置などを手掛ける「日平ヤマト」を統合している(②脱選択と集中)。
・建機事業は販売金融事業(リース、レンタル)まで内製化しているため、バリューチェーンは長い。これを背景に当社は2つの方向で建機事業の成長を目指している。1つは鉱山機械の「ジョイ・グローバル」を買収し、マイニング市場を強化した。これにより景気変動の影響を少なくした。もう1つは、自動化技術により無人運転を実現し、現場の安全性を高め、工事の品質・コスト・納期を改善する「スマート・コンストラクション」の提供を始めた。これは④脱標準化の適切な方向である。
・唯一の懸念材料は⑥脱中央集権型組織である。しかしM&A/オープン・イノベーションによる外部人材の流入で変わりつつある。これらにより当社はグローバル市場でキャタピラーと棲み分けを進めている。
○複写機業界のポートフォリオ転換は成功するか
・産業用車両業界と並んで一強多弱型企業が多いのが、複写機業界である。複写機にはメカ/エレキ/素材などの技術が不可欠で、日本のお家芸である。この事業はトナー補充/消耗品交換などのアフターサービスが必要で、ビジネスモデルの手本にされた(※継続課金ビジネスだな)。しかし世界的な経済成長の鈍化やペーパーレス化により、複写機市場も成長が停滞している。そのため、複写機の売上比率が高い企業ほど、営業利益率が低くなっている。
○複写機事業の集中度と収益性は逆相関か
・複写機メーカーで幅広いポートフォリオを持つのが富士フィルム(富士ゼロックス)/京セラ(京セラ・ドキュメントソリューションズ)で、複写機事業の売上比は半分以下である。京セラは電子部品事業、富士フィルムは機能材料事業/ヘルスケア事業が中核事業で、連邦クラスター型企業に近い。
・一方キャノン(祖業はカメラ事業)/コニカミノルタ(祖業は産業機器事業)は、売上の半分が複写機事業である。両社は複写機事業のピークアウトを見据え、商業印刷事業/ソリューション事業/機能材料事業などを強化している。
・一方リコーは複写機事業の依存度が高い。海外で販売網を強化したが、一人敗けの状態である。やはり「一本足打法」は経営リスクが高い。
<自動車部品業界はハイブリッド化が進む>
・電子部品業界/機能材料業界/産業用車両業界/複写機業界の連邦クラスター型企業/一強多弱型企業を見てきたが、ポートフォリオは環境変化に応じ変えていくべきだ。連邦クラスター型と一強多弱型を比較すると、連邦クラスター型は比較的安定した構造で、「守りのポートフォリオ経営」に適している(※完成型かな)。一方一強多弱型は連邦型/連邦クラスター型に移行する可能性があり、「攻めのポートフォリオ経営」の構造である。この連邦クラスター型と一強多弱型の中間のハイブリッド構造が最強のポートフォリオである。
○ハイブリッド型が最強のポートフォリオ構造
・このハイブリッド型企業が、トヨタ系列の1次サプライヤーのデンソー(D)/アイシン精機(A)/ジェイテクト(J)/豊田自動織機(T)である。この4社(DAJT)で売上は13兆円を超える(※勝ち馬に乗っただけかな)。これら4社が提供する自動車部品/サブシステムは数万点あり、必然的に多数の事業を持つ。後は製品個別の収益管理をすれば良く、連邦クラスター型のポートフォリオとなる。この点はボッシュ/コンチネンタルとも共通する。
・一方欧米のサプライヤーは市場性を重視し、大胆に「選択と集中」を行っている。そのため従来の部品事業から撤退し、自動運転/電動化に領域をシフトしている。
○DAJTはグローバルトップの一強事業を持つ
・これに対し、DAJTは顧客軸と製品軸から差異化可能な一強事業をボトムアップで作ろうとしている。顧客軸にはトヨタ自動車がおり、ボリューム面だけでなく、サプライヤーを鍛える質的面でも最強のリードユーザである。製品軸では、デンソーには熱マネジメント機器、アイシン精機にはトランスミッション、ジェイテクトにはステアリング・システム、豊田自動織機には電動コンプレッサーがある。各社はこれらをトヨタ以外にも供給し、グローバルトップにある。これらはカスタマイズが必要で標準化は難しい(④脱標準化)。また現場が強く、経営企画部門は現場とトップマネジメント/株式市場の板挟みになっている(⑥脱中央集権型組織)。
・豊田自動織機は祖業のエアジェット式の自動織機以外にフォークリフト事業などの一強に並ぶ事業を持ち、多層的な一強多弱型企業である。そして物流機器事業/ソリューション事業/蓄電池事業などに参入している。
○DAJTがボッシュ/コンチネンタルを抜く日
・DAJTも電動化/自動運転により製品がなくなる可能性もある。しかし連邦クラスター型の事業構造であり、顧客・製品の両軸で差異化した一強多弱型のポートフォリオを築いた。そのため日本の産業界でユニークかつ象徴的な存在にある。そのため金融市場からプレッシャーを受ける欧米のメガサプライヤーと比べ、戦略自由度が高い。ボッシュ/コンチネンタルは標準化を戦略とするが、徹底的なカスタマイズや原価低減を戦略とするDAJTの方が、フラグメント化する世界では優位になるだろう。
・2018年デンソー/アイシン精機/アドヴィックス/ジェイテクトは自動運転車の開発で新会社を立ち上げた。長い目で見ると、この自動運転の取り組み、電動化の取り組み、カスタマイズ能力、原価低減力により、DAJTがボッシュ/コンチネンタルを抜く日が来るだろう。DAJTはフラグメント化する世界でさらに進化する。DAJTは日本の産業のコアで、日本の産業が再び世界で存在感を示すだろう。成功パターンはGAFAからDAJTになる。※自動車産業は電動化で揺れ動くと思うが。
<次世代モビリティの鍵を握るオートバイ・メーカー>
・遠州(静岡県西部)は木材加工/機織産業が盛んだったが、戦後ホンダ/ヤマハ発動機/スズキのオートバイ・メーカーが飛躍する。
・オートバイ市場はユニークである。四輪自動車は年間1億台を超えるが、オートバイは5千台である。単価は四輪車は100万円を超えるが、オートバイは10万円前後である。従って市場規模は四輪車の数十分の1のニッチな市場である(※日用品なども市場は小規模かな)。しかしその市場はアフリカなどの新興国まで広がり、求められる形態・サイズも地域で異なる。さらに近年では排ガス規制/電動化/コネクティッド化なども求められている。従ってオートバイ事業は産業用車両事業と同様に、フラグメント化する世界を先取りした事業である。
○四輪車メーカーになり損ねたヤマハ発動機
・ホンダ/ヤマハ発動機/スズキの中で、ヤマハ発動機だけはオートバイ事業を主力にしている。当社はオートバイ事業の参入を目的に、楽器を製造するヤマハから派生した。今でもオートバイ事業を核とする一強多弱型企業である。しかし多弱には船外機事業/ウォータージェット事業やプレジャーボート/小型漁船などのマリン事業があり、二強に近い。さらに電動アシスト自転車事業/ロボティクス事業/無人ヘリコプター事業/電動車椅子事業がある。
・これは当社に「過度の事業の選択と集中をしない」との意思があるからだ。当社はオートバイ事業の後発組である。そのグローバル競争で最強なのがホンダである。そのため「絶対王者ホンダと競うためには、差異化が不可欠」との意識が全社員に染み付いている。
・ホンダ/スズキは四輪車事業に参入するが、当社は参入しそびれる。しかしオートバイ事業は四輪車事業と同等の技術が必要で、幅広い技術プラットフォームを持っている。そしてこれを基盤に事業の多軸化している(⑤脱大艦巨砲主義。※②脱選択と集中/⑤脱大艦巨砲主義は似ている)。当社こそ連邦クラスター型と一強多弱型のハイブリッドで、フラグメント化する世界で最強のポートフォリオ構造と云える。
○ホンダは四輪車事業で唯一失敗できる
・ホンダは「四輪車事業で失敗しても、唯一生き残れる四輪車メーカー」である。それは世界の四輪車メーカーで、売上/利益で四輪車事業が占める比率が最も低いからだ。先行投資が嵩む四輪車事業をグローバルトップのオートバイ事業が支え、二強構造になっている。
・近年はホンダジェットなどの航空事業が台頭している。次世代のパーソナル・モビリティになる可能性がある「空」への足掛かりを持つ唯一の自動車メーカーである。
・当社の四輪車事業での強みは、顧客価値を考え抜いた車両パッケージ(?)/車両装備と6極開発体制で、これによりローカライズを徹底している(④脱標準化)。また研究開発は別会社の本田技術研究所が行っている。これにより事業間の連携が可能になり、新規事業を生み出すインキュベーション機能も強化されている。
○小型車×新興国スペシャリストのスズキ
・スズキもオートバイ事業から四輪車事業に参入した企業である。祖業は機織り機だが、四輪車事業を核とする一強多弱型になっている。「他社に先回りして一番になれる地域に参入する」を大方針とし、地域毎にポートフォリオが異なる。圧倒的なシェアを持つインド事業と軽自動車を核とする日本事業が二強になっている(③脱横並び経営)。インドでの圧倒的なシェアと小型車を安く開発・生産する能力は、大トヨタ連合でマツダと並んで存在感を維持するだろう。
○3社は「ガバナンスが効かない会社」で共通
・オートバイ事業が核の3社は様々な事業構造を持つが、共通点がある。それはガバナンスが効かず、ボトムアップの組織である点である(⑥脱中央集権型組織)。これは鈴木修が40年トップであったスズキは当て嵌まらないように思われるかもしれない。しかしマネジメント・クラス以下は良い意味で、自分の仕事を淡々とこなしている。
・これまでは「1人当たりGDPが1千ドルを超えればオートバイ、3千ドルを超えれば四輪車」と言われてきた。しかし人口密度が高い東南アジアなどでは通用しなくなった。その意味で、オートバイ事業を持つ3社は存在感が増していくだろう。
<悩める総合重工メーカー>
・連邦クラスター型と一強多弱型のハイブリッド化が望めそうなのが総合重工メーカーである。しかし総合電機メーカーと異なり、先行きが見えない。総合重工メーカーはエネルギー/モビリティなどの重厚長大の社会インフラを事業としてきた。しかしフラグメント化する世界では、これが自律分散するため、事業構造は大きな影響を受ける。この影響を最も受けるのがガスタービン/石炭ボイラーなどの火力発電機器事業である。
○選択と集中の罠に嵌まった三菱重工
・この影響を最も受けるのが三菱重工である。②脱選択と集中から見ると、当社は幅広いクラスター型企業である。トップダウンによる全社構造改革で日立と事業統合し、「三菱日立パワーシステムズ」を設立し、火力発電機器/原子力発電機器のエネルギー機器事業を強化した。しかしこの目論見は2つの点で外れた。1つは脱炭素化/自律分散化によりエネルギー機器事業は逆風に曝されている。もう1つは、投下資本利益率(ROIC)などの目標導入や、多弱事業の分社化などの守りのポートフォリオ経営の進め方である。このビジョンを示さず、高い目標を設定するコミットメント経営は古いアプローチで、①脱コミットメント経営に反する。
・また当社の本質的な問題は、連邦クラスター型を目指すには、余りに大き過ぎる(※既に連邦クラスター型なのでは)。普通連邦クラスター型はニッチトップ事業で構成され、1事業の売上は数十億から100億円で、結果として企業の売上は数千億円から1~2兆円となる。ところが当社の売上は4兆円を超える。※6つの経営ポイントが通用しない企業かな。
・当社はトップダウンでの管理を可能にするため、売上規模300~500億円をストラテジック・ビジネス・ユニット(SBU)として事業を統合した。売上が300~500億円となると中量産製品の事業か、あるいは複数事業の統合になる。中量産製品の事業となるとグローバルトップを目指す事になり、優先的に資源配分する必要がある。また複数事業の統合になると、ニッチトップの位置付けがぼやける。そのため当社は民間旅客機(MRJ)/客船事業に活路を見出そうとしているのだろう。※良く分からなかった。
○川崎重工は連邦クラスター型の典型
・川崎重工は総合重工メーカーの2番手だが、売上は1兆円半ばである。しかしエネルギー関連事業(火力発電機器)よりも、航空機部品/ヘリコプター/鉄道車両などの交通関連事業や、汎用エンジン/産業用ロボット/油圧機器などのオートバイ系企業と競合する事業が安定している。飛び抜けた事業はないが、各事業はニッチと云うほど小さくはない。これは連邦クラスター型の典型で、業績は安定するが、次の成長の切り口は見付け難い。しかし当社はフラグメント化する世界におけるモビリティ・インフラのための技術/プラットフォームを有し、総合重工メーカーの中でユニークな位置にいる。
○一強多弱型と連邦クラスター型のハイブリッド化が進むIHI
・総合重工メーカーで最もハイブリッド化が進んでいるのがIHIである。売上は川崎重工と同規模の1.5兆円前後で、ジェットエンジン事業などの航空・宇宙・防衛領域のビジネスを広げている。祖業の造船事業は非連結化し、産業機器などのニッチトップの事業が残り、多弱事業により連邦クラスター型になっている。
・他の総合重工メーカーは標準機の販売が多いが、当社はリードユーザー/パートナーと深い関係を築き、徹底的なカスタマイズを行っている(④脱標準化)。GE/ロールスロイスの共同開発パートナー(?)とも深い関係を築き、事業リスクを回避している。
・フラグメント化する世界ではエネルギー/モビリティは自律分散するが、当社は橋梁/シールドマシンなどのエンジニアリング事業/都市開発事業にも取り組み、次世代社会インフラへの切り口も持っている。当社はフラグメント化する世界でも期待される総合重工メーカーである。
<再度見直されるカスタム・ソリューション型ビジネス>
・グローバル資本主義ではカスタマイズせず、標準のソリューション/ハードウェアを提供するのが良いビジネスモデルとされてきた。カスタマイズするにしてもキラーアプリに限られた。しかしフラグメント化する世界では、市場/顧客ニーズが細分化・多様化するため、カスタム・ソリューションが不可欠になる。しかしこれは日本が得意とする戦い方である。
○次世代社会インフラの担い手、エンジニアリング会社/ゼネコン
・カスタム・ソリューション型ビジネスの典型が、プロセスプラント/発電所の設計・建設を担うエンジニアリング会社と、道路/都市インフラ/各種建造物の設計・建設を担うゼネコンである。対象となる建造物の仕様も様々で、現場の状況も様々である。欧米の企業はこれを敬遠するが、日本にはプラント系エンジニアリング会社(日揮、千代田化工、東洋エンジニアリング)や電力系エンジニアリング会社(日本工営)などがある。これらの企業はグローバルに展開し、新興国でエネルギー・化学系プラントを次々受注している。
・しかしフラグメント化する世界では、エネルギーは化石燃料ベースから再生可能エネルギー・ベースに移行する。そのため太陽光/風力などの再生可能エネルギー機器などの電気系や、製薬などの小型プロセスプラントに移行する事になる。そうなると案件規模は数千億円から数百~数十億円の小規模になるが、案件数は増える。いずれにしてもカスタム・ソリューションが得意なエンジニアリング会社は、フラグメント化する世界でも活躍する。
○ロボティクス・ソリューション/ICTインフラを構築するSI
・フラグメント化する世界でシステム・インテグレーター(SI)も存在感を増す。SIにも様々な業態があるが、最も一般的なのがITシステムの開発・導入を担う富士通/NEC/NTTデータなどのIT系SIである。他にファクトリー・オートメーション(FA)の設計・敷設を担うFA業界向けのSIもある。
・IT系SIはカスタマイズの手間が掛かるため欧米企業は手を引き始め、ソフトウェアの提供に留めるか、カスタマイズする場合は高いコンサルティング料を取るようになった。これによりアクセンチュアなどのコンサルティング会社、SI事業を内製化したGAFA、クラウドを提供するアマゾン・ドット・コムなどが担い手になっている。今後は銀行の勘定系システムのような大型ITシステムは減少し、ブロックチェーン/エッジコンピューティングなどの自律分散型システムの構築が増える。
・一方FA業界向けのSIは生産現場の自動化ニーズが高く、供給不足にある。さらにIoTを用いたソリューションが具現化しつつあり、対象が物流倉庫/店舗/工事現場/農地などに広がっている。
・以上からシステム・インテグレーションは大型・中央集権型からエッジなどの小規模なものに移行する。またソフトウェア開発はトライ&エラーを繰り返すアジャイル開発が活発になっている。これにハードウェアの技術知識を含めたシステム構築だけでなく、ビジネス開発機能も含めたものになるだろう(※近年DXが流行っている)。また業界は専門性で細分化が進んでいるが、統合・再編の動きが起こるだろう。
○フラグメント化する世界で日本型エコシステムを支える商社
・最後に商社を取り上げる。商社には7大商社に代表されるグローバルな「総合商社」と、個別の業界に根差した「専門商社」がある。一時期「商社不要論」があり、ビジネスの重心をトレーディングから資源・エネルギー権益に移した。新興国の勃興による燃料・資源価格の高騰で、収益を上げている。しかし燃料・資源のサプライチェーンは自律分散化し、収益を上げ難くなるだろう(※燃料・資源も自律分散化するんだ。地産地消かな)。しかし商社の投資会社としての信用は高く、今後はカスタム・ソリューション型ビジネスで収益を積み上げられるかが重要になる。
・専門商社は個別業界のニーズに応じ、柔軟に対応してきた。これにより東京エレクトロン/加賀電子などのEMS(電気機器受託製造サービス)や、SI事業を手掛ける企業も登場している。フラグメント化する世界では、商社が世界の産業エコシステム(生態系)を再び支える事になる。※エコシステムが時々出て来るが、何か分からない。
第7章 新たな世界で日本がリードするための指針
・「グローバル資本主義の限界」「社会インフラでの技術革新」によりフラグメント化する世界になる。これまでは政府・企業による中央集権型社会だったが、個人がエンパワーメントされ、第4の経済主体「コミュニティ」が基盤になる分権・分散型社会になる。この新たな世界では、企業は自律分散化が求められる。しかしこの世界は日本の文化・社会と親和性が高く、日本企業は勝ち残る可能性が高い。しかしこれまでに日本が社会システムの転換をリードした例は少ない。そこで本章は日本がリードするためのトップダウン&ボトムアップのアプローチを紹介する。※本章は抽象的な話に戻る。
<トップダウン&ボトムアップの転換アプローチ>
・日本がリードするためには、トップダウン&ボトムアップの両面からのアプローチが必要になる。まずはトップダウンによる枠組み作りが必要である。具体的には「変革に向けた基本的な考え方」「関連各所(?)が連携する仕組み」「概念/成果を発信する仕組み」である。
・「変革に向けた基本的な考え方」を構築するには「イノベーション創出のメカニズムの再定義」が必要である。これは時代と共に、イノベーションの起こし方が変わるため、関係者がイノベーションの考え方を新たにする必要がある。
・次に必要なのが「産業・政策・地域の三位一体での連携体制の構築」である(※これが「関連各所が連携する仕組み」かな)。フラグメント化する世界では第4の経済主体コミュニティが重要になるので、それを推進する本気の三位一体体制が必要になる。
・そして「社会観・経営観をグローバルに発信する」のも重要になる(※これは「概念/成果を発信する仕組み」かな)。日本は新たな世界への移行を進めながら、グローバルな啓発をする必要がある。個別の取り組みだけでなく、その取り組みを国内で発信する必要がある。※何れも抽象的で、良く分からない。
○重要なのはコミュニティ形成に向けたボトムアップの取り組み
・トップダウンより重要なのが、コミュニティ形成に向けたボトムアップからの自発的なチャレンジである(※コミュニティは自然に作られると思っていたが)。成功体験は変革を妨げる。そのため新たな役割を再定義し、具体的な変化を起こしていく必要がある。
<イノベーションのメカニズムの革新>
・新たな世界を作るには、イノベーションの起こし方をイノベートする必要がある。これまでにイノベーション1.0/2.0があったが、経済主体の関係性が変わるため、イノベーション3.0が必要になる。
・技術が起点になり、社会・産業が革新される「技術起点のイノベーション」(イノベーション1.0)がある。ブラウン管から液晶ディスプレイ、ハードディスク・ドライブからソリッド・ステート・ドライブ、蛍光灯からLEDなどである。このモデルは企業の研究開発部門が担っていたが、近年はコーポレート・ベンチャー・キャピタルなどもある。しかしこのモデルには技術フロンティアが必要で、バイオテクノロジー/脳科学などの領域に有効である。しかし技術は成熟期にあり、さらなるイノベーションは難しい。※これは否定するな。量子/エネルギー/海洋/宇宙など、幾らでも余地はある。人間の探究心は尽きない。
○顧客起点のイノベーションは限界
・2000年代になると別のイノベーションが起こる。これは顧客との協創による「顧客起点のイノベーション」(イノベーション2.0)である。これは顧客の課題を共有し解決し、それを横展開するモデルである。例えば日立製作所は「顧客協創」の下に、研究所を再編し、このモデルを実践した。このモデルの起点は「顧客接点」である。
※最近読んだ本では、イノベーションを「技術的イノベーション」「非技術的イノベーション」に分類していた。前者は科学的探求心が起点で、当初は明確な目的はない。逆に後者は明確な目的があり、貨幣制度/株式会社制度/裁判制度などがある。本書も技術志向/目的志向で分類し、似てはいる。ただタームは大きく違う。
・しかし実際は成果協創に腐心している企業が多い。それは顧客が課題を設定できない事による。ここで重要なのが、今後はその顧客が代わるかもしれない点である。例えばエネルギー・インフラの顧客は、今は電力会社だが、分散型の再生可能エネルギーになると、それは代わる。これはモビリティ・サービスやフィンテックなどで揺れる金融業界にも云える。
・従って「顧客起点のイノベーション」「顧客協創」は、一時的な延命策か営業ツールに過ぎない。新たな世界には適切なイノベーション・モデルが必要なのだ。
○「エコシステム起点のイノベーション」による変革
・そこで必要になるのが「エコシステム起点のイノベーション」(イノベーション3.0)である。これは様々なプレーヤーがビジョンを共有し、相互に連携し、社会変革を実現するモデルである。
・IoT/AI/ブロックチェーンなどは既存の枠組みを変えず、その性能向上を目指したイノベーションである。新たな世界ではエネルギー/モビリティなどで社会構成が変わり、目の前の顧客との関係性や産業区分は意味をなさなくなる(※最近は必要に応じ異業種連携も進んでいるかな)。そのためイノベーションには、既存の枠組みを再定義し、新しい手法が必要になる。
・これには3つの要諦がある。1つ目は「課題設定の視野を広げる」である。例えばモビリティでイノベーションを起こすには、モビリティの課題解決だけを考えていてはダメで、エネルギー/ヘルスケアの課題も同時に捉える必要がある。
・2つ目は「問題解決の枠組みを破壊する」である。例えば人の移動を考える場合、特定の交通手段に限定してはいけない。他の交通手段や、さらには都市計画などに検討範囲を広げる必要がある。
・3つ目は「エコシステムを継続的に拡張し続ける」である。例えばモビリティを実現する場合、交通系企業だけでなく、ICT企業/エネルギー企業/都市開発会社などの多様なパートナーと協創し、エコシステムを継続的に広げていく必要がある。※結局エコシステムの説明がない。エコなので環境包括的かな。
○萌芽しつつあるエコシステム型イノベーション
・フラグメント化する世界で創出をリードするには、「モノ作り」(イノベーション1.0)/「コト作り」(イノベーション2.0)から「場作り」(イノベーション3.0)に転換する必要がある。この試みは始まっている。2017年JR東日本は交通事業者/国内外の各種企業/大学・研究機関と「モビリティ変革コンソーシアム」を設立し、「Door to Doorサービス」「スマートシティ」などの社会課題に取り組んでいる。また同社は「Mobility as a Social PlatformとしてのJR東日本」の概念を発表し、分野横断的なエコシステムを形成しようとしている。※トヨタも富士山の裾野で始めた。
<産業・政策・地域の三位一体での連携体制>
・日本は課題先進国である。また大都市/地方中核都市/過疎地域があり、課題には地域性がある。そのため日本は様々な国の先行事例となる。ところが地域を起点とする社会システム構築に取り組んでおらず、その点で海外の方が進んでいる。そこで海外での「産業・政策・地域の三位一体での連携体制」を見てみる。
○欧米では地域が起点の取り組みが加速
・欧米は従来から地域が起点のイノベーション創出に積極的である。環境問題ではEU目標/国家目標が設定されたが、多くの都市がそれより厳しい削減目標を設定した。あるいはモビリティ変革でも「モビリティ・アズ・ア・サービス」(MaaS)の先進国フィンランドでは、政府がビジョンを発信するが、多くの地域が地域特性に応じた個別プロジェクトを展開している。※以前SDGsの本を読んだが、仏国でも地域個別の対応を行っていた。
・米国でも地域が起点の社会実証プログラムが実施されている。米国運輸省の「スマートシティ・チャレンジ」では、交通・運輸プロジェクトの提案を都市から募り、それを選定し、支援している。またサンフランシスコは「シェアリング・シティ」をコンセプトとして掲げ、シェアリングにおいて障害になる条例・税金を解決するためのワーキンググループを設置し、踏み込んだ支援をしている。※カリフォルニア州は国に相当する規模だからな。
○日本は縦割りの打破が必要
・一方日本は政府が絵を描き、それが地域に落ちる流れになる。近年では総合特区などが制度整備され、地域にて社会変革するプロジェクトが実施されているが、積極的とは思えない(※特区は首相案件や補正予算を実施するためと聞いた事もある)。例えば、企業の補助金の獲得が目的だったり、企業と地域の関係もお付き合いレベルだったりする。また大学は企業以上に縦割りで、分野横断的な活動ができない(※元々大学はそう云う組織かな)。そのためプロジェクトを推進する主体が不在になりがちである。
・また日本は社会システムの変革にテクノロジーを活用してこなかった。近年フィンテック/エドテック/HRテック(※Human Resource)などのクロステックがあるが、何れも海外で生まれたコンセプトである(※何れもICTの活用だな。日本でスタートアップが育たないのと背景は同じかな)。これらは特に新しい技術を利用している訳ではなく、技術と規制が一体になって社会システムを作る試みである。日本は技術と規制を融合させる思想が乏しい。
・そもそも日本には産業・政策・地域が連携し、社会像を研究する場がない。大学は細分化・サイロ化されている。近年は「インター・ディシプリナリー」(学際的)な研究の重要性が認識されてきたが、むしろ「アンチ・ディシプリナリー」な場が必要である。日本はこの「どの学問分野にも当て嵌まらない研究」の場がない。※大学の研究費は大幅に不足しているみたい。
・フラグメント化する世界ではコミュニティが中心になる。そのためには産・官・学や地域・個人の一体化が必要になる。もっとも近年では、地域が起点で産学を巻き込んだコンソーシアムを支援する動きもある。例えば地方大学が中心となり、地域イノベーション・エコシステム形成(※単語の羅列)を目指した動きもある。しかしこれは技術シーズ(イノベーション1.0)だったり、地方経済の維持が目的(イノベーション2.0)だったりする。
・また政府による実証は、エネルギー/モビリティなどの特定産業にフォーカスされ、様々な業法規制により統合された議論体の設置が難しくなっている。つまり縦割り行政が障害になっている。「社会・規制のデザイン」「産業のデザイン」「街のデザイン」の3極を連携するスキームが必要である。※産業・政策・地域だな。スキーム?枠組み?
<社会観・経営観のグローバル発信>
・新たな世界で日本がリードするためには、社会観・経営観をグローバルに発信する必要がある。移行に先行するだけでなく、発信する必要がある。しかし日本はこれが不得意だ。近年ESG(環境、社会、ガバナンス)が注目されているが、日本には「三方良し」の言葉があり、かつてからステークスホルダーに配慮していた。逆に近年になり、欧米の株主至上主義を進めてきた。
・サスティナビリティに関する論述が多いフィリップ・コトラーは、日本の経営システムを「コンシャス・キャピタリズム」(ステークスホルダーに貢献する目的を持った経営思想)としている。また昨今「リーン・スタートアップ」が注目されているが、これはトヨタの「リーン生産方式」が海外でコンセプト化されたものだ。※カイゼンとかもあるな。
・この様に日本は先進的・潜在的価値を持っているのに、無理に欧米のシステムを取り入れ、周回遅れになっている。フラグメント化する世界は日本と相性が良い。日本は行動を起こすだけでなく、その思想を積極的に発信するべきだ。
○ソサエティ5.0への期待と課題
・その意味で第4次産業革命の日本版「ソサエティ5.0」は橋頭堡になる。これは「サイバー空間とフィジカル空間を融合し、経済発展と社会的課題の解決が両立する人間中心の社会」である。ドイツは「インダストリー4.0」、中国は「中国製造2025」の将来ビジョンを掲げているが、何れも産業政策でグローバル資本主義の継続である。これに対しソサエティ5.0は、経済発展と社会的課題の解決の両方を目的にしている。
・ただこの指針は抽象的で、AI/ロボット/ドローンなどの技術重視になっている。しかしトップダウンからの発信なので、これで十分だろう。これからはむしろコミュニティ単位に議論・実証し、これらの個別の取り組みを集約し、国内外に発信・啓発する「コンセプトの循環」が重要になる。
<コミュニティを形成する企業・自治体に求められる事>
・ここまでは日本がリードするためのトップダウンのアプローチを見てきたが、より重要なのはコミュニティを形成する事になる企業・自治体のチャレンジである。ここで企業・自治体、ひいてはコミュニティに求められるのは固有性に立脚したビジョンである。ここでは、求められる社会システム、人口動態、活用可能な資源、社会調和の指針、関与する企業など様々な違いがある。そこで重要になるのが、固有性に立脚したビジョンである。また各コミュニティがこれを持つ事で、コミュニティ間の連携が可能となり、補完性・相互融通性が成立する。※嫌な文章になり始めた。
○固有性に立脚した将来ビジョンが第一歩
・企業・自治体が固有性のあるビジョンを構築するには、自らのコミュニティの固有性を認識し、将来ビジョンを議論する必要がある。公私の境界も変わり、産業構造も変わるため、投資効果の改善ではなく、社会システムの提供価値を再定義する必要がある。
・例えば自動車メーカーは自動車製造企業/モビリティ・サービス事業者として定義するのは難しくなる。これまでは公共投資として道路整備されてきたが、社会システムが変わり、インフラの在り方を考えながら提供価値を再定義する必要がある(※難解)。家電メーカーも公私の境界がなくなるため、家電は個人のものではなく、社会のものになる。これは電気/鉄道などにも云え、自社の提供価値は単独のインフラ機能と定義できなくなる。そしてこれらの集積が次世代の社会インフラになり、産業構造が作られていく。※抽象的だな。
・一方自治体は、自らの固有性を認識する必要がある。これがなければビジョンも描けないし、企業・個人の求心力も得られない。しかし企業と違って自治体は同質化・均質化されてきた。地域の産業規模/人口動態などは可視化され、分析されているので、企業の戦略方向性や企業風土を理解し、社会像や社会価値を議論する必要がある。さらに交通手段の最適化、交通政策とエネルギー政策の連携などの将来ビジョンを描いていく必要がある。
・フラグメント化する世界ではコミュニティが重要で、「自律分散型の社会インフラ」「公私混合型の価値配分メカニズム」「個人が自律協調する統治メカニズム」を構築する必要がある。そのためには自治体/企業が固有性に立脚した将来ビジョンを描き、議論を重ねるべきだ。これにより個人の参画が起こり、「個人が自律協調する統治メカニズム」が構築される。これにより新たな社会システムが創出され、日本に広まり、さらに世界に広まる。
・ポスト・グローバル資本主義はまだ曖昧模糊としている。しかし世界のフラグメント化は進行している。この新たな世界で日本が世界をリードするのを期待する。
エピローグ あとがきに代えて
・本書はポスト・グローバル資本主義の世界を「フラグメント化する世界」とした。その新たな世界は日本や日本企業と適性が高く、競争優位にある。我々(※著者)は技術系企業のリーダーと共に仕事をしており、これを嗅ぎ取れる事ができた。
・以前『日経Automotive』に「2035年のパワートレーン予測」を寄稿した。そこで「各国・地域で最適なパワートレーンは異なる。そのため各市場で如何に効率よく対応できるかが競争優位を決める」(※大幅に省略)と提言した。ドイツのディーゼル・ゲート事件で電動化が進行しており、これは現実となった。EVや自動運転の規制・ルールが各国・地域で異なり、個別の対応が必要になっている。
・この様な兆候を嗅ぎ取れたのは、当社アーサー・ディ・リトルがコンサルティング・ファームの中でも技術志向が強いためかもしれない。当社は1886年に設立され、世界最古のコンサルティング・ファームである。ゼネラル・エレクトリックが設立されたのが1892年で、当社は米国の名だたる製造業企業を支援している。当社は設立当初から「技術をビジネスや社会に応用し、イノベーションを産む」をビジョンにしている。
・最後にフラグメント化する世界への移行がコンサルティング・ファーム(※以下我々)にどう影響するかを述べる。我々はグローバル資本主義の下で成長産業になったが、それは我々自身が「グローバル資本主義の伝道師」になり、グローバル資本主義の恩恵を最も受けたからだ。そこで我々は標準化された経営手法を押し付け、複雑化する戦略策定ニーズ(?)を軽視してきた。さらにITに偏った経営指南を行った。デジタル・トランスフォーメーション(DX)や、IoTで蓄積したビッグデータのAI解析などである。これにより「テクノロジー=IT」の誤解を生んだ。日本は非IT系のテクノロジーに長けているのに、これではGAFAの餌食になってしまう。
・フラグメント化する世界への移行により、事業環境は複雑化・多様化する。その中で我々は存在感やアプローチを再考する必要がある。まず1つは、フラグメント化する世界では企業の経営課題は短期的な定量目標から、中長期的な方向性/存在意義を再定義した上での複雑性のマネージメントに変わる。そのため定型化したグローバル共通の知見の横展開は通用しなくなり、企業の固有性を踏まえたカスタム・ソリューションの支援の積み上げに戻る必要がある。
・またカスタム・ソリューションの意味も変わってくる。これまでは欧米流の経営コンセプト/方法論を日本流に調整する事だった。新たな世界では日本流の経営手法/コンセプトを見直し、それを提唱・発信していく事が望まれる。このままでは我々は無用の長物になり、社会・企業変革の阻害要因になる。
・本書は預言書だが、日本企業が勝ち残るための道筋を、バックキャスト的に描いた「骨太のシナリオ」である。未来は受動的なものだが、能動的に具現化していくべきだ。そのため我々は企業などの皆様と共創する必要がある。※ここだけ協創でないのは意味があるのか。