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『光触媒ビジネスのしくみ』藤嶋昭/村上武利(2008年)を読書。

光触媒の言葉を時々聞くので本書を選択。

酸化チタンには強い酸化力と超親水性があります。
光触媒は新しい技術で発展段階です。太陽光で作用するようになれば、市場規模はさらに拡大するでしょう。

光触媒の作用を知るには十分。
化学用語が出るので、化学的知識が多少必要。同じ事が何度も書かれ冗長的。

お勧め度:☆☆
内容:☆☆☆

キーワード:<光触媒って何>酸化チタン、光触媒分解/超親水性、ルチル型/アナターゼ型/ブルッカイト型、セルフクリーニング効果、空気浄化、水浄化、殺菌・抗菌、<光触媒の仕組み>酸化分解、超親水性、セルフクリーニング効果、酸化チタン粉末、コーティング方法、紫外線/可視光、<どこで作られる>イルメナイト鉱/ルチル鉱/アナターゼ鉱、硫酸法/塩素法、光触媒コーティング液、コーティング方法、ハイブリッド化、金属チタン、<光触媒ビジネス>外装コーティング、光触媒タイル、窓ガラス、光触媒テント、空気清浄機、生活用品、家電製品、照明器具、防音壁、歩道・アスファルト、農業、医療、繊維・衣料、紙・不織布製品、人工観葉植物・造花、畜産、<大型光触媒プロジェクト>光触媒市場、光触媒利用高機能住宅用部材、NEDOプロジェクト、可視光応答型光触媒、安全な生活、<拡大する光触媒ビジネス>海水処理、水処理、人工観葉植物、打ち水、超親水性・超撥水性表面、ナノシート光触媒、耐候試験、印刷、光触媒ナノファイバー、酸化チタンナノチューブ、光触媒リソグラフィー、<世界の動き>光触媒工業会、海外での動き、学会発表、規格化/JIS/ISO/安全性/可視光応答型、<付録>特許

はじめに

・「光触媒」には殺菌などの効果があります。1967年著者の藤嶋が、酸化チタンに光を当てると水が分解する事を発見します。さらに1995年水に馴染む事(光誘起超親水性)を発見します。これにより光触媒を利用した製品が開発され、800億円の市場(住宅、家電、道路、農業、水浄化、空気浄化、衣料、日用品、医療)になりました。一方で光触媒の「まがい物」が出回るようになり、JIS/ISOが標準化を行っています。
・2000年光触媒に関連する特許が年間1千件以上ありましたが、再び増加傾向にあります。それは太陽光(紫外線)だけでなく、可視光でも効果を発揮させる研究が進められているからです。

・光触媒は第1ステージ「発見、製品化、市場拡大、まがい物横行」から、第2ステージ「世界的拡大、JIS/ISOによる標準化、可視光応答型光触媒」に移りました。さらに今後、発展するでしょう。

第1章 光触媒って何

<光触媒とは>
・似た言葉に「光合成」がある。これは植物が二酸化炭素と水から、デンプンと酸素を作ります。これは葉緑素によりますが、反応の前後で葉緑素は変化しません。これも光触媒です。
・光触媒の代表的な物質が酸化チタン(TiO₂)です。酸化チタンは入手しやすい物質です。光触媒を使用した製品には、抗菌タイル/空気清浄機など「強い酸化力」を利用した物や、曇り防止鏡など「超親水性」を利用した物など、様々な種類があります。市場は住宅/家電/日用品/道路/空気浄化/水浄化/医療/農業などで800億円に達しており、3兆円に拡大する予測もあります。

<光触媒の2つの機能>
・光触媒の主役は酸化チタンと光で、2つの機能を提供します。1つは「光触媒分解」で、表面の物質を分解します(有機物は二酸化炭素と水に分解)。※これは強い酸化力によるのかな。
・もう1つが「超親水性」です。普通材料に水を落とすと水滴になります。ところが酸化チタンでコーティングしてあると、水は膜になって広がります。そのためガラス/鏡/外装建材/塗料に使用されます。またこの2つの機能を利用したのが「セルフクリーニング効果」です。

<光触媒の発見>
・光触媒は「水を光で分解できる」発見が始まりです(本田・藤嶋効果)。水を電気分解すれば水素と酸素に分解されますが、酸化チタンで同じ効果が発見されたのです。酸化チタンと白金を電線で結び、水に付け、光を当てると水は水素と酸素に分解されたのです。

<酸化チタン>
・その後様々な光触媒活性の物質が発見されています。しかし酸化チタンが最適な物質です。他の物質は光触媒活性すると自らが溶解したり、多大な光エネルギーが必要になります。さらに酸化チタンは、無毒/化学的安定/比較的安価です。また可視光を吸収しないため、コーティングしても透明です。

<酸化チタンの用途>
・酸化チタンは古くから使われています(塗料4割、インキ・顔料2割、プラスチック1割、製紙1割など)。ガードレールの塗料、プラスチックの着色、紙が透けるのを防ぐなどです。歯磨き粉、ホワイト・チョコレート、日焼け止めなどにも使用されます。日本人1人で年間2Kg使用しています。※大量だな。

<酸化チタンの種類>
・酸化チタンには結晶性と非結晶性がありますが、光触媒活性すのは結晶性の物です。そして結晶性の物には、①ルチル型、②アナターゼ型、③ブルッカイト型があります。①ルチル型以外は準安定状態なので加熱すると、①ルチル型に転移します。①ルチル型は粒子径が大きくなります。②アナターゼ型は微粒子を作り易くなっています。

・顔料には①ルチル型、光触媒には②アナターゼ型が使われます。①ルチル型のバンドギャップは3.0eV、②アナターゼ型は3.2eVで、②アナターゼ型の方が光触媒活性が高くなります。※バンドギャップは電位差に近いかな。各自調べて下さい。

<セルフクリーニング効果>
・酸化チタンをコーティングしたテントは、汚れが付着しにくくなります。これは「強い酸化力」と「超親水性」によります。太陽光により表面の汚れは酸化分解され、雨が降ると表面に水の膜が作られ、汚れが洗い流されます(セルフクリーニング効果)。そのため、タイル/壁/アルミ建材/ガラス/テント材などの外装建材に使われます。※何にでも混ぜられる/塗れる点も凄いな。

<空気浄化>
・光触媒は大半の有機物を酸化分解するので、多くの空気浄化製品に使用されています。空気浄化方法には3種類あり、①空気清浄機に光触媒を搭載する、②外装材に光触媒をコーティングする、③内装材に光触媒をコーティングするです。

・①空気清浄機は、ちり・ほこり/タバコの煙/悪臭/花粉/ウイルス/細菌/VOC(揮発性有機化合物)などを捕捉し、分解・除去します。※殺菌なら紫外線と思っていたが、こちらの方が効果的なのかな。
・②外装材では、自動車が排出する窒素酸化物(NOx)を硝酸イオン(NO₃⁻)に酸化し、大気への排出を防ぎます。※効果は限定的なのでは。
・③内装材では、アセトアルデヒド/キシレン/トルエン/ベンゼンなどのVOCを分解・除去します。これらはシックハウス症候群を惹き起す物質です。

<水浄化>
・光触媒で水浄化も可能です。水処理のオゾン処理/活性汚泥処理/塩素処理で除去できない難分解性有機化合物も、光触媒なら分解・除去できます。近年、環境ホルモンが問題になっており、光触媒が期待されています。
・最近では農業廃液処理でも使われています。光触媒をコーティングしたセラミック・フィルターに太陽光を当て、水処理します。酸化チタンを含有したファイバーで水処理する製品もあります。
・しかし水の光触媒への接触を増やす必要があり、空気処理に比べ難しくなっています。しかし水処理は世界的な問題で、光触媒は大いに期待されています。

<殺菌・抗菌>
・院内感染の言葉がある様に、病院では殺菌・消毒が重要です。光触媒により、この労力が減らせます。細菌は有機物質なので、強い酸化力で分解・除去できます。手術室の床・壁に光触媒タイルを使用したり、カテーテルに光触媒をコーティングしています。また光触媒で癌細胞を死滅させる研究も行われています。

・医療以外でも、抗菌マスク/抗菌ネクタイ/抗菌ユニフォーム/抗菌シャープペンシルなどがあります。効果が疑わしい製品もありますが、2006年JISが「抗菌性評価」を制定したので、まがい物はなくなるでしょう。

第2章 光触媒の仕組み

<酸化分解の仕組み>
・酸化チタンは光半導体で、光を浴びると電子(e‐)が励起し、正孔(h⁺)が生じます。電子は空気中の酸素と反応し、活性酸素のスーパーオキサイドアニオン(O₂⁻)になります(※陽イオンがカチオン、陰イオンがアニオン)。これが過酸化水素(H₂O₂)などの活性酸素を作り、有機物を酸化分解します。
・酸化チタンに生じた正孔は強い酸化力を持ち、水素基準電位は3.0Vです。水は1.23V、塩素は1.36V、オゾンは2.07Vです(※イオン化傾向かな)。他に光触媒活性の半導体はありますが、酸化チタンが最も優れています。

・酸化チタンは大腸菌/MARSなどの病原菌を殺菌します。アセトアルデヒド/メチルメルカブタンなどの悪臭物質、タバコのヤニ/油分などの有機物質を分解します。しかも光源は蛍光灯の光で十分です。

<超親水性の仕組み>
・物質の表面が「曇る」のは、表面に水滴ができるためです。ところが酸化チタンは「超親水性」のため、水滴はできません。元々酸化チタンの表面は水に濡れ難く、油に濡れ易くなっています。これに光を照射すると、逆に水に濡れ易く、油に濡れ難くなります。
・これは酸化チタンの表面は元々は疎水性ですが、光照射で親水性に変化するのです。光照射で正孔が生じ、そこに水が吸着されるのです。この親水性はシリカを共存させると、より強化されます。

<セルフクリーニングの仕組み>
・強い酸化分解力と超親水性により、セルフクリーニング効果が発揮されます。酸化チタンをコーティングしたガラスで実験します。①油汚れに見立てたオレイン酸をガラスに滴下すると、表面に付着します。②雨水の代わりに水滴を滴下すると、表面に膜を作ります。③さらに水滴を滴下すると、水と油が洗い流されます。
・一方トンネル内のセルフクリーニング効果は、強い酸化分解力のみによります。トンネル内の照明カバーガラスに排気ガスが付着しますが、照明の光で付着物は分解されます。※分解されるだろうが、確実に剥脱するのか。
・セルフクリーニング効果を十分に発揮させるためには、フラットにコーティングする必要があります。新幹線の窓ガラスには厚さ1nm(1mmの百万分の1)以下の酸化チタンのシートが貼られています。

<酸化チタン原料粉末>
・塗料/化粧品に使われる酸化チタンに、光触媒活性は必要ありません。そのため酸化アルミニウムなどで覆います。またルチル型が使われ、粒子サイズは100~3000nmです。※酸化チタンを利用するのは着色が目的?

・一方光触媒用の酸化チタンは、粒子サイズ数nm/比表面積300m²/gの粉末です。比表面積が増えれば、反応物質との接触が増え、光触媒活性が高まります。また酸化チタン粉末の表面に白金などの貴金属微粒子を担持させると、より光触媒活性が高まります。※詳細は省略。
・最近はチューブ状の酸化チタン微粒子が注目されています(酸化チタンナノチューブ)。これは励起電子と正孔が分離され、より高い光触媒活性を得られます。

<コーティング剤>
・光触媒のコーティングには、ウェットプロセスとドライプロセスがあります。ここではウェットプロセスを説明します。コーティング剤には、チタンアルコオキシド/チタン酸塩を原料とするもの(ゾル・ゲル法)と、酸化チタン粒子を原料とするものに分かれます。前者は緻密で平滑な薄膜を作製できますが、400℃以上で結晶化する必要があります。後者では酸化チタン微粒子/酸化チタンゾル/酸化チタンスラリーが使用されます。こちらは過熱する必要はありません
・コーティングする際、密着性を高めるため、基材にシリカなどの中間層を設けます。また中間層は、光触媒により基材が分解されるのを防ぎます。

<コーティング方法>
・ウェットプロセスでコーティングする方法に、スピンコート/ディップコート/ロールコート/スプレーコート/含浸法/はけ塗りなどがあります。こちらは低コストでできます。一方ドライプロセスでは、スパッタリング/イオンプレーティング/真空蒸着/CVD法(化学蒸着法)などがあります。こちらは専用の設備が必要ですが、緻密で硬い膜が作られます。
・空気浄化装置/ガラス/鏡/道路資材/照明用カバー/建材など、用途毎に最適なコーティング方法が選択されています。※詳細省略。

<光触媒と光>
・光触媒活性は、「入射光束×吸収効率×励起電子・正孔の利用率」で決まります。従って光量は重要です。アナターゼ型酸化チタンのバンドギャップは3.2eVで、「光の波長(nm)×光のエネルギー(eV)=1240」より、波長387nm以下の光を照射する必要があります。
・太陽光には紫外線(300~400nm)が3~4%しか含まれておらず、大半は可視光です。さらに屋内では屋外の1千分の1しかありません。そのため可視光応答型光触媒が開発されています(※エネルギーは足りるのかな)。代表的な可視光応答型光触媒が窒素ドープ酸化チタンです。これは酸化チタンの酸素の一部を窒素に置き換え、価電子帯を底上げし、応答性を高めています。

<長所・短所>
・光触媒の長所は、強い酸化力と超親水性を永久的に発揮する点です。酸化力は、塩素/過酸化水素/オゾンより強く、あらゆる有機物を分解します。また超親水性も他の物質には見られない作用です。さらに付け加えると、これらは光が当たっている時にだけ作用し、オン・オフが可能です。
・光が必要な点は短所で、また励起電子と反応する酸素も必要です。そのため真空中や酸素が少ない空間では、十分作用しません。また酸化分解は相手を選択できず、全ての物質を分解します(※イオン化傾向とかで、一応順番があるかな)。また酸化分解は光触媒の表面に限られるので、大量の分解はできません。

<実用化のためのヒント>
・光触媒には、強い酸化力/超親水性/無毒/化学的に安定/比較的安価などの特徴があります。万能に思えますが、製品化には注意が必要です。まず光触媒活性の量に制限があり、光量に比例した量しか作用しません。
・例えば悪臭物質を酸化分解させる場合、余りに大量だと完全に酸化分解できず、酢酸/ギ酸などの刺激臭を放つ中間物質を作ってしまいます。そのため脱臭/空気浄化では活性炭/シリカゲルなどの多孔性吸着剤が併用され、抗菌タイルなどでは銀・銅が併用されます。

第3章 光触媒はどこで作られる

<酸化チタンの原石>
・1789年チタンは発見され、その数年後ギリシャ神「Titans」からチタンと命名されます。チタンは「クラーク数」で10番目で、マンガン/ニッケル/銅より豊富です。
・酸化チタンの原石には、イルメナイト鉱/ルチル鉱/アナターゼ鉱があります(※結晶はルチル型/アナターゼ型/ブルッカイト型)。イルメナイト鉱は、TiO₂とFeOが1対1で結晶したFeTiO₃です。酸化チタンの原料として、最も用いられます。イルメナイト鉱を熱処理したチタンスラグ/合成ルチルも原料になります。一方ルチル鉱はTiO₂が主成分です。酸化チタンの原石は、世界各地で採取されます。

<光触媒原料粉末の生産>
・酸化チタンの原石から粉末が作られます。生産プロセスには、硫酸法(液相法)/塩素法(気相法)があります。硫酸法はイルメナイト鉱を硫酸で溶解し、FeSO₄を生成し、それを加水分解/熱処理して粉末にします。この製法で作られる粉末は鉄などの不純物を多く含み、光触媒活性は低くなります。また大量の廃棄物(硫酸鉄、廃硫酸)を排出します。
・塩素法は、ルチル鉱とコークスを燃焼させ、塩化チタンを生成させます(※塩素も同時に燃焼させるみたい)。生成した塩化チタンと酸素を燃焼(1500℃、1/10秒)させ、高純度の微粒子を生成させます(※ルチル鉱は酸化チタンが主成分なのにわざわざ塩化させるのか)。世界的には、この塩素法が使用されます。

<光触媒原料メーカー>
・石原産業/テイカ/堺化学工業/チタン工業/昭和電工などが、一般用酸化チタン(顔料用、塗料用)/光触媒用酸化チタンを製造しています。さらに住友化学が可視光応答型光触媒を製造しています。
・光触媒用は外装材/内装材/電気製品/車両/道路資材/農業/医療/空気・水・土壌浄化で使用されますが、大半がコーティング用です。そのため粉末だけでなく、光触媒コーティング液(ゾル、スラリー)も製造しています。これは密着性/透明性などで様々な種類があります。
・価格は、一般用酸化チタン粉末は400円/Kg、光触媒用酸化チタン粉末は4千円/Kg、コーティング液は5千~1万円/Kgになります。そしてメーカー/大学などの研究機関が可視光応答型光触媒の開発に取り組んでいます。

<ガラスのコーティング方法>
・光触媒産業の半数がセルフクリーニング効果の外装材です。ガラスへの光触媒コーティング方法は3種類あります。1つ目は、ガラスの製造時に焼き付ける方法です。耐久性に優れ、高層ビルなどに使用されます。2つ目は、コーティング液をスプレーなどで吹き付ける方法です。これは洗浄などの前処理や均一に吹き付けるなどの技術が必要になります。3つ目は、光触媒を含有したフィルムを貼る方法です。これは吹き付ける技術は必要ありませんが、洗浄などの前処理が必要になります。
・ガラスへの光触媒コーティングには課題があります。ガラス周りのシーリング剤が光触媒活性を損なうのです。これが課題として残っています。

<光触媒施工業者>
・既存建物のガラスや外壁への光触媒コーティングは施工業者が作業します。この作業には洗浄/マスキングなどの前処理や、透明な光触媒をコーティングする技術が必要になります。またセルフクリーニング効果を十分に発揮させるためには、太陽光と雨水が必要です。太陽光が不足すると、カビの繁殖が勝ってしまいます。※北面は効果がないかな。
・また塗り過ぎ/塗り漏れなどの失敗も起きます。アルコール系のコーティング液では、表面を白化させる失敗も起きます。この様な失敗を防ぐため、施工業者はメーカーと密に連絡を取る必要があります。※結構大変そうだな。

<ハイブリッド光触媒>
・光触媒は有益な作用ですが、他の技術と組み合わせる「ハイブリッド化」が行われています。抗菌タイルも光が必要ですが、十分に光が当たるとは限りません。そのため抗菌タイルに、銅・銀などの「抗菌性金属」を表面に固定し、ハイブリッド化しています。超親水性も光が必要です。表面にシリカを添加すると、暗い場所でも親水性が発揮されます。
・空気浄化フィルターでは、光触媒と吸着剤(活性炭、ゼオライト)でハイブリッド化が行われています。悪臭物質などを一旦吸着剤に吸着させ、大量分解しています。

<繊維への光触媒固定>
・消臭・抗菌の目的から、光触媒は繊維にも使用されます。しかし直接固定化すると繊維が酸化分解されます。また洗濯するため、強く固定化する必要があります。1つ目の方法は、光触媒を活性されないシリカで覆う方法です。繊維は光触媒に直接触れないため分解されませんが、悪臭物質などはシリカの網の目を通過し、酸化分解されます。
・骨や歯には「アルバタイト」が存在しますが、そのカルシウムをチタンに置き換えた「チタンアルバタイト」も光触媒活性を示します。これは樹脂に練り込んでも、樹脂を分解しないため、繊維に利用されています。

<金属チタンへの酸化被膜の形成>
・空気浄化・水浄化では一般的に、酸化チタンを固着させたセラミックフィルターが使われます。光触媒を強く固着させる方法として、金属チタンの表面を熱処理し、酸化チタン層を形成させる方法があります。この場合、酸化チタンは強く固着しているので、剥がれ落ちる事はありません。
・また金属チタンの陽極酸化処理も一般的に行われています。この方法は、サッシ/食器/飛行機などのアルミニウム資材で使われています。金属を硫酸/硝酸で電解処理し、金属表面に多孔酸化被膜を形成させます。
・金属チタンは軽量・強靭・耐薬品性で優れます。そのためフィルターに使っても、酸性溶液/アルカリ性溶液で溶解しません。

第4章 光触媒ビジネス

<外装コーティング>
・一般的に外装は汚れなどで、10年毎に塗り替えます。外壁は排気ガス(油分)/ちり/砂などが付着します。ところが光触媒を塗布すると、汚れは酸化分解され、超親水性で洗い流されます(セルフクリーニング効果)。外壁が影であっても、反射した太陽光で十分です。

<光触媒タイル>
・光触媒の酸化分解力は細菌/ウイルスにも作用します。これらを完全に酸化分解する必要はなく、殺菌できれば良いので、少ない紫外線で問題ありません。
・光触媒タイルの釉薬に酸化チタン混ぜて焼成処理します。手術室/トイレ/浴室などに使われます。ただトイレ/浴室などは紫外線が少ないので、銀・銅などの抗菌性金属も添加します(※ハイブリッド化だな)。また光触媒タイルは防藻効果もあるため、噴水/人工池/人工水路などにも使われます。また近年では外装にも多く使われます。※外装にタイルはイメージがない。

<窓ガラス>
・窓ガラスは排気ガス/砂埃などの汚染物質が付着し、それに水滴が付くようになります。ところが光触媒をコーティングすると、酸化分解力と超親水性で、これを防げます(防曇効果)。雨が降らない季節でも、水を掛ければ洗い流されます。
・既存の窓ガラスに光触媒をコーティングするには、「光触媒コーティング剤をスプレーする」「光触媒フィルムを貼る」などがありますが、耐久性が劣ります。一方光触媒を焼き付けた窓ガラスは、半永久的に作用します。この窓ガラスは、高層ビルなどで使われ、、清掃メンテナンスが不要になります。また車のサイドミラーにも使われています。※フロントガラス/リアガラスには使われないのかな。

<光触媒テント>
・近年白いテントが使用されるようになりました。東京ドームの白いテントも長く使用されています。テント材には塩化ビニル樹脂(PVC)/4フッ化エチレン(PTFE)が使用されますが、大気中の砂埃/オイルミストが付着します。ところが光触媒をコーティングすると、防汚できます。また薄色系のテントは、内部を明るくできます。そのためテント材は、体育館/倉庫/駅のホーム/店舗/オープニング・テラスなど、様々な場所で使用されています。

<空気清浄機①>
・近年光触媒を利用した空気清浄機が設置されています。これは安全/クリーンで、VOC(揮発性有機化合物)/タバコ臭・ペット臭/ウイルス・菌などを酸化分解します。
・光触媒空気清浄機は、光触媒フィルターと紫外線ランプが内蔵されます。初期の頃はハニカム型紙フィルターが使われましたが、今はセラミックやガラス繊維が使われます。それらには光触媒が焼成されますが、剝がれを防ぐため、シリカ(SiO₂)/アルミナ(Al₂O₃)などのバインダーが使われます。光源はブラックライト(?)/水銀ランプ/殺菌灯などが使われていましたが、最近は発光ダイオード(LED)も使われています。※空気清浄機の種類は沢山ありそうだな。

<空気清浄機②>
・光触媒空気清浄機は紫外線ランプが付くため、初期費用は高くなりますが、フィルターの交換がいらないため、維持費は安くなります。光触媒空気清浄機は業務用として使用される事が多く、病院/福祉施設/ホテル/レストラン/オフィス/研究所/食品加工/鮮魚加工/ゴミ処理/動物舎などで使用されています。これらでは様々な臭気がありますが、酸化分解されます。
・臭気だけでなく、殺菌も行われます。紫外線照射がない場合でさえ、48時間で30~40%が除去され、紫外線照射があると、15分間で80%が除去されます。※紫外線有無で差が激しいな。
※新幹線への設置が紹介されているが省略。対コロナ・ウイルスで、紫外線より光触媒の方が良さそうだな。

<生活用品>
・近年、住宅の密閉性が高くなっています。そのため臭いが籠ったり、アレルギーを惹き起すVOCなどが充満します。その他にも雑菌/ペット臭/タバコ臭などの問題があります。そのため様々な光触媒製品が実用化されています。
・光触媒製品には、空気清浄機(前節)/エアコン/タイル/カーテン/ブラインド/壁紙・障子紙/スリッパ用ロッカー/靴殺菌脱臭乾燥機などがあります。さらにスリッパ/エプロン/ユニフォーム/パジャマ/タオル/シーツ/布団カバー/靴下/ストッキング/下着などもあります。

<家電製品>
・近年の住宅は密閉性が高く、様々な臭いやVOCが問題になり、空気清浄機/加湿器/エアコンなどが使用されています。それで光触媒フィルターが使用されていると、ウイルス/細菌は殺菌されます。
・近年は冷蔵庫の野菜室にも光触媒が使用されています。野菜・果物はエチレンガスを発生させますが、それを分解します。また靴の乾燥機/下駄箱/スリッパ収納箱/掃除機などにも光触媒が利用されています。これらにも光触媒フィルターと紫外線ランプが必要になります。※「これら」とは「靴の乾燥機/~/掃除機」の全てかな。

<照明器具>
・蛍光灯は管内で電子と水銀が衝突し、紫外線を発生し、それが蛍光物質に当たり、可視光線になります。この紫外線を利用する光触媒の照明器具が出始めています。まず開発されたのがトンネル照明です。排気ガスで照明器具が汚れますが、カバーガラスに光触媒をコーティングすると汚れは分解され、清掃メンテナンスが不要になります。※蛍光管外に紫外線は漏れるのかな。また除去されるのかな。水を掛ければ除去できそうだが。
・家庭ではタバコ臭/ペット臭/生活臭やVOCなどの問題がありますが、光触媒で解決できます(※説明はないが、これもカバーかな)。また医療施設では、薬品臭/排泄臭/アレルギー物質/病原菌・ウイルスなどの問題が解決できます。また屋外では洗浄効果もあるため、玄関の外灯/街路灯/グラウンドの投光器などにも使用されています。また近年では可視光でも反応する光触媒製品の開発が進んでいます。

<トンネル照明灯>
・トンネル内の照明灯は排気ガス/粉塵などで汚れます。清掃作業が必要で、清掃作業時には交通規制が必要です。そこで「神奈川科学技術アカデミー」(KAST、※著者が勤務)などが、光触媒の酸化分解力を利用した光触媒付き照明灯を開発しました。これはカバーガラスに光触媒をコーティングしています。ただガラスに直接コーティングするとガラスが分解されるので、シリカで保護した後に光触媒をコーティングしています。※膜厚について解説しているが省略。
・1996年上信越自動車道で採用され、その後全国の高速道路で採用されています。ただし汚れの付着が光触媒の酸化分解力を上回るため、清掃作業は必要になっています。

<防音壁>
・大気汚染は排気ガスの窒素酸化物(NOx)/硫黄酸化物(SOx)によります。都市部では、これは深刻な問題です。この解決に光触媒が期待されています。その1つの方法が、防音壁に光触媒を塗装する方法です。防音壁にはアルミ製とコンクリート製がありますが、何れも対応できます。
・有害な窒素酸化物に一酸化窒素(NO)/二酸化窒素(NO₂)があり、特に二酸化窒素は呼吸器疾患などの原因になります。光触媒はこれらを硝酸イオン(NO₃⁻)に酸化し、無毒化します。硝酸イオンは雨水で洗い流され、この機能は長期間維持されます。

<歩道・アスファルト>
・窒素酸化物の一酸化窒素(NO)/二酸化窒素(NO₂)は大気汚染物資です。これは燃料が燃えると酸素と結合し、生成されます。これは光触媒により硝酸(HNO₃)に変換されます。屋外であれば光触媒に付着した硝酸は洗い流されます。
・日本のフジタ/太平洋セメント/石原産業によりセメントに光触媒を固定できるようになりました(フォトロード工法)。道路表面に固定された光触媒により、窒素酸化物は固定剤カルシウム(Ca)と結合して硝酸カルシウム〔Ca(NO₃)₂〕になり、雨により無害の硝酸イオン(NO₃⁻)/カルシウム(Ca²⁺)になり、洗い流されます。※道路表面の光触媒は剝がれないのかな。

<トマトの養液栽培>
・KASTなどが光触媒の農業への応用に取り組んでいます。トマトは地面で育てると、1年で枯れます。ところが養液栽培すると数年持ちます。従来は培養液を掛け流していましたが、環境配慮により循環方式に変わってきています。
・ところが循環方式にすると、培養液内にバクテリアなどが発生し、トマトの生育に悪影響を与えます。そこで循環させる培養液を屋外で光触媒処理し、生育阻害物質を酸化分解し、除去させています(※除去はどうするんだろう。フィルターなどを用いるのかな)。一方栄養素(窒素、リン、カリウム)は無機物のため分解除去されません(※無機物は酸化しない?)。光触媒処理槽は底の浅い槽で、酸化チタンを担持した多孔質セラミック板が敷かれます。
・光触媒処理を加えると、収穫量は2~4割増えます。トマト以外の水耕栽培でも、光触媒で殺菌する事で、殺菌剤/農薬などの使用を減らせます。

<種籾消毒廃液処理>
・種籾消毒の廃液の処理にも光触媒が利用されています。現在は活性炭に吸着させ、産業廃棄物として処理しています。しかしこの方法は労力を要し、しかも産業廃棄物を発生します。
・そこでKASTなどが、光触媒を利用した種籾消毒廃液処理に取り組みました。底の浅い槽に酸化チタンを担持させたセラミック板を敷き、廃液を1週間太陽光に当てると、殺虫剤・殺菌剤は二酸化炭素に酸化分解されました。これに宇部日東化成の「光触媒マット」を使用しました。

<カテーテル>
・医療では、光触媒はカテーテルに利用されています。カテーテルの材質はシリコンゴムで、体内の液体を排出したり、薬を投入するのに使われます。カテーテルは人体に直接触れるので、消毒が必須です。光触媒は抗菌性・防汚性があるので、この手間を削減できます。
・カテーテルは弾性素材のため、ディップコーティング法と酸処理で光触媒を固着させます。また体内では紫外線が当たらないため、抗菌金属の銀も添加します。

<ガン細胞>
・ガンは無秩序・無制限に細胞が増殖する病気です。また死因で最も高いのがガンです。治療法に、手術療法/放射線療法/化学療法/免疫療法/湿熱療法などがあります。
・光触媒は通常の光(1千ルクス)で殺菌できます。実験でマウスの患部に酸化チタンの超微粒子を注入し、紫外線を照射すると、ガン細胞の増殖が抑制されました(※体内の光触媒に紫外線照射は危険なのでは)。光触媒自体は無害です。また酸化チタンはX線照射でも光触媒作用がある事が分かってきました。そのため光触媒によるガン治療が期待されています。※X線はピンポイントで照射できたような。

<輸送分野>
・生鮮食品(青果物、鮮魚、花き)の輸送は鮮度の保持が重要です。一部の生鮮物はエチレンガスを放出し、そのエチレンガスで鮮度が低下します。また空気中のカビ・菌や臭気も問題です。
・そこで光触媒装置が付いた航空コンテナが開発されました。これに光触媒をコーティングした多孔質セラミックフィルターと紫外線ランプが付いています。さらに大型トラック用の光触媒装置も開発され、イチゴ/メロン/サクランボ/モモ/リンゴなどの輸送に使われています。※何れも電源が必要だな。
・花き輸送用の光触媒装置も開発されています。これでエチレンガス/粉塵/雑菌などを浄化しています。これまでは輸送用緩衝材(※ケース?)に発泡スチロールを利用し、割れる/汚れるなどの問題がありました。最近は高耐久性のボードに光触媒を塗布し、問題を解決しています。

<繊維・衣料>
・紫外線をカットする衣料品が多くあります。これは紫外線を吸収や反射させ、皮膚に到達させないようにします。光触媒で加工した衣料品は、①有機物の汚れを分解、②室内干しでも殺菌可能、③脱臭、④シックハウス/アレルギー物質の分解などの効果があります。
・しかし繊維に光触媒をそのまま加工すると、繊維自体を分解します。その解決策として、光触媒をアパタイト(※燐灰石)などで被覆する方法があります。アパタイトは分解されず、細菌・ウイルスなどの吸着に優れます。またバインダーを利用する方法もあります。無機バインダー(多孔質ケイ酸塩など)であれば、光触媒で分解されません。
・2007年繊維評価技術協議会が「光触媒抗菌加工繊維製品認証基準」(SEKマーク)を制定し、抗菌性に関する統一した基準になっている。

<紙・不織布製品>
・紙製品には、新聞/ティッシュペーパー/障子/紙などがあります。これらの原料であるパルプ/不織布に光触媒が加工されていれば、光が当たるだけで、空気洗浄・脱臭・抗菌などができます(※不織布は布では)。しかし光触媒を増やすと、素材が劣化します。その対処法として、①光触媒の表面を多孔質シリカで覆う(マスクメロン型)、②光触媒をセラミックで覆う(金平糖型)、③光触媒粒子を多孔質セラミックで内包する(中空多孔質マイクロカプセル型)などの方法があります。
・またアパタイト/活性炭/シリカゲルなどを紙に含めれば、光の当たらない時間はこれらが臭い/殺菌などを吸着し、光が当たると光触媒が分解します。
・光触媒は普通の細菌だけでなく、メシチリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)にも効果があります。近年介護・医療は拡大し、室内でペットを飼う事も多くなっています。

<人工観葉植物・造花>
・観葉植物・生花では、水やり/肥料/日照/温度・湿度などの管理が必要です。しかし人工観葉植物・造花ではそれが不要で、さらに光触媒加工すれば、消臭・脱臭/有害物質の分解/抗菌・殺菌/防汚などの効果があります。この加工は以下の手順で行われます。①人工観葉植物の洗浄、②基材に保護液を塗布、③光触媒溶液を塗布、④光触媒粒子の頭出し。
・用途は一般家庭では、花粉/VOCの分解、ペット臭・タバコ臭・生活臭の消臭です。医療・介護施設/学校では、医薬品/アンモニア臭の脱臭、細菌・ウイルスの殺菌です。
・一般的な光触媒は紫外線型です。「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)が「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト」を立ち上げ、「高感度可視光応答型光触媒利用内装部材の開発」に取り組んでいます。

<畜産>
・畜舎・堆肥舎から大量の低級脂肪酸/高濃度アンモニアが発生し、強烈な臭気になります。これまでは堆肥化/汚水浄化/脱臭が別々に検討されてきました。そこで微生物により前処理を行った後に、光触媒の抗菌・消臭効果で除去する方法が検討されています。
・また汚水については、活性汚泥(有機物を吸着・分解する微生物)で浄化した後に、凝縮・吸着する方法/生物処理/オゾン処理/電気分解などで脱色していますが、コストが高く普及していません。そこで光触媒による脱色が検討されています(※酸化分解で脱色されるのかな)。特に「ガラスクロス担持光触媒材料」を用いた畜産排水脱臭処理が注目されています。また光触媒を利用した脱臭/排水浄化/脱色の複合システムも検討されています。
・また近年の猛暑で、室温の上昇が問題になっています。光触媒を屋根・外壁・窓にコーティングし、少量の水を散水し、蒸発潜熱で室温を冷却する方法も検討されています。

第5章 大型光触媒プロジェクト

<光触媒の市場規模と将来予測>
・三菱総合研究所は、「2005年光触媒市場が1兆円になる」と予測しました。この経緯は亀井信一『これで光触媒のすべてがわかる!』に書かれています。関連市場を、快適な水回り/快適な空気環境/美観・イメージの向上の3領域に分けて算出しています。実際は2008年で800億円の規模になり、2010年は3千億円を超えると予測されています。水処理の応用分野の拡大や可視光応答型光触媒が普及すれば、市場はさらに拡大するでしょう。

<市場拡大に何が必要か>
・光触媒は、空気洗浄/水浄化/抗菌・殺菌/セルフクリーニングの4つの領域に分けられます(※抗菌・殺菌はいずれにも関係しそう)。空気洗浄とセルフクリーニングが最も進んでいます。
・セルフクリーニングは工場でコーティングされていますが、ペンキなどが普及すれば、さらに市場は拡大するでしょう。水浄化は少量の水しか処理できず、大量の処理が可能になれば、さらに拡大するでしょう。空気洗浄では可視光応答型光触媒が普及すれば、市場は拡大するでしょう。セルフクリーニングでは、防曇ガラスの高層ビルなどでの利用が増えれば、市場は拡大するでしょう。

<光触媒利用高機能住宅用部材プロジェクト>
・2003年経産省の「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)が「光触媒利用高機能住宅用部材プロジェクト」を発足させました。これは光触媒の超親水性を利用し、部材の放熱機能を高め、建築物の省エネを促すものです(※詳細説明があるが、水が必要になる)。実証実験で外壁表面温度を7℃、室温を2~3℃下げる事ができました。また電力は10~20%削減できました。このプロジェクトは可視光応答型光触媒の検討も行いました。

<NEDOプロジェクト>
・東京大学先端科学技術研究センターを中心に産学が連携した「省エネ循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト-国際競争力のある光触媒新産業の育成」(NEDOプロジェクト)がスタートしました。研究項目は以下です。
 ①光触媒共通サイエンスの構築-材料設計を行い、理論計算により、最適材料の設計・選択をする。撥水親水性変換を利用したナノ機能性部材を研究する。
 ②光触媒共通基盤技術の研究開発-光触媒部材の低価格化や耐久性向上、作成プロセスの効率化・高速化を研究する。
 ③高感度光触媒材料の開発-可視光応答型光触媒などの高感度化を研究する。
 ④酸化チタンの新機能開拓-撥水親水性変換、大量の水処理、廃棄物処理と高付加価値資源の回収、超音波照射による複合処理を研究する。
 ⑤光触媒新産業分野開拓-VOC(揮発性有機化合物)低減システム/PFC(フッ化炭素)処理システム(※これまでに説明がなかったシステムだな)の高効率化、都市冷却素材、土壌浄化システムを研究する。

<可視光応答型光触媒>
・可視光応答型光触媒の研究は20年以上行われています。その研究は、①酸化チタンに可視光を吸収する色素を付着させる、②バンドギャップが小さい半導体で光触媒反応する物質を探す、③酸化チタンに各種金属を打ち込むです。しかし何れも安定した技術になっていません。
・2001年豊田中央研究所が窒素ドープ酸化チタンによる光触媒反応を発表しました(※作成方法省略)。酸素が窒素に置き換わり、可視光でも応答するようになります。窒素以外では硫黄・炭素でも確認されています。なお窒素ドープ酸化チタンは黄色なので、応用範囲が限られます。

<クリーンで快適な生活>
・近年、生活環境の空気・水・食品などで様々な問題が起こっています。有害化学物質(ホルムアルデヒドなど)や自動車から排出される窒素酸化物の除去、病院での抗菌・抗ウイルス対策、土壌汚染対策なども求められています。

・光触媒のメリットは以下です。①自然エネルギー利用による省エネ、②メンテナンス軽減による省エネ、③環境負荷軽減による省資源・省エネです。
・光触媒の応用は以下です。
 ①住宅建材など-住宅への応用は盛んで、外装建材/外装タイル/窓ガラスなどに利用されています。
 ②医療関連-手術室のタイルから始まりましたが、今ではカーテン/衣服/空気清浄機にも利用されています。今後はガン治療でも期待されます。
 ③気体処理-新幹線のぞみの空気清浄機で利用されています。SRAS/鳥インフルエンザの殺菌でも期待されます。

第6章 拡大する光触媒ビジネス

<海水処理>
・近年漁業の発達により漁穫量は増え、水産養殖/放流なども行われるようになりました。水産養殖は限られた区域で行われるので、循環させる海水の衛生が重要になります。海水処理方法には、①塩素剤などによる化学薬品処理方法、②オゾン処理方法、③紫外線処理方法があります。しかし①②には毒性の問題があり、③は菌の活動を一時的に止めるだけで、殺菌はできません。
・ところが光触媒であれば殺菌できます。しかし光触媒だと、その近傍でしか作用しません。そのため大量に処理するための工夫が必要です。

<水処理>
・水は飲料としても利用されるため、水質汚染は重要な問題です。特に厄介なのが有機塩素化合物で、これは光触媒が登場するまでは処理できませんでした。
・水処理には、①微生物を用いた活性汚泥法、②塩素処理、③オゾン処理があります。しかし①では余剰土壌が生成され、②③では発ガン性物資が作られます。ところが光触媒であれば、余剰土壌も作られず、温度/pHの制約もなく、有害な気体も発生しません。さらに難分解性化学物資を分解できます。

・当初は排水に光触媒の微粒子を混合する方法が検討されていましたが、酸化チタンの分離が難しく、実用化されませんでした。近年では不織布に光触媒を担持させたフィルターで水処理を行う商品が市販されています。
・メッキ水洗では使用する水の清浄度が歩留まりに大きく影響するため、この製品が使用されます。他に飲料・食用品用水浄化、超純粋化処理(※純水化?)、医療用水殺菌、ウイルス・細菌の殺菌などに使用されています。

<人工観葉植物>
・近年、人工観葉植物・造花をいたる所で目にします。これに光触媒をコーティングし、汚れ難く、空気浄化機能を持たせた物もあります。
・神奈川科学技術アカデミー(KAST)などが鉢に空気浄化機を組み込んだ製品を開発しています。セラミック製フィルターに光触媒を担持させていましたが、高価なので、リサイクル発泡ガラスに光触媒を固定化させました。この鉢は、上部の人工観葉植物の交換が可能になっています。※面白そうな商品だな。メンテナンスフリーだし。問題は効果が目に見えない点かな。

<打ち水効果>
・ヒートアイランド現象は熱中症などの健康被害や、エネルギー消費の増大を招いています。この対策として、蒸発潜熱を利用した屋上緑化/保水性舗装などが導入されてきました。しかしこれらは何れも壁などの側面ではなく、上面での対策です。
・「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)の「光触媒利用高機能住宅用部材プロジェクト」で紹介したが、壁面に光触媒をコーティングすれば、水の薄い膜が作られ、蒸発潜熱により壁面の温度を下げる事ができます。これにより室温は2℃低下し、冷房空調を20%低減できます。※「愛・地球博」での光触媒の利用(打ち水効果)が紹介されているが省略。

<超親水性・超撥水性表面>
・超親水性の逆が超撥水性です。超撥水性表面に水を落とすと、水滴になります。葉が撥水性なのは油と、表面の凸凹構造(フラクタル構造)によります。レインコート/かさ/車のボディやガラス/スキー/スノーボードなどは人工的にこの超撥水性表面を作っています。
・光触媒と油(有機系化学薬品)で超撥水性表面を作ることができます。これが面白いのは、油が塗ってあると超撥水性ですが、紫外線が当たると油は分解され、超親水性に変わります。再度油を塗ると超撥水性に戻ります。※油の再塗布が必要なのか。メンテナンスフリーではない。

<ナノシート光触媒>
・光触媒をコーティングした防汚・防曇ガラスは広く利用されています。これは10~20nmの酸化チタン粉末を焼結しています。しかしこの方法では細かい油が付く、密着強度が不十分などの問題があります。
・密着強度を高めるために酸化チタン・ナノシートが提案されています。これは厚さ0.7nm/長さ数μmです(※幅はどれ位なのか)。しかしこれもガラスを保護するためシリカのアンダー・コーティングが必要で、2度焼結します。※ニオビア・ナノシート光触媒の説明もあるが省略。

<耐候試験>
・光触媒は外壁/窓ガラス/テントなど屋外で使われるため、耐久性が重要になります。光触媒自体は劣化しませんが、それを固定するためのバインダー(接着剤)は劣化します。劣化の原因は太陽光/雨/風/塵埃/油ミストなど様々です。
・耐久試験として促進耐候試験法にサンシャイン・ウェザーメーター/キセノン・ウェザーメーター/紫外線蛍光ランプ・ウェザーメーターがあり、JISにキセノンランプ法/紫外線蛍光ランプ法が規定されています。キセノンランプ法は太陽光と雨の試験で、500時間の試験が1年に相当します。※約20分の1に短縮できる。

<印刷>
・光触媒は超親水性を光によって制御でき、これをオフセット印刷に利用しています。オフセット印刷では超親水性/超撥水性の印刷版に湿し水を供給すると、親水部のみに水が残ります。これにインキを供給すると撥水部のみにインキが付着します。これをブランケットに転写し、さらに印刷物に転写します。この印刷版に光触媒の超親水性・超撥水性が利用できます。
・普通のオフセット印刷では、使用した印刷版は破棄されますが、光触媒を利用した印刷版は紫外線を当てると初期化され、何度でも使用できます。

<光触媒ナノファイバー>
・エレクトロ・スピニング法は溶液紡糸法の一つです。ポリマー溶液をシリンジからターゲットに噴射し、簡単にナノファイバーを作れます。厚さ1mmのシートを直径100nmのファイバーにすると、面積は2万倍に増えます。ポリマー溶液に様々な機能性材料を添加し、様々な機能を付加できます。
・KASTでは、このエレクトロ・スピニング法で光触媒ナノファイバーを作成しています。これによる空気浄化・水浄化が期待されています。またナノファイバーの径を変えたり、ナノチューブを作ったりしています。

<酸化チタンナノチューブ>
・光触媒の性能を向上させる研究が行われています。そこでホットなのが、酸化チタンナノチューブです。主に酸化チタンの粒子と水酸化ナトリウムによる溶液化学処理で合成されます。外径7~10nm/内径5~7nm/長さ数百nmのナノチューブです(※内管は簡単に潰れるのでは)。ナノチューブにする事で電子と正孔の寿命が長くなり、ハロゲン化合物の酸化分解効率も高まります。
・また硫黄を混ぜる事で、可視光でも作用するようにしています。またナノチューブの外側で酸化反応、内側で還元反応させ、サイトを分ける事ができます。※厚さが薄いチューブなのに可能なの?

<光触媒リソグラフィー>
・かつてはテレビ/ラジオなどに夥しい数のトランジスタ/コンデンサーが入っていました。しかし1958年テキサスインスツルメンツにより集積回路が発明され、今では10万個以上のトランジスタが入る超LSIがあります。
・このLSIの作成にフォトリソグラフィーが使われています。微細加工する基板にレジストを塗布し、露光によりパターンを転写します。これにより露光部と未露光部で現像液に対する溶解性に差ができます。最後にレジストを除去してリソグラフィー工程は終わりです。

・光触媒は非接触酸化反応が可能で、光触媒リソグラフィー法として利用できます。基板に疎水性の有機分子膜を形成し、これに酸化チタン膜を向かい合わせ、紫外線を照射し、エッジングします。この方法はドライプロセスで装置も簡単になります。ただ反応は少し遅くなります。

第7章 世界の動き

<光触媒工業会>
・光触媒には、防汚/防曇/抗菌/空気浄化/水浄化などの作用があり、生活/自動車・運輸/建築などの分野で利用されています。一方で、品質・性能の向上と標準化が求められています。そこで光触媒工業会が設立されました。
・光触媒工業会は以下を目的にしています。
 ①光触媒の材料・製品を製造・販売する民間企業の参画を得る。
 ②各分野のユーザー企業/関係省庁・機関の参画を得て、消費者の意見・要望を反映し、問題を明確化する。
 ③光触媒材料研究会などの協力を得て、諸問題を解決する。
 ④光触媒製品の健全な市場を形成する。
・また活動内容は以下です。
 ①光触媒製品の標準化・規格化。
 ②光触媒製品の品質・性能・安全性の向上。
 ③光触媒製品の認知推進。
 ④光触媒技術の応用拡大。
 ⑤光触媒に関係する機関・団体の交流・協力。
 ⑥消費者団体との関連。
・光触媒製品にはまがい物も見られ、信頼を失いかねません。こうした中、光触媒工業会は光触媒技術の応用・拡大・認知を通じ製品の普及を図り、技術を向上させ、高品質の製品を供給し、健全な市場の形成を促す。※この辺しつこいので省略。

<海外での動き-アジア>
・中国でも光触媒は盛んに研究されています。国家大劇場の屋根は光触媒がコーティングされています。光触媒を使用したコーティング液/塗料/フィルター材料/造花など、多様な製品があります。
・韓国では2002年光触媒研究会、2003年韓国光触媒協会が設立されました。タイル/ガラス/空気清浄機用フィルター/道路標識などが製品化されています。規格化も進みつつあり、特許申請も活発です。
・台湾は、経産省の産業技術総合研究所と共同研究しています。台湾光触媒工業会が設立され、規格化も行われています。※他の国の状況は省略。

<海外での動き-欧州>
・欧州での光触媒の普及は、ドイツの建材メーカーがTOTOから技術を導入し、超親水性のタイルを販売した事に始まります。これはチェコのペテルカ博士が、著者藤嶋の光触媒の解説書をチェコ語に翻訳した事が始まりです。
・欧州ではセルフクリーニング・ガラスへの関心が強く、複数の会社が製品を出しています。また企業・研究機関などによる光触媒セルフクリーニング・ガラス・プロジェクトが始動しており、基礎研究が進められています。※それ以外の事例が紹介されているが省略。

<海外での動き-米国>
・米国では3つの研究が進められています。テキサス大学オースティン校が、水処理や空気清浄機の応用を試みています。ウィスコン大学でも水処理の研究が行われています。カリフォルニア大学ではガスマスクなどの空気浄化法の応用が始まっています。
・またPPGなどの企業がセルフクリーニング・ガラスを上市しています。BEHRは光触媒によるNOx削減に積極的です。2008年光触媒の国際会議がカリフォルニア州サンディエゴで開かれます。

<学会発表>
・神奈川科学技術アカデミー(KAST)には、「光触媒ミュージアム」以外に「光触媒オープンラボ」があります。会員は酸化チタンのコーティング/評価ができます。また2ヵ月毎に光触媒技術情報誌を配布しています。これには論文の要約や光触媒製品のカタログが載せられ、500ページにも及ぶ情報誌です。この情報誌に学会(日本化学会、電気化学会、光化学討論会、触媒学会など)の発表件数(2008~09年)が載っています。日本化学会は128件、日本セラミック協会は117件の発表しています。※この発表は学術的なものかな。
・「太陽光エネルギーの化学的変換国際会議」が2年毎に開かれています。そこでの主テーマが光触媒です。※他に「酸化チタン光触媒国際会議」「国際光化学会」などを紹介しているが省略。

<規格化-JIS>
・光触媒には空気浄化/水浄化/抗菌・殺菌/セルフクリーニングの機能がありますが、効果の評価方法が規定されていませんでした。そこで2002年「光触媒標準化委員会」が設置され、JIS化が進められました。
・2004年「空気浄化試験方法-窒素酸化物の除去性能」、2006年「抗菌性試験方法」、2007年「セルフクリーニング性能評価方法」「水質浄化性能試験方法および紫外線励起形光触媒試験用光源」、2008年「空気浄化性能試験方法-アセトアルデヒド/トルエン除去性能」「抗かび性試験方法」が制定されました。今後も制定されていきます。一連の制定でバラバラだった評価方法は統一され、消費者にも分かり易くなりました。

<規格化-ISO>
・光触媒は日本発の技術です。またJISが、光触媒性能を評価するための試験方法を標準化しています。この市場は世界で拡大していますが、消臭効果/抗菌効果など、目に見えないものが多く、まがい物もあります。
・光触媒の国際規格化(ISO化)は、日本が幹事でファインセラミックの標準化を行っている「ISO/TC206」が担当しています。ここに設けられたWG33/WG37は、アジア5ヵ国/欧州7ヵ国/北米2ヵ国/その他2ヵ国で構成されます。2007年NOx分解試験方法が制定されました(※JISは2004年かな)。現在、空気浄化/水浄化/セルフクリーニング/抗菌などが審議されています。

<規格化-安全性>
・光触媒の安全性とは、光触媒自体の安全性と活性酸素の安全性です。酸化チタン自体は無害ですが、担持させるためにバインダーや分散剤(?)を使用します。抗菌タオル/抗菌衣類など皮膚に触れる物もあり、製品として安全性を確認する必要があります。
・適量の活性酸素は問題ありませんが、過剰に吸収すると細胞が酸化され、老化/ガンの原因になります。発生する活性酸素は光触媒表面の極近い所で、しかも活性酸素は不安定なので、短期間しか存在しません。
・シックハウスの原因であるホルムアルデヒドを酸化すると、中間生成物としてギ酸が生成されます。またタバコ臭の原因であるアセトアルデヒドを酸化すると、中間生成物として酢酸が生成されます。これらは少量なので害はありません。

<規格化-可視光応答型>
・光触媒市場の60%がセルフクリーニングを目的とした外装材です。酸化チタンには抗菌・殺菌効果がありますが、紫外線でしか応答しないので、可視光応答型光触媒の開発が望まれます。
・2006年よりJISが、この可視光応答型光触媒の標準化を進めています。空気浄化では、VOC(ホルムアルデヒド、トルエン)/悪臭(アセトアルデヒド、メチルメルカブタン)/NOxの試験の標準化を進めています。セルフクリーニング/抗菌の試験も標準化予定です。光源となる可視光の範囲を380~780nmとし、白色蛍光ランプとしています。※波長が変わると、エネルギーも変わるかな。

付録

<特許情報>
・神奈川科学技術アカデミー(KAST)は、隔月で「光触媒技術情報誌」を発行し、これに特許情報を記載しています。これを解析すると、光励起親水性が発見された1994年以降出願件数が増え、1998年1千件を超えますが、その後減少します。2003年以降増加に転じ、今は約1200件で横ばいです。
・2007年度の内訳は、機能別ではセルフクリーニング・防汚/空気洗浄が共に30%、水浄化/抗菌が共に10%となっています。技術内容では、製品開発54%/素材・材料開発23%/製造方法23%となっています。従来は素材・材料開発が53%だったので、応用に向かっています。また光触媒は、半導体/印刷/歯科医療/遊戯など幅広い分野で利用されています。

<特許庁資料>
・特許庁の「特許出願技術動向調査報告書-光触媒」は、特許出願動向/市場動向/研究開発動向を詳記しています。1995年光励起親水性の発見以降、出願件数が増え、1999年1200件になり、以降減少しています(※前節と1年ズレている)。総出願数は、日本87%/米国7%/欧州6%です。※珍しく日本が独占している。
・企業別では、東陶機器(TOTO)672件/産業技術総合研究所207件/松下電器145件/日立製作所140件などです。技術分野別では、光触媒材料28%/光触媒活性24%/製造方法17%/光触媒機能22%などです。
・市場規模は1998年以降、急速に拡大し、2002年は300億円です(※古いデータだな)。これを分野別に見ると、外装材61%/内装材20%/道路資材6%などです。2002年以降空気清浄機が伸びています。

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