『伏魔殿』望月衣塑子/田原総一朗/前川喜平/山田厚史ほか(2020年2月)を読書。
長期政権となった安倍・菅政権の全体像を解説。
主に2019年後半の出来事を解説。
これらは官邸主導が大きく影響していると考えられる。
また報道/教育などについても触れている。
お勧め度:☆☆☆(読む価値はある)
内容:☆☆☆(大変詳しい)
キーワード:<はじめに>忖度、本気の政治家、<新聞記者>伊藤詩織事件、官邸記者クラブ、女性の仕事、<性暴力訴訟>民事訴訟、密室、逮捕状執行停止、<権力に近寄り過ぎたジャーナリスト>韓国軍慰安所、事実に殉じる、<桜を見る会>ジャパンライフ、マルチ商法、招待状、<官房長官の記者会見>招待者名簿、IR事業、日韓関係、<官房長官の急失速>首相候補、日本郵政、菅義偉、忖度、<天国から地獄へ>菅原一秀、河井克行・案里、小泉進次郎、<新NHK会長>前田晃伸、富士銀行/みずほホールディングス、<文科相の身の丈発言>大学入試改革、萩生田光一、<憲法改正>秋元司、衆院解散、<憲法改正を阻んだA級戦犯>下村博文、道徳の教科化、教科書、加計学園、<アベ友官僚>佐川宣寿、和泉洋人、北村滋
はじめに 田原総一朗
○時代が要請する本気の政治リーダー
・安倍政権は森友・加計学園問題を切り抜け、「何をやっても大丈夫」となった。「桜を見る会」の名簿は破棄された。それでも安倍政権の支持率は下がらず、自民党に「次は自分だ」と名乗り出る者がなく、禅譲を待つだけの不健全な状態にある。
・唯一石破茂がいるが、自民党員・議員は彼を総裁にする度胸はない。これにより「忖度の時代」になった。誰もが官邸に忖度するようになり、日本の中枢はおかしくなった。菅官房長官(※内閣官房長官を官房長官と表記。以下同様)/岸田文雄政調会長がいるが、彼らは外交が弱い。岸田は、前回の総裁選に出ていない。
・本気の政治家に田中角栄/中曾根康弘/小泉純一郎がいた。小泉は、「殺されてもいいから、田中派をぶっ潰す!」と言った。
第1章 映画『新聞記者』とジャーナリズム 東京新聞・望月衣塑子記者が語った「官邸記者クラブ」の変貌と「同調圧力」への挑戦
・ジャーナリズムをテーマにした『新聞記者』(2017年)は異例のベストセラーになった。森友・加計学園問題/伊藤詩織事件をモチーフにした映画『新聞記者』も広く一般に訴求した。官邸記者クラブで「直球質問」する東京新聞・望月衣塑子記者にインタビューした。※本章は実際はインタビュー形式になっている。
○異例のヒット『新聞記者』
・映画『新聞記者』(2019年)は異例のヒットになった。内閣情報調査室(内調)の方々から「カッコよく描いてくれてありがとう」と言われ、政権側からも賛否両論があった。森達也監督のオウム真理教を扱った『A』も公開されている。彼は「集団の中に1人の人間が組み込まれた時の怖さ」をテーマにしたのでしょう。
・『新聞記者』では主人公の女性記者を韓国人の女優が演じています。これに政治的な背景はなく、河村光庸プロデューサーは演技力に拘ったようです。
○伊藤詩織さんの勝訴と意味
・私(※望月氏)が官房長官の記者会見に出席するようになった切っ掛けは、伊藤詩織事件です。裁判所が出した逮捕状が、執行直前で取り消されたからです。山口敬之は刑事訴訟では不起訴になりますが、民事訴訟では伊藤さんが勝訴しています。
・事件後、彼女は弁護士に相談したり、警視庁に被害を訴えています。事件後に山口氏は彼女にメールを送っており、それも証拠になります(※詳細省略)。また山口氏が「北村さま」へのメールを、『週刊新潮』に誤送信したメールもあります。こも宛先は内閣情報官だった北村滋が疑われます。
○山口氏と政権の親密な関係
・私は事件記者だったので、逮捕状の取消しを調査しましたが、裁判所が発付したものを警察が止めるのは異例です。しかし性犯罪は証拠が不十分で、起訴されないケースが多くあります。そのため警察は容疑者を逮捕して、徹底的に捜査するのが普通です。
・山口氏がTBSを退社した後、菅官房長官と親密な広告代理店が、彼を経済的にバックアップしています。安倍政権では疑惑を掛けられた国家公務員が海外転勤となるケースが多く見られます。
○官邸記者クラブの何が変わったか
・私は官邸記者クラブで「同調圧力」に屈せず、質問を続けました。これは共感され、官邸の記者会見も注目されるようになりました(※これは正確には定例の記者会見ではなく、その後のオフレコの会見かな)。私が頑張る事で、他の記者も質問が増えた気がします。「桜を見る会」について質問がある時、官邸報道室長が「公務がありますので」と打ち切ろうとしました。これに番記者の幹事が「それはおかしい」と主張しました。こんな事は2・3年前にはなかった事です。
・官邸記者クラブは親安倍/反安倍に分かれています。ただ「桜を見る会」については読売新聞も厳しい質問をするようになりました。私に移籍のオファーがありました。しかし社会部の記者で官邸の記者会見に出られるメディアは多くありません。東京新聞なので出続けられるのです。※東京新聞は潰されないのかな。どんな新聞社なのか。
○先輩記者が語った後藤田官房長官の度量
・私が官邸の記者会見に出始めた頃は、記者は淡々とパソコンに入力するだけでした(予定調和)。森友学園問題で世間が騒いでいても、その場は平穏としていました。
・以前先輩記者から後藤田正晴・官房長官の話を聞きました。彼は番記者に限らず、誰からも質問を受けていました。そして自分の言葉で答えました。彼は逆に質問しない記者を信用していませんでした(※こんな事から彼は称賛されるのかな)。しかし今の政治家は、質問させなかったり、質問した記者に逆に質問して、恫喝したりしています。
・私は政権批判の急先鋒なので、野党との距離が近くなっています。しかし同志化しないようにしています。また政治家の懐に入れば情報は取れますが、取り込まれ過ぎると何も書けなくなります。これはジャーナリズムの永遠のテーマです。私は事件記者だったので、検察には深く食い込みました。しかし政治家に深く食い込むのはジレンマがあります。どの記者も最初はベッタリ記者になろうと思っていた訳ではありません。初心を忘れたくありません。
○女性記者達の勇気
・伊藤詩織さんが真実を告発した事は、女性記者に大きな影響を与えました。2018年財務省事務次官がセクハラで更迭されますが、告発したのはテレビ朝日の女性記者です(※日本のMe too運動は、この頃から始まったのかな)。彼のセクハラは以前から有名でした。ネタ優先で、セクハラを黙認していたのです。しかし彼女は「取材対象者と正常に向き合うべき」と考え、告発したのです。これは女性の仕事の仕方の問題提起になりました。
・今はSNSなども世論に影響を与えます。「権力側はテレビ・新聞を管理すれば大丈夫」の時代ではなくなりました。「桜を見る会」も、共産党の議員が質問した時点では大きな話題になりませんでした。新聞記者にしかできない仕事を念頭に入れ、仕事を続けたいと思っています。
第2章 伊藤詩織さん「性暴力訴訟」 東京地裁に却下された元TBS記者山口氏の「合意あり」ストーリー 別冊宝島編集部
○東京地裁の「想定内」判決
・2019年12月東京地裁は元TBSワシントン支局長・山口敬之に慰謝料など330万円の支払を命じ、ジャーナリスト伊藤詩織さんが民事訴訟の一審で勝訴します。判決後に両者は記者会見を開き、新たな事実も明らかになっています。この事件が大きく報道されるのは男女間の問題だけでなく、「山口氏が逮捕を逃れた」との疑惑があるからです。彼は『総理』『暗闘』を出版し、安倍首相と近い距離にいた記者です。
・事件から2ヶ月後、米国から帰国する彼に裁判所が逮捕状を出していましたが、直前で警視庁刑事部長・中村格により執行が停止されます。彼は菅官房長官の元秘書官です。逮捕中止は国会でも取り上げられたが、解明には至っていません。山口氏は不起訴になるが、伊藤さんが冒頭の民事訴訟を起こしました。
○妻子あるTBS幹部の職業モラル
・安倍首相周りの保守言論人は山口氏を擁護していたが、一審判決後は沈黙します。その後も支持するのは、雑誌『Hanada』の編集長・花田紀凱と文芸評論家・小川榮太郎位になります。山口氏はTBSを退社する前、1400万円の給与と、2社から顧問料を受け取っていました。しかし判決後はそれを失います。
・そもそもこの事件は、非常に恥ずかしい話です。ワシントン支局長であった彼は、2回りも下の女性に好意的なメールを送り、「仕事を紹介する」と飲みに誘っています。最大のミスティックは性交渉を持った事ですが、これから一緒に働く可能性がある女性です。この様なので、彼の発言に説得力はありません。職業上のモラルが問われます。
○裁判所に提出された主張
・この事件が知られるようになったのは、2017年5月伊藤さんが「性被害を受けた」と記者会見したからです。彼女は、2015年4月山口氏と酒席を共にし、酩酊し、ホテルで準強姦被害を受けたと主張します。2017年9月彼女は民事訴訟を起こし、10月『Black Box』を出版し、ベストセラーになっています。
・この事件で注目されるのは、「合意の有無」と事件後に彼が政治家・官邸官僚に相談したかです。まず前者については、彼は裁判所への陳述書や『Hanada』で状況を説明しています。彼は「自分は社会的地位を築いており、家庭もあり、年齢が離れた彼女と危険を冒す考えはなかった。そんな精神的余裕もなかった」と主張しています。しかし性行為に及んだのだから、説得力はない。また事件前に「一時帰国するから、空いている夜はない?」と彼女にメールを送っています。
○「何もしないから」とホテルへ
・裁判所に提出された「タクシー運転手の陳述書」がある。これには彼女が「近くの駅まで」と伝え、目黒駅に向かった。しかし駅近くになって、彼は「都ホテルに」と行き先を変更し、「仕事の話があるから。何もしないから」と言っています。タクシーから降りると、彼女は嘔吐した。その後彼女は抱えられ、シェラトン都ホテルに入った。
・彼女は「すし店のトイレの後から記憶がなくなり、意識が戻ると、彼が上に乗っていたと」と述べています。以下は彼の説明です。密室の出来事ですが、裁判所は彼の主張を退けます。
○私は不合格でしょうか
・ホテルの部屋に入ると、彼女はバスルームから出て来なくなった。彼女は嘔吐しており、ブラウスを脱ぐのを手伝い、ハンガーに掛けた。その後彼女は一方のベッドで寝入った。午前2時頃彼女は目が覚め、「喉が乾いた」と言ったので、自分が買ったお茶を出すが、冷蔵庫のミネラルウォーターを飲んだ。彼女は「私は不合格ですか」と訊くので、「それとこれは別だ」と答えた。彼女は「支局に入れてもらえば、貢献できると思います。迷惑を掛けたのはすみません(※酔っ払った件)。私は不合格ですか」と訊いてきた。彼女は記憶を失っていた述べているが、これは矛盾している。
○密室の中のストーリー
・彼の説明を続ける。私(※山口氏)は「寝なさい」と催促し、2人は別々のベッドに横になった。彼女は「まだ怒ってますね」「少しでもチャンスがあるなら、こっちに来て下さい」と言った。私は彼女のベッドに座った。彼女は寝返りを打ち、私の手の上に手を置き、「絶対、貢献します」と言った。
・彼は「彼女は私の怒りを収めたいために、懐柔策を取った」と主張している。その後性行為に至ったと説明している(※詳細省略)。しかしこれは彼の説明である。
○合意をめぐる最大の疑問
・彼は2点を主張している。彼女に性的関心はなく、性行為に至ったが、それには合意があったとの主張である。しかし彼女が「体を張った」のであれば、彼女が性被害を訴えるはずがない。事件後も採用に関するやり取りは行われており、性行為が条件になったとは思えない。
・密室での出来事なので、結局は裁判所はどちらが正しいのか判断できない。しかし彼女は自分の名前と顔を晒しても、彼を訴えたかったのだ。
○北村氏に直ぐに相談メール
・今回の事件もう1つのポイントは、彼の逮捕が執行停止になった件である。2015年6月彼は帰国する事になり、この時警視庁高輪署が彼を逮捕する予定になっていた。しかし警視庁刑事部長・中村氏の決裁で執行停止される。後に彼は、これを「事件の内容から、逮捕の必要はないと判断した」と述べている。彼は菅官房長官の秘書官を務めた「官邸官僚」である。
・山口氏は致命的な失態を演じている。『週刊新潮』からの質問状を、「北村さま、週刊新潮から質問状が来ました、伊藤の件です」とメールを週刊新潮に送り返している(※正しくは新潮社かな)。週刊新潮は、この北村を警察官僚出身の北村滋・内閣情報官と断定している。彼は官邸の危機管理を一手に担い、「首相動静」に毎日の様に登場し、「官邸のアイヒマン」と呼ばれる人物である。このメールから「逮捕状執行停止」との関連が疑われた。
・この宛先について、山口氏は「昨年亡くなった父の友人です。迷惑が掛るので、これ以上は申し上げられません」と述べている。かつて似た弁明をした政治家がいた。政治資金の流用を疑われた舛添要一・東京都知事である。「旅行先のホテルで、ある出版社の社長と面談した」と述べたが、その社長の名前を絶対に明かさなかった。山口氏が「北村さま」の素性を明かさないため、一層信頼性を低下させている。
○ベッタリ記者の末路と教訓
・山口氏の反訴の訴状には以下とある(※大幅に省略)。
本来準強姦罪などは個人法益(?)に対する罪であり、個人的な性暴力被害の範疇に留まる犯罪類型である。ところが本件は政治的に悪用されている。
これを象徴するのが、反訴被告(伊藤)の審査申立書に『週刊新潮』の記事が添付されており、その見出しは「安倍首相ベッタリ記者の準強姦罪逮捕状」である。これらは世間の反感を煽っている。これは反訴原告(山口)が首相との個人的な関係から、警視庁刑事部長に政治圧力を掛け、逮捕状を執行停止させ、犯罪事件をもみ消したと事実を歪曲させている。
従って反訴被告(伊藤)の各種報道には政治的な意図が垣間見える。反訴被告の背後に政治的立場・思想の持ち主の存在が強く疑われる。
※反訴って、こんな構図になるのかな。伊藤に対してではなく、メディアに対する訴訟みたい。
・これは陰謀論めいた主張だが、山口氏が「北村さま」の素性を明かせば解決する問題である。また彼が官邸官僚・政治家に逮捕の停止を依頼していない可能性もある。彼が逮捕されると政権にダメージを与えるので、官僚が忖度し、先回りして停止した可能性もある。また彼は逮捕状に関し、以下の反論をしている。
薬物・飲酒酩酊などを利用した準強姦を検挙するには、速やかな薬物検査やアルコール検査が不可欠である。当然裁判所はこれを認識している。ところが本件は事件から5日後に警察に出向いている。従って警察幹部が検挙できないと判断したのは当然である。そのため警視庁本庁が、捜査情報を垂れ流す高輪署の捜査権限を取り上げたのは当然である。
・ジャーナリストのキャリアと「首相のお友達」の2つのステータスを同時に失った。余りに残酷な話である。
第3章 詩織事件が教える権力に近付き過ぎたジャーナリストの末路
○本人が語った退社理由
・2012年第2次安倍政権がスタートして以来、多くの「アベ友」が消えた。元TBSワシントン支局長山口氏もそうである。2016年5月彼はTBSを退社しているが、伊藤さん事件はその前年の4月である。
・多くの人は「彼は伊藤さん事件で退社した」と思っているが、事件直前、彼は『週刊文春』にある記事を寄稿していた。そしてその後、営業局に異動させられていた。その記事は『週刊文春』(2015年3月26日発売)に掲載された「韓国軍にベトナム人慰安婦がいた、米機密公文書が暴く朴槿恵の急所」である。
・この内容は、「ベトナム戦争中、韓国軍がサイゴンに慰安所を設けていた」とするもので、「これが米国の公文書に明示されていた」とした。これは慰安婦問題で韓国政府と対立する安倍政権の追い風であり、保守系メディアはこの寄稿で韓国を攻撃した。
・TBSはこの寄稿に至る手続きを問題視し、4月23日彼をワシントン支局長から解任した。つまり彼はこの時期に寄稿問題と伊藤さん事件を抱えていた事になる。※寄稿と準強姦の関連を疑ってしまう。
・彼女が原宿署に相談したのが4月9日である。警視庁記者クラブの報道機関の社員を逮捕する場合、慣例として各社に伝える事になっている。しかしこの「幹部社員の不祥事」をTBSが知っていたかは定かでない。
・後に山口氏は、次の様に述べている。※大幅に簡略化。
TBSを辞めたのは、取材した事を報道できなくなったからです。私は韓国軍が慰安所を設けていた事を公文書館で知りました。しかし上層部は「これはデリケートな問題なので報道しない」と消極的でした。結局ワシントン支局長を解任され、営業局に異動させられました。当初は仕事に励んでいましたが、取材した成果を報道できない会社に所属していても仕方ないと考え、退社しました。
・彼は退社と同時に『総理』を出版し、ベストセラーになっています。また彼は気鋭のジャーナリストとして高く評価されていました。
○リサーチャーの仕事を自分の手柄に
・2017年5月伊藤さんが性被害を実名で記者会見すると潮目が変わります。さらに10月、彼女は文藝春秋から『Black Box』を出版します。
・文藝春秋は山口氏のスクープを『週刊文春』に掲載した会社です。当社の記者が以下の様に述べています。※大幅に簡略化。
弊社の新谷学・編集長が山口氏を書き手として発掘したのです。しかし『週刊文春』とは別に、伊藤さんの企画が進んでいました。また山口氏が伊藤さんに告発された事で、山口氏には触れない事になりました。
一方新潮社は、OBが伊藤さんの相談に乗り、政権と山口氏との癒着を暴き始めていました。そして2017年10月『週刊新潮』が、「山口氏のスクープの虚構性」を報じます。これは「山口氏は安倍首相をアシストするために寄稿したが、それは捏造に近い」とする記事です。
公文書館を実際にリサーチしたグリーン誠子は『週刊新潮』の記者に、「公文書館の調査は私1人がしました。それを山口氏は自分が調べたように書いています」と答えています。
・ここからして粉飾が疑われる。現地で同じ公文書を確認した有馬哲夫・早稲田大学教授は『週刊新潮』に次の見解を寄せている。
この公文書は、米軍の物資が売り捌かれているなどの不正を調査するため、取引の温床になっている「トルコ風呂」を捜査した文書です。問題は軍が管理する慰安所なのか売春宿なのかですが、その記述はない。一般に開かれており、山口氏が言うように慰安所とするのは間違いです。
○次々に否定された証言内容
・さらに『週刊新潮』は、慰安所について証言した元米軍大佐に山口氏の記事を読ませた上で、証言内容を再確認している。すると彼は「慰安所の存在を直接は知らない」と言っています。
・このスクープ記事は、元々はTBSが報道するためでしたが、山口氏と上層部が揉めた事で「お蔵入り」します。しかし彼が発表する事に拘り、『週刊文春』に寄稿したのです。さらに産経新聞などにゲラを送り、官房長官記者会見などで記者に質問させようとしています。これらは安倍外交をアシストするためです。
・先の有馬・早大教授は、「本来は韓国軍による女性の監禁・レイプを、戦争犯罪/人道に反する罪として問うべきです。しかし彼は韓国政府による日本軍の慰安婦問題に反論するために、この記事を書いたと思われる」と述べています。
○権力に近付き過ぎた男
・彼は安倍首相周辺で、特に「アベ友」レベルが高い記者でした。本人も自覚しており、『総理』のあとがきに次の様に書いています。※大幅に簡略化。
私は26年の記者人生で多くの政治家と付き合い、重要政策の立案で意見交換し、政局の重大局面で役割を果たした。私は「取材対象に近過ぎる」との批判を受けたが、そうしないと権力の中枢が見えない。だからと言って、事実を歪曲する事はしなかったし、特定の政治家を誹謗中傷する事もしなかった。政治家に食い込むため、一線を越える記者や敵対する政策/政治家を根拠なく誹謗するキャスターもいる。しかし私は「事実に殉じる」を内なる覚悟としてきた。
・この「事実に殉じる」は重要だが、難しい事である。権力に近付き過ぎ、「事実に殉じる」を見失ったのではないだろうか。自らを権力者と勘違いした人間の「残酷な末路」である。
第4章 桜を見る会の焦点 安倍首相とジャパンライフ
○ジャパンライフと安倍家の接点
・「桜を見る会」で区分60が焦点になったのは、マルチ商法で知られたジャパンライフ(※以下同社)の山口隆祥元会長が招待されていたからだ。2015年彼は招待状を受け、その番号を記した宣伝チラシを作成していた。
・全国に被害者を出した企業のトップを、総理枠とされる区分60で招待していた事になる。内閣府は招待者名簿を「すぐさま破棄した」と主張しており、これは安倍首相と彼との接点を隠すための工作と思われる。しかし「文書破棄」「資料隠蔽」は、罪をより深めている。これは森友・加計学園問題と全く同じ手口である。野党の追及に安倍首相は「彼と個人的な関係は一切ない」と説明している。
○ネットワークビジネスの伝説的人物
・1942年山口隆祥は群馬県に生まれる(※上野には国定忠治がいたな)。彼はネットワークビジネスの有名人である。1973年ネットワークビジネスの第1次ブームが起きる。「APOジャパン」「ホリディマジック」、彼が創業した「ジェッカーチェーン」が「3大マルチ」と呼ばれた。しかしジェッカーチェーンは公正取引委員会から「ネズミ講式マルチ商法」として行政処分を受け、1976年に倒産する。
・その直前、彼は同社を設立し、同様の手法で磁気マットレスや羽毛布団を扱う。当初8億円だった売上高は、1983年には450億円に達する。この背景にあったのが政財界への献金で、同郷の中曽根首相/石原慎太郎/安倍晋太郎などに献金している。彼は同社に監督官庁のOBを招き入れ、事業を円滑に進めた。1983年法人税法違反で告発された社長を退任させ、、後任に警察官僚OB・相川孝を社長に据えた。※警察官僚はこんな形で天下るのかな。
○1984年ニューヨーク旅行の仕掛人
・野党は安倍首相と山口氏の接点を、1984年のニューヨーク旅行とした。当時安倍首相は父・晋太郎外相の秘書をしており、その時山口氏に会っている。これを元新日本プロレス営業本部長の新間寿が語っている。彼は新日本プロレスを発展させた人物で、その後同社に移籍し、政界工作の土台を作った。しかし安倍首相は秘書になったばかりで、何も知らなかったと思われる。
・同社は何度も悪質商法で問題になり、山口氏も有罪判決を受けるが、政官への根回しで会社は存続する。
○消費者庁から不適切な天下り
・2015年頃から同社への苦情が急増する。消費者庁が調査に入り、2016年12月/2017年3月に業務停止命令を受けている。同社の顧客の8割が70歳以上の高齢女性で、「磁気治療器の購入で年利6%が得られる」と騙されていた。2014年消費者庁幹部が天下っていたが、これは不問に付された。
・この問題をいち早く指摘したのが共産党・大門実紀史議員だった。彼は、同社の2017年「お中元リスト」に安倍首相/麻生財務相の名前があり、加藤勝信議員が山口氏と会食した事を明らかにした。※「いち早く」とあるが、業務停止命令後かな。
・これが大きく問題にならなかったのは、森友疑惑があったからだ。メディアは森友疑惑にシフトし、同社の疑惑を攻める事はしなかった。
○政権は最後の荒稼ぎに加担した
・2015年2月「桜を見る会」の招待状が同社の山口氏に送られた。この理由が『しんぶん赤旗』(2019年11月)で指摘されている。
大門議員が参議院の委員会で、「桜を見る会」の招待状が同社の「最後の荒稼ぎ」を助けたと批判した。
2014年5月消費者庁は「今回同社を見逃すと大変な事になる」と認識していた。しかし内閣府/経産省の元役人が天下っていた事から、消費者庁は人事異動を行い、その方針を軟化させた。
2015年2月山口氏に招待状が送付されたが、経営状態が悪化していた同社はこれを利用し、強引な勧誘で「最後の荒稼ぎ」をした。
・2014年5月消費者庁は同社に厳しく対処する方針だったが、担当課長を交代させ、態度を軟化させた。その理由は「本件の特異性」と記されています。これは政治案件の時に使われる常套句である。
○区分60を巡る攻防
・この構図は、何度も繰り返される政治を私物化し、お友達を救う病巣そのものである。「桜を見る会」には公私混同/招待者増加/文書破棄などの問題があったが、同社の「最後の荒稼ぎ」に加担したのであれば、次元が異なる問題である。官邸はこれを認識しているからこそ、文書を破棄し、区分60の意味を言わない。※「皆でやれば怖くない」だな。ブラック過ぎる組織だ。
・2017年12月同社は2400億円の負債により倒産する。現在全国で損害賠償を求める民事訴訟が起きている。2020年安倍首相は「桜を見る会」の名簿について、「個人情報で流出すると危険なので」と述べている。しかし保身のための行動であり、それを指揮した本人である事は明らかである。
第5章 「桜を見る会」追求記者達の白熱官邸記者会見
○厳しく質問するのは同じ記者
・現在、官房長官の記者会見は1日2回行われている。菅官房長官は長くこれに臨んでいるが、苦慮した会見が2度あった。2019年12月4日午前と12月25日午前の会見である。12月4日の会見では、朝日新聞/毎日新聞/東京新聞/北海道新聞から「桜を見る会」について厳しい質問を受け、事務方からメモを10回以上も受けている。12月25日の会見では、会見を打ち切ろうとした官邸報道室長に幹事社が抗議し、延長戦になった。
・本章ではこの両会見をそのまま収録する(※大幅に簡略化)。これを見ると、メディアの状況が良く分かる。厳しい質問をするのは先の4社で、逆に産経新聞はあえて質問を変えたりする。また質問内容は事前に通告されるため、官房長官は模範解答を読む事が多くなっている。
○12月4日午前の記者会見
共同通信-トランプ大統領が首相に「我々を助けてくれないか」と在日米軍の負担を求めたとされるが、事実関係をお願いします。※総理となっていますが首相に書き換えます。以下同様。
菅-首脳間のやり取りについては、差し控えます。現在の駐留経費は日米で合意されたものです。
共同通信-日本の負担割合は他国を大きく上回っています。見解をお願いします。
菅-先程述べた様に、日米で合意されたものです。
時事通信-イランのロウハニ大統領が来日を打診してきましたが、政府の見解をお願いします。
菅-外交上のやり取りは、コメントを控えます。
時事通信-イランは自衛隊の中東派遣に反対していますが、どの様にイランの理解を得るのでしょうか。
菅-イランに対し、船舶の安全確保のため自衛隊を派遣すると説明しています。またイランに対し、沿岸国としての責任をまっとうするように要請しています。
朝日新聞-5月9日共産党議員が「桜を見る会」の招待者名簿を要求しましたが、同日に破棄された事を野党が批判しています。電子データは最大8週間残る仕組みになっています。5月21日内閣府の幹部が破棄したと説明しましたが、この時点、バックアップは残っていたのでしょうか。
菅-5月9日頃電子データを削除しましたが、その後最大8週間、バックアップデータは残っていたと思われます。
朝日新聞-5月21日バックアップデータが残っていたかを教えて下さい。
菅-削除後、最大8週間、バックアップデータは残っていたと思います。
朝日新聞-バックアップデータは公文書でしょうか。
菅-バックアップデータは一般職員が使用できないので行政文書ではありません。これは情報公開・個人情報保護審査会の答申でもあります(※詳細省略)。
朝日新聞-野党側の資料請求に応じなかったのは、バックアップデータは行政文書でないとの認識からでしょうか。
菅-(事務方からメモを受け取り)その認識です。
朝日新聞-招待者名簿は会の終了後、速やかに破棄すると説明されましたが、実際は削除までに日数が掛ったのは何故でしょうか。
菅-詳細は事務方に聞いて頂きたい。
北海道新聞-今の答弁から、5月21日時点バックアップデータが存在したと理解しますが、その日の国会答弁の「名簿は破棄した」で問題ないとの認識でしょうか。
菅-(事務方からメモを受け取り)公文書ではないので、そう認識しています。
北海道新聞-4月22日に大型シュレッダーの予約を入れています。一方の電子データの削除が遅くなった理由は何でしょうか。
菅-(事務方からメモを受け取り)招待者名簿は保存期間が1年未満であり、定められた手続きで削除されました。5月10日資料要求がありましたが、その時点には担当職員が削除していました。
北海道新聞-首相が紙媒体の招待者名簿は障害者雇用により大型シュレッダーで破棄されたと答弁しましたが、それを公表した意図は何でしょうか。
菅-5月9日(※4月22日?)に大型シュレッダーの予約を入れていますが、障害者雇用による短時間勤務のため、余裕を持って作業をする事を説明するためです。
毎日新聞-先程バックアップデータは行政文書でないと言われましたが、公文書でないとの認識でしょうか。
菅-バックアップデータは行政文書でないため、情報公開請求の対象になりません。
毎日新聞-先程の審議会(※審査会?)の答申は、通常の技術で使えるかが根拠と思われます。実際バックアップデータは通常の技術で使えないのでしょうか。
菅-(事務方からメモを受け取り)一般職員が業務で使用できないため、組織共用性を欠き、行政文書でないとしています。
毎日新聞-内閣府にバックアップデータから招待者名簿を復元できる人がいるなら、対応すべきと思います。
菅-(事務方からメモを受け取り)一般職員では復元できず、業者に依頼しないといけないため、先程解説した答申の通り、行政文書に該当しません。
毎日新聞-答申には「通常の設備技術等」となっており、業者に依頼するのも含まれると思いますが。
菅-内閣府は、これまで私が述べた解釈をしています。
毎日新聞-情報公開の対象でないと解釈されていますが、国会議員の資料請求の対象でもないと解釈されていますか。※これは面白い質問だ。
菅-(事務方からメモを受け取り)保存期間が1年未満であり、通常職員が削除した時点で公文書でなくなったと判断しています。
毎日新聞-私が訊いているのは、国会議員の資料請求に応じるか否かです。
菅-公文書でない以上、そう判断しています。
毎日新聞-これは立法府の行政に対する監視に関わる問題です。バックアップデータがあった以上、最大限努力して資料を提出すべきと思います。
菅-(事務方からメモを受け取り)これまで述べた通り、行政文書でないと判断したうえで、適切に対応しました。
北海道新聞-5月21日「名簿は破棄した」と答弁した時点、バックアップデータが残っている可能性がある認識はあったのでしょうか。
菅-(事務方からメモを受け取り)詳細は事務方に訊いて下さい。ただ通常職員が共有フォルダーから削除した時点で、行政機関としては破棄したと認識しました。
北海道新聞-5月21日時点、バックアップデータが残っていても、それは公文書でないと認識していたのでしょうか。
菅-(事務方からメモを受け取り)ルールに従い、公文書でないと認識していました。
東京新聞-通常運用によるバックアップデータ以外に、民間事業者がバックアップデータを保存しているとの指摘がありますが、それも存在しないのでしょうか。
菅-(事務方からメモを受け取り)ないとの事です。
○12月25日午前の記者会見
・この日は午後の記者会見がなく、司会進行は官邸報道室長が務めた。
共同通信-先程、収賄容疑で秋元議員が逮捕されました。政府の認識とIR事業への影響をお聞かせ下さい。
菅-捜査に関わる事項については差し控えます。逮捕については、まだ承知していません。※この件の質問は無理かな。
朝日新聞-秋元氏はIR担当副大臣に就かれていましたが、重要な政策決定に携わっていたのでしょうか。
菅-彼は平成29年2月から30年10月までの間に、国土交通省副大臣/内閣府副大臣/復興副大臣を務め、IR整備を担当しました。※1年余りなのに多様だな。
朝日新聞-この逮捕により、IR事業への影響があるのでは。
菅-捜査に関わる事項なので、差し控えます。IR整備は着実に進めます。
朝日新聞-IR事業において民間からの様々な働きかけがあると思いますが、政務三役を含めた省庁幹部との接触を規制するルールはありますか。
菅-IRに関しては特にありません(※国家公務員法で規制されているのでは)。制度立案の段階なので、民間から話を聞く必要があり、接触は禁止されていません。
朝日新聞-今後ルールを定める必要性はどうでしょうか。
菅-IR本部事務局の職員が、カジノ管理委員会の設立準備室を兼務しています。来年1月にカジノ管理委員会(委員長1名、委員4名)が設立され、独立した職務権限を持ちます。公平性・中立性は確保されます。
東京新聞-今回の件により、カジノ管理委員会の設立に影響はないでしょうか。
菅-影響はありません。
日本テレビ-昨日日韓首脳会談が行われ、今後、諸懸案で対話を重ねる事になりました。これを政府はどう考えていますか。また今後国際会議などで両首脳が出席する場合、必要であれば首脳会談を行いますか。※この頃が最悪の時期かな。
菅-この会談で朝鮮半島出身労働者問題の解決に向け、外交当局間で協議を継続する事になりました。また北朝鮮問題でも連携する事になり、首脳会談は有意義だったと感じています。首脳会談については、一般論として適切に対応していきます。
産経新聞-日中韓サミットにおいて、中国が産経新聞の2名だけ記者証を発行しませんでした。この中国の判断をどう受け止めていますか。※こんな話があったのか。
菅-政府は公平な取材機会が得られるよう申し入れていましたが、この結果になりました。普遍的価値(表現の自由、基本的人権、法の支配)が重要である事を訴えていきます。
共同通信-第2次安倍政権がまる7年になります。振り返って認識をお願いします。
菅-経済再生/外交・安全保障/全世代型社会保障制度などに取り組んできました。あっと言う間に過ぎた感じです。これからも国民の声に耳を傾けてまいります。
北海道新聞-国立公文書館の2005年決裁文書から、招待者名簿の区分60は首相枠と確認されました。政府はこれを認めますか。
菅-当時はそうだったと思われます。招待者名簿は破棄されたため定かではありませんが、関係者に確認したところ、区分60番台は官邸や与党の枠との事です。
北海道新聞-政府は区分は発送のための便宜上の区分と説明していますが、2005年時点は各推薦枠となっています。いかがでしょうか。
菅-当時はそうだったと聞いています。
北海道新聞-区分は現在でも各推薦枠と理解できますが、それを認めないのは何故ですか。
菅-区分60番台は官邸与党の枠であり、便宜的な番号と聞いています。
北海道新聞-2005年は首相枠737人で計2744人でした。今年は首相枠1千人/自民党枠6千人で計8千人となっています(※会場はそんなに広いのか。自民党枠6千人も凄いな)。招待者が3倍になった事を、どう考えでしょうか。
菅-人数の増加は反省しています。見直しのため来年の「桜を見る会」は中止します。そして招待基準の明確化、プロセスの透明化などを検討します。
北海道新聞-政府資料では2015年首相長官等の推薦者は3400人となっています。今年の首相枠は1千人と報告されましたが、これが実際に調査した結果でしょうか。
菅-調査は適切に行われました。2005年の資料では、「総理大臣推薦者」に首相推薦/自民党推薦/公明党推薦が含まれています。そのため類似に分類されていたと思われます。
朝日新聞-2005年以降、区分60の内容が変わった事は考えられますか。
菅-招待者名簿は破棄されたため定かではありませんが、関係者に確認したところ、区分60番台は官邸与党の枠との事です。
朝日新聞-政府は区分に関する調査はしないと繰り返していますが、決定過程において、首相/長官だけでなく、事務官/調査係など13人が押印しています。調査は可能と思いますが。
菅-今まで述べた通りです。
朝日新聞-首相とジャパンライフ元会長との繋がりを恐れているのでは。
菅-それはありません。
朝日新聞-区分60番台は官邸与党の枠と類推されていますが、区分60はどうでしょうか。
菅-区分60番台は官邸や与党の枠との結果です。
上村報道室長-最後の質問をお願いします。
毎日新聞-まだ幾つか質問があります。以前から「懇切丁寧」と言われていますが、内閣府の窓口からのコールバックはありません。また担当課への直接取材も拒まれます。これが「懇切丁寧」でしょうか。
菅-12月6日に設けた窓口ですが、可能な限り改善していきます。
テレビ東京-最近の会見は消化しきれない時が多々あります。今日の午後の会見はないので、今挙手されていた会社の質問には答えて頂けないでしょうか。
菅-はい。
毎日新聞-内閣府の窓口から先の対応を受けたのですが、内閣府の方に「懇切丁寧」に説明するように指示されたのでしょうか。
菅-指示しています。再度指示しておきます。
産経新聞-かんぽ生命の不正販売問題で郵政の社長が一斉に辞任されます。日本郵政の後任社長に元総務相・増田氏の名前があります。
菅-辞任・後任については承知していません。郵政は不利益を被った顧客への対応、コンプライアンス/ガバナンスなどの根本的な改善が必要と考えています。
東京新聞-「桜を見る会」に戻ります。招待者名簿は破棄されたのですが、区分に関する資料も破棄されたのでしょう。※これも鋭い質問。
菅-「多分、区分60番台は官邸与党の枠」との事だったので、資料はないと思います。
上村報道室長-毎日新聞さん、最後の質問をお願いします。
毎日新聞-「区分60番台は官邸首相枠」との事ですが、区分60が首相枠である事を確認して頂けないでしょうか。
菅-官邸与党の枠に60があったとの事です。
毎日新聞-区分60が首相枠以外の可能性はあるのでしょうか。
菅-これまで述べた通りです。
・この様に菅氏の答弁は、不都合な質問には真面に答えなかったり、同じ回答をした。一部の記者は奮闘したが、黙々とパソコンを打つ記者も見られた。自分が何故記者になったかを、再度考えて欲しい。
第6章 陰謀論まで渦巻く菅官房長官の急失速 千葉哲也
○ポスト安倍の世論調査で惨敗
・2019年12月FNN・産経新聞による世論調査で、「次の首相にふさわしい人物」で石破茂がトップ(18.5%)になる。4月は4位(5.8%)だった菅官房長官は、6位(3.0%)に低迷する。9月内閣改造後、菅氏周辺でスキャンダルが続発した。
・菅氏の側近である河井克行法相/菅原一秀経産相が辞任し、河井氏の妻・案里参議院には公職選挙法違反疑惑が起きた。また菅派である小泉進次郎・環境相にも不祥事があった。また菅氏の懐刀と云われる和泉洋人・首相補佐官は不倫旅行が報じられた。12月ジャーナリスト伊藤詩織さんが民事訴訟で勝訴する。これには菅氏の秘書官だった中村格・警察庁長官が、被告の逮捕を止め件があった。※2019年は多発だな。
・「桜を見る会」の問題もあった。メディアは「名簿は破棄した」「名簿は復元できない」と答弁する菅氏を追及した。12月IR汚職事件で秋元司・参議員が逮捕され、IRを推進してきた菅氏にも火の粉が及ぶかもしれない。
・彼は1948年生まれで71歳である。ここ30年で70歳を過ぎて首相になったのは、宮澤喜一/村山富市/福田康夫しかいない。新元号発表後に政策勉強会「令和の会」は、主導した菅原が転び、フェードアウトしかけている。
○日本郵政のドンの辞任
・彼の求心力低下の原因は、官僚やメディアをコントロールできなくなった事による。これまでは内閣人事局を通し、官僚を支配してきた。しかし官邸官僚が長く幅を利かせ、現役官僚の不満が抑えきれなくなった。森友・加計学園問題/伊藤さんの性暴力事件/桜を見る会で、真実を闇に葬ろうとする官僚が見られ、多くの官僚がこれらの隠蔽工作に加担した。
・メディアに対しても同様で、友好メディアと敵対メディアに分け、対応に差を付けた。NHKには、予算と人事で批判的報道を封じた。しかし「ベッタリ記者」の不祥事が報道されるようになり、風向きが変わった。
・12月かんぽ生命の不適切な販売から、日本郵政グループの3社長と鈴木康雄・副社長が辞任する。彼は「日本郵政のドン」と呼ばれ、菅総務相の下で事務次官を務めた時、改正放送法を作り上げた。2018年NHKが「クローズアップ現代+」でかんぽ生命の不正販売を放送し、後編が作られるが、彼の圧力で放送が延期される。また郵政省が日本郵政グループの処分を検討していたが、その内容が彼に筒抜けになっていた。しかし高市早苗・総務相は処分を貫徹した。これは菅氏の政治力の低下と考えられる。※共に「アベ友」に思えるが。
○苦境の安倍首相を救った伝説
・安倍政権が長期になった理由に、菅氏のマネジメント力がある。2006年第1次安倍政権が発足した時、彼は総務相に就くが、電話で「カン先生」と呼ばれる状況だった。この政権はスキャンダル続きで、首相も健康問題で辞任する。しかし彼は首相を励まし続けた。2012年総裁選でも、彼は安倍氏に出馬を繰り返し要請した。そのため彼の行動が、歴史を大きく変えた事になる。
○秋田県を飛び出し、段ボール工場で働く
・1948年菅義偉は秋田県に生まれる。父が南満州鉄道に勤め、引き揚げて農業を営んでいた。彼には2人の姉がいる。高校卒業後、田舎を抜け出し、板橋区の段ボール工場で働く。その後勉強し、法政大学法学部に入学する。卒業後は電気設備会社に就職するが、政治に関心を持ち、小此木彦三郎・衆議員の秘書になる。小此木氏は1928年生まれで、1969年に衆議員に初当選し、通産相/建設相を務めた有力議員である。
・1987年菅氏は横浜市議に初当選する。これは簡単な選挙ではなかったが、最後は公認を得て当選する(※詳細省略)。彼の政治家としての精神力は、こうした体験から培われた。
○壮大な忖度社会
・彼は市議を2期務め、「影の市長」と呼ばれる程になる。1996年衆議院神奈川2区に立候補し、初当選する。1998年総裁選で所属派閥の小渕恵三ではなく梶山静六を推し、多数派工作を高く評価される。自分が上に立つのではなく、人のために働く参謀タイプだった。2006年安倍支援グループの「再チャレンジ支援議員連盟」を立ち上げ、尽力する。第1次安倍政権において総務相に指名され、2012年第2次安倍政権で官房長官に指名される。
・彼がよく比較されるのが第1次安倍政権で官房長官を務めた塩崎恭久である。塩崎氏は父の地盤を継いだエリートで、官僚に介入する事が多く、政策遂行の効率が低下した。一方菅氏は官僚に任せ、農協改革/ふるさと納税/外国人観光客誘致を成功させた。しかし「安倍1強」になり、官邸官僚がスキャンダル隠しに暗躍し、究極の忖度社会になった。
○沖縄県議選
・官僚人事は菅氏が握っていると云われるが、実際は和泉洋人・首相補佐官/杉田和博・官房副長官が次官級から情報を集め人事案を作る。そのため最も影響力を持つのは官邸官僚である。この霞が関管理システムが一人歩きし、菅氏がコントロールできなくなったと云える(※これも忖度かな)。彼が首相候補に留まる条件は、「桜を見る会」「IR汚職」を切り抜け、6月に予定される沖縄県議選に勝つ事である。
・2019年12月『沖縄タイムス』が和泉氏のスクープを報じている。米軍ヘリ基地建設で電源開発(Jパワー)に助力を求め、見返りに海外案件で協力すると掛け合ったメモがあった。さらに和泉氏には不倫報道があり、自民党が勝つのは難しいと報じた。※そんな地方選だったのか。結果はどうなったのか。
第7章 天国から地獄へ 悪夢のスイッチを押した菅原・河井・進次郎 別冊宝島編集部
○文春政局の震源地
・2019年10月河井案里参議員/菅原一秀経産相の公選法違反が報じられた。これにより河井克行法相/菅原経産相は閣僚を辞任する。菅原氏も河井氏も菅氏の手駒である。
・菅原氏は入閣前から心配されていた。一方案里氏の件は身内から情報が漏れており、2019年参院選で現職の溝手顕正が落選し、彼女が当選した事による恨みと思われる。さらに12月和泉洋人・首相補佐官の不倫旅行が報じられ、菅氏の疑心暗鬼は増幅された。彼の影響力は弱まり、ポスト安倍の権力闘争から蹴落とされた。
○政界のパリピ
・菅原氏も菅氏も秋田県出身である。1972年菅原氏の父は衆院選秋田2区に出馬し、落選している。彼も菅氏も叩き上げだが、性格は大きく異なる。彼は、派手好き/ヤジ好き/女好きで知られた。早稲田大学卒業後、日商岩井に就職するが、1991年練馬区議に当選し、2003年衆議員に当選する。
・2009年選挙区で高級メロンを配っていた疑惑が報じられるが、民主党が圧勝したためうやむやになる。公明党から嫌われていたが、菅グループの切り込み隊長であり、経産相に指名される。
○参院選勝利で暗闘がスタート
・河井克行は慶応大学を卒業、松下政経塾/広島県議を経て、1996年衆議員に当選する(※菅氏と同期だな)。彼も菅原氏と同様、地盤はなかった。第1次安倍政権では法務副大臣を務める。第2次安倍政権が発足すると、菅グループの「向日葵会」を仕切るようになる。
・彼がポイントを上げたのは2016年衆院補選(福岡6区)である。菅氏と二階俊博・幹事長は鳩山邦夫の息子・二郎を擁立するが、麻生財務相は党県連会長の息子を擁立し、結果二郎氏が圧勝する。この時働いたのが彼で、彼は「首相の参謀の参謀」となる。これが2019年河井案里の擁立に向かわせる。
・しかし案里氏は無理やりの出馬で29.5万票で当選する。一方溝手氏は27万票で落選し、地元や執行部(?)に禍根を残した。疑惑が起きると彼女は「適応障害」として雲隠れしている。「このままでは議員辞職を要求する」との声もある。
○進次郎バブルの崩壊
・菅氏にとって小泉進次郎・環境相の失速も想定外だった。2019年9月内閣改造で彼を入閣させ、その前月には滝川クリステルとの結婚を発表させていた。菅氏は「進次郎フィーバー」を起こすつもりだったが、長く続かなかった。大臣になると実行力が問われるが、彼は「ポエム」「お花畑」「中身なし」と酷評された。
○バイブルは豊臣秀長
・2019年末「IR汚職事件」により、政権運営は不透明になる。救いは五輪により、負の話題がかき消される事だった。10月彼は雑誌『プレジデント』で次の様に述べている。※大幅に簡略化。
横浜市議選の前でしたが、堺屋太一『豊臣秀長-ある補佐役の生涯』を本屋で見付けました。農民だった豊臣秀吉が出世できたのは、豊臣秀長の支えがあったからだと納得しました。秀吉に様々な事が降りかかりますが、裏で常に支えていたのが彼です。秀吉は天下を取る気はなかったのですが、彼の支えで突出したのです。
・菅氏は自分を「生涯補佐役」と考えているのか、それとも「一抹の野心」が残っているのだろうか。
第8章 新NHK会長の知られざるルーツと富士銀行行員顧客殺人事件 山田厚史
○出世の切っ掛けとなった殺人事件
・NHK会長に「みずほファイナンシャルグループ」元社長の前田晃伸が就任した(※みずほの会長/特別顧問にも就いている)。2019年12月の記者会見で、「毎日出勤するのは嫌だな」「妻に『やめとけ』と言われた」などと述べている。※NHK会長就任は2020年1月。
・私(※山田氏)が彼を知ったのは1985年頃で、私は朝日新聞の東京経済部に所属していた。彼は総合企画部次長でエリートで、出勤は早く、猛烈に仕事をした(※色々書いてあるが省略)。1980年代は金融自由化が叫ばれ、自己主張する彼は重用された。
・彼がトップに立つ切っ掛けとなったのは殺人事件で、1998年埼玉県春日部支店の行員が老夫婦を殺害した事件である。以下はその時私が書いたコラム「銀行をむしばむモラル崩壊」である。※大幅に簡略化。
富士銀行の行員が取引先の老夫婦を殺害したとして逮捕された。これは不良債権/貸し渋りなどの銀行が抱えている問題と関係している。これまで銀行は信頼されてきたが、それが崩壊してきた。
バブルの頃、富士には「しもたや作戦」(?)があった。老人世帯に多額の融資をしたが、バブルがはじけ、彼らは債務にあえぐ事になった。変額保険の被害者も、多くは老人である。一転して貸し渋りに走っている。富士には「2兆円の圧縮計画」があり資金回収に必死である。お客と接する担当者は大変で、本部とお客の板挟みで苦しんでいる。
彼の人事記録には「大人しく、控え目で、謙虚なタイプ」とある。本店融資部への栄転が事件前に決まっていた。しかしこれが預金の不正流用の引き金になった。行員の犯罪には、使い込み/横領/詐欺などがあるが、背景に「モラルの地崩れ」がある。経営の失敗で犠牲になるのは、現場の社員なのだ。※山一証券の記者会見を思い出す。
銀行は手厚く保護され、失敗が表面に出てこない。強い者に癒着し、弱い者は見捨てる(※詳細説明はない)。このモラルの崩壊で、不正の目を摘めなかったのでは。頭取がきちんと説明しないのは不思議である。
○頭取を守るため行内で暗躍
・当時の富士銀行頭取は山本恵郎だったが、最後まで記者会見しなかった。その防波堤になったのが、企画・広報担当の取締役だった前田氏である。もし頭取が表に出て経営責任が問われれば、預金の引き出しが行われるかもしれない。そのため頭取を表に出さなかった。※確かに、この事件の記憶がない。
・そのためこの事件は社会面で扱われた。事件の管轄は埼玉県警で、記事は春日部署の記者クラブの記者が書いた。そんな地域を担当する記者が、銀行の経営に関する記事を書けるはずがない。警視庁管内であれば東京社会部のベテラン記者が書く事ができる。
・前田氏は春日部署の記者クラブに工作し、「犯罪記事」の広報に協力した。埼玉県警/金融庁には頭を下げ、頭取が記者会見しないように画策した。事件が「経営問題」に発展しないよう戦略を取った。※金融庁も金融不安を恐れ、同調しただろうな。
○論功行賞で常務に
・1998年日本長期信用銀行/日本債券信用銀行が破綻し、金融記者の関心は「次に危ない銀行」「合併・経営統合」に向いていた。事件に対する説明責任を求める声もあったが、これを追及すると業界情報が得られなくなるため、腰は定まらなかった。前田氏は記者クラブの幹事社を籠絡し、記者を懐柔した。この状況に違和感を感じ書いたのが、前述のコラムである。
・この事件に対する対応により、前田氏は評価を高め、翌年に彼は常務に昇進する。しかし富士銀行単独での存続は難しく、日本興業銀行/第一勧業銀行との経営統合に進む。
○安倍家とみずほの関係
・富士銀行は「都市銀行の雄」、興銀は「産業金融の主役」と呼ばれていた。共に銀行局が頼りにする優等生で、東大卒も多かった。これに不良債権が少なく、預金/店舗が多い第一勧銀が経営統合に向かう。資金量145兆円の世界最大の銀行になり、持株会社「みずほホールディングス」の社長に第一勧銀頭取・杉田力之が就き、会長に富士頭取・山本氏/興銀頭取・西村正雄が就いた。西村氏は安倍首相の父・晋太郎の異母兄で、後に安倍首相の後見役となる。よって、みずほグループと政権は密接である。さらに第一勧銀はNHKのメインバンクでもあった。
・2000年3行が統合され、主導権とポストを巡る「冷たい内戦」が始まる。2002年代替わりが行われ、前田氏はみずほホールディングスの社長に就く。しかし社長に就いた4月1日、システム統合に失敗し、勘定系システムがダウンし、大混乱になる。稼働2日前に不具合が確認されていたが、システム統合を強行した結果だった。※みずほは今でもシステム・トラブルが多い気がする。
○前NHK会長は何故再任されなかったか
・前田氏は人望はなく、自分の意見が先に出る方で、大将の器ではなく、参謀タイプである。NHK会長になり、何をしたいのか。前NHK会長・上田良一が再任されなかったのは、「官邸の不評を買ったから」とされている。NHKの政治部は安倍にベッタリだが、製作部門は時間・予算をたっぷり使い、様々な問題を世に問うている。これに官邸が「現場を抑えられる会長を」と望んだらしい。
・これが表面化したのが、「クローズアップ現代+」による「かんぽ生命の不正販売」の放送である。これに日本郵政が「会長はNHKを代表し、業務を総理する」と噛み付いた。NHKに限らず「報道と経営の分離」は行われてきたが、NHK経営委員会もこれに同調し、上田氏に「ガバナンス体制の強化」を求めた。さらに官邸も彼を批判し、再任は閉ざされた。
・前田氏は当然この経緯を知っているだろう。そのため彼は、「権力者の顔色を伺わない自由な報道」を壊す事がミッションになった。
○板野氏復権による傀儡政権の誕生
・NHK新会長・前田氏は首相を囲む財界人の集まりである「四季の会」のメンバーである。しかし本人は「特にどこかの政権にベッタリではない」と述べている。また「政権が報道機関からチェックされるのは当然」と述べている。
・2019年4月NHKで唖然とする人事があった(※これは前田氏の会長就任の前年だな)。NHKエンタープライズの社長に収まっていた板野裕爾が本体の専務に復帰した。朝日新聞がこれを記事にしている。※大幅に簡略化。
板野氏には、「官邸・政治家の意に沿って働く」との人物評があった。2016年権力に厳しい姿勢で臨む「クローズアップ現代」の打ち切りが決まった。これは当時、放送総局長だった彼の意向とされる。そして籾井勝人・前会長が「彼を戻してはいけない」として、本体から外したとされる。
・その彼がNHK中枢に復帰し実権を握り、官邸の意に沿った筋書きを前田氏に振り付けるだろう。※実権は専務(板野氏)が握り、会長(前田氏)は傀儡なんだ。
○30年前の逸話
・1991年私がロンドン駐在から金融担当に戻った時、前田氏から「『外から見た富士銀行』を次長会で話してもらえないか」と依頼された。この頃はバブルが崩壊し、銀行の融資がスキャンダルまみれの頃である。この依頼に違和感があった。
・1986年私は富士銀行の企業体質をを問う記事を朝日新聞に書いた。内容は取締役候補の支店長の奮戦記である。当時支店では、労働基準監督署が踏み込むほどの長時間労働をしていた。この時この「不都合な真実」に向き合っていたら、今の混乱はなかった。バブル崩壊で新しく頭取になった橋本徹は、「お客様満足度NO.1を目指す」と宣言し、そして前田氏は、その旗振り役になっていた。
・2010年前田氏は「みずほファイナンシャルグループ」会長を辞し、特別顧問になる。その後「四季の会」で捲土襲来(※重来?)を伺っていたのかもしれない。彼のNHK会長就任は、人生の手仕舞いかもしれない。彼は期待される事を十分知っているはずだが、彼は「恩に報いて忠義を尽くす」タイプではなく、「独立自尊」である。彼は「政権にベッタリではない。距離を保つ」と言い放ったが、実行できるだろうか。
第9章 萩生田文科相の「身の丈発言」を引き出した高校生の抗議デモ
・大学入試改革が2020年度に行われる予定だが、混迷が深まっている。英語民間試験の活用、国語・数学の記述式問題の導入の見送りが発表された。この切っ掛けが、2019年10月BSフジ『プライムニュース』での萩生田光一・文科相の「身の丈発言」とされる。大学入試改革が暗礁に乗り上げた原因を、元文科省事務次官・前川喜平に聞く。
○身の丈発言は何故反発を受けたか
聞き手(別冊宝島編集部)-2021年1月実施予定の「英語民間試験の活用」が見送られました。萩生田文科相の「身の丈発言」をどう思いますか。
前川-教育基本法には「教育の機会均等」の理念があります。この理解が欠如しています。これには「公平・平等であるべき」だけでなく、「平等の環境を作り出す」の意味が含まれています(※憲法と教育基本法の条文を解説しているが省略)。教育基本法には「経済的地位」が明記され、これは教育行政の根幹です。「身の丈に合わせ・・」は批判されて当然です。この大学入試改革は政治色が強く、延期表明も官邸の意向です。高校生が政治に振り回されたのです。
○下村文科相の肝いり改革
聞き手-大学入試改革の発端は何でしょうか。
前川-第2次安倍政権で下村博文・文科相が「大学入試センター試験の廃止」を打ち出したのが切っ掛けです。高校と大学の教育を繋ぐ「高大接続テスト」の構想もありましたが、下村文科相の方針で進みます。
聞き手-記述式などの問題はあったと思いますが。
前川-当時下村文科相は教育再生担当相でもあり、官僚が逆らえなかったのです。その後文科相に馳浩/松野博一/林芳正が就きますが、方針を変える事はありませんでした。また中央教育審議会会長などを務めていた安西祐一郎(元慶応義塾塾長)も新テストに拘っていました。そのため「センター試験廃止ありき」で進みました。※これも広い意味で忖度かな。
聞き手-何が現実離れしていたでしょうか。
前川-記述式の導入では、センター試験は50万人が受け、採点は20日間で済ませないといけません。所詮、マークシート方式以外は無理だったのです。英語の民間試験は6団体/7試験の結果で、それぞれ目的や尺度が違うので、公平に比較できません。受験生は試験後に自己採点しますが、それも難しくなります。
聞き手-何故そんな試験を導入しようとしたのか。
前川-元々は「大学生が英語を使えない」の問題がありました。英語には、読む・聞く・書く・話す技術が必要です。それを民間試験で補おうとしたのです。各大学が2次試験で英検・TOEFLを導入しています。それを「共通テスト」に持ち込もうとしたのです(※2021年度にセンター試験から共通テストに切り替わった)。共通試験には一定の限界と制約があるのに、「マークシート方式は諸悪の根源」として進められたのです。
○現役高校生の抗議デモ
聞き手-高校生によるデモが、2019年8月から文科省の前で行われています。
前川-あのデモも少なからぬ影響を与えたと思います。普通、全国高校長協会が文科省に異を唱える事はありませんが、今回は大分前から懸念を表明しています。高校生のデモがあったから、BSフジも萩生田文科相を番組に呼んだのでしょう。
聞き手-教育現場の本音は。
前川-「高校は大学受験のためではない」が基本的な考えです。共通テストの期日を前倒しする案がありましたが、高校側は一斉に反対しました。そうなると高校3年生のスケジュールが大幅に変わります(※詳細省略)。中央教育審議会の大学分科会で「高大接続テスト」が議論になりましたが、これは大学側の見方です。大学に進学しない生徒もいますし、大学の学力低下の原因を高校教育にして欲しくないです。※これは社会的な問題だな。新卒一括採用など、多くの遠因がありそう。
○教育行政に食い込んだベネッセ
聞き手-記述式の採点業務をベネッセが61億円で落札しました。
前川-詳細は分かりませんが、当社が文科省に食い込んでいる事は確かです。
聞き手-英語民間試験も記述式の導入も5年間延期になりました。
前川-私はどちらも中止するしかないと思っています。記述式の採点はアルバイトがする事になっていました。また記述式と言っても、穴埋め問題みたいで、これで「創造的な力を問う」とは考えられません。記述式・論述式は各大学がやれば良いと思っています。
聞き手-東京大学には「200字作文」があると聞いています。
前川-私も経験し、子供が持つ残虐性について書いた記憶があります(※詳細省略)。2次試験なら、これが可能です。
○お茶の水女子大学の新フンボルト入試
聞き手-大学の存在意義が問われています。
前川-文科省は大学に、アドミッション・ポリシー(受け入れ方針)/カリキュラム・ポリシー(教育課程の方針)/ディプロマ・ポリシー(卒業の方針)を求めています。そのため例えば医学部であれば、ペーパーの結果より、人物を重視する事もできます。
聞き手-近年「AO入試」が定着しています。
前川-これはアドミッション・オフィスを設置し、アドミッション・ポリシーに基づいて活動します(※具体的な説明が欲しい)。コメディ映画『アドミッション 親たちの入学試験』では、アドミッション・オフィサーが優秀な学生を集めるため、奮闘する姿が見らます。
聞き手-国内で先進的な取組をしている大学は。
前川-お茶の水女子大学が「新フンボルト入試」をやっています。当大学は文系の「図書館入試」と理系の「実験室入試」を行っています。文系の場合は図書館の文献からレポートを書き、理系の場合は実験室に入りレポートを書くのです。これで潜在能力を見出そうとしています。政治がゴリ押しする教育改革は不毛です。
第10章 憲法改正に向け安倍首相が描く4選と再登板 歳川隆雄
○秋元事件がもたらすマイナス効果
・2019年12月元内閣府副大臣・秋元司が逮捕された。IR担当副大臣の時、中国企業から300万円を受け取ったとされる。現職の国会議員が逮捕されるのは、10年前の石川知裕以来である。このIR汚職事件は、安倍政権の解散・総選挙に大きく影響する。
・安倍首相が五輪前に衆院解散する可能性もある。もし解散・総選挙し、自民/公明/維新で2/3議席を確保できれば、彼は4選あるいは再登板するかもしれない。
○五輪前解散の限られたチャンス
・五輪前の解散は、①1月末、②3月下旬、③5月連休明けの3つに限られる。①は補正予算の成立後だが、IR汚職事件/桜を見る会などがあり、現実的に難しい。②は新年度予算の成立後だが、内閣支持率次第である。③はロシアの対独戦勝75周年記念式典後で、日ロ平和条約締結が歩み寄れれば、解散の大義名分になる。※結局コロナで任期満了になり、選挙は翌年10月になった。
・②あるいは③になり、2/3議席を確保できれば、「安倍4選待望論」が起きるだろう。9月の自民党両議院総会で4選を決議すれば、憲法改正/日ロ平和条約締結のレガシーを作り、勇退するかもしれない。
○麻生インタビュー
・安倍4選は着々と進められている。2019年12月、『文藝春秋』に麻生太郎・副総理・財務相へのインタビュー「安倍総理よ、改憲へ4選の覚悟を」が載った。麻生氏は次の様に述べている。※大幅に簡略化。
衆院選/参院選で6連勝した彼が憲法改正しないのなら、いつやるんだ。自衛隊/私学助成金制度などを明記すれば良い。それがリアリズム政治だ。しかし期間的に厳しいので、4選の覚悟が必要だ。
・私(※歳川氏)は、このインタビューは安倍首相と麻生氏が事前に擦り合わせていたと考える。これに安倍首相の憲法改正への強い意志があったと考える。安倍首相が五輪前に解散できるかで、その後の政局は大きく変わる。
○岸田政権後の再登板
・五輪前の解散がないと、2020年秋かそれ以降になる。この場合、安倍首相は退陣し、新首相の下での解散になるだろう。現在の自民党議員は「石破には政権を取らせない」と考えている。しかし国民はそうでない。FNNの世論調査では、「次の首相にふさわしい人」は、1位石破(18.5%)、2位安倍(18.2%)、3位小泉(14.5%)、4位河野(5.3%)、5位枝野(4.7%)などである。岸田氏は7位でしかない。
・2021年の総裁選で石破氏と岸田氏がガチンコになると、党員票で石破氏になるかもしれない。これを避けるため、2020年9月の自民党両議院総会で、後任総裁を選出するかもしれない。この後任総裁は国会議員だけで選出できるのだ(※党則の説明があるが省略)。
○山県有朋のリアリズム
・安倍首相は首相在位の通算日数で1位だが、2020年8月まで在位すれば、連続日数でも大叔父・佐藤栄作を抜いて1位になる。しかし彼の偉業としては、特筆するものがない。そのため憲法改正の意欲は強いと思われる。
・2014年12月彼はJR東海の名誉会長・葛西敬之から岡義武『山県有朋-明治日本の象徴』を推薦された。山県は元老政治の象徴としてマイナス評価を受ける時もあるが、官僚制度/地方制度を確立し、近代国家日本の制度設計を担った人物である。軍隊は仏国でなく、ドイツを見本とした。また伊藤博文/井上馨に逆らって日英同盟を主張したリアリストである。安倍首相は自分を山県に重ね、憲法改正を成し遂げるために何をすべきか考えるだろう。
第11章 憲法改正を阻んだA級戦犯 別冊宝島編集部
○むなしき改憲スローガン
・2020年年頭記者会見で安倍首相は「私の手で成し遂げる考えに揺らぎはない」と憲法改正について述べた。しかし党内の反応は薄い。「レガシーなき長期政権」と人は揶揄する。消費税は上げたが、拉致問題/北方領土問題などは全く解決していない。憲法改正が進まないのは、元文科相・下村博文の責任と云われている。彼の暴走が憲法改正を難しくしたと若手議員が述べる。
・2018年9月安倍首相は党憲法改正推進本部長に下村氏を就かせ、憲法改正の旗振り役を任せた。しかし彼の極端な保守思想が、国民を敬遠させた。
○改憲戦略は振り出しに
・2017年都知事選で惨敗し、下村氏は都連会長を辞任した。そのため改憲ミッションは再浮上のチャンスだった。彼は国会の憲法審査会が野党により開かれない事を、「職場放棄」と批判した。ところが逆に野党が反発し、憲法審査会は開かれなくなる。2019年9月結局、安倍首相は憲法改正推進本部長を細田博之に戻す。
・しかし彼の極右思想は止まらなかった。同月「同性婚も改憲の対象になる」と発言し、古屋圭司・元拉致担当相から「LGBTなどを理解せず、発言しないで欲しい」と苦言を呈された。
○道徳の教科化
・1978年彼は早稲田大学を卒業し、小学生向けの学習塾を開いた。1989年都議に初当選し、1996年衆議員に初当選する。2012年第2次安倍政権で文科相として初入閣。道徳の教科化/歴史教科書の見直しなど教育の保守回帰路線を推し進める。安倍首相は第1次政権で「教育再生会議」を設け、第2次政権で「教育再生実行会議」を設け、道徳の教科化を進めた。
・当時、下村氏は次の様に述べている。※大幅に簡略化。
聞き手-道徳を教科化する必要性は。
下村-いじめ問題が背景にある。学習指導要領にある内容を学び、思いやりや人との関係を大切にして欲しい。
聞き手-国民からの支持は。
下村-「この程度なら」と思ってもらえるだろう。これは「人間学」と思っている。小学生であればルールや規範意識を学び、大学生であれば哲学的な幸福論を学んで欲しい。
聞き手-教材はどうするのか。
下村-「心のノート」を全面改定している。
聞き手-改定版はどんな内容に。
下村-「心のノート」は記述式だが、それを物語的なものに変える。学習指導要領に似合った偉人の子供の頃のエピソードを考えている。これを家に持ち帰り、親子で学んでも良い。
聞き手-教科書の位置付けになるのか。
下村-当初は「心のノート」の改定だが、以降は民間会社に教科書を作ってもらう考えだ。教科書化は有識者による「道徳教育の充実に関する懇談会」で議論してもらう。
・2018年小学校で道徳が教科化される。その後教科書も使用されている。一部の教科書は「日本凄い」の内容で、教育現場は困惑している。
○星野君の2塁打
・教科書問題で話題になったのが「星野君の2塁打」の逸話である。原作者は吉田甲子太郎(1894~1957年)で、1947年雑誌『少年』に発表されている。内容は以下である(※簡略化)。
星野君はチャンスで打席が回ってきた。監督はバンドのサインを出していたが、好球が来たので強振した。打球は外野を抜け、走者がホームインし、これが決勝点になった。
翌日監督はメンバーを集め、「野球は勝つだけが目的でない。犠牲の精神を分かっていなければ、社会は良くならない」と伝える。星野君はペナルティとして、次の試合に出れなかった。
・この「犠牲の精神」に対し、「和を乱すのは常に悪の押し付け」との議論が起きた。
○八重山教科書問題
・2013年頃、下村氏は沖縄県八重山地区の教科書採択に介入したとされる。当時文科省初等中等教育局長だった前川喜平が以下の証言をしている。※大幅に簡略化。
2011年八重山地区(石垣市、竹富町、与那国町)で、石垣市/与那国町は右派色の強い教科書を採択し、竹富町はそうでない教科書を採択した。これに文科省初等中等教育局は「竹富町の採択は違法だが有効。ただし教科書の無償給付から除外」とした。しかし安倍政権になり、「教科書無償措置法に違反」とし、教科書の変更を指示した。2013年私は同局長になり、採択を郡単位でなく、町村単位に採択できる改正教科書無償措置法を通過させようとした。
この指示は下村文科相/義家弘介・政務官が言い始めたが、本来は3地区が調整すべきで、政府が石垣市/与那国町の教科書に一本化しろと指示するのは政治介入と感じた。
・教科書によって沖縄の歴史や尖閣諸島の記述は大きく異なる。この介入から、安倍首相は下村氏を重用するようになる。
○下村夫妻は加計学園との関係が深い
・下村氏は加計学園問題にも深く関係している。加計学園の加計孝太郎理事長は下村夫妻と極めて親しく、2013~14年加計氏は下村氏の支援団体「博友会」に200万円の献金をしている。
・加計学園問題で「4.2面談」が散々問題になった。2015年4月2日首相秘書官・柳瀬唯夫と加計学園/愛媛県/今治市が面談し、柳瀬氏が「本件(獣医学部新設)は首相案件」と説明している。しかし彼は「記憶がない」と事実を否定し続けた。
・この案件に一番熱心だったのが下村文科相だった。彼は文科省から新設のための「石破3条件」を引き出させる(当時石破氏が地方創生担当相)。彼はこれを加計学園に掲示するが、回答がない。これがめぐり廻って「4.2面談」となった。加計学園側が「私達はどうすれば良いのか」訊ねると、柳瀬氏は「国家戦略特区の提案書に合わせ、取り組み状況を文科省に説明すれば良い」と応じる。
・この様に加計学園への不適切な補助金を主導したのが下村文科相だった。しかし同年10月彼は文科相を辞任し、総裁特別補佐に就く。
○文科相の座を守るためのポイント稼ぎ
・この様に下村氏が安倍首相の下でポイント稼ぎを続けたのは、文科相のポストを維持するためだろう。自民党の文教族には森喜朗がいて、下村氏を快く思っておらず、馳浩を文科相にさせたかった。彼の後ろ盾になったのが安倍首相で、そのため彼は安倍首相に尽くした。しかし彼は冒頭の憲法改正でも暴走してしまう。結局安倍首相は「下村外し」の新体制を組むが、既に遅しだ。
第12章 アベ友官僚の優雅な論功行賞ライフ 千葉哲也
○求刑7年、籠池夫妻の今
・森友学園問題で籠池泰典・元理事長夫妻は1.7億円をだまし取ったとして公判中で、検察から懲役7年を求刑されている。2020年2月一審判決が出るが、彼は安倍・検察を批判する講演を続けるだろう。2019年5月彼は「水面下での水掻き運動は激しい。安倍政権に対し活火山が爆発しそうだ」「官僚は国民のしもべだが、政権の下僕ではない。官僚には、政治家の誰かが口火を切って欲しとの思いがある」と述べている。※しもべと下僕を使い分けている。
○近畿財務局の自殺職員を労災認定
・2018年3月公文書の改竄を強いられた近畿財務局職員が自殺した。同年彼は「公務災害」に認定される。テレビ東京が彼の父にインタビューし、2018年9月そのドキュメンタリー番組が大反響となった。この森友学園問題の取材を継続する記者は多い。その根底に「納得できない思い」がある。
・証人喚問で何も語らず表舞台から去った佐川宣寿・元国税庁長官は、辞職後は雲隠れしている。彼の下で中核的役割を担った理財局総務課長・中村稔は、駐英大使に栄転した。これは「疑惑官僚の海外退避」であり「忖度への論功行賞」である。
・籠池夫妻を逮捕した元大阪地検特捜部長・山本真千子は大阪地検次席検事に栄転し、将来は高検トップになる。
○内閣補佐官の老いらくの恋
・「安倍首相の腹心の友」とされる加計学園理事長・加計孝太郎は理事長に居座っている。加計学園問題で事件の収束に努めた首相秘書官・柳瀬唯夫は、シャープと東芝が出資するパソコン事業会社に天下り、その後国際協力銀行(JBIC)のシニアアドバイザーに就いた。JBICは財務省の所管だが、インフラ輸出/資源開発で経産省とも関係が深い。
・2019年12月官邸で多岐に亘り影響を及ぼした内閣補佐官・和泉洋人は、厚生省大臣官房審議官・大坪寛子との不倫旅行が『週刊文春』で報じられる。大坪氏は慈恵医大出身の医系技官で、課長を経験していないのに審議官になっている。彼女は首相補佐官の威光をバックに尊大な態度が多かった。※府省が異なるのに。
○国家安全保障局長になった内閣情報官
・森友学園問題で疑惑拡大を一身に受けた元財務省理財局長・太田充は主計局長になり、次の次官と云われている。
・「官邸のアイヒマン」と呼ばれた元内閣情報官・北村滋は、外交・安保のキーマンである国家安全保障局長に就いた。この出世は警察庁からも異論の声がある。2019年には内紛を象徴する報道があった(※内容省略)。
・詩織さん事件で山口氏の逮捕を中止させた元警視庁刑事部長・中村格は、警察庁ナンバー3の官房長に就いている。2015年彼は安倍首相を批判した元経産官僚・古賀茂明を、『報道ステーション』から降板させている。
・これら全てが「アベ友人事」ではないが、彼らが疑惑に対し十分説明しなかった点が共通している。かつての長期政権も「ブレーン政治」を行ってきた。しかしここまで極端な偏重人事は安倍政権だけである。官僚の前に「踏み絵」を並び続けた政権である。