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『ゲームチェンジ日本』真壁昭夫(2021年10月)を読書。

日本の長期低迷を行動経済学から解説している。
その要因を「発想の転換ができなかったため」としている。雇用環境などの構造的問題が、それを阻んだと思う。

半導体/自動車/脱炭素については、個別の章で詳しく解説している。
しかし一般的・抽象的な解説が多く、少し不完全燃焼になる。

お勧め度:☆☆☆
内容:☆☆☆(一般論が多いが、読み易く、適切に纏めている)

キーワード:<はじめに>行動経済学、現状維持、<日本を覆う閉塞感>コロナ禍、中国台頭/国家資本主義、コントロール・イリュージョン、いざなぎ景気、ニクソン・ショック/オイルショック、自信、プラザ合意/日米半導体協定、バブル崩壊、何とかなる、<日本の衰退>行動様式、国に任せる、レッセフェール、経済成長、コロナ、<変化への対応>デジタル技術、AI、人口減少、イノベーション、地球温暖化、自己実現/学習環境、<経済復活のキーワード>半導体、部材/製造装置、EV、CASE、データの世紀、TSMC、北風政策、台湾/インド太平洋、微細技術、<EVシフト>自動車産業、擦り合わせ、心の慣性の法則、テスラ、フォルクスワーゲン、韓国EV、IT先端企業、トヨタ、産業政策、<脱炭素>豪雨/熱波、長期的視点、パリ協定、CCS/CCUS、洋上風力発電、水素、<日本経済復活>日立、ソニー、任天堂、スキーマ

はじめに

・2019年11月新型コロナウイルスが発生し、2020年春先には世界が混乱した。日本は経済の不安定さ、政府・企業の意思決定の遅さを露呈した(※本書はこれがテーマ)。本書は、多くの人がおかしいと思っているのに放置され、いかに事態が深刻化するのかを「行動経済学」から説明する。行動経済学は人の心の動きから経済を分析する。人は合理的と考えられているが、実際はそうでもない。

・コロナ禍(※以下、単にコロナ)によりロックダウン(都市封鎖)が行われ、動線が寸断された。これにより米国ではプラットフォーマー/ビデオ会議システムが重用された。台湾/韓国/中国などではアプリで感染経路が特定された。各国はデジタルの有用性を強く認識した。一方日本は異質だった。「特別定額給付金」を実施するが、そのシステムは混乱した(※詳細省略)。ハンコを押すためだけに出社する人もいた。
・日本は半導体・家電で席捲したのに、なぜこんなに遅れたのか。その原因は、現状維持を重視する心理にある。これを行動経済学で「現状維持バイアス」と云う(※定額給付/ワクチン接種のトラブルが解説されているが省略)。また地球温暖化は深刻な問題である。これも日本は先送りしている。さらに日本には人口減少の問題がある。このままでは世界3位の経済大国を維持するのは難しい。
・ただし日本は素材・自動車・機械で強さを発揮している。日本人が新しい事にチャレンジすれば、最後のチャンスがある。今世界は「ゲームチェンジ」にある。

・1990年代初頭のバブル崩壊により、新しい取り組みをしなくなり、経済の活力・新陳代謝が失われた。本書はこれを行動経済学から解明する。

第1章 日本を覆う閉塞感

○コロナ禍であぶり出された日本経済の危機
・「日本はコロナへの対応が遅い。感染拡大は抑え込まれていないし、ワクチンも行き渡っていない」などの声をよく聞く(※日本は離島で、基本的にコロナ対策に消極的だったのでは)。これはこれまでに抱えていた問題が深刻化したためです。これを大学で話すと、多くの学生がコロナにより就職が難しくなったと思っている。
・確かに中国人旅行者によるインバウンドは蒸発した。これにより様々なサービス業が悪影響を受けている。しかし「原因はコロナにある」と考えるのは本質ではない。コロナにより元々あった様々な問題が深刻化しただけです。

・1つは、変化に適応した新しい生き方ができないのです。例えば感染症対策の指揮系統がありません。生活に必要な資材(医療、医薬、半導体)を確保できていません。規制改革は遅く、企業は硬直的で、社会的弱者へのセーフティーネットは不十分です。
・例えば「オンライン診療」はコロナ前から必要だったのに、日本では解禁されませんでした(※詳細省略)。その要因に医師会などの既得権益者への配慮がありました。これを行動経済学では「近視眼的損失回避」と云います。コロナにより政府は時限的にオンライン診療を緩和します。
・これに比べ米国/中国などは、以前からデジタル技術を用いた医療サービスを目指していました(※詳細省略)。日本はオンライン診療でも感染症への対応でも変化を恐れ、過去の発想にしがみ付くのです。

・今は膨大なデータが成長の原動力になる「データの世紀」です。日本もこれを踏まえ、競争する必要があります。政府が規制緩和を遅らせ、企業が古い発想から脱却できなければ、日本経済は低迷します。

○世界で産業・経済・社会の大変革が起きている
・コロナショック(※以下、単にコロナ)により世界の対立は先鋭化し、経済・社会で変革が進んでいる。米国はコロナ以前から中国に経済制裁し、基軸国家を保持しようとしていた。しかしコロナにより自国の感染対策/経済対策に奔走しています。ここで重要なのが、中国経済の方が持ち直しが早い事です(※2022年に上海のロックダウンがあった)。それは中国が重厚長大産業からIT分野にシフトしたためです。

・1989年天安門事件により、専門家は「中国は民主主義体制に向かい、市場原理が導入される」と考えました(※逆に民主化の後退だったのでは)。しかしそれに反し中国共産党(※以下共産党)は軽工業化を進め、その過程で外資を導入し、技術移転を求めました。これで得た利益で重工業化、さらにIT分野を成長させました。そして軍事力の強化も行っています。つまり国家資本主義に邁進し、国民の求心力を得たのです。

・この中国に米国は人権問題/軍備拡張を懸念するも、経済的な利益を優先します。2016年トランプが大統領に当選し、中国への対応が大きく変わり、共和党も民主党も強硬姿勢になります。2019年トランプは華為技術(ファーウェイ)などに制裁を発動します。また補助金/技術移転などの修正も迫ります(※詳細省略)。しかしトランプはコロナ対策で批判され、中国は国家統制でコロナを封じ込めたように思われます。これにより国家資本主義の強さが世界に示されました。
・バイデン政権は補助金を強化しています。米国は中国への危機感を強め、自由放任を是とする体制を修正し始めたのです。この様に、コロナによりサプライチェーンの再編が加速されています。日本が遅れを取っている間に、2大国は大きく変化したのです。

○高度成長を邁進した日本人の社会心理
・かつて日本は米国の脅威だった。1955~73年日本は高度経済成長し、1980年代末までは飛ぶ鳥を落とす勢いだった。戦後、より良い暮らしを目指す需要があり、これが経済成長を支えた。※需要はどこの国にもあるのでは。
・インフラが整備され、人々が十分なモノを手に入れた時、新しい発想にチャレンジし、高付加価値のモノ・サービスを目指すべきだったが、政府・企業はそうしなかった。バブル崩壊後、企業は大きな変化を恐れた(※発想はあったが、あえてしなかったのか?発想する能力がなかったのか?)。「日本の運営システムは万能」と云う「コントロール・イリュージョン」に浸っていたのです。※「Japan as No.1」「カイゼン」などかな。

・日本がなぜ「コントロール・イリュージョン」に浸ったかを、戦後の歴史で確認する。ポイントは、政府の方針に従い、重工業分野を中心に設備投資を増やし、「日本株式会社」と呼ばれる体制が作られたからです(※傾斜生産方式かな)。戦後、生糸などの軽工業を始めるが、1950年に朝鮮戦争が勃発し、日本は物資補給拠点になり、工業化が進められます。鉄鋼産業では技術移転/投資/大型化などにより、生産性が向上します。繊維産業でもナイロンの生産体制が整備されます。
・1950年代後半は人々の豊富な需要から、経済の好循環が生まれます。「三種の神器」(白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫、カラーテレビ・クーラー・自動車)も登場します。朝鮮特需は直ぐ終わるが、技術移転や独自の開発により競争力を持つようになります。その後に牽引したのが自動車で、ホンダ/トヨタが経済成長に寄与します。

・政府も平等を重視した政策を進めます。1956年の経済白書に「もはや戦後ではない。回復による成長は終わり、近代化による成長が始まった」(※簡略化)と記されている。旧式の設備ではなく、新しい設備による生産が始まったのです。
・1960年には池田内閣が「国民所得倍増計画」を策定する。1950年代に得られた資金でインフラ投資し、高い経済成長を維持します。「いざなぎ景気」(1965年11月~1970年7月)は日本に成功体験を植え付けます。

○第1次オイルショックで日本を覆った社会心理
・1970年7月まで続いた「いざなぎ景気」などにより、給料は増え、新しいモノが続々と生まれ、社会の心理は高揚した。農業では乗用トラクター/コンバインなどが生まれた。小売・流通ではスーパーマーケットが登場した。しかし「いざなぎ景気」が終わると、インフレが進み、経済は不安定になる。

・国民が慌てふためくショックが起こる。「ニクソン・ショック」「第1次オイルショック」である。1971年8月ニクソン米大統領が、①物価と賃金の90日間凍結、②金とドルの交換停止、輸入に10%の課徴金、③各国に為替レートの調整を発表する。それまでは、金1オンス=35ドル、1ドル=360円で固定されていた。この固定為替レートは日本の価格競争力の支えだった。米国は貿易赤字の拡大や、ベトナム戦争や貧困撲滅などで財政支出が増え、物価が上昇し、この状況に耐えられなくなったのです。

・これがショックと呼ばれるのは、「心の慣性の法則」でこの状況が続くと思っていたのが、ニクソンの発表で崩壊したからです。特に政治家には、「円の切り上げはやむなし」の姿勢を取る事は、政治生命を脅かします。そのため政府は財政支出拡大による内需の底上げを行い、米国と輸入の協議を始めます。田中角栄首相は「日本列島改造論」を策定し、土地の価格が上昇し、物価も上昇します。ニクソン・ショックは、「公共部門重視の経済運営の行き詰まり」「物価上昇」を突き付けたのです。※公共投資重視はそれまでにもあったのか?これから始まったのでは?

・さらに物価上昇を加速させたのが、1973年10月に始まる「第1次オイルショック」です。第4次中東戦争により、中東の産油国が原油価格を70%引き上げます。日本ではトイレットペーパーの買占めが起きます。これはコロナで、マスク/アルコール消毒剤が不足したのと同じです(強迫観念)。これは行動経済学で「ハーディング現象」(群衆心理)と呼ばれるものです。

○なぜ2度のオイルショックでも日本経済は発展したか
・1979年1月イラン革命が起き、「第2次オイルショック」が起きます。しかしこの影響は限定的でした。その要因に、①日銀による金融引締め、②企業経営者と労働者による協調があります。他に日本人が自信を付けた事もあります。※本書は行動経済学なので、精神面が多い。

・これは伝統的な経済理論と異なります。伝統的な経済理論である『サムエルソン経済学』を見てみましょう。「経済法則は、正確な関係ではなく、平均法則として正しい」とあります。この意味は、「経済学は長期における均衡(物事が落ち着く)を考える」です。そのため伝統的な経済学では、個人・企業などを十把一絡げにします。「主体は合理的な意思決定をする」と仮定します。また「全ての企業が等しく情報を持つ」とします(※この辺りはマクロ経済学の基本かな)。この様に長期の変化を伝統的な経済学で考えるのは意味があります。
・しかし短期の変化では、「心の動き」に注目し、「いつ、どこで、誰が、何を、どの様にしたか」を考察する必要があります。この様に伝統的な経済学で説明できない変化(例外的現象、アノマリー)を説明するのが行動経済学です。

・第2次オイルショック以降の日本経済を支えたのは「自信」です。例えば、1979年7月に発売されたソニーの「ウォークマン」です。これにより好きな場所で、良質の音楽を楽しめるようになりました。新しい付加価値の高いモノを生み出すのが製造業の本質です。これにより経済は成長し、自信を付けるのです。不確実な世界では自信が必要なのです。※ウォークマンが自信を与えた?
・電気機器の生産は半導体産業の成長を支えます。1970年代通産省主導により「電電ファミリー」(※社名省略)が集積回路の研究を進めました。これにより半導体メーカーも成長します。第2次オイルショック後、多くの企業がヒット商品を作り、自信を付けます。これが経済を安定化させます。※日本は技術力で頂点にあったのかな。

○プラザ合意と日米半導体協定により経済低迷
・1980年代、エレクトロニクス・半導体/自動車の自信により、日本の経済成長は維持されます。1987年には1人当たりGDPで米国を抜きます。米国はその過程で危機感を募らせ、1985年「プラザ合意」、1986年「日米半導体協定」となります。
・1985年9月G5の財務相・中央銀行総裁が、ドル高是正の介入で合意します(※プラザ合意)。1986年半導体上位10社中、6社が日本企業でした。米国は日本市場の開放を求めます(※オレンジとかかな。何か話が飛ぶ)。米国はロジック半導体でも日本に脅威を感じる様になり、「日米半導体協定」で公正価格販売制度の導入を求めます(※後を読むと反ダンピング価格みたい)。これは日本の半導体産業の競争力がなくなる1996年まで続けられます。

・日本は公正な競争で臨むべきでしたが、「何とかなる」で済まされたのです。日本は「高い価格なるので、利益が得られる」との「コントロール・イリュージョン」を抱いたのです。これにより日本は新しい技術の開発を止めます(※半導体以外の分野も開発を止めた?)。経済全体でも、「日本は行動を変える必要はない」との発想が浸透していました。政府は「日本の技術力は強いので問題はない」と考え、企業も「政府が公共事業をしてくれるので、心配はない」と考えます。※そんな単純ではないと思うが。
・一方韓国のサムスン電子などは日本から半導体技術を供与され、世界的な半導体メーカーになります。サムスン電子会長は「妻と子供以外は変えろ」と述べ、成長主義を貫きます。日本は成功体験に甘えていました。1955年頃に出来上がった左派・右派も平等を重視していました(※内容説明はない)。

・日銀も「何とかなる」の心理を支えます。日銀は企業の業績悪化を食い止めるため、金融緩和(金利引き下げ)を行います。だぶついた資金は不動産・株式に流入します。そのため1980年代半ばから資産バブルが起こります。1989年末日経平均株価は史上最高値になります。しかし翌年、株式のバブルは崩壊します。また1991年春頃から大都市圏の地価も下落に転じます。
・米国が日本に厳しい姿勢で臨むようになったのに、日本の政府・企業・個人は寛容でいたのです。資産バブルに心を奪われ、長期的な発想ができなくなったのです。

○1990年代以降の失われた30年
・バブル崩壊後日本経済は長期低迷しますが、その大きな原因は、政府・企業・個人が変化に対応できなかった点です。行動経済学ではこの心理を「保守性バイアス」と云います。
・バブルがはじけた要因の1つは、金利の引き上げです。これによりリスク資産である株式は値下がりします。また高値不安から「売るから下がる、下がるから売る」の弱気な心理が連鎖します。※「プロスペクト理論」の説明は省略。
・米国では同じ期間に4回のバブル崩壊(ITバブル、住宅バブル、コモディティ・バブル、トランプ・バブル)が起こっています。しかしこれにより新陳代謝が行われています(※重要だけど、詳細省略)。一方日本は30年間低迷したままで、これは世界でも稀です。

・長期低迷の要因は沢山ありますが、1つにバブルの後始末が遅れた事です。バブルが発生すると、多くの人が「バンドワゴン効果」に影響を受けます。日本で云えば、チンドン屋に付いて行く心理です。1980年代有名人・著名人の株・マンション投資が注目されました。それにつられ、個人・企業も財テクに走ったのです。さらに銀行からお金を借り入れ、レバレッジ投機をしたのです。しかし資産価値の下落が始まると、そのスピードが早過ぎるため、借金を返せなくなります。この不良債権により、新しい分野に資金が回らなくなったのです。この不良債権の整理を速やかにすべきだったのです。
・しかし日本は合理的な意思決定ができませんでした。それは1980年代の「何とかなる」の社会心理があったからです。需要を生み出すには不良債権処理/構造改革しかなかったのですが、政府はゾンビ企業を延命させ、雇用を守ったのです。1997年まで公共事業で雇用を守ろうとしました。
・1997年11月4大証券の山一證券が自主廃業します。翌年10月には日本長期信用銀行などが経営破綻します。不良債権処理が進むのは、2002年「金融再生プログラム」以降になります。

・1990年代新興国が急成長します。そんな時期に「何とかなる」では、どうにもなりません。消費者物価は低迷し、ウォークマンなどのヒット商品も出なくなります。人々は消費より貯蓄を重視し、デフレに陥ります。
・この「何とかなる」は「保守性バイアス」と呼ばれます。日本は成功体験により、新しい価値感を受け入れなかったのです。家電を牽引したソニー、自動車を牽引したホンダにはアニマル・スピリッツがありました。しかし今は新しい技術・戦略に挑戦する人はいません。
※本章は過去の経緯で、特に新しい事は書かれていなかった。次章以降に期待。ただ衰退の原因を心理面から解くのは初めての説だ。

第2章 なぜ日本は衰退したか

○なぜモノ作り日本は衰退したか
・日本の長期低迷の要因は、世界経済の構造変化への対応が遅れた事です(※説明が全くなかったが、グローバル化の事?)。特にデジタルで顕著です。日本のインフラ投資(道路、鉄道)は一巡しており、雇用を生み出す事はできません。そして政府・企業・個人は「新しいモノを作る」行動様式を否定していました。※構造変化/デジタル/インフラ投資/行動様式、全くバラバラなんだけど。
・しかし新しいモノが全くなかった訳ではなく、1999年NTTドコモは「iモード」を開発しています(※ISDNとかもあったな)。これは斬新な発想でしたが、世界に広がりませんでした。もしiモードが高音質な音楽再生機能を持っていたら、もし低価格で新興国に輸出されていたら、どうなったでしょうか。しかし日本は雇用を守る事を優先したのです(※日本国内にある程度のマーケットがあるので、世界に進出しようと考えないみたい。まさにガラパゴス)。日本は国内需要が飽和しても、新しいモノを作り、世界に展開する行動様式を取りませんでした。

・1990年代、世界は設計・開発・生産・販売を国際分業する大変革が起きます。しかし日本はこれを一気通貫で行う「垂直統合」を堅持します。アップルは「iPhone」のブランディングやソフトウェア開発を行いますが、部品・素材・パーツなどは世界から調達し、台湾の鴻海精密工業の傘下で生産します。事業効率を高めたiPhoneは、大ヒットします。日本にはiモードもウォークマンもあったのに、なぜスマートフォンに乗り出さなかったのでしょうか。
・国際分業による新しい生産方式により、米国の企業は生産を新興国に任せ、人件費/設備投資などの負担を減らし、事業効率を高めます。新興国(中国、台湾、韓国など)も技術移転により工業化されます。一方日本企業は垂直統合を維持したため、競争力が低下します。

・インターネット経由での購入が可能になり、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる巨大IT企業が台頭します。メディア業界でも、「ドラマ/ニュースはテレビで見るもの」だったのが、YouTube/Netflixなどが登場します。これまでの常識とは異なる発想の人が経済を支えるようになったのです。

○日本のGDPが増えない理由
・私(※著者)は度々出張します。現地の人との交流は、現実を知るのに有用です。よくタクシーを利用する時に「景気はどうですか」と訊ねます。1990年代関西を訪れた時、運転手は「利用客は減ったけど、政府が対策を取っているので大丈夫でしょう。企業もちゃんと仕事しています」(※要約)と応えました。さらに下車する時、「日本は和をもって尊しとなすです。国に任せましょう」と応えました。この意識が国民に植え付けられているのです。これは行動経済学で「アンカーリング」と呼ばれます。最初の情報が大きく影響するのです。この「国に任せる」が呪縛になっています。

・これは日本の自然環境にあります。日本は島国で、民族的に同質性が高いのです。新しい発想をするのではなく、既存の意思決定に従うのです。戦後保守政党は米の生産を保護し、中小企業の経営を重視します。これは工業と農業/大企業と中小企業などの格差拡大を先取りした政策でした。一方革新政党は労働組合を重視します。その結果日本は平等・安定を是とするようになり、「競争に勝つ」「お金持ちになる」などを諫めるようになります。また「困った時は政府に任せる」となったのです。そのため中国人の知人から「日本は世界で最も成功した社会主義国家」と言われました。
・ある経営者が「経営には多様性が重要」「色々な発想がなければ、新しいモノは生み出せない」と言っていましたが、会社に行って見ると、年功序列・終身雇用で、作っているモノは20年前のモノでした。「中途採用などには取り組まないのですか」と訊ねると、「政府の考え方が変わっていないので、私達も変えません」との事でした。日本はこの様に無意識で行われている意思決定の1つひとつを再検証しないと、成長に転換する事はできません。

○伝統的な経済学はレッセフェールを重視した
・伝統的な経済学は、市場の見えざる手を前提とする(レッセフェール、自由放任主義)。しかし放任し過ぎるとマイナスの影響(外部不経済)が起こる。例えば高度経済成長期の4大公害である。伝統的な経済学では、個人・企業の自由に任せる事で、効率的なモノ・サービスが生まれる。
・また第1次産業から第2次産業に移行する段階では、工場建設/機械購入などにより経済成長します。1990年代の新興国がその典型です。問題はその後で、そこで競争原理を活かす事が重要になります。私達は学びによって新しい発想・理論・知見・経験を得ます。そして多くの人が欲するモノを生み出せる人に、生産要素が投じられます。これが市場原理です。※競争原理=市場原理かな。

・しかし日本は価値観が異なっているようです。1980年代日本の半導体産業の頂点には政府(通産省)があり、その計画の下で電電ファミリー、さらにその下にハイテク企業がありました。事業は上意下達で運営されていたのです。バブル崩壊後は、本来のレッセフェールに戻り、成長分野に生産要素を再配分すべきでしたが、転換できませんでした。他方、特に米国ではマイクロソフトに見られるように、自動車・鉄鋼からIT分野に生産要素を再配分し、経済の効率を高めます。
・1999年NEC/日立製作所がDRAM事業を統合し、エルピーダメモリを設立します。しかし業績は低迷し、2009年公的支援が行われ、2012年経営破綻します。そうは言っても、半導体産業が壊滅した訳ではありません。半導体部材/製造装置メーカーは成長しています。日本が新しい発想・モノ・サービスを生むためには、労働市場の流動性を向上させる必要があります。※流動性に関する説明は一切ない。

○世界3位の経済大国でなくなる
・日本は新しい理論・技術に習熟し、世界経済の環境変化に対応する必要があります(※理論・技術の説明はない)。これをしないと、世界3位の経済大国の地位を維持できません。地位低下は発言力の低下になります。日本は食料・エネルギーを輸入に頼り、これは死活問題です。
・世界GDPの25%を米国が占め、中国17%/日本6%/ドイツ4%/英国3%と続きます。IMFによると1980~2020年のGDP成長率は、日本1.7%/ドイツ1.5%/インド5.9%となっています(※随分期間が長い)。これで推計すると、2036年インドが日本を超えます。しかし日銀は、日本の潜在成長率を0.1%としています。

・ドイツは1990年東西統一で復興費用などから経済は低迷し、「欧州の病人」と揶揄されます。しかしシュレッダー政権(1998~2005年)が労働市場改革を行い、国民の就労意識を高め、経済成長率を高めました(※ユーロ導入が大きいのでは)。これは行動経済学の「ナッジ」(肘で突っつく)の実践です。これはリバタリアン・パターナリズム(リバタリアンは自由主義、パターナリズムは父権主義)と呼ばれ、強制と自由放任の中間になります。
・2003年以降ドイツは労働市場/社会保障制度の改革を進めます。労働市場の改革では、解雇規制を緩和します。社会保障制度では、失業保険の給付を改革します。次期メルケル政権になると、ユーロ圏の景気を支える国になります。またトルコなどからの移民も受け入れるようになります。

・インドは2050年まで人口が増えます。潜在成長率を、日本0.1%/ドイツ1.7%/インド5.9%と仮定すると、2031年インドが日本を抜き、2038年ドイツが日本を抜きます。

○なぜ日本人は買いだめする
・なぜ日本人は、ここまで変化を嫌うのか。なぜ新しい技術に背を向けるのか。なぜ混乱・不安から生じる群集心理が強いのか(※様々な現象が記されているが省略)。2020年コロナ下でマスク不足が生じました。供給は一定なのに、需要が急増したからです。供給を増やすのは簡単ではなく、マスクの価格は上昇しました。この異常な事態を収束させるのは、政府の役割です。しかし政府がコントロールできなかったため、買占めが起きます。一方台湾政府はマスクの在庫を見える化し、混乱を抑えました。これにICT技術を活用しました。台湾と日本では先端技術への理解と、それを社会に落とし込む力に差があります。

・大学院の生徒が次の様に言っていました(簡略化)。
 マスクでも消毒液でも、いつまでも不足する訳ではない。強迫観念に同調すると、社会に迷惑が掛かる。テレワーク/休暇取得/外出抑制など対応は幾らでもある。群集心理に流されるかは、本人の気持ち次第だ。
・この様な状況になると、国民を冷静にするのは簡単ではない。この様な状況の中、政府は優先順位を明確にせず、感染対策と経済活動の二兎を追ったのです。結果感染は再拡大し、医療体制は逼迫します。この二兎を追う限り、日本が長期低迷から脱する事はないでしょう。

第3章 変化への対応を迫られる日本

○情報通信技術の高度化
・本章では、今後の日本経済の変化を予想します。まずICT高度化の影響です。リーマンショック後、スマートフォン/タブレット/ウェアラブル端末などが急速に普及します。中国ではスマートフォンのアプリで信用力が評価されます。コロナ下では、デジタル技術が活用されました。
・デジタル技術により、映画館に行かなくても自宅で映画を視聴できるようになりました(Netflix、アマゾン・プライム・ビデオ)。バブル崩壊により1990年代は外出を控えるようになります。そこで消費を補ったのがデジタル技術でした。

・コロナ下で需要が高まったのは動画視聴だけではありません。物流もデジタル技術を活用します(アマゾン)。インターネットで注文から決済までが完結します。これにはラストワンマイルの確立が不可欠です。これにデジタル技術と人力が活用されています。ファミリーレストランなどの飲食業が、「ウーバーイーツ」などのフードデリバリーを導入しています。これにギグワーカーが利用されており、社会問題になっています。日本はここに至るまでに時間を要し、過去の発想にしがみつく「保守性バイアス」の強さを痛感しました。

・デジタル経済は今後も加速します。米中は6Gの開発を進めています。IoT、トラックの縦列自動走行なども導入されるでしょう。日本企業が変化に追従できるか不安です。一方、半導体の部材・製造装置、工作機械などでデジタル化を支えている企業もあります。しかしデジタル化の中核は米国のGAFAM/中国のBATで、日本企業が主導する事はなさそうです。

○仕事がAIに取られる
・「AIが私達の仕事を奪う」との強迫観念に捉われている人が多くいます。これは行動経済学で「初頭効果」と呼ばれています。2013年英オックスフォード大学が「米国の雇用の47%がAIに置き換わる」との論文を発表しています。具体的にはテレマーケター、不動産の取引記録・権原審査、衣服の手縫いなどです。
・しかし全ての仕事がAIに置き換わる訳ではありません(※これを演奏で説明しているが省略)。AIは過去のビッグデータから将来を予測するので、過去に起きていない事は予測できません。実際、リーマンショック後に、市場の取引をAIに任せたため「フラッシュクラッシュ」が起きています。重要なのは、自分しかできない仕事を見付ける事です(※営業を例として説明しているが省略)。AIに任せられるのはルーティン化した業務です。人間は付加価値の高い仕事をすれば良いのです。

○人口減少社会
・日本は人口が減少し、高齢化・少子化しています。人口の半数以上が65歳以上の限界集落が増えています。一方米国は潜在成長率が高く、それはヒスパニック/アジア系/アフリカ系の移民があるからです。また多様な生き方を持つ人が集まるため、イノベーションも起こるのです。その証拠にIT先端企業のトップに、インド系/中国系の人が多くいます。

・よく「イノベーションが欠かせない」と聞きます。イノベーションを「技術革新」と訳していますが、これは間違いです。シュンペーターはイノベーションを以下の5つとしています。
 プロダクト・イノベーション-新しい財貨。
 プロセス・イノベーション-新しい生産方式。
 マーケティング・イノベーション-新しい販路。
 サプライチェーン/マテリアル・イノベーション-新しい原料・半製品の供給。
 オーガニゼーショナル・イノベーション-新しい組織による独占・寡占の打破。
・新しい発想から生まれるもので、人口増は含まれていません。新しい発想からヒット商品が生まれ、競争が起き、産業構造が変化します。

・多くの学者がイノベーションを研究し、政府による規制緩和・企業支援などが有効としていますが、重要なのは「新しい発想をする人を増やす」です。日本だと「各地域でヒット商品を生み出せるか」です。経済理論では潜在成長率は、労働の投入量/資本の投入量/労働と資本を除く全要素生産性で決まります。「人口が減るので、労働・資本の投入が減る」だと、イノベーションの考えが抜け落ちています。
・産業の基盤を創出している地域があります。そうした地域では首長や企業のトップが「全て自分が責任を取る」とコミットし、若者(柔軟な人)/バカ者(既存の発想に捉われない人)/よそ者(外部の専門家)を起用し、地域の資源を活かした産業を創生しています(※面白い表現だな。結局は保守的な社会が、そうさせていないかな)。「人口が減少するので大変だ」は「初頭効果」です。経済成長に何が必要かを理論的・客観的に考えるべきです。

○地球温暖化
・地球温暖化により世界規模で台風・ゲリラ豪雨が多発しています。国は事前に根本的対応を取る必要があります。18世紀後半産業革命が起き、化石燃料を消費するようになりました。自動車にも内燃機関が利用されています。しかしこれによる二酸化炭素排出で、地球温暖化が進んでいます。排出された温室効果ガスは、簡単に国境を超えます。これは「外部不経済」と呼ばれます。

・そのためいち早くエネルギー政策を転換する必要がります。1次エネルギーは自然界から得られるエネルギーですが、その推移を見ると、日本は8割を石炭・石油・天然ガスに依存しています。東日本大震災後、原子力が減少し、天然ガスが増加しています。しかしそのタイミングで、太陽光・風力などの再生可能エネルギーに転換すべきでした。

・日本がこの政策転換できない理由は「現状維持バイアス」によります。為政者にリーダーシップが欠けているためです。リーダーシップに必要なのは、①変化の察知、②長期視点、③組織運営の能力です。地方消滅でも述べましたが、日本の為政者は口では改革を唱えても、既得権益者の反対で改革できないのです。
・稼働開始から40年を超える美浜原発を再稼働させました。脱炭素は重要な課題ですが、これに国民の賛同を得られているかは疑問です。まさに「現状維持バイアス」に捉われているのです。政府は再生可能エネルギーへの転換に注力すべきです。これにより国際世論を主導する立場になれます。

○もう日本は経済成長しない?
・従来の発想を変えない日本は、経済成長しないと思われています。一方中国は1990年代に工業化を進め、世界トップの米国を脅かすまでに成長しました。GDP成長率は国際社会での発言力に影響します。安全保障を米国に依存し、エネルギー・穀物を輸入に頼る日本は、GDP成長率を高める必要があります(※GDPそのものではなく成長率かな)。これにはチャレンジ精神が不可欠で、「やりたい事ができる環境」が重要です。
・世界一幸福な国はブータンと云われます。この国の留学生と一緒に勉強する機会がありましたが、彼は心から勉強を楽しんでいました。学ぶ事に喜びを見出せるかは、その国の発展のための基礎的要素です。日本は最先端の理論や、世界経済の変化を理解する環境を整える必要があります。言い換えれば、教育者が「これまで学んだ事は、生涯役に立つ」と明言できる状況の整備です。

・心理学者アブラハム・マズローは「欲求5段階説」を唱えています。「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」です。日本は自己実現の欲求を満たすための学習環境を整備しなければいけません。
・戦後日本は生理的欲求/安全の欲求は満たされ、就職により社会的欲求、昇進・出世により承認欲求が満たされました。しかし1990年代初頭にバブルが崩壊し、自己実現の欲求を目指すのではなく、終身雇用・年功序列による承認欲求から脱却できていません。※自己実現できれば、承認欲求は不要になるかな。

・これにはリカレント教育などによる自己改革が必要です。新しい発想・価値観に触れ、チャレンジする事により、経済成長する事ができます。日本には教育改革が必要です。デジタル教育/リカレント教育の強化が必要です。
・日本が構造改革(例えば年金制度を賦課方式から積立方式に変更)するのは容易でありません。これを納得してもらうためには、時間・覚悟・環境が必要です。そのため日本は一人ひとりが自己改革する環境を整えるべきです。そうすれば失敗しても、再チャレンジするようになります。※チャレンジしない人や改革を拒む既得権益者が問題かな。

第4章 経済復活のキーワードは、半導体/EV/脱炭素

○半導体/EV/脱炭素
・日本経済の先行きは楽観できません。短期的には半導体、中期的にはEV、長期的には脱炭素/カーボンニュートラルが重要になります。まずは半導体を見ます。1980年代半導体メモリで日本企業のシェアが50%を超えていました。しかし日米半導体摩擦で日本は競争力を失います。しかし半導体部材や製造装置では競争力を維持しています(※会社名省略)。しかし米中の様にプラットフォーマーや、TSMC/インテル/サムスン電子の様な半導体メーカーはありません。しかし日本の部材/製造装置の技術は不可欠です。
・今後はデジタル機器の中核であるロジック半導体はTSMCが中心になるでしょう。当社は線幅5ナノのチップを安定的に生産しています。日本はパワー半導体など、ニッチな分野で存続するでしょう。

・次にEVを見ます。日本企業の取り組みは遅れています。しかしEVには、FCV(燃料電池車)/PHV(プラグイン・ハイブリッド車)などがあり、トヨタはFCV「MIRAI」を市販しています。さらにトヨタは水素エンジンの実用化にも取り組んでいます。
・懸念されるのはEVによる生産方式の変更です。EVになるとデジタル家電の様に、ユニット組立に変わります。そのためアップル/グーグルなどがEVを設計・開発するようになります。自動車産業は裾野が広いため経済成長を支えてきたが、経済の大きなゲームチェンジになります。ここでポイントになるのが「CASE」(ネットワークとの接続、自動運転、シェアリング、電動化)です。

○なぜ半導体が注目されるか
・目先では半導体が注目されています。新しいモノは、人の生き方・文化を変えてきました。例えば自動車の登場で移動は容易になりました。マイクロコンピュータにより自動車の性能が大きく変わりました。あらゆる機器において、半導体の機能向上が欠かせません。※大雑把に言えば、集積化による高速化かな。重要なのは半導体利用(デジタル化)の拡大かな。

・20世紀は石油の時代でしたが、「データの世紀」になったのです。1990年代からインターネットが普及し、日々の生活データが蓄積されるようになりました。この「ビッグデータ」を分析する事で、人々の行動様式が分かるようになったのです。これが需要を生み、成長の源泉になったのです。これによりデータセンターへの投資が拡大し、半導体の重要性が高まったのです。

・この微細化で最先端を走るのがファウンドリ企業(受託生産企業)のTSMCです。当社はファブレス企業からの受託生産に専念し、成長したのです。一方インテルは、半導体の設計・開発/生産/販売、全てを手掛ける垂直統合型企業です。同様にサムスン電子も自社ブランドのチップを生産しています。TSMCは生産に集中する事で、微細化のコアコンピタンス(得意分野)を得たのです。
・TSMCは5ナノの生産体制を確立しています。一方インテルは7ナノの生産体制も確立できていません。サムスン電子は5ナノの生産体制を確立しましたが、歩留まり率は低迷しています。TSMCは2ナノなどの確立にも取り組んでいます。ファウンドリ市場では55%のシェアを占めています。
・TSMCの影響力が高まった要因に、2018年以降の米中対立があります。中国はアリババ/ファーウェイなどのソフトウェア開発は強いが、半導体などの最先端の製造技術はありません。そのためトランプはファーウェイやファウンドリの「中芯国際集成電路製造」(SMIC)を制裁したのです。これにより半導体の需給が逼迫し、さらにコロナが半導体不足に拍車を掛けます。半導体の確保は政治課題になり、米国は補助金を出し、TSMCを誘致しました。

○中国の北風政策
・中国は半導体の確保に躍起になっています。中国では党の指示が重視され、これはイソップ寓話の『北風と太陽』の「北風」です。北風政策は、為政者の考えに強制的に従わせます。中国には先端産業政策「中国製造2025」がありますが、部分的な遅れが見られます。ファーウェイはスマートフォンのチップの製造をTSMCに委託していたのですが、米国の制裁でできなくなり、シェアを急速に失います。仕方なく低価格帯のスマホ事業を売却します。
・これは中国の実態を的確に表しています。中国企業の強みは、迅速な学習能力/価格競争力/ソフトウェア創出力です。ファーウェイは土地の提供/税での優遇/産業補助金により、供給力を高めました。これにより携帯基地局や半導体の設計・開発で高いシェアを持つようになります。
・中国は他にも、モバイル決済/デジタル人民元/監視カメラなどの高度な技術力を持ちます(※ドローンとかもあるかな)。しかし制裁により、先進国の製造技術へのアクセス(※利用?)が難しくなりました。共産党が支配体制を強化するには、これらを克服し経済成長し、国際社会での影響力を高める必要があります。

・中国は技術力強化のため、補助金や技術移転を重視しています。「阿里巴巴集団」(アリババ)は電子決済サービス「アリベイ」を運営するアントグループの上場を目指していました。ところが2020年10月、創業者・馬雲(ジャック・マー)が政府を批判します。これにより上場は差し止められます。これは北風政策を体現しています。中国ではいくら先端の理論や新しい発想をしても、共産党の指導に従うしかないのです。中国はデジタル人民元の開発に取り組んでいますが、これは資金の決済・送金を監視するためもあります。

・共産党の考え方は、債務を抱える企業への対応にも表れます。中国の半導体企業・精華紫光集団が債務不履行になり破産手続きに入りました。これには政治面での対立や綱紀粛正があったと思われます。これは共産党による「見せしめ」だったと考えられます。つまり中国企業は共産党の意向に従った経営をしないといけないのです。

○半導体分野で米国が進めるゲームチェンジ
・半導体分野で中国は北風政策を取っています。一方米国はアニマル・スピリッツを重視する「自由資本主義」でしたが、補助金などによる「修正資本主義」に変わり始めました。これは国家資本主義体制により急速に経済成長し、軍備を拡張してきた中国に脅威を感じたからです。
・トランプ政権ではTSMCに補助金を出し、工場を誘致しています。バイデン政権では各国の実務家と協議するようになりました。バイデン政権の主要閣僚が頻繁にアジア/欧州を訪れているのは、そのためです。

・その中で経済成長と安全保障の両面から、台湾の重要性が高まっています。半導体はデジタル化/宇宙開発/IoT/経済の効率化など、様々な分野に影響します。そして世界のファウンドリの60%を台湾が占め、韓国18%、中国5%と続いています。米国は最新鋭のステルス戦闘機F35の半導体をTSMCに委託しています。国内の生産能力を強化していますが、簡単ではありません。中国も製造技術が弱いため、台湾は喉から手が出るほど欲しいのです。
・米国は国内外の企業に補助金を給付し、誘致しています。こうして競争を重視した経済運営を修正したのです(ゲームチェンジ)。しかしこれによりアニマル・スピリッツが弱まる恐れがあります。効率性を追及すると国際分業が進み、特定の地域・国に先端産業が集中します。これを防ぐため政府が市場に介入し始めました。

○緊迫感が高まる台湾海峡
・米中対立が先鋭化する可能性があります。中国の微細化技術はSMICで14ナノ程度で、TSMCより2世代遅れています。そのため台湾に圧力を強めています(※具体的な説明が欲しい)。米国も台湾との関係を強化しており、台湾海峡の緊迫感が高まっています。2021年6月G7サミットの共同宣言に「台湾海峡の安定は重要で、両岸の平和的解決を促す」と記されました。
・またインド太平洋地域の安定は、米国だけでなく欧州にとっても重要です。そのため英国/仏国/ドイツがインド太平洋地域に艦船を派遣しています。2020年末欧州議会は中国への警戒から、中国との包括的投資協定を凍結します。

・この中国包囲網に対し、中国は国内の統制を強めています。分かり易いのが香港で、2020年6月香港国家安全法を施行し、共産党の支配を強化しています。自由主義を標榜する蘋果日報の幹部は逮捕されました。また香港で人民元をドルに交換する資産家がおり、香港の統制は重要なのです。
・中国は新疆ウイグル自治区やチベットへの圧力も強めています。また台湾海峡を航行する艦船や、台湾の防空識別圏へ軍機の進入も増やしています。

・米国は「1つの中国」を認めていますが、台湾との非公式の関係を深めています。台湾は地政学的にも、半導体においても重要なのです。
・一方中国は台湾への影響力を強化しています。また国内では、統治強化/汚職撲滅/海外進出の強硬姿勢により共産党のリーダーシップを示しています。国内外で強硬姿勢を示し、支配基盤を安定化させています。
・台湾の半導体産業もこれらを念頭に競争力を強化しています。TSMCが日本に研究開発拠点を設けたのは、地政学的なリスク分散や、台湾にない技術の習得が目的です。

○日本は半導体部材・製造装置で存在感
・日本の素材の製造技術は、国際世論の発言力を高めています。特に重要なのが半導体の部材(シリコンウエハ、フッ化水素、フォトレジスト、CMPスラリー、窒化ガリウム、炭化ケイ素、※沢山あるな)です。微細な素材は分解できないため、模倣は難しいのです。TSMCが日本企業に接近するのはそのためです。
・台湾だけでなく中国/韓国/米国も日本の素材創出力を必要としています。そのため日本の素材メーカーは中国/米国/韓国の企業に直接投資し、供給力を高めています。※供給力を高めるために、直接投資が必要なのかな。

・日本は微細な素材産業により、世界での立場を構築できます。象徴的なのが2019年7月韓国に対し、フッ化水素/フッ化ポリイミド/レジストの輸出を厳格化した件です。これに対し韓国は国産化を進めましたが、超高純度のフッ化水素などは生産できていません。また韓国の強硬姿勢は、逆に台湾/中国を優位にさせたようです。
・また日本は精密な工作機械も優れています。コロナにより工作機械受注が一時減少しましたが、その後急回復しています。この背景にFAの加速があります。

・見てきたように、韓国/中国は確立されたモノを作るのに比較優位があります。特に中国は、国有・国営・民間企業への土地供与/税制優遇/補助金/技術移転などで競争力を高めました。しかし微細な技術は持っていません。一方日本は微細な技術に優れており、その技術を磨く事が中長期的な安定になります。

第5章 世界的なEVシフト

○自動車産業が主要国の経済を牽引
・本章は自動車産業を取り上げます。自動車の部品は3万点に及び、そのため部品と部品の「擦り合わせ」が重要になります。自動車産業は裾野が広く、雇用に大きく影響します。日本では雇用の8%が自動車関連です。企業の製造品出荷額でも18.8%が自動車関連です。
・1990年代初頭バブルが崩壊したのに、なぜ自動車産業は成長したのでしょうか。それは自動車メーカーが耐久性/燃費が優れた自動車を出し続けたからです。例えばトヨタのハイブリッド車があります。

・1880年代ドイツのダイムラーとベンツが、内燃機関の自動車を開発します。1903年フォードが「T型フォード」を大量生産します。これは雇用を生み、20世紀前半、米国の工業化を支えます。20世紀初頭ドイツでは自動車専用道路が整備されます。フォルクスワーゲン(国民車)構想が進められ、安全な車体/空冷式エンジン/製造技術などが磨かれます。

・戦後日本は急峻・狭隘な地形に対応した低燃費の自動車を作るようになります。1960年代環境性能が問われる様になり、ホンダはいち早く米国の「マスキー法」をクリアします。その後日本はエコな自動車として市場でポジションを確立します。1990年代に入っても日本は環境性能を高め、トヨタはハイブリッド車「プリウス」を開発します。これは画期的で、静寂/排ガス削減/回生ブレーキなどで衝撃を与えます。
・日本はヒット商品を、完成車メーカー/下請け/孫請けの産業構造で生産したのです。海外の自動車メーカーは危機感を感じ、2015年フォルクスワーゲンはディーゼル車の排ガス規制の不正が発覚します。

○日本車は擦り合わせ技術でトップに
・トヨタは日本の自動車産業でもトップで、大衆車だけでなく、高級車でも需要を取り込んでいる。この安心・安全を実現しているのが「擦り合わせ技術」です。これは部品/素材/製品/パーツなどの調整機能で、これにより免振、防音、耐久性、見た目などを実現している。これには各企業の協力が必要である。

・2021年3月車載マイコンのルネサスエレクトロニクスの工場で火災が起き、世界の自動車メーカーに衝撃を与えた。半導体はクリーンルームで作られるため、微細なチリでも性能に影響する。当初は「再開に数ヵ月掛かる」と発表したが、数日後に「1ヵ月以内の再開」に変わる。この復旧に、自動車/素材/機械などの各専門家が参加した。互いが問題点を共有し、スケジュールを調整し、早期の再開に漕ぎつけた。これも「擦り合わせ」と云える。この様に自動車メーカー/サプライヤーは日頃から密に意思疎通している。この体制が、日本の自動車産業を世界トップにしている。

○企業が直面する「心の慣性の法則」
・この「擦り合わせ技術」は、日本の様々な産業を支えてきた。しかし1990年代初頭にバブルが崩壊し、過去の成功体験が新しい発想を妨げています。その原因が「心の慣性の法則」です。これは経済・社会にある行動様式が定着すると、それを変えなくなる現象です。
・例えばテレビでサプリメントを販売する時、商品を半額で販売したりする。しかし消費者は使い続ける事で満足し、途中で止めない。事業運営でも、同じ様な事が行われている。

・1980年代日本企業が高く評価されます。各国が「日本モデル」を研究し、「年功序列・終身雇用により従業員の忠誠心が高まり、高品質の製品が作られる」と考察します。これが日本の企業・個人に自信を与え、「コントロール・イリュージョン」となったのです(※幾ら働いても豊かになれないので、そんなもの全くないけど)。1985年プラザ合意により内需拡大の政策が取られ、不動産・株が急騰し、資産バブルが起きる。その結果、「これまでの考え方を続けるのが最善」となったのです。※バブルを是としたのか。

・ところが1990年代初頭バブルが崩壊します。景気は低迷し、需要は落ち込み、デフレになります。一方海外では、中国は工業化の初期段階に入り、台湾/韓国/シンガポールなどの新興国は技術移転を進めます。米国はインターネットにより在庫管理などが効率化されます。米国はソフトウェア開発を重視するようになり、デジタル家電/パソコンなどは新興国が生産する国際分業体制が加速します。この結果、擦り合わせ技術を根底にした垂直統合型の優位性は低下します。ユニット組立型の生産プロセスが普及し、設計・開発と生産の分離が進みます。※日本も空洞化が問題になったので、国際分業体制に参加したのでは。

・振り返ると、多くの日本企業はかつての発想に固執し、行動様式を変えなかった。行動経済学では、これを「認知的不協和」と云います。これは想定と異なる展開になり、ストレスを感じる事です。人は主観的に考えるため、このストレスに対し責任転嫁したり、言い訳をします(※心理学みたいだな)。これにより問題の本質を見落とす事になります。
・日本は半導体/液晶テレビ/自動車/造船などの競争力を失います。その要因は行動様式を変更しない「心の慣性の法則」なのです。日本は少子化・高齢化します。それなのに年功序列・終身雇用を続ける企業経営者が多いのです。

○テスラの株価上昇
・海外には「心の慣性の法則」に浸るのではなく、新しい発想を目指し、成長分野に生産要素を再配分する企業があります。その代表がEVメーカーのテスラです。2020年3月コロナにより株価は底値を付けます。しかしFRBによるゼロ金利政策/資産買い入れにより、世界的に株価が上昇します。そこで「テスラの株を買っておけば儲かる」との「コントロール・イリュージョン」が起きたのです。

・テスラの収益源は2つで、1つはEVの販売で、2021年上半期で38万台を売っています。もう1つが温室効果ガスの排出枠取引です(※製造業は排出する側で、収益にならないと思うが)。2021年上半期トヨタは546万台を売っています。テスラとは桁違いです。それなのにテスラが「コントロール・イリュージョン」をもたらすのは理由があります。
・ここで2つの集合を考えます(※集合論が出てきた)。1つはデジタル技術、もう1つは移動手段です。デジタル技術はアップデートにより更新されます。これはエンジン車との違いです。また移動手段としてのEVは温室効果ガスを排出しません(※電気が何から作られるかによるが)。このグリーンなイメージが、成長期待を起こし、株価が大幅に上昇したのです。

・ここで重要な役割を担ったのが「ロビンフッダー」です。2020年春先、米国では自宅に籠る人が増え、手数料無料の株式取引アプリでテスラなどの株を買ったのです(※ゲームストップ騒動もあった)。これは行動経済学で「バンドワゴン効果」と呼ばれるもので、たいして興味はなかったのに、ついて行ってしまう行動です。
・テスラの創業者イーロン・マスクは「心の慣性の法則」とは全く異なる価値観を持ち、先端技術を使ってイノベーションを起こそうとしています。一方日本企業は投資家に成長期待を持たせる事ができません。

○欧州メーカーはEVで日本打倒を目指す
・日本のハイブリッド車はエコカーの火付け役になりました。これは欧州メーカーに危機感を抱かせます。そこで力を入れ始めたのがEV(電気自動車)です。それに伴い、エネルギー供給/社会インフラの供給にも取り組みます。

・フォルクスワーゲンは、2030年までにギガファクトリー(大規模なバッテリー工場)を6つ建設すると発表します。これはEVに専念する事の表明です。またエネルギーシステムの供給によって、次世代の社会インフラの整備需要を取り込もうといしています。当社はディーゼルエンジンの不正問題が発覚した後、米国で「エレクトリファイ・アメリカ」を設立し、急速充電ステーションの設置を進めています。打倒ハイブリッドのための「ハイブリッド車包囲網」を敷こうとしています。

・当社は自社株を売却しようとしています。その1つ目の理由は、得た資金で、充電インフラの整備を加速させるのです。もう1つの理由はネットワーク効果です。ネットワーク効果とは、特定のシステムを利用する人が増えると、そのシステムの社会的・経済的影響が高まる事を云います(※これは株式売却とは間接的な関係かな)。例えばグーグルは無料のメールを提供し、検索エンジンの利用者を増やし、企業・個人にとって欠かせないITプラットフォームになりました。
・フォルクスワーゲンは充電インフラの整備を加速させ、事業所・家庭に電力を供給し、その消費データを活用しようとしています。自動車のEV化は、脱炭素/CASEだけでなく、インフラ整備の投資機会を生み出したのです。フォルクスワーゲンは株式を売却し、これに加わる企業を増やそうとしています。

・かつてルノーが日産/三菱自動車とのアライアンスを強化しました。これも競争力を強化し、雇用を守り、欧州での発言力を高めるためです。ルノーの筆頭株主は仏国政府です。雇用は支持率に深く関係するので、この傾向は続くでしょう。

○EVに起死回生を賭ける韓国
・EV化の波は、韓国の自動車メーカーにも及んでいます。それはエンジン車には「擦り合わせ」の難しさがあるからです。2019年現代自動車/起亜はエンジンの不具合で469万台をリコールしています。さらに2020年エンジンの不具合を開示しなかったとして、218億円の制裁金を支払っています。
・韓国は1965年日韓請求権協定で5億ドルの経済支援を受けています。その後、技術移転/ノックダウン生産を行ってきました。それでもエンジン車を安定的に作るのは難しいのです。そのため韓国もいち早くEV化に取り組みます。
・しかし韓国EVの発火事件が相次いでいます。韓国企業が製造したバッテリーでも発火事件が相次いでいます(※何れも詳細省略)。その背景に安全性の軽視があり、韓国企業は安全性より、先行者利益を目指しています。韓国企業は「EVは成長のチャンス」との「初頭効果」に捉われているのです。
※「EVにより自動車産業はITが主導する」とよく言われるが、ソフトウェアは水平分業の1分野でしかないと思うが。

・自動車産業が擦り合わせ技術を必要とするものから、簡便なユニット組み立て型に移行します。これは雇用環境にも影響します。さらにファクトリー・オートメーション(FA)もこれを加速させます。韓国は労働組合が強いため、これに対し定年延長/賃上げなどを求めています。労使対立が先鋭化すれば、韓国経済全体に影響するでしょう。※韓国は財閥社会と思うが、労働組合が強いのか。

○CASEと異業種参入
・今自動車産業は100年に1度の大変革の局面にあります。「CASE」(コネクティッド、自動運転、シェアリング、電動化)により、自動車により多くの電子部品が搭載され、「動くITデバイス」「移動する居住・ビジネス空間」になります。長期的には、空飛ぶ自動車、宇宙を走行する自動車になります。ここでは「動くITデバイス」について述べます。

・これまで述べたように、自動車産業には「擦り合わせ技術」が必要で、参入障壁が高かったのですが、EVにより状況が変わりました。必要な部品は3万点から2万点に減ります。IT先端企業は、人々のデータを入手し、需要を獲得するチャンスになったのです。
・米国ではグーグル/アマゾンが自動車分野に参入しています。アマゾンはITプラットフォーマーで、物流網の確立が不可欠です。そのため自動運転/ドローンなどにも取り組んでいます。またアップルもエンターテイメントの視点から、自動車分野への参入を試みています。

・中国では「BATH」(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)が自動車分野に参入しています。寧徳時代新能源科技(CATL)はEV用バッテリーで世界トップであり、EVメーカー・比亜迪(BYD)も車載用電池を販売しています。※EV用バッテリーと車載用電池は微妙に違うかな。
・佐川急便がEVを導入しますが、これは日本のASFが企画・開発し、中国の広西汽車集団が生産するEVです。ASFが生産の委託先を検討する際、全てが中国企業だったそうです。これはEVに関しては、中国企業の方が日本企業より先行していると考えられます。これは日本にとって無視できません。

・日本電産も自動車分野での成長を目指しています。ソニーもパソコンなどの不採算事業を売却し、センサーやコンテンツ事業に再配分しました。そしてEV「VISON-S」を開発しています。ソニーは海外の先端IT企業と勝負できる数少ない企業です。

○トヨタは生き残れる?
・この状況でもトヨタは生き残れると思います。問題はその波及効果が日本経済にどれ程かです。「電動化は、リチウムイオン・バッテリーを積んだEVによる」と思われていますが、EVは1つの手段です。他にもハイブリッド/PHV(プラグイン・ハイブリッド車)/FCV(燃料電池車)があります。トヨタはこれら全ての開発を進めています。さらに全固体電池の開発も進めています。

・温室効果ガスの削減のためには、インフラ整備/再生可能エネルギーの活用/水素の利用など様々な課題があり、これを世界全体で進めるのは容易ではありません。また米国はシェールガス/シェールオイルにより、戦後最長の景気回復(2009年6月~2020年2月)をしました。2020年トランプは大統領選で、「脱炭素は石油産業を破壊する」と指摘しました。脱炭素の進展には不確定要素が多くあります。

・そのためトヨタが複数の選択肢を持っている事は重要です。さらにフォルクスワーゲンの様に、社会インフラ整備からモデルを示すべきです(※ウーブン・シティがある)。そのためトヨタは日野自動車/いすゞ自動車/スズキ/ダイハツ工業などと商用車/軽自動車の電動化に取り組んでいます。
・これらのバッテリー/燃料電池/PHVなどの技術を各国の自然環境・文化に結合できれば、日本企業が新興国のインフラ整備の需要を獲得できるでしょう。そのためには安全・安心のEV技術を世界に掲示し、支持を得る必要があります。※抽象的で具体的でない。

・そのためには企業の新しい取り組みを支える産業政策が重要になります。近年は「修正資本主義」が重視されています。政府は「新しい生き方の創出」を支え、自動運転の実証実験を迅速に実施すべきです(※日本企業の自動運転への取り組みはボトムアップなので、米中に遅れている)。これには政治家が腹をくくる必要があります。EUは、2035年に内燃機関搭載車の販売を禁止します。日本の政治家は「現状維持バイアス」が強いのです。※民間任せが本当の原因かな。
・政策運営の鉄則は「二兎を追う者は一兎をも得ず」です。トヨタがさらに成長するには、2つの要素が重要です。1つは「新しい生き方の創出」です。そのためには異業種との連携が不可欠です。もう1つは、新しい技術のベネフィットを消費者に実感させ、それを欲しいと思わせる事です。それには政府が規制緩和し、実証実験を支援する事です。

第6章 脱炭素と云う産業革命

○ばぜ脱炭素か
・二酸化炭素などの温室効果ガスにより気温が上昇し、気候変動により生命が脅かされています。そのため脱炭素が求められています。産業革命により化石燃料が使用され、生産能力が飛躍しました。これにより消費は拡大し、化石燃料の消費量も増大します。19世紀後半から石油を握る者が強い影響力を持つようになります。スタンダード・オイルは創業から10年で米国石油の90%のシェアを持つようになります。

・この化石燃料の消費により、地球の平均気温は100年で0.7度上昇しています。これによりゲリラ豪雨などの自然災害が深刻化しています(※事例省略)。また熱波も発生しており、ユタ州では41.7度、アリゾナ州では47.8度を記録しています。熱波による山火事で、カリフォルニア州では54.4度を記録しています。※ウッドショックの話は省略。
・山火事/豪雨により経済的な負担が生じます。また冷房により電力消費が増えており、そのため火力発電所での天然ガスの需要が増えています。熱波はバッテリーの消耗を早め、鉱物資源の価格を上昇させています。また熱波は家畜・農作物の育成にも影響し、食料価格を上昇させています。

○伝統的な経済学は、環境問題を外部性と考えた
・伝統的な経済学は、環境問題を外部性と考えました。アダム・スミスは『国富論』で、「個人が自分の利得だけを求めて行動する事で、経済は最善な状態になる」と考察しました。しかしこの前提に「完全競争」があります。これが米国の根底にあり、個人の自由を尊重し、減税などで競争を促進し、大戦後の世界経済を復興・成長・安定させました(自由資本主義)。日本でも2000年代に市場開放・規制緩和が進められます。

・この伝統的な経済学は、「私達は完全であり、市場が効率的である」が前提です。しかし現実は、限られた人だけに情報が与えられ、インサイダー取引が行われています(※問題は、開示情報が全員に行き渡り、それを全員が理解できない点では)。伝統的な経済学が前提を必要としたのは、それらを考慮すると、理論が構築できないからです。そして伝統的な経済学では、「個人の意思決定が経済成長などの最良の結果をもたらす」となったのです。
・しかし需要・供給には良い面/悪い面があり、伝統的な経済学では、それを「外部性」と定義します。そして「それは政府が対応すべき」としたのです。いかし気候変動が深刻化し、これを外部性として片付けられる時代ではなくなりました。

○現状維持バイアスと日本の化石燃料依存
・化石燃料により世界経済は成長したが、気候変動問題は深刻化しました。なぜこうなったかを行動経済学から考えます。1つ目は、近視眼的に損失を回避する心理です。損失の悲しみは、儲けの喜びより3~4倍大きいそうです。※比較は難しいかな。

・経済活動で重視されるのが効率性です。1時間に靴を1足作る人より、2足作る人の方が評価されます。企業経営で考えます。需要が増えてくると、生産能力を高めるため、機械を購入したり、人を増やす必要があり、そのためには資本が必要です。最初は経営者が1人でも、上場し、複数の株主の所有になります。やがて創業者も後継者にバトンタッチします。社内に適任者がいなければ、プロ経営者を雇います。所有と経営が分離され、経営者は株価上昇/配当増額を目指すようになります。決算は四半期毎なので、短期の利益を追求するようになります。※話が長いが、株式会社の本質だな。
・一方社会・経済の変化は緩やかです。例えば電話を見ると、最初は固定電話だけでしたが、次第に携帯電話/スマートフォンが普及しました。アフリカでは固定電話は普及せず、いきなり携帯電話(基地局)が普及しています。携帯電話により銀行口座が持てるようになり、借り入れ/国際送金などの金融サービスも使えるようになっています。この様に国によって成長プロセスが異なり、これを「非連続」と云います。

・この結果、企業は短期的な視点で既存の事業を行い、長期的な視点でダイナミックに対応する必要があります。そのため短期の利益を優先するようになり、中長期的な対応が遅れるのです。※よく理解できない。
・特に日本は戦後、政府の政策に基づいて行動したため、横並びで、損失回避の心理が高まりました。1990年代初頭にバブルが崩壊すると、リスクを回避する心理が一層強まり、既存事業を重視する「現状維持バイアス」が強まります(※普通逆の気がするが。危機になると変えようとするのでは)。これが気候変動問題への対応が遅れた要因です。

○パリ協定
・「パリ協定」が契機となり、気候変動への対応が世界的になりました。1992年「国連気候変動枠組条約」が採択され、1995年から「国連気候変動枠組条約締結国会議」(COP)が毎年開催されます。1997年京都(COP3)で「京都議定書」が採択され、2015年この後継の「パリ協定」がCOP21で採択されます。

・「パリ協定」には2つの目標があります。1つは、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べ2度以下とし、1.5度に抑える努力をする。もう1つは、温室効果ガスの排出を減らし、今世紀後半には排出量と吸収量をバランスさせるです。他に各国は5年毎に温室効果ガスの排出量・吸収量を報告する。「2国間クレジット制度」などの市場メカニズムの活用なども盛り込まれました。2国間クレジット制度は、先進国が新興国の排出量削減に協力する仕組みです(※詳細省略)。

・「欧州連合」(EU)は2度の大戦を起こした反省から、欧州の市場・経済を統合し、平和・安定を目指すのが目的です。そのため経済・社会の持続性を重視し、環境対策も重視しています。1973年「環境行動計画」を採択し、それを世界に広めようとしてきました。第5次環境行動計画(1993~2000年)では、持続可能性を重視し、ドイツなどは風力発電・太陽光発電を導入し、エネルギー/製造業/物流などで環境に配慮するようになります。環境面での国際基準を確立し、国際世論への影響力を強めようとしています。

・オバマ大統領も、これを「グリーン・ニューディール」として取り入れます。彼はインド/中国にパリ協定の批准を求めます。これは基軸国家の維持を目指すものでもありました。しかしトランプ大統領はパリ協定から離脱し、米国が気候変動において世界を主導するのは難しくなりました。
・2020年欧州委員会は「温室効果ガスの排出を2030年に1990年比で55%減らす」と表明します。これは日米に先行した方が、大きなベネフィットを得られると考えたからです。※EUと欧州委員会が併記されていますが、そのまま書きます。

○2030年に向けた欧州の取り組み
・欧州委員会の取り組みは、国際世論に影響を与えました。2030年に55%削減に加え、「2050年までにカーボン・ニュートラルを目指す」と表明します。欧州各国は温室効果ガスの排出が少ない天然ガスをロシアから輸入していますが、これは経済安全保障でのリスクになります。※現にそうなった。

・欧州投資銀行は「天然ガス事業への融資を止める」と表明します(先送りとなる)。この背景に、2つの視点があります。1つ目は、天然ガスに依存していると、脱炭素が遅れるとの見方です。この「心の慣性の法則」が続けば、洋上風力発電などで日米中に追い上げられる恐れがあります。政策金融機関である欧州投資銀行には、これは容認できません。
・2つ目は、EUの安全保障です。ロシアとの関係が不安定化すれば、欧州経済に打撃になります。偏西風を利用した洋上風力発電はエネルギーの自給率を高め、欧州の安全保障を強固にします。

・2021年欧州委員会は、「2035年にガソリン車などの販売を禁止する」とし、脱炭素の取り組みが不十分な国に、関税を掛ける事を決めます。前者により、EVのみが販売可能になります。後者により「炭素国境調整メカニズム」が導入されます。これによりEU内の企業は排出枠を購入し、脱炭素を進めなければいけません。一方新興国は脱炭素の取り組みは緩やかです。そのため日米の企業が生産拠点を新興国に移す事が考えられます。そのためEUはセメント/鉄鋼/アルミニウム/肥料/電力の輸入に、2026年より関税を掛けるようにします。
・またEUは「グリーンボンド」の整備も進めています。この様にEUは「バンドワゴン効果」により国際世論を主導し、脱炭素の需要を生み出そうとしています。

○CCS/CCUS
・脱炭素には再生可能エネルギーの促進に加え、排出される二酸化炭素の扱いも重要になります。ここで注目されるのが「二酸化炭素の回収・貯留」(CCS)/「二酸化炭素の回収・貯留・再利用」(CCUS)です。米エクソンモービルは石油化学工場から排出される二酸化炭素をメキシコ湾付近の地下に貯留するプロジェクトを進めています。また米オキシデンタル・ペトロリアムは二酸化炭素を輸送するパイプラインを設置し、リオグランデ渓谷の地下に貯留しようとしています。オランダの裁判所はロイヤル・ダッチ・シェルに二酸化炭素排出の削減を命じました。カタールの国営石油会社もLNG生産で排出される二酸化炭素の地下貯留を進めています。

・しかし一部の専門家が地下貯留は本質的でないとしています。そのため再生可能エネルギーの利用は不可欠です。また排出された二酸化炭素を植林などで吸収する「カーボン・オフセット」が主張されています。しかし植林による吸収には時間を要します。そのためCSSの確立が重要ですが、見通せない状況です。

・以上の議論の根底に「二酸化炭素は気候変動を悪化させる負の要因」との「初頭効果」があります。これにより「二酸化炭素は悪」などのアンカーリングがあります。それとは異なり、二酸化炭素を資源として利用するのがCCUSです。多くが実証実験段階で、短期間での実用化は難しいのですが、長期的には気候変動問題のカギになるでしょう。
・具体的には生産設備に二酸化炭素を回収する装置を設置し、触媒を使い、メタン/エチレン/プロピレンなどを作成します。これは「カーボンリサイクル」と呼ばれます。二酸化炭素は安定しているため、コストが掛かりますが、脱炭素には重要な技術になります。

○日本の再生可能エネルギー
・再生可能エネルギーの中でも風力発電が重要です。日本は「2030年までの温室効果ガス46%削減」「2050年までのカーボン・ニュートラル」を目指しています。そこで風力発電、特に洋上風力発電の重要性が高まっています。国連環境計画(UNEP)は、2020~2030年で化石燃料の生産を6%削減する必要があるとしています。また各国がガソリン車の販売を禁止する予定です。

・そんな中で日本のエネルギー改革は深刻です。これは1次エネルギーの自給率が低いためです。東日本大震災により、日本は火力発電を増やしました。そのコストを消費者が負担しています(※負担しているのは再生可能エネルギーでは)。脱炭素には再生可能エネルギーが重要です。水力発電/太陽光発電には問題もあります(※詳細省略)。そこで安定的・効率的な洋上風力発電が本命なのです。
・その風力発電の導入が遅れているのは問題です。日本に大型風車を作るメーカーはなく、風力発電機もデンマーク/米国/中国/スペインが作っています(※日本は船舶用プロペラに強く、重電メーカーもあるのに)。日本は急ピッチで洋上風力発電を導入する必要があります。※各社の先行的な取り組みが紹介されているが省略。

○脱炭素でどうなる
・私は脱炭素社会は水素社会になると考えています。水素は燃料/発電に利用でき、二酸化炭素を排出しません。また貯蔵も可能です。水素は主にグリーン/ブルーに分けられます(※後でイエロー、グレーも出てくる)。グリーン水素は水の電気分解で作成したもので、製造・消費で二酸化炭素を排出しません。原子力発電の電気で電気分解したものは、イエロー水素と呼ばれます。ブルー水素は化石燃料から作成されるものです。ただし生産段階で二酸化炭素が排出されるため、これを回収する必要があります。回収しない場合は、グレー水素になります。

・日本で水素を利用するには、輸入も必要になるでしょう。そのため水素運搬船や輸送網の整備も必要になります。※水素の保管・輸送にはアンモニアが適しているとの話もある。
・トヨタは燃料電池車(FCV)の「MIRAI」を販売しています。水素エンジン車の開発も進めています。航空機大手エアバスは水素を燃料とする旅客機を開発しています(※これは燃料電池かな)。燃料電池が小型化・軽量化されれば、小型航空機に搭載されるでしょう。

・脱炭素が進むと社会はどうなるのでしょうか。洋上・山頂には風力発電が設置され、住宅には太陽光パネル/蓄電池が設置されるでしょう。ガソリンスタンドは充電や水素の供給ステーションに変わるでしょう。火力発電所は減り、家庭での調理は天然ガスから電気に変わるでしょう。これは産業革命に匹敵し、世界的なゲームチェンジになります。※正確に知らないが、これは第2次エネルギー革命(化石燃料→電気)かな。

・時間軸で見ると、日本は「2030年に2013年比で温室効果ガスを46%削減する」と公約しています。そのためには排出枠取引/既存施設の改修/再生可能エネルギーによる電力供給などでコストが増えます。
・しかしもう1つの「2050年のカーボン・ニュートラル実現」には28年の時間があります。この期間に、二酸化炭素回収の素材、温室効果ガス排出の少ない機械、二酸化炭素をリサイクルする装置などの開発が可能です。特に期待されるのが二酸化炭素のリサイクルで、デンソーがプロジェクトチームで取り組んでいます。イノベーションはゼロから始まるのではありません。蓄積したノウハウが結合し、もたらされるのです。新しい技術が社会に必要となれば、価格が高くても販売は伸びます。

・脱炭素により、生産要素が既存分野から先端分野に再配分されています。脱炭素は短期的にはコストになりますが、長期的には成長のチャンスです。政府・企業は「現状維持バイアス」から脱却し、洋上風力発電/CCUS/グリーン水素などの先端技術の確立を目指すべきです。企業経営者は短期的な収益獲得戦略を利害関係者に示し、一方で長期的には脱炭素の技術開発に集中すべきです。これは企業の「ゲームチェンジ」です。

第7章 日本経済復活の条件

○半導体/EV/脱炭素がもたらす課題と解決方法
・半導体の微細化/EV化/脱炭素は日本経済に大きな影響を与えます。しかも楽観できません。そこで日本経済復活の条件を見ていきます。まず半導体ですが、日本にはTSMCなどの先端半導体メーカーがありません。車載半導体のルネサスエレクトロニクスやパワー半導体のメーカーはありますが、中国/韓国の企業に抜かれるでしょう。
・1980年代日本の半導体メーカーが席捲したが、日米半導体摩擦や国際分業の進展に日本は対応できませんでした。しかし半導体部材/製造装置では強みを持った企業があり、世界が必要としています。心配なのは露光装置で、オランダのASMLが独占しています。また素材と異なり製造装置は分解可能で、中国/韓国に模倣される可能性があります。日本は微細なモノ作りを今後も追求する必要があります。

・EVでも日本企業の取り組みは遅れています。車載バッテリーは中国/韓国がシェアを高めています。しかし日本の自動車メーカーは依然競争力を持ち続けるでしょう。欧米はEVを重視していますが、中国はHVも低燃費車に含めています。中国は世界最大の市場です。
・再生可能エネルギーの利用が進むEUは、プロダクトのライフサイクル全体(採取、生産、流通、排気、リサイクル)での二酸化炭素の排出を評価する「ライフサイクル・アセスメント」(LCA)に取り組んでいます。2024年から自動車メーカーにはこの申告が義務付けられます。日本にもサプライチェーン全体での温室効果ガスの排出削減を求められるのです。これこそESG(持続可能な環境・社会・ガバナンス)の本質です。

・EUの取り組みに米国/中国も追随します。欧州委員会は政策立案能力が高いと云えます。これに対し日本政府の取り組みは遅れ、これが企業の「現状維持バイアス」を支えています。日本政府には積極的な取り組みが求められます。

○事業構造を転換した日立/ソニー
・「失われた30年」でも、事業転換に成功した企業があります。日立製作所とソニーグループです(※以下日立、ソニー)。2009年3月期、日立は7873億円の過去最大の最終赤字を計上します。2009年3月川村隆に経営再建が託されます。これは大手企業では異例の人事でした。
・彼は白物家電や原子力などの重厚長大事業の選択と集中を進め、社会インフラや人工知能(AI)などのソフトウェアとの結合を目指しました。この取り組みは、後の中西宏明/東原敏昭に引き継がれます。「御三家」と呼ばれた子会社を売却し、その資金でIT先端分野/社会インフラ分野を買収します。

・このIT先端分野/社会インフラ分野への転換は、新しい事業戦略を組織に強く意識させました。当社は終身雇用で福利厚生が充実した企業でした。それを改め、成長分野に経営資源を再配分にしたのです。
・人事面も大きく変化します。現会長・東原氏は徳島大学出身です。これは歴史学者アーノルド・トインビーの「変革は中心ではなく、辺境から起きる」とする「辺境理論」です。一方多くの企業は、新卒採用/年功序列/出身大学による人事を重視しています。企業には社会から求められる付加価値の高い製品・サービスを生み出す必要があり、その能力が出身校で決まる訳ではありません。

・次にソニーグループを見ます。当社は、トランジスタラジオ/ウォークマン/トリニトロンテレビなどのヒット商品を生みます。2000年代映画/金融/エレクトロニクスなどに多角化します。金融ビジネスは金利の低い所で資金を調達し、金利の高い所で貸出すビジネスで、これまでの事業と全く異なります。そのため当社はアイデンティティを失います。一方で中国/韓国などの新興国は実力を付け、日本企業を追い上げます。アップルは「iPhone」で音楽配信などのソフトウェア分野も取り組みます。

・2012年平井一夫がCEOに就き、転機となります。彼は人員削減/不採算事業の売却などを進めます。2014年にはパソコン事業を売却し、上場以来の無配にします。この資金を世界トップのイメージセンサー事業に再配分します。スマートフォンの複眼化、自動車の画像センサーの増加によりイメージセンサーは大ヒットします。これにより「映像のソニー」のイメージが広まり、ミラーレス一眼カメラ/4Kビデオカメラなどを差別化します。
・これで得られた収益をコンテンツ事業に再配分し、映画『鬼滅の刃』/ゲーム機「プレイステーション」/音楽ユニット「YOASOBI」などをヒットさせます。

○求められる積極的な業態転換
・日立/ソニーのように事業構造を変えた事で成功した会社もあれば、業態転換で成功した会社もあります。例えば任天堂です。2021年3月期の純利益は4803億円で、前期比85.7%増となりました。この背景にゲーム機「ニンテンドー・スイッチ」/ソフト「あつまれ どうぶつの森」などのヒットがあります。当社は元々はカードゲームの会社でしたが、玩具/業務用ゲーム機/家庭用ゲーム機などで成長しました。

・1889年創業し、花札を作っていました。1950年代にトランプを作るようになります。トランプをプラスチック製にし、ヒットします。また絵柄をディズニーのキャラクターにします。タクシー事業/食品事業に手を広げますが、1960年代に経営は不安定化します。しかし祖業に回帰し、立て直します。
・1965年マジックハンド「ウルトラハンド」がヒットします。1970年代ゲーム機に進出します。これは経営トップ・山内溥の「人が集まれば、遊びたくなる」の着眼によります。高度成長により余暇が増えた事も、これを支えます。1980年携帯型ゲーム機「ゲーム&ウォッチ」、1983年家庭用ゲーム機「ファミリー・コンピュータ」を発売し、何れも大ヒットします。

・当社の事業運営に2つのポイントがあります。1つは「遊びの創造」に的を絞った点です。花札メーカーに縛られるのではなく、「人はなぜ、それを使うか」に着眼したのです。そのため自社のドメイン(事業領域)内のアニマル・スピリッツが発揮でき、玩具/ゲームに転換できたのです。
・もう1つは社会・経済の変化を虚心坦懐に捉えていた点です。1970年代、当時象徴的だった百貨店にゲーム機を設置し、多くの人に着目されます。これは「ハーディング現象」(群集心理)で、「皆がやっているから」となったのです。
・その後も「スーパーファミコン」「ゲームボーイ」「Wii」「Nintendo Switch」などがヒットします。これらは何れも新しい技術を取り入れ、消費者を魅了しました。この様に自社の強みを活かした積極的な業態転換は、企業の持続的成長に欠かせません。

○スキーマ打破で変化をチャンスに
・事業転換に成功した日立/ソニー/任天堂に共通するのは、「過去の成功体験を捨てた事」です。これは行動経済学で「スキーマを打破する事」と云います。例えばコロナによるテレワークの導入はスキーマの打破に該当します。しかし多くの経営者はオフィスへの出社を求めました。※テレワークについては相当詳しく説明しているが、大幅に簡略化。
・スキーマは経営の意思決定に多大な影響を与えます。「昔はこうだったから・・」と言う経営者が多くいます。テレワークを否定する経営者は、優秀な人材を失うでしょう。テレワークだと、「日本に住みながら海外企業の仕事をする」「地方に住みながら、東京の仕事をする」などが可能なのです。任天堂のように、新しい発想を既存のモノ・技術に結合させる事で、ヒット商品が生まれるのです。
・人は自分の得意分野を磨こうとします。しかし成功体験に拘り過ぎると、それを喧伝し、自慢するだけになります。経営者の役割は、スキーマの主張ではなく、環境変化に組織を適応させる事です。成長分野に経営資源を再分配する事です。

・この「スキーマの打破」で成長した企業は幾つもあります。例えば「オプティム」と云う会社です。当社はIoT/AI/ロボット/ドローンなどを使い、業務の効率化を支援しています。例えば水田に農薬を撒きますが、ドローンを使い、どこに何の害虫がいるか確認し、農薬の種類や散布量を調整します。ここで収穫した米は「スマート米」として売られています。ここで重要なのは、当社は地方自治体と提携し、販路の拡大、人材の育成、農家/地方銀行との連携なども進めています。

・日本の農業は「農協任せ」でした。これもスキーマであり、これを打破し、高付加価値の商品を生み出したのです。この様にドローン/IoTを利用し、データ収集・分析し、見える化し、生産の効率を高める事は可能です。「ビッグデータは巨大ITが保有する」は適切ではありません。「スキーマを打破する」には、過去に捉われるのではなく、一人ひとりが能動的に新しい発想をし、実用化する事が重要です。また自分がやりたい事に没頭する事も必要でしょう。

○日本が成長するには
・バブル崩壊以降、日本は既存事業を維持しようとし、成長分野に経営資源(ヒト、モノ、カネ)を再配分できませんでした。一方海外では新興国が技術力・競争力を付け、経済成長しました。日本は30年間、経済成長で負け続けたのです。

・そのため政府は構造改革を試みています。ここで重要なのが中央銀行による金融政策と、政府による財政政策です。金融政策では中央銀行が短期金利の誘導や国債などの有価証券を買い入れています。しかし金融政策には限界があり、ゼロ金利になるとそれ以上引き下げるのは難しく、限界があります。
・そこで重要になるのが財政政策ですが、過去の発想で、インフラ投資などに振り向けていては経済成長に繋がりません。成長分野への支出が重要です(※最近は半導体やスタートアップへの投資が見られるかな)。そのため構造改革が必要です。規制緩和/戦略特区によって民間の投資を呼び起こすのです。

・日本は経済回復したように見えますが、それは米中の景気回復によると考えられます。株価の伸びは各国と比べ、見劣りします。日本が期待されているのであれば、もっと上昇したはずです。日本は成長分野への生産要素の再配分ができないため、海外の動向に振り回されています。
・財政危機になったギリシャ/イタリアは「痛みを伴う改革」を断行しました。これにより年金/社会保障は縮小されました。一方日本は世界第3位の経済大国のため、「何とかなる」の甘い心理があるようです。

・しかし諦めてはいけません。各自が新しい理論・技術に習熟し、世の中の変化を理解し、関心を持った分野での創出力を高めて下さい。そうすれば自分が属する分野が傾いても、そちらに移る事ができます。2021年夏時点、金余りで株価は高騰しています。しかしFRBがテーパリングを進め、利上げが始まれば、株価は調整されます。私達は集団心理に浸るのではなく、新しい事を学び、実践する事が重要です。そんな前向きな人が増えれば、経済も好転するでしょう。

おわりに

・世界大戦後、世界経済環境は大きく変化しました。そんな中、日本人は「何とかなる」と過ごしてきました。それでは急速な変化に着いて行けません。「現状維持バイアス」は現実に背を向ける事です。

・米国は補助金など自由主義の在り方を修正しています。オバマ政権のTPPは補助金を禁止していました。トランプ政権は、中国に対し補助金/技術移転を止めるよう迫ります。そしてバイデン政権は先端分野での補助金を重視しています。これは地政学的にも重要なのです。台湾はワクチン供給のため、TSMC/鴻海精密工業の交渉力を用いました。TSMCの微細化技術は、台湾の発言力に欠かせません。

・脱炭素も世界の企業に影響します。バイデン政権はパリ協定に復帰し、EUに遅れないようにしています。脱炭素は産業革命に匹敵します。自動車/IT/資源/エネルギーに大きな変化を与えます。2030年までの変化は、日本とってコスト増になりますが、2050年までを考えるとビジネスチャンスです。
・このインパクトは、縦に産業(あるいは企業)、横に半導体/脱炭素/EVをとった表で考察すると良いでしょう(※詳細省略)。これにより産業(あるいは企業)の強み/弱みが考察できます。これにより世界経済のゲームチェンジに対応できます。

・日本は新卒で採用され、定年まで働くのが当然でした。しかし少子高齢化で、これは限界を迎えています。70歳定年が現実視され、その報酬が議論されています。しかし日本の雇用制度は疲弊しています。これからは各自の能力を活かす「フリーエージェント」の時代になります。
・日本は、半導体部材/自動車/工作機械/画像センサーなどの高い技術を、IT分野/脱炭素分野で活かさなければいけません。台湾/韓国/中国は日本の工作機械を必要としています。日本企業は自己変革し、より高付加価値の製品を生み出すチャンスです。

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