『身近にあふれる「微生物」が3時間で分かる本』左巻健男を読書。
以前から詳しく知りたいと思っていた分野。
発酵食品/食中毒/感染症などに詳しい。
発酵食品の製造工程は同様で、その種類の多さに驚く。
感染症では「ウイルスの変異」や「耐性菌の出現」が課題と感じた。
解説範囲は広く、科学用語が頻出し大変詳しい。
ただし図解だが図は殆どなく、細胞の構成や感染などは図解して欲しい。
お勧め度:☆☆(個人的には大満足)
内容:☆☆☆
キーワード:<微生物とは>細菌/菌類/ウイルス、細胞/核、生殖、光合成、<常在菌>ハチミツ、ニキビ、体臭、抗菌グッズ、虫歯・歯周病、腸内フローラ、乳酸菌/ビフィズス菌、腸内細菌、アンモニア/硫化水素、ウンチ、<食品を作る微生物>発酵、日本酒、味噌、醤油、パン/ホットケーキ、ビール、ワイン、酢酸菌、カツオ節、ヨーグルト、発酵バター、チーズ、漬物/キムチ、納豆、旨味、<分解者>堆肥、下水処理、水道水、遺伝子組み換え、プラスチック、抗生物質、<食中毒>ウイルス、黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌、腸炎ビブリオ、サルモネラ菌、カンピロバクター、病原性大腸菌、ノロウイルス、ロタウイルス、A型・E型肝炎ウイルス、クリプトスポリジウム、貝毒・シガテラ毒、カビ毒、<感染症>風邪/インフルエンザ、結核菌、肺炎球菌、風疹ウイルス、ペスト菌、マラリア原虫、レジオネラ菌、ヒト免疫不全ウイルス、B型肝炎ウイルス、ピロリ菌、水痘帯状疱疹ウイルス、エキノコックス/狂犬病ウイルス
第1章 微生物はどんな生物
○微生物とは
・微生物とは「目に見えないほど小さい生物」で、細菌/菌類(カビ、酵母、キノコ)/ウイルスの事です。細菌の大きさは1~5μmのため、光学顕微鏡(拡大倍率1000倍)で見ても、1mm程度です。ウイルスはさらに小さく20~1000nmで、電子顕微鏡でないと見えません。
・中学理科の教科書には、「微生物は有機物を分解する」「光合成する植物は生産者、草食動物・肉食動物は消費者、土壌動物・菌類・細菌は分解者」「菌類は菌糸からできており、胞子で増える」「乳酸菌・大腸菌などが細菌類で、単細胞生物で、分裂で増える。結核菌などは感染症の原因になる」「菌類・細菌類には、パン/ヨーグルトなど有用な食品を作るものがある」などと書かれています。※大幅に省略。
・細菌には、球形(球菌)、こん棒形(桿菌)、らせん形(らせん菌)があり、分裂で増えます。
・一方菌類は以下の手順で増えます。①胞子が発芽、②菌糸を作る、③菌糸が網目状になる、④菌糸の先端に胞子を作る、⑤胞子が飛散する。カビの細胞には核やミトコンドリアがあり、細菌より複雑で、動植物と同じです。
・ウイルスは独立して生きられず、細胞に感染して、そのタンパク質を作る工場を利用します。ウイルスの構造は単純で、遺伝子とタンパク質からなるが、細胞になっていません。
○カビ・酵母・キノコの違い
・細菌(球菌)の大きさは約1μmで、酵母は約5μmです。細菌に明確な核はなく、染色体は1つで、ミトコンドリア/小胞体もありません。一方カビ・酵母・キノコは核膜/ミトコンドリア/小胞体があり、人の細胞に近くなっています。
・カビ・キノコは以前は植物に分類されていましたが、葉緑体を持たず、寄生するため、「菌類」に分類されています。
・生殖には有性生殖/無性生殖があります。前者は受精で増え、後者は挿し木・挿し芽・球根・芋などで増えます。短期で増やすには後者が有利ですが、遺伝子的に同じなので、危機で激減します。細菌は分裂で増え、後者に該当します。カビ・酵母・キノコは基本後者ですが、性の区別があり、環境が適している時は前者で、そうでない時は後者で増えます。※何か優秀だな。
・カビ・キノコは共に胞子で増えます。胞子が発芽すると菌糸を作ります。違いは胞子を作る場所として、キノコ(子実体)を作るか否かです。※キノコは子孫を残すために作るのか。
・一方酵母は出芽か分裂で増えます。また糸状ではなく、細胞が集まって球形になっています。※酵母は細菌に近いのかな。
○ウイルスは生物?
・ウイルスは様々な病気を起こします。細胞の構造をしていませんが、タンパク質の殻と核酸(DNA、RNA)からなります。細菌の大きさは1~5μmですが、ウイルスは20~1000nmです。ウイルスは電子顕微鏡でしか見れません。
・ウイルスは、タンパク質の殻(カプシド)か膜成分(エンベロープ)で覆われ、特異な形をしています。※複雑な形状の説明は省略。
・ウイルスはウヨウヨいますが、必ずしも感染している訳ではありません。増殖のため細胞に侵入し、始めて感染します。皮膚・呼吸器・感覚器・生殖器・肛門・尿道などから入り、心地良い部位で増殖します。侵入された細胞は死に、ウイルスは拡散し、別の細胞に感染します。※やはり怖いな。
・細菌に感染するウイルスを「バクテリオファージ」(ファージ)と呼びます。ファージは目的の細菌だけを殺すので、薬品として開発されています。抗生物質のように多剤耐性菌を作りません。※抗生物質はまだ未説明だが、微生物を殺す(食べる)のであれば、ファージと一緒かな。
○微生物を発見したのは一般市民
・微生物を発見したのは、17世紀の織物商のレーウェンフックです。彼は倍率250倍の顕微鏡で湖の水を観察し、プランクトンを発見したのです。さらに血液から血球/精子/口内細菌なども発見します。彼は「微生物学の父」と呼ばれています。
・しかし微生物が注目されるのは19世紀後半からで、パスツールは「生物の自然発生説」を否定します。またコッホは結核菌を発見します。
○真核生物、原核生物
・かつて生物は動物/植物の2つに分けられていました(2界説)。しかし今は、①捕食する動物界、②光合成する植物界、③栄養分を吸収する菌界、④単細胞生物で核がある原生生物界、⑤核を持たない原核生物界の「5界説」が主流です。※核を持たないのに原核なのか。ウイルスはいずれにも含まれないみたいだな。
・生物は30億年は単細胞生物でした。また当初はDNAをしまう核もありませんでした(原核細胞)。この原核細胞を持つのが原核生物です。一方私達は核膜で覆われた核を持ちます(真核細胞)。原核生物には、乳酸菌/肺炎球菌/肺炎桿菌/ラン藻/好熱菌などがあります。
・原核生物の中に原核生物が入り、染色体を核膜で包んだ事で、真核細胞が生まれたと考えられます(※侵入した方が核を作ったのかな)。嫌気性細菌に好気性細菌が入りミトコンドリアに、ラン藻が入り葉緑体になったと考えられます。※ミトコンドリアも葉緑体もDNAを持つみたいだな。これらは受精卵にも含まれるのかな。
○人は微生物と共生している
・細菌は、動物内/土壌/水中(水深1万mでも)/ちり・ほこり/空中(上空8千mでも)/南極/熱水鉱床、どこにもいます。現在7千種ありますが、100万種はあるとされます。好気性菌/嫌気性菌/通性菌(※通性嫌気性菌かな)に大別されます。
・カビ・酵母・キノコは9.1万種ありますが、実際はその10~20倍あるとされます(※微小な細菌の方が未知数が多いな)。土壌/水中/植物/動物の死骸などにいます。
・ウイルスは生物に寄生します。動物/植物/細菌/菌類など、何にでも寄生します。人が感染すると、インフルエンザ/風邪(※以下省略)などの病気になります。ウイルスは5千万種以上あるとされます。
・水田土壌1gには数十億個の微生物、河川水1mlには数百万個、海水1mlには数十万個の微生物がいます。ほこり1gに260万個の細菌がいたと報告されています。※1200家庭のほこりの調査報告があるが省略。
○生命の誕生
・19世紀後半ルイ・パスツールが「生物の自然発生説」を否定します。1920年アレクサンドル・オパーリンが「原始スープ」から生命が誕生したとする「化学進化説」を提唱します。しかしタンパク質/核酸(DNA、RNA)などの「部品」が、どうやって生命になったかは謎です。
・グリーンランドの38億年前の岩石から、生物の化学的痕跡が見つかっています。オーストラリアでは35億年前の細菌の化石が見つかっています。※ウイルスは寄生しないと生きていけないので、細菌が先に生まれたのかな。構造的には逆の気がするが。
・27億年前光合成する「シアノバクテリア」が登場します。二酸化炭素と水から有機物を作り、酸素を放出しました。これにより大気は酸素と窒素に変わります。
・10億年前多細胞生物が登場します。それまで30億年は単細胞生物(微生物)だけでした。4.5億年前、植物が陸上に進出します。それまでに陸上に進出できなかったのは紫外線によります。シアノバクテリアが酸素を放出し、上空にオゾン層が作られ、紫外線が吸収されるようになったのです。※それでも酸素を放出し始めて、20億年以上必要だったのか。月に大気を作るのは簡単ではないな。
第2章 常在菌
○常在菌とは
・人は生まれる時に産道を通り、その時から細菌に感染します。その後も様々な常在菌と生きるようになります。人の部位には、それぞれ決まった細菌がいます。大腸が最も多く、100兆個(60~100種類)います。口内には100億個、皮膚には1兆個います。しかしこれらは体の内部ではなく、表面にいます。
・これらの常在菌は、ホスト(宿主)と共生しています。ホストの食物・排泄物を栄養にします。中にはビタミンをホストに提供するものや、ホストを病原細菌から守るものがいます。常在菌はホストの抵抗力・免疫力を高めています。
○乳児はハチミツを食べてはいけない
・1歳未満の乳児は、ハチミツを食べてはいけません。それは乳児ボツリヌス症を発症するからです。ボツリヌス菌は土壌細菌で、芽胞として広く分布しています。芽胞は耐久性が高く、ハチミツの中で休眠状態でいます。ハチミツを食べると、ボツリヌス菌が増殖を始めますが、胃酸により殺菌されます。ところが乳児は胃酸が弱いため、殺菌できないのです。そのため増殖し、毒素が作られます。
○ニキビ
・ニキビの原因はアクネ菌です。毛穴がつまり、その中でアクネ菌が増殖するとニキビになります。※詳説されているが省略。
・1993年に外用抗菌薬が登場するまでは、炎症が悪化してから治療していました。2008年アダバレンが承認され、炎症前から治療できるようになりました。※詳説されているが省略。
○体臭
・「汗臭い」と云いますが、汗には匂いはありません。汗腺には全身にあるエクリン腺があります。ここから出る汗の99%は水です。しかし時間が経つと、それに含まれるタンパク質/乳酸が常在菌により発酵し、甘酸っぱくなるのです。
・汗腺には、わきの下/股間/胸などにあるアポクリン腺もあります。ここから出る汗は少量ですが、脂肪・タンパク質を含み、直ぐに分解され「臭い汗」になります。匂いが強いと、腋臭症(わきが)となります。東アジア人は、この割合が5~20%と少数派です。※乳腺はアポクリン腺から発達したと考えられているはず。
・足から1日に200mlの汗が出ます。これはエクリン腺なので匂いはありません。しかし足裏は死んだ皮膚細胞がアカになっており、細菌が多くなっています。そのため足は臭くなりやすいのです。
・加齢臭は皮脂の酸化や、常在菌により作られるノネナールが原因です。皮脂が多い女性や、皮脂が多く分泌される頭部などは注意です。
○肌の洗い過ぎ
・肌の洗い過ぎは良くありません。皮膚表面には肌を保つ常在菌「表皮ブドウ球菌」がいて、それを洗い流してしまうからです。クレンジング剤は肌をアルカリ性にし、角質細胞まで洗い流し、肌をカサカサにします。
・クレンジングはなるべく使わないようにし、水だけで洗顔しましょう。発汗は肌に良いのです。汗は「表皮ブドウ球菌」のエサになります。また汗には病原菌を退治する「抗菌ペプチド」が含まれます。
・紫外線には殺菌作用があり、皮膚表面の常在菌を殺します。また細胞のDNAを傷付け、皮膚ガンを発症させます。またサンタン(日焼け)/サンバーン(日光やけど)を引き起こします。
・体の最も良い洗い方は、アカをさっと洗い流すです。石鹸を使うのは、アポクリン腺のある場所/足/肛門周辺です。アポクリン腺からは脂肪を含んだ汗が出ます。それは匂いの基になります。アポクリン腺は、おでこ/わき/乳首周辺/へそ/生殖器周辺にあります。※全身をソープでゴシゴシは良くないのか。
○抗菌グッズ
・昨今、抗菌グッズが溢れています(※除菌/殺菌/減菌/抗菌の説明があるが省略)。電車のつり革/文房具/服/靴などで謳われています。台所の流し/まな板/衣類などの細菌は困るので、殺菌します。しかし腸内細菌や皮膚・気道の常在菌が殺菌されるのはマイナスです。そのため薬用石鹸/除菌アルコールの使い過ぎは問題です。皮膚などは微妙なバランスが保たれています(拮抗現象)。抗菌グッズの濫用も、このバランスを壊す危険があります。
・環境に害がないのが銀・銅です。トイレの悪臭は尿素がアンモニアに変わるためです。トイレの消臭剤で銀イオンが使われている商品がありましたが、公正取引委員会が「効果が不明」として排除命令を出しました。2014年「首からぶら下げるだけ」「部屋に置くだけ」などの空間抗菌グッズが販売されます。消費者庁が17社に根拠の提出を求めますが、何れも密閉空間での試験結果でした。二酸化塩素は数百ppm以上だと殺菌効果がありますが、それを人が吸い込むと、人も危険です。※殺菌するものは、人にも危険だな。人が触れないようにしないと。
○虫歯・歯周病
・口内には様々な常在菌がいます。虫歯を起こすのが「ストレプトコッカス・ミュータンス」です。これは食物の残りかすから歯垢(プラーク)を作ります。歯垢は歯と歯茎の間にできます。歯垢には乳酸などの酸を作る細菌がいて、石灰質を溶かします(脱灰)。唾液がアルカリ性に戻すのですが、砂糖の摂取が多いと、虫歯は進行します。また虫歯は感染するので、子供に口移しで食物を与えるのは止めましょう。
・歯の付け根に歯周ポケットがあり、ここに付いた歯垢が歯周病の原因になります。歯ブラシだけでなく、歯間ブラシ/糸ようじで掃除しましょう。
・虫歯が悪化すると顎の骨を侵したり、細菌により敗血症になります。また動脈硬化になり、血管にプラークができ、脳梗塞/心筋梗塞が誘発されます。
○腸内フローラ
・腸内には100兆個(数百種類)の細菌がいるとされ、重さは1.5Kgです。腸内細菌はテリトリーを作り、腸内細菌叢を構成しています。これを腸内フローラと呼びます。
・腸内細菌の多くは大腸にいます。食物は、口/食道/胃/小腸(十二指腸、空腸、回腸)/大腸と辿り、消化・吸収されます。
・細菌には好気性/嫌気性があり、さらに好気性は通性嫌気性菌(酸素に無関係)/微好気性菌/偏性好気性菌に分かれます。消化管の上部では食物に含まれた酸素が好気性菌によって消費されます。下部では酸素がなくなり、嫌気性菌がいます。小腸は幾らか酸素があるので、通性嫌気性菌の乳酸桿菌が多くいます。大腸は無酸素なので、通性嫌気性菌が爆発的に増えます。
・胆汁の胆汁酸は細菌の細胞膜を溶かすので、細菌は生育できません。胆汁酸は回腸で回収されるので、腸内細菌の多くは大腸にいるのです。
・胃では胃酸により微生物は生育できませんが、ピロリ菌はいます。十二指腸/空腸は胆汁により、乳酸桿菌/レンサ球菌がいます。回腸では1g当たり1億個の細菌がいます。大腸では1g当たり百億~千億個の細菌がいて、バクテロイデス菌/ビフィズス菌がいます。※バクテロイデス菌/ビフィズス菌は大腸菌ではないみたい。
・大腸菌には様々な種類がありますが、大半は無害です。大半はビタミンを作ったり、有害な最近の増殖を抑えています。ただし病原性大腸菌は下痢・腹痛を起こします。実は大腸菌は腸内細菌の0.1%です。※腸内細菌と云えば、まず大腸菌を思い浮かべるが。
○乳酸菌、ビフィズス菌
・「プロバイオティクス」(体に良い微生物)の代表が乳酸菌/ビフィズス菌です。乳酸菌は糖を分解し、乳酸を作ります。乳酸菌の種類は多くあります。ビフィズス菌は糖を分解し、酢酸・乳酸を作ります。※「乳酸は疲労物質」は過去の話みたいだな。
・微生物学者メチニコフが「乳酸菌/ビフィズス菌は体に良い」と唱えます。「ブルガリアに長寿の人が多いのはヨーグルトを多食するためで、乳酸菌が老化の要因となる大腸菌を駆逐する」と説きます。しかし乳酸菌と長寿の関係も明確でなく、ブルガリアの平均寿命も長いと云えません。また乳酸菌を食しても、胃酸で死んでしまいます。
・1930年代、代田稔が胃酸で壊されない乳酸桿菌(ラクトバチルス・カゼイ・シロタ株)を手に入れます。1935年これが「ヤクルト」になります。「シロタ株が作った乳酸・酢酸が常在菌に好影響を与える」「シロタ株が死んでも、常在菌のエサになる」とされています。
・乳酸菌/ビフィズス菌のサプリがありますが、効果は疑問です(※詳細省略)。医学的に確認されているのは、感染性下痢の抑制、抗生物質治療による下痢の抑制、壊死性肺炎の治療くらいです。これらからプロバイオティクスは医薬品ではなく、食品なのです。
○腸内細菌
・口から肛門までを消化管と云います。腸内細菌の多くは大腸にいます。食物は小腸までに分解・吸収されます。糖はブドウ糖、タンパク質はアミノ酸、脂肪は脂肪酸として分解・吸収されます。その未消化分/消化液/消化管上皮などが大腸に届き、常在菌のエサになります。
・腸内フローラで最も多いのがバクテロイデス・ブルガーリフで、便の細菌でも80%を占めます。次に多いのがビフィズス菌/ユーバクテリウム属です。バクテロイデス/ビフィズス菌は人が消化しづらいオリゴ糖をエサにします。代謝産物として、酢酸/乳酸/酪酸/ビタミン/水素/メタン/アンモニア/硫化水素を作ります。※大腸は、これらの何れかを吸収するのかな。
・強いストレスを受けると便秘・下痢をします。これは脳と腸が深い関係にあるからです。脳と消化器官の神経は繋がっておらず、独立して働いています。そのため脳からの神経を切っても、消化器官はぜん動運動をし、消化液の分泌もします。このぜん動運動に、小腸・大腸にある1億個の神経細胞が関わっています。
・脳が強いストレスを感じると、自律神経を介し、便秘・下痢を起こします。逆に腸の不調は自律神経を介し、脳のストレスになります(※結局、神経は繋がっているのでは?)。これらに腸内細菌は深く関わっています。
○おなら
・口から取り込まれた空気と、おなら/ゲップで排出されるガスの量はバランスします(※細菌によって水素・メタンなどが作られるはず)。通常お腹には200mlのガスがあり、大半は血液に吸収され、呼吸で排出されます。おならになるのは10%だけです。おならは1日に400~2000ml出ます。※お腹に200mlしかなく、その10%なら20mlだが。
・NASAは、おならを真剣に研究しました。約400種類の成分が含まれており、窒素60~70%/水素10~20%/二酸化炭素10%です。因みに空気は窒素78%/酸素21%/アルゴン1%で、好気性菌により酸素は吸収されます。
・小腸には通性嫌気性菌がいます。酸素があれば、有機物/酸素から水/二酸化炭素を作り、エネルギーを得ています。酸素がないと、メタン/エタノール/乳酸/酢酸/二酸化炭素を作ります。従って酸素がない時にメタンが作られます(※おならにメタンは含まれないみたいだが)。大腸には水素産生菌がいます。通常、糖質は胃・小腸で消化・吸収されますが、吸収されなかった糖質は、大腸の水素産生菌により水素になります。
・このように腸内細菌も呼吸によりエネルギーを得ています。酸素がない時の呼吸は、人に有益なエタノール/乳酸を作るため、「発酵」と呼ばれます。一方アンモニア/硫化水素を作る呼吸は、有害のため「腐敗」と呼ばれます。
・サツマイモ/ゴボウには人が分解できないデンプンがあり、それが腸内細菌の栄養になりガスが発生します。しかしこのガスは二酸化炭素なので無臭です。
・窒素/二酸化炭素/水素/メタンは匂わないガスですが、アンモニア/硫化水素は匂うガスです。糖質は炭素・水素・酸素からなりますが、タンパク質はこれに窒素・硫黄を含みます。アンモニアは窒素と水素が結び付いた分子で、悪臭がする有毒なガスです。アンモニアはタンパク質/アミノ酸の代謝で作られるので、肝臓で尿素にしています。硫化水素は硫黄と水素が結び付いた分子で、悪臭がする有毒なガスです。
・スカトール/インドール(※初めて聞いた気がする)は微量でも匂います。おならが匂うのは、これが原因です。スカトール/インドールには窒素が含まれ、アミノ酸のトリプトファンの代謝で作られます。硫化水素は硫黄を含みますが、含硫アミノ酸の代謝で作られます。肉・魚はこれらを多く含むため、匂うガスが大量に作られます。またストレスや便秘も、臭うおならの原因になります(※詳細省略)。
・おならを我慢すると大腸の毛細血管に吸収されます。その後腎臓でおしっこの成分になったり、肺から排出されます。
○ウンチの色や形
・ウンチは不消化部分/消化液/消化管上皮/腸内細菌などで、水分60%/消化管上皮15~20%/腸内細菌10~15%です。1日100~200gですが、動物性食品を多く食べると、量は減ります。色は黄色から褐色で、柔らかさはバナナ程度です。
・「理想のウンチ」は、①毎日出る、②ストーンと出る、③黄色から褐色、④重さ200~300g、⑤分量バナナ2~3本、⑥匂いはきつくない、⑦練り歯磨き状、⑧水分80%、⑨水中でほぐれて浮くです。便切れの良いウンチはムチンの粘液に覆われています(※詳細省略)。ムチンは唾液にも含まれ、食物を飲み込み易くします。
・ウンチの色は胆汁によります。胆汁は消化液で、有形成分(胆汁酸、リン脂質、コレステロール、胆汁色素など)と電解質(ナトリウムイオン、塩化物イオン、炭酸イオンなど)からなります。肝臓で作られ、十二指腸で流れ出ます。胆汁酸は石鹸のような役割があり、水に溶けない脂質(脂肪酸、脂溶性ビタミン、コレステロール)と水を混ぜ合わせ、吸収を助けます。胆汁のビリルビンが腸内細菌によりウロビリノーゲンに変わり、黄褐色になります。
・ウンチは通過時間が長くなると黒っぽくなります。脂質を取り過ぎると、胆汁が足らず、白っぽくなります。赤い場合は、痔/大腸ガン/直腸ガンの可能性があります。タール状の場合は、出血性胃炎/胃潰瘍/十二指腸潰瘍/胃ガンの可能性があります。
・タンパク質が分解されるとインドール/スカトール/硫化水素/アミンなどにより悪臭を放ちます。インドールは大便臭がしますが、薄めるとオレンジ/ジャスミンなどの芳香になります。スカトールも薄めるとジャスミンの香りになります。実際インドール/スカトールは香水・香料に使われています。※これは驚き。
・腸壁にこびりついた便を「宿便」と云います。しかし小腸・大腸の上皮は3~4日で剥がれ落ちるため、こびりつく事はありません。
・ウンチの硬さ・形は7段階あります(プリストン・スケール)。4~5が健康なウンチです。※詳細省略。
・日本食は食物繊維に富んでおり、栄養的にもバランスが取れています。食物繊維は水分を含み、ウンチの体積を増やし、便秘を防ぎます。健康なウンチは水に沈まず、水中に漂います。食物繊維は空気を含むため、水に浮きます。一方脂質が多いウンチも水に浮きますが、良いウンチではありません。
第3章 食品を作る微生物
○発酵と腐敗
・日本の食事は「一汁三菜」で脂肪分が少なく、長寿や肥満防止に効果的です。また発酵を利用した調味料(味噌、醤油、みりん、酢、カツオ節、魚醤)が多い。他にも漬物などの発酵食品がある。細菌により人に有効な食品が作られる事を「発酵」と呼び、有害な場合を「腐敗」と呼ぶ。
・日本の発酵食品の元は、「ニホンコウジカビ」によって作られる「麹」である。カビは有害な物質を作るイメージがあるが、コウジカビはデンプン/タンパク質を分解するが、有害な物質を作らない。日本醸造学会はニホンコウジカビを国菌に指定している。※味噌・醤油・清酒、全てがコウジカビによるのか。種類は幾らかあるんだろうな。
○日本酒の作り方
・清酒の製造工程は「一麹、二酛、三造り」と云われ、麹の善し悪しが重要になります。まず麹作りですが、蒸したお米に1種類の麹菌(※コウジカビ?)を撒きます。これを麹室に入れ、菌を増殖させます。これが清酒の出来を左右します。
・次に「もと」を作ります。これは麹に水と種酵母を加え、酵母を増殖させます(※酵母はコウジカビでないと思うが、種類はないのかな)。できた液体は「酒母」と呼ばれます。麹がデンプンを糖に変え、酵母が糖をアルコールに変えます。ビール/ワインは、酵母がアルコールを作る1段階です。
・日本の古い酒も「口噛み酒」でした。唾液に含まれるアミラーゼがデンプンを糖に変え、それを酵母がアルコールに変えていました。麹を使い始めたのは奈良時代と考えられています。※中国からの輸入ではない?
○味噌
・日本の味噌は3種類に分かれます。1つ目は「米味噌」で、お米と麹菌と、大豆と塩から作ります(※後者で酵母を使う?)。米味噌には様々なバリエーションがあります。2つ目は「豆味噌」で、大豆と麹菌と、大豆と塩から作ります。3つ目は「麦味噌」で、麦麹と大豆と塩から作ります(※どれも大豆・塩を加えるのか)。昔は各家庭が作り、「手前味噌」の言葉があります。
・米味噌の場合、まず米麹を作ります。麹は「糀」とも書きますが、これは米に花が咲いたようになるからです。お米を蒸し、麹菌を付けます(※清酒と一緒だな)。使われるのは黄麹菌のアスペルギルス・オリゼと呼ばれるカビです。これに大豆・塩を混ぜ、熟成します。この時空気が入らないようにし、雑菌が増殖するのを抑えます。
・白味噌・赤味噌の違いは、大豆の煮汁の有無です。また熟成期間が長くなると、色は濃くなります。※これは色による分け方で、米味噌・豆味噌・麦味噌に共通かな。
・デンプンは糖に分解され、甘味になり、タンパク質はアミノ酸に分解され、旨味になります。製造過程で入った耐塩性酵母/耐塩性乳酸菌によりアルコール/乳酸も作られ、独特の風味になります。
○醤油
・醤油作りは、まず大豆/小麦にニホンコウジカビを植え付けます。大豆のタンパク質はアミノ酸に、小麦のデンプンは糖に分解されます。コウジカビは成長し、菌糸を伸ばします。ここで攪拌し、空気を送り込みます。
・できた醤油麹に食塩水を入れます。この「もろみ」をタンク内で熟成させます。この時乳酸菌により「もろみ」は酸性に変わります(※乳酸菌は意図的に加えるのかな?)。次に酵母を加え、糖はアルコールに変わります。
・熟成を終えた「もろみ」を絞り、生醤油を作ります。これには様々な微生物が含まれているので、瞬間高温殺菌などをして、瓶詰めします。
・醤油は5種類に分けられます。濃口醤油/淡口醤油/溜醤油/再仕込醤油/白醤油です(※詳細省略)。塩分は淡口醤油が最も高く、18%です。
○パン、ホットケーキ
・パン/ホットケーキはスポンジ状になります。共に小麦粉が主な材料で、違いはドライイーストとベーキングパウダーによります。ドライイーストはイースト菌(酵母菌)です。ベーキングパウダーは、炭酸水素ナトリウム(重曹)と酸性剤(酒石酸)が素材です(※人工物質か)。
・ホットケーキは焼くと、炭酸水素ナトリウムと酒石酸が反応し、二酸化炭素が発生します。小麦粉に水を加え混ぜると、グリアジン/グルテニンがグルテンに変わり、粘性・弾性を持つようになります。パン/うどん/ケーキ/麩は、混ぜ方の違いによります(※これは知らなかった。最近餅っとしたパンもある)。強力粉を使うと、粘性・弾性はさらに強化されます。
・最近、天然酵母で作ったパンを見ます。酵母は生物名ではなく、核を持った微生物で運動性のないものの総称です。ドライイーストは工業的に純粋培養したものです。一方天然酵母は独特な風味を出しますが、純粋培養されたものでなく、管理が難しくなります。
○ビール
・ビールは、麦芽/ホップ/米/コーンスターチから、以下の手順で作ります。
①麦芽を乾燥させ、根などを取り除く(モルト)。
②麦芽を砕き、米/コーンスターチと共に煮る。麦芽糖が作られ、これにホップを加える(麦汁)。
③麦汁にビール酵母を加え、1週間放置する。酵母により麦芽糖はアルコールに変わり、二酸化炭素が排出される。
・ビール酵母には表面で活動する上面発行酵母と、底で活動する下面発行酵母があり、このバランスで風合いが決まります。ビールの二酸化炭素の泡は強いため、おいしさを持続します。
○ワイン
・白ワインは果皮・種子を除いたブドウ果汁を発酵させます。赤ワインは果皮・種子を破砕したブドウ果汁を発酵させます。果皮から赤くなり、種子により苦味が付きます。ロゼワインは赤ワインの一種です(※詳細省略)。
・ワインは、サッカロミセス・セレヴィシェと呼ばれる酵母を使います。これにより20種類以上のアルコールが作られます(※お酒はエチルアルコール⦅エタノール⦆だけと思っていた)。ワインにも「天然酵母が良いか、培養酵母が良いか」の論争があり、昨今は安定したワインを作るため、培養酵母が主流になっています。
・条件が整うと果皮にボトリティス・シネレア(貴腐菌)が増殖します。この場合、甘味が増した貴腐ワインになります。ワインの酸化を抑えるため、亜硝酸塩が使われています。
○酢酸菌
・酢/ビネガーの主成分は酢酸です。酢は穀物・果物から作ります。穀物・果物を酵母で発酵させ、エタノールを作ります。これに酢酸菌を加え、酢酸を作ります。酢酸菌は自然界にも多く、お酒を放置しておくと、酢酸菌により酢になります(※なんでも腐ると酸っぱくなるのは、これかな)。ワインを酢酸菌で分解させたのがビネガーです。これをさらに熟成させたのがバスサミコ酢(バルサミコ酢?)です。
・酢酸菌は繊維(セルロース)も作ります。ナタデココはココナッツ水から酢酸菌が作ったもので、コリコリとした食感になります。セルロースは強度も生物分解性(※非分解性)も高いいため、音響振動板/人工血管/創傷被覆材/UVカットなどに使用されています。
○カツオ節
・カツオ節の「節」とは、魚の肉を煮た後、焙乾(加熱・乾燥)させたものです(※肉の燻製に近いのかな)。焙乾を数回~数十回繰り返したものを「荒節」と云います。これにコウジカビを付け、水分を低下せせます(枯節)。これを4回繰り返し、水分が18%以下になったものが「本枯節」です。
・使われるコウジカビには、以下の役割があります(※簡略化)。
①カツオ節から水分を奪い、長期保存を可能にする。
②カツオ節の脂質を脂肪酸に分解する。
③脂質を分解すると同時に、抗酸化物質を作る。
④カツオ節に旨味/芳香を付ける。
※よくこんな複雑な工程を発見したな。偶然だろうが、凄いな。
○ヨーグルト
・乳酸菌は炭水化物を発酵させ、乳酸を生成する細菌です。炭水化物の50%以上を乳酸に変えます。形状には、桿菌/双球菌/連鎖双球菌があります。乳酸菌はヨーグルト/発酵バター/チーズ/馴れずし/漬物/味噌/醤油などを作り、これを発酵と呼びます。しかし日本酒で乳酸菌が増殖すると品質劣化(火落ち)し、これは「腐敗」と呼びます。
・ヨーグルトは加熱したミルクに乳酸菌を加え、適温で発酵させます。乳タンパク質によりプリン状になります。酸性が強くなり、有害微生物は生息できなくなります。日本人には乳糖を分解できない人がいますが、ヨーグルトは乳糖が分解されているので問題ありません。「カスピ海ヨーグルト」を作る菌は、低温(20~30℃)で発酵します。またゼラチンの様な独特の粘りを持ちます。
○発酵バター
・牛乳には乳脂肪分が含まれています。一般的に売られている牛乳は、乳脂肪分を細かくしています(ホモジナイズ)(※牛乳も加工しているのか)。一方バターはホモジナイズしていない牛乳を使用します。冷やした牛乳を振り続けると、乳脂肪分が合体し、大きな粒になります。これに食塩を加えたのがバターで、加えないのが無塩バターです。バターには不足しがちなビタミンAが牛乳の10倍以上含まれています。
・バターには発酵バターもあります。これは発酵した牛乳から作ります。そのため独特の風味が加わります。発酵バターは自分でも作れます。牛乳に乳酸菌を入れ、短時間発酵させます。これを振ると発酵バターができます。
○チーズ
・ウシ・ヤギには母乳を消化するための酵素(レンネット)を持ちます。レンネットが残った内蔵にミルクを入れ持ち歩き、これによりチーズができたと考えられます。レンネットによりタンパク質のカゼインが凝縮してチーズになります。チーズ100gに牛乳1000gが必要で、チーズは凝縮されています。
・乳タンパクは、レンネット/酢/レモン汁などを加えると固まります(カード)。これを固めたのが「フレッシュチーズ」です。
・表面にカビが生えたのが「白カビチーズ」です。このカビは青カビの一種です(※白カビチーズは白カビが作ると思うが)。カビにより分解が進行しているので、白カビチーズには食べ頃があります。「ブルーチーズ」も青カビによります。
・一般的に流通しているのは「プロセスチーズ」です。これは複数のナチュラルチーズを混合し、冷却したもので、長期間保存できます。一方ナチュラルチーズは発酵が進みます。
○漬物
・漬物は野菜類・魚介類と食塩・酢・米糠などを漬け込んだ食品です。味が沁みると直ぐに食べるものと、1ヵ月~半年熟成させ食べるものに分かれます。
・野沢菜漬けは、秋に野沢菜と食塩を交互に積み、最後に重しをします。野沢菜は緑色ですが、黄色に変わり、酸味・旨味が加わります。半年ほどで食べられるようになります。漬ける事で長期保存できるのです。木曽の「すんき漬け」は塩を使わない漬物です(※詳細省略)。
・糠漬けで働いているのが、植物を分解する乳酸菌です(※ここでも乳酸菌が登場するが、乳酸菌は植物にも付着しているのかな)。当初は様々な細菌が増殖しますが、酸性度が上がると乳酸桿菌や酵母が増えます。野菜のデンプン/タンパク質は糖/アミノ酸に分解され、旨味になります。
○キムチ
・キムチも野菜の保存食です。白菜だけでなく、キュウリ(オイキムチ)、大根(カクテキ)などもあります。キムチは水洗いした白菜を使います。様々な細菌が付いていますが、乳酸菌により乳酸が作られ、酸性に変わり、他の細菌は増殖し難くなります。キムチは寒い季節に作りますが、それは乳酸菌のためです。暖かくなると酢酸菌が活発になり、キムチは酸っぱくなります。
・キムチは魚醤・塩辛も使います。魚醤は魚に塩を加え発酵させたもので、旨味成分のグルタミン酸が作られます。これを濾したものが魚醤です。この動物性タンパク質がキムチの独特の味を出します。家庭により、アミ/イカなどを追加します。
○納豆
・納豆は大豆を藁苞(わらづと)に入れ、自然発酵で作っていました。1884年納豆から納豆菌が分離されます。この納豆菌を蒸留水に溶かし、スターターとして使う事で、安定して作れるようになりました。
・納豆菌は栄養源がなくなると胞子を作ります。胞子は強固な成分に包まれ、熱・乾燥などへの抵抗性を持ちます。納豆菌にストレスを掛けると、胞子を作ります。これは100℃以上でも生き残れます。85℃以上に蒸した大豆にこの胞子を掛けると、胞子は発芽し、増殖・分裂し、納豆が作られます。
・納豆の品質は、旨味と粘り(糸)によります。旨味は大豆が元々持っていたものと、納豆菌により作られたものです。糸はポリグルタミン酸とフラクタンの高分子化合物です。海外では糸が好まれない場合もあるので、糸が少ない納豆菌も開発されています。
○旨味
・20世紀初め、基本味は甘味・酸味・塩味・苦味の4つでした。1908年池田菊苗は昆布からグルタミン酸を発見し、これが5つ目の旨味になります。1913年小玉新太郎が鰹節からイノシン酸、1957年國中明が干し椎茸からグアニル酸を発見します。グルタミン酸はアミノ酸ですが、イノシン酸/グアニル酸は核酸です。また國中は、グルタミン酸に少量のイノシン酸/グアニル酸を加えると相乗効果がある事を発見します。
・体重が50Kgの人の体内には、1kgのグルタミン酸があります。その1%が他の物質と結合していない遊離型で、99%がタンパク質/ペプチドに組み込まれた結合型です。人体にはタンパク質が不可欠で、その所在をグルタミン酸が旨味として知らしているのです。
・1909年小麦などから作った旨味香味料「味の素」が商品化されます。しかし食糧難から批判されます。1956年500のサンプルの中からグルタミン酸を生産(アミノ酸発酵)する微生物「コリネバクテリウム・グルタミクル」が発見されます。イノシン酸/グアニル酸を生産(核酸発酵)する青カビも日本人が発見しています。
第4章 分解者としての微生物
○堆肥
・堆肥は、炭水化物/脂肪/タンパク質などを分解したものです。水分が多い場合は、モミガラ/オガクズなどで水分を60%以下に下げます。堆肥化は2段階で行われます。第1段階で有機物が分解され、微生物が増殖し、50~80℃に上昇します。昔はこれに土を被せ、種を撒いていました(温床)。この段階で活躍するのが好気性細菌で、60℃位で活発に働きます。この時寄生虫卵/雑草の種は死滅し、安全になります。
・第2段階では、第1段階で分解されなかった有機物が30~40℃でゆっくり分解されます。第1段階の微生物に加え、硝酸菌/亜硝酸菌/セルロース分解菌/真菌/放散菌などが働きます。
・堆肥化で重要なのが水分量です。少な過ぎると抑制され、多過ぎると嫌気性菌が増殖し、悪臭を発生します。また堆肥化が不十分なものを使うと悪臭がし、有害菌が増殖し、作物の生育を阻害します。また雑草が生えたり、作物に寄生虫が付いたりします(※堆肥が逆効果になる)。有用微生物群を勧められますが、自然界には多種多様な微生物が存在します。
・堆肥の役割は2つあります。1つは廃棄物処理です。堆肥化によりゴミを減らし、農業用資材・土壌改良資材としてリサイクルします。もう1つは農業用資材です(※同じでは)。堆肥により土壌の通気性・透水性・養分保持性が向上します。ゴミ問題は深刻です。生ゴミの堆肥化にチャレンジして下さい。
○下水処理
・下水道が普及している地域では、下水は下水処理場で処理されます。普及率は東京都99.5%から徳島県17.8%と格差があります。バキュームカーで汲み取られたし尿は、し尿処理場で処理されます。どちらもない地域は、浄化槽で処理されます。浄化槽で処理された水も、川や海に流されます。
・下水処理場は「活性汚泥法」で処理します。まず沈殿槽で固形物を取り除きます。次は反応槽で、好気性細菌が集まった活性汚泥により有機物が二酸化炭素・水に分解されます。最後に、最終沈殿槽に送られ、殺菌され放流されます。
・浄化槽には、し尿だけを処理する「単独浄化槽」と、台所・風呂の水なども処理する「合併浄化槽」があります。浄化槽の仕組みは基本的には下水処理場と同じです。合併浄化槽の方が様々な水を処理するので、分解する能力は高くなっています。
○水道水
・浄水処理は、古くから「緩速ろ過」を利用しています。池に砂・砂利・玉石を敷き、その上に微生物がいて、水をゆっくり流します。しかし1日に4~5mしか処理できません。そのため日本では5%未満しか利用していません。
・広く利用されているのが「急速ろ過」です。薬剤で濁りを凝集・沈殿させ、その上澄みを砂・砂利の層で急速にろ過します(1日に120~150m)。ただしこの方法は有機物の除去が十分でなく、「水がまずい、カビ臭い」となります。また発ガン物質のトリハロメタンが作られます。
・最近は「高度浄水処理」が取られています。まず急速ろ過する前、水にオゾンを注入します。オゾンは腐食性・毒性が強く、有機物が分解されます。この水を生物活性炭吸着池に流します。活性炭の吸着性と活性炭に付いた微生物が、分解された有機物やアンモニアを取り除きます。金町浄水場/三郷浄水場/新三郷浄水場は高度浄水処理しており、水質は市販の水に匹敵します。
○遺伝子組み換え
・「遺伝子組み換え技術」により、DNAを変更し、細胞に戻せる様になりました。人のホルモンを大腸菌に作らせる事もできます。これは遺伝子の発現の仕組みが、人も大腸菌も同じだからです。
・植物の品種改良は「かけ合わせ」で行っていましたが、これには長い時間が必要です。遺伝子組み換えでは、有用な遺伝子(例えば、乾燥に強いトマトの遺伝子)を「制限酵素」で切り出します。これをベクター(運び屋)に繋げ、細菌(アグロバクテリウム)に入れます。この細菌を改良したい植物(例えば、甘いトマト)に感染させます。※病気の感染みたいだな。しかしこれでDNAが置き換わるのかな?
・遺伝子組み換えは、インスリン/ワクチンの生産にも利用されています。インスリンは糖尿病の治療に使われています。かつては牛・豚のインスリンが使用されていましたが、今は大腸菌に人の遺伝子を組み込み、生産させています。
・遺伝子組み換えの初期では、植物への害虫抵抗性の付与を目的にしていました。タンパク質の毒素を昆虫が食べると消化管が損傷しますが、人はアミノ酸に分解します(※難解。毒素を作る様に替えるのかな)。また日本では安全性が確認された遺伝子組み換え食品が流通しています。
○プラスチック
・プラスチックは、軽い/錆びない/腐らない/整形が容易/丈夫/劣化しない/安価などの特徴があります。しかし腐らないため、ゴミ問題になります。そのため生分解性プラスチックの研究が進められています。
・その代表が「ポリ乳酸」です。これはトウモロコシなどのデンプンをブドウ糖に分解し、乳酸菌で乳酸を作り、それを繋げたものです。既にゴミ袋/農業資材/携帯電話・パソコンの筐体などに使われています。ポリ乳酸以外に、ポリカプロラクトン/ポリビニルアルコールなどがあります。
○抗生物質
・感染症の治療として抗生物質が使われるようになりました。抗生物質は「微生物が生産し、他の微生物の増殖を抑える物質」です。最初に抗生物質を発見したのは英国の医師フレミングです。彼は夏の休暇から戻り、シャーレの青カビが生えた所だけ細菌が増殖していない事に気付きます。そしてそこから抗生物質(ペニシリン)を取り出す事に成功します。
・ペニシリンなどの抗生物質は、細菌が細胞壁を作るのを阻害します。動物には細胞壁がないので無害です(※植物/菌類/細菌が細胞壁を持つ)。結核菌に効果があるストレプトマイシンは、細胞内のリボソームによるタンパク質の生合成を阻害します。ブレオマイシン/マイトマイシンCは、DNAの生合成を阻害します。※様々な抗生物質があるな。見付けるのも、作用を確認するのも大変だな。マイシンの意味は何だろう。
・抗生物質が人に作用しないのは、細菌と真核生物で細胞の構造・機能が大きく異なるからです。抗生物質は幾つかに分類され、それぞれ細胞壁合成/細胞膜/葉酸生合成/DNAジャイレース(?)/RNAポリメラーゼ(?)/タンパク質合成などをターゲットにしています(※図解あり)。
・感染症は克服できると考えられていましたが、抗生物質が効かない耐性菌が出てくるようになりました。耐性菌は、①ターゲットの分子を変化させた、②抗生物質を壊す、③抗生物質を進入させないなどの機能を持つようになったのです。
第5章 食中毒
○食中毒
・食中毒は、①細菌の感染、②細菌が作った毒素、③ウイルスの感染が原因です。近年は食品を低温で食卓まで運べるようになり、食中毒は大幅に減少しました(※詳細省略)。しかし家庭での誤った調理や釣った魚の管理などで発生しています。
・ノロウイルス/ロタウイルス/A型肝炎ウイルス/E型肝炎ウイルスなどは食中毒の原因になります。食中毒の9割はウイルスで、1割が細菌によるものです。ウイルスは宿主の細胞内で複製されるので、細菌の増殖を妨げる抗生物質は効きません。そのため治療は対処療法(下痢止め、吐き気止め、解熱剤、痛み止め)になります。
○おにぎり-黄色ブドウ球菌
・2018年藤田紘一郎が「おにぎりは発酵食品」とコメントします。有機物から有用物質(乳酸、酪酸、酢酸など)が作られるのが発酵で、有害物質が作られるのが腐敗です。皮膚・腸には乳酸菌・酢酸菌・大腸菌・ブドウ球菌などの常在菌がいます。しかし有用な微生物だけを増殖させるのは容易ではありません。
・近年は黄色ブドウ球菌による食中毒が減少しています。黄色ブドウ球菌は常在菌ですが、傷に化膿巣を作ったり、敗血症を引き起こします。また黄色ブドウ球菌は毒素エンテロトキシンを作ります。エンテロトキシンは酸にも熱にも強く、食中毒を引き起こします。
・1980年代まで食中毒の1/3が黄色ブドウ球菌によるもので、おにぎりが原因でした。おにぎりを握る時、ラップ/手袋を使う事で、今では5%にまで低下しています。
○最強の毒素-ボツリヌス菌
・ボツリヌス菌はボツリヌス毒素を産出します。これは「500gあれば人類を滅ぼす」と云われています。ボツリヌス菌は土・海・湖・川の泥に棲んでいる嫌気性菌で、酸素があると死んでしまいます。
・そのためソーセージ/ハム/いずしなどで食中毒が発生しています。密閉食品(缶詰、瓶詰、レトルト食品など)は、120℃で4分以上加熱するので安全です。真空包装食品を常温保存し、食中毒となった事例があります。
○魚介類の生食-腸炎ビブリオ
・腸炎ビブリオは海水や海の泥にいます。増殖速度が非常に速いが、熱や低温には弱い細菌です。腸炎ビブリオは海で獲れた魚介類に付着しています。冷蔵しないと、急速に増殖します。多くの国で魚介類を生食しないのは、このためです。
・冷蔵技術/コールドチェーン/調理施設・技術の向上で食中毒は激減しています。逆に激減したため家庭での意識が薄れ、釣った魚や買った魚を低温管理しないケースが見られます。腸炎ビブリオは真水では増殖できないので、流水で洗いましょう。加熱する時は、60℃で10分以上加熱しましょう。増殖速度が速いので、生魚を常温で保管してはいけません。冷凍魚を常温で解凍するのも危険です(※ずっとやっていた)。寿司・刺身なども常温に置かないようにしましょう。
・腸炎ビブリオによる2次汚染にも注意です。魚介類を調理した手・まな板・包丁はよく洗いましょう。
○生卵-サルモネラ菌
・サルモネラ菌は、鶏・牛・豚の腸管にいます。人に入ると消化管で増殖し、発症します。サルモネラ菌とチフス菌/パラチフス菌は同属です。サルモネラ菌は乾燥にも水にも強い菌です。
・卵・肉の生食や2次汚染で食中毒が起きています。海外では生卵を食べません(※ロッキーの話は省略)。日本では卵を温水や紫外線で消毒するため、生食できます。海外では生食用の卵は減菌済卵として別売しています。卵の賞味期限は2週間前後です。消費期限ではないので、過ぎても加熱すれば食べられます。
・犬・猫・鳥・亀などのペットからの感染にも注意です。ペットに触った後は、手を洗いましょう。動物園/猫カフェなども注意です。特に抵抗力が低い子供・高齢者は注意です。
○鶏肉-カンピロバクター
・カンピロバクターは、牛・豚・鶏・ペットの消化管にいます。これらの排泄物から感染します。カンピロバクターは鶏から感染する事が多くなっています。それは鶏は切り分けられないで、皮付きで売られるからです。これらの生食は危険です。まな板・包丁などの調理器具から感染する事もあります(※これは全てに共通だな)。野外での焼肉パーティーでも他の肉と混ぜたり、調理器具を共用しないようにしましょう。
・症状は猛烈な胃腸炎です。同様な症状にノロウイルス/ロタウイルスによる感染症があります。ウイルスによる感染症は抗生物質が効かないため対処療法しかありませんが、カンピロバクターは細菌なので、抗生物質が効きます。そのため病院では詳しく状況を伝えましょう。またカンピロバクターは潜伏期間が長いので、7日後に発症とかもあります。
○病原性大腸菌
・大腸菌は常在菌ですが、有害なものが分かってきました。細かくは5種類(腸管病原性大腸菌、腸管侵入性大腸菌、毒素原生大腸菌、腸管凝集性大腸菌、腸管出血性大腸菌)に分かれます。前4種類は途上国の乳幼児下痢症の原因となっています。
・腸管出血性大腸菌は、強力なベロ毒素を作る病原性が高い菌で、激しい血便や重篤な合併症を引き起こします。わずか100個程度の菌で感染します。肉・野菜・果物以外に、冷蔵庫・調理器具・手指から感染します。十分な加熱、手洗い、調理器具の洗浄・消毒が必要です(※他の食中毒と同様の予防方法が書かれているが省略)。
・病原性大腸菌は潜伏期間が長く、少ない菌で感染するため、感染ルートの解明が難しくなります。1996年堺市で児童など感染者8千人と家族など2次感染者1.5千人を出しましたが、感染ルートは解明できませんでした。また19年後に後遺症で死者が出るなど、長い後遺症が伴います。
○ノロウイルス
・ノロウイルスは二枚貝にいて、それを生食や不十分な加熱で食べた時に発症します。カキには生食用と加熱用があります。二枚貝は海水に含まれる有機物を食べ、ノロウイルスなどを蓄積します。そのため生活排水/工業用水などが流れ込む場所で養殖されたカキは加熱用になります。一方生食用は、保健所が認めた海域で養殖されたカキです。
・ノロウイルスは感染力が強く、10~100個程度で感染します。また調理器具や感染者の嘔吐物・糞便でも感染します。またアルコール消毒も効きません。感染者が出た場合、食器・衣類・ドアノブなどを塩素系消毒液で消毒しましょう。また症状が治まっても、2~3週間はウイルスの排出が続きます。
○ロタウイルス
・ウイルス性胃腸炎で最も症状が重くなるのがロタウイルスです。医療制度が整う前は、多くの子供が亡くなりました。感染力が強く、先進国でも「5歳までに全員が感染する」と云われています。感染すると下痢・嘔吐・発熱し、腎炎・腎不全・心筋炎・脳炎・脳症などの合併症を起こす事もあります。
・ロタウイルス/ノロウイルスには迅速診断キットがあります。ロタウイルスのワクチンは開発されているので、医者に相談しても良いでしょう。ロタウイルスはノロウイルスと同様の感染力があります(※詳細省略)。ただしアルコール消毒が有効なので、幾らか対処し易くなります。
○新鮮な食品でも感染-A型・E型肝炎ウイルス
・A型肝炎ウイルスは一過性の感染症で、慢性化しません。かつては日本でも流行しました。水・野菜・果物・魚介類を通して感染します。生食は危険で、調理器具もよく洗いましょう(※どれも同じ)。
・駆除された猪・鹿・豚を生食や加熱不足で食べると、E型肝炎ウイルスに感染します。ウイルスに感染した人・動物の便で汚染された水も危険です。アジアで見られる流行性肝炎はE型肝炎ウイルスと考えられ、これらの地域で水・生ものは危険です。
○水道水で食中毒-クリプトスポリジウム
・クリプトスポリジウムは、家畜・ペットの腸管に寄生する原虫(原生生物)です。1976年人への感染が初めて報告されます(※過去になかった感染症かな)。1980年代、クリプトスポリジウムが後天性免疫不全症候群(AIDS)患者に致死性の下痢を起こす事が注目されます。1993年ミルウォーキー州で40万人以上が感染し、数百人が死亡しています。日本でも水道水で集団感染を起こしています。
・クリプトスポリジウムは塩素消毒も無効で、物理的にろ過する必要があります。現在は紫外線処理が行われています。感染者が出た場合、水道水を煮沸するよう自治体が広報する事になっています。
○貝毒、シガテラ毒
・潮干狩りしたアサリ・シジミなどで食中毒になる場合があります。海水が富栄養化すると、有害なプランクトン(渦鞭毛藻)が発生します。これを魚介類が蓄積し、貝毒となります。貝毒には麻痺性貝毒/下痢性貝毒があります。貝が毒性を持つ可能性がある場合は、自治体が採取の自粛を呼びかけます。市販の貝は問題がないでしょう。
・シガテラ毒は熱帯で見られます。これも渦鞭毛藻が付いた海藻を貝・魚が食べ蓄積し、それを人が食べる事で感染します。感染すると、ドライアイス・センセーション(温度感覚の異常)・かゆみ・筋肉痛・頭痛・消化器症状などが発生します。フエダイ/ハタ/イシガキダイ/ドクウツボなどは食べないようにしましょう。近年は本州でも感染が見られるようになりました。
・貝毒・シガテラ毒は加熱しても毒性は消えません。自治体が感染事例を発表しているので、注意しましょう。※加熱が無効とは、厄介だな。
○最強の発ガン物質-カビ毒
・日本は温暖・湿潤で、カビの増殖に好条件です。カビはデンプンを好みますが、衣類/浴室などにも生えます。カビは味噌・酒などを作りますが、中毒の原因にもなります。
・コウジカビは一般的なカビで、オリゼー種は醸造に使われます。しかしフラバス種は、肝臓ガンを引き起こす「アフラトキシン」を作ります。モザンビークや中国の一部で肝臓ガンが多いのは、食物がアフラトキシンに汚染されているためと考えられています。世界では、トウモロコシ/香辛料/ナッツなどから見つかっています。※これは隠れた危険性だな。
・フラバス種は熱帯・亜熱帯のカビで、日本にはいません。日本では赤カビ(フザリウム)の中毒が起きています。麦で増殖し、デオキシニバレノール/ニバレノールなどのカビ毒を作ります。このカビ毒が小麦粉に混入すると、パンを焼いてもカビ毒は分解されません。※熱に強い毒も厄介だな。
・餅には、青カビ/黒カビ/毛カビなどが生えます。乾燥させ、かき餅にしたり、水餅にしてカビが増殖するのを防ぎます。冷凍庫で保管するのも良い方法です。カビが生えた餅は、食べないようにしましょう。
・黒カビは空気中で最も多く、浴室/衣類などに生えます。浴室では石鹸を栄養源にします。アルコール/お湯で殺菌できますが、黒い汚れは取れません。次亜塩素酸で白くできます。入浴後に石鹸を洗い流す、浴室の換気などで増殖を防ぎましょう。
第6章 病気を起こす微生物
○風邪とインフルエンザ
・風邪は年に2~5回ほど罹り、鼻水・鼻づまり、のどの痛み、咳などの症状があります。治療しなくても、3~7日ほどで治ります。インフルエンザは発熱、頭痛、筋肉・関節の痛みなどがありますが、こちらも1週間ほどで治ります。
・風邪は、ライノウイルス/コロナウイルスなどのウイルスが原因です(※そのため海外では新型コロナを風邪に分類するのか)。感染すると免疫ができますが、200種以上あるので、未感染のものが多くあります。原因がウイルスなので、抗生物質は効きません(※抗生物質を服用していた気がする)。対処療法しかなく、休養・保温・保湿・栄養などになります。
・インフルエンザ・ウイルスが気道の上皮細胞に感染すると、悪寒・不快感・発熱などの症状が始まります。これは免疫系がウイルスと戦い、ホルモンの分泌異常/代謝障害/ストレス性反応などを起こすからです。
・インフルエンザ・ウイルスは一本鎖のRNAウイルスのため、変異し易くなっています。これがワクチンによる予防を難しくしています。またインフルエンザは冬に流行しますが、気温より絶対湿度(空気中の水蒸気量)と深く関係しています。暖房と加湿でウイルスの感染力を弱められます。
○結核菌
・結核は結核菌によります。日本では1950年まで死亡原因の1位でした。1944年抗生物質のストレプトマイシンが発見され「治る病気」になりました。しかし日本でも毎年2万人が感染し、2千人が亡くなっています。結核菌を吸い込む事で感染しますが、発病するのは1割ほどです。肺で発病すると、肺出血・喀血・窒息などを起こし、高い頻度で死亡します。
・人は古くから結核で苦しんでいたようです。しかし大流行は、18世紀の産業革命で都市に人口が集中し、住環境が悪化し、労働条件が苛酷になった事で始まります。日本も明治期に流行します。
・結核の検査には、「感染の検査」と「発病の検査」があります。IGRA検査が陽性であれば、結核に感染した事になります。発病の検査には、X線による画像診断と喀痰検査があります。喀痰検査は以前は結核菌の増殖に何週間も掛かっていましたが、今は遺伝子を検査するため、数時間で可能です。
・結核が治癒しても、老化・栄養不足・過労・ストレス・ホルモンバランスの崩れなどで再発(2次結核症)する事があります。この場合は慢性化する恐れがあります。また結核が減らないのは、薬が効かない「耐性菌」が現れてきたためです。治療は期間を要するため、途中で止めたりすると、耐性菌が生まれます。
○肺炎球菌
・肺炎は、細菌やウイルスにより起きます。肺炎になると、咳・痰が出たり、呼吸が苦しくなります。高齢者の場合、気付かないで重篤になっている事があります。肺炎は日本人の死亡原因の第3位です。
・肺炎には、細菌による「細菌性肺炎」、ウイルスによる「ウイルス性肺炎」、マイコプラズマ/クラミジアなどの細菌とウイルスの中間的な微生物による「非定型肺炎」があります。肺炎の1/4は肺炎球菌によります。
・細菌には、球菌/桿菌/らせん状菌などの形状があります(※図解あり)。肺炎球菌は子供の上気道に定着し易い菌で、中耳炎の原因にもなります。肺炎球菌による肺炎は、後遺症が重くなる事があります。またペニシリンに耐性を持つ肺炎球菌も増えています。※耐性菌は厄介な問題だな。
・しかし肺炎球菌は遺伝子研究で重要な役割を果たしています。1923年グリフィスは肺炎球菌のコロニー(微生物の集団)が滑らかなS型と、ざらざらしたR型がある事を発見します。そしてS型だけが肺炎を発症する事を確認します。そして熱処理したS型と病原性のないR型をマウスに注射すると、R型がS型に変わり、マウスは死にました(※なぜ変わるのか不思議だな)。この研究をエイブリーがさらに進め、DNAが遺伝子である事を証明します(※詳細省略)。
○風疹ウイルス
・風疹は風疹ウイルスにより起きます。2~3週間潜伏し、発疹・発熱・リンパ節の腫れなどの症状が出ます。症状のない人が、子供50%/大人15%います。妊婦が風疹になると胎児も感染し、難聴/白内障/心疾患などの障害を持って生まれます。妊娠12週までに罹ると、この先天性風疹症候群(CRS)になります。
・1963~65年世界的に風疹が流行します。日本では1995年から中学生へのワクチン接種が始まります(※詳細省略)。CRS問題があるため、男女とも予防接種を受ける必要があります。
○ペスト菌
・ペスト/マラリアは、多くの人の命を奪ってきました。14世紀欧州ではペストにより1/4の人が亡くなります。今でも敗血症ペスト/肺ペストで亡くなる人がいます。ネズミに寄生するネズミノミがペスト菌を腸内で増殖させ、人に吸血し、人が感染します。
・14世紀の欧州の大流行は、モンゴル軍や十字軍がクマネズミを移動させたためです。ペストによる人口減少で、農村では穀物栽培から人手が掛からない放牧に替わります。また農民の地位も向上します。英国では、仏語教師が減ったため、英語で教育が行われるようになります。
・ペスト菌が体内に入るとリンパ管で腫れを起こします(腺ペスト)。全身に広がると敗血症ペストになります。全身で出血するため「黒死病」と呼ばれます。肺に入ると肺ペストになり、2日程度で亡くなります。ストレプトマイシンなどの抗菌剤で治療します。
○マラリア原虫
・マラリアはマラリア原虫によって起き、蚊が媒介します。世界で毎年1億人が感染し、100万人が亡くなっています。マラリア原虫には4種類あり、最も広がっているのが「三日熱マラリア原虫」で、最も症状が深刻なのが「熱帯熱マラリア原虫」です(※他は?)。媒介するのは雌のハマダラカ属だけです。この蚊は気温の高い地域に生息します。
・アフリカにはマラリアに抵抗を持つ人がいます。これはヘモグロビンの異常で、鎌状赤血球貧血症もその1つです。この場合、貧血・呼吸困難になるのですが、マラリア原虫が体内に入っても、溶血します。同様なものに主要組織適合性抗原(MHC)遺伝子があります。これから作られるタンパク質は、マラリア原虫に対する耐性を持ちます。
・マラリアは世界百ヵ国で見られます。旅行する際は、以下の4つの予防対策があります。
①国によって流行状況が異なるため、マラリア原虫のタイプや薬剤耐性を調べる。
②蚊に嚙まれないため、長袖・長ズボンを着用し、虫よけ薬・蚊帳なども利用する。
③予防薬を内服する。ただし副作用に注意。
④早期診断・早期治療。しかし国内でも医療機関は限られます。
○レジオネラ菌
・私達の身の回りにも常在菌がいます(環境常在菌)。これらが大量に増殖し、問題を起こす場合もあります。1976年フィラデルフィアで在郷軍人会が開かれ、参加者に高熱・衰弱・肺炎が起き、34人が亡くなります。この原因が既知の細菌・ウイルス・化学物質ではなくレジオネラ菌だったのです。空調用冷却塔の水がレジオネラ菌に汚染していたのです。
・レジオネラ菌は自然環境に広くいますが、数は少なく、分裂速度も遅い菌です。しかし空調施設などは常に暖かく、「バイオフィルム」(微生物群の膜状構造)を作り易くなってます。そのため空調用冷却塔/浴槽などからの感染が見られます。
・レジオネラ菌による病気には、レジオネラ肺炎とポンティアック熱があります。レジオネラ肺炎になると、高熱・倦怠感・筋肉痛の後、咳・喀痰・胸痛・呼吸困難になり、死亡する場合もありますます。ポンティアック熱は、悪寒・筋肉痛・頭痛・咳などが見られますが、数日で回復します。レジオネラ肺炎の治療法は、抗生物質の投与/酸素療法・呼吸補助療法/ステロイドホルモンの投与などです。
・レジオネラ菌は温泉施設/24時間風呂で高率で検出されます。水道水は塩素が0.1ppm以上であれば安全とされていますが、加熱すると塩素が蒸発するので、菌は増殖します。ビル給湯系ではエネルギー節約のため、設定温度を低くしている事が多く、増殖可能になっています。
・レジオネラ菌を防ぐにはバイオフィルムを作らない事で、設備の材質の選択、水の停滞を起こさない、設備にチリを入れない、20~50℃以外での温度保持、適宜の清掃などが重要になります。
○ヒト免疫不全ウイルス
・1981年通常の人には見られない真菌のニューモシスチス・カニエによる肺炎が発生し、後天性免疫不全症候群(エイズ)と命名されます。1983年血液・体液が感染経路と分かり、原因となるヒト免疫不全ウイルス(HIV)も発見されます。今でも年間180万人が感染し、100万人が亡くなっています。そのためHIV感染症/結核/マラリアが三大感染症とされています。しかし治療薬・治療方法の進歩で、死者数は減少しています。
・HIVに感染すると、急性感染期→無症状期→エイズ期の経路になります。急性感染期では、発熱・発疹・リンパ節の腫れなどが起きます。無症状期は、免疫機能により症状はほとんどありません。この状態が10年ほど続きます。エイズ期にリンパ球CD4が減少し、カリニ肺炎/サイトメガロウイルス感染症/非定型抗酸菌症などの日和見感染症を発症します。この状態が後天性免疫不全症候群(エイズ)です。
・抗HIV薬を飲んでいると、ウイルス量を抑える事ができます。服用を止めると、直ちにエイズを発症します。薬は薬剤耐性ウイルスが現れるのを防ぐため、3種類以上を服用します(多剤併用療法)。しかしこれにより慢性疾患(脂質異常、骨代謝異常、糖代謝異常、腎機能障害、悪性腫瘍)が起きます。また危険な性行為/麻薬の静脈注射などをしない事が予防法です。
○B型肝炎ウイルス
・肝炎ウイルスは肝臓で増殖し、肝炎を起こすウイルスの総称です。経口感染する「流行性肝炎ウイルス」と、血液・体液から感染する「血清肝炎ウイルス」があります。B型肝炎ウイルス(HBV)は後者で、急性肝炎/慢性肝疾患/肝ガンなどの原因になります。日本には100万人のキャリアがいます。
・出生時に感染する「垂直感染」と、その後に感染する「水平感染」があります。1948~88年予防接種などで注射器を共用していたため、それによるキャリアが40万人います。
・キャリアの大半が垂直感染です。母親がHBe抗原陽性の場合、出生児の85~90%がキャリアになります。この出生児にB型肝炎免疫グロブリンの投与とHBワクチンの投与を続ければ、抗体を保て、キャリア化を5%に下げられます。
○ピロリ菌
・ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、カンピロバクターの仲間です。1983年に発見された新しい細菌で、それまでは「強酸性の胃に細菌はいない」とされていました。ピロリ菌は胃の中で、尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、そのアンモニアで胃酸を中和し生息しています。慢性胃炎を起こし、胃潰瘍/十二指腸潰瘍/胃ガンの原因になります。世界の半数の人が感染していると云われます。日本では40歳以上は70%が感染しているのに、20歳代は25%と低くなっています(※食物から感染かな)。まだ謎が多い細菌です。検査方法は多種あり、除菌も可能です。
○水痘帯状疱疹ウイルス
・水痘(水ぼうそう)/帯状疱疹の原因は、水痘帯状疱疹ウイルスです。幼児が感染し水痘を発病しますが、1週間で治ります。しかしウイルスはそのまま潜伏し、免疫が低下すると帯状疱疹を発病します。ウイルスに感染すると、増殖し皮膚に移動し、水泡を作ります。水泡は直ぐに治り、痕も残しません。水痘は感染性が高く、直ぐにクラスに広まります。
・水痘が治っても、ウイルスは神経細胞に潜伏します。免疫機能が低下すると、ウイルスは皮膚に移動し、痛みを伴う発疹を作ります。2~3週間で治りますが、痛みはその後も続く事があります。
・水痘はワクチンで予防できます。帯状疱疹は抗ウイルス薬で痛みを和らげます。子供の時に水痘ワクチンを接種すれば、帯状疱疹も予防できます。
○エキノコックス/狂犬病ウイルス
・動物由来感染症は、動物が持っている病原体を傷/ダニ・蚊/土・水を媒介し感染します。感染源の動物は、ペット/家畜/野生動物です。病原体は、ウイルス/リケッチア(?)/クラミジア/細菌/真菌/寄生虫/プリオン(?)など様々です。本書でも多くの動物由来感染症を起こす微生物を紹介しました。本節では動物由来感染症の中でも重篤になるエキノコックス症/狂犬病を紹介します。
・エキノコックスはイヌ科を宿主とする寄生虫で、サナダムシの仲間です。虫卵をノネズミなどの動物が食べると、体内で多包虫と云う幼虫になります。その動物をイヌ科の動物が食べると、体内で成虫になります。人がエキノコックスの卵(※虫卵と違う?)を食べても多包虫になるため、手術による除去が必要です。エキノコックス症は北海道だけでなく知多半島でも確認されています。
・狂犬病は、狂犬病ウイルスを持つ動物から感染します。発症すると100%死亡します。日本にはなく、日本は「清浄国」です。日本では予防接種や野犬駆除により、1956年以降は報告がありません。
・そのため日本人は野生動物・野犬・野良猫への警戒心が軽薄です。開発により野生動物と接触する機会が増え、新興感染症(エボラ出血熱、SARS、MARS)に感染したり、地球温暖化により熱帯感染症(デング熱、マラリアなど)に感染したり、ペットの輸入により新たな感染症に感染したりする危険が高まっています。