『現代農業入門』八木宏典(2013年)を読書。
農業の基礎を知りたいので選択。知らなかった事が多過ぎるのを実感。
農業の制度/稲作/野菜作・果樹作/畜産/食料事情/農業の将来などを章毎に解説。
大変詳しいが、情報が少し古い。
お勧め度:☆☆
内容:☆☆☆(図解あり、大変詳しい)
キーワード:<農業>農耕・畜産、太陽光・土地・労働、土壌、開拓・干拓、土地利用型農業/集約型農業、品種改良、肥料、農薬/病害虫、機械化、有機農業、<人・組織・制度>農家、農業経営体、農業所得、農地、農林水産省、農業協同組合、農地改革、生産調整、貿易摩擦、食料・農業・農村基本法、食品表示、機能性農産物、<稲作経営>稲の種類、経営状況、稲の生長、玄米・白米、米の品種、新形質米、酒造り、米粉/飼料用米、<野菜・果樹・花卉>輸入野菜、伝統野菜、果樹、花卉、麦類・豆類、工芸作物・特用林産物、流通、<畜産>反芻動物、飼料、生産コスト、乳牛/牛乳、ナチュラルチーズ、和牛、養豚、養鶏、感染症、<食料事情>食料不足、食料自給率、食料安全保障、肥料・燃料、貿易自由化、遺伝子組み換え作物、フェアトレード、<農業の可能性>耕作放棄地、新規就農、直売所、農村起業、6次産業化、グリーン・ツーリズム、環境保全型農業、輸出、再生可能エネルギー
はじめに
・人が1週間以上食べないと、精神的・肉体的にパニックになります。その食べ物を作る農業は、植物や動物を育てる産業(grow)です。一方工業は、鉱物資源・石油資源などの材料を加工する産業(make)です。※農業は自然の動植物が相手か。これは分かり易い。
・世界人口は2013年72億人でしたが、2050年96億人、2100年109億人になると推計されています。一方1人当たりの穀物収穫面積は、40年で半減しました(※この原因は人口増だけでなく、農地減少もあるかな)。さらに異常気象/途上国の発展/バイオ燃料の増加/投機資金の流入(※資金が投入されれば増産しそうだが)により、食料は増々逼迫するでしょう。日本の食料自給率(カロリーベース)は39%で、先進国で最低水準です。農業の高齢化などもあり、国民は農業に不安を持っています。
第1章 農業はこうして成り立つ
<農業とは>
○文明は農耕から始まった
・農耕が始まったのは、1.2万年前の旧石器時代と考えられます。複数の場所が起源で、肥沃な三日月地帯(小麦、大麦、羊、ヤギ、豚、牛)、長江・黄河の流域(稲、アワ、豚、鶏)、ニューギニア(タロイモ、サトウキビ、バナナ)、メキシコ(トウモロコシ)、アメリカ東部(カボチャ)などです。
・人は当初、狩猟・採集・漁労などをしており、小さな集団で移動しながら生活していました。しかし農耕により定住し、都市や文明が生まれます。
○農業は太陽を有効利用
・植物は、葉緑素/根から吸収される養分を含む水/空気中の二酸化炭素を使い、太陽の光エネルギーを介し光合成し、有機物(糖)を作り、生長します。そのため植物は「生産者」、動物は「消費者」、死んだ動植物を分解する微生物は「分解者」と呼ばれます。※微生物も消費の結果、分解するのかな。
・人は、光合成の力が強く/栄養価が高く/収穫が容易な野生植物を作物にしました(農耕)。またこれと共に、野生動物を家畜化し、乳製品・卵・肉を得ました(畜産)。この農耕と畜産を合わせたのが農業です。
○土地に人の手が加わる
・農業に太陽光は欠かせませんが、土地と労働力も必要です。この労働には、土を耕したり灌水の整備など、土地に働き掛けるものと、作物自体に働き掛けるものがあります。ただし今は水耕栽培/ロックウール栽培/野菜工場など、土地を必要としない方法もあります。
○基礎は5種類の作物
・イネ科の小麦・トウモロコシ・米は、3大穀物と呼ばれます(※トウモロコシもイネ科なんだ)。これらは人の主食であり、家畜の飼料にもなります。他に重要なのがマメ科の大豆です。日本では豆腐・納豆にされますが、最大の用途は食用油です(※そうなんだ)。北欧/オセアニア/アフリカでは、イモ類が主食の地域もあります。3大穀物・大豆・イモ類が、世界で重要な作物です。
<日本の土壌>
○養分の流出
・穀物が大規模に生産されているのがウクライナ/グレートプレーンズ(米国)/パンパ(アルゼンチン)で、土壌に肥沃な黒土(チェルノーゼム)が含まれます。一方日本は雨量が多いため、アルカリ性ミネラルが流され、土壌は痩せています。※火山によると聞いた事があるが。
○日本の土壌の特徴
・日本の土壌の大半は「褐色森林土」です(※土に付いても無知だな)。これは林業・果樹園・畑に利用されます。北海道・東北・関東・九州では「黒ぼく土」が見られます(※「ぼく」は音らしい)。これは火山灰と腐植からなり、水もち・水はけが良い土です(※適度に水分を含むのかな)。しかし酸性が強く、リン酸に乏しく、痩せています。
・「沖積土」は河川で運ばれた土砂が堆積した土で、水田に利用されます。西日本・沖縄では「赤黄色土」が見られます。これも酸性が強く、お茶・果樹園に利用されます。高山や北海道で見られるのが「ポドゾル土」です。これは針葉樹林の腐植による土で、酸性が強く、農地に適しません。
<日本の気候>
○気候区分は6つ
・世界の気候も様々ですが、日本は南北に長く、気候区分は6つに分けられます。①北海道は亜寒帯です。梅雨はなく、台風も少なく、雨量は少なくなります。寒さに強い畑作と酪農が中心で、ジャガイモ/ビート(サトウダイコン)/小豆/小麦/乳製品が作られます。②太平洋側は夏は高温多湿になりますが、冬は乾燥します。東北は夏でも「やませ」により冷害が起こる事があります。野菜・花の生産が盛んで、静岡県・鹿児島県ではお茶も作られます。
・③日本海側は世界有数の豪雪地帯です。冬は農業ができませんが、春はその豊富な雪解け水で稲作ができます。④長野県/山梨県などの中央高地は降水量は少なく、夏と冬で気温差が大きくなります。果樹(リンゴ、ブドウ、モモ)や抑制栽培(キャベツ、レタス)が盛んです。※抑制とは、栽培時期を遅れらすのか。
・⑤瀬戸内海は降水量が少なく、温暖です。小麦/畑作/ミカン/キウイなどが生産されます。⑥南西諸島は亜熱帯で、温暖で降水量も多くなります。パイナップル/サトウキビ/マンゴー/パパイヤや、季節をずらした野菜・花が栽培されます。
※この区分は参考になる。各所で果物が生産されているが、私が食べるのはリンゴが主。
<日本の農地>
○農地は国土の12%
・日本の国土は、森林66%、農地12%、宅地5%です。※残りの17%は何だろう。琵琶湖などの水域は含まれないだろうな。
○悪条件の土地を農地に
・日本は開拓・干拓などで農地を増やしてきました。「開拓」は山野などを田畑に変える事です。根釧台地/八ヶ岳山麓/浅間山麓などがあります。「干拓」は遠浅の水域を堤防で囲み、陸地化します。八郎潟/有明海/児島湾などがあります。「客土」は上質の土壌を運び入れ、土地を改良します。石狩平野などがあります。「灌漑」は田畑に水を引く事です。豊川用水/明治用水/愛知用水/香川用水などがあります。「乾田化」は、湿田の排水を促します。越後平野などがあります。※沢山あるな。
○効率的な農業
・農家1戸当たりの耕地面積は2.2ha(北海道は22ha)で、米国の1/80です。土地を利用し、米・麦・大豆などを生産する農業を「土地利用型農業」と呼びます。より多くの資本・労力を投下し、野菜・果樹・花卉・畜産などを生産する農業を「集約型農業」と呼びます(※稲作は後者と思っていたが、違うのか)。日本では生産性を高めるため、後者が発達しています。特にビニールハウス/ガラス室を使った「施設園芸」が発達しています。
<品種改良>
○農業の歴史は品種改良の歴史
・農業に欠かせないのが品種改良(育種)です。人は農耕・牧畜を始めた頃から野生植物を選択していました。
○品種改良の目的
・品種改良の目的は幾つかあります。1つ目は環境への適応です。寒暖への適応、塩分への適応、栽培時期の変更、病気・害虫への耐性などです。2つ目は経済的特性です。収穫量の増加、味・香り・食感・成分の改良などです。3つ目は栽培・管理の効率化です。例えば籾のトゲ(芒)は動物に付着させるためですが、収穫の邪魔になるので、芒をなくしました。
○品種改良の種類
・品種改良の方法は5つあります。1つ目は「交配育種法」です。まず異なる品種を交配させます。目的の系統が作られると、今度はその系統同士で交配させます。この品種改良は約10年が必要です。2つ目は、交配育種法を発展させた「マーカー支援選択」(MAS)です。目的の系統の確認にDNA鑑定を利用します。
・3つ目は「突然変異育種法」です。化学物質/放射線などで変異を起こさせます。4つ目は「倍数性育種法」です。例えばブドウでは染色体を増やし、実を大きくしたり、種なしにします(※考えられない方法だな)。5つ目は「遺伝子組み換え法」です。人工的に遺伝子を組み換えます。※本項は重要と思うが、詳細な解説はない。
<種子の開発>
○種子には固定種と交配種がある
・作物の種子は農家が作っている(自家採種、種苗交換)と思われるかもしれませんが、多くは種苗店/JAから購入しています。その種子は「固定種」と「交配種」の2つに分かれます。固定種とは、ある土地で繰り返し生育したものです。その土地に適応し、「在来種」とも云います。大根だと、練馬大根/亀戸大根/聖護院大根などがあります。※それなら交配種でも土地に根付けば固定種になるのかな。犬の純血種/雑種の様な分け方の方が納得できる。
・一方、一般的に売られているのは交配種(F1品種)です。異なる種を掛け合わせた雑種1代は、両親の性質の優性な性質が発現します。そのため丈夫で品質も良くなり、これを「雑種強勢」と云います(※必ず優性になると思えないが。これは人にも云えるのかな)。しかしこの性質は雑種1代に限られます。そのため種苗会社が毎年、雑種1代を作り続けています。
○利便性からF1品種が拡大
・昭和40年代(※1970年前後)、F1品種が主流になります。「大きさ・形が一定で流通に便利」「雑種強勢が働き、栽培時間が短縮し、収穫量が増える」「種子の保管が不要」「品種の転換が容易」などが理由で、大量生産・大量消費に適応しました。
<生産を支える肥料> ※肥料については知りたかった。
○肥料は必要?
・自然界では動植物が微生物により分解され、肥沃な土壌になります。しかし現代農業では作物が持ち出されるため、肥料による養分補給が必要になります。また品種改良された植物は、多くの養分を必要とします。
○作物に必須の元素
・作物が土から吸収する養分は有機物が分解されたもので、「無機栄養素」と呼ばれます(※これは「有機物は分解され、無機物だけを根から吸収する。炭素は空気中の二酸化炭素から吸収する」の意味かな)。自然界には90元素があり、作物には17元素が必要です(必須元素)。水素(H)/酸素(O)/炭素(C)は根や葉から吸収されます。それ以外の14元素を肥料として補給する必要があります。
・必須元素で特に重要なのが、窒素(N)/リン酸(P₂O₅)/酸化カリウム(カリ、K₂O)の「三要素」です(※窒素・リン酸・カリは聞いていたが、それだな。窒素は空気中から吸収できないか)。窒素は茎・葉の生長に必要で、「葉肥」と呼ばれます。リンは花・実に必要で、「花肥」「実肥」と呼ばれます。カリは根の生長に必要で、「根肥」と呼ばれます。※これは面白いな。部位で必要な元素が異なるのか。
・三要素の次に重要なのが、カルシウム(Ca)/マグネシウム(Mg)/硫黄(S)です。※各元素の働きが記されているが省略。植物も細胞から成るので、人と近いかも。
○肥料の分類
・肥料は一般に販売されている「普通肥料」と、堆肥・米糠などの「特殊肥料」に分けられます(※堆肥・米糠は売られていないのか)。さらに普通肥料を分類する方法が3つあります。1つ目は原料による分類です。魚粕・鶏糞・油粕など動植物に由来するものを「有機質肥料」と云い、鉱石などから化学的に作ったものを「無機質肥料」と云います。※後者に炭素は含まれないのかな。それとも炭素とは無関係なのか。これが有機農業/無機農業の区分けかな。化学的に作った無機質肥料が必ずしも悪いとは思えないが。
・2つ目は成分の数や種類による分類です。三要素を1種類しか含まないものを「単肥」、複数含むものを「複合肥料」と呼びます。
・3つ目は、窒素の効き方による分類です(※窒素を含む肥料だけが対象だな)。液体で速効性のある「速効性肥料」、効果が長く続く「緩効性肥料」、有機肥料のように効き目が遅い「遅効性肥料」に分けられます。
<現代農業における農薬>
○農薬の使用
・農業には、気候の変動、病害虫の発生、雑草の繁茂、土壌の変化などが付き物です。特に高リスクなのが病害虫で、過去に世界で多くの飢饉を起こしています(※詳細省略)。そのため現代農業では農薬が使われます。
○農薬の分類
・農薬は農薬取締法で、「農作物を害する菌・線虫・ダニ・昆虫・動植物・ウイルスの防除に用いられる殺菌剤・殺虫剤・薬剤など」とされています(※簡略化)。そして用途により10種類に分類されます(※表あり。天敵も農薬に含まれる)。また原料から、人工的に作られた「化学農薬」、生き物による「生物農薬」、食酢・重曹など、かねてから農薬として使用されていた「特定農薬」の3つに分類されます。
○生産性を高めるが、社会問題にも
・様々な農薬の登場で、10a当たり収穫量は50年間(1955~2005年)で、米1.5倍/キャベツ2倍に増えます。また10a当たり作業時間も50年間(1949~99年)で、50時間から2時間に減っています。※劇的だな。
・一方農薬は、人・農作物・土壌に毒性があり、社会問題になります。米国の科学者レイチェル・カーソンが、化学物質は環境を汚染すると警鐘を鳴らします。当時はDDT/BHCが使用されていました。これらは自然界に残留し、濃縮される事から、製造禁止になります(※これらは殺虫剤かな。ベトナム戦争で使ったのは枯葉剤かな)。日本でも60年代を境に、農薬に高い安全性を求めています。
○正しく使えば
・農薬は作物などに残留します(残留農薬)。そのため作物毎に残留基準があり、農薬の使用方法(時期、濃度、回数など)を守る必要があります。残留基準は厳しく、また作物を洗ったり、皮をむいたりするので、摂取量は少なくなります。
※書かれていないが、有機農業/無機農業の区別は、肥料の違いではなく、農薬の違いかな。
<農薬以外の病害虫の防除法>
○田畑の作物は、病害虫の被害を受けやすい
・野生の植物は、病害虫から防御する力を持っています。一方田畑の作物は、病害虫の被害を受けます(※自然はバランスが取れているかな)。原因の1つが「連作」です。連作すると肥料や作物の成分が土中に残り、病害虫が育ちやすくなります。2つ目の原因が「品種改良」です。これにより植物が持っていた防御力が失われます。これらを解決するために現代農業では農薬を使用しますが、耐性を持った病害虫が生まれます。そのため農薬に頼らず、本来の防御力を活用する防除法が注目されています。
○病害虫の発生と防除法
・病害虫の発生には3つの要因があります。「主因」は病害虫の存在です。次の「素因」は、作物の病害虫に侵されやすい性質です。最後の「誘因」は、病害虫が繁殖しやすい環境です。各要因に対し、対策があります。
・主因に対しては、3つの対策があります。1つ目は「田畑に病害虫を持ち込まない」、2つ目は「農薬による殺虫・殺菌」、3つ目は「非農薬的防除(生物的防除、行動制御、物理的防除)」です(※農薬の分類に天敵もあった)。素因に対する対策は、植物本来の防御力を高めた耐病品種・抵抗性品種の開発です。これは「耕種的防除」と呼ばれる方法です(※耕種的防除は別表で詳述)。誘因に対しては、田畑で複数の作物を栽培し、生物相を豊かにし、病害虫を抑える方法があります。
<機械化>
○農業機械
・農業で使われる機械が農業機械で、トラクター/コンバイン/田植機などがあります。一方、鍬/鎌/鋤などは農具です。1950年頃までは、人や牛馬の力で農作業が行われました。その後機械化が進み、昭和30年代は耕運機/防除機、昭和40年代は田植機/コンバイン/乗用トラクターなどが普及します。
・機械化により労働生産性が高まります。稲作では、1965年10a当たりの労働時間は141時間でしたが、2004年は31時間に短縮されます。また野菜作/果樹作/畜産でも機械化により、生産性が高まっています。
○農業機械は6種類
・農業機械は6種類に分類されます(※用途別だな)。①耕運整地作業用-乗用や歩行型のトラクター(※トラクターは牽引車だな)。②栽培管理作業用-肥料・除草剤の散布に使用。③収穫作業機-稲作・畑作・牧草などの収穫に使用。④乾燥・調製・加工作業用。⑤畜産作業機-飼料調製用/給餌・給水用/畜舎清掃用/乳牛・鶏卵用など。⑥その他農作業用-運搬用/穴掘機/草刈機など。
○機械化の進展と課題
・課題には、野菜作/果樹作の機械化、中山間地域での機械化などがあります。また農業機械の購入費・維持費の問題もあります。共同所有・共同利用には問題が多く、個別所有・個人利用が大勢です。
<コラム 慣行農業と有機農業>
・農薬・肥料などを使う一般的な農業が「慣行農業」です。一方2006年「有機農業推進法」が制定され、化学的に合成された農薬・肥料を使わず、遺伝子組み換え技術も使わない農業が「有機農業」とされます。
○有機農産物の認証制度
・1970年代「日本有機農業協会」の活動により、有機農業が知られるようになります。これは農薬・化学肥料に問題意識を持った生産者と消費者から広がりました。当初は規定がなかったのですが、1999年「有機日本農林規格」(有機JAS規格)による検査認証制度が導入されます。
○有機農業は人の繋がりを育む
・有機農業は手間が掛かり、収穫も減少します。しかし有機農産物のニーズは根強くあります。「地域で支える農業」(CSA)の考え方から、生産者と消費者の繋がりが強まっています。有機には有機栽培の意味だけでなく、「有機的な人間関係」の意味もあるようです。
第2章 農業を支える人・組織・制度
<農家とは>
○日本の農業は家族を基礎にする
・日本の農業は「農家」(世帯)を単位として営まれます。農家は消費生活単位だけでなく、生産・経営単位になっています。
○農家の分類
・高度経済成長期、自給用の米・野菜を作るだけの兼業農家が増えました。そこで国は、農産物販売額が年間50万円以上、あるいは面積が30a以上の農家を「販売農家」、それ以下を「自給的農家」としました。さらに販売農家を主業農家/準主業農家/副業的農家や専業農家/第1種兼業農家/第2種兼業農家に区分します(※表あり)。また耕地/耕作放棄地を5a以上所有する世帯を「土地持ち非農家」とし、農家として認識しています。
<農業生産法人、集落営農組織>
○家族経営以外の経営スタイル
・1970年代から農家の土地を借りて大規模経営する農業生産法人が登場します。2005年農業の実態を把握するため、統計の単位を農家から「農業経営体」に替えます。農業経営体は、①耕作面積が30a以上、②栽培面積や家畜の頭数が一定規模以上、③農作業を受託の何れかに該当するものです。
・農業経営体には、世帯で事業する「個人経営体」と法人化した「法人経営体」があります。農業経営体の総数は156万で、その内世帯で事業する「家族経営体」が150万(98%)です。※個人経営体と家族経営体の違いは何だろう。
○農業生産法人
・農業生産法人には、特例有限会社/株式会社/農事組合法人などがあります。1万2800法人あり、年々増加しています。融資を受けやすい/後継者を募れるなどのメリットがあります。業種別では、米麦生産法人36%/畜産20%/野菜17%/果樹8%となっています。※複合もあるだろうな。
○地域を支える集落営農組織
・2007年「品目横断的経営安定対策」が実施されますが、対象が4ha以上でした。そのため農家が集まって「集落営農組織」が作られます。2012年集落営農組織が1万4700あります。
・集落営農組織には、①稲作は個々で行うが、転作地での大豆・麦の生産は共同で行う、②稲作でも機械を共同利用する、③稲作・転作は中心的な担い手に委託し、生産から販売までを共同で行うなどのスタイルがあります。この様に所得向上より集落での農業維持を目的としていましたが、近年は経営多角化により所得向上にも取り組んでいます。
<高齢化と就業人口の減少>
○農業就業人口
・農業就業人口は1960年1454万人から、2012年251万人に減少しました(※1/6の激減だな)。経済が発展し、労働力が農村から都市に流出しました。また高齢化も進んでおり、2010年農業就業人口で65歳以上が6割を超えました。※対策とかの話はないのか。
<農業所得と労働時間>
○農業所得
・「販売農家」の平均所得は463万円で、その内農業所得は120万円です。「主業農家」(農業所得が5割以上)だけだと、平均所得590万円/農業所得465万円です。※兼業農家は農家と云えない感じだな。
○営農タイプ別の農業所得
・営農タイプは、水田作(水田で米・麦・豆を生産)、畑作(露地畑で麦・豆・ジャガイモ・タバコ・サトウキビ・サツマイモなどを生産)、露地野菜作(露地畑で一般野菜を生産)、施設野菜作(ハウスで野菜を生産)、果樹作、花卉作、畜産(養豚、酪農、肉用牛、採卵養鶏、ブロイラー養鶏)などに分かれます。
・営農タイプ別の農業所得は、水田作50.5万円/畑作230.8万円/露地野菜作176.7万円/施設野菜作412.6万円/果樹作170.9万円/養豚656万円/酪農629万円/肉用牛384万円です。※米より畑なんだ。これは驚いた。
○所得と労働時間
・この所得を得るために費やした労働時間は、水田作837時間/畑作2632時間/露地野菜作3031時間/施設野菜作5244時間/果樹作3033時間/養豚5620時間/酪農6124時間です。10a当たりの労働時間は、水田作42時間/畑作46時間/露地野菜作167時間/施設野菜作216時間/果樹作188時間です。畜産/施設野菜作は所得も労働時間も増え、専業農家が中心です。水田作は所得も労働時間も少なく、兼業が多くなります。一方で大規模な農業生産法人もあり、二分化しています。
<農地>
○厳しく規制される農地
・農地は私有財産なのに食料を供給するため、売買・貸借が「農地法」で規制されています。1952年農地法は農地改革を目的に制定されます。そのため耕作者が農地を所有する「耕作者主義」を徹底しています。そのため農家が所有できる農地面積には上限があり、非農家は農地を所有・貸借できません。
○規制の緩和
・高度経済成長期になると、農業部門と工業部門の所得格差の是正が目指されます。1962年農地法が緩和され、大規模耕作の道が開かれます。2009年農地法が抜本的に改正されます。所有権と利用権が分離され、農業の担い手に農地を集積できるようになりました。ただし農地の取得には市町村の農業委員会の許可が必要です。
<農林水産省> ※以下農水省に統一。
○食の安定・安全、農村復興など
・農水省の任務は、「農林水産省設置法」に「食料の安定供給の確保、農林水産業の発展、農林漁業者の福祉の増進・・」(※大幅に省略)と規定されています。その任務は幅広く、国民生活に直結します。
○農水省の変遷・形態
・1881年農商務省が設置され、農水省は130年の歴史があります。1945年農林省になり、1978年今の農林水産省になっています。
・内部部局に大臣官房/消費・安全局/食料産業局/生産局/経営局/農村振興局などがあり、外局に林野庁/水産庁があります(※組織図を表記)。また東北/関東/北陸/東海/近畿/中国四国/九州の地方農政局と北海道農政事務所があります。
<農業協同組合>
○協同組合
・日本には農業協同組合(JA、農協)があります。「協同組合」は、資本主義において消費者・自営業者の対抗手段として成立しました。19世紀半ば英国でのロッチデール組合が先駆けです。ドイツでも高利貸しに対抗するため、商工業者・農家が信用組合を成立させます。1995年国際協同組合同盟(ICA)が、協同組合原則で協同組合を定義しています(※省略)。弱い立場の人が資本家に支配されないために協力する組織が協同組合です(※労働組合と似ているな)。この特徴は、事業への出資/事業の利用/事業運営への参加です。※利用しているのに、知らない事が多いな。
○協同組合と株式会社の違い
・協同組合も株式会社も事業運営体です。しかし株式会社は株主に利益を配当するのが目的ですが、協同組合は組合員のニーズを満たすのが目的です。株式会社の票決は株数に応じますが、協同組合では組合員1人1票です。これらの違いは、「株式会社はお金の結合だが、協同組合は人の結合」だからです。また株式会社はどんな事業でも行えますが、JAは「農業協同組合法」(農協法)、生活協同組合は「消費者生活協同組合法」(生協法)で限定されています。
○JAの正組合員/準組合員
・JAは正組合員/準組合員で構成されます。正組合員は農業者が条件です。一定の出資金を払うと準組合員になれ、JAの事業を利用できます。しかし総会での議決権/役員の選挙権などはありません。正組合員472万人/準組合員497万人で、正組合員は減り、準組合員が増える傾向にあります。
○JAが行える事業
・JAが行える事業は農協法で規定されており、組合員の医療・福祉・共済・信用・経済事業が行えます(総合事業性)。海外の農協は作物別に別れ、信用事業はしませんが、日本は農家(組合員)に対し様々な事業を行います。
・組織としては、総合事業を展開する市町村・地域段階の「統合JA」が703組織あります。さらに都道府県段階・全国段階に事業別の「連合会」が置かれています。※組織図あり。
<農地改革>
○戦後は食料確保が最優先
・終戦直後は食糧難からの脱出が課題でした。1946年には食糧メーデーも起きます。そんな中、GHQ(連合国軍総司令部)は農地改革を進めます。
○小作制度の終わり
・当時日本は小作制度でした。農家の半数が小作農で、彼らは収穫の半分を地主に納めていました。そのため小作争議も絶えませんでした。
・農地改革で「農地を耕す者が農地を所有する」(耕作者主義)が徹底されます。政府は不在地主の農地を強制的に買収します。在村地主は農地は1ha(北海道は4ha)までに制限されます。自作農の農地も3haまでに制限されます。※農地を3ha以上所有する農家はいなくなったのか。
○農村の民主化、生産意欲の向上
・農地改革により、1947年小作農は農家全体の1割に減ります。1952年自作農が小作農に転落するのを防ぐため、「農地法」も制定されます。農地改革により自作農の生産意欲は高まり、食料事情は一気に改善します。しかし小規模の自作農が大量に生まれ、農業の効率化・大規模化が阻害されます。
<農業基本法>
○農業と工業の所得格差
・1950年朝鮮戦争が勃発し、日本経済は急速に回復します。1960年池田内閣は所得倍増計画を掲げ、1968年日本は世界第2位の経済大国になります。農業従事者と都市労働者の所得格差が広がり、1961年「農業基本法」を制定します。これは、①農業生産の選択的拡大、②構造改善による生産性向上を2本柱とします。
○2本柱の内容
・1つ目の政策「農業生産の選択的拡大」は、米麦から畜産・野菜・果樹への転換を促すものです。「畜産3倍、果樹2倍」のスローガンも生まれました。一方、麦・大豆などは輸入で賄う政策です。この政策は一定の成果を出しました。2つ目の政策「構造改善による生産性向上」は、農地を集約し、経営規模を拡大する政策です。「農地法」を改正し、農地貸借の規制を緩和しました。
○農村から都市への労働力移動
・農地の集約は、離農を促します。1960年代、都市での求人倍率は3倍を超え、農村の労働力が都市部に吸収されます(※金の卵/出稼ぎの解説がある)。1970年代になると農作業の機械化が進みます。男性が都市で働き、それ以外の家族が農業を営む「3ちゃん農業」が増加します。
<米政策の転換>
○米の供給が需要を上回る
・1970年代、米の生産量が増え、消費量が減り、供給が需要を上回ります。米は「食糧管理法」(1942年)により、政府が全量を管理していました。政府が米価を決め買い取り、認可した卸業者・米屋が販売しました。そして政府が過剰米を管理する事になります。1970年「生産調整」に踏み切ります(※生産調整=減反?)。この年、古米が720万tあり、これは1年分に相当します。※昔「3K」(米、国鉄、健康保険)があったな。
○米の生産調整
・生産調整は麦・大豆などへの転作で行われました。政府が都道府県毎に面積を決め、最終的に各農家に割り当てられました。1969年には「自主流通米制度」も創設されます。農協などが良質米を買い取り、卸業者に販売する民間流通が始まります。※今この割合はどうなんだろう。
○主食用は水田の6割
・米の消費量は減り続けます。米の1人当たり消費量は1962年がピークで118Kgでしたが、2011年には58Kgに半減します。水田で主食用の米を生産しているのは6割に過ぎません。残り4割は、麦・大豆・飼料作物や新規需要米(米粉用、飼料用)を栽培しています。
<グローバル化と新基本法>
○貿易摩擦
・1955年日本はGATTに加盟し、自動車/家電製品の輸出を拡大します。1980年代米国との間に貿易摩擦が生じ、欧米諸国は日本に、農産物の市場開放を求めます。日本はGATT加盟後、農産物の輸入制限を撤廃し、1980年では22品目(米、乳製品、柑橘類など)に減っていました。その後も輸入制限を撤廃し、1992年には12品目になります。
○新基本法の制定
・農産物の市場開放の声は、国内でも強まっていました。円高が進んだ事で、内外の価格差が拡大していたのです。1986年農政審議会は、「市場開放に積極的に取り組む方針」を打ち出します。
・1999年「食料・農業・農村基本法」(新基本法)が制定されます。これはグローバル化に対応し、国民全体の視点から「食料生産の確保」と「農業の多面的機能の発揮(?)」が理念になります。具体的には、①食料の安定供給、②農業の多面的機能の発揮、③農業の持続的な発展、④農村振興です。
<新基本法と直接支払制度>
○食料・農業・農村基本計画
・新基本法の制定により、「食料・農業・農村基本計画」が5年毎に作られます。2000年の基本計画で、①食料自給率の目標設定、②直接支払制度の導入が登場します。2000年食料自給率(カロリーベース)は40%に低下しており、2010年に45%に上げる事が目標になります。しかしその後も40%前後で停滞しています。
○直接支払制度
・「直接支払制度」は、農家に直接交付金を支払う制度です。それまでの農業保護政策は輸入制限や価格を下支えする価格政策でしたが、「世界貿易機関」(WTO)での合意により、それらの政策は廃止に向かいます。これにより直接支払制度の導入が、国際的な潮流になります。
・直接支払制度は、①価格支持政策の転換による支払、②条件が不利な中山間地域への支払、③環境保全型農業への助成に分かれます。中山間地域での農業は非効率のため耕作放棄地が拡大しています。しかし水源涵養機能・洪水防止機能などがあるため、農業を維持する必要があります。これが直接支払制度の②です。
・2007年には「品目横断的経営安定対策」「農地・水・環境保全向上対策」が加わり、2009年には品目横断的経営安定対策に代わり「戸別所得補償制度」が加わります。
-品目横断的経営安定対策
・それまで交付金は品目毎に支払っていましたが、農業の「担い手」が対象になります。また①生産コストが海外と比べ高い、②豊作・不作などによる価格変動への対応が柱です。当初は対象が認定農業者(農地面積4ha以上)/集落営農組織(農地面積20ha以上)でしたが、農地面積が緩和されます。
-農地・水・環境保全向上対策
・農地・水・環境保全向上対策は、用水路/水田などの農業用施設の保全に対する交付金です。
-戸別所得補償制度
・2009年民主党政権により、品目横断的経営安定対策が戸別所得補償制度に代わります。前者は農地面積が要件でしたが、後者でそれがなくなります。2010年にモデル事業が始まります。生産調整する販売農家10a当たり1.5万円が交付されます。同時に麦・大豆・米粉用米・飼料用米などの転作に対し交付金が支払われます。自民党政権に替わり、「経営所得安定対策」に名称が変わります。
<食品表示>
○食品表示に関する制度
・食品の品質表示に関する法律には、「JAS法」「食品衛生法」「健康増進法」などがあります。JAS法には、全ての飲食品に義務付けられている「品質表示基準制度」と、特別な生産・製造方法に関する「JAS規格制度」があります。
・「品質表示基準制度」で、生鮮食品では名称/原産地、加工食品では名称/原材料/内容量/賞味・消費期限/保存方法/製造者の表示が義務付けられています。「JAS規格制度」には、「特定JAS規格」「有機JAS規格」「生産情報公表JAS規格」などがあります。
○偽装表示事件と品質表示基準の見直し
・2000年以降、偽装表示事件が相次ぎ、表示規制や監視体制が強化されます。2002年JAS法が改正され、罰則が強化されます(※詳細省略)。また偽装表示を消費者から受け付けるホットライン「食品表示110番」と、小売店舗の表示を監視する「食品表示Gメン」が設置されます。2008年監視をさらに強化した「表示・規格特別調査官」が設置されます。
○加工食品の原産地表示
・2001年加工食品も原産地を表示するように変わります。現在は22加工食品群と漬物/野菜冷凍食品/ウナギの蒲焼/かつお削り節の4品目の表示が義務付けられています。2009年消費者庁が発足し、JAS法/食品衛生法/健康増進法による食品表示の一元化が行われています。
<生産・流通工程>
○農業生産の履歴管理
・農業生産における農薬・肥料などの栽培履歴を管理する動きが広がっています。その1つが「農業生産工程管理」(GAP)です。これは生産者自身が点検項目を決め、それを記録し、安全性/環境保全/経営改善に活かすシステムです。2011年時点、2194産地が実施しています。
○食品の移動ルートの把握
・「トレーサビリティ」とは、生産・加工・流通・販売の全工程で全製品の流通経路を追跡できるシステムです。これを2002年EU、翌年米国が義務付けます。この背景にBSE(牛海綿状脳症)問題があります。日本では、2003年「牛肉トレーサビリティ法」、2009年「米トレーサビリティ法」が施行されています。
<コラム 機能性農産物>
○農産物の機能性に着目したプロジェクト
・食品には、栄養機能/感覚機能/生体調整機能があります。2013年農水省は生体調整機能に着目し、生活習慣病を予防する農産物・加工食品を開発する「機能性を持つ農林水産物・食品開発プロジェクト」をスタートさせます。
○農業者への波及効果
・「消化が遅く、血糖値が上がり難い米」「中性脂肪を低下させる大豆」「ポリフェノールを含む紫サツマイモ」「抗酸化作用があるリコピンを多く含むトマト」などが既に実用化されています。
・「機能性農産物」により健康が維持・増進されると期待されています。一方過信や過大評価などの「フードファディズム」に繋がるとの懸念もあります。そのため同省は科学的根拠を重視しています。また農産物の高付加価値化や新規需要の開拓に繋がると期待されています。
第3章 稲作経営
<米の起源と生産状況>
○主流はインディカ米
・米の原産地はアジアと西アフリカです。アジア稲は、日本などの短粒種「ジャポニカ」、長粒種「インディカ」、インドネシアなどの大粒種「ジャバニカ」に分かれます。世界の大半はインディカ米で、極東アジアでジャポニカ米が栽培されている。※米と稲の表記が混在する。植物として稲で、食物として米かな。
○稲の栽培起源
・米/小麦/トウモロコシが「世界3大穀物」です。しかし稲の栽培起源には諸説あります。アッサム(インド東部)から中国雲南省にかけての山岳地帯が有力です。一方長江の中下流域の説もあります。日本には縄文後期(3000年前)に伝わり、そのルートには、①山東半島→朝鮮半島、②長江流域→東シナ海、③南方(※南西諸島かな)の説がある。
○米の9割はアジア
・米の生産量は6.7億tで、穀物生産量の3割を占めます。国別では、中国/インド/インドネシア/バングラデシュ/ベトナムの順で、日本は11位です。モンスーン地帯のアジアが9割を占めます。米は炭水化物だけでなくタンパク質/脂質も含み、アジア人の主食になっています。
<国内の生産状況と消費動向>
○面積も消費も減少
・水稲の作付面積は158万haです。1970年から生産調整を行っており、作付面積は半分になっています。しかし機械化/品種改良により収量(反収)は増えました。米の1人当たり消費量は1962年がピークで118Kgでしたが、2011年は58Kgに半減しています。
<収益性>
○専業には一定規模が必要
・米作りだけで食べていくには10haが必要です。10aで500Kgの米が取れます。1俵(60Kg)の出荷価格は1.6万円で、10a当たりの売上は13万円になります。これから費用を差し引くと、約5万円の所得になります(10haなら500万円の所得)。日本の農家の圧倒的多数は第2種兼業農家で、農業外収入の方が多くなっています。
○コストの削減や付加価値を高める栽培
・40年以上、減反(生産調整)が行われてきました。機械化・省力化で小規模の農業を続け、定年後に農業を引き継ぐ農家は少なくありません。例えば種籾を直接田んぼに蒔く「直播栽培」や、減農薬・減化学肥料の「特別栽培」や、除草にアイガモを利用する「アイガモ農法」などが行われています。
<米作の流れ>
○稲の生長は2段階
・稲は体が作られる①栄養生長期と、子孫を残す②生殖生長期があります。
-栄養生長期
・種籾が自重の20%の水を吸うと発芽します。この時、100~120℃の積算温度(平均気温の積算。※15℃で1週間)が必要です。葉が付いて光合成するまでは、籾のデンプン/タンパク質が栄養になります。苗が根付くと、茎が次々増えます(分けつ期)。
-生殖生長期
・分けつし、茎が多くなると幼穂を形成します。幼穂が10Cm程になると、出穂が近くなります(穂ばらみ期。※図がないと理解できない)。止葉の間から穂を出し、花を咲かせ、自家受粉し米粒を実らせます(登熟期)。
○苗作りから出荷まで
・米作りは、①苗作り、②耕起・代かき、③田植え、④管理作業、⑤収穫の順で行われます。
-苗作り
・育苗は重要です。種籾を温水に浸します。芽が少し出ると蒔きます。発芽後は肥料・水を調整します。
-耕起・代かき
・田んぼを10~15Cm耕起します。その後田んぼを平らにします(代かき)。
-田植え
・苗は葉の枚数で、稚苗・中苗・成苗に分かれます。稚苗・中苗はマット苗を植える田植機、成苗はポット苗を植える田植機で植えます。
-管理作業
・田植え後は、水管理や農薬散布を行います。
-収穫
・稲刈りは、稲刈り・脱穀を一度に行うコンバイン・ハーベスターを使います。収穫した籾を乾燥機で乾燥させ、乾燥後に籾摺機で殻を取り、玄米にします。※殻は脱穀ではなく、籾摺りで取るのか。
<米の種類>
・脱穀した籾から硬い籾殻を除くと「玄米」になります(※脱穀とは籾殻を除く事ではなく、茎を除く事なんだ)。玄米から糠を除くと「白米」になります(精米)。玄米は白米に比べビタミンEが12倍、食物繊維が6倍ありますが、白米と同じように炊けないため圧力釜を使う必要があります。
・玄米と白米の中間が「分つき米」で、糠・胚芽を30%取り除くと「三分づき米」です。他に「五分づき米」「七分づき米」などがあります。糠を取り除き、胚芽を80%以上残したのが「胚芽米」です。
・玄米をわずかに発芽させた「胚芽玄米」が注目されています。GABA(アミノ酸の一種)を白米の10倍、玄米の3倍含みます。GABAは神経伝達物質で脳の血流を促進するなどの作用があります。
○米食品
・加工技術が進歩し、様々な米食品があります。普通の白米は糠が残っているので洗う必要がありますが、「無洗米」は洗う必要がありません。高圧で加熱殺菌したのが「レトルト米飯」で、白飯/赤飯/炊き込みご飯/お粥があります。白米を炊飯し、急速乾燥させたのが「アルファ米」で、備蓄米として注目されています。他に「無菌包装米飯」「冷凍米飯」などがあります。
<銘柄米の開発>
○主流はコシヒカリ
・1956年「コシヒカリ」が品種登録され、1979年以降は作付面積1位です(※結構古いんだ)。「コシヒカリ」の祖先は、明治時代に育成された「亀の尾」です(※系統図あり)。「うるち米」の作付面積は、「コシヒカリ」37%、「ヒノヒカリ」10%、「ひとめぼれ」9%、「あきたこまち」8%、「キヌヒカリ」3%となっています(※表あり)。20位までの大半が、「コシヒカリ一族」です。
○品種改良
・1903年(明治36年)米の品種改良が始まり、1921年(大正10年)交配育種法による品種が初めて誕生します。各都道府県の農業試験場などで改良され、700種が生まれ、300種が栽培されています。各地域で気候が異なり、収量性・耐倒伏性・食味などが追求されています。※米も加工品も銘柄米も多種類ある。
<変わる米産地>
○北海道米
・北海道は作付面積/収穫量で新潟県と争っています。北海道では、うるち米・もち米・酒米が20種類ほど栽培されています(※品種は省略)。日本穀物検定協会が主催する「米の食味ランキング」で、「ゆめぴりか」「ななつぼし」が3年連続で特Aに選ばれています。また「魚沼産コシヒカリ」は1俵2.4万円ですが、北海道米は安く、「きらら397」「ななつぼし」は1.5万円です。
○コシヒカリに匹敵する新品種
・北海道米はまずい米の代名詞でしたが、北海道立中央農業試験場により新品種が開発されています。北海道米がまずい理由は、アミロース/タンパクの含有量が多かったためです。そのため低アミロース・低タンパクの「ゆきひかり」「きらら397」「ほしのゆめ」「ななつぼし」「ゆめぴりか」が開発されました。
○九州産の銘柄米
・九州産の銘柄米も注目されています。「米の食味ランキング」(※評価方法の簡単な説明あり)の食味官能試験で「森のくまさん」(熊本)が最高得点を取りました。「ヒノヒカリ」(熊本)「さがびより」(佐賀)も高得点を取りました。
○高温でも美味しく
・北海道・東北とは逆に、九州では高温でも美味しい米(高温耐性米)の開発が行われてきました。九州では苗の遅植え/水のかけ流しなどで高温を避けてきましたが、育種にも取り組んできました。「くまさんの力」(熊本)「元気つくし」(福岡)「さがびより」(佐賀)「おてんとそだち」(宮崎)などが開発されています。※「米の食味ランキング」の特A29品種の一覧表あり。
<ニーズに合わせた品種の開発>
○米の粘り
・うるち米・もち米と異なる形質・機能を持った品種を「新形質米」と云い、消費者ニーズに合わせ開発されています。※これも多種類ある。
-低アミロース米
・米のデンプンは、アミロースとアミロペクチンに分類されます。アミロースが多いと炊くとパサパサになり、少ないと粘りが強くなります。アミロースの含有量は、うるち米は16~23%、もち米は0%、その中間が低アミロース米です。おかき/おこわなどの原料になります。品種に「ミルキークイーン」があり、広く栽培されています。
-高アミロース米
・アミロースが27%を超えるのが高アミロース米です。炊くとポロポロになり、カレー/ピラフ/米粉麺などに向きます。「夢十字」「越のかおり」「北瑞穂」などの品種があります。デンプンが難消化性のため、血糖値が上がり難くなります。
○栄養・健康に配慮した米
-低タンパク米
・タンパク質の摂取制限がある腎臓病患者などに向いた米です。品種に「LGCソフト」があります。
-巨大胚芽米
・胚芽が大きくGABAを多く含み、胚芽玄米/胚芽米に適します。「はいみのり」を改良した「はいいぶき」、「ゆきのめぐみ」「恋あずさ」などの品種があります。
-有色素米
・玄米の表面が黒色・赤色になります。ビタミン/鉄分/カルシウムなどを多く含みます。「おくのむらさき」「朝紫」「紅衣」「夕やけもち」などの品種があります。
<酒米と酒造り>
○酒米
・日本酒に使われる米を「酒米」と云います。デンプン質を多く含む「心白」が大きいと、良い酒米です。「山田錦」は「酒米の王者」と呼ばれます。他に「雄町」「五百万石」「美山錦」「五反錦」などがあります。
○酒造り
・酒造りには米・水以外に、醸造技術/酵母の選択/気候条件への対応などが重要です。酒造りは以下の手順で行われます。まずは酒米を丁寧に精米します。それに水・酵母・麹を加え、タンク内で発酵させます(仕込み)。こうして作られるのが「もろみ」です。これから粕などを除き(※酒粕かな)、ろ過・殺菌し、さらに6ヵ月間熟成させます。
○日本酒の分類
・純米酒・吟醸酒などの高級酒は「特定名称酒」と呼ばれます。これは規定を満たす日本酒で、それ以外は「普通酒」と呼ばれます。特定名称酒は「精米歩合」と「使用原料」によって8種類に分類されます(※一覧あり)。使用原料が米・米麹だけであれば純米酒、醸造アルコールが含まれていれば醸造酒になります。※特定名称酒だけで8種類もある。
<米の可能性>
○パン・麺の原料になる米粉
・2008年穀物価格が高騰し、米粉が注目されます。米粉(殻粉)は餅・団子・和菓子に使われていましたが、より細かに製粉できるようになり、パン・麺にも使われるようになりました。また麺に適した「越のかおり」、パンに適した「ミズホチカラ」などが開発されています。
○飼料用米
・近年、飼料用米の作付けが増えています。2004年44haから、2012年3.5万haに増えました。※異常な伸びだな。というより、かつては作られていなかった。
・濃厚飼料の自給率は10%です(※飼料には濃厚飼料と粗飼料がある。第5章-畜産で解説)。飼料用米はトウモロコシの代わりに、鶏・豚・牛の飼料になります。また稲は牛の稲発酵粗飼料になります。飼料用米の拡大で自給率を向上できます。飼料用米には「モミロマン」「べこごのみ」「きたあおば」「ミズホチカラ」などがあります。
○燃料用の米
・米からエタノールを製造する取り組みも行われており、JA全農が新潟県で行っています。年2200tのバイオ原料米から1000Klのエタノールを製造するのが目標です。それをガソリンに3%の割合で混合します。しかしバイオ原料米の価格が安いため、農家への支援が欠かせません(※石油が高騰しないとダメか)。また車のエタノールしか製造できません。
<コラム 生きものマーク>
○水田の多様な生物
・近年「生物多様性」が注目されています。2001~06年農水省/環境省が水田を調査し、淡水魚27科124種/カエル4科19種を確認しました(※淡水魚とカエルだけ)。これは日本にいる淡水魚の41%、カエルは45%でした。さらに淡水魚の24種は希少種で、希少種の1/4に当たります。
○生態系の保全
・現在、農林水産業で生物と共生する環境を作る活動が行われています。これは「生きものマーク」と呼ばれます(※初耳)。有名なものでは、琵琶湖の魚が産卵した水田の米を「琵琶湖のゆりかご米」、トキのためにビオトープを設置したり冬季灌水した水田の米を「朱鷺と暮らす郷」、コウノトリのために魚道・水路を設置した水田の米を「コウノトリ育む米」などがあります。
・「生きものマーク」に特別な条件はありませんが、多くが無農薬・減農薬で、生物が棲み易くなっています。栽培コストが高くなり、価格は高くなりますが、賛同し購入する消費者がいます。
第4章 野菜・果樹・花卉
<野菜の生産状況と消費動向>
○野菜の生産量は減少
・野菜の作付面積は43.2ha、生産量は1174万tです。ピークは1992年で、63.1万ha/1801万tでした。生産量はジャガイモ/ダイコン/キャベツ/タマネギ/トマト/レタスの順です。ダイコン/ハクサイなどの重量野菜は減っていますが、サラダ用のレタス/トマトなどは安定しています(※和食から洋食だな)。外食産業などへの加工・業務用野菜が増えています。
○産地化と産直
・そのため生産者には品質・規格が統一された野菜の出荷が求められます。農水省は生産者・中間事業者・食品製造業者が一体となったサプライチェーンの構築を支援しています。一方で農産物直売所での販売も増えています。そのため多品種・少量栽培する生産者もいます。※産直は産地直売の略かな。
○家庭での消費
・加工・業務用は増え、家庭用は減っています。1971年1人当たりの年間消費量は119Kgでしたが、1990年110Kg、2011年91Kgに減っています。
○加工・業務用の輸入野菜
・1970年代までは野菜を自給していましたが、以降加工・業務用として野菜を輸入しています。家庭用の自給率は100%ですが、加工・業務用は70%を輸入しています。※随分差があるな。と言うより家庭用の自給率が100%?
・輸入野菜は生鮮野菜と冷凍野菜に分かれます。生鮮野菜の輸入国は、中国/米国/ニュージーランドの順です(※ニュージーランドは季節が逆だからかな)。輸入量は、タマネギ/カボチャ/ニンジン/ネギ/ゴボウの順です。冷凍野菜の輸入国は、中国/米国/タイの順です。輸入量は、エダマメ/ホウレンソウ/スイートコーン/ブロッコリーの順です。
・2002年中国産ホウレンソウから残留農薬が検出され、安全性が危惧されました。国産野菜は安定して供給できるかが振興のカギです。
<伝統野菜>
○見直される伝統野菜
・地産地消により「伝統野菜」「地方野菜」「ふるさと野菜」が注目されています。元々農家は自家採種しており、各地で固定種(在来種)が栽培されていました。ところが戦後は規格が揃った「F₁品種」が栽培されています。
○各地の在来種
・伝統野菜で有名なのが「京野菜」(賀茂なす、聖護院大根、九条ねぎ)です。ナスは1950年には150種が栽培されていました(※詳細省略)。カブも各地で在来種が栽培されています。
<果樹の生産状況と消費動向>
○生産は減少
・日本は南北に長く、寒冷地ではリンゴ、温暖な地域では柑橘類、南西諸島では熱帯果樹が栽培されています。果樹の栽培面積は24.7万haで、生産量は294万tです。生産量は、リンゴ/ミカン/ナシ/カキ/ブドウ/モモの順です。生産量は1970年代がピークで、以降減少しています。
○高級果樹の輸出
・果樹の需要は800~900万tですが、野菜と同様に加工・業務用の割合が高まっています(※外食や加工品購入の増加だな)。品種改良により品質は目覚ましく向上しています。そのためリンゴ/ミカンは輸出されています。
<花卉の生産状況と流通>
○生産量はキクが最も多い
・花卉は、切り花類/球根類/鉢物類/花壇用苗物類に分かれます。出荷量が最も多いのは切り花類です。内訳は、キク38%/カーネーション%8/バラ7%の順です。
・作付面積は、切り花類1.6万ha、球根類505ha、鉢物類1859ha、花壇用苗物類1569haです。全農地の1%しか使用していませんが、産出額の4%を占めます。ただしハウスなどの初期投資や、出荷基準が細分化されており、選別作業に手間が掛かります。
○競争力を高める認証制度
・国内での生産量は減少していますが、輸入量は増えています。キク/カーネーション/バラ/ユリを、コロンビア/マレーシア/ケニア/中国などから輸入しています(※コロンビアは遠いな)。環境に優しい生産・流通・販売を認証する国際的な制度「花卉産業統合認証」(MPS)の導入が進んでいます。※どんな制度なのか。
<麦類・豆類の生産状況と消費動向>
○麦類・豆類の自給率は低い
・麦類の生産は、小麦/六条大麦(麦茶用)/二条大麦(ビール・焼酎用)の順です。豆類は、大豆/小豆/落花生/インゲンの順です。しかし小麦も大豆も輸入に依存しており、小麦の自給率は11%、大豆は7%です。これは1961年農業基本法により、果樹・畜産などを推奨し、米以外の穀物の生産を減少させたためです。
○国産小麦・大豆へのニーズ
・ただし小麦・大豆は転作作物として推奨されており、小麦の4割/大豆の8割が転作です。国産小麦はタンパク質の含有量が中程度で日本麺に適しています。一方含有量が高い小麦は、パン・中華麺に適しています。また国産大豆は食用油ではなく、豆腐・納豆に使用されています。
<工芸作物と特用林産物>
○工芸作物
・お茶/ナタネ(ナタネ油用)/コンニャクイモ(コンニャク用)/テンサイ(砂糖用)/サトウキビ(砂糖用)などは加工し利用する「工芸作物」です(※初耳)。他にイグサ(畳用)/綿花(木綿用)/紅花(口紅用)などもあります。工芸作物も輸入が増え、ナタネの自給率は1%に過ぎません。
○お茶は世界的に需要が高い
・お茶は生産量9万t/栽培面積4.6万haです。面積は静岡県/鹿児島県/三重県の順です。茶葉の自給率は90%です。世界で緑茶ブームが起こり、2010年茶葉2232tを輸出しています。
○特用林産物
・森林原野で産出される一般木材を除くキノコ/山菜/竹/木炭などを「特用林産物」と呼びます(※これも初耳)。産出額は2000億円で維持されています。
○キノコ
・特用林産物で最も産出額が大きいのがキノコです。キノコの栽培方法には、原木栽培/菌床栽培があります。原木栽培はナラ・クヌギなどの原木に植菌し、発生させます。菌床栽培は「おがくず」に菌をまぶし、瓶・袋に詰め、施設で発生させます。※キノコの細胞には核があり、人の細胞に近かい。
・シイタケは原木/菌床の両方で栽培されます。ナメコ/マイタケ/シメジ/エノキタケなど、多くのキノコが菌床で栽培されていますが、マツタケは成功していません。
<多様化する青果物の流通ルート>
○卸売市場
・青果物の多くはJA/仲買人により「卸売市場」を経て、スーパー/青果店に並びます(※青果物の説明はない)。卸売市場では出荷者から依頼された卸売業者が、セリ取引/相対取引にて仲卸業者に青果物を卸します。さらに仲卸業者は青果物を分類し、小売業者に卸します。夜間に青果物が市場に運ばれ、朝6時頃から取引が行われ、その日の内に小売店で販売されます。
・卸売市場には中央卸売市場/地方卸売市場があります。中央卸売市場は人口20万人以上の市にあり、都道府県/農水省の許可が必要です。地方卸売市場も一定規模があり、都道府県の許可が必要です。
○市場外流通
・大量に青果物を必要とする大手スーパー/外食産業/加工品メーカーなどは、卸売市場を介さない市場外流通を行っています。産地側は確実に売り先を確保でき、購入側も安定して仕入れる事ができます。
・市場外流通に「農産物直売所」もあります。消費者は農家の顔が見えるので安心です。また農家は少量でも販売ができます。
<コラム 花で心を育む>
○花育とは
・「食べる」事で子供を育む「食育」「食農教育」が広く認知されています。花や植物を子供同士/フラワーデザイナー/花卉生産者と育て、創造力を育むのが「花育」です。
○多岐にわたる花育
・花育も様々で、「種子・球根・苗を育てる」「花を収穫し、飾る」「街に出て、花・緑の使われ方を学ぶ」「花遊び・草遊びをする」「花の催し物に参加する」などがあります。
○花卉生産者による授業
・花卉生産者による出前授業も行われています。5月の「母の日」には、フラワーアレンジメントの出前授業が行われます。花育は生産者と消費者を近付ける試みでもあります。
第5章 畜産経営
<畜産とは>
○畜産は2つの農業からなる
・人は食料・衣料を得るため家畜を育ててきました。乳牛から牛乳を得て、肉牛・豚・鶏から肉・卵を得ました。農業はこの「畜産」と、土を耕して作物を得る「耕種農業」に分かれます。畜産には2段階の工程があります。1つは家畜の食べ物(飼料作物)を生産する工程です。もう1つは、家畜から乳・肉・卵を生産する工程です(※生き物が相手なので、餌がいる)。第1段階は耕種農業と同じで、牧草・トウモロコシ・稲・麦・大豆などを生産します。第2段階で家畜に飼料作物を与え、乳・肉・卵などの畜産物を生産します。
○古くから利用した反芻動物
・牛・羊・山羊などは反芻動物です(※羊・山羊もか)。これらは4つの胃を持ちます。人の胃に相当するのは第4胃です。牛の第1胃(ルーメン)の容量は150~250lあり、胃の80%を占めます。そこには様々な微生物が生息し、牛が消化できない繊維質を分解します。※牛の胃液で消化できない繊維を、微生物が分解だな。
○日本の畜産は戦後から
・欧州は冷涼で雨が少ないため穀物の生産が難しく、畜産が発達しました。日本は温暖で稲作に適し、さらに仏教により肉食は習慣化しませんでした。明治になり肉食が始まりますが、畜産物は庶民には高価でした。
・戦後、「酪農振興法」が施行され、酪農が注目されます。1961年「農業基本法」が制定され、家畜の頭羽数が急増します。今は畜産が農業生産額の30%を占め、米や野菜より生産額が多くなっています(※これは驚いた。確かに肉・卵・牛乳は毎日のように食している)。戦後、畜産物の消費も増えます。1960年1人当たり食肉消費量は3.5Kgでしたが、1980年22Kg、1995年30Kgを超えます。
<飼料は海外に依存>
○飼料の種類
・飼料は「粗飼料」「濃厚飼料」に分かれます。粗飼料は繊維質を多く含む飼料で、稲わら/乾草(干し草)/サイレージ(牧草・トウモロコシなどを発酵)/稲発酵粗飼料(WCS飼料)などです(※人と一緒で、発酵させた方が良いのかな)。反芻動物に粗飼料は欠かせません。
・濃厚飼料は、タンパク質/炭水化物を多く含む飼料で、①穀類-トウモロコシ/コウリャン/大麦/米、②糠類-ふすま(小麦の糠)/米糠、③粕類-大豆油粕/おから/ビートパルプ(サトウダイコンの粕)/ビール粕、④動物性飼料-魚粉です。
・日本で消費される飼料は、粗飼料21%、濃厚飼料79%です。また生産コストで飼料が占める割合は、牛45%、豚・鶏65%です。
○飼料は輸入に依存
・飼料の作付面積は93万haで、山形県と同じ広さです(※これも驚き。農地の面積は国土の12%だが)。この8割が牧草です。近年は飼料用米なども作っていますが、作付面積は余り変わっていません。
・飼料の自給率は、1965年31%でしたが、70年代以降は10%台です。近年は飼料を輸入に頼る「加工型畜産」が主流になっています(※加工食品と飼料の輸入は直結しないと思うが)。粗飼料の23%/濃厚飼料の88%を輸入しています。飼料穀物ではトウモロコシ/コウリャン/大麦などを、米国/オーストラリア/アルゼンチンなどから輸入しています。今後は世界人口が増え、肉の消費量も増えるため、穀物需給は逼迫します。
<牛・豚・鶏の生産コスト>
○成長期間が長いほど費用が掛かる
・家畜の成長期間/繁殖能力などは様々です。繁殖可能になるまでの期間は、牛15ヵ月/豚8ヵ月/鶏140日です(※人は成熟に時間が掛かる)。妊娠期間は、牛280日/豚114日で、鶏の卵が雛になるのは21日です。牛の雌が産まれてから子牛を産むまでに2年以上が必要です。豚の雌は1年で母豚になり、年2回、10頭ずつ子豚を産みます(※イノシシも同様に子沢山かな)。鶏は140日で卵を産み始め、年150個産卵します(※2日に1個か。凄い能力だな)。また体重1Kg増やすのに必要とする飼料は、肉牛10~11Kg/豚3~4Kg/ブロイラー2.2Kgです。※牛は高コストで高価になる。
○国産飼料で低コストへ
・繁殖能力/飼育期間の違いは生産コストに表れます。生産コストは、飼料費/素畜費(家畜の導入)/建物費/敷料費(敷き藁)/労働費などです。乳用種1頭だと40万円、肉専用種だと87万円、肥育豚だと3万円掛かります。※期間は1年かな、一生かな。豚の3万円は異常に安いな。
・1人当たりの食肉消費量は微減していますが、鶏肉・豚肉の消費量は増えています。肉牛の生産コストを下げるため、成長が早い交配種を作ったり、肥育技術の向上が行われています。国は、耕作放棄地での飼料用米/稲発酵粗飼料(WCS飼料)の生産、草地の生産性向上、放牧の推進、食品の残滓の飼料化などの施策を進めています。
<乳牛の基本>
○誕生から初産まで2年
・日本では乳牛として、ホルシュタイン種/ジャージー種/ブラウンスイス種が飼われています。発育段階は、子牛/育成牛/成牛に分けられます。さらに成牛は、初めて子を産むと初産牛、それ以上を経産牛と呼びます。
・雄牛は生後2~3週間で農家に売られ、22ヵ月齢になると食肉加工されます(※どこで産まれるのか)。一方雌牛には生後数日間は初乳(免疫抗体が含まれる母乳)を与えます。その後1~2ヵ月は牛乳・代用乳/離乳用飼料を与えます。離乳すると第1胃を発達させるため、柔らかい枯草/配合飼料を与えます。15ヵ月齢になると性成熟し、人工授精させます。妊娠期間は10ヵ月(280日)なので、産まれてから初産まで約2年です。
○濃厚飼料による乳量の増加
・乳牛は出産すると搾乳期間に入り、1日2回の搾乳で生乳40Kgが得られます(※その分飲食するが、体重が40Kgも減るのか)。10ヵ月間搾乳し、続く2ヵ月間は次の出産のため搾乳を止めます。
・1年に1回出産させるのが目標になります。1頭で8000Kg(※40Kg×200日だな)の生乳を得ますが、1960年代から年間87Kgの乳量を増やしました(※1%の微増だな)。これは濃厚飼料の伸びに比例します。牛の寿命は20年位ですが、4~5回出産(6~7歳)すると食肉処理場に送られます。※これは悲しいな。
<牛乳の分類>
○生乳は販売できない
・生乳をそのまま販売する事はできません。抗生物質(?)の検査を受け、加熱殺菌された後、「牛乳」として販売されます。牛乳には、成分調整牛乳/低脂肪牛乳/無脂肪牛乳/加工乳/乳飲料があります(※主に脂肪分の違いかな)。「食品衛生法」で成分規格を規定しています。
○原材料で3つに分類
・牛乳は原材料から3つに大別されます。
-生乳のみ
・「牛乳」は生乳に水・添加物を混ぜたり、成分を除去していません。無脂乳固形分8%以上/乳脂肪分3%以上です。※無脂乳固形分は乳脂肪分を除いた成分。乳脂肪分だけ特別扱いだな。乳脂肪分にはどの様な作用があるのか。
・「成分調整牛乳」は、生乳から水・乳脂肪分・ミネラルなど、一部を除去したものです。
・「低脂肪牛乳」は、生乳から乳脂肪分のみを除去したもので、タンパク質・カルシウムなどは牛乳と変わりません。
-牛乳+乳製品
・「加工乳」は、生乳に乳製品(脱脂乳、脱脂粉乳、濃厚乳、クリーム、バターなど)を加えたものです。
-牛乳+乳製品+乳製品以外
・「乳飲料」は乳固形分が3%以上で、栄養強化タイプ/嗜好タイプ/乳糖分解タイプがあります。栄養強化タイプは、カルシウム・鉄・ミネラル・ビタミンなどを加えます。嗜好タイプは、コーヒー・果汁・甘味などを加えます。乳糖分解タイプは、乳糖を酵素で分解しています。
<ナチュラルチーズ>
○7つに分類
・ナチュラルチーズは牛・山羊の乳に乳酸菌・酵素を加え、さらに塩・菌・カビを加え熟成させた乳製品です。ナチュラルチーズは7つに分類されます。※そんなに多種類あるのか。
①クリームチーズ/モッツァレラなど、熟成させないフレッシュチーズ。
②カマンベールなど、白カビタイプ。
③ゴルゴンゾーラなど、青カビタイプ。
④熟成中に外皮を洗うウオッシュタイプ。
⑤ゴーダなど、加圧して水分を少なくして熟成させた半硬質タイプ。
⑥パルメザンチーズなど、より水分を少なくして長期熟成させた硬質タイプ。
⑦山羊の乳から作るシェーブルタイプ。
・①以外は熟成により、タンパク質がアミノ酸に分解されます。そのため納豆・漬物と同じ生きた発酵食品です。ナチュラルチーズを加熱溶解させ、乳化剤を加え、型にしたのがプロセスチーズです。こちらは加熱殺菌され、熟成は止まっています。
○北海道で始まった国産チーズ
・1876年米国人エドウィン・ダンが札幌の放牛場でチーズを作ります。これが最初の国産チーズです。チーズ作りが本格化するのは、1932年「北海道製酪販売組合連合会」(雪印)からです。1960年代ピザ/チーズケーキなどのブームで、ナチュラルチーズの消費が伸びます。1988年にプロセスチーズの消費量を超えます。戦後の消費量は1人当たり10gでしたが、2010年1.9Kgになります。※私が食べているのはプロセスチーズだけかな。
・北海道はチーズ作りが盛んです。1988年「共働学舎新得農場」(※複雑な名称)が仏国から技術者を招き、製造・評価法を学ぶ「ナチュラルチーズ・サミット」が開かれています。
<和牛の系統管理と格付け方法>
○厳密な管理
・日本人が食べている牛肉の4割が国産です。その45%が和牛で、残りはホルスタイン種です(※国産の半分は乳牛だな)。その和牛は明治以前から飼われていた黒毛和種/褐毛和種/日本短角種/無角和種などです。これらの和牛は1頭ずつ厳密に管理されています。
・牛肉の銘柄(ブランド)は、産地/血統/枝肉の格付け/飼育方法などで規定されています。銘柄には、米沢牛/松阪牛/但馬牛など産地名を冠します。
○枝肉の格付け方法
・枝肉の格付けは重要で、「歩留等級」「肉質等級」があります。歩留等級は赤身の割合で、A~Cの3段階です(※詳細省略)。肉質等級は4項目で評価し、1~5の5段階です。評価項目は、①脂肪交雑、②肉の色沢、③肉のしまり・きめ、④脂肪の色沢・質です(※詳細省略)。
<注目される牛の放牧>
○見直される放牧
・草地は「放牧」あるいは「採草」として利用されます。草を粗飼料として刈り取るのが採草です。乳量を追求したため舎飼いが中心になりましたが、近年は「アニマルウェルフェア」の観点から、放牧が見直されています。
・放牧には以下のメリットがあります。①育養コストの削減。②施肥量の削減、糞尿処理の省力化。③飼料調製・給与のための労働時間の削減。④牛のストレスを少なく、健康になる。⑤草丈の短い草は濃厚飼料になる。⑥畜産物(主に牛乳)に機能性成分(共役リノール酸など)が多く含まれる。
※デメリットも沢山あるかな。敷地や、それを囲む設備が必要になる。牛の移動をコントロールする必要もある。
○広がる放牧
・北海道では放牧する農家が増えています。2004年足寄町は「放牧酪農推進のまち」を宣言し、様々な企画を行っています(※詳細省略)。宣言後8年間で、新規農家9戸が放牧酪農を試みています。道内各地に放牧酪農グループが生まれています。
・北海道以外では草地が狭く、夏は高温になります。しかし水田の裏作にイネ科牧草のイタリアン・ライグラスを育てる事ができます。
<養豚の基本>
○肉豚の主流は3元交雑種
・日本で養育されている豚は、ランドレース種/大ヨークシャー種/デュロック種が中心です。純粋種は繁殖のために養育されます。肉豚は、雑種強勢効果/繁殖性/産肉性/肉質のために3種類の純粋種を掛け合わせます(3元交雑種)。繁殖性が優れたランドレース種(L)と産肉性が高い大ヨークシャー種(W)を母豚にして、肉量・肉質に優れたデュロック種(D)の雄豚を掛け合わせた雑種豚(LWD)が大半です。※SPF豚を説明しているが省略。
○繁殖・肥育・出荷の一貫経営
・豚の飼育は、3パターンに分かれます。①繁殖豚を飼い、子豚を市場に出荷する「子取り経営」。②子豚を購入し、肥育し、出荷する「肥育経営」。③繁殖・肥育・出荷、全てを行う「一貫経営」です。
・現在は一貫経営が主流ですが、繁殖豚と肥育豚の育て方は異なります。そのため繁殖豚舎/育成豚舎/肥育豚舎が必要になります。繁殖用の雄豚は争いを避けるため、雌豚は子豚を守るために1頭ずつ飼育します。それ以外の豚は数頭で群飼いします。肥育豚は、体重10~30Kg/30~70Kg/70~110Kgの3段階に分け、豚舎を移ります。それに合わせ飼料も変えます。
<養鶏の基本>
○鶏の品種
・鶏は用途別に4つに分類されます。
①卵用種-小型で産卵に優れた品種です。白色レグホーン種などがあります。白色の卵を生みます。
②肉用種-成長が早い品種です。白色コーニッシュ種と白色プリマスロック種を交配した交雑種がブロイラー専用種です。
③卵肉兼用種-両方の特性を持ちます。ロードアイランドレッド種/横斑プリマスロック種/名古屋種などがあります。
④愛玩用種-日本のチャボ/長尾鶏など17種は天然記念物に指定されています。※闘鶏は別かな。
・「特定JAS規格」に38種類の「地鶏」が規定されています。これは明治以前からいた在来種で、会津地鶏/名古屋種などです。
○飼育期間/鶏舎の違い
・飼育方法は卵用種と肉用種で異なります。しかし共に雛は業者から群単位で購入します。卵用種は140日齢で産卵します(※受精は必要ないかな)。500日齢頃になると産卵率が下がるので、処分します。※2年も生きれないのか。
・肉用種はブロイラーと地鶏で飼育期間が異なります。前者は56日齢(8週齢)で体重が3Kgになり、出荷されます。後者の飼育期間は80日齢以上で、「特定JAS規格」の飼育施設・飼育密度の規定に従います。
・鶏舎は、「ケージ鶏舎」「平飼い」に大別されます。大規模養鶏業者は「ウィンドウレス鶏舎」で全自動で飼育します(※外窓がない密室だな)。平飼いは卵用・肉用のブランド鶏で使われます。
<卵は物価の優等生>
○大規模経営でコストを抑制
・この半世紀で物価は6倍になった。しかし卵は、1960年代1Kg198円、2011年196円と変わっていません。卵はJA全農がプライスリーダーの「鶏卵荷受機関」が毎日標準価格を決めています(※標準価格を決めるのでプライスリーダーなのでは)。これを参考に生産・集荷業者と小売・加工業者が取引します。
・卵が大衆食品になった理由は、生産の大規模化・機械化です。1960年生産農家は384万戸でしたが、2012年は2900戸に激減しています(※1/1300だな。農家でさえ飼育せず購入かな)。逆に飼育数は、5500万羽から1億7500万羽に増えています。※こちらは3倍なので、1戸1羽が、1戸4000羽に変わった感じだな。
○価格競争で生産は二極化
・採卵経営のコストの68%を飼料費が占めます。飼料が値上がりしても生産者の販売価格が上がらない理由は、①価格を上げると、価格競争に負けて廃業になる。②生産量が減っても、直ぐに増産する生産者が現れる。③鮮度が重要なので、生産過剰になると価格は直ぐ下落するです(※要するに生産過剰かな)。そのため国は、国が決める基準価格との差額の9割を補填する制度を設けています(※これは過保護の気がする)。
・現実は飼料を工夫したブランド卵と安価な卵の二極化が進んでいます。しかし飼料の値上がりで、値上がりする可能性はあります。
<ブランド化の取り組み>
○欠かせない認証基準や販売戦略
・畜産物は地域による独自性を持ち、それによりブランド化してきました。ブランド化には以下が必要になります。①食味・栄養・品質などを確立している。②地域の自然・歴史・文化・社会と関連がある。③パッケージ/デザイン/マーケティングなどが工夫されている。④品質・表示などのブランド管理がされている。
・これらを具体化するには認証基準を設けたり、商標権の取得が必要になります。また直販への拘り、顧客との密接な関係、流通経路の限定などのマーケティングも欠かせません。
○ブランド化の事例
・1990年鹿児島県黒豚生産者協議会が設立され、「かごしま黒豚」をブランド化します。「品種はバークシャー種」などの基準を策定し、販売指定店制度も創設します。1998年の生産量は21.8万頭でしたが、8年後に8倍になります。
・1983年神戸肉流通推進協議会は牛肉のブランド化を図ります。「神戸ビーフ」「神戸牛」の種類・品質がばらついていましたが、条件を規定します。販売ルートも指定店に限定し、商標権も取得します。子牛の価格は高値で推移しています。
・北海道では独自の認証制度を創設し、「きらりっぷ商品」をブランド化しました。畜産関係では、ハム類5品/ベーコン類1品/ナチュラルチーズ6品/アイスクリーム5品が認証を取得しています。
<家畜の感染症>
○30万頭の命を奪った口蹄疫
・2010年宮崎県で口蹄疫が発生します。これは口蹄疫ウイルスが原因で、偶蹄類の家畜(牛、豚、山羊、羊など)や野生動物(ラクダ、鹿など)が感染します。治療法はなく、「家畜伝染病予防法」により家畜の所有者が殺処分します。
・発生から4ヵ月で終息しますが、30万頭の家畜が殺処分され、1200戸の農家に牛・豚などがいない状況になります。また空胎期間が長引き、子牛の出荷がない時期も続きました。畜産への影響は1400億円で、農業以外への影響も含めると2350億円になりました。
○鳥インフルエンザ
・鳥インフルエンザは、「A型インフルエンザ・ウイルス」が鳥に感染して起きます。これに「高病原性鳥インフルエンザ・ウイルス」があり、家禽類に対し強毒タイプ/弱毒タイプがあります。2004年79年ぶりに鳥インフルエンザが確認され、西日本で猛威を振るい、多数の家禽が殺処分されます。
・感染した家禽の肉・卵を加熱して食べれば、人に感染しませんが、羽根や糞を吸い込み感染する場合があります。2013年上海で「低病原性鳥インフルエンザ」に感染した人が死亡しています。
○BSE
・「牛海綿状脳症」(BSE)は牛の脳をスポンジ状にし、運動障害を起こし、死に至ります。潜伏期間は2~8年で、治療法はありません(※潜伏期間が長いな。脳の病気は大体そうかな)。BSEは異常タンパク「プリオン」によって起こると考えられます。プリオンが蓄積した部位の肉骨粉を飼料にした事が原因と考えられます。1986年最初に英国で確認され、欧州で広がります。英国だけで18.4万頭が感染しました。
・プリオンが蓄積しやすい背柱/頭部/回腸遠回部が「特定危険部位」に指定されています。牛から人に感染するBSEを「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病」と呼び、英国などで225人が亡くなっています。※プリオンは水銀みたいに、永遠に蓄積・循環するのかな。
○日本は清浄国だが
・2001年日本でも確認され、36頭が感染します。2003年「牛肉トレーサビリティ法」が施行され、個体識別が義務化されます。2002年以降日本では感染が確認されておらず、2013年「国際獣疫事務局」(OIE)は日本を清浄国に認定しました。
・国内での感染は、子牛用の代用乳にプリオンが混入したと考えられます。しかし感染源・感染経路が判明した訳ではありません。
<コラム アニマルウェルフェア>
○5つの自由
・近年「アニマルウェルフェア」を耳にします。これは「家畜の飼育過程で、ストレスからの自由や健康的な生活を重視する考え方」(動物福祉、家畜福祉)です。1960年代英国で「5つの自由」が定められました。①飢え・乾きからの自由、②肉体的苦痛・不快からの自由、③外傷・疾病からの自由、④恐怖・不安からの自由、⑤正常な行動の表現の自由です。現在は家畜だけでなく、ペット・実験動物にも広がっています。※これまでやってきた事と、かなり矛盾する考え方だな。
○国内の生産現場
・日本の家畜は、舎飼・繋留・拘束が一般的です。乳用牛の繋ぎ飼い/繁殖豚のストール飼育/採卵鶏のケージ飼育が8割を超えます。しかし消費者の72%が「畜産物の価格が高くなっても、家畜にストレスを与えない飼い方をして欲しい」と答えています。
・「国際獣疫事務局」(OIE)は、「ブロイラーにおいて、ピークトリミング(嘴の切断)/爪切り/断冠を日常的に行うべきではない」としました。2011年農水省が「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」を策定し、周知に努めています。北海道では牛の放牧が広がっています。
第6章 世界の食料事情
<深刻さを増す食料不足>
○8人に1人が栄養不足
・世界の人口は増え続けています。1960年30億人でしたが、2010年60億人になり、2050年93億人、2100年100億人を超えると予測されています。途上国・新興国では慢性的な食料不足が起きています。「国連食糧農業機構」は、2010年9.3億人が栄養不足だったとしています。これは8人に1人に相当します。※食料は食べ物全体で、食糧は穀物に限定と聞いた事がある。
・実はこれらの途上国・新興国は、日本より食料自給率が高いのです。これらの国は食料不足に陥いると、高騰した食料を買えないのです(※要するに輸入できないので自給率が高いと解釈すれば良いかな)。従ってこの問題は、経済的格差が背景です。世界で生産される食料の半分を先進国(人口の1/4)が消費し、残りの半分を先進国以外が消費しています。※先進国は3倍食べているのか。まあ食品ロスも起こるな。
○人口急増と気候変動
・1996年「世界食料サミット」で「2015年までに栄養不足人口を4.2億人に削減」が目標に設定されます。さらに2000年「国連ミレニアム・サミット」で「ミレニアム開発目標」が採択され、「極度の貧困・飢餓の撲滅」「幼児死亡率の低減」など8項目が設定されます。※これがSDGsの基らしい。
・しかし成果は芳しくありません。地球規模の異常気象による干ばつ/水源の枯渇/酸性雨/砂漠化で、収量は減少し、農地が荒廃しています(※アラル海は干上がったな)。これにより栄養不足人口は再び増加すると懸念されます。
<先進国と途上国の関係>
○先進国は輸出国、途上国は輸入国
・「途上国は農業などの第1次産業の国、先進国は工業・サービス業などの第3次産業の国」と思われているのでは。実際先進国になると農業に従事する人は少なくなります。しかし農産物の貿易を見ると、違う見方になります。輸出量から輸入量を引いた地域別の純輸出入(重量)を表に示しました。これを見ると輸出超過なのは北米/EU/オセアニアで、反対に輸入超過なのはアジア/アフリカです。これは前節で述べた様に、穀物が先進国から途上国に流れているからです。※「途上国は工業・サービス業だけでなく、農業も遅れている」かな。
○先進国は農業でも生産性が高い
・3大穀物の貿易率は小麦19%/トウモロコシ12%/米7%で、自動車の40%より低くなっています(※歴史的には穀物の自給率は100%かな)。穀物の大半は自国で消費され、一部が輸出に回っています。先進国はその余剰を生産する力があるのです。その理由は3つで、①先進国は労働生産性(労働力当たりの生産量)が高く、先進国100に対し、途上国は6に過ぎない(※違い過ぎる)。②土地生産性(面積当たりの生産量)は先進国100に対し、途上国は49で半分。③土地装備率(労働力1人当たりの面積)は先進国100に対し、途上国は11と小さい。※根本原因は地理と気候で、熱帯より温帯の方が農業に適しているかな。
<日本の輸入状況>
○日本は30年前から純輸入国
・日本は先進国ですが、北米/EU/オセアニアと異なり、食料を海外に依存します。世界の農産物輸入額の5%を占め、世界5位です。しかし純輸入額は474億ドルで世界最大です(※純輸入額は日本/英国/中国/ロシアの順)。※日本は農業に適さない国で、農業より工業に比較優位かな。
○特定の国に依存
・2011年日本は農林水産物を8.1兆円輸入し、うち農産物は5.6兆円でした。その相手国は、米国25.8%/ASEAN16.9%/EU14.7%/中国10.5%/オーストラリア7.1%/カナダ6.5%で、上位6ヵ国・地域で8割を占めます(※意外と中国が少なく、EUが多いな。ワイン/チーズなどかな)。日本は米国など特定の国に依存しています。また今後世界的に需要が増えると思われる飼料穀物/油脂原料を輸入に依存しています。
<食料自給率>
○算出方法は幾つかある
・食料自給率は国内の食料消費が国内の農業生産でどれだけ賄えているかで(=国内生産量/国内消費量)、3つあります。
①品目別自給率-品目別に重量ベースで産出します。
②穀物自給率-①の内、米・小麦などの穀物の指標です。食料用・飼料用の合算です。
③総合食料自給率-これには供給熱量(カロリー)ベースと生産額ベースあります。カロリーベースは生命や健康維持が視点です。一方生産額ベースは、収益性が高くカロリーが低い野菜・果実や畜産物が、より反映されます。
※食料自給率の問題には、穀物自給率か総合食料自給率(生産額ベース)が適しているかな。
・2011年日本の総合食料自給率(カロリーベース)は39%、2009年穀物自給率は26%で、世界でも低いレベルです。カロリーベースの高い国は、カナダ223%/オーストラリア187%/米国130%/仏国121%です。低い国はドイツ93%/英国65%ですが、日本の39%を大きく上回っています。
○実用的だが課題も
・自給率は実用的ですが、問題もあります。分母は国内消費分ですが、分子には輸出分が含まれています(※分子は総生産で、真の自給率はもっと低くなる)。また日本はカロリーベースを重視しています。そのためカロリーが低い野菜・果物・茶・花などが軽視されます。
<日本農業の特徴>
○カロリーベースと生産額ベース
・日本の食料自給率は低下していますが、カロリーベースと生産額ベースではカロリーベースの低下が大きくなっています。この要因は3つあります。第1は、野菜の生産が高いためです。野菜は低カロリーで高価なので、生産額ベースに寄与します。レタス/キャベツ/ハクサイ/ナスなどは、ほぼ100%国産です。トマト/キュウリなどのハウス栽培も盛んです。
・第2は、国産農産物が高くても買うためです。例えば外国産牛肉より国産牛肉、米国産ブラックチェリーより山形産サクランボを買います。
・第3は、カロリーベースと生産額ベースで飼料の扱いが異なります。カロリーベースでは、例えば飼料の90%が輸入であれば、その畜産物の自給率は10%に減じられます。例えば鶏の飼料は90%が輸入なので、カロリーベースの自給率には10%しか加算されません。
○日本農業の生産性は遜色ない
・日本の農業総生産額は主要な輸出国に劣りません(※様々な指標の比較がされている)。日本は農用地面積が狭いのに、生産額は高いのです。すなわち付加価値の高い農畜産物を生産しています。
<食料の安全保障>
○日本の食料自給率は低い
・1960年代半ばより、日本の食料自給率は低下しています。それは1950年代半ばからの高度経済成長期に食生活が変化したからです。1955年と2005年を比較すると、消費量は肉類8.9倍/牛乳・有製品7.6倍/油脂類5.4倍と激増しています。一方で米0.5倍/イモ類0.45倍と半減しています。高度経済成長期に消費量が増え、それを輸入が支えています。また飼料用穀物や油脂用大豆なども大量に輸入しています。これにより自給率が低下したのです。
・1980年代になると「日本型食生活」が実現されます。米を中心に、水産物/畜産物/野菜などの副食を取る食事です(※和洋折衷かな)。これは「PFC」(タンパク質、脂質、炭水化物)のバランスが取れた食事です。
・1990~2000年代になると、炭水化物の摂取は減り、脂質の摂取が増えます。これは欧米型への変化や、菓子類(ケーキなど)/調味料類(ドレッシング、マヨネーズなど)などの摂取が増えたからです。
○食料輸入が停止すると
・日本は先進国の中でも特に食料自給率が低くなっています。毎日食卓には多彩な総菜が並び、街に出れば世界各国の料理を堪能できます。そのため食料安全保障の危機感はないでしょう。しかし食料危機がいつ起こっても不思議ではありません。異常気象や政変・紛争により混乱が生じると、食料輸出国は自国を優先し、輸出を規制します。
・例えば1973年米国による大豆輸出規制、1998年パナマ運河での飼料穀物の輸送トラブルが起きています。2010年ロシアは小麦・大麦・トウモロコシの輸出を禁止し、ウクライナ/カザフスタンは大豆・ナタネなどの輸出を制限しています。
○食料安全保障対策
・2002年国は「不測時の食料安全保障マニュアル」を策定し、想定される3レベルの対策を示します。さらに2012年東日本大震災での経験から「局地的・短期的事態編」を追加し、「緊急事態食料安全保障指針」を再編します。※海外要因と国内要因では対応が全く異なりそうだが。
<生産資材も輸入に依存>
○化学肥料も輸入
・日本は化学肥料の原料であるリン鉱石/カリ鉱石を100%輸入しています。その輸入先もロシアなどに限定されています。農水省は「食料・農業・農村基本計画」で、「施肥設計を見直し、適正施肥を徹底し、耕畜連携による堆肥の有効活用を推進する」「化学肥料の原料の輸入相手国の多角化」などを謳っています。
・この具体策として、①「土壌診断」による施肥設計の見直し、②地域での施肥指導体制の強化、③未利用・低利用資源の肥料活用、④科学的データに基づく減肥基準の策定、⑤肥料原料産出国の探索を挙げています。※肥料も原油と一緒で、産出国で製造しないんだ。
○施設園芸に化石燃料は欠かせない
・施設園芸では、ボイラーの燃料である重油・灯油が欠かせません。そのため国際市場の動向に影響されます。またビニールハウスのフィルム/パイプなどの製造にも石油が必要です。そのため石油依存のエネルギーではなく、他産業で生じた廃熱などの利用が提案されています。
<貿易自由化の流れ>
○鉱工業製品から農業・サービス分野に
・「世界貿易機関」(WTO)は世界貿易を扱う唯一の機関です。この前身は「関税及び貿易に関する一般協定」(GATT、1948年発足)で、世界貿易の拡大が目的です。そのため関税/貿易障壁の撤廃を目指し、多国間交渉(ラウンド)を行ってきました。
・GATTは鉱工業製品が対象でしたが、1986年農産物の関税引き下げをテーマにします。この交渉がウルグアイで開催されたため、「ウルグアイ・ラウンド」と呼ばれます。交渉は難航し、1993年合意されます。
・1995年WTOが設立され、テーマにサービス/知的所有権が加わります。WTOは「最恵国待遇」「内国民待遇」を原則にし、加盟国はこれを遵守する必要があります。
○表面化する各国の利害
・ウルグアイ・ラウンドの合意後、米国/オーストラリアなどは輸出を拡大させますが、エジプト/フィリピンなどは縮小します。2001年この問題解決のため、「ドーハ・ラウンド」が始まります。ところが立場を同じくする国同士がグループを作り、交渉は難航します(※勢力図がある)。2011年結局交渉は停止します。
<ミニマム・アクセス米>
○きっかけはウルグアイ・ラウンド
・日本は米の自給率が100%なのに、米を輸入しています。ウルグアイ・ラウンドにより輸入数量制限は撤廃され、関税のみに自由化されました。逆に輸入実績がないと輸入機会(ミニマム・アクセス機会)が求められます。※非関税障壁があるとされるのかな。
・日本はウルグアイ・ラウンドに合意したため、「関税化の特例措置」として米の輸入を始めます。これが「ミニマム・アクセス米」(MA米)です。これは国産米への影響を考慮し、国が一元的に玄米77万tを輸入します(国家貿易)。輸入されたMA米は、主食用に10万t、加工用(味噌、焼酎、米菓など)に20~30万tが販売されます。残ったMA米は、海外への食料援助に使われます。
○関税は今も交渉中
・MA米は無税または低関税で輸入され、これを「関税割当」と云います(※国家貿易なのに関税?)。政府は輸入価格にマークアップを付けて販売します(※一応利益は得ているんだ)。MA米以外の輸入には、高い関税を設けています。※国は儲けて、民間には儲けさせない。と言うよりMA米以外は輸入させないためかな。
・この措置に輸出国からアクセスが不十分との批判が出ます。そのため2004年ドーハ・ラウンドで、「①一般品目の関税は大幅に削減する。②特別品目は関税の削減を小規模にできるが、関税割当を拡大する」が決定し、今も交渉が進められています。
<FTA、EPA、TPP>
○地域経済圏の活発化
・ドーハ・ラウンドが停滞する一方、地域経済圏の形成が活発化しています。これが地域経済圏の関税を撤廃する「自由貿易協定」(FTA)/「経済連携協定」(EPA)です。FTAは、物・サービスの貿易を自由化する協定です。EPAはFTAを基礎に、投資の自由化/経済取引の円滑化/技術協力の推進などを含めた包括的な協定です。FTA・EPAはWTOの最恵国待遇に反していますが、「①10年以内に関税・制限を廃止。②協定国以外に対し、貿易ルールを厳しくしない」が原則になっています。
・外務省はFTA・EPAの利点を、「①WTOより進んだ自由化や、WTOで扱われない分野の適用が可能。②貿易・投資の自由化で、両国の経済を活性化する。③資源・エネルギー・食料の安定確保と輸入先の多角化」と説明しています。日本は2002年シンガポールとのEPAを皮切りに、様々な国と協定を結んでいます(※詳細省略)。
○TPP、懸念される影響
・TPPは、2006年ニュージーランド/シンガポール/チリ/ブルネイが締結したFTA・EPAです。その後参加表明する国が増え、2011年日本も参加表明し、2013年交渉参加が認められます。TPPは高いレベルの自由化を原則とし、関税は撤廃されます。また各国のルール・仕組みの統一を目指しています。交渉分野は21分野です。※21分野の説明あり。
・アジア太平洋地域での輸出拡大に期待し、日本は前向きです。日本は農産物の米・小麦・砂糖・乳製品・牛肉を「聖域」に挙げています。農水省はTPPの影響を、「農林水産物の生産額は年4.5兆円減少し、食料自給率(カロリーベース)は40%から13%に低下する」と試算しています。さらに「関連する輸送業・建設業で350万人が失業する」と試算しています。また「食の安全/雇用/医療/保険/金融/投資/公共事業/知的財産などで制度・仕組みの改変が起こる」と懸念しています。
<輸入農産物の流れ>
○関税は国内産業保護のため
・輸入された農産物は一定の手続きで消費者に渡ります。本節では関税と検疫について解説します。関税は国内産業の保護のために設けられます。米国/オーストラリアなどの大規模農業に比べ、日本の農業は生産性が低いからです。
・関税などを「国境措置」と云いますが、これには「関税措置」と「非関税措置」があります。非関税措置には輸入量の制限や最低輸入価格の設定などがあります。この非関税措置は交際紛争になります。
○検疫は食品衛生法に沿う
・輸入食品は全国32ヵ所の検疫所(厚労省管轄)で検査されます。食品を輸入する場合、この検疫所に「輸入届出」を出します。検疫所は原材料/製造方法/過去の違反事例/輸出国の情報などを収集し、食品衛生法に適合しているか審査します。違反の可能性がある場合、輸入者に検査を命じます(命令検査)。
・通関後(※検疫後に通関だな)、地方自治体が流通する食品を監視・検査し、農薬の残留などを確認します(※これは輸入食品に限らないかな。検疫は無検査?)。残留農薬は食品衛生法で基準が決まっています。2011年食品210万件が輸入され、11.1%が検査され(命令検査?)、0.5%が食品衛生法に違反していました。※1/200が違反は高い。
<遺伝子組み換え作物>
○世界で導入
・「遺伝子組み換え法」(GM法)は、ある生物の遺伝子に、別の生物の遺伝子を導入する技術です。1994年米国で世界初のGM作物『フレーバーセイバー』が商品化されます。トマトは成熟すると柔らかくなりますが、これはそれを抑えたトマトです。1996年除草剤耐性大豆・ナタネ/害虫抵抗性トウモロコシが商品化されますが、これは社会問題になります。
・「遺伝子組み換え作物」(GM作物)には少ない肥料で育つ/乾燥に強い/塩分に強いなど、食料増産の可能性があります。しかし消費者に安全性を不安視する声があります。
○米国がダントツ
・2010年GM作物は米国/ブラジル/アルゼンチンなど29ヵ国が栽培しています。栽培面積は1.6億haで、米国6900万ha/ブラジル3030万ha/アルゼンチン2370万haです。作物別では、トウモロコシ7500万ha/綿2460万ha/ナタネ806万haです。EUは認可を停止していましたが、2004年トウモロコシ/2010年ジャガイモを認可しています。
○日本では
・日本はGM作物を認可していませんが、家畜の飼料の大豆・トウモロコシを輸入しています。※トマトは認可されたような。近大マグロは品種改良かな。
・米国ではGM大豆・GMトウモロコシの作付面積が9割で、GM作物の表示義務はありません。一方日本では「JAS法」により表示義務があります。輸入GM作物には安全性評価が必要です。これには、周辺生物への影響に関する「カルタヘナ法」、食品の安全性に関する食品衛生法、飼料に関する飼料安全法に基づく確認が必要です(※長期的な影響は確認できないのでは)。またこれらが貿易自由化の障壁になると考えられます。
<コラム フェアトレード>
○適正な価格で継続的に貿易
・多くの途上国は宗主国の政策により、プランテーション農業が進められました。そのため経済開発が進んでいません。1948年GATTが発足しますが、これが先進国に有利なため、1964年途上国が「国際貿易開発会議」(UNCTAD)を設立させます(※この機関は耳にするが、そんな機関だったかな)。しかしその存在感は薄れています。
・GATT発足と同じ頃、草の根で「フェアトレード運動」が始まります(※そんなに古いのか)。これは適正な価格で継続的に貿易し、途上国の生活改善・自立を目指すものです。この運動はNGO・教会などにより発展しています。
○目に見えない社会的価値
・1989年「国際オルタナティブ・トレード連盟」(今の世界フェアトレード機構)が設立されます。フェアトレードを「貿易における公平さを追求し、南半球(?)の生産者・労働者により良い交易条件を提供し、彼らの継続的発展に貢献する」と定義します(※簡略化)。
・1997年「国際フェアトレード・ラベリング機構」(FLO)が設立され、フェアトレードの認証制度が確立します。フェアトレード商品の価格には、社会的価値である「生産者の持続的生産に貢献する」が上乗せされています。消費者はこれを理解し、購入します。
第7章 これからの日本農業
<これからの農業・農村>
○大規模化以外の可能性
・農地の集約化・大規模化が進んでいます。2013年農水省は「攻めの農林水産業」で、大規模農家・法人経営に舵を切ります。農地20ha以上の経営体が、土地利用型農業(※ビニールハウスなどが除かれる)の農地の3割を占めるようになります。
・しかし近年は「農村ビジネス」(ファーマーズマーケット、農家レストラン、農家民宿など)が注目されています。また地場産品の農産加工品も注目されています。これらを提供しているのは高齢農家・農家女性です。
○多様な担い手
・近年、農業・農村に関心を持つ都市住民が増えています。若者が農業に乗り変えたり、定年帰農者が増えています。構造改革(?)で大規模農家/農業法人/農業参入企業の役割は大きくなりますが、地域を支えるにはベテラン農家/兼業農家/自給的農家/地域住民などの多様な担い手が重要です。
<耕作放棄地>
○耕作放棄地の影響
・農地は455万haあり、その内40万haが「耕作放棄地」です。耕作放棄地が増えると優良農地の減少だけでなく、以下の影響があります。①草木が茂り、病害虫の温床になる。②廃棄物が不法投棄される。③鳥獣の隠れ家になる。
・2009年「農地法」が改正され、耕作放棄地を解消する取り組みが進められています。各市町村の農業委員会が地主に耕作を促し、従わない場合は「農地保有合理化法人」が借りたい人に貸します。また耕作放棄地を再利用する場合、助成金が提供されます。
○不利な条件の克服
・耕作放棄地で農業を始めた人は多くいます。臼杵市の後藤さんは元JA職員ですが、高齢者の農地や耕作放棄地を引き受け、農業を始めます。経営面積は水田23ha/畑11haで、米・麦を作っています。他に作業受託/米の卸売も行っています。今は規模拡大を止め、経営の充実を重視しています。
・中山間地域は鳥獣被害が多く、防護柵の設置や地主の理解が必要です。中山間地域は不利な条件を、どう克服するかが重要になります。
<新規就農者への支援>
○新規就農者の多くは60歳以上
・自治体/JAは、新規就農者の支援に積極的です。近年期待されているのが「定年帰農者」です。彼らは「農地を持っている」「農業の経験がある」「年金などの収入がある」など、就農のハードルが低いのです。
・新規就農者の6割以上が60歳以上で、毎年3~4万人います。40歳未満は毎年1.5万人ですが、定着するのは1万人程度です。政府は「若手就農者2万人定着」を目標に、「青年就農給付金」を支給しています(※詳細省略)。しかし就農には所得の問題だけでなく、農地の確保/経営資金の確保/人脈などの課題があります。
○受け入れ側の支援体制がカギ
・新規就農者を受け入れる取り組みが広がっています。伊豆の国市では、県の新規就農者支援事業で40人超の新規就農者が生まれました。同市は応募者から研修生を絞り、その研修生に対し県農業新興公社/農林事務所/JA/農業委員会がトータルな支援を行いました。同市の主作物であるミニトマトの2/3を、新規就農者が出荷しています。
<新規就農のプロセスと課題>
○新規就農のパターン
・新規就農には家業を継ぐパターンと全く新規に農業を始めるパターンがあります。さらに後者には、①自ら農地・資金などを準備する、②自治体の支援制度を活用する、③農業法人に就職する、④後継者がいない農家を継ぐなどがあります。いずれも就農後に挫折しないため、周到な準備が必要です。
○情報収集・体験参加
・就農は、まずは情報収集から始めます。全国新規就農相談センター/就農相談会などで情報を入手できます。書籍/インターネットなどもありますが、体験も必要です。日本農業実践学園は、3ヵ月程度の農業体験・研修を行っています。農業大学校/農業者研修教育施設などでも初歩的知識・技術を体験できます。農業法人が農業インターンシップ制度を行っている場合もあります。
○本格的研修
・就農を決意すると、1~2年程度の本格的な研修を受けます。この研修は、①自治体の制度を活用する、②農業大学校/民間の研修機関で受講する、③農家/農業法人で研修するなどがあります。
・①は助成金などの支援は充実していますが、作物が指定されていたりします。②は、入学金・授業料などが必要です。③は、受け入れる農家/農業法人を見付ける必要があり、また研修期間の待遇などを話し合う必要があります。
○就農準備
・研修と同時に農地・資金などの準備をします。自治体を活用する場合は、独立後もフォローされます。農業法人に就職す場合も、農地は提供されます。農業大学などで研修する場合は、基本自分で農地を探す必要があり、それについては自治体・農業委員会・JAなどから助言を受けましょう。また農地の購入・貸借には農業委員会の許可が必要です。
・農業には、①営農資金(機械などの固定資本、種子・肥料・農薬などの流動資本)、②生活資金が必要です。「就農支援資金」「農業近代化資金」が利用できますが、「認定就農者」が条件です。
○就農後
・農業の厳しさは、就農後に味わいます。助言を受けるため、周辺農家との関係も重要になります。就農1年目を調査すると、自己資金488万円/営農費用721万円/売上341万円で、残高は108万円です(※これで生活か。大体赤字だし、翌年の営農費用はどうするのか)。就農1~2年で生計が成り立つのは15.4%、3~4年は30.7%、5年以上は44.9%です。※5年を超えても、半分は赤字。
<農産物直売所>
○今は観光スポット
・「農産物直売所」(直売所、ファーマーズマーケット)は全国に1.7万ヵ所あります。直売所は農家が市場に出し切れない野菜・果物を、無人市・良心市などで販売したのが始まりです。1990年代バブル崩壊により、JAの店舗前や広場で農産物・農産加工品を販売する様になります。これがさらに拡大し、売上が数十億円の大型店舗もあります(※道の駅とかかな)。農家は販売金額の20%前後を手数料で払いますが、収益性は高くなります。
○競争激化と後継者問題
・直売所の1つ目の課題は競争激化です。採算割れで販売する農家も出始めました。またスーパーなどの異業種が直売コーナーを設けています。2つ目の課題は後継者不足です。直売所に出荷しているのは高齢農家で、直売所は若手農家・定年帰農者を支援しています。
<農村起業の成功例>
○起業の原点は女性の社会進出
・農村の作物・加工品/食文化/自然景観、これらはビジネスになります。その主役が農村の女性です。彼女らは行政の支援で「生活改善グループ」(?)を作り、加工品の開発や文化伝承を行っています。彼女らは加工品・郷土食などを直売所で販売したり、農家レストラン/農家民宿/農業体験などを運営しています。
○リーダーの存在が重要
・長野市の「たんぽぽ」は、直売所の運営と加工品の製造・販売を行っています。この代表が小池さんで、他に女性が20数人います。1964年彼女は結婚し専業農家になります。そこで女性が小遣いや部屋をもらえない事から、ゴボウのささがきを始めます。その後野沢菜の栽培と直売を始めます。今ではおやき/漬物/弁当を作り、量販店・旅館などに販売しています。
○現代人への対応も重要
・熊本市の「オレンジブロッサム」の村上さんは、ミカンの加工品を製造・販売しています。彼女は摘果(間引き)される青ミカンから、ジュース/キャンディを製造しています。青ミカンはポリフェノールを多く含み、加工品の売上は1千万円になります。
・宮城県美里町の「はなやか」の伊藤さんは、農家レストランを経営し、加工品を製造しています。そこには農村と消費者を繋げたいとの思いがあり、農家レストランの定食は好評で、事業全体の売上は7千万円になります。
○零細な規模が課題
・農村の女性による起業は増えています。2010年は約1万件あり、食品加工が最も多く、直売所での販売/農家レストランの経営と続きます。しかし過半が年間売上300万円以下で、1千万以上は14.4%です。零細の原因は、生き甲斐/仲間作りが主目的で、ビジネスと考えていないからです。しかし法人化などにより、農家の所得向上/地域振興になります。
<6次産業化>
○所得向上、地域活性化
・農家が食品製造(第2次産業)や流通・販売(第3次産業)を行い、所得向上/地域活性化を目指す「農業の6次産業化」が注目されています。農水省は、2010年6次産業の規模は1兆円でしたが、2020年に10兆円に増やすため、農家・法人を支援しています。ただし対象は、大農家と大手企業が組み、農業ビジネスを観光・医療・福祉などに拡大させるものです。※医療ツーリズムなどへの大規模化かな。
・1993年就農した福井県池田町の後藤さんは、当初は稲作でしたが、2005年から山羊を飼い、チーズを製造しています。また糞尿を堆肥にし、有機複合農法を実践しています。2007年に就農した富士市の豊田さんは自宅を「茶畑レストラン」にし、「食べるお茶・め茶美味」を商品化しています。
○無理のない範囲で始める
・この6次化は目新しいものではなく、ジュース/ジャム/漬物/味噌/総菜などは古くから作られていました。袋井市の「名倉メロン農場」の名倉さんは、規格外のメロンでシャーベットを作っています。またカフェ「カフェニジ」でジュース/パフェなども提供しています。年間8500人を集客しています。
・ただ6次化は、加工品の売り先を自ら開拓しなければいけません。また加工施設の整備/代金回収/在庫管理などが必要になります。農業生産に無理のない範囲で始めるべきです。
<観光・教育における農業・農村の価値>
○グリーン・ツーリズム
・農業・農村には食料生産以外の役割があります。近年注目されているのが、自然が豊かな「観光資源」と都市生活では得られない「教育的効果」です(グリーン・ツーリズム)。
・上田市では農家で国内外の児童・生徒を受け入れています。午前に農作業、午後に山・川で遊ぶ日帰りコース「ほっとステイ」がメインで、年間8千人が参加しました。教育の一環のため、お客様扱いはせず、礼儀は厳しくなります。
・宮城県加美町は、2002年より仙台市松陵中学校の農業体験と民泊を受け入れています(※同一県内で近い)。これが加美町と松陵中学町内会の交流になり、2010年防災協定が結ばれます。東日本大震災で加美町の人が松陵中学町内会で懸命な支援を行っています。
○市民農園、農業体験
・都市住民が自宅から通う「市民農園」、農村に滞在して農業に接する「クラインガルテン」(※初耳。ドイツの制度だな)などがあります。また学校で農業体験する授業も増えています。あるいは農家が学校で授業する出前授業が行われています。
<環境保全型農業>
○近代農業の反省
・戦後日本は農業機械・農薬・化学肥料を使った近代農業を広げ、食料を増産しました。反面、生態系のバランスが崩れ、害虫が耐性を持つようになります。そのため農薬・化学肥料に頼らない「環境保全型農業」(有機栽培、無農薬栽培、減農薬栽培)が始まっています。
・農薬・化学肥料を使わないため、収量は少なくなります。そのため環境保全型農業には消費者の支え(産消連携)が必要になります。生協/産直団体などが、この役割を果たしています。
○農薬の適正使用
・1992年有機農産物・無農薬農産物の表示のガイドラインが示され、1999年JAS法で有機農産物・加工品の規格が定められ、審査・認証制度が始まります。この頃から環境保全型農業が認知されます。これは消費者の「食の安全」へのニーズや、無登録農薬の使用が社会問題になった事によります。2002年「農薬取締法」が強化され、2006年「残留農薬基準」が定められます。
・1999年「エコファーマー制度」も始まります。約22万件の農家がエコファーマーに認定されています(※詳細省略)。
・しかし農薬は農産物の安定生産に不可欠で、農薬を適正に使用し、環境負荷を低減させる「総合的病害虫・雑草管理」(IPM)が広がっています。また農薬などの農業生産でのリスクを減らす工程を実行し、農家のリスクをマネジメントする「農業生産工程管理」(GAP)も広がっています。
○環境からのブランド化
・環境保全型農業は、個人・グループから地域に広がっています。コウノトリの野生復帰を進める豊岡市は、地域ぐるみで田んぼの生物を育てようとしています。この米は「コウノトリ育むお米」として販売されています。
<農産物の輸出>
○主な輸出農産物
・日本の農林水産物の輸出額は4497億円(2012年)でした。輸出先は香港(?)/米国/台湾/中国/韓国の順です。輸入額は8兆円なので、純輸入国です。国は2021年までに輸出額を1兆円にする目標を立てています。これにより食料自給率も高くなります。
○農産物の評価基準は国で異なる
・農産物に限ると輸出額は2680億円(※半分か、残りは主に水産物かな)で、牛肉(50億円)/リンゴ(33億円)/ナガイモ(18億円)などです(※多様だな)。
・弘前市の片山さんは、リンゴの消費量の減少から、EU/中国にリンゴを輸出するようになります。彼は農産物の評価が国によって異なる事を実感します。英国にサンプルとして大玉を送ると「これでは加工用にしか使えない」と批判されます。そこで日本では加工用の小玉を送ると「やればできるじゃないか」と評価されます。英国では丸かじりするので、小玉が好まれるのです。※他の逸話は省略。
・ナガイモの輸出を代表するのが「JA帯広かわにし」です。2000年より卸売業者の紹介で、台湾に輸出しています。同国でナガイモは栄養価が高いとされています。日本ではL・Mサイズが好まれますが、台湾では業務用途の4Lサイズが好まれます。2012年1900tを輸出しています。
・生鮮品以外では、盆栽類・鉢物類の輸出が伸びています。これはアジアで都市開発が盛んなためで、輸出額は82億円で、リンゴ/ナガイモを超えています。また緑茶は米国などに51億円輸出しています。
○生鮮農産物の輸出は伸びない
・農産物の輸出には課題があります。1つは取引価格です。農産物は高品質のイメージがありますが、国内と変わらない価格で輸出されています。それは日系スーパー/高級スーパー/高級レストランなどの富裕層をターゲットにしているからです。また航空便を利用すれば高くなります。※これは「高価で売りたいが、そうできない」と言っているのかな。
・また農家へのアンケートでは、輸出規制・検疫制度/貿易実務対応/現地でのマーケティングなどが課題になっています。これらが輸出の高いハードルになっています。そのため輸出は加工品(調味料・アルコール・菓子、29%)/水産物(27%)が中心で、農産物は伸びていません。そのため政府は諸外国に輸入規制の緩和を働きかけたり、日本食の展示会を開いています。※自由貿易は進んでいないのかな。
<再生可能エネルギー>
○固定価格買取制度
・脱原発により太陽光/水力/風力/バイオマス/地熱などの再生可能エネルギーが注目されています(※今は脱炭素が主かな)。しかしコストが高く、売電価格が10円/Kw時では見合いません。しかし2012年「固定価格買取制度」が始まり、導入が進んでいます。再生可能エネルギーは脱炭素や産業創出でも注目されています。
○メガソーラー発電
・酪農が盛んな北海道浜中町では、農家が太陽光発電に取り組んでいます。全体で1050Kwのメガソーラーになっています。補助制度を利用したため産業用に限定され、牛舎などで使用しています。余剰は電力会社に売電しています。
○小水力発電
・ナガイモで紹介した「JA帯広かわにし」は水力発電の川西発電所を運営しています。今は北海道電力から供給され、売電しています。
○風力発電
・高知県梼原町は「梼原エネルギービジョン」を作成し、風力発電を行っています。この収益を太陽光発電の補助金/間伐材伐採の補助金/木質ペレットストーブの補助金などに使い、エネルギー自給率100%を目指しています。
○バイオマス
・岩手県葛巻町は「葛巻町新エネルギービジョン」を作成し、風力発電/太陽光発電/バイオマス発電に取り組んでいます。北海道の「JA士幌町」は、ジャガイモ/タマネギの加工で発生する残滓からメタンを発生させ、バイオマス発電を行っています。会津若松市の「グリーン発電会津」は、間伐材による木質バイオマス発電を行っています。これは雇用創出にも繋がっています。
○送電網の整備、農林地との調整
・2012年政府は「革新的エネルギー・環境戦略」で、「再生可能エネルギーは、2030年までに2010年の3倍になる」と予測しています。しかし課題もあります。例えば、風力発電は北海道西部・青森・秋田などに限られます。さらに電力会社には「風力枠」があり、事業申請してもくじに当たらないと売電できません。これには送電網の増強が必要です。
・農林地の利用調整も課題です。土地需要が増し、借地料が上がっています。太陽光発電は農地の使用が認められていないため、雑種地/山林/空地が使用されています。
・これらの課題があるため、単独ではなく地域作り/雇用創出/商品のブランド化などと絡ませることが重要です。※ブランド化と太陽光発電は無関係と思うが。