『米中と経済安保』江崎道郎(2022年)を読書。
日米中の関係に関心があり、本書を選択。
第1~4章で米国の安全保障戦略にある国益を解説し、日米を比較。
第5~7章で自民党の安全保障戦略に関する提言を解説し、著者の視点で評価。
第8章で関西同友会の提言などを解説。
お勧め度:☆☆
内容:☆☆(かなり冗長的)
キーワード:<はじめに>国際政治、グローバル社会、米中対立、公刊情報、<米国の思惑>国家安全保障戦略、米中対立、国民・国土・生活様式の保護、<民間主導経済>繁栄の推進、減税・規制緩和、米中貿易戦争、研究開発、エネルギー、<力による平和>軍事力、宣伝戦、同盟国、防衛法制、<対中関与政策>報告書、対中競争政策、チャレンジ、日米共同声明、<自民党>提言、経済安全保障戦略、機微技術、<各国の経済安全保障戦略>オーストラリア、インド、インド太平洋地域、欧州、中国/総体的国家安全観/国際標準/通過、ロシア、<日本の経済安保戦略>戦略的自律性、戦略的不可欠性、減税・規制改革、<インテリジェンス機関>経済界、官民連携、関西経済同友会、<おわりに>国家安全保障戦略
はじめに
・国際政治の動向を見るには、近現代史が重要になる。現在だけを見ると、事実は見えない。日本は世界3位の経済大国だが、安全保障を米国に頼る。米国は自由主義陣営を代表し、中国は全体主義陣営を代表し、対立している。日本は軍事的には米国と密接だが、経済的には中国と密接だ。米中対立の中、日本はどう対処すべきか。この選択に近現代史が重要になる。
○米国がリーダーになったのは100年前
・1914年「第1次世界大戦」が起きる。主な戦場は欧州だったが、日本/米国も参戦し、戦勝国になる。この戦争で4つの帝国(ドイツ、オーストリア=ハンガリー、オスマン、ロシア)が崩壊し、10の共和国(ドイツ、オーストリア、チェコスロバキア、フィンランド、ポーランド、リトアニア、ラトビア、エストニア、アルバニア、トルコ)が生まれる。※ボスニア/セルビア/ルーマニア/ブルガリアなどは既にオスマンから独立していた。
・1917年ロシア革命でソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)が生まれ、その後の国際社会に大きく影響する。この戦争を機に、主導権は英国から米国に移る。当時の日本の地位は高くなかったが、戦勝国になり、国際連盟の常任理事国になる。
・1868年日本は明治維新を起こし、富国強兵に努める。この戦争で米英仏主導の「ベルサイユ体制」の一員になる(※ナポレオン後もベルサイユ体制かな)。アジア太平洋地域を代表する国になり、米国・中国・アジア・太平洋でのビジネスが活発になり、経済成長する。
・1929年「世界恐慌」で世界経済が混乱する。民主党のルーズベルトが大統領になり日米関係も悪化する。1939年ドイツ/ソ連がポーランドに侵攻し「第2次世界大戦」が始まる。1945年2月ヤルタ会談で国際連合が創設される。米英仏ソ中が常任理事国になり、「米ソ協調体制」(ヤルタ体制)が始まる。日本は敗戦し、中国・太平洋でのビジネスは禁じられ、貧困に喘ぐ。しかしソ連が東欧を占領した事で、ヤルタ体制は1年を経ず破綻する。※そんな短命か。ヤルタ体制自体、存在を知らなかった。
○冷戦からポスト冷戦
・1947年米国を盟主とする自由主義陣営(西側)とソ連を盟主とする共産主義陣営(東側)に2分され、「東西冷戦体制」が始まる。日本は西側に組み込まれ、経済発展する。1972年東側の分裂を狙ったニクソン大統領が訪中し、中国は米国と組む。「米vsソ中」から「米中vsソ」に変わる。これにより日本企業は中国に進出する。
・1989年ソ連は解体し、「ポスト冷戦体制」になる。ヒト・モノ・カネの移動は自由化され、「グローバル社会」に変わる。貿易量は増大し、安価な外国製品(特に中国製品)が全国に溢れる様になり、日本の製造業は衰退する。安価な中国産食品により、チェーン飲食店も急増する。米国も同様になる。中国は「世界の工場」になる。
・グローバル化により中国を中心とするアジア太平洋諸国は経済発展する。一方で米国の地方都市は衰退する。この状況をカリフォルニア大学の教授が『米中もし戦わば』に記している(※簡略化)。
①中国は、通貨操作/輸出補助金/知的財産保護/自由市場保護などの不公正に頼っている。
②中国は、経済成長/製造基盤により軍事力強化・近代化のための資源を得た。
③中国は、経済力を武器に日本/フィリピン/台湾/ベトナムなどを威圧している。
④2001年中国はWTOに加盟する。これにより米国は7万の工場を失い、経済成長率は半減した。
⑤米国は安全保障を維持するのが難しくなった。
・これに注目したのがトランプだ。2016年「米国の弱体化は、中国の違法による。これを黙認したのが政界・経済界だ」とし、大統領選に立候補する。大統領に当選すると、中国を競争相手とする「国家安全保障戦略」を策定し、米中貿易戦争を仕掛ける。
・この100年で、ベルサイユ体制/ヤルタ体制/東西冷戦体制/ポスト冷戦体制/グローバル社会と遷移した。
○米国側になり、経済大国に
・今の日本は2度目の重大な選択を迫られている。1度目は1952年だ。敗戦により占領され、国際社会に復帰する時、自由主義陣営に加わるか、社会主義陣営に加わるかを迫られた。国内で単独講和(米国側)か全面講和(ソ連側)かが議論になった。吉田茂(※任1946年5月~47年5月、1948年10月~54年12月)ら保守系は米国側を訴え、社会党などの革新系やマスコミはソ連側を訴えたが、世論は米国側を支持した。
・日本は自由貿易の恩恵を受け、世界2位の経済大国になる。一方ソ連側に付いた諸国は貧困に苦しむ。しかし冷戦終結により、人件費の安いソ連側諸国が米国側の市場に参入する。その代表が中国だ。
・1949年一党独裁の中国が建国される。毛沢東は「政府を批判した」として数千万人を逮捕・処刑する。1976年毛沢東は亡くなり、鄧小平は「改革開放」を唱える。米国はこの政策転換を歓迎し、1979年米中が国交正常化する。中国は外国企業を受け入れ、日本を含む自由主義諸国の企業が米国に進出する。気が付けば、中国製の電化製品・衣料・医薬品で溢れる様になる。2001年中国はWTOに加盟し、「世界の工場」になる。2008年金融危機が起こるが、中国は大規模な財政出動を行い、世界経済を立て直す。2010年日本は名目GDPで中国に抜かれる。
・日本と中国の経済は密接で、スーパーなどは中国製品で溢れる。しかし香港の民主化弾圧などへの批判が強まっている。米中貿易戦争も始まり、日本の対中関係にも影響が出始めている(※これが2度目の選択かな)。
○インテリジェンス
・経済界からは「なぜ中国と対立するのか」「今後、米中対立はどうなるのか」などの声がある。この選択を誤らないため、国際情勢を分析する必要がある。これに私(※著者)が使うのが「公刊情報」で、特に米国の国家安全保障戦略だ(※オシントだな)。公刊情報は政府・政党などの公式の見解で、マスコミ報道より信頼性が高い。
・インテリジェンスは政府の公式見解を分析するのが基本になる。出所不明の情報から憶測すると、自分に都合が良い解釈をして、インテリジェンスにならない。そこで本書は米国の国家安全保障戦略や自民党の報告書などの公刊情報の分析し、安全保障・経済・技術を巡る米中対立や自民党の経済安全保障政策を論じる。
第1章 米国の思惑
○国家安全保障戦略
・米国の世界戦略で重要なのが「国家安全保障戦略」だ。2001年共和党ブッシュ政権は「テロとの戦い」を最優先事項とする。※同時多発テロは2001年9月、戦略の公表は2002年9月。
・民衆党オバマ政権は「テロとの戦い」を継承するが、「核のない世界」も目指す(※2010年5月公表)。2013年9月彼は「米国は世界の警察官ではない」と発言し、オバマケアなどを優先させる。この結果、2012年に発足した習近平政権の軍事的台頭が進む。
・2019年4月(※既にトランプ政権)防衛省が「米国の安全保障戦略」を作成し、オバマ政権下での中国の動向を記している。「中国は南シナ海で軍事基地を拡大」「中国艦隊が西太平洋に進出」「中国空母の建造」「中国潜水艦のインド洋進出」「ジプチに海軍基地を建設」(※海軍基地は、当時はまだジプチだけかな)。中国はこの時期に軍拡を進め、人民解放軍の活動範囲を広げた。※シリアに対しレッドラインを設けたが、反故にした事もあった。
・2017年12月これに危機感を持った共和党トランプ政権は新たな戦略を公表する。「米国の軍事的優位が失われ、世界秩序が混乱している」「テロよりも大国(中国、ロシア)が懸念される」「中国は軍を近代化させ、インド太平洋に進出し、米国に代ろうとしている」(※2014年ロシアによるクリミア併合もあった)。彼は「中国との戦略的競争」を最優先し、「日米豪印戦略対話」(Quad)を推進する。併せて中国の経済・技術の力を削ぐ産業スパイ取締りの強化、米中貿易戦争などの政策を実施する。
※アジア太平洋とインド太平洋の表記があるが、違いはあるのか。前者は東アジア/東南アジア/オセアニアで、後者はこれに南アジアを含むのかな。
・2021年1月民主党バイデン政権が誕生する(※共和党と民主党を概説しているが省略)。彼は公約で、中国ではなく新型コロナ/景気/気候変動/人種差別を最優先課題とした。しかし3月「暫定国家安全保障戦略指針」で「権威主義国との競争は脅威」とし、トランプの安全保障戦略を継承する。これにより米中対立の継続が確定する。
○「テロとの戦い」から「中ロとの競争」へ
・米中対立が明確になったトランプ政権での「国家安全保障戦略」(NSS2017)を分析する。これは膨大のため、「国立国会図書館調査及び立法考査局」(※国会図書館にこんな局があるんだ)の「トランプ政権による『国家安全保障戦略』の公表」を基に解説する。まずは序盤を見る(※簡略化)。
トランプは「世界は競争的」とし、その中で米国第一主義を掲げた。
大統領は毎年「国家安全保障戦略」を議会に提出する義務があるが、4年の任期の後半に1回提出するのが慣例になった。
戦略の前文で、米国は政治・経済・軍事での激しい競争に直面し、競争相手に中国・ロシア、北朝鮮・イラン、イスラム過激派(イスラム国、アルカイダなど)の3勢力を挙げた。
『米国の国民・国土・生活様式の保護』『米国の繁栄の推進』(※促進の表示もあるが推進で統一)『力による平和』『米国の影響力の向上』をそれぞれ章にし、課題と優先行動を示した。さらに最終章で地域別課題を示した。
・2001年「9.11テロ」により、米国は「テロとの戦い」を最優先課題とした。これには3つの意味がある。第1は、それまではインテリジェンス組織(CIA、米軍情報部)は大国(ロシア、イラン、北朝鮮、中国など)の調査に注力していた。それをイスラム過激派が最優先にする。第2は、軍事力整備の内容が変わる。それまではミサイル・潜水艦などだったが、テロ集団を急襲する特殊部隊などに変わる。第3は、同様にイスラム過激派と対立するロシア(チェチェン紛争)や中国(ウイグル)と連携する様になる(※先日モスクワでテロが起きたが、米国がロシアに警告していた)。この戦略により、中国の軍事的台頭が進み、ウイグル弾圧も容認された(※軍事的台頭は当然中国の経済発展も要因かな)。
・トランプ政権がこの戦略を改定する。脅威の順番を、「中国、ロシア」「北朝鮮、イラン」「イスラム過激派(イスラム国、アルカイダなど)」に変更する。これに基づきインテリジェンス組織が調査し、軍事力を整備する。これによりウイグル弾圧も問題視する様になる。
○国民・国土・生活様式の保護
・トランプは国益を『国民・国土・生活様式の保護』『繁栄の推進』『力による平和』『影響力の向上』とし、それぞれを章にした。『国民・国土・生活様式の保護』に対し、4つの課題を示した(※簡略化)。
1.国境と国土の安全確保
大量破壊兵器(核、化学、放射性物質、生物兵器など)の危険は高まっている。ミサイル防御システムを強化する。感染症への対応能力を高める。国境管理を強化する。移民・難民の受け入れを厳格にする。
2.脅威の根源の追跡
イスラム過激派は最大の脅威だ。テロを未然に防ぎ、活動拠点に直接行動する。犯罪組織は違法薬物・暴力・サイバー犯罪で社会を弱体化させている。これに他国と協力し対応する。
3.サイバー時代における安全保障
入国しなくてもサイバー攻撃は可能だ。①安全保障、②エネルギー、③金融経済、④健康・安全、⑤コミュニケーション、⑥交通に対するサイバー攻撃を分析する。これに他国・民間と協力する。
4.回復力の強化
攻撃・事故・自然災害を皆無にできない。そのためリスク管理/対応能力の強化などで回復力を高める。
・1つ目の課題が「国境と国土の安全確保」で、大量破壊兵器/自然災害などを最も脅威としている。一方日本はこれを最優先課題にしていない。防衛大学校長神谷氏が、「これでいいのか防衛予算」(『正論』2020年3月号)で、「いかなる政策構想にもカネ・ヒトが必要だ。この観点から防衛支出は不十分だ」と指摘している。
・日本へのサイバー攻撃が話題になっている。それなのにサイバー防衛隊を220人から290人に増員するだけだ。サイバー安全保障の予算は881億円だが、米国は国防総省だけで1兆円だ。宇宙防衛隊は20人しかいないが、米国の宇宙軍は1.6万人いる。
・中国は2015年宇宙戦を担当する「戦略支援部隊」を創設した。これは米国のCIA/国家安全保障局(NSA)/航空宇宙局(NASA)/国防総省の軍事衛星担当・電子戦実施部隊を合体させた巨大組織だ。
・安倍政権(※第2次安倍政権を指す。以下同様)の防衛政策が正しいのに、予算が充てられていない。国土防衛線が危うくなっている。元陸上幕僚長岩田氏が、「高価な装備の導入のため、弾薬・誘導弾/装備関係費が圧迫されている。『たまに撃つ、弾がないのが、たまに瑕』の状態が続いている」と訴えている(※簡略化)。尖閣諸島海域に中国公船が毎日航行している。日本は「国境と国土の安全確保」を最優先課題にしていない。
・2つ目の課題が「脅威の根源の追跡」だ。具体的には「テロを未然に防ぎ、活動拠点に直接行動する」だ。一方日本は、北朝鮮・中国の核兵器・ミサイルの情報を把握できていない。それは対外インテリジェンス機関が存在しないためだ。日本には公安調査庁/外事警察/自衛隊情報本部があるが、活動は国内に限られる。
・3つ目の課題が「サイバー時代における安全保障」だ。これも日本は着手し始めた段階だ。
・4つ目の課題が「回復力の強化」だ。具体的には「攻撃・事故・自然災害を皆無にできない。そのためリスク管理/対応能力の強化などで回復力を高める」だ。国土安全保障省(DHS)があり、テロ防止/国境管理/出入国管理・税関/サイバー・セキュリティ/防災・災害対策などに総合的に対処している。一方日本に国土安全保障省に相当する部署はなく、攻撃を受けた場合は地方自治体が対処する。地方自治体に有事に対処できる能力があるとは思えない。
・そもそも日本は何が国益なのかの合意が存在しない。2013年安倍内政権で、ようやく「国家安全保障戦略」が策定された。米中対立が激化しており、「日本の国民・国土・生活様式の保護」を考える必要がある。
○提言1
・米国は「国境と国土の安全確保」を最優先課題としている。一方日本は2013年「国家安全保障戦略」で国益を明文化したが、政治家・官僚・経済界は理解できていない。国益に対する国民的合意が必要だ。
第2章 減税・規制改革・技術投資による民間主導経済 ※前章もそうだが、章題が適切でない気がする。
○繁栄の推進
・トランプ政権は「国家安全保障戦略」で2番目の国益を『米国の繁栄の推進』とする。中ロなどの脅威に対し、軍事力より経済力とした。戦前、日本は経済力より軍事力を重視した。そのため物資不足になり、厭戦感情が広がり、敗れた。明治維新では「富国強兵」を掲げたが、後にそれを忘れ、経済を軽視した(※軍部の暴走だな)。今でも防衛関係者と話をすると、それが懸念される(※詳細省略)。
・トランプ政権は国益『繁栄の推進』のために、5つの課題に取り組むとした(※簡略化)。
1.国内経済の再活性化
連邦機関は不必要な規制を廃止し、税制改革する。連邦政府/州・地方政府は民間と協力し、各種インフラを整備する。連邦支出を削減し、20兆ドルの財政債務を減少させる。労働者には適切な訓練をする。
2.自由・公正・相互互恵的な経済関係
米国は2国間の協定を結び、既存の協定を刷新する。不公正の貿易慣行や腐敗した他国に対抗する。
3.研究・技術・発明・イノベーションの主導
競争力を保つため、データ科学/暗号化技術/自動化技術/遺伝子編集などの最先端の技術開発を優先する。
4.知的財産の保護
米国は努力して知的財産を築いた。不法に盗む国からこれを守る。STEM(科学、技術、工学、数学)の留学生のビザを見直す(※ここだけ少し具体的だ)。
5.エネルギー支配
米国はエネルギーの中心にいる。規制を廃止し、開発を促進する。世界的なエネルギー基盤をサイバー攻撃・物理的攻撃から守る。
・トランプ政権は国益『繁栄の推進』のために、5つの課題「国内経済の再活性化」「自由・公正・相互互恵的な経済関係」「研究・技術・発明・イノベーションの主導」「知的財産の保護」「エネルギー支配」に取り組むとした。最優先する課題を「国内経済の再活性化」とし、これに対し4つの政策を挙げた(※簡略化)。
・連邦機関は規制を廃止し、税制改革する。
・連邦政府/州・地方政府は民間と協力し、交通システム(空港、道路、鉄道)、電気通信インフラを整備する。
・連邦支出を削減し、ビジネスの競争力を高め、経済を再活性化し、20兆ドルの財政債務を減少させる。
・労働者には高賃金が得られるよう、適切な訓練をする。
・経済停滞の原因を規制と高い税金とし、これに対する政策を1つ目とした。日本はこれと逆の考えをしている。政府・官僚が特定の企業・産業に補助金を出し保護し、経済発展させようとしている(※3本の矢で構造改革を掲げたけど)。この20年を見れば、どちらが正しいかは明らかだ(※この間、両国とも政策は左右に振れたと思うが)。
○不必要な規制を廃止し、税制改革する
・1つ目の政策「不必要な規制を廃止し、税制改革する」を補足する。2018年1月就任2年目のトランプは一般教書演説で、この政策を強調する。さらに「240万人の雇用を生み、賃金も上昇し、失業率も低下した。中小企業の景況感も高く、株価も上昇した」と述べ、景気が良くなった事を強調する。2020年3月以降はコロナで悪化するが、それまでは絶好調だった。
・彼の経済政策の第1が減税で、これにより国民の可処分所得が増えた。彼は続けて「史上最大の減税と規制改革を行った。国民の基礎控除は2倍になった。年間所得5万ドル未満の税金をなくした」(※簡略化)と述べる。これは社会保険を充実させるため消費税を引き上げ、官僚が使える資金を増やした日本と対照的だ。彼は減税により国民の可処分所得を増やし、企業に資金の余力を持たせた。彼は米国の主人公を国民・企業と考える。一方日本は、政治家・官僚と考えている。しかも彼は低所得者の児童手当を増額し、年収500万円未満の世帯の所得税をゼロにした。
・経済政策の第2が中小企業に対する減税だ。法人税を35%から21%に引き下げた。この減税法案は2017年12月に成立し、効果が出る。労働者300万人が数千ドルのボーナスを受け取った。アップル社は350億ドルを投資し、2万人の新規雇用を計画する。
・経済政策の第3が規制緩和だ。オバマは環境保護からシェールガス・石炭の開発を妨害した。また多国籍企業の外国移転を支援した。これに対しトランプはエネルギー産業の規制を緩和し、国内での工場建設を支援した。彼は「我々は1年で多くの規制を撤廃した。米国はエネルギーを輸出する国になった。自動車メーカーは米国に工場を建設している。また我々の企業・雇用・富を外国に移転させる不公平な協定を転換させた。これからの貿易は公平で互恵的なものになる。我々は労働者と知的所有権を守る」と述べる。
・彼は米国の主人公を官僚ではなく国民・企業と考え、極力規制を削減すべきと考える。この結果、トヨタ/ホンダも米国に工場を建てた。彼は外資を呼び込み、米国を経済発展させた。
○エクソン・フロリオ修正条項
・「国内経済の再活性化」に対する2つ目の政策が「連邦政府/州・地方政府は民間と協力し、交通システム(空港、道路、鉄道)、電気通信インフラを整備する」だ。日本は中曽根行革で鉄道・通信を民営化し、サービスが飛躍的に向上した。しかし今は水道の民営化に批判的な人がいる(※前者は寡占だが、後者は独占になるのでは)。
・一方米国はインフラ整備を政府がすると非効率になると考え、民間と協力して整備する。ただし外資の参入に対しては、「エクソン・フロリオ修正条項」に基づいてチェックが行われる。これを「日本貿易振興機構」(JETRO)が解説している(※簡略化)。
対米外国投資委員会による対内資本買収の審査
米国は外国からの対内直接投資を歓迎し、公正・同等に扱う。ただし安全保障上懸念がある国内資本の買収案件に関しては、対米外国投資委員会が審査し、大統領が拒否する事ができる。※日本製鉄のUSスチール買収もこれで審査されるのかな。トランプになると危ういかな。
エクソン・フロリオ修正条項
安全保障を害する取引を停止・禁止する権限を大統領に与える。この決定は司法審査の対象にならない。
案件の提出は、当事者に任される。第1段階はレビュー、第2段階は精査を行う。
・「国内経済の再活性化」に対する3つ目の政策が「連邦支出を削減し、ビジネスの競争力を高め、経済を再活性化し、20兆ドルの財政債務を減少させる」だ。非効率な政府・官僚の肥大化は、民間の競争力を低下させると考える。実際、富を生むのは民間であり、政府・官僚ではない(※日本は半導体に莫大な補助金を出しているが)。政府・官僚の歳入は税金であり、これは民間を圧迫する。
・一方日本は民間/高所得者に増税し、再分配している。これに対しトランプは規制改革・減税により経済を再活性化し、増収により財政債務を減らそうとしている。
※政策1~3は何れも小さな政府かな。日本は大きな政府と小さな政府の中間で、歳出(社会保障)は多いが、歳入(税収)が少なく、膨大な財政債務がある。
・「国内経済の再活性化」に対する4つ目の政策が「労働者には高賃金が得られるよう、適切な訓練をする」だ。米国の雇用は流動化され、解雇・転職が容易だが、失業保険は充実している。要するに有能な人はドンドン金持ちになり、生産性は高まり、競争力も高まる仕組みになている。結果、米国は経済成長を続け、日本はデフレが続き、貧乏になった。
○自由・公正・相互互恵的な経済関係
・トランプ政権は国益『繁栄の推進』のための2つ目の課題を「自由・公正・相互互恵的な経済関係」とし、この具体的な政策を「米国は2国間の協定を結び、既存の協定を刷新する。不公正の貿易慣行や腐敗した他国に対抗する」とした(※簡略化)。これにより米中貿易戦争が始まる。
・米中貿易戦争を見ると国際政治で勝つには、徹底的な情報収集・分析に基づく外交・インテリジェンス・軍事・経済の総合的な戦略が重要だと分かる。日経新聞(2019年5月)に「米国は中国からの輸入品2千億ドルに対し課していた追加関税10%を25%に引き上げた。中国が知的財産権保護を後退させたとして、制裁を強化した」とある(※簡略化)。貿易戦争は両国にダメージを与える。しかし今の所、米国経済への影響は見られない。日経新聞の翌日の記事には以下とある(※簡略化)。
関税は米国内の生産コストに影響せず、中国の負担になっている。トランプは以下をツイートしている。
前月の消費者物価は前年同月比2.0%で、制裁関税発動前(2.9%)を下回っている。一方中国の生産者物価は変動が激しく、2018年6月は4.7%だったが、2019年4月は0.9%に留まっている。
・彼は中国以外から輸入できる製品に限って関税を掛けた。そのため中国は関税の負担を引き受け、利益を減らす事になった。同じ記事には以下とある(※簡略化)。
輸入品2.5千億ドル(※前日の記事は2千億ドル)への関税25%の影響を欧州のシンクタンクが推計している。米国の消費者物価は4.5%の上昇に留まるが、中国の生産者物価は20.5%下落する(※価格引き下げかな)。従って負担の8割を中国企業が負う。
根底に中国が大量生産に依存し、他の新興国と競争力に差がないからだ。さらに米国は他国で代替できない製品への追加関税は避けている。
・中国は先進国から知的財産を盗み、安価な労働力でハイテク製品を大量生産した。しかしトランプが弱点を突いた。彼は単純な米中分離論ではなく対中強硬論なのだ。※ある時期、米中分断が米中対立に変わった。
○中国を経済的に追い込む
・トランプ政権は軍事だけでなく、経済・貿易も含め用意周到の対中戦略を採った。産経新聞(2019年5月)に以下とある(※簡略化)。
中国からの輸入品2千億ドルに対する25%の追加関税は絶妙なタイミングだった。第1四半期の成長率は予想を上回る3.2%になり、失業率は3.6%で50年振りの低さになった。対中関税の引き上げにより自動車・服飾品・魚介類などが値上がりするだろうが、GDP成長率などへの影響は軽微だろう。
・彼が「知的財産権保護を推進しないと、貿易戦争を継続する」としたため、対中貿易は減少した。記事を続ける(※簡略化)。
中国経済の減速は鮮明だが、対米輸出関税が引き上げられれば、次世代通信規格5G/人工知能などの長期成長戦略「中国製造2025」に赤信号が灯る。さらに中国の生産拠点はベトナム/カンボジアなどに移転し、製造業の空洞化が起きるだろう。
・実際米国市場を重視する企業は生産拠点を中国から移転させている。ブルムバーグの記事(2019年5月)に「9日から米中通商交渉が始まるが、この結果を待たず、企業は動いている。台湾のデルタ・エレクトロニクスは製造施設を中国外に移転させた」とある。中国の雇用環境は急速に悪化している。NEWSスポットセブンの記事(2019年5月)に「中国の第1四半期GDPは前年同期比6.4%増だった。これは28年振りの低さだ。中国は昨年1千万人が失業し、中国各地で労働争議が起きるだろう」とある。※若者が職に就けないのも当然だな。中国でも労働争議はあるのか。
・中国は対米貿易黒字が年40兆円もあり、トランプはこの削減を目標としてきた。2020年1月中国は米国に譲歩し、経済貿易体制を構造改革する第1段階の経済貿易協定に署名する(※丁度コロナが流行り始めた頃だな。その後は中断かな)。この協定により、中国は技術移転などを強要できなくなる。さらに米国の4分野(製造品、農業、エネルギー、サービス)の商品・サービスを2千億ドル追加輸入する事に同意する。これはあくまでも貿易慣行の是正であって、断絶ではない。
○研究・技術・発明・イノベーションの主導
・トランプ政権は国益『繁栄の推進』のための3つ目の課題を「研究・技術・発明・イノベーションの主導」とし、この具体的な政策を「競争力を保つため、データ科学/暗号化技術/自動化技術/遺伝子編集などの最先端の技術開発を優先する」とした(※簡略化)。
・このポイントは2つある。1つ目は「米国の競争力の優位性を保つ」にある。日本には「2位ではダメですか」と言う政治家がいた様に、競争力の優位性を意識する政治家が少ない。また研究・技術・発明・イノベーションに関心を持つ政治家も少ない(※日本は民間に不関与かな)。一方米国は『繁栄の推進』のために、研究・技術・発明・イノベーションの優位性が重要な事を国家戦略レベルで共有している。
・2つ目のポイントは、この優位性を保つには官僚の権限拡大ではなく「産業及び学術機関の予算増加」としている(※官ではなく産学だな)。一方日本は、研究・技術開発への予算配分を文科省・経産省が決め、研究開発の大半を失敗している。※TSMCなどへの補助金は研究開発ではないが、心配されるな。
・トランプ政権は国益『繁栄の推進』のための4つ目の課題を「知的財産の保護」とし、この具体的な政策を「米国は努力して知的財産を築いた。不法に盗む国からこれを守る。STEM(科学、技術、工学、数学)の留学生のビザを見直す」とした(※簡略化)。技術開発は民間が主導すべきで、これを守るのが政府とした。一方日本の政府は知的財産を守ろうとしていない(※民間任せで技術流出が止められなかった)。さらに技術開発を政府が主導している(※日本には先端○○開発センターが多い)。
・トランプ政権は国益『繁栄の推進』のための5つ目の課題を「エネルギー支配」とし、この具体的な政策を「米国はエネルギーの中心にいる。規制を廃止し、開発を促進する。世界的なエネルギー基盤をサイバー攻撃・物理的攻撃から守る」とした(※簡略化)。ここでも開発の促進は「政府からの補助金」ではなく、「規制の廃止」としている。そして政府がすべきは、「エネルギー資源・技術・サービスの輸出の促進」と「エネルギー基盤をサイバー攻撃・物理的攻撃から守る」とした。
○提言2
・米国は金融緩和を背景に、減税・規制緩和を進め、経済成長を続けている。一方増税を繰り返した日本はデフレに苦しんでいる。米国は『繁栄の推進』のために、研究・技術・発明・イノベーションの優位性が重要な事を国家戦略レベルで共有している(※前の記述をそのままコピー)。一方日本は競争力の優位性を意識する政治家は少ないが、近年「経済安全保障」の名称で意識され始めた。
第3章 軍事力による平和
○ビスマルクの助言
・トランプ政権は「国家安全保障戦略」で3番目の国益を『力による平和』とした。国立国会図書館の原田氏が解説している(※簡略化)。
米国は米国及び同盟国の脅威として、3つの勢力を示した。そして「これらの勢力は技術・情報を用い、政治的・経済的・軍事的な競争を仕掛けている。特に中ロは世界を米国の価値・国益と反対の方向に仕向けている修正主義国家」とした。
・トランプは国内経済が最優先で、その後に軍事力としている。ただし平和維持には軍事力が必要とした。一方日本は「非武装」「外交による平和」を主張する。軍事力がないと外交はできない。尖閣諸島海域では連日中国公船が航行している。中国の核・ミサイルに対抗できない哀しい現実がある。北方領土問題に対し与党の国会議員が「両国トップの政治決断による。共に政策基盤が強固で安倍首相は決断し易い環境にある」と述べた。「力の信奉者」であるロシアが譲歩すると考えているのか。
・苛烈な国際政治を理解できない人が指導者になると独立が脅かされる。明治の元勲もそうだった。伊藤貫『歴史に残る外交三賢人』を引用する。1873年ビスマルク宰相が大久保利通らの岩倉使節団にアドバイスする(※簡略化)。
諸君は不平等条約の改定を目指している。しかし「近代的な法制度を整備した」だけでは改定に応じない。国際法は不変の原則と言われるが、列強は自国の利益になる時は国際法に従うが、利益にならないと従わず、武力に頼る。この弱肉強食が現実だ。
プロイセンもそれに苦しんできた。諸君も富国強兵に努め、実力で独立を守るべきだ。
・ビスマルクの言葉の意味は、「尖閣諸島を守りたいなら、中国をはねのける軍事力を持て」だ。日本は「力による平和」を明言する米国に守られているが、何時までその気なのか。そもそも米国が何時まで守ってくれるかが明確でない(※日米安保条約の突然の破棄もあり得る)。米国は国益を①国民・国土・生活様式の保護、②繁栄の推進、③力による平和、④影響力の向上としている。日本の防衛は④に含まれ、優先順位は低い。日本はこの現実を踏まえ、安全保障を論じるべきだ。
※日本は中国の様々な発展に寄与した。また中国は尖閣諸島を台湾領と考えているかな。
○力による平和
・トランプ政権は国益『力による平和』のために、2つの政策(※課題?)を示した(※簡略化)。
1.軍事的能力の更新
近年の軍縮方針により防衛産業が後退した。これを認識し、防衛産業への投資を奨励する。
過去70年間、核抑止力が30以上の同盟国の安全を保障した。これが古くなったため、刷新する。
宇宙開発/サイバーベースでの優位を維持する。諜報活動も充実させる。
2.外交と内政
米国の存在感を維持し、国益を確保する外交を行う。特に同盟国との経済関係を強める。テロリスト/大量破壊兵器への資金供給を絶つ。
米国に敵対する勢力は情報技術で国内統制を高め、米国を攻撃している(※情報戦、サイバー攻撃かな)。この分野でも競争力を高め、国益にかなう情報を発信する。
・冷戦が終結し、米国は「テロとの戦い」に転じた。そのため大規模な軍隊は不要になり、軍縮を進め、防衛産業が後退した。一方中国は軍拡を進め、インド太平洋での軍事力は米国と拮抗している。そのためトランプは国防費を60兆円から80兆円に急増させた(日本は約5兆円)。
・軍事力の低下は通常の軍事力に限らない。米国は同盟国を「核の傘」で守ってきた(核抑止力)。冷戦終結後、米国は核開発を怠った。一方中国は核兵器/新型ミサイルの開発を進め、相対的に米国の核抑止力が低下した。そのため彼は核兵器刷新を明記した。
・中国・ロシアの核戦力を把握する事が重要だ。ところが「テロとの戦い」により中東の専門家は増えたが、中国・ロシア・北朝鮮の専門家は減った。そのため「宇宙開発/サイバーベースでの優位を維持する。諜報活動も充実させる」とし、インテリジェンスの強化を明記した。
○国際的な宣伝戦
・国益『力による平和』のたの2つ目の政策(※課題?)が「外交と内政」だ。その1つ目の政策が「米国は経済的・軍事的・技術的な存在感を示す。同盟国と経済関係を強める。テロリスト/大量破壊兵器への資金供給を絶つ」だ。同盟国が米国に付いて来るのは、米国に経済力があるからと考える。米国が自由・民主主義を掲げるからとは考えていない。所詮、各国は自国の利益のために動くため、米国に付くのが得策と思わせる必要がある。
・2つ目の政策が宣伝戦だ(※似た言葉に情報戦/心理戦/世論戦などがある。プロパガンダを訳すと宣伝戦だが、自分としては情報戦がピンとくる)。インターネット/SNSの発達で、宣伝戦が活発になっており、特に中国・ロシアが活発に行っている(※ヒラリーがトランプに負けた要因の1つらしい)。そのため「国益にかなう情報を発信するための基盤を整備する」とした。
・宣伝戦について米国のシンクタンク「プロジェクト2049研究所」が『人民解放軍総政治部 中国の特色ある政治戦』で指摘している(※簡略化)。
1.政治戦は中国の安全保障戦略・外交政策で重要だ。どの国も他国の政策に影響を与えようとしている。
2.中国と人民解放軍は、世界で中国に望ましい議論を形成されるため、政治戦を重視する。
3.政治戦の対象は台湾に限らない。「味方を団結させ、敵を崩壊させる」が教義的原則で、世界が中国の台頭を促し、中国を脅威から防御するため、積極的に工作を行っている。
4.プロパガンダを平時・戦時を問わず展開している。
5.人民解放軍の政治戦司令部は、中国共産党中央軍事委員会が指導する人民解放軍総政治部連絡部だ。
6.総政治部連絡部は多様な非政治組織を活用している(※サイバー攻撃で話題になった)。総政治部連絡部には、国際的な友好関係を担当、両岸関係を担当などのプラットフォームがある。
7.総政治部連絡部は政治・金融・軍事・諜報を統括する。西側に類似の組織はない。※米国の国家安全保障会議(NSC)は担当分野が狭いかな。それとも攻撃はしないかな。
・中国は宣伝戦を重視し、共産党/人民解放軍に政治・金融・軍事・諜報を統括する部署を置いている。一方米国・日本に類似の部署はない。
○影響力の向上
・トランプ政権は「国家安全保障戦略」で4番目の国益を『影響力の向上』とする。しかし米国の価値観を押し付ける訳ではなく、「米国は自由・繁栄を熱望する国に手を差し伸べるが、価値観は押し付けない。同盟・連合は自由意志と共通の利益に基づく」とした。
・ところで日本は、自由・繁栄を熱望しているのか。日本は真逆の考え方をしている様に思う。そもそも「影響力の向上」を国益と規定していない。軍事に限れば、マスコミ/政治家は日本が引き籠るのが国益と考えている。現に彼らは国際平和維持活動での自衛隊派遣に反対した。この様に日米の価値観は全く異なる。
・トランプ政権は国益『影響力の向上』のために、3つの政策(※課題?)を示した(※簡略化)。
1.同盟国への支援
第2次世界大戦後、米国は日本・韓国などを支援し、成功させた。引き続き発展途上国を支援する。これは補助金ではなく、企業が資本投資できる環境を整備する。特に米国の脅威になりそうな脆弱国家を支援する。※政情不安定な国を優先するのか。例えばベネズエラかな。
2.多国間フォーラムにおけるより良い結果
米国は多国間協議での主導的立場を維持する。国連は有益な機関だが、原則に立ち戻った改革が必要だ。国際通貨基金/世界銀行/世界貿易機関などでも主導的立場を維持する。
宇宙/サイバースペース/航空/海洋などの共通領域は、国際法の中で米国の国益を守り、自由を保つ。
3.米国の価値観への支持
米国は「個人の尊重」「法の下での平等」を求める人々を支援する。これを脅かす国を外交・制裁で孤立させる。またテロ組織を打倒し、女性の社会参加を支援し、宗教的弱者を守り、人道支援を継続する。※最後に具体的な倫理観が出て来た。
・要は同盟国に対し規制改革・減税による経済成長(※これは記されていないと思う)を支援し、国際的機関での主導的立場を維持し、「個人の尊重」「法の下での平等」を求める人々を支援し、影響力を向上させるとした。
・日本はこの方針を理解し、実践する事が同盟の強化になる。しかしマスコミ/政治家はこれを理解していない(※基本米国に同調していると思う)。それは米国の「国家安全保障戦略」を読んでいないからだ。米国の価値観全てに同調する必要はないが、「国家安全保障戦略」を正確に理解する必要がある。
○世界を6つに分ける
・前出の国立国会図書館の原田氏がトランプ政権の「地域別の戦略」を説明している(※簡略化)。
(5)地域別の戦略
世界を、①インド太平洋(※アジア太平洋?)/②欧州/③中東/④南アジア・中央アジア/⑤大西洋/⑥アフリカに分け、各地域の課題に取り組む。①~③は好ましくない方向に進まない様、同盟国と協力する。他の地域で米国に脅威を与える国があるが、適切な支援を行い、パートナーにする。
①インド太平洋は中国・北朝鮮が脅威で、韓国/日本/オーストラリア/ニュージーランド/インド/東南アジアの同盟国と協力する。※ところでどの国が米国の同盟国なのか。
政治面では、この地域への関与を強める。朝鮮半島での核不拡散のため同盟国と協力する。
経済面では、公正で相互互恵的な2国間の貿易合意を追求する。※これは全地域かな。
軍事面では、プレゼンスを維持し、必要であれば敵対勢力を打倒する。北朝鮮に対しては日本・韓国と協力し、圧倒的軍事力で対応し、非核化を受け入れさせる。※北朝鮮だけ個別に言及しているのか。当時はそんな状況だったかな。
・米軍は6つの方面軍に分かれる。インド太平洋軍/欧州軍/中央軍(中東担当)/北方軍(北米担当)/南方軍(中南米担当)/アフリカ軍だ。これまでは欧州/中東を重視し、その専門家も多かった。日本はインド太平洋に含まれるが専守防衛しかしないため、「頼りにならない同盟国」だ。しかし安倍政権で一変し、インド太平洋構想を掲げ、インド太平洋/アフリカ大陸/米大陸まで外交を拡げる。2015年集団的自衛権の行使も可能にする。この構想と平和安全法制の成立により、日本は「頼りになる同盟国」に変わりつつある。
○変遷した日米同盟
・ここで日本の防衛法制と日米同盟を解説する。憲法は全く変わっていないが、防衛法制・日米同盟は大きく変わってきた。第1段階は終戦直後で、日本は占領され、非武装となった。第2段階は1950年朝鮮戦争により日本は再軍備(警察予備隊)する。
・第3段階は1952年日本は講和条約で独立する。日米安保条約により米軍が日本に駐留する。しかし米軍の「日本防衛義務」は記されなかった。第4段階は1954年自衛隊が創設され、1960年岸首相の下で日米安保条約が全面的に改定される。この日米安保条約の第5条に「日米共同の日本防衛」が明記される。第6条(極東条項)に米軍が日本に拠点を置き、日本周辺を防衛する地域安全保障が明記される。
・第5段階は1990年小渕政権で周辺事態法が成立し、北朝鮮などに反撃する米軍を「後方支援」(武器・弾薬・労務の提供)が可能になる。第6段階は2015年安倍政権で「平和安全法制」が成立し、「集団的自衛権の限定的な行使」が可能になる。これにより「後方支援」だけでなく、「米艦の防護」も可能になる。さらに国連PKO/米軍だけでなく、国際平和のために活動する軍隊を支援する法制度を一般法にする(※ウクライナも対象なのか)。
・この様に防衛法制は整備され、日米同盟は進化した。トランプ政権は「地域別の戦略」で、「インド太平洋は中国・北朝鮮が脅威で、韓国/日本/オーストラリア/ニュージーランド/インド/東南アジアの同盟国と協力する」とした。ところが肝心の日本は公式文書で中国を脅威としていない。
○提言3
・米国は国内経済を最優先し、その後に軍事力を位置付けている。「軍事力による平和」のため、国内経済の活性化を重視している。
・米国は「軍事力による平和」を明言している。しかし同盟国保護の優先順位は決して高くなく、日本を何時まで守るか分からない。これを踏まえ、安全保障/日米同盟を論じるべきだ。
第4章 対中関与政策は誤り
○対中関与政策を誤りとしたトランプ
・2020年5月トランプ政権は報告書『中国に対する米国の戦略的アプローチ』を公表し(※以下報告書)、「過去20年の対中関与政策は誤り」とする。オバマ政権は「国家安全保障戦略」(NSS2015)で中国に対し「協力と注視」とした。2017年12月トランプは「国家安全保障戦略」(NSS2017)で「米国の価値・利益と正反対の世界への転換を図るライバル」とする。そして経済・通商・安全保障・人権・環境における課題・対抗策を列挙したのが、この16ページの報告書だ。
・米国の動向を分析する際は、この様な正式な文書を踏まえるべきだ。それなのに日本のマスコミは、これらの文書に触れない。それはジャーナリストに経済・軍事・インテリジェンスの素養が不足しているからだ(※マスコミに手厳しい)。ただ古森氏が「米国は報告書に『中国は米国主導の国際秩序を壊そうとしている。これを抑止するため中国と対決する』と記した。これは米中全面対決の宣言だ」と指摘する(※北京/中国共産党などが混在するが、極力中国で統一)。この指摘だと共産党政権の打倒を目指している様だが、実際は軍事力・経済力を増強し、同盟国との関係を強化し中国の横暴を阻止する考えだ。
○対中関与政策から対中競争政策へ
・この報告書は、序言/チャレンジ/アプローチ/実行/結論の5章になっている。序言で、中国を経済的に支援し、民主化を促す「対中関与政策」を行ってきたが、中国によって否定されたと記している(※報告書を翻訳し、引用しているが省略)。米国は中国が民主化され、国際社会の一員になると期待したが、裏切られた。中国は改革開放/民主化を怠った。中国は「自由で開かれた国際社会」のルールを守らず、このルールを捻じ曲げようとしている。
・実際、中国企業は外国企業の知的財産に対し、適切な対価を払っていない。外国企業の損害は数千億ドルに及ぶ(※報告書を翻訳し、引用しているが省略)。中国は知的財産使用料を払わず、安い製品で世界を席捲した。日本製品も世界市場から駆逐された。東芝/シャープ/パナソニック/ソニーなどの電化製品部門は中国・台湾企業に買収された。日本の工場は中国・台湾に移転し、地方は衰退した。
・中国は国際ルールを捻じ曲げようとしている(※報告書を翻訳し、引用しているが省略)。2015年中国は「中国製造2025」を公表した。2045年までに米国に代わる製造覇権国家になるとし、10の分野(半導体・通信技術、AI、航空・宇宙、海洋・船舶、EV・新エネルギー車、電力、農業用機材、高速鉄道、新素材、バイオ医療)を挙げた。2017年国家情報法を制定し、「いかなる組織も個人も国の情報活動に協力する」とした。外国企業でも中国政府に知的財産/個人情報を提出する義務を負った。
・トランプは徹底的に調査し、戦略を見直す(※報告書を翻訳し、引用しているが省略)。中国との摩擦が増える事を覚悟の上で、「対中関与政策」から「対中競争政策」に転換する。そして目的は共産党政権の体制変革ではなく、米国力の上昇と中国の問題行動の減少とした。報告書を見る(※簡略化)。
競争アプローチの目標は中国の最終状態の決定ではなく、国家安全保障戦略の国益(国民・国土・生活様式の保護、繁栄の推進、力による平和、影響力の向上)を守る事だ。
競争アプローチの目的は、①中国が掲示する課題に打ち勝つために、制度/同盟関係/パートナーシップの回復力の向上、②米国の国益や同盟・パートナーに有害な中国の行動の軽減である。
○対中競争政策は国交断絶や米中分離ではない
・「対中競争政策」は国交断絶や米中分離(デカップリング)ではない。報告書を見る(※簡略化)。
中国と競争しても利害が一致する場合は協力する。競争は対立・紛争に繋がらない。中国の発展を止めたり、中国との関係を断ち切るものではない。中国と公正な競争をし、両国の企業・個人の安全・繁栄を期待する。
・彼は中国を脅威としたが、中国を打倒・分離・包囲するものではない。共産党政権を打倒しても、それに替わる政治勢力は存在せず、混乱するだけだ。私は米軍関係者と尖閣問題・台湾問題で議論してきたが、中国を軍事的に打倒しようと考える人はいない。報告書には米軍の強化と同盟国との関係強化に注力するとある。米中経済関係が深まり、分離する事は難しい。そもそも中国市場を手放すつもりはない。分離ではなく制御を考えている。具体的には知的財産の使用料の支払や知的財産の侵害の禁止である。できれば中国の資金持ち出し規制の緩和を狙っている(※中国の債務の罠は有名だが)。
・中国はアジア/アフリカでネットワークを構築している。インド太平洋で米国に同調するのは日本/オーストラリア/台湾くらいで、中国に取り込まれつつあるインド/ASEANを引き戻そうとしている。報告書に国内/欧州/アジア太平洋でのパートナーシップの重視を記している(※簡略化)。
中国との競争に勝つためには、利益・価値を共有するパートナーシップ構築が必要だ。政府の重要なパートナーには、連邦議会/州・地方政府/民間/市民社会/学界が含まれる。議会は中国の不正を発言してきた。そして政府の戦略目標を達成するための法的権限・資源を提供している(※少し分り難い。法律の制定と予算かな)。2019年EUは『EU-中国-戦略的展望』(※内容不明)を出版するが、政府は同盟国/パートナーの明敏・強固なアプローチを認識している(※これも難解)。
米国は「自由で開かれた秩序」を支持する同盟国/パートナー/国際機関との協力関係を構築している。これは国防総省の『インド太平洋戦略報告書』(2019年)や国務省の『自由で開かれたインド太平洋:共有されたビジョンを推進する』(2019年)などに記載されている。
米国は、「インド太平洋ビジョン」(ASEAN)、「自由で開かれたインド太平洋ビジョン」(日本)、「地域の全ての人のための安全保障と成長」(インド)、「インド太平洋構想」(オーストラリア)、「新南方政策」(韓国)、「新南方政策」(台湾)と連携している。
・米国政府は国内では、連邦議会/州・地方政府/民間/市民社会/学界を味方に付けようとしてきた(※国内に味方でない集団がいるのは、不思議な感覚だ)。日本も対中強硬路線を構築するには経済界・学界を味方に付ける必要がある(※経済界は規制に反対だからな)。
・対外的には、同盟国/パートナー/国際機関との協力関係を構築してきた。自由主義陣営の各国が「自由で開かれた秩序」に基づく構想を公表している。日本も米国の「対中競争政策」に同調し、「対中関与政策」を「対中競争政策」に転換した(※詳細説明はない)。
・日本には「中国には毅然と立ち向かうべきだ」と主張する人がいる。そう言った人は米国の後ろ盾を信じている。米国でさえ軍事対決を避け、減税・規制緩和で経済を強化し、同盟国との関係を深めようとしている。国際政治には軍事力・経済力が重要で、気合・愛国心ではどうにもならない。現実を冷静に分析する必要がある。
・特に米国の国家安全保障戦略などは重要だ。それなのに外務省はこれらの資料を翻訳しない。そのため経済・軍事・インテリジェンスを分析できる外交官はおらず、マスコミ/外務省に対外情報を頼る政治家もこれらの資料を把握していない。マスコミもこれらの作業をしておらず、願望で国際政治を論じている。そのため日本は負け続ける。勝つためには、米国・中国の政府文書などを分析・理解する必要がある。
○経済・価値観・安全保障、3つのチャレンジ
・報告書『中国に対する米国の戦略的アプローチ』の第2章「チャレンジ」で、、経済・価値観・安全保障の3分野を「中国のチャレンジ」とし、調査・分析している(※簡略化)。
2001年中国はWTOに加盟し、市場志向の経済・貿易体制に変貌すると期待されたが実現しなかった。
1980年代以降、中国は知的財産保護の国際協定に署名してきた。それなのに偽造品の63%が中国製だ。この損害額は数千億ドルに達する。
中国は外国の政府/エリート/企業/シンクタンクなどに、中国の路線に沿うように圧力を掛けている。
中国は世界最大の温室効果ガスの排出国で、世界最大の海洋プラスチック汚染の発生源だ。
2017年以降、中国は100万人以上のウイグル人などの少数民族や宗教団体メンバーを再教育収容所に収容した。礼拝所の破壊、信者の逮捕、強制的な信仰放棄、宗教的教育の禁止などの宗教的迫害を行っている。
中国は東シナ海・南シナ海・台湾海峡で、挑発的・強圧的な軍事・準軍事的活動を行っている。
外国企業は中国の軍民融合に知らない内に加担させられている。このデュアルユース技術で中国は反対勢力を弾圧し、米国・同盟国・パートナーを脅迫している。※監視カメラ/ドローンなどで、半導体/AIも含まれるかな。
・報告書を続ける(※簡略化)。
国家安全保障戦略は過去20年間の政策の見直しを要求している。この政策は「国際機関/国際商取引に参加させると、良識あるパートナーになる」が前提である。この前提が誤りと判明した。
米国は自由で開かれたルールに基づく国際秩序を弱める中国に応じない。
※報告書『中国に対する米国の戦略的アプローチ』の第3章「アプローチ」/第4章「実行」/第5章「結論」の解説はないみたい。
・一方日本は「対中関与政策」をどう総括しているのか。日本は尖閣諸島を侵犯され、日本企業は嫌がらせを受け、知的財産を不正利用されている。ウイグルでの人権弾圧も許せない。米国のように経済・インテリジェンス・軍事力で追い詰める必要がある。「米国に従えば良い」との意見がある。「対米協調」は必要だが、「対米追従」になってはいけない。日本は各省庁が協力して、20年間の対中外交を検証し、報告書を作成・公表すべきだ。ただし日本に対外インテリジェンス機関がなく、調査・分析する能力がない。これを一刻も早く創設すべきだ。
○バイデンはトランプ路線を継承
・2020年11月大統領選でトランプはバイデンに敗れる。2021年3月バイデンは『暫定国家安全保障戦略指針』を公表する。トランプ路線を継承し、対中競争のため国際ルールが必要で、同盟関係を重視するとした(※指針が和訳されているが省略)。
・2021年4月菅首相は訪米し、バイデンと会談し、共同声明を発表する(※今年も全く同様だな)。この共同声明は経済第1位と第3位の大国が発表したもので重要だ。そして日米対中国の構図は変わらないとした(※共同声明が引用されているが省略)。ここで重要なのが「日米両国は地域の課題に対処する備えができている」だ。これは日本防衛だけでなく、インド太平洋を指している。
・共同声明には、「日米両国は地域の課題に対処する備えができている。日米同盟は、普遍的価値及び共通の原則に基づく自由で開かれたインド太平洋と経済的繁栄をビジョンとする。日米両国は主権と領土一体性を尊重し、平和的な紛争解決への威圧に反対する。日米両国は国連海洋法条約に記される航行・飛行の自由を推進する」とある(※簡略化)。ここで重要なのが「日米両国は地域の課題に対処する」とあり、日米同盟は日本防衛だけでなく、インド太平洋のためにある。
・さらに「日米同盟の強化」を記している(※簡略化)。
菅首相とバイデン大統領は日米同盟の強化にコミットし、2021年日米安全保障協議委員会の共同発表を支持した。※共同発表の内容は不明。
日本は防衛力を強化する。米国は核を含むあらゆる能力を用い、日米安全保障条約の下での日本防衛に揺るぎない支持をする。日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用される事を確認した。
安全保障環境は困難を増しており、日米両国はサイバー・宇宙を含む抑止力・対処力を強化する。日米両国は防衛協力の基礎であるサイバーセキュリティ/情報保全強化/技術的優位の重要性を強調した。
・声明は順番が重要だ。①「日本は防衛力を強化する」とあり、防衛費の増額が公約になった。②「米国は核を含むあらゆる能力を用い・・」とあり、核持ち込みを含めた議論が改めて出てくる(※これは密約なのでは)。③「日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用される事を確認した」とあり、尖閣防衛を約束した。④「日米両国は尖閣諸島に対する日本の施政を損なう・・」とあり、日米の連携を確認した。⑤「安全保障環境は困難を増しており、日米両国はサイバー・宇宙を含む抑止力・対処力を強化する」とあり、強化は通常兵力だけでなく、日本は米国と連携し強化する。
○中国という地域の課題
・菅首相はバイデンと連携し、日米同盟を強化し、「地域の課題」のトップに中国を掲げた(※共同声明が引用されているが省略)。まず①「ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動への懸念を共有」とあり、中国を名指しで非難した。②「日米両国は普遍的価値及び共通の原則で連携し、地域安定のための抑止を認識した」とある。③「日米両国は東シナ海における一方的な現状変更に反対し、南シナ海における中国の主張・行動にも反対する。南シナ海において国際法で律せられた航行・飛行の自由が保証される事を再確認した」とあり、南シナ海も含めて「共通の利益」となった。台湾については④「日米両国は台湾海峡の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」とある。人権問題については⑤「日米両国は香港・ウイグルにおける人権状況を懸念する。日米両国は中国と率直な対話をする。共通の利益を有する分野は中国と協働する」とある。インド太平洋諸国でウイグル問題を取り上げているのは日本だけだ。「日本は何もしていない」「日本は親中派」と言われるが、日本は既に中国と対峙している。※日米は共に中国に対し「政冷経熱」かな。
○提言4
・国際政治は気合ではなく、軍事力・経済力がものを言う。トランプでさえ全面的対決は難しいと考えていた。※引き金を引いたら大事だ。
・国際政治は願望ではなく、冷静な現実把握が求められる。米国の国家安全保障戦略などの重要な報告書を分析するのが重要だ。
・日本は「対米追従」ではなく「対米協調」になる必要がある。そのためには各省庁の力を結集し、報告書を作成・公表すべきだ。対中戦略を策定するため、中国問題を調査・分析する対外インテリジェンス機関を創設すべきだ。
第5章 自民党「経済安全保障戦略」
○経済力は国力の根源
・トランプ政権になり、米中対立が深まっている。これを日本はどう考えているのか。今はインターネットに情報が溢れ、専門家の意見も簡単に入手できるが、それらは根拠が曖昧だ。本書は公刊情報に基づく。そこで自民党の公刊情報を分析する。
・2020年12月、自民党の「新国家秩序創造戦略本部」(※以下戦略本部)が提言『経済安全保障戦略策定に向けて』を発表する。産経新聞がこれを報じている(※簡略化)。
情報保全へ資格制度検討を 自民党戦略本部、16分野で提言 ※セキュリティ・クリアランスに限定?
新国家秩序創造戦略本部が国家戦略の策定に向けた提言を発表した。重要技術の保全や育成、国際的ルールへの関与など16分野を挙げている。
「米中対立により国際経済の分断が懸念される。日本の独立・生存・繁栄を確保するため、経済安全保障戦略の策定を求める」とした。
具体的には、「日本が優位な産業・技術の特定」「技術・情報の流出を防ぐ資格制度の検討」「大学・研究機関・企業での機微情報管理の強化」「留学生・外国人研究者受入の厳格化」「国際機関のトップに閣僚経験者を登用する」などを提案している。
国家戦略に法的根拠を持たせるため、2022年通常国家で「経済安全保障一括推進法」の制定を求めた。
・2020年6月自民党は国家安全保障戦略を検討する戦略本部を創設し、本部長を政調会長・岸田氏とする。近年インターネットの発展で新聞・テレビは廃れている。これによりサイバーや宇宙空間が戦場に加わった。2015年中国は陸海空の3軍体制から、ロケット軍(ミサイル、核)と戦略支援部隊(宇宙、サイバー、電磁波など)を加えて5軍体制にする。しかも「軍民融合体制」を掲げ、民間の技術を軍が使用できる態勢にした。これを受け、米国は14分野(人工知能、高度半導体製造、量子技術、バイオテクノロジーなど)を「機微技術」とし、輸出管理を強化する。
○機微技術の取得ルート
・機微技術の取得活動が多様化・巧妙化している。経産省は7つの取得活動を想定している。第1は産業スパイだ。これは「不正競争防止法」の対象で、犯罪になる。第2はサイバー搾取で、サイバー攻撃でデータ・技術を盗む。これも犯罪になる。第3は輸出で、第3国のフロント企業を経由し軍事転用可能な品目を輸入するケースだ。トランプは「輸出管理改革法」を制定し、機微技術の中国への輸出を禁止した。第4は投資で、中国企業が外国企業を買収するケースだ。トランプは「外国投資リスク審査近代化法」を制定し、審査する様にした。安倍政権も「外為法」を改正し、同様の対応にした。
・第5は共同研究で、中国の大学・研究機関が外国の大学・研究機関と共同研究するケースだ。日本学術会議は中国の研究機関と協定を結んでおり、機微技術を流出させたと疑われている。中国には「千人計画」があり、優秀な外国の研究者を招聘している。米国は中国から予算を得た研究者への補助を禁止した。米国では中国軍人が身分を偽ってビザを取得し、大学で研究していた4人を逮捕している。これによりビザ発給を厳格化している。日本も厳格化する方針だ。第6は人材獲得で、中国企業が技術者をヘッドハンティングするケースだ。これには待遇の見直しが必要で、欧米各国は機微技術への助成を増やしている(※就職の自由があるので、これは難しい問題だ)。※似た問題に研究者の流出がある(中国からは獲得)。日本の大学では研究費が取れないので、中国の大学で研究している人がいる。
・第7は強制技術移転で、中国に進出した企業が中国当局/取引企業から技術/データの開示を要求されるケースだ(※新幹線もこれかな)。これはWTOの貿易協定に違反する。これまでは中国に進出した企業は中国市場を失いたくないため泣き寝入りしていた。そこでトランプは中国と貿易協定を結び、強制移転を禁止し、知的財産権の保護を約束させた。
・自民党の提言に戻る。これに16分野(①資源・エネルギー、②海洋開発、③食料安全保障、④金融インフラ、⑤情報通信インフラ、⑥宇宙開発、⑦サイバーセキュリティ、⑧リアルデータ利活用、⑨サプライチェーン、⑩技術優越、⑪イノベーション力、⑫安全保障・土地法制、⑬大規模感染症、⑭インフラ輸出、⑮国際的ルール、⑯経済インテリジェンス)を記している。これらに、経産省/国交省/農林水産省/総務省/財務省・金融庁/文科省/法務省/厚労省/外務省/警察など全ての省庁が関与する。これまでは防衛省が主体で、外務省/経産省/財務省が関与するだけだった。
・安倍政権になり、2013年「国家安全保障会議」「国家安全保障局」が設置され、官邸主導で国家安全保障戦略が策定される仕組みに変わった。そして今回、戦略本部が提言を作成した。そして提言に「主要省庁が安全保障戦略を策定し、実行する部署を新設する」としている。2020年4月(※戦略本部の創設は6月、自民党の提言は12月)、国家安全保障局に経済班を新設し、欧米と連携し、先端技術を守るための政策の検討を始める。
○自民党は経済安全保障戦略の策定へ
・提言の内容を解説する。「はじめに」に「経済は国力の根源だ。全ての国家が経済の優位性を追求している。今は国際秩序が揺らぎ、経済が国家間対峙の最前線になっている」(※簡略化)とある。さらに「かつては国連などで経済が武器として使われた。これは国際秩序/ルールに違反した国に対する制裁だった。ところが近年は経済的手段で自国の意向を他国に押し付けている。経済的手段を自国の利益を追求する武器にしている」(※簡略化)とある。
・グローバル化により、国際ルールの形成は他国との連携が必須になった。提言には「国家の生存を脅かす基盤は資源だけでなく、製造能力/技術/サイバー空間まで広がった。国家の独立・生存・繁栄/自由・民主主義/基本的人権などの普遍的価値・秩序を維持するためには、同盟国・同志国と連携し、高次の戦略的発想が必要だ」(※簡略化)とある。米中などはこれを意識して国家戦略を策定しているが、日本は遅れている。提言に「各国は『国家安全保障戦略』に経済安全保障を位置付けている。しかし日本はこの問題意識が希薄で、環境整備もできていない」(※簡略化)とある。
・日本はデフレを放置し、経済を低迷させた。しかし自民党は経済安全保障に本腰を入れ始めた。国民はこれを支援すべきだ。提言には以下とある(※簡略化)。
自民党は2020年6月、戦略本部を設立し、国力を高め、国益にかなう国際秩序の形成について議論してきた。経済基盤を守るためには何が必要かを見極め、平時だけでなく有事にも備えなければいけない。
日本は国際社会で不可欠の存在でなければいけない。新たに生じる課題を解決する術も持たなくてはいけない。
国家の主役は国民である。国民の予見可能性を高め、国民の挑戦を後押しするため、国家の方針を示す必要がある。この思いで以下を提言する。
○米国に倣い、経済安全保障戦略の策定へ
・提言の「1.経済安全保障戦略の策定の必要性」には、「経済活動は国境を超えグローバル化し、国家間の相互依存は深まった。一方で主要国の相対的な影響力は変化し、パワーバランスも変化した。そんな中、この経済依存関係を政治目的に利用する動きが見られ、分断がもたらされる状況にある」(※簡略化)とある。ソ連が崩壊し、ヒト・モノ・カネの移動が自由化され、国際経済が飛躍的に成長した。特に中国などのアジア太平洋諸国の成長が目覚ましい。中国の台頭は米国主導の国際秩序を脅かしている
・日本には中国の軍事に警戒感を抱く人が多い。中国は自由貿易体制の下で日米欧の技術を盗み台頭した。そしてその自由貿易体制を破壊しようとしている。このリスクが顕著になったのが、2020年以降のコロナ危機だ。提言に「コロナ危機は日本の脆弱性を突き付けた。国際社会に国際協調も生み出されたが、自国を第一とするアプローチもあり、不確実性は高まった」(※簡略化)とある。
・日本はマスク/人工呼吸器などを中国に依存し、この問題意識が国際社会に広がった。提言には「日本を取り巻く環境が急速に変化している。日本の独立・生存・繁栄/自由・民主主義/基本的人権を維持するため、包括的・戦略的に考え、主導的に動く必要がある」(※簡略化)とある。これには2つの論点がある。①中国などにより自由貿易体制が機能しなくなる恐れがあり、供給を確保する体制の構築が必要。②自由貿易のルールを守らない中国などから、自由貿易体制をどう守るか。※自立や国際ルール維持より、中国の台頭抑止を第1目的としている気がする。
・「包括的」としたのは、個別対応は講じられてきたからだ。提言には「エネルギー/食料においては、経済と安全保障の観点から政策が採られた。貿易・投資においても、経済と安全保障のバランスが採られた。技術においても、輸出管理/投資規制により経済と安全保障が連携された」(※簡略化)とある。※サイバー/宇宙/先端技術(半導体など)が欠けていたかな。
・オイルショックにより石油が備蓄され、食糧危機によりコメが備蓄された。貿易・投資においては、北朝鮮への経済制裁が行われ、テロ防止のため軍事転用物資の輸出が規制された。この様に個別の対応はされてきたが、「包括的な戦略」は策定されていない。※ボトムアップ対応はされてきたが、トップダウン対応がされていないかな。
・安倍政権で国家安全保障戦略が策定されるが、経済安全保障戦略は盛り込まれていない。提言に以下とある(※簡略化)。
2013年国家安全保障戦略が策定されるが、国益を経済面からどう守るかは記されていない。
一方米国の国家安全保障戦略(2017年)の第2章「繁栄の促進」で「経済安全保障は国家安全保障そのもの」と明記している。そしてその理念の下に、「国内経済の再活性化」「自由・公正・相互互恵的な経済関係」「研究・技術・発明・イノベーションの主導」「知的財産の保護」「エネルギー支配」の5つの柱を置いている。これは日本への示唆になる。
・トランプは国家安全保障戦略に経済安全保障戦略を盛り込み、中国に貿易戦争を仕掛けた(※日本は中国への配慮・遠慮がある)。この中身を以下と解釈する(※簡略化)。
①法人税減税/規制改革で国内経済を活性化する。
②米国がカナダ/メキシコなどから輸入する自動車などに対し、米国製品の使用率を引き上げ、製造業を保護する。中国などのダンピング輸出に関税を掛ける。
③防衛費の10兆円以上を技術開発費として米国企業・研究機関に投資する。
④規制緩和によりシェールガスなどの生産を増やし、中東への依存を減らす。電気代を低く抑え、製造業のコストを削減する。
・自民党はトランプの事例から、経済安全保障戦略を策定すべきとしてる。提言に「日本は各国の動向に左右されず、日本の独立・生存・繁栄を経済面から維持する戦略を打ち立て、主導的に動く必要がある。政府は具体的な取組を明確にし、経済安全保障戦略を策定すべきだ」(※簡略化)とある。
○増加傾向にある米国の対中投資
・グローバル化により、経済安全保障は日本だけで対応できない。提言が優れているのは、国際社会の動向を分析している点にある。例えば日本が中国に先端技術を渡さない様にしても、欧州や東南アジアから渡ってしまうかもしれない。そこで提言の「3.日本を取り巻く経済安全保障環境」を解説する。まず「主要国は国家安全保障の枠組みで、経済安全保障の取組を強化している」とし、7つの国・地域の動向を分析している。まず米国を分析している(※簡略化)。
(1)米国
米国は国家安全保障戦略の第2章「繁栄の促進」で「経済安全保障は国家安全保障そのもの」と明記している。「米国の繁栄と安全が経済的挑戦に曝されている」とし、「国内経済の再活性化」「自由・公正・相互互恵的な経済関係」「研究・技術・発明・イノベーションの主導」「知的財産の保護」「エネルギー支配」を注目すべき5分野とし、具体的取組を進めている。
・米国は自国の繁栄・安全に何が必要かを考え、取り組んでいる。実体経済を減税や規制改革で活性化し、機微技術の研究\製品化を考えている。一方日本の言論人は自由経済の断絶を叫んでいる。提言を続ける(※簡略化)。
戦略的競争相手とした中国に対する経済安全保障での対応は厳しくなっている。特に通信分野での措置により、日本を含め国際社会のビジネスに影響を及ぼしている。
例えば通信分野では、2018年8月「国防授権法2019」の「輸出管理改革法」「外国投資リスク審査現代化法」により、中国企業の通信・監視関連の機器・サービスの購入・利用が禁止された。また2020年10月「重要・新興技術に関する国家戦略」で、重要・新興技術における世界的リーダーシップが重視された。
・まずは自国経済の活性化と機微技術の促進であり、次が対中政策とした。そしてこの対中政策が国際社会のビジネスに影響を及ぼしているとした。そして「輸出管理改革法」「外国投資リスク審査現代化法」に触れ、対象は中国を含めた全ての企業が対象になっているとした。これは日本企業も対処で、1980年代の日米貿易摩擦を忘れてはいけない。
・さらに提言に「一方で米中の貿易・ビジネス関係は深く、米国の対中投資も増加している」とある。繰り返すが米国の経済安全保障は「米国の繁栄と安全」であって、中国との断絶ではない。日経ビジネスは「米中の投資関係は世界最大規模に達した。米国の投資家は1.1兆ドルの中国株を保有している」(※簡略化)と報じている。米国はあくまでも知的財産の保護や資本取引の自由化を求めている。それなのに日本の保守系雑誌は米中デカップリングを主張した。
・提言は以下と総括している(※簡略化)。
以上の動向は示唆に富む。米国は同盟国で、外交・安全保障の基軸である。同時に、日本も中国と経済関係が密接である。また米中の経済成長率からすると、2030年頃に中国がGDPで米国を超えると考えられる。この様な状況であり、日本は経済安全保障でも独自の取組を強化しつつ、米国と連携し、国際的連携を主導する必要がある。
・バイデン政権で当然、対中政策は見直される。こうした中、「日本独自の取組を強化し、米国と連携し、国際的連携を主導すべき」とした。
○提言5
・安倍政権以前は安全保障は防衛省が担当し、他の省庁は副次的にしか関与しなかった。2013年「国家安全保障会議」「国家安全保障局」が設置され、官邸主導で国家安全保障戦略を策定し、関連省庁に指示する仕組みになった。これを理解する必要がある。
・日本は米国の国家安全保障を踏まえ、日本の経済安全保障を策定・実行すべきだ。
第6章 中国の経済・技術覇権戦略
○インド太平洋諸国は対中経済安全保障の論議を開始
・2020年12月自民党が発表した提言『経済安全保障戦略策定に向けて』は、米国に次ぎオーストラリアを分析している(※簡略化)。
(2)豪州
豪州は中国関係の悪化前から国民の安全、国家の強靭性、国家の資産・インフラの防護を国益とし、サプライチェーンの強靭化などの政策を策定していた。
豪州経済は中国の資源需要に支えられており、2005年頃から豪中間で自由貿易協定が交渉された。しかし2015年ダーウィン港が中国企業に売却されるなど、外国企業による買収が進んでいる。※中国は帝国主義時代にされた事を、やり返している感じだな。
これにより2016年「外国投資委員会」を強化し、電力・港湾・水道などの国家安全に関わる施設を登録させた。さらにメディア・通信・エネルギーにおける外国投資の事前通知を義務化する予定だ。
・オーストラリアは対中貿易による経済成長を目指しており、親中政策を採り、中国からの移民も多い。米国は岩国/沖縄/グアム/ダーウィンを対中軍事拠点にしており、このダーウィン港を重視していた。これに米国が激怒し、2016年オーストラリアが安全保障戦略を策定する。安倍政権がクアッド(QUAD)を提唱したのが2012年で、4年遅れている(※オバマの時だな。クワッドの表記もあるが、クアッドで統一)。クライブ・ハミルトン『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』に中国の浸透工作が書かれている。外国投資の事前通知義務化も、日本は2019年に終えている。クアッドを提唱したのは安倍政権で、オーストラリアは付いて来た側だ。
・提言が次に解説するのがインドだ(※簡略化)。
(3)インド
インドは国家安全保障戦略を明らかにしていないが、全方位的な「戦略的パートナーシップ」を拡大している。インドは第3世界の雄として中ロに近い立場だったが、中印国境紛争やスリランカ/ブータンへの中国浸透により、民主主義/多様性/安全保障/経済ルールを軸とする欧米とも協調している。
インドは技術開発人材を抱え、国内外で新技術企業の経営者も輩出している。GDPも人口も大国化している。経済面での安全保障にも関心が高く、クアッドの重要性は増している。
・インドは非同盟中立で全方位外交である。しかし中国産部品・資材への依存の高まりが危機感になり、日本/オーストラリア/米国との経済関係を強化している。
○対中依存が進む太平洋地域
・次に提言は太平洋地域の動向を分析している(※簡略化)。
(4)インド太平洋地域
日本は「法の支配に基づく自由で開かれた秩序」をいち早く提唱した。この「自由で開かれたインド太平洋」を切っ掛けに、米国/豪州/インド/ASEAN/欧州が連携し始めた。そんな中、インド太平洋地域は独立と経済的繁栄のため独自の試みを続けている。
例えば、道路・鉄道・空港・港湾などの基幹インフラを特定の国に依存するのを問題とし、「地域の連結性」を重視する様になった。しかし中国の圧倒的な資金/製造能力/市場を背景とする戦略により、この地域の脆弱性は高まっている。この地域が「自由で開かれた地域」である事は、日本の戦略的自律性・戦略的不可欠性の獲得に重要である。
・安倍政権が「インド太平洋戦略」を提唱し、中国の「一帯一路」政策の危険性が知られる様になり、中国への警戒心が高まってきた。しかしこの動きは大きくなっていない。そのため「この地域が『自由で開かれた地域』である事は、日本の戦略的自律性・戦略的不可欠性の獲得に重要」なのだ(※戦略的自律性・戦略的不可欠性の説明が欲しい)。しかしインド太平洋地域に中国に立ち向かえる国はない。そのため日本/米国/オーストラリアはインド太平洋地域を自由主義陣営に引き込む工作を続けなければいけない。
・次に提言は欧州を分析している(※簡略化)。
(5)欧州
欧州諸国は英仏独と共に、国家安全保障戦略の中で国家の安全と繁栄を国益とし、そのため産業界と連携し重要インフラの脆弱性を克服し、技術革新を支えるとしている。
特にフランスは産業面・技術面での野心を重視しており、戦略的不可欠性を意識している。英国は経済と国家安全保障は結び付いているとし、技術を保護し、脅威に対処するとしている。ドイツは国防白書で、国・産業界・学術界・社会におけるリスクの共通理解が必要としている。
対中認識はバラバラだが、戦略的自律性は重視されてきた。NATO外相会合で「中国とは体制上の競争が生じている」とされた。
・英仏独などは経済、特に先端技術開発とその漏洩防止が安全保障に繋がると認識している。しかし彼らの先端技術も経済規模も日本に及ばない。そもそも経済力・技術力がないので、日本が意見するに値しない(※随分欧州を見下してる。日本のGDPはドイツ1国より小さい)。欧州が脅威にしているのはロシアやイスラム過激派であり、中国ではない。ところが中国の経済進出が目立つようになり、警戒心が語られる様になった。
・以上の様に、中国に警戒心を持ち、具体的な対策を出しているのは日米とオーストラリア位だ。そのため日本は先頭を走る米国と連携し、オーストラリア/インド/太平洋諸国/欧州を味方に付ける必要がある。
○総体的国家安全観と中国製造2025
・自由主義陣営に対立する中ロは、安全保障をどう考えているのか。提言を見る(※簡略化)。
(6)中国
中国は「党が一切の活動を領導する」を原則とし、「総体的国家安全観」を掲示している。その上で今世紀半ばまでの「社会主義現代化強国」を目標にしている。具体的には「中国製造2025」などで、時間軸を持ち経済を強化し、先端技術の獲得・育成を進めている。
・まず中国が共産党に統制されている点を指摘している。次に「総体的国家安全観」に触れているが、薬師寺克行がこれを説明している(※簡略化)。
2014年習国家主席が「総体的国家安全観」を掲示した。まず「国土の安全」「軍事の安全」など10の領域を列挙しているが、その冒頭が「政治の安定」だ。そして彼は「対外的な安全保障と対内的安定維持を同時に維持する」と述べている。中国の憲法にも「中国の各民族人民は共産党の指導の下にある」とある。※中国の安全保障は、一党独裁を強いるため、対外的安全保障に加え、対内的安全維持が加わる。
近年、安全保障には軍事に加え、経済/地球環境なども含まれる。しかし軍事面が中心であり、武器に転用されかねない製品・技術の輸出を規制している。
ところが中国は「政治の安定」を最優先している。それは新疆ウイグル自治区/内モンゴル自治区/香港/台湾など、国内に深刻な問題があるからだ。また人民が政府・企業に対しデモ・暴動を起こす「群体制事件」も深刻な問題になっている(※これは知らなかった。デモは申告制だったと思うが、これもそうかな)。
・中国は一党独裁で外交・経済・通商・内政など全ての政策が決まる。そのため香港での民主化弾圧も、ウイグルでの人権弾圧も、先端技術を盗むのも「総体的国家安全観」に含まれる。
・提言を続ける(※簡略化)。
習主席は中産階級4億人を拡大し、自律的国内循環を確立し、中国を巨大市場にして国際社会の対中依存を深化させるとしている。そのため来年からの第14次5ヵ年計画や2035年までの長期計画を策定する見込みだ。
・中国は輸出依存から内需重視の経済運営に切り替える方針だ。2020年コロナ危機により各国がマスク/医薬品の製造を国内に移そうとした。内需重視はその対抗措置だ。現に2020年日本は対中輸出を増やし、中国からの輸入を増やそうとしている。まさに中国の戦略に乗せられ、提言はそれを問題提起している(※輸出増も戦略?)。中国は対外輸出優先政策を止めた訳ではない。中国の巨大市場を使って、通信・技術の標準を中国が主導しようとしている(※中国標準が世界標準か)。この戦略は「中国標準2035」と呼ばれており、提言が分析している(※簡略化)。
サイバー関連法/暗号法/鵜出管理法などの整備を進めている。さらに来年「中国標準2035」を公表する。これは国内の製造能力、技術の獲得・育成に目途を付け、中国が国際標準を主導する事を狙っている。
・既に国際標準を巡る戦いが、中国と自由主義陣営の間で始まっている。※ファーウェイが排除されたのは、この頃かな。
・提言を続ける(※簡略化)。
中国は途上国を自称している。これにより一般に負担する義務・コストを回避している。中国の発展を他の大国が資金支援する構造になっている(※日本も長期に亘って援助しているかな)。中国は対外開放を表明し、「一帯一路」を拡大している。この根底に上記の発展戦略がある。
「一帯一路」、「中国製造2025」、「中国標準2035」、通貨スワップ拡大、シルクロード基金、SDRへの組み込みなど、人民元の国際化を図っている。またデジタル人民元も進めている。これらによりドル基軸体制や国際秩序が揺らぐ可能性がある。
・中国は国際標準の形成で主導権を握ろうとしている。中国の戦略に対し、日本はTPP/RCEPを主導した(※これは自由貿易の推進かな)。中国は通貨でも主導権を握ろうとしている。通貨においても中国と自由主義陣営の戦いが本格化している(※詳しくないが、SWIFTの力は絶大かな。これにより経済制裁や貿易監視が可能になっている)。通貨のデジタル化にはセキュリティが重要になる。デジタル通貨で中国に主導権を握らせないため、自由主義陣営も体制整備する必要がある。
・提言の最後でロシアを分析している(※簡略化)。
ロシアも経済強化を国家安全保障の1つとしている。その下でエネルギー安全保障/技術安全保障/ハイテク技術育成/外国依存低減/中小企業発展などの目標を掲げている。インターネットの自律性を確保するためインターネット主権法を制定し、有事の場合、外部から切り離せる様にした。北極海航路の開発も強化される。
・ロシアの経済力は中国と比べ小規模で、ロシアの記述は少ない。日本のロシアに対する警戒心は弱いが、欧州・中東では警戒心が強まっている。そのためロシアの脅威に対し、欧州と連携する必要がある。
・以上が経済安全保障を巡る世界の動向である。中国に対し厳しい評価がされている事が理解できる。「自民党は親中派に乗っ取られている」との評価があるが、公式な見解はそうではない。
○提言6
・経済安全保障で中国に明確な警戒心を持っているのは米国/日本/オーストラリアに過ぎない。インド太平洋諸国/欧州はまだまだの段階である。この情勢を踏まえ、日本は米国/オーストラリアと連携し、インド太平洋諸国/欧州を味方に付ける必要がある。「日本政府はダメ」と批判する暇があるなら、インド太平洋諸国/欧州を味方に付ける方法を考えろ。
第7章 日本の経済安保戦略の基本
○戦略基盤産業の実態の調査・評価
・前章までに自民党の提言『経済安全保障戦略策定に向けて』での米国/欧州/アジア太平洋の動向を紹介した。簡単に言えば、米国以外は経済安全保障を論じ始めた段階だ。一方中国は「中国製造2025」など時間軸を持って、経済の強化や先端技術の獲得・育成を進めている。さらに巨大市場を使って外国企業の対中依存を高め、「中国標準2035」にあるように世界標準を中国が主導しようとしている。
・では日本は経済安全保障をどう考えているのか。提言の「4.日本が採るべき経済安全保障上の基本方針」(基本方針)を見る(※簡略化)。
日本が経済安全保障を実現するには以下が必要になる。①日本の戦略的自律性・戦略的不可欠性を把握する。②戦略的自律性・戦略的不可欠性を確保するための戦略・政策を特定する。③これを実現するためのメカニズムを整備する。
①が特に重要で、各産業の状況を客観的に把握し、包括的に評価する必要がある。その上で②③を明らかにし、戦略を結実させる。
・自民党は2つのキーワード、戦略的自律性/戦略的不可欠性を使っている。戦略的自律性を「国民生活・経済運営に不可欠な基盤を強靭化し、他国に過度に依存せず、国民生活・経済運営における経済安全保障の目的を実現する事を意味する」と説明している。食糧/エネルギーだけでなく、半導体などの産業も含まれる。提言を続ける(※簡略化)。
①戦略的自律性の維持・強化
まずは国民生活・経済運営を維持・強化しなければいけない。他国との貿易・投資が困難になった場合を想定し、イノベーションにより強靭化し、他国への依存を低減する(※これらは容易でないと思う)。必要に応じ代替案を準備する。
・この対象産業を「戦略基盤産業」としている(※本質的には脆弱あるいは他国に依存する分野を含む産業かな)。提言を続ける(※簡略化)。
この様な産業を「戦略基盤産業」と定義する。これにはエネルギー/通信/交通/食料/医療/金融/物流/建設など、基幹的なインフラ産業である。
これらの産業に個別の措置が採られてきたが、包括的な調査は行われていない。また近年DXによりITCが浸透しているが、これも他国に依存している。
・情報化社会になったが、SNSや通信機器の大半は外国製になっている(※デジタル・サービスは大幅な赤字だな)。提言を続ける(※簡略化)。
以上を踏まえ、「戦略基盤産業」を明確にし、各産業の脆弱性や経済安全保障上の課題を把握・分析し、戦略的自律性を確保するための方策を検討する必要がある。
その際、①備蓄可能性、②代替可能性、③供給能力などの観点が重要になる。その上で全体を俯瞰し、サプライチェーンの脆弱性を特定し、強靭化を進め、他国への依存を低減する。時には同志国との連携を強化する。
「戦略基盤産業」は日本繁栄の基盤で、政府の役割が重要である。特にエネルギー/鉱物資源/食料は重要だ。また「戦略基盤産業」は社会状況・技術動向で変わるため、見直していく必要がある。
○戦略的不可欠性
・提言は「戦略的不可欠性」を「国際社会で日本が不可欠な分野を戦略的に拡大し、日本を長期的・持続的に繁栄させ、国家安全保障を確保する事を意味する」と説明している。この「戦略的不可欠性」からも「戦略基盤産業」の把握が重要になる(※戦略的自律性は弱みの強靭化で、戦略的不可欠性は強みの拡大で、分野は異なると思う)。提言を続ける(※簡略化)。
②戦略的不可欠性の獲得
日本を長期的・持続的に繁栄させる強みや可能性を有する産業を特定する必要がある。長期的・持続的は重要で、戦略的に日本を国際社会で不可欠な存在にする必要がある。
産業を特定するのは難しいが、現時点グローバル・サプライチェーンで日本が最上位の産業は何か、素材・部品分野で日本が優位な技術・製品・サービスは何かを把握するのは有用である。
・例えば「情報産業のコメ」である半導体のフォトレジストは日本が9割のシェアを持つ。この様な得意分野を持てば、嫌がらせに対し対抗手段を講じられる(※韓国に対し、フッ化水素/フォトレジストなどの輸出規制をした)。要は日本が過度に他国に依存している分野は何か、逆に日本が独占している分野は何かを調べ、「戦略基盤産業」を確定する。これを基に経済・通商政策を見直し、「武器を使わない戦争」で勝つ必要がある。
○防衛・安全保障と機微技術の連携
・国家戦略のために情報収集・分析する国家安全保障局(NSS)にいた兼原信克が、「科学技術と安全保障 民生技術の管理・育成が急務」(日経新聞、2020年4月10日)を寄稿している(※簡略化)。
日本は克服すべき課題が多い。第1は、政府が軍事転用可能な「機微技術」を把握していない。これは官僚制の縦割りによる。防衛技官は装備には詳しいが、先端技術には関心がない。一方所轄する技官は先端技術と安全保障の関係を理解していない。
日本は米中に比べ機微技術への理解が足りない。これでは持って行かれても打つ手がない。まずは機微技術を把握する必要がある。
第2は、機微技術の不用意な流出を守る事だ。まずはサイバー搾取への対策だ。新防衛大綱で自衛隊のサイバー部隊の強化が認められたが、これを民間にも応用すべきだ。
機微技術の流出はオープンな学術交流でも生じる。国際枠組み「ワッセナー・アレンジメント」である程度の流出を規制できる。しかし米国は民生用技術であっても機微度に応じ、外国人研究者・留学生のアクセスを規制する検討を始めている。
日本の国立研究所/大学/企業の研究所に多くの外国人研究者・留学生がいる。教える側は機微技術の流出を強く意識し、アクセス制限なども必要だ。
・「守る」だけでは不十分だ。技術開発は経済成長に重要で、科学技術予算を増やす必要がある。彼は単に予算を増やすだけではなく、国防との連携が必要とした(※簡略化)。
第3は、日本の機微技術を「育てる」事だ。これからは軍事技術が民間にスピンオフする時代から、基礎的民生技術が軍事技術にスピンオンする時代になる。
防衛省は2017年以来、基礎研究に100億円を投じている。これは開かれた研究委託制度だが、日本学術会議/国立大学などは消極的だ(※毒ガス開発などがあったからな)。対照的に米国は国防総省が多様な研究施設を持つ。日本の学術界と国防総省の研究所の協力は見られず、日米同盟で最も実りの少ない分野だ。
・次に彼は「機微技術」を「生かす」事が重要としている(※簡略化)。
第4に、日本は機微技術を活かすべきだ。中国軍は宇宙・サイバーで自衛隊を凌ぐ。北朝鮮も核兵器を持ち、サイバー能力も高い。一方日本は科学技術を安全保障に活かせていない。産学官が連携し、スピンオンする時代になる。
1980年代日米経済摩擦により、政府は産業育成から手を引いた。一方米国は市場原理を超えた安全保障の観点で巨額の研究開発予算を企業に流している。米国の研究開発費20兆円の半分が国防総省の予算である。一方日本の研究開発費4兆円で、防衛省の研究開発費は1300億円しかない。
・彼は研究開発費は文科省ではなく防衛省の予算にすべきとしている。彼の意見は安倍政権での議論を踏まえている。2016年11月トランプが大統領選で当選する。安倍政権は米中対立の激化を想定し、経産省の産業構造審議会に通商・貿易分科会安全保障貿易管理小委員会を設ける。そして2019年6月「総合イノベーション戦略2019」を閣議決定し、機微技術を知る/育てる/守る/生かすを明示する。※「総合イノベーション戦略2019」の概要が表にされている。
・ところが「総合イノベーション戦略2019」には彼の第3・第4の「防衛・安全保障と機微技術の連携」「科学技術予算の所管を文科省から防衛省に移す」が抜けている。そのため彼は国家安全保障局の退職後、日経新聞にこの問題提起を寄稿した。この状況で良いのだろうか。
○減税と規制改革は言及されなかった
・自民党の提言には、もう1つ重大な欠点がある。提言は経済安全保障の主役を以下としている(※簡略化)。
経済安全保障の観点から企業の活力・努力が主になる。そのため政府の役割は、長期的・持続的な繁栄のため企業の努力の後押しになる。
例えば、企業が国際市場に展開するための環境整備・支援、機微技術の流出を防止するための制度構築、国際標準/知的財産権での後押し、需要物資の供給ルートの確保などが期待される。他に戦略的不可欠性の観点から、人口減少の中でも国内市場を拡大する施策、国際市場の獲得や部品・製品の輸送ルートの確保(※地政学?)などが期待される。
・彼は企業の努力が主で、政府はその後押しが役割とした。そして国内市場を拡大する施策を行うとした。それなのに政府は、金融緩和でデフレ脱却を目指す一方で、消費税を増税し、国内市場を抑圧した。彼は減税/規制改革が必要としたのに、自民党の提言はこれに触れていない。
・提言が提案しているのは「技術の保全・育成」だけで、特定の分野に資金をばら撒く政策だ(※簡略化)。
(2)技術の保全・育成
①基本的な考え方
技術の保全・育成の目的を明確にする必要がある。第1に、技術が単独で経済安全保障の意味を持つ訳ではない。実体経済の裏付けがあって、初めて重要性・機微性が判断できる。換言すれば(1)の戦略があって、初めて保全・育成する技術が明確にできる。※(1)を特定できないが、戦略的自律性/戦略的不可欠性を既述した部分かな。
第2に、戦略的自律性/戦略的不可欠性で重要になる技術は革新・新陳代謝しており、現時点では重要であっても陳腐化する可能性がある。そのため企業・大学・研究機関のイノベーション環境を整備し、新たな技術を次々生み出す環境を整備する必要がある。
第3に、日本は幾つかの核心的技術分野で遅れ、他国に依存している現実がある。これに対する対策も必要だ。
・この「企業・大学・研究機関のイノベーション環境を整備する」に同意する。だからこそ企業が自前で研究開発を行えるよう、減税・規制改革が必要なのだ。提言を続ける(※簡略化)。
②技術の特定と保全・育成の取組
国家安全保障の観点から、戦略的自律性/戦略的不可欠性を支える技術を特定し、保全・育成する必要がある。保全するツールとしての輸出管理/投資審査を見直す必要がある。また技術流出の経路は多様化しており、統合的・包括的な対策が必要だ。これにより予見可能性を高める事ができる。
これに加え、戦略的自律性/戦略的不可欠性の観点から他国に依存すべきでない技術、あるいは他国に依存せざるを得ないが対策が必要な技術を特定し、政府が手当を主導する必要がある。※今の半導体への支援かな。
・「輸出管理/投資審査を見直す」「政府が手当を主導する」など、政府主導に拘っている。国際社会の動向や経済安全保障の重要性の分析は見事なのに、政策が社会主義的なのは残念だ。これだと規制は強まり、経済は失速するだろう。政府の役割は「企業の努力の後押し」だったのでは。これだと官僚が選んだ分野だけに予算が付けられる事になる。自民党は「現時点では重要であっても陳腐化する可能性がある」と認識している。よって将来どの技術が重要になるか分からない。そのため企業が自由に技術開発するための可処分所得を増やす減税や、規制を減らす規制改革が必要だ。
○日本の重く曖昧な税制が経済成長を妨げる
・政府は、日本の税制・規制が経済成長を妨げている事を認識している。そのため2020年12月「令和3年度税制改正大綱」に、日本が国際金融センターになるために法人税・相続税の減税を入れた。要約すると、①香港が弾圧され、金融関係者が日本/シンガポール/韓国などに移転している。②日本が受け皿になれば、外国から資金を呼び込める。③これをチャンスとし、金融事業者・人材・資金を呼び込む。④しかし日本の税制がネックになっている。具体的には法人税・相続税の課税範囲が厳しく、相続税も高い。⑤そのため法人税・相続税/相続税を減税する。提言(?)には以下とある(※簡略化)。※国際金融センターだけは具体的なんだ。
(3)国際金融都市に向けた税制上の措置
国際金融センターとしての地位を確立するため、外国から事業者・人材・資金を呼び込む観点から税制上の措置を講ずる。
①法人課税 ※詳細省略。
②相続税 ※詳細省略。
③個人所得課税 ※詳細省略。
・この1節の意味が、財務省の内部資料に書かれている。また2020年11月自民党の財政金融部会の税制勉強会において、財務省が作成した資料には以下とある(※自民党の部会に財務省が提出した資料かな。簡略化)。
1.国際金融ハブ取引に係る税制措置
ポイント①世界に開かれた国際金融センターの実現
グローバルに展開する金融機関が拠点を分散させている。これらの金融事業者・人材を受け入れ、アジアの国際金融センターになる。
国際金融センターの確立において、良好な治安/生活環境/豊富な個人金融資産などは強み。
課題として税制の見直しがある。
そのため、①法人税における役員報酬の損金算入要件、②相続税における海外資産の特例、③所得税における持分の課税関係の整理が必要。
(参考1)日本しかない、役員報酬の損金不算入 ※詳細省略。
(参考2)高度金融人材を呼び込むための相続税の見直し ※詳細省略。
(参考3)世界的な資産運用ビジネス慣行に併せた課税関係の整理 ※詳細省略。
・日本は税金が高いため、優秀な金融関係者・事業者が日本に来ず、国際金融センターになれない。そのため所得税・法人税・相続税を見直し、減税すべきとしている。具体的には、まずは法人税で役員の業績連動報酬は30%の法人税が課されているが、これを損金算入すべきとしている。次にファンドマネージャーなどの相続税は最大55%課せられているが、要件を変えるべきとしている。ファンドマネージャーなどの所得税も要件を変えるべきとしている。※詳細を何度も解説している。
・この様に国際金融センターを目指すため、税制措置をすべきとしている。しかし国民が求める「消費税減税」には触れていない。優遇税制を講じようとする財務省・自民党は、どこを向いているのか。日本の重く、曖昧な税制は経済成長を妨げている。企業の発展を望むなら、提言で減税・規制改革に踏み込むべきだった(※「3本の矢」の構造改革により、ある程度の規制改革が行われたと思う)。提言に従えば、政府による企業への干渉は強まり、経済はさらに失速する。減税・規制改革による「自由主義の立場からの経済安全保障」対策が必要だ。
○提言7
・国民生活・経済活動を営む上で、「どの分野が外国に依存しているか」「どの分野が日本の強みか」を調べ、「戦略基盤産業」を確定する。前者を減らし、後者を増やすために経済・通商政策を見直し、「武力によらない戦争」で勝利する。
・経済安全保障で重要なのは、「防衛・安全保障と機微技術の連携」「科学技術予算を文科省から防衛省に移す」だ。
・米国の様に減税・規制改革を推し進め、企業に自由に技術を開発・製造してもらう。「自由主義の立場からの経済安全保障」対策が必要だ。
第8章 インテリジェンス機関の拡充
○経済安全保障についての経済界の声
・経済安全保障について経済界の声を聞いてみた(※簡略化)。※真っ当な意見が多いな。
・米国が技術流出に敏感になり、弊社も関係するのか心配だ。取引先も多く、人民解放軍との繋がりを調べるのは大変だ。
・弊社の技術開発部門に外国人がいる。彼らを外すのは難しい。法的根拠もない。
・軍事転用される技術を保護しろと言われるが、明確でない。
・地政学リスクの高まりで分析が必要だが、簡単にそんな部署を作れない。
・外国企業との取引はJETROの分析を参考にしている。中東との取引はキャッシュバックが習慣で、経費処理に苦労する。※そうなんだ。これは安全保障に限定されないかな。
・ファーウェイ製品の使用が禁止されたが、その対応に大変な経費が掛った。
・中国から米国・日本への製造拠点の回帰を唱えている。しかし様々な点で中国が有利だ。
・米中対立は続くのか。そもそも米中貿易は増えている。
・米国の法人税減税は歓迎する。補助金は手続きが煩雑。※これは気付かなかった。まあ補助金の審査も厳格でないかな。
・軍事技術の流出防止に従うしかないが、政府も手探り状態では。
・米国のインテリジェンス機関は高度だが、日本はどうなのか。またそこからの情報提供がない。
○米国は官民連携を重視
・米国の経済安全保障における官民連携はどうなっているのか。2020年7月自民党の戦略本部が多摩大学・國分俊史を招き、米国の動向と日本の課題をヒアリングしている。彼は『経済インテリジェンス機能強化の必要性-政府と民間の双方に求められる経済インテリジェンス能力』で述べている(※簡略化)。
・米国は冷戦終結後、CIAの人員を経済インテリジェンスに移した。
・1991年国家経済会議を創設し、軍事力から経済力に安全保障をシフトさせた。
・CIAの調査員を経済制裁の調査員に移し、経済制裁の体制を整えた。
・1996年「経済スパイ活動法」を制定し、国内/インターネット/国外での処断を可能にした。
・米国はインテリジェンスの予算が8.7兆円ある。一方日本は331億円しかない。彼の論述を続ける(※簡略化)。
・日本のインテリジェンス予算は331億円しかない。これは米英独より少ない。
・米国にはインテリジェンス機関が17ある。また予算も8.7兆円ある。
・FBIは企業との連携を目的とし、国土安全保障省と共に「Domestic security Alliance Council」(DSAC)を展開している。
・2005年FBIが企業と経済スパイ情報の共有を始める。2008年から国土安全保障省も参画する。
・DSACでエキスパートが交流し、50のセクター、509社が参画している。509社の従業員は2億人を超え、GDPの50%を超える。※大中企業の大半が参画かな。
※国土安全保障省と国防総省・国家安全保障局があるのは紛らわしい。
・この官民連携により、民間にインテリジェンスの専門家が多数生まれている(※予算に比例し、民間が育成される)。彼の論述を続ける(※簡略化)。
2010年前後の「米国のインテリジェンス機関の民間企業活用状況」
・2008年インテリジェンス・コミュニティの総人数の29%が企業。
・2010年トップシークレットを扱う企業は1900社あり、その内110社が90%を受託。
・民間語学エージェント会社56社が、書類の翻訳/傍受電波の解読を支援。※CIA職員だがスノーデン事件があった、
・インテリジェンス機関向けIT機器・情報インフラに400社以上が関与。
・国家安全保障局は企業480社を活用。
・CIAには企業100社超から1万人超の出向者がおり、その割合は30%。
・国土安全保障省の半数は企業からの契約社員。
・この様に米国は官民が連携している。米国企業がインテリジェンス分野で政府と協力するのは、仕事を得られるからだ。これを支えているのが8.7兆円の予算だ。※これも軍産複合体に含まれるかな。
○公安調査庁が「経済安全保障特集ページ」を開設
・日本では中国と協力してきた学者・企業を非難・糾弾する論議が多い。一方米国では学者・企業をいかに守るかが議論され。政府と連携すると、利益がもたらされる仕組みになっている(※詳細不明)。
・日本にも「外為法」「不正競争防止法」がある。外為法により、外国企業が日本企業の株式を購入する場合、政府が事前審査する。また安全保障で重要な技術・製品をテロ組織・テロ支援国家に輸出できない。不正競争防止法により、企業の機密を不正な方法で入手すると、処罰される。安倍政権で「特定秘密保護法」が成立し、国家の機密も保護される。
・問題は運用で、例えば刑法上の犯罪で刑事・警察官が百人単位で捜査しても、未解決になる場合がある。産業スパイも同様だ。公安調査庁のサイトに「経済安全保障特集ページ」がある(※簡略化)。
米中対立が激化し、日本も技術流出する懸念がある。日本にも先端技術を有する企業・大学・研究機関があり、重要な課題だ。技術・データの流出は安全保障に影響する。また重要施設周辺での外国資本による不動産取得も課題だ。本特集ページは情報流出に関連する情報を発信します。
・また「経済安全保障に関する情報提供窓口」を設け、技術・データ・製品の流出に関する相談・情報提供・講演などの活動を行っている。
○関西経済同友会の提言
・政府・公安調査庁の動きに呼応し、経済界からの提言もある。関西経済同友会は「安全保障委員会」を常設し、2021年『切れ目のない安全保障体制の実現へ-激化する米中覇権争いの今、東アジアの安定に向けて我が国がなすべきこと』を公表している。提言の「はじめに」に「安全保障委員会では1970年代より『タブーを排した安全保障論議』を続け、『自らの安全は自ら守る』を訴え続けている」とある。関西は中国・韓国と結び付きが強く、安全保障を憂う経営者が多い。「はじめに」を続ける(※簡略化)。
世界情勢が不安定化し、日本の安全保障も厳しさを増している。特に米中摩擦が過熱化している。
中国は直近30年で国防費を44倍にし、尖閣諸島沖合に侵入し、伝統的分野で圧力を高め、サイバー攻撃もエスカレートさせている。産業政策でも、「中国製造2025」(2016年)、「国家情報法」(2017年)などを通じ、IT産業/ハイテク製造業への影響を大きくし、経済安全保障問題になっている。
・提言は4つの柱からなる。
1.日米同盟強化のため、日米地位協定を見直す。
2.同盟国/Quadなど基本的価値観を共有し、インド太平洋地域で地理的・歴史的な繋がりを有する国との連携・緊密・拡大を強化する。
3.経済安全保障の観点から、産業界の垣根を超えた協力体制を構築する。※垣根は異業種?
4.官民双方のサイバーセキュリティを強靭化する。
・2はコロナ禍の中で中国がオーストラリアへの圧力を強めており、日米豪印共同訓練などに加え、エネルギー・宇宙・通商で協力をすべきとしている。関西は中国との結び付きが強く、中国依存に危機感を感じている。
○米国・中国の輸出規制に巻き込まれる危険性
・注目されるのは3で、その背景を説明している(※簡略化)。
2018年米国は「国防権限法」を成立させ、中国企業5社からの製品調達を禁止した。また安全保障で懸念される製品・技術の第3国への輸出を規制強化した。2020年中国も「輸出管理法」により輸出規制を強化した。米国内法に違反すると制裁リストに掲載され、調達できなくなり、罰金を支払う事になる。この様に米中の輸出規制に巻き込まれる危険性が高い。
・しかしその情報を得るのが難しい。中国との取引を止めると、株主から追及される。提言を続ける(※簡略化)。
しかし米中の輸出規制が自社に及ぼすリスクや、自社の製品が第3国でどの様に使用されているかを調査し、対策するには限界がある。
○国は経済安全保障の実態の把握・公表を
・そこで2の提言⑥「国は経済安全保障の実態を把握し、公表すべき」で訴えている(※簡略化)。※2は外国との連携強化だけど。また提言⑥以外は不明。
経済安全保障は以前より認識されている。2015年中国は「中国製造2025」「軍民融合発展戦略」を発表し、2018年以降には上述の動きがあり、民生と軍事の境界が曖昧になっている。そのため先端技術(AI、5G、量子)/半導体/ロボット/蓄電池/工作機械/検査・計測機器など、あらゆる産業で情報が流出するリスクがある。また海外との共同研究・寄付講座により技術移転が起きている。これらの実態は調査されておらず、公表もされていない。
・そのため「政府は企業・大学の研究機関を調査し、戦略的不可欠性が認められる技術・製品を把握し、実態を公表し、認識を共有すべき」と訴えている。同時に経済界に対しても「政府の調査に協力すべき」としている。そして3の提言⑦「産業界の垣根を超えた情報連携、協力体制の構築」で、政府と経済界による常設協議機関が必要としている(※簡略化)。
企業が安全保障上重要な製品・技術について情報収集し、対応するには限界がある。例えば制裁に関する情報を金融機関/貿易会社が持っていても、共有されていない。まずは国家安全保障局の経済班を活用し、産業界の垣根を超えて情報共有する協力体制を構築すべきだ。
・米国はこの様な官民連携を十数年前から行っている。前出國分氏の論文『対中事業リスク見据えた企業戦略を』を見る(※簡略化)。
米国は2005年から企業と諜報機関が連携し、経済スパイリスクに対処してきた。2020年時点、連邦捜査局(FBI)/国土安全保障省/企業509社(GDPの半分)が「国内安全保障連携会議」を通じ(※「Domestic security Alliance Council」(DSAC)だな)、経済スパイリスク情報を共有している。企業からはリスクマネジメントの役員レベルが参加しており、国家機密を取り扱えるセキュリティ・クリアランス資格を有するメンバーは機密情報に基づく警告・捜査を行っている。
・日本も官民連携が必要で、経済安全保障を理由に企業に調査を依頼し、コストを増やし、干渉を強めたりするだけでなく、政府に協力する仕組みが必要だ。
○提言8
・米国のインテリジェンス予算は8.7兆円で、民間にもインテリジェンス専門家がいる。一方日本は公安調査庁/外事警察が331億円の予算を持つに過ぎない。予算を増やし、民間にインテリジェンス専門家を増やすべきだ。
・経済安全保障で官民連携を進めたいなら、企業のコストを増やしたり、干渉を強めるだけでなく、減税・規制改革を進め、企業が政府に協力する仕組みを構築すべきだ。
おわりに
○現在のフランケンシュタインを作ったのは米国
・世界秩序が変わる転機になったのがトランプで、彼は「自由と民主主義を基調とする国際社会を守るには、中国と対決する必要がある」とした。バイデンもこれを継承している。ニクソンは「中国共産党を世界に開放すると、フランケンシュタインを作るかもしれない」と恐れたが、それが現実になった。
・米中が国交を樹立したのは1979年で、米ソ冷戦時代だった。ソ連と中国が対立し、「敵の敵は味方」として、1972年ニクソンが訪中する。米国は中国に経済援助する。中国は「改革開放」と称して、経済に資本主義を取り入れ、外資を受け入れた。1991年ソ連は解体する。この時点で米国は経済援助を止めるべきだったが、「中国が発展すれば、民主化される」と考え、止めなかった。日本は米国に倣い、企業を中国に進出させた。中国は「世界の工場」になり、フランケンシュタインとなった。
・この経緯から2020年、トランプは『中国に対する米国の戦略的アプローチ』に「過去20年間の対中関与政策は誤り」と記した。米国は間違いを犯す国で、日本は対米依存にリスクが伴う事を理解すべきだ。
○対米依存の終わりの始まり
・戦後の日本には省庁の垣根を超えて安全保障に取り組む体制がない。外交/インテリジェンス/軍事/経済を総合する「国家安全保障戦略」もない。外務省/警察/法務省/防衛省/経産省などが、自分の政策を実施してきた。総合的な安全保障戦略がないため、首相が場当たり的な外交・防衛政策を取ってきた。それは米国に従えば問題なかったからだ。
・ところが2013年転機が訪れる。安倍政権が「国家安全保障局会議」(NSC)を創設し、国家安全保障戦略を策定する。これにより「場当たり的な政治」から、「国家安全保障戦略に基づき、全省庁を挙げて取り組む政治」に劇的に変わった。
・この転換による成果が4つある。第1の成果は、集団的自衛権を認める平和安全法制や特定秘密保護法を制定し、日米同盟を強化した。横田基地に日米合同の司令部が設置できる様になった。米印の合同演習に自衛隊が参加する様になった。特定秘密保護法の改定で、米軍以外とやり取りする情報を「特定秘密」に指定できる様になった。
・第2の成果は、海洋/宇宙/サイバーなどの分野で横断的な取組が進められた。航空自衛隊に宇宙作戦隊が創設されたのも、その1つだ。
・第3の成果は、安全保障に関する情報の集約が行われ、総合的な政策判断が下せるようになった。例えばコロナによりマスクが不足するが、未来投資会議で安倍首相が「1国に依存する付加価値が高い製品の生産を国内回帰させる」と述べ、2日後に2200億円の予算が閣議決定された。
・第4の成果は、「自由で開かれたインド太平洋構想」を主導した。中国の「一帯一路」に警戒する米国・インド・オーストラリア・ASEANに働きかけ、アジア太平洋秩序を構築しようとしている。これにより米国以外を含む「日米豪印戦略対話」(Quad)が強化された。
・日本は20年以上経済が低迷するが、依然世界3位の経済大国で、優秀な自衛隊/技術力/金融資産を有する。これらを活かす国家安全保障戦略を策定した事で、「自由で開かれたインド太平洋構想」の中心になった。国際政治を的確に分析し、潜在能力を活かすため、国家安全保障戦略の重要性を認識して欲しい。