『個人M&A大全』寺島直史/原田総介/幡野康夫/小野寺直人(2021年)を読書。
企業を買収する考えはないが、本書を選択。
中小企業のM&Aを解説しているが、中小企業の現状・課題・解決法などを詳しく解説。
経営における注意点が詰まっており、特にビジョン/ブランディングが重要と感じた。
全体的に大変詳しく、図解が随所にある。
中小企業を見下している感があるが、大企業とは物量が違う(間接部門の人数が違う)。
お勧め度:☆☆☆
内容:☆☆☆
キーワード:<はじめに>ビジネス・デューデリジェンス、選び方/経営、<個人M&A>事業承継、サラリーマン、マッチングサイト、クワドラント、起業、<中小企業>半導体開発会社、経営資源、マーケティング/ブランディング、生産性、組織統制、インセンティブ、連帯保証人、戦略・戦術、債務超過、魅力、<失敗>デューデリジェンス(DD)、実態、自社・顧客・競合(3C)、ビジョン、PDCA、コミュニケーション、ブランディング、<全体像>プロセス、株式譲渡、事業譲渡、会社分割、企業価値評価、PMI、<企業特性>BtoB/BtoC、労働集約型/資本集約型、フロー・ビジネス/ストック・ビジネス、嗜好品/生活必需品、見込生産/受注生産、固定費型/変動費型、<強みと課題>3C分析、4P・4C/ブランド力/信頼関係、業務フロー、顧客フロー、<重要ポイント>ビジョン/ブランド・アイデンティティ/顧客、PDCA/試算表、戦略・戦術、生産性、現場/信頼関係、ワンチーム、ブランディング
はじめに
○今なぜ個人M&Aか
・「個人M&A」はサラリーマンなどの個人が企業を買収し、経営する方法です。M&Aは大企業がするイメージですが、近年は中小企業が数百万円で売買されています(スモールM&A)。この背景に経営者が高齢化しているが後継者がいない事や、マッチングサイトの増加があります。またSNSで情報発信が容易になった事があります。また個人M&Aはユーチューバー/フリーランサーより成果が出しやすい点もあります。突出したスキルを持っていなくても、一定のビジネス経験があれば成功できます。そのため小売業・サービス業・製造業などで盛んに行われています。
○事業の中身を把握せず買収している
・私は事業再生コンサルタントです。これは企業の業績を改善させる仕事で、まずは「ビジネス・デューデリジェンス」(以下ビジネスDD)で、企業を調査・分析し、問題点・強みを抽出し、改善策を『事業調査報告書』に纏めます。次に『経営改善計画書』に「アクションプラン」を記します。そして最後に「実行支援」をします。
・実際は多くの企業が「事業再生」だけでなく、「事業承継」の問題を抱えています。そこで2017年M&A事業も始めました(※本人がM&Aするのではなく、M&Aのコンサルタントだな)。そこで驚いたのが企業の事業内容を把握せず、買収しているのです。「中身の把握」は、判断・決断や行動の質・スピードなど、全てのタスクに必須です。また私達はこれを日常でも行っています(※詳細省略)。ところがM&Aでは余り行われていません。
・中小企業の場合、同じ業種/同じ製品でも中身は異なります。組織/戦略/業務フロー/作業方法/スキルなどが異なります。「中身の把握」を怠り、結果M&Aに失敗しています。M&Aの極意は「選び方」と「経営」です(※買収前と買収後だな)。
○選び方
・これは買収する企業の選択です。買手が企業の場合、多くは買収する業種をあらかじめ決めます。一方個人の場合、業種選びから始まります。また「中身の把握」は、「赤字なのでダメ」「黒字なのでOK」と短絡的になっています。黒字企業だと買収額は高くなります。ただ黒字が続くとは限りません。赤字企業は安価になります。しかし改善により黒字化するかもしれません。
○経営
・買収後の経営で重要なのが、業績の安定化と継続的な成長です。そのためには「3C分析」(第6章で解説)と「PDCA」(第7章で解説)がポイントです。3C分析の3Cは自社(Company)/競合(Competitor)/顧客(Customer)で、これを分析するフレームワークです。PDCAは計画(Plan)/実行(Do)/検証(Check)/改善行動(Action)のフレームワークです。3C分析で現状を分析し、その結果からPDCAを回します。
・経営では現状分析を怠ってはいけません。本書は買収の手続きではなく、この極意(選び方、経営)を解説します。
第1章 小さな会社を救う個人M&A
<1.中小企業は後継者不足>
・日本の企業数は1999年485万社から、2016年359万社に減りました(1/4が消滅)。原因に事業承継の問題があり、2017年中小企業庁は「事業承継5ヵ年計画」を策定します。地域にプラットフォーム「事業引継ぎ支援センター」を設置し、啓蒙活動/マッチング支援をしています。また「事業承継税制」「事業承継補助金」を実施しています。これらは一定の効果を生んでいますが、抜本的な解決になっていません。それは「後継者難」「業績低迷」「借入超過」「連帯保証」などの問題を解決できていないからです。
・2020年コロナ禍により5万社が「休廃業・解散」します(2000年以降最多)。この企業の経営者は、4割が70代で、そして企業の6割以上が黒字でした(※資金繰りによる黒字倒産をよく聞くが、後継者難も多そうだな)。
・一方「倒産」は債権の支払いができず、経済活動が困難になったケースです。2020年は「持続化給付金」「無利子貸付」などで、倒産は前年8,383件から7,773件に減りました。しかし代表者の死亡・体調不良などの「後継者難」による倒産は、270件から370件と過去最高になりました。中小企業の多くは代表者が経理・営業・人事などを行っており、代表者が死亡・体調不良になると運営が困難になります。
・中小企業の経営者に接して感じるのは、事業承継の重要性を理解していても、緊急性が低いため、お座なりになっています。後継者の育成には時間が掛かり、株式の扱い/借入金の連帯保証などの問題があり、議論が途中で止まっているケースが多くあります。
<2.組織の時代から個(経営者)の時代へ>
・コロナ禍によりサラリーマンの働き方が半ば強制的に変化しました。高度成長期(1955~73年)は終身雇用/年功序列/企業内組合が「経営の三種の神器」で、経済成長を支えました。しかし今は大企業のリストラがニュースになります。経団連の中西会長は、「新卒一括採用/終身雇用/年功序列の矛盾が出始め、経済・社会が上手くいっていない。雇用制度全般の見直しが必要だ」と述べています。サラリーマンの退職金は下がり、年金支給年齢は引き上げられ、各自が主体的に考える時代になりました。
・サラリーマンの「働きがい」も大切です。厚労省はこれを「ワーク・エンゲージメント」として解説しています。ワーク・エンゲージメントが高いと、仕事にポジティブになります。具体的には、①仕事から活力を得て、生き生きする(活力)、②仕事に誇りとやりがいがある(熱意)、③仕事に熱心(没頭)です。
・ワーク・エンゲージメントは、年齢や役職が高くなると高まる傾向にあります。これは40代後半頃から仕事への自信(自己効力感)や仕事へのコントロール性が高まるからです。ただしこの頃は職場での岐路です。役職定年になると、9割以上の人が年収減になります(4割が半分以下)。そうなるとモチベーションは下がります。職場でのストレスは、50歳未満の男性のトップは「上司との人間関係」ですが、50歳以上は「仕事の内容」です。
<3.人生が変わる>
・中小企業の経営者とサラリーマンでは、給料日の認識が大きく変わります。サラリーマンは嬉しい日ですが、経営者は資金繰りの頭痛の種です。社会環境の変化で、パラレルキャリア/副業/兼業/転職/フリーランス/独立起業などの働き方が増えました。サラリーマンは給料を貰う立場のままでいるのか、給料を払う立場を目指すのか考える必要があります。
・給料を貰う立場だと、仕事の自由度は低くなります。一方「起業」するとなると、ビジネスを立ち上げ、顧客開拓から始める事になります。「フリーランス」は案件毎に業務委託契約します。何れも自由度は高まるが、顧客の維持・開拓は不可欠で、収入も不安定です。
・そこで注目されているのが、「個人M&A」「スモールM&A」「ミニM&A」です。本書は転職・独立・起業以外に個人M&Aがあり、これによる事業承継を解説します。なお個人M&Aをテーマにした書籍に、『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(三戸政和)、『起業するより会社を買いなさい』(高橋聡)、『サラリーマンが小さな会社の買収に挑んだ8ヵ月』(大原達郎)があります(※内容を概説しているが省略)。またWebでもM&Aの仲介業者・専門家の記事を見れます。そこには肯定的な意見も否定的な意見もありますが、共に参考にすべきです。
・本書は第2章以降で中小企業の経営について解説します。第3章はM&Aで失敗したケース、第4章・第5章は買収前に押さえておくべきポイントを解説します。
<4.会社はネットで買う>
・企業を買収する投資会社・事業者は「ハゲタカ」と呼ばれました。近年は成長戦略としてM&Aする様になり、中小企業の大廃業時代から大承継時代になりました。今では「マッチングサイト」があり、サラリーマンでも会社を買えます。マッチングサイトを使うメリットは、①手数料が安い、②登録数が多い、③自由度が高い、④アドバイザーを選択できるです。
・個人M&Aをする場合、まずどの様な会社が売られているか確認します。マッチングサイトには「Batonz」「TRANBI」などがあります。例えば「Batonz」で条件に譲渡金額「100万円~1千万円」、地域「東京」、「個人でも交渉可能」を指定すると308件検索できました。さらに「交渉可能」を条件に加えると77件に絞られました。リストアップされた会社は、ネイルサロン/トレーニングジム/美容室/ソフトウェアの譲渡/民泊施設/飲食店/小売業/学習塾/オンラインサービス/衣料販売などです。ここで会社を選択すると、事業内容/譲渡金額/仲介手数料/会社概要などが確認できます。会員登録していれば、財務概要も確認できます。
・マッチングサイトが充実した原因は、案件情報が整理され流通する様になったからです(※最近不動産サイトなどもあるが、これも案件情報が標準化されたからかな)。この流れは進んでおり、会社をネットで売買するのが日常になるでしょう。
<5.資本家になるのは難しい?>
・『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント』に、人はE(従業員)/S(自営業)/B(ビジネスオーナー)/I(投資家)の何れかに属するとある(※クワドラントの図あり)。BはE・Sを雇い、Iの働きで「100の果実」(?)を手にできます。E・S(労働者)は労働収入を得て、B・I(資本家)は権利収入を得ます。会社を買収するとBに引っ越した事になります。しかしビジネスが回らないと、Iの働きで「100の果実」(?)を手にできません。
・個人M&Aを考えている人は、大企業に勤めていた人でしょう。しかし中小企業は大企業と全く異なるので注意です(第2章で解説)。中小企業の実態は、「仕事の仕組みがない」「営業は社長がやっている」「マニュアル化されていない」「スキルが低い」「組織が未整備」などです。従って買収しても「現場にお任せ」はできません。
・本書を読み、仕組みを作り上げれば、本当の資本家になれるでしょう。そのためには「ITC(情報通信技術)を活用し、効率化する」「テレワークなどの新しいサービスを導入する」などのアイデアが必要です(※ネットで営業情報を共有した事例を紹介しているが省略)。ソフトバンクの孫正義は「タイムマシン経営」を提唱しました。大企業での経験を中小企業で応用するのです。
<6.起業はギャンブル?>
・「私はゼロから事業を立ち上げた」と言う人がいますが、実際は勤務先の知名度・信用・資金力・取引先などの基盤があったからです(※これは元の勤務先かな)。会社は法務局に書類を出せば設立できます。この状態がゼロです。そこから顧客を開拓し、製品・サービスを売上げ、コストを削減し、オペレーションを回さなくてはいけません。資金が底を突く前に、安定させなければいけません。競合他社が多いと大変です。
・例えばエンジニアなら、事業プランを投資家・金融機関に説明し、資金調達します。さらに製品の優位性を顧客に説明しなければいけません。他に消耗品の手配/会計/HP・チラシ作成なども必要です。これらは組織で働いていると経験しません。ただし最近はアウトソーシングが発展し、活用できます。起業はサラリーマン時代に習得したノウハウ/人脈/アイデアが経営資源になりますが、ギャンブルに近いものです。
<7.会社を買って、経営者になる時代>
・企業で働き、ビジネスの無駄をなくしたり、アイデアで売上を伸ばした人はいます(※例を紹介しているが省略)。ところが中小企業には、同じやり方を何十年と続けている場合があります。ところが社長が工夫したり、従業員が試行錯誤している会社の買収であれば、先の苦労はしなくて済みます(※大手薬局チェーンの不採算店を買収した事例を紹介しているが省略)。
・この様に条件が揃えば、サラリーマンでもリスクを抑えて経営者になれます。1980年代後半不動産情報をオンラインでやり取りするシステム「レインズ」が開発され、全国の不動産事業者が使用しています。ただし良い物件は、先に懇意にしている買い主に流しています。M&Aでも「TRANBI」など17社がM&A情報の共有を始めています。ここでも良い案件は紹介で決まっていたりします。安い案件は財務内容や事業内容に問題があったりします。安易に飛び付かず、信頼できるアドバイザーを選んだり(※アドバイザーの説明はない)、ビジネスDDをしっかりやりましょう(※安物買いの・・)。ビジネスDDについては第6章で解説します。
○制度改正で経営者保証が解除
・70歳以上の中小企業経営者の半数(127万人)が後継者が未定です。候補者はいても、その6割が経営者保証が理由で事業承継を拒否しています。そこで政府は2020年、前経営者と後継者の双方には保証を求めないとしました(事業承継特別保証制度)。
第2章 中小企業は大企業と異なる
<1.中小企業と小規模事業者>
・「中小企業基本法」に「中小企業」の定義がある。製造業その他の場合、資本金3億円以下、又は従業員300人以下。卸売業の場合、資本金1億円以下、又は従業員100人以下。サービス業の場合、資本金5千万円以下、又は従業員100人以下。小売業の場合、資本金5千万円以下、又は従業員50人以下です(※簡略化。最近中堅企業も追加されたかな)。さらに製造業その他の場合、従業員20人以下、卸売業・サービス業・小売業の場合、従業員5人以下が「小規模事業者」です。一般的に言われる「小規模企業」「中小零細企業」は小規模事業者に該当します。本書は主に小規模事業者を対象にします。
<2.中小企業の特徴>
・個人M&Aを目指す人は、多くが大企業に勤めていたと思います。しかし大企業と中小企業は大きく異なります。またビジネス書の多くは大企業のM&Aを対象にしています。
・私は大手総合電機メーカーに15年務め、半導体開発会社(従業員20名程度)に転職しました。営業を担当しましたが、部下に「ポストイットはどこにある」と尋ねると。「自分で買って下さい」と言われました。これは大企業ではない事です。この様な状況なので「よそ者」として扱われました。しかし積極的にコミュニケーションを取り、関係は改善しました。また私は半導体の知識が不足していましたが、育成する体制はありません。その会社は技術部の幹部の権力が強く、彼に嫌われると、いられなくなる雰囲気でした。中小企業は大企業以上に封建的です。私はコンサルタントを目指していたので、8ヵ月で会社を退職しました。
・2010年コンサルタント会社を設立し、100社以上の中小企業の事業再生コンサルティングを行っています。そこで気付いた中小企業の事態を紹介します。
○経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)が乏しい
・「ヒト」は従業員を指します。中小企業は人材も基本スキルも不足しています。中小企業にはワード/エクセルなどが苦手な人がいます。これでは生産性や品質が下がります。これは社内教育体制の不備によります。大企業ではOJTが根付いていますが、中小企業では「OJTは自分の仕事」になっています(※詳細省略)。
・「モノ」は商品/設備を指します。大企業だと商品のレベルも高く、ラインナップも豊富です。中小企業だとラインナップに限りがあります(※それで下請になるのかな)。これは商品開発力の差です。大企業には商品企画部門と商品開発部門があり、ルーチンとして行われています。一方中小企業は行われておらず、あっても個人的・属人的です。
・設備でも老朽化した設備が使われ、価格競争で大企業に負けます(※詳細省略)。
・「カネ」では、中小企業は内部留保を充分持ちません。そのため業績が悪化すると、資金繰りに困ります。信用金庫・信用組合から借入できる時もありますが、業績悪化が続くと、借入も難しくなります。そうなると社長本人が資金を投入する事になります。
・「情報」では、中小企業の社長が決算書・試算表などの業績情報を把握していないケースが多くあります。期中に試算表を確認しないため、具体的な数字を把握できていません。
○マーケティング/ブランディング能力が低い
・大企業はマスメディアでコマーシャルしており、消費者は商品の特徴を知っています。しかし中小企業の商品は知名度がなく、選択肢に上がりません。販売ルートでも差があります。例えば食品加工業の大企業が新商品を開発すると、直ぐに全国のスーパーに並びます。中小企業だと地元のスーパーに営業活動して並べてもらうしかありません。知名度だけでなく、営業力・販路でも大きな差があります。
○生産性
・中小企業は労働集約型で生産性が低くなっています。製造業であれば機械化・IT化が進んでいません。非製造業でも標準化ができていません。また中小企業では従業員の業務が「作業」になっており、「思考」に不慣れで業務の見直しができません。人は作業と思考を同時にできず、作業を優先します。一方大企業は作業する人と思考する人が、部門あるいは役職で分かれています。
○組織統制
・中小企業は大企業と比べ組織統制が不十分で属人的です。大企業ではホウレンソウ(報告・連絡・相談)が徹底されています。上司はその内容を確認し、部下に課題解決を指示し、部下がその解決策を提案します。これは組織が統制されているからです。
○インセンティブが少ない
・大企業は昇進・給与アップ/福利厚生/社内表彰などのインセンティブが揃っています。また大企業は海外進出などをしており、異動する事で様々な経験ができます。一方中小企業は、評価制度/昇進・昇級制度/賃金制度/福利厚生制度が曖昧です。また単一事業なので、経験は限られます。
<3.中小企業経営の実態>
・教科書(※ビジネス書?)に出てくるのは大企業や超優良な中小企業です。そのため成功している中小企業と売りに出されている中小企業の実態は大きく異なります。そこで中小企業の経営者になって失敗しないために、その実態を説明します。
○所有と経営の一致
・中小企業の特徴は「所有と経営の一致」です。大企業だと所有は株主、経営は経営者です。経営者の在籍期間は数年で、株主も短期的な収益を要求するので戦略も短期的になります。一方中小企業の社長は株主の要求に左右されず自由に経営でき、中長期的な戦略になります。そのため優秀な経営者であれば、急成長できます。ただしやりたい事をやるのはデメリットです。株主の監視はなく、助言する幹部もいなければ、思い付きの施策になります。逆に経営を部下に任せ、趣味や宴会に入れ込む経営者もいます。
○経営者が会社の借入金の連帯保証人
・中小企業の経営者は会社の借入金の連帯保証人になっています。大企業の経営者が連帯保証人になる事はなく、業績悪化しても辞任すれば良いだけです。しかも膨大な退職金をもらえます。中小企業だと社長が連帯保証人なので、借金は社長の資産で返済しなければいけません。預貯金が足らないと、家を売る事になります。この様に中小企業の経営者は、それなりの覚悟が必要です。
○戦略も戦術も社長の仕事
・中小企業の場合、戦略も戦術も社長の仕事です。大企業だと、戦略は経営者・管理者が構築し、戦術は部下が行います。ところが中小企業だと戦略も戦術も社長の仕事です。大企業は規模が大きいため、方向性を明確にする必要があり、戦略が重要です(※商品のターゲットを例に説明しているが省略)。一方中小企業は規模が小さいため、業績を戦術で操作でき、戦術が重要になります。従業員は作業に忙しく、思考に慣れていないので、経営者の戦術が重要になります。
<4.理想の買手より赤字企業>
・買収先を選んでいる時は、業績の良い会社/優秀な従業員がいる会社と思っているでしょう。しかしそんな会社は競争率も価格も高くなります。また売手企業の多くは赤字企業/債務超過企業です。しかしその様な会社でもビジネスDDで精査すると、改善点が見付けられたりします。
・債務超過の会社は貸借対照表(BS)で資産(左)より負債(右)が大きい会社で、倒産する可能性が高くなります。ところが債務超過の中小企業は少なくなく、「実態BS」だと、さらに多くなります。実態BSは実態に合わせBSを修正したものです。例えば売掛債権が1千万円あっても、300万円は倒産した会社であったり(不良債券)、棚卸資産が3千万円あっても、500万円は製造中止の製品や使えない材料の場合があります。この様にBSと実態BSは違いがあります。この様に債務超過でも資金繰りが回っており、事業を継続している中小企業は多くあります。
・私は多くの中小企業の再生コンサルタントをしてきました。再生企業は、①連続赤字、②債務超過、③借入超過、④資金繰り難を抱えていますが、事業を継続しています。しかし中小企業は規模が小さいため、短期間で回復させる事ができます。また金融機関の支援を受け、債務を圧縮する方法もあります。再生企業が特にお勧めではないですが、十分買収の対象になります。債務超過だと企業価値が下がり、「お得」で買えるかもしれません。
<5.中小企業経営の魅力>
・ここまでは中小企業の実態を述べてきました。しかし強みを持ったり、従業員が優秀だったり、統制が取れた会社もあります。重要なのは負の側面を事前に把握しておく事です。本項は中小企業経営の魅力を取り上げます。
○経営者として自立・成長できる
・経営者になる事で自立し、様々な経験を積み、成長できます。サラリーマンだと業務の範囲が限られ、あくまでも企業の歯車です。一方経営者は様々な意思決定ができます。具体的には、経営戦略の構築/戦術の組立/資金の投入先/人材の配置/資金の調達先/他社との連携などです。近年はSNSでの情報発信も容易で、他社との連携もしやすく、価値を高めやすくなっています。これらは非常にやりがいがあります。
○自由に経営できる
・経営者は株式の2/3以上を保有していれば、自由に経営できます。会社が小規模なので、自由に組織体制を変更できます。他社との連携も自由に決めれます。クラウドソーシングで専門家のノウハウを安価に活用でき、クラウドファンディングで容易に資金調達できます。自らの意志で戦略・戦術を決めれます。
○小回りが利く
・規模が小さいため、変化に迅速に対応できます。素早くアイデアを出して施策を実行し、即座に業績を上げれます。大企業だと意思決定に膨大な時間が掛かり、生産性が低い体制になっています。これはスピードが求められる今の市場環境にマイナスです(※日本の大企業がよく指摘される点だ)。一方中小企業はスピードにおいて優位で、市場のニーズに迅速に対応できます。
○経営資源(強み)を活用できる
・アイデア1つで経営資源(強み)を活かせます。ネット通販/SNSによりヒット商品を生むのも簡単です。少しの工夫/機能追加/デザインの変更などで売上を伸ばせます。既存の商品・設備を活用しましょう。アイデアには以下があります。「商品の機能を別の商品に搭載する」「新たな機能を付加する」「使い勝手を改良する」「デザインを変える」「新たなターゲット向けに改良する」「商品と体験をパッケージにする」。
第3章 失敗の要因
<1.事業内容の未把握>
・個人M&Aの失敗要因の1つ目は、売手企業の事業内容(内部環境)を把握していなかったからです。多くの場合、事業内容を把握していません。普通M&Aは基本合意締結後にデューデリジェンス(DD)を行い、その後に最終契約書を締結します(※締結とは条約みたいだな)。
・DDには、法務DD/財務DD/ビジネスDDがあります。法務DDは法的権利の評価で、係争事件の有無/偶発債務などの潜在的な法務リスクをチェックします。例えば株主が大きく変わった場合、取引先との契約が無効になったりします。法務DDは弁護士が行います。
・財務DDは、売掛金・在庫・土地・建物の再評価や正常収益力の再評価を行ない、簿価ベースの「貸借対照表」(BS)/「損益計算書」(PL)を実態ベースに作り直します。要するに潜在的な財務リスクをチェックします。例えば簿価ベースで売掛金が1千万円あっても、300万円が不良債権だったりします。財務DDは会計士・税理士が行います。
・ビジネスDDは事業内容の分析です。例えば、経営・組織/工場・店舗/業務などで問題がないか、強みは何か、事業におけるリスクは、成長の可能性などを確認します。ビジネスDDは実施されない事が多く、実施されても買手の従業員などの素人が行っています。
・私達がモノを購入する際は、しっかりと中身を確認します。ところがM&Aでは十分行われていません。中小企業が同じ製品を作っていても、事業の中身は大きく異なります。経営手法・組織体制/戦略・戦術/作業フロー・作業方法/スキル/商品の特徴など多種多様です。
・ビジネスDDが行われないのは、専門的な知識が必要で、未経験者はできないからです。中小企業経営では各部門を俯瞰的に捉えられなければいけません。そして問題点を改善し、成長戦略をイメージできなければいけません。
<2.中小企業の実態と経営手法> ※本項以下は買収後の失敗要因だな。
・失敗要因の2つ目は、中小企業の実態と経営手法を知らずに経営するからです。大企業で普通にできる事が、中小企業ではスムーズに行えません。例えば大企業だと戦略は経営幹部が構築し、戦術は担当者が行います。ところが中小企業だと戦略も戦術も社長が行います。また組織体制も脆弱のため、各部門の管理・統制も社長が行います。各部門の管理者も作業に徹しているため、社長が全員に情報を伝える必要があります。また組織が機能別になっていても、各組織の役割が明確になっておらず、管理者は管理者としての自覚がありません。
・他に業務自体が属人的になっています。OJTが行われないため、ルーチン業務になっていません。その人が休暇を取ると、業務は滞ります。社長は現場の細かい所まで把握しておらず、これらは放置されています。
<3.自社・顧客・競合>
・失敗要因の3つ目は、自社の問題点・強み、顧客のニーズ、競合の状況を把握していないからです。いわゆる3C分析(自社:Company、顧客:Customer、競合:Competitor)していません(※SWOT分析に近いかな)。中小企業の従業員は自分の業務範囲しか知らないので、社長は会社全体を把握する必要があります。例えば不要な資料を習慣的に作っていても、従業員は忠実に作るだけです。社長はこれに気づき、改善しなければいけません(※詳細省略)。
・顧客ニーズの把握ができていません。長年経営していれば固定客がいます。社長はその固定客が、なぜ自社を選んでいるのか把握していません。また固定客だけに販売していると、新たな顧客ニーズも察知できません。新商品が開発できないと、売上は減少する一方です。
・競合他社の商品を知っていても、その分析ができていません。他社の新商品や新規参入で顧客が減少しても、その分析ができていません。
・固定客がいて市場環境が安定していると、事業は回ります。今はホームページ/SNSで商品情報が溢れています。顧客は良い製品を簡単に見付けられます。ライバルは多いのです。顧客のニーズを把握し、競合他社を知り、自社の強みを活かす行動を機動的に行わないと、事業を継続できません。
・(※寿司屋の事例を詳しく紹介しているが省略)。「新たな戦略」とは、自社の強み・経営資源を活かし、需要が見込めるターゲットを決め、その価値を浸透させる事です。同社は都会から離れているため、サラリーマンをターゲットにできず、「若い女性」をターゲットにしたのです。料理を「インスタ映え」にし、メニューに新鮮な野菜を使ったサラダや新鮮な果物を使ったデザートを加えました。さらにそれらをSNSで発信しました。店を再開すると次第に顧客が戻り、2ヵ月で黒字に戻りました。これは3C分析を行ったからです。
<4.ビジョンが不明確>
・失敗要因の4つ目は、「ビジョンの不明確」です。経営の基本概念として、「ビジョン」以外に「経営理念」「ミッション」が活用されます。「経営理念」は、会社の存在意義や価値観です。これは長年引き継がれ、団結力の基になります。カリスマ経営者がいる会社や超優良企業はこれが従業員に浸透しています。ただし多くの会社は従業員の関心が低く、浸透していません。
・「ミッション」は、会社がどの様に社会に貢献するかを示す使命です。ミッションが掲示されると、従業員は働く意義を見出しやすくなり、士気は上がります。会社に社会を変える要素がなければ、有効なミッションを掲示できません。
・「ビジョン」は、会社が目指す将来やゴールです。期間は短期でも中長期でも良く、各従業員が目指せるものです。具体的になり、例えば定量的なものであれば「3年後に店舗を5店舗増やす」「5年後に売上高を2割増やす」などです。定性的なものであれば「ワクワクする所品を増やす」などです。最も有効なのが、このビジョンです。従業員は様々で、これがないとバラバラになります。これは様々な個性を持った従業員のベクトルを合わせるのに有効です。
<5.PDCAを回せていない>
・失敗要因の5つ目は、社長が業績を把握しておらず、経営のPDCAを回せていません(※これは、2.実態を把握していない、3.3C分析していないを含むかな)。業績の把握は決算書(「貸借対照表」(BS)、「損益計算書」(PL))を使います。大企業だと「キャッシュフロー計算書」(CF)も使いますが、中小企業だと代わりに「資金繰り表」を使います(※資金繰り表の詳しい説明はない)。PL/BSで1年間の業績を確認でき、次年度の経営戦略/事業計画を策定できます。
・PDCAは計画(Plan)/実行(Do)/検証(Check)/改善行動(Action)の頭文字で、経営状況を改善するフレームワークです。ただし製造現場や個人の成長などにも使われます。まずは現状を数値で把握し、問題があれば改善策を策定し、改善策を実行します。つまり「問題点の発見→原因の究明→改善行動」を繰り返すのです。
・期中での業績の確認は「試算表」を使います。これは月次のPL/BSの事で、業績を前年同月や計画と比較します。そして毎月の経営会議の資料にします。ところがこれを作らない中小企業が多く、期中に問題を認識できなくなっています。
<6.コミュニケーション不足>
・失敗要因の6つ目は、従業員とのコミュニケーションの不足です。中小企業だと組織体制が曖昧で、管理・統制が不十分です。そのため経営者と従業員との信頼関係がないと、業務に支障が出ます。
・大企業だと管理者が部下に指示を一斉にメールすると、部下はそれに従って業務を行います。一方中小企業では、従わない時があります。これは業務が労働集約型で固定化され、担当者が業務範囲を自分で決めているからです(※業務が固定化し、変更・応用できないのかな)。中小企業の従業員の給与は大企業の1/3から半分で、インセンティブが劣ります(※そんなに違うのか)。
・これを改善させるのが経営者と従業員のコミュニケーションです。特に外部から来た経営者だと「よそ者」と見られ、信頼感は高まりません。M&Aで成功するためには現場主義になり、従業員とのコミュニケーションを大切にしなければいけません。
<7.ブランディング不足>
・失敗要因の6つ目は、「ブランディング」できていない点です。大企業と中小企業ではブランディング力が大きく違います。「ブランド」「ブランディング」はコンサルタントでも意味を正確に理解していません。多くの人はブランドを、アップル/アマゾン/フェラーリ/シャネルなどの有名企業と思っています。またブランディングは、デザインの洗練と思っています。まずブランドとは、顧客が商品・サービスから思い浮かべる「価値イメージ」です。例えばアップルに対しては、「革新的」「おしゃれ」「高機能」「優良企業」などです。そしてブランディングとは会社にブランド力を付ける事で、価値の高い商品を提供し、顧客にその価値を発信する経営活動です。
・大企業は大量仕入れ/最新設備などにより、低コストで高付加価値の製品を大量に生産できます。ところが中小企業はこれができず、無理に価格を下げ、利益を確保できていません。昨今はモノや情報が溢れ、物・サービスを安価に入手でき、ニーズは多様化しています。そのため中小企業はターゲットを絞り込んだ商品を提供するしかありません(※テール商品、ニッチ商品だな)。つまり量を売って「額」を稼ぐのではなく、高利益の「率」で稼ぐしかありません。この差別化でブランドを認知してもらうしかありません。具体的には「特徴ある商品」「顧客に受け入れられる商品」です。
第4章 M&Aの全体像
<1.M&Aのプロセス>
・M&Aは「合併と買収」(Mergers and Acquisitions)の略で、企業や事業の経営権を取得・譲渡する事です。合併はグループ企業内以外では使われません(※ホンダと日産が経営統合の協議を始めたが、これもM&Aに含まれるみたいだ)。個人が対象のスキームは「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」です。M&Aのプロセスは、①相手探し、②秘密保持契約の締結、③基本条件の掲示、④TOP面談、⑤基本合意書の締結、⑥買収監査(DD)、⑦最終条件交渉、⑧最終契約書の締結、⑨クロージング、⑩PMIです。
・まずは「①相手探し」です。個人の場合、M&Aマッチングサイトで相手を探します。有名なサイトに、「Batonz」「TRANBI」「ビズリーチ・サクシード」があります。
・次に「②秘密保持契約(NDA)の締結」を行い、企業が特定できる情報「案件概要書」を開示してもらいます。これは、会社概要/組織構成/事業概要/主要取引先/商流/財務状況/保有設備・資産/希望条件などです。情報が足らないと思った時は要求しましょう。
・次は「③基本条件の掲示」です。これは売手の希望価格、会社名・屋号を残したいか、従業員の雇用確保などです。株式譲渡の場合は、金融債務の引き継ぎ、オーナーの個人保証の解除なども含まれます。個人の場合これが難しいため、株式譲渡ではなく事業譲渡が多くなります。
・次は「④TOP面談」です。売手企業の代表との面談です。経営の考え方、売却・買収を希望した経緯などを確認します。ここでは価格の話をしません。
・双方の意向が変わらなければ、「⑤基本合意書の締結」を行います。この段階で独占交渉権を得ます。これは、株式譲渡対価/スキーム/スケジュール/買収監査(DD)の協力/表明と保証/独占交渉権/売手の禁止事項/秘密保持義務/法的拘束力の有無になります。「表明と保証」は、開示してきた内容が真実である事の表明と保証です。※「法的拘束力の有無」は何だ?
・次に「⑥買収監査(DD)」を実施します。DDには、財務/法務/ビジネス/労務/不動産/環境/ITなどがあります。上記3つは実施したいものです。財務DDは企業価値の評価だけでなく、リスク要因の評価にもなります。中小企業だと決算書に記された資産がなかったり、不適切な会計処理で税務調査を受けたりします。
・次に「⑦最終条件交渉」に入ります。DDの結果から「基本合意書」を調整します。例えば未払い残業代/退職金引当金/回収できない売上債権/資産の時価評価などを価格に反映させます。
・これが終わると「⑧最終契約書の締結」です。「最終契約書」はスキームにより「株式譲渡契約書」「事業譲渡契約書」になります。株式譲渡契約書の場合、目的・定義/取引内容/表明と保証/誓約事項/クロージング条件/解除条件/損害賠償・補償になります。最終契約書と基本合意書はある程度重複しますが、最終契約書の方が詳細になります。それは法的拘束力が生じるためで、弁護士に最終確認してもらいます。
・最後に「⑨クロージング」です。クロージング条件や誓約事項が満たされれば(※詳細説明が欲しい)、金銭決済/重要物品(代表印)の引き渡しなどを行います。買手が企業の場合、「⑩PMI」(※ポスト・マージャー・インテグレーション。第6項で解説)で企業の統合を行います。
<2.株式譲渡>
・M&Aの9割が「株式譲渡」です。中小企業の場合、代表取締役からの株式100%の譲渡になり、代表取締役も役員も替わります。このメリットは全ての契約・許認可/取引先/従業員を引き継ぎ、対外的な影響を抑えられます。また手続きも簡単です。デメリットは簿外債務/偶発債務も引き継ぐ事になります。個人M&Aの場合はオーナーの個人保証の解除が難しいため事業譲渡が多くなりますが、建設業・旅館業などでは許認可を引き継げる株式譲渡で進めます。
<3.事業譲渡>
・個人M&Aでは事業譲渡が多くなります。理由は金融機関の同意が得られない、金銭負担が少ないなどです。資産・負債と事業の一部や全部を譲渡しますが、株主総会で特別決議が必要になります。このメリットは、譲り受ける資産・負債を選択できる点です。また営業権は5年間損金計上できます。デメリットは許認可・契約を引き継げません。また設備などの譲渡は消費税が掛かります。従業員の引き継ぎは、新たに同意が必要です。※事業譲渡は部分譲渡だな。
・なお売手オーナーの個人保証の解除が難しいので、個人M&Aでは事業譲渡を勧めています。金融庁の調査では、経営者保証に依存しない新規融資は2017年度16.5%、2019年度21.5%と増えています。増えてはいますが、まだ2割です。経営経験がないと特に厳しくなります。
<4.会社分割>
・事業継承では許認可を引き継げれないので、「会社分割」する場合もあります。これは株式会社・合弁会社の権利・義務の一部を別の株式会社・持分会社に移転するスキームです。事業譲渡は売買契約ですが、これは会社法に基づく組織再編手続きになり、グループ会社の再編でよく用いられます。また会社分割には「新設分割」「吸収分割」があります。前者は新しい会社を作り、事業の一部を引き継ぎます。後者は既存の会社が、事業の一部を引き継ぎます。
・事業譲渡の対価は現金で支払われますが、会社分割は無対価か株式で支払われます。事業譲渡は消費税/不動産取得税/登録免許税が掛かりますが、これだと消費税は課税されず、不動産取得税/登録免許税は軽減措置を受けます。また事業譲渡は簿外債務のリスクはありませなが、こちらは注意が必要です。
<5.企業価値評価>
・企業価値評価(バリュエーション)には、①コスト・アプローチ、②インカム・アプローチ、③マーケット・アプローチがあります。①は資産・負債から算出し、簿価純資産法/時価純資産法があります。②は将来の収益・キャッシュフローからリスクを引いて算出し、ディスカウント・キャッシュフロー法(DCF法)/収益還元法があります。③は株式評価から算出し、市場株価法/類似会社比準法があります。上場企業だと②③で評価し、スマートM&Aでは①の「時価純資産法」に「営業権」(※暖簾かな)を加えて評価します。
・時価純資産法は帳簿上の純資産に含み損益を考慮し、時価で評価します。ポイントは「棚卸資産は存在するか」「有形固定資産は存在するか」「減価償却は行われたか」などです。スモールM&Aでは、営業権は「年買法」をよく利用します。時価純資産に修正営業利益(数年分の営業利益を調整)を加算し評価します。
※年買法は時価純資産法と営業権の加算を含むのかな。また営業権(無形の価値)はかなり広範囲に存在すると思うが、営業利益だけで修正するんだ。
<6.PMI>
・PMI(企業統合プロセス。ポスト・マージャー・インテグレーション、Post Merger Integration)は買手が企業なので、簡単に説明します。1つ目のポイントは、事前に手法を設計する事です。この設計は全体設計から詳細設計まで全てです。そのためには売手企業・買手企業の双方のビジネスDDが必要になります。設計が終わると、それを実行するスケジュール/アクションプランを作成します。アクションプランには、実行内容/実行期間/責任者/実行者を記します。
・2つ目のポイントは、プロセスの明確化です(※1つ目と違うのか?)。具体的には、①経営統合/②管理統合/③業務統合のプロセスを実施します。①は基本概念(経営理念、ビジョン)/経営体制・組織体制/経営戦略/マーケティングの再構築です。基幹システム/人事労務などの管理業務も含みます。特にシナジー効果による経営戦略/マーケティングの再構築が重要です。②は各部門を統合するための運用面の設計プロセスです。具体的には、各部門の事業戦略/組織体制/マネージメントの再構築です。③は各部門の業務内容/ルーチン/機械装置の統合です。各部門を効率的に運用するための詳細設計です。経営理念/ビジョンの浸透も含まれます。
・シナジー効果を実現するのは容易でありません。失敗の理由には売手企業の現状把握が不十分な場合と、このPMIが不十分な場合があります。社内が混乱すると、従業員の離職や顧客離れに発展する恐れがあり、統合プロセスの事前設計は重要です。
第5章 買収前に企業特性を押さえる
<1.企業の基本的な特性>
・企業の特性は経営判断の重要な前提条件になります。企業の特性には、①企業特性、②事業特性、③業界特性、④地域特性がります。①はその企業特有の要因で、内部環境の特性です。企業がBtoBの場合、消費者向けの戦略・戦術は不要です。
・②は外部環境も含めた特性です。外部環境は市場・業界の傾向などのマクロ的視点、ターゲットのニーズ/ウォンツや競合他社の状況などのミクロ的視点で、自社でコントロールできません(※外部環境だと③④が含まれそうだ)。
・③は製造業/飲食店などの業種・業界に存在する特性です。例えば小売業とサービス業は店舗型ですが、前者はモノを扱い、後者はサービスを扱い、ビジネスモデルが異なります。前者はモノで差別化し、後者はサービスで差別化します(※詳細省略)。また製造業と小売業でも違いがあります。前者は製品で差別化するため、その企画・設計が重要になります。またラインナップ/販売ルートでシナジー効果を出せるかが重要になります。一方後者は自社のコンセプトに合った商品を全国から見付け出す事が重要になります。
・④は地域の独自性・異質性です。地域により特産物/産業/気候/人の特徴が異なります(※商習慣とかも異なるのでは)。近年地域再生が課題になっています。各地に美しい自然や食べ物があります。
<2.BtoB、BtoC>
・本項は「BtoB」(Business to Business)と「BtoC」(Business to Customer、※Consumerの方が適切かな)の特性を紹介します。BtoBは法人向けのビジネス形態です(企業間取引)。これは取引先が固定化される事が多く、マス向けのプロモーションは余り行われません。BtoCは一般消費者向けのビジネス形態です。家電/アパレル/小売店などで、マス向けのプロモーションが盛んに行われます。
・両ビジネス形態を「顧客の判断基準」で比較します。BtoBでは買手企業(※ここでは顧客だな)は製品の機能面(品質、使用性)から合理的に判断します。そのため詳細で簡潔な資料を作成します。一方BtoCでは機能面だけでなく、情緒面(デザイン、ブランド)も重視されます。さらに感情面(好き、かわいい)が加わります。そのため販促ツール/SNS/営業トークなどが重要になります(※営業トークについて詳述しているが省略)。
・次に「顧客の意思決定プロセス」で比較します。BtoBは担当者・上司・最終決定者が決定に関係します。そのため担当者への説明だけでなく、資料も重要になります。一方BtoCは購入者(=使用者)がその場で決めます。そのため営業トーク/販促ツールが重要になります。
・次に「購入の継続性」を比較します。BtoBは自社製品に使用する材料・部品のため、リピート前提の購入になります。ただしトップ交代や製品の製造停止など、突如取引停止になる事があります。一方BtoCは購入者がその都度購入するので単発的です。そのためリピートしてもらうには、ポイント/SNSへの登録などのブランディングが重要です(※詳細省略)。
・この様にBtoBとBtoCは大きく異なります。ただBtoB製品を少し加工したら、BtoCで成功した例もあります。
<3.労働集約型、資本集約型>
・「労働集約型」は、お金・機械・設備より労働力への依存が高い産業です。このビジネス形態は中小企業で多くなります。売上高に占める人件費の比率が高くなります。第1次産業(農業、漁業など。※漁船とか高そうだが)、サービス業(介護、飲食店、マッサージなど)、機械化が進んでいない製造業が該当します。中小企業の製造業では作業員のスキル不足/シングルタスクにより、生産性が極めて低くなっています。これには教育(OJT)による品質向上/スピード向上/マルチタスク化が必要です。
・「資本集約型」は、労働力より固定資本(設備、機械)への依存が高い産業です(装置産業)。従業員1人当たりの有形固定資産比率(資本装備率)が高くなります。稼働率が上がると、有形固定資産に対する売上高比率(有形固定資産回転率)が高くなります。機械化が進んだ製造業、インフラ企業(電気・ガス、通信、エネルギー、鉄道など)が該当します。これは機械化・自動化・IT化で生産性を高めるビジネス・モデルで、人件費より資本効率が重要です。設備投資への資金力が課題で、大企業のモデルです(※日本の半導体産業の敗因かな)。
・他に「知識集約型」があります。これは知的労働力/研究開発が収益の源泉です。コンサルティング・ファーム/ファブレス・メーカーなどが該当します(※医師・弁護士などの個人事業主なら一杯ある)。1人当たりの資本投下は少ないが、収益力は高くなります。
<4.フロー・ビジネス、ストック・ビジネス>
・「フロー・ビジネス」は、その都度の取引で収入を得るビジネスです。飲食店/小売店/製造業などが該当します。顧客の購入のハードルが低いため、開業の早い段階から売上を得られます。参入障壁が低くなり、競争が激しくなります。フロー・ビジネスでは、リピートさせる仕掛けが必要です。ポイントカードは多くの企業が実施しています。また流行に大きく影響するため、顧客のニーズ/ウォンツを敏感に察知しなければいけません(※詳細省略)。
・「ストック・ビジネス」は、顧客と契約したり、会員になってもらい、継続的に利益を得るビジネスです。インフラ事業(通信、電力、ガス)/レンタル・リース/スポーツジム・フィットネスクラブなどが該当します(※最近サブスクリプションが多い)。契約・会員を獲得するまでの運転資金が課題ですが、収益は安定します。都度販売しつつ、割安感で会員に誘導するフロー・ビジネスとストック・ビジネスの複合も多く見られます。
<5.嗜好品、生活必需品>
・「嗜好品」は実生活に必需ではないが、個人的趣味から購入する商品です。高価な衣服・時計/装飾品/玩具/タバコ/菓子/お酒などです。嗜好品は使い勝手/デザインなどを変える事で、価値が一気に高まります。そのためブランド化しやすく、価格競争に巻き込まれ難い商品です。また「多品種少量生産」になるため中小企業に適します。しかし市場の変化は激しくなります。
・「生活必需品」は生活に欠かせない商品です。食品/衣服/日用品/燃料/最低限の家電などです。この商品は「小品種多量生産」になるため、設備が充実した大企業に有利です。中小企業が取り組む場合は、ターゲットを絞り、特有のニーズを捉えた商品にする必要があります。
<6.見込生産、受注生産>
・「見込生産」は需要予想・販売計画を基に生産する形態です。これは同種の製品を大量に生産します(量産品)。競合他社が多く、市場価格が概ね決まっています。見込生産で重要なのが「生産性」です。設備の稼働率を上げ、売上高や限界利益(=売上高-変動費)に増やします(※詳細省略)。これはホテル・旅館も同様で、限界利益がプラスになる価格であれば、空室を埋めるのが利益に繋がります。
・「受注生産」は顧客の要求する仕様・数量に合わせて生産する形態です。オーダーメイド/カスタマイズ品/専門品/試作品などです。受注生産は見積価格(粗利率)が明確(※適切?)で、案件・製品単位で利益率が取れているかが重要です。見込生産は「量」で勝負しますが、受注生産は「率」で勝負します。
・受注生産は一品一品の生産になり、高い利益率で受注できます。ただし原価の正確な見積が前提です。原価には材料費/労務費/外注費/経費が含まれ、適切な原価管理が必要です。しかし受注生産でも低い利益率になっています。それは見積価格の精度が低いためです(※詳細省略)。中小企業では見積作成の仕組みが確立していません(※詳細省略)。また見込生産と受注生産が混在しており、この違いを理解せず見積もっています。他に想定以上に生産リードタイムが掛かり、見積以上に労務費が掛るケースがあります(※詳細省略)。
<7.固定費型、変動費型>
・企業には「固定費型企業」と「変動費型企業」があります。固定費型企業は売上高に対し、固定費の割合が高い企業です。設備投資を多額に行う製造業やホテル/テーマパークなどが該当し、参入障壁が高い業種です。
・「経営レバレッジ係数」(=限界利益/営業利益)は、売上が変化した時に利益がどの程度変化するかを表す指標です。固定費の割合が高いと経営レバレッジ係数は大きくなり、売上高の増加率より利益の増加率が大きくなります。つまり固定費型企業は、損益分岐点以上の売上を得れば、利益は大きく伸びます(※図解あり)。また高い固定費を賄える売上が確保できないと事業は成り立ちません。豊富な資金や多くの顧客を持つ大企業がメインです。
・一方変動費型企業は売上高に対し変動費の割合が高い企業です。小売業/卸売業/原価で材料費の割合が高い製造業などが該当します。初期投資が余り掛からないため、参入障壁は低くなります。しかし売上が伸びても、利益はそれ程伸びません。
・中小企業を見る場合、どちらの企業なのか見極める必要があります。原価は材料費・外注費が変動費、労務費・経費が固定費で、この構成で判断します。
第6章 強みと課題の把握
<1.3C分析>
・M&Aは基本合意を締結した後、財務DD/法務DD/ビジネスDDなどを行います。ところが個人M&AではDDを省く事があります。また中小企業の経営が未経験だったり、経営コンサルティングが未経験だと買手企業(※売手企業?)の現状把握が十分できません。そこでビジネスDDが未経験でも現状把握できる方法を紹介します。
・ビジネスDDで作成する「事業調査報告書」などで、フレームワークがよく使われます。しかし上手く使われていない気がします。ロジカルシンキング/問題解決/マーケティングなどの書籍で様々なフレームワークが紹介され、調査・分析=フレームワーク活用と勘違いされています。さらにフレームワークを活用すれば分析できたと勘違いされています。これは「分析」ではなく「情報整理」に過ぎません。ただし「3C分析」すれば、概ね網羅できます。
・3C分析はマーケティングで活用されますが、事業の現状把握が概ね行えます。3C分析(自社:Company、顧客:Customer、競合:Competitor)は自社と競合の問題点/強み、競合(※顧客?)のニーズ/ウォンツ/悩み事を抽出するフレームワークです。(※ベン図の図解あり)①(自社で競合・顧客と重ならない部分)は自社だけの強みだが、顧客のニーズに適合せず、「独りよがり」の領域です。②(自社・競合は重なるが、顧客と重ならない部分)は、自社・競合が提供するが、顧客のニーズに適合せず、「不毛地帯」の領域です。①②はやがて「プロダクトアウト」します。③(自社・競合・顧客が重なる部分)は自社・競合の強みで、顧客のニーズにも適合しています。この領域は「レッド・オーシャン」で激しい競争が行われます。低価格競争になり、中小企業は避けるべきです。④(自社・顧客は重なるが、競合と重ならない部分)は自社の強みと顧客のニーズが適合するが、競合がいない領域です。「ブルー・オーシャン」と呼ばれ、自社で価格設定でき、高利益率で販売できます(ニッチ領域)。
・ポイントは「差別化」です。顧客のニーズに適合した機能を追加/組み合わせる事で、ブルー・オーシャンにできます。他に競合が少ない領域も主導権が握れます。いち早く情報発信すると、「先行者利益」を獲得できます。
<2.4P+ブランド力/信頼関係>
・中小企業の経営者の仕事は、「課題解決」と「成長戦略」です(※マイナスを減らし、プラスを増やすだな)。これらを行うには、内部環境を分析し、課題と強みを抽出する必要があります。これがビジネスDDですが、簡単な方法を説明します。これは3C分析がベースで、課題は自社が劣る部分あるいは顧客のニーズに適合しない部分です。強みは競合が未対応/自社が優位で、顧客のニーズに適合する部分です。
・まずは「4P」と「ブランド」「信頼関係」で抽出する方法です。4Pは商品(Product)/販促(Promotion)/流通(Place)/価格(Price)で、マーケティングで使用するフレームワークです。これは企業側から見るもので、顧客側から見るのが「4C」です。4Cは、価値(Customer)/コミュニケーション(Comunication)/利便性(Convieniens)/コスト(Cost)で、顧客側のベネフィット(便益)です。れぞれ4Pの各要素に対応します。例えば企業側の掃除機の「吸引力が変わらない」は、顧客側に「素早く奇麗に掃除できる」「掃除が楽」の便益になります(※商品と価値の対応かな)。「4P/4C」に「ブランド力」「顧客との信頼関係」を加えたものが差別化要因です。
・「4P/4C」の企業側の「商品」で、商品の特徴/ラインナップ/品質/デザイン/材料などから強み/課題を探ります。これに対する顧客側の「価値」は、機能的価値(時計だと時刻を正確に知らせる)/情緒的価値(時計だとデザイン・高級感)です。次の企業側の「販促」は、営業力・販促力/通信販売/重要顧客/人脈/SNSです。これに対する顧客側の「コミュニケーション」は、丁寧な商品説明/悩み解消/満足度です(※価値と重複しそう)。次の企業側の「流通」は、流通チャネル/商圏/立地です(※販促と重複しそう)。これに対する顧客側の「利便性」は、販売側との接しやすさ/アクセスしやすさ/買いやすさです。最後の企業側の「価格」は、標準価格・値引価格/支払方法/取引条件です。これに対する顧客側の「コスト」は、不安感/店舗までの距離/商品が届く時間/購入金額です。※4Pは企業が提供する特徴で、4Cは各顧客の評価かな。
・次に差別化する要素として「ブランド力」があります。これは商品名などではなく、顧客が持つ「価値イメージ」です(※4Cに近い気がする)。例えばアップルでは「革新的」「おしゃれ」「高機能」です。これは商品の知名度が前提で、さらに良いイメージを連想させる必要があります。結果、顧客との継続的・高利益率の取引が可能になります。
・ブランド力のある会社は、リピーターの上位であるファンを持ちます。彼らは商品の選択が容易で、便益になります。またその商品を身に付ける事で満足感を得ます(※詳細省略)。この様にブランドを確立すると双方にメリットがあります。
・最後は「顧客との信頼関係」です(※これも4Cに含まれそうだが)。これは商品の機能的・情緒的な価値ではなく、「人間同士」の価値です(※これも商品から作られるのでは)。大企業は担当が頻繁に変わり、意思決定に上司が関与します。相見積に対し合理的に判断し、大企業との信頼関係は築き難くなっています。一方中小企業だと、取引が古くから継続され、信頼関係の上で成り立っています。特別な取引でも、納期・価格などで調整できます。ただし昨今はネット販売で低価格商品を選択するケースが増えています。またM&Aで社長が替わると、信頼関係が失われる場合もあります。
<3.業務フロー>
・課題と強みの抽出方法の2つ目が「業務フロー」です。これは4Pの「商品」などを、さらに掘り下げる場合に使用します。業務フローにより、生産性が低い工程/ボトルネックの工程/品質を悪化させている工程、逆に強みで差別化している工程を把握できます。※デザインモデル製作の業務フローを例に詳しく説明しているが省略。
<4.顧客フロー>
・課題と強みの抽出方法の3つ目が「顧客フロー」です。業務フローは主に製造業で使われ、これは主にサービス業で使われます。これは顧客がサービスを受ける時の動線・行動経路です。店舗経営では顧客フローを「見える化」し、顧客とスタッフとの接点で、いかに価格を高められるかが重要になります。
・美容室を例に説明します(※図解と共に詳しく説明しているが簡略化)。集客・予約では、ネットなどで自社の強みや顧客の利益を伝えます。入店時の対応も重要です。内観と外観は合わせ、顧客に合わせた雰囲気にします(※一時期、店舗の統一性が話題になった)。この美容室はカウンセリング・ブースを設け強みになっていますが、その分回転率は下がります(※簡略化)。続いて施術/商品紹介です。これらではスタッフへの教育が欠かせません。最後は見送りです。
第7章 中小企業経営の重要ポイント
<1.ビジョンの明確化>
・本章は経営者になった後の経営における重要事項を解説します。まずは「ビジョンの明確化」です。企業の活動方針を経営理念/ミッション/ビジョンで示しますが、特に有効なのが「ビジョン」です。従業員は様々ですが、ベクトルを合わせるため、ゴールを示す事が重要になります。ビジョンは定量面と定性面の両方を示します。売上高などの定量面だけでなく、従業員のやる気を引き出す定性面も必要です。よく「地域再生に貢献する」「従業員が幸せになる」などがありますが、これでは従業員に刺さりません。
・優れた組織は「従業員が同じゴールを共有している」「従業員がやる気・自立心を持ち、自らアイデアを考え、実践する」となっています。この様な組織にするには、ビジョンを以下にする必要があります。①ゴールを具体的にイメージできる、②自社に特有である、③従業員の業務とゴールが直結する。
・これに有効なのが「ブランド・アイデンティティ(BI)のビジョン化」です。BIとは「自社の商品・サービスをどう思われたいか」です(※ブランド力、ブランディングなど関連する言葉が多い)。「BIのビジョン化」は様々な効果があります。1つ目は「従業員への浸透が容易」です。経営理念/ビジョンを従業員に浸透させるのは大変です。2つ目は「全従業員のベクトルを合わせられる」です。本来はこれは難しいのですが、「顧客にどう思われたいか」であれば、従業員もイメージしやすく、業務とも結び付きやすくなります。3つ目は「全従業員が顧客を軸に考える事ができる」です。社内会議で対立する事はよくありますが、顧客を軸として考えると、ブレなくなります(※具体例は省略)。
・4つ目は「顧客を軸にすると、経営者も従業員も決断が早くできる」です。これからはアクションのスピードが要求されます。誤った経営判断は「顧客軸」でなく「企業軸」で考えているからです。5つ目は「従業員のモチベーション/自主性が向上する」です。従業員の業務とビジョンが直結するため、従業員は自主的に考える様になり、よりモチベーションが高まります。6つ目は「組織の統制・意思決定が容易になり、組織力が向上する」です。経営者・従業員のベクトルが合うため、統制・意思決定が容易になり、従業員は自主性を高め、レベルアップし、組織力が向上します。
・「BIのビジョン化」は「経営のマジック」です。例えば「ショッピングで『ワクワク』新発見」をBI(ビジョン)に設定すると、これから従業員にゴールを示せます。従業員もこれに沿った商品を仕入れたり、POP(※販促ツール)でこれをアピールできます。顧客がこれを実感すれば、ブランド向上にもなります。※別の事例として「ばんどう太郎」の「親孝行」を紹介しているが省略。
・大企業でも中小企業でも優良企業は顧客軸で経営し、さらに顧客の細かいニーズに応えています。そのためには全従業員が顧客に向き合う必要があり、それをビジョンにすべきです。
<2.PDCAの構築>
・2つ目の重要事項は「PDCAの構築」です。これを回すには、「試算表」で当月の実績を前年同月などと比較し、問題があれば原因を究明します。原因が分かれば、改善策を立て、アクションを起こします。これは問題解決だけでなく、成長施策でも利用します。これを繰り返し、経営を安定化・成長させます。
・ここでの注意点は、これを経営会議で行う事です。業績の確認/現状の把握だけでなく、原因究明/改善施策まで行い、即座にアクションできる様にします。ただし大企業と中小企業では異なります。大企業の経営会議は戦略を構築しますが、戦術は各部門が行います(※詳細省略)。一方中小企業の部門スタッフは作業が忙しく、思考業務に不慣れで、改善施策の構築ができません。また中小企業では試算表が発行されない場合もあります。これでは問題解決が行われず、経営が悪化する一方です。
<3.戦略・戦術の構築>
・3つ目の重要事項は「戦略・戦術の構築」です。経営者は戦略だけでなく、具体的な施策(戦術)も構築しなければいけません。戦略は方向性を示すもので、「新規開拓を強化する」「リピート率を高める」などです。一方戦術は具体的で、「東京23区の食品会社に週5社訪問する」などです。ビジネス書では「戦術より戦略が大事」としていますが、これは外部環境に大きく影響される大企業の場合です。中小企業は規模が小さいので、戦術次第で業績を上げられます。
・そのため経営者は現場の状況を正確に把握し、変化が激しい市場に適合した戦術を検討する必要があります。ただし業務を行うのは従業員なので、経営者は戦術の「たたき台」を作り、従業員が具体的なアクションを作るのが良いでしょう。従業員が決定に関わる事で、責任感・やる気が増します。
<4.生産性向上>
・4つ目の重要事項は「生産性向上」です。生産性とは「投入した生産要素に対する付加価値」です。「投入した生産要素」は「=有形固定資産(設備など)/従業員」です。「付加価値」は売上から外部購入費を引いたもので、「=営業利益+人件費」です。また生産性には「資本生産性」(=付加価値/有形固定資産)と「労働生産性」(=付加価値/従業員数)があります。
・「資本生産性が低い」のは、概ね設備の稼働率が低いからです。日本は海外生産を増やしたため、稼働率が低くなっています。そのため生産性を高めるには、顧客の開拓や新事業の展開が必要です(※少子高齢化で需要も減少しているからな)。また需要の減少で設備投資されず、耐用年数を過ぎた設備が使用され、これも生産性を下げている要因です。
・「労働生産性が低い」のは、無駄な業務や無駄な人材多いからです。労働者は、「ブルーカラー(単純労働者)」「ホワイトカラー(定型業務)」「ホワイトカラー(クリエイティブ業務)」に分けられます。生産性で問題になるのが前2者です。ブルーカラーでは、シングルタスクによる手待ち/無駄な業務/システム化・IT化の遅れが原因です。改善策としては、業務の見直しが必要です(※詳細省略)。またOJT/マニュアル化などによるスキルアップが必要です(※詳細省略)。
・ホワイトカラー(定型業務)では、業務が標準化されておらず、属人化しているのが原因です。改善策としては、標準化・システム化・IT化が必要です(※詳細省略)。(※大企業でのホワイトカラー(定型業務)の生産性の問題を解説しているが省略)。この問題は中小企業でも組織体制が多層化すると起きます。組織体制をシンプルにし、業務スピードを意識し、価値ある業務を最適人数で行う必要があります。
<5.現場主義>
・5つ目の重要事項は「現場主義」です。個人M&Aで経営者になる人は大企業出身者が多く、知識・理論は豊富かもしれません。しかし中小企業では現場が重要です。以下の手順で正しい意思決定をすべきです。①現場の状況を把握する、②現場の問題点、顧客のニーズを見出す、③原因を究明する、④改善策のゴールをイメージする、⑤具体的な施策を構築する。この様に現場の状況が重要です。知識・理論だけで進めると、精度が高い施策は打ち出せません。
・これには経営者と従業員の信頼関係も不可欠です。大企業の従業員は管理者の指示を受け、自分で考え業務を行います。一方中小企業の従業員の業務は属人化・固定化し、社長の指示でも柔軟に対応できません。この点からも信頼関係が重要になります(※詳細省略)。経営者のスタイルも重要です。ワンマンだと社長の指示に従うでしょうが、良い関係にならず、優秀な社員は去り、YESマンと陰口を言う従業員だけになります。ワンマン・スタイルの会社は成功していでも、引き継ぐ時は注意が必要です。
・従業員との信頼関係を構築するには、一人ひとりとのコミュニケーションが重要になります。一対一で会話する事で現場を知り、会社をどうしたいかなどの経営者の意志も伝える事ができます。この一対一の対話は定期的に行うべきです(※詳細省略)。また日常の声掛けも笑顔で行いましょう(※詳細省略)。
<6.ワンチーム作り>
・6つ目の重要事項は「ワンチーム作り」です。協調性(ワンチーム)を高めるための環境構築です。中小企業は統制できていないため、人間本来の性質(楽しく、お金を稼ぎたい)が出ます。そのため従業員は自分のテリトリーを決め、自分の負担を増やさず、新たな業務に消極的です。また人間は「自分中心」のため、顧客の事を考えなかったり、周囲への配慮が欠けている人がいます。またベテラン従業員には新しい従業員にノウハウを教えず、「自分で調べろ」と答える人もいます(※詳細省略)。また人間は「変化」を嫌います。
・組織体制が統制されていないと、この様なエゴが前面に出て、組織力が低下します。この解決法の1つが「BIのビジョン化」(前述)で、もう1つが「ワンチーム作り」です。しかしこれは低賃金・過剰労働に繋がり、以前は危険視されていました。また従業員は洗脳に近い状態になり、「考えない集団」になります(※最近は組織犯罪が問われるかな)。理想は、従業員が楽しみ、常に成長し、自立できる環境です。そこには差別・偏見がなく、全員が協調性を持っています。そして全員がワンチームを意識し、業務ノウハウを共有し、迅速に成長する事で、組織の生産性は高まります(※詳細省略)。この「ノウハウを教え合って成長する組織」が社風になれば、優秀な企業になります。
・「会議で論破するのが得意な社員」や逆に「上司の意見に忠実に従う社員」がいます。議論の目的は「より良い結論に導く事」で、経営者はこれを重視する必要があります。それには各人が意見を述べ、答えを出し、その根拠を示す必要があります。
・成果主義が注目されています。この導入はケースバイケースで、ワンチームに適合するかで判断します。例えば美容室で紹介制度を導入し、従業員にインセンティブを与えたとします。これにより従業員のモチベーションは上がります。さらに顧客が顧客を紹介する仕組みを作れば、より従業員は成長できます。一方成果主義を導入した事で競争原理が働き、ワンチームが失われる場合もあります。
<7.ブランド経営>
・7つ目の重要事項は「ブランド経営」です。「ブランド」「ブランディング」については第3章で説明しました。「高い価値を提供し続ける」「従業員をスキルアップさせ、製品の品質を高める」などがブランディングになります。そして「ブランド経営」とは、「ブランド力向上を最優先する経営」です。
・経営者の仕事は会社の状況や経営者の得手不得手で異なります。「社長はこうあるべき」との固定観念はありません。社長がすべき事を見極め、優先順位を決めるのです。最も重要な仕事が「ブランディング」です。価値を高める業務のルーチン化です。売上高・利益を向上させ、企業価値を高める施策に取り組むのです。
・具体的にはホームページに情報を追記し、SEO対策(検索エンジン最適化)したり、商品紹介ツール(※商品紹介ページ?)にブランド要素を追記し、価値を高める施策です。単なる情報発信をブランディング活動に進化させるのです。製造業は市場の変化が激しいため、市場のニーズに合わせた商品開発が必須です。これにはIT化・機械化が必要です。中小企業は資金調達が難しいので、工程の見直しで品質・効率を向上させます。小売店ではコンセプトを明確にし、それに沿った商品を全国・世界から仕入れます。そしてその特徴をPOP(※販促ツールかな)に掲載したり、特設コーナーでその商品を紹介します。従業員のスキル/モチベーション向上は実務力・組織力の向上になり、価値向上になります。
おわりに
・近年「人生100年時代」と言われます。定年/継続雇用は65歳から70歳への引き上げが努力義務になりました。年金受給も70歳に引き上げられるでしょう。その後の30年を年金だけで暮らすの難しくなります。大企業には役職定年があり、収入は大きく減り、仕事も第一線から外されます。
・第1章でワーク・エンゲージメント(活力・熱意・没頭が揃った状態)を説明しましたが、生涯現役で働く方法に、独立と個人M&Aがあります。独立はリスクが高くなりますが、個人M&Aであれば、既存の経営資源を活かせます。経営者になると、戦略構築/経営判断/意思決定/資金配分/人材配置/外部との連携など、様々な経験を積めます。ただし個人M&Aにもリスクがあり、自分のスキルを棚卸し、決断して下さい。