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『薬は体に何をするか』矢沢サイエンスオフィス(2006年)を読書。

抗生物質の作用を知りたかったが、薬全般の本を選択。
十数種類の病気と薬をセットで解説。病気の詳細を解説し、さらに薬の効用だけでなく、副作用・耐性も解説。

原因が解明できていない病気も多く、医療・薬は発展の余地が大いにある。
多くの薬は対症療法で、根本的な治療薬ではない。

少し古い本で、新しい薬が既に開発されていると思う。新型コロナの記述は当然ない。
神経伝達物質は幾つかの病気と関係し、これは宿題かな。

お勧め度:☆☆☆
内容:☆☆☆(図解が少しある)

キーワード:<抗うつ剤>うつ病、モノアミン/セロトニン、<アルツハイマー病>認知症、老人斑/神経原線維変化、<ステロイド剤>副腎皮質、ホルモン、<頭痛薬>片頭痛、脳血管、<抗生物質>ペニシリン、耐性/トランスポゾン、バンコマイシン/リネゾリド、<糖尿病>ブドウ糖/インスリン、<抗癌剤>ナイトロジェン・マスタード、分子標的薬、<てんかん>脳神経細胞、イオンチャネル、<インフルエンザ>風邪、インフルエンザウイルス、タミフル、<アレルギー>ヒスタミン、抗ヒスタミン剤、<エイズ>エイズウイルス(HIV)、レトロウイルス、<パーキンソン病>黒質、ドーパミン、<経口避妊薬>避妊法、ピル、<モルヒネ>ドラッグ、依存症、内在モルヒネ、報酬系

はじめに

・薬は私達に欠かせないが、種類は何万種類もあり、その性質を知るのは容易でない。薬の大半は化学物資で細胞に働き掛けるが、副作用もある。本書は十数種の薬を取り上げ、解説する。

第1章 抗うつ剤

<人の心の浮き沈みはセロトニン次第>

○うつ病は誰でも罹る
・うつ病の最終は自殺願望になる。これは誰もが発症する精神病だ。感情の起伏がなくなったり、気分が重苦しいと発症しているかもしれない(※詳細省略)。うつ病は誰でも罹る精神疾患で、数は他の精神疾患を遥かに上回る。米国では男性12%/女性20%が一生のどこかで発症いている。

○うつ病の原因物質
・うつ病の原因は遺伝とされていたが、1950年代からストレスが原因とされ、神経生理学の病気と考えられる様になる。これは「血圧降下剤を使用している人がうつ病になりやすい」「結核の治療薬を使用している人はうつ病になり難い」と報告されたからだ(※結核治療薬には多種類あると思うが)。そこで注目されたのが「モノアミン類」です。血圧降下剤は脳内のモノアミンを減少させ、結核治療薬はモノアミンの分解を防ぐからです。※それで血圧降下剤を服用すると穏やかになるのか。
・単一のアミノ基を持つのがモノアミンです(※モノアミンもアミノ酸から作られるが、小さい物質なのでタンパク質ではない)。モノアミンも多種類あり、そのセロトニン/ノルアドレナリンが情報伝達物質と突き止められます。これらの物質は脳の神経細胞のシナプスで放出されます。放出が少ない、あるいは元の神経細胞に戻ると、うつ病になる。
※神経伝達物質には、アミノ酸/ペプチド/モノアミンなどがあり、そのモノアミンにセロトニン(驚異の薬で抗うつ剤)/ノルアドレナリン(精神に作用し、血圧を上昇させる)/ドーパミン(快楽物質でパーキンソン病の治療薬)/ヒスタミン(炎症反応・アレルギー反応を起こす)がある。これらが様々な感覚を伝えるらしいが、神経細胞内では単に電気信号なのでは。

○セロトニンが不足すると、なぜうつ病になる?
・最初はうつ病治療薬として3つの環状を持つ「三環系抗うつ剤」が合成されます。これはセロトニンの働きを高めます。セロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンから生成されます。これは「ワンダー・ドラッグ」(驚異の薬)と呼ばれ、食欲・睡眠・記憶・体温制御・気分・行動・心臓血管・筋肉・内分泌腺などの活動に影響します。
・セロトニンは神経細胞から放出され、隣の神経細胞の受容体に取り込まれ、情報を伝達します。実際は多くのセロトニンが元の神経細胞に再吸収されています。麻薬のLSDは構造がセロトニンに似ているため、脳にLSDが入ると混乱します。

<抗うつ剤があれば幸福になれる?>

○三環系抗うつ剤の仕組み
・三環系抗うつ剤の原理は、セロトニン放出後の再吸収を防ぎ、その大半を次の神経細胞に送り届けます。製品としては、アラフラニール/トツラニール/イミドールなどがあります。ただ効果が出るのは服用して2~3週間後です。また他の神経伝達物質の再吸収も防ぐため、副作用があります。さらに多量服用すると死に至る事があります。これらの不備を補う「四環系抗うつ剤」が開発されますが、問題は完全に解決していません。

○プロザックは家庭常備薬に
・1980年代末にセロトニンの再吸収を防ぐだけの「選択的セロトニン再吸収阻害剤」(SSRI)が開発されます。劇的な効果により、米国で社会現象になります。最も有名なのが「プロザック」です。これは抗うつ剤としてではなく、気分の高揚/エネルギッシュになるなど、健康な人も使用する様になります(※詳細省略)。

○プロザックの副次的効果と負の作用
・プロザックの成分は塩酸フルオキセチンで三環系/四環系とは構造が異なり、セロトニンとノルアドレナリンの再吸収を強力に防ぎます。そのため強迫性障害(※不安症だな)/過食症/パニック障害なども抑制できます。ただし頭痛/吐き気/性的不能/食欲不振/不安感/不眠/口の渇き/めまい/下痢などの副作用があります。また興奮状態・躁状態になったりします。人格が変貌するため、裁判も起こされています。※プロザックの臨床試験の不正を解説しているが省略。

○幸福な人生のために
・1993年『ニューズウィーク』の表紙がプロザックになります(※薬が!)。科学雑誌も原理を解説しました。それが新聞・雑誌の広告になりました。米国ではバイアグラと並んで、「幸福な人生」に不可欠な薬になります(※麻薬みたいだな)。同年SSRIを改良した薬が開発されます。これはノルアドレナリンの再吸収も防ぐため「選択的セロトニン・ノルアドレナリン再吸収阻害剤」(SNRI)と呼ばれ、商品名は「ヴェンラファキシン」です。しかしSSRI/SNRIは自殺願望を生じさせます。特にSNRIが強いため、英国の医薬品規制当局(MHRA)は警告を行っています。

・うつ病は完全に解明された訳ではなく、遺伝性やホルモン分泌との関係も研究されています(※セロトニンの生成能力とかも関係しそう)。

第2章 アルツハイマー病治療薬

<ニューロンが死ぬアルツハイマー病>

○アルツハイマー病の進行
・アルツハイマー病は脳の細胞が死んでいく病気で、脳が委縮します。これは小さな異変から始まります。朝起きると知らない人が居たとなったり、記憶障害で夫・妻・子を認識できなくなります(認知傷害)。この症状は物忘れの健忘症と似ています。しかし健忘症だと簡単に記憶が甦りますが、アルツハイマー病は甦りません。
・時が経つとエスカレートし、「街で待ち合わせしても、誰か思い出せない」「食事したのに、覚えていない」「身なりを気にしない」「家事ができない」「仕事していると、計画性・管理能力が低下し、部下に指示できない」「妄想が現れる(財布を盗まれた、夫が不倫している)」「うつ症状や暴力的になる」となります。時間・空間も認識できなくなり、「近所で迷う」「トイレの場所が分からない」「昼夜が認識できない」となります。さらに歩行困難で寝たきりになり、飲食能力が低下し、発症から平均6年で亡くなります。

○認知症は増加
・日本には認知症患者が180万人います。この原因の大半が脳血管障害(脳出血、脳梗塞)とアルツハイマー病で、アルツハイマー病が70万人です。認知症になると常識判断ができず。家庭・施設で虐待されたり、詐欺に遭ったり、徘徊により死亡します。

○原因は老人斑と神経原線維
・アルツハイマー病の名前は医師アロイス・アルツハイマーに由来します。1906年彼は51歳の女性の症状を学界で発表します。彼女は徐々に障害が激しくなります(※記憶・方向感覚・文字認識などを説明)。彼女は55歳で亡くなり脳を解剖すると、脳が委縮していました。大脳皮質が特に薄くなり、老人斑(アミロイド斑)と絡まった糸の束(後に神経原線維変化)が見られました。今日は老人斑と神経原線維変化がアルツハイマー病の原因とされます。
・アルツハイマー病が進行すると、大脳皮質だけでなく深部の神経細胞も破壊され、特に海馬/マイネルト核が損傷します。マイネルト核は神経伝達物質アセチルコリンを使いますが、患者の脳はこれが激減します。

<薬で克服できるか>

○薬は神経伝達物質の減少を防ぐだけ
・1999年アルツハイマー病の薬ドネペジル(商品名アリセプト。※エーザイだな)が日本で使用できる様になります。これは「コリンエステラーゼ阻害剤」と呼ばれます。神経伝達物質アセチルコリンは役割を終えると、酵素コリンエステラーゼにより分解されます。そのコリンエステラーゼの働きを抑制するのがコリンエステラーゼ阻害剤です。服用すると障害の進行を押さえられますが、逆に徘徊が増えたりします。
・コリンエステラーゼ阻害剤には他に、ガランタミン/リバスチグミンなどがあります。他にメマンチン(商品名ナメンダ)があります。これらの薬はアルツハイマー病の症状を緩和するだけで、死んだ脳細胞は再生しません。

○死滅を止める根本的な治療薬
・そのため様々な新薬が開発されます(※新聞記事で頻繁に見る)。米国ではアルツハイマー病の臨床試験が90以上あります。研究者は死んだ細胞を再生できなくても、進行を止められると考えています。その多くは老人斑を対象にしています。これは分離が難しいタンパク質「ベータアミロイド」ですが、1984年に分離に成功しています。※分解ではなく分離?そもそもこの物質が作られる事が問題では?

・健康な人にもベータアミロイドは存在しますが沈着せず、酵素で分解されます。この原理は解明されていませんが、沈着すると神経細胞の接続部(シナプス)の働きを妨害し、神経細胞が死ぬ事が明らかになっています。そのため研究者は、ベータアミロイドを攻撃する一種のワクチン(※ワクチンは対ウイルスでは?)、アミロイドーシスの生産を妨害する薬、アミロイドの沈着を妨害する薬、アミロイドを分解する酵素、アミロイドを吸着・除去する薬などを研究しています。現時点、ベータアミロイドの凝集を防ぐ「3APS」(商品名アルツヘムト)とベータアミロイドの生産を妨げる「フラービプロレン」(商品名フラーリザン)の臨床試験が行われています。

○認知症の治療には神経細胞の再生が必要
・今開発されているアルツハイマー病の薬の多くは、神経細胞が死ぬのを止める薬です。死んだ神経細胞を再生させるのは、今の神経細胞生理学ではできません。しかし脳に神経幹細胞が存在する事が確認されており、再生できるかもしれません。ただし脳は心臓・肝臓などと異なり人間そのもので、細胞を再生させても記憶は甦りません。

<記憶力を増強する脳のバイアグラ>

・将来記憶力を増強する「脳のバイアグラ」が登場するかもしれません。記憶の仕組みは解明されていませんが、「海馬」が関係していると考えられます。海馬で特定のシナプスを増強する物質が働くと考えられます。1970年代、脳の視床下部が放出するホルモン「バソプレシン」が関係するとされます。1996年「アムパカイン」が開発されます(※実験の詳細を説明しているが省略)。「アムパカインは神経細胞の受容体を活性化させる」とされ、米国で第2相の臨床試験が行われています。

第3章 ステロイド剤

<ステロイドと言うホルモン>

○人はなぜステロイドを拒む
・皮膚科に行くとステロイド剤を拒絶する人がいます。これは2つの事を示します。1つはステロイドが知られている、もう1つはステロイドの評判が悪いです。これにはマスコミが大きく影響しています。ステロイド剤は強力な治療薬ですが、副作用も強力です。ステロイドは全ての動植物が自ら作るホルモン(脂質)です。ステロイドは大まかに5種類ありますが、全てがステロイド核(3つの6角形と1つの5角形)を持ちます。

○よく聞くステロイド
・以下の3つはよく知られています。本章は①を解説します。※②だけ人工合成かな。
 ①副腎皮質ステロイド-日常的に薬として使用される。免疫反応を抑制したり、炎症を鎮める。糖質コルチコイド/副腎皮質ホルモン/コルチコステロイドとも呼ばれる。副腎皮質から分泌されるホルモン。
 ②アナポリックステロイド(タンパク同化ホルモン)-筋肉を増強するホルモン。③性ホルモンのアンドロゲン(男性ホルモン)と似た構造を持つ合成ホルモン。禁止薬物のためドーピング問題になる。
 ③性ホルモン-睪丸/卵巣/副腎皮質が作るテストステロン/エストロゲン/プロゲステロンなどの性ホルモン。生殖器に影響を及ぼすが、前立腺癌/乳癌/子宮癌を促進する。

<副腎皮質ホルモンの発見とステロイド剤の開発>

○ステロイド剤は劇的な効果
・欧州で「寝たきりのリウマチ患者にステロイドを飲ませると、立ち上がって歩き出した-墓場に向かって」と言われた。ステロイド剤には劇的な効果があり、軽い傷・炎症なら1日で炎症が治まり、3日後には皮膚が再生する。他にも、アトピー/ぜんそく/リウマチ/膠原病/多発性硬化症/脳のむくみ/慢性の痛み/食欲不振/肺炎/白血病/突発性難聴など様々なケースで使用される。
・ただしステロイド剤は抗生物質/抗ウイルス剤/頭痛薬/抗うつ剤などと異なり、原因に直接働きかける薬ではなく、元々体に備わるホルモンだ。体が作る糖質コルチコイドは直ぐに分解されるが、ステロイド剤は合成された薬で、長時間作用する。商品としてはプレドニゾロン/デキサメタゾンなどがある。

○糖質コルチコイドの働き
・糖質コルチコイドの分泌は脳がコントロールしている。精神的・肉体的ストレスを受けると脳が副腎に指令し、糖質コルチコイドの分泌を増やす。糖質コルチコイドにより代謝が活発になり、ストレスに対応する(※それで適度な運動は心身に良いのかな)。糖質コルチコイドは、まず血糖値を上げ、体の基本的な働きを守ります。また「炎症を起こす物質の生産を妨げる(※具体例が欲しい)」「免疫細胞の働きを妨害して炎症を抑える(抗炎症作用)」「血液を固まりやすくする」「気分を高揚させる」などの効果もある。

○ステロイドの発見はリウマチ患者から
・1920年代医師フィリップ・ヘンチが、リウマチ患者が妊娠したり手術すると症状が突然改善する事に気付きます。彼はストレス時に分泌される物質がリウマチを治すと推測し、それを「サブスタンスX」と命名します。医師エドワード・ケンドールが副腎から数種類のホルモンを抽出します。そして米陸軍リウマチ治療センターの所長に就き、この物質の合成にも成功します。ヘンチはケンドールからその物質を譲り受け、寝たきりのリウマチ患者に投与します。すると3日後には歩ける様になり、1週間後には買物に行ける様になります。その2年後、ヘンチとケンドールはノーベル医学生理学賞を受賞します。

<劇的な治療効果と副作用>

○ステロイドはDNAに作用する?
・ステロイドはDNAに直接作用すると考えられます。この物質は細胞膜を通り抜け、タンパク質の受容体と結合し、DNAに直接働きかけます。副腎皮質の機能低下で発症するアジソン病は常にステロイド剤を補充する必要があります。

○強い依存性
・ステロイドには強い依存性があります。これを2~3週間連続して使用すると依存性が生じます。ステロイド剤を使うと、血液に十分なステロイドホルモンが存在する様になり、脳は副腎に指令を出さなくなります。これが続くと副腎は縮小します。この状態でステロイド剤を止めると低血糖を起こします。そのためステロイド剤の投与を徐々に減らします。副腎の回復に1年以上かかる場合もあります。

○副作用
・1980年代ステロイド剤を長期間使用し、皮膚がボロボロになり、医師・病院を訴える人がいました。それはステロイド剤が全身の細胞に影響を与えるからです。膠原病などのアレルギー性の病気にステロイド剤は効果がありますが、ステロイド剤の投与は短期間にして、その後は代替薬を使うべきです。
・またステロイド剤は血糖値を上げるため、糖尿病患者は注意が必要です。また糖の生産にタンパク質/脂肪が利用されるので、筋肉が痩せたり、血液中に脂肪酸が増え、高脂血症になる事があります。また免疫機能を抑制するため炎症は改善しますが、ウイルス・細菌を撃退できなくなります。また塗り薬として使用する場合でも、皮膚が薄くなる/委縮する/赤らむなどの副作用があります。

第4章 頭痛薬

<頭痛はどこが痛いのか>

○脳は切り取られても痛くない
・映画『ハンニバル』で連続殺人犯の医師が役人の脳を切り取り、本人に食べさせるシーンがあります。脳は切り取られても痛くないのです。大脳の感覚野から無数の神経線維が伸び、その先端には自由神経終末があり、4種類の「感覚受容器」(痛覚、温度覚、触覚、圧覚)があります(※神経にも上りと下りがあるのかな)。痛みは生命体の防御に必要です。感覚受容器は手のひらには多くあるが、肝臓・肺・小腸・大腸・脳などにはない。

○痛いのは脳を包む髄膜
・感覚野は自由神経終末から電気信号が送られ、痛みなどを感じます。その途中、シナプスでは電気信号を化学物質の信号に変えます。これが神経伝達物質で、数十種類が見付かっています(※そんなにあるんだ)。その中で痛みを伝えるのがサブスタンスPと呼ばれるペプチド(アミノ酸の鎖、※ペプチドの種類は無数にあるかな)とアミノ酸のグルタミン酸です。最終的に電気信号が感覚野に伝わり、痛みを感じます。
・脳は「髄膜」で包まれています。髄膜には無数の血管と神経が張り巡らされ、その感覚受容器から電気信号が感覚野に伝わり、頭痛になります。

○最新の片頭痛理論
・国際頭痛学界は頭痛は14種類に大別し、さらに165種類に細分しています。この中の「片頭痛」に注目します(※頭痛の種類を知りたい)。米国の国立保険研究所などによる「片頭痛理論」では、原因は「脳の血流の異常な変化」とし、脳血管の痙攣や拡張・収縮としています。特に血管が収縮すると血小板が凝固し、神経伝達物質セロトニンを放出します(※セロトニンは「驚異の薬」だな)。これは血管をさらに収縮させます。その結果脳の血流量が減少し、頭痛の前兆症状が起きます。血流量が減少したため血管を拡張させますが、この時プロスタグランジンが放出されます。他に血管を拡張させたり、痛みに過剰反応する化学物質が放出されます。脳血管の神経の感覚受容器がこれらを捉え、その信号が感覚野に送られ片頭痛になります。これには個人差があります。片頭痛は血管の拡張・収縮が原因ですが、それを惹き起こしているストレスを除去する必要もあります。

<初代アスピリン、真打ちトリプタン>

○世界最初の合成薬物アスピリン
・頭痛が激しくなければ「アスピリン」(非ピリン系、非ステロイド性抗炎症薬)や「アセトアミノフェン」で鎮痛できます。アスピリンは19世紀に登場した世界最初の合成薬物です。サリチル酸から作られ、サリチル酸は痛みを伝える神経伝達物質プロスタグランジンの産生を抑えます。ただしサリチル酸は強い胃腸障害を起こします。そこで分子構造を変えたのがアセチルサリチル酸です。この物質は血小板の凝集を防ぐため、脳梗塞などの予防薬にもなります。

○尿から発見されたアセトアミノフェン
・19世紀末尿から発見されたのが「アセトアミノフェン」です。尿に結晶が残り、これに鎮痛効果がある事が分かったのです。1950年代にタイレノールの商品名で登場します。構造がアスピリンと似ていますが、これは脳の神経細胞に直接作用します(※その説明はない)。また胃腸障害も起こしません。日本では強力な鎮痛効果のある薬は売られていませんが、米国では「エクストラ・ストレングス」(超強力)と書かれた薬も売られています。

○第2世代のエルゴタミン
・医師は痛みが酷いとエルゴタミン(商品名:カフェルゴット、クリアミン、ジヒデルゴット)を処方します。これはこれまでと異なり、脳血管を収縮させ、痛みを軽減させます。これはライ麦・小麦にできる麦角(麦角菌の塊)から作られ、神経毒性を持った物質です(※詳細省略)。エルゴタミンやその仲間(誘導体)は、パーキンソン病治療薬/ドーパミン分泌促進剤などにも使われます。また副作用が性欲促進剤/幻覚剤(LSD)として使用され、薬にも毒にもなります。
・エルゴタミンは血管を収縮させて頭痛を抑えるので、決まった時間に片頭痛になる人は、その直前に服用します。また大量に飲むと過度に血管を収縮させ、循環器障害(心筋梗塞、血圧低下)を起こします。

○頭痛を消すトリプタン
・1990年代、真打ちとなるトリプタンが登場します。ところが医師は「副作用が解明されていない」として処方しません。これまでの鎮痛剤は頭痛を抑えますが、その原因は解消しません。ところがこれはそれを解消します(※原因の説明が欲しい)。これは動物が持つトリプタミンを元に作られます。これには種類があり、全容は掴めていません。
・トリプタミンは神経伝達物質セロトニンの受容体に結合し、血管を収縮させ、痛み・炎症を起こすプロスタグランジンの放出を減少させ、頭痛を抑えます。これはエルゴタミンの作用と似ていますが、こちらの方が鎮痛効果が安定しています。ところがトリプタンは心臓血管障害を起こすため、医師は処方を躊躇しています。専門委員会が安全性を確認しましたが、どんな薬も使用から10年位しないと副作用を確認できません。しばらくこの「奇跡の頭痛薬」は使われないでしょう。

第5章 抗生物質

<微生物が生産する天与の薬>

○日本人の寿命を10年伸ばした
・かつて結核は死病で、死因の1位でした。しかし今は「抗生物質」で治せます。これは細菌を殺す薬で、結核だけでなく、敗血症/肺炎/赤痢/腸チフスなどの細菌感染症に効きます。これにより日本人の寿命は伸びました(※詳細省略)。

○ペニシリンの発見
・1928年頃アレクサンダー・フレミングがブドウ球菌を培養していて、カビの周りに細菌が存在しない事に気付きます。彼はカビが細菌を溶かしていると考え、カビを培養します。そのカビの周りでは、連鎖球菌(肺炎球菌など)も成長できませんでした。そのアオカビ(ペニシリウム)が出す物質が「ペニシリン」と命名されます。細菌は横糸と縦糸から成る細胞壁を有しますが、ペニシリンはその結合を妨げます(※詳細省略)。これにより細菌は内部の圧力で破裂します(※抗生物質も多種類あるが、これが基本作用かな)。動物の細胞膜は脂質でできているため、ペニシリンの影響を受けません。
・しかしペニシリンの開発が進んだのは1937年頃からです。ペニシリンは壊れやすいため、開発された当初は投与した人の尿から再抽出していました。今では3千種類の抗生物質があります。

○細菌はなぜ他の細菌を殺すのか
・抗生物質は「微生物(カビ、細菌)が生産し、微生物に対抗する物質」ですが、今では動植物から発見された物質も含めます(※微生物は、細菌/菌類/ウイルス/藻類/原生動物などだな)。また半合成の薬や化学的に合成した薬も含まれます。(※徳川家康が腫れ物に土を塗った話は省略)。微生物はこの能力(拮抗作用)によりバランスが取れた生態系を維持しています(※詳細省略)。
・医療現場では数十種類の抗生物質が使用されます。それらは細胞壁の形成を妨げる/細胞膜を溶かす/タンパク質の合成を妨げる/細胞増殖を抑える/DNAの合成(※≒複製)を妨げる薬です(※細胞壁の生成を妨げるだけではない)。細菌の種類で投与する抗生物質も変わります。

<抗生物質が効かなくなる>

○抗生物質の攻撃から生き残る細菌
・抗生物質を使い続けると細菌は「耐性」を持ちます。最近マスコミが「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」(MASA)をよく報道します(※無関係だけどMERSと混同する)。黄色ブドウ球菌は健康だと問題ないが、免疫が低下すると、食中毒/肺炎/髄膜炎/敗血症を惹き起こします。MASAは抗生物質メチシリンに対する耐性を持った黄色ブドウ球菌で、感染症を治せなくなります。バンコマイシンが効く場合もありますが、効力は低下します。
・最近は耐性を持つ結核菌/肺炎球菌も現れています。ペニシリンに対しては、1940年代から耐性を持つ細菌が現われました。これは酵素を分泌しペニシリンの構造を変えていました。そのため構造が変化し難い抗生物質や、細菌が出す酵素に影響されない抗生物質が合成されます(※追い駆けっこだな)。

○耐性が広がる仕組み
・細菌の耐性は遺伝子の突然変異で生じます。細菌は30分で倍増します。1個の細菌は10時間後に100万個、1日で100兆個に増えます。その中に抗生物質を投与しても、耐性を持った細菌が残ります。また細菌は耐性を広げる機能を持ちます。細菌はDNAを持ちますが、それとは別にDNAの輪「プラスミド」を持ちます。細菌は「接合」するとプラスミドのコピーを渡します(※接合/プラスミドは初めて知った)。これにより耐性が広まります。またトランスポゾン上にある遺伝子は、容易に移動できるため、接合時に相手のDNAに移動できます。さらに細菌に感染するウイルスが耐性遺伝子を媒介する事もあります。これらの耐性の獲得は種類の異なる細菌間でも行われます。※これらは進化の手段でもあるかな。

・医療現場では感染検査をせず、抗生物質を処方します。これは耐性菌を拡大させる原因です。抗生物質を頻繁に使用すると、細菌が耐性を持ちます(※耐性を持つ細菌だけが生き残って繁殖する)。この状態で溶連菌/結核菌などに感染すると、それらも耐性菌になります。

<抗生物質と耐性菌の闘い>

○バンコマイシン
・バンコマイシンは1954年に発見された抗生物質です。細胞壁の材料に結合し、細胞壁の形成を妨げます。そのため耐性を獲得したMRSAの特効薬になります。ところが1987年これに耐性を持つ腸球菌が現れ、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)と呼ばれます。これは欧州の畜産業者が家畜に無節操にバンコマイシンを与えたからです(※家畜にも抗生物質を投与か)。米国の調査では、腸球菌中のVREの割合は1989年0.3%が、1996年10%に上昇します(※人が対象?)。VREに感染すると死亡率は70%を超えます。さらにバンコマイシンに対する耐性遺伝子はプラスミドのトランスポゾン上にあるため、容易に他の細胞に受け渡されます。※何か絶望的だな。

○リネゾリド
・2000年VREも殺せる抗生物質リネゾリドが開発されます。これは細菌がタンパク質を合成できなくします。しかしこれも1年後には耐性菌が現れます。抗生物質の第一人者が「科学は耐性菌より先を進んでいる」と述べたが、細菌の変異を追い抜くのは困難です。※何か兵器と同じで、新しい兵器が開発されれば、その防御方法が開発される感じだ。

第6章 糖尿病治療薬

<血糖値上昇による異変>

○糖尿病は国民病
・喉が渇く/トイレによく行く/体がだるい/勃起しない、これらは糖尿病の予備軍です。視野が狭い/痩せてきたとなると進行しています。やがて視力は失われ、感染症に冒され、足を切断し、死に至ります。日本には予備軍を含め1.6千万人いて、国民病です。これは血液中のブドウ糖(グルコース)の量を調整でないためで、膵臓が分泌するインスリンの不足が原因です。

○インスリンがブドウ糖の量を調整
・人は栄養を食物から吸収します。炭水化物はブドウ糖に分解され、小腸で血液に吸収されます。それを細胞が取り込み、エネルギーにします。この取り込みを調整するのがインスリンです。食事後に血液中のブドウ糖が増えると、膵臓にあるランゲルハンス島のベータ細胞がインスリンを分泌します。細胞の表面にある受容体がインスリンと結合すると、扉が開き、ブドウ糖を取り込みます。またインスリンは肝臓に蓄えたブドウ糖を放出したり、細胞がブドウ糖をグリコーゲン/中性脂肪に変換するのに関与します。※マルチだな。インスリンも数種類あるのかな。

○ブドウ糖の過剰
・インスリンが不足し、血液中に大量のブドウ糖が残ると、様々な障害が起きます。血管にコレステロールが沈着し、毛細血管が脆くなり、脳梗塞などを起こします。網膜の毛細血管が出血すると、失明します。

○最後は昏睡して死亡
・腎臓には血液をろ過する毛細血管が無数にあります。これが詰まると腎不全になります。そうなると腎臓移植か人工透析が必要になります。他にも倦怠感・疲労感が高まったり、体が栄養を吸収できないため、体重が激減します。末期になると意識が混濁し、昏睡し死に至ります。

○Ⅰ型とⅡ型
・糖尿病にはⅠ型とⅡ型があります。日本人は95%がⅡ型です。これはインスリンは分泌されるが、働きが不十分なのです。過剰なカロリー摂取を続けた中高年や過食・運動不足の若者が発症します。患者自身が行動をコントロールすれば、進行を抑えられます。ところが糖尿病には明確な境界がないため自覚がなく、コントロールできません。
・Ⅰ型は遺伝・後天的に膵臓でインスリンが作られない糖尿病です。そのため外部からインスリンを投与する必要があります。

○古くから糖尿病の記録がある
・紀元前1500年の古代エジプトの記録に「大量の尿を出す病気」の記述があります(※詳細省略)。紀元1世紀のカッパドキアの医師の記述は非常に具体的です(※詳細省略)。日本では藤原道長が糖尿病で亡くなったとされます(※詳細省略)。

<糖尿病は完治?>

○インスリンの発見
・インスリンの発見は20世紀の医学的業績でドラマティックです。1989年医師2人が膵臓を摘出した犬が頻繁に排尿する事に気付きます。その尿をなめ、糖尿病と確認します。糖尿病を抑える物質を膵臓が分泌していると推測されます。1920年医師フレデリック・バンティングが整形外科を開業しますが不振のため、大学の助手兼講師になります。彼は文献を読み漁り、「犬の膵臓から十二指腸への膵管を縛っても、糖尿病にならない」の記述を目にします。そして「膵臓のランゲルハンス島がその物質を分泌しているが、消化酵素が分解している」と考えます。彼はトロント大学のジェームズ・マクラウドにランゲルハンス島の摘出を依頼し、犬からの摘出に成功します(※詳細省略)。その抽出液を糖尿病の犬に注射し、血糖値が下がる事を確認します。
・1922年この研究にジェームズ・コリップが加わり、彼が精製したインスリンが少年に注射され、血糖値が劇的に下がります。これが世界的ニュースになり、トロント大学に糖尿病患者が集まり、テント村ができます(※当時は死に至る病だからな)。ところがこの頃から研究チームに不協和音が拡大します。学会での報告はマクラウドが行うので彼が主役になり、最大の貢献者バンティングは下働きにされます。さらにコリップは精製法を教えず、その特許を独占しようとします。
・1923年バンティング/マクラウドがノーベル生理学医学賞を受賞しますが、バンティングはマクラウドとの共同受賞に怒ります。結局マクラウドは批判に耐えかね、教授を退きます。またバンティングもインスリンの特許をトロント大学に1ドルで譲ります。この発見から間もなく、製薬会社がインスリンを量産化します。今はヒトインスリンの遺伝子を組み込まれた大腸菌が、インスリンを大量生産しています。

○対症療法薬インスリンを超える薬
・本来インスリンは体内で生成されます。そのためインスリン投与は対症療法です。またインスリンを大量に投与すると意識混濁/意識喪失を起こします。また血糖値降下剤はブドウ糖の吸収を抑えたり、インスリンの分泌を促進させますが、これも対症療法です。Ⅰ型糖尿病の治療法としては、膵臓の移植やベータ細胞を培養して膵臓に送り込む方法が行われています。
・Ⅱ型糖尿病は美食・過食/運動不足などの生活習慣が原因です。中性脂肪が増えると脂肪細胞がアディポネクチンの分泌量が少なくなり、血管の修復機能が低下します。これに対する薬も作られるでしょう。糖尿病の全容は解明できていません(※問題は膵臓なのか、作られたインスリン自体なのか、受け取る細胞まのか)。糖尿病による合併症に陥らないため、食事療法・運動療法に励むのが、現時点最良の戦略です。

第7章 抗癌剤

<最初の抗癌剤は毒ガス研究から>

○毒ガスが白血球の増殖を抑えた
・1943年イタリア南部の沖合で連合軍の艦隊がドイツ軍の空襲を受け沈没します。翌日800人が救出されますが。目や皮膚に異常を起こし、重い人から死にました。沈没した1隻が毒ガス(マスタードガス)を積んでおり、それが救出者に付着したのです。
・同じ頃、米国でマスタードガスが抗癌剤として使用されます。化学者がマスタードガスを扱いやすくしたナイトロジェン・マスタードを開発しますが、それが白血球の増殖を抑える事に気付き、血液のガンの白血病/リンパ腫の治療薬になると考えたのです。1942年リンパ腫の男性にナイトロジェン・マスタードが投与され、リンパ腫の消滅が確認されます。これにDNAを傷付ける作用があり、今でも抗癌剤として使用されます。

○抗癌剤は癌細胞の性質を逆用
・癌は遺伝子が変異し、細胞分裂を繰り返す病気です。さらに血液・リンパ液に乗り、他の臓器に転移します。今の抗癌剤はそのDNAの合成(※≒複製)を妨げ、癌細胞を殺します。ところが口胃腸/毛根/骨髄(造血幹細胞)など頻繁に分裂する正常な細胞も傷付きます。抗癌剤の多くはナイトロジェン・マスタードで細胞毒性を持ち、それ以外のアルカロイド(植物毒)も同様です(※毒を以て毒を制すだな)。

<癌細胞は薬剤耐性を獲得する>

○癌細胞の増殖を妨げる仕組み
・抗癌剤は化学物質のため、抗癌剤は「化学療法」と呼ばれます。他に癌を切除する治療(※手術療法)、光・粒子で癌を破壊する「放射線治療」があり、3大療法の1つです。化学療法の進歩で、癌は治る可能性のある病気になりました。乳癌は1970年代までは切除だけだったが、今は手術の前後に化学療法するため、大半が治癒します。また化学療法でも複数の抗癌剤を使用し、効果を高めます(多剤併用法)。
・抗癌剤の仕組みは4種類あります。①DNAの2本鎖を結び付け、複製できなくする。②DNAを複製する酵素を妨げる。③複製の材料に混ざり、DNAの複製を止める。④細胞が分裂する時、必要な分子を壊す。これらの薬を複数使い、殺傷力を高めます。

○癌細胞の悪性化と副作用
・これらにより癌細胞は小さくなりますが、悪性化する場合があります。傷付いたDNAを修復したり、自殺(アポトーシス)する性質を失っていたりします。1つでも癌細胞が残ると、それが増殖します。薬剤耐性を持つと、それまでの抗癌剤は効きません。腎臓癌/肝臓癌/肺癌に抗癌剤が効きにくいのは、元々耐性を持っているからです。
・耐性を持つとより強力な抗癌剤を使う事になります。そうすると造血幹細胞も死ぬため、治療後に骨髄の移植が必要になります。薬剤耐性を持った癌細胞は、自分に有害な物質を細胞外に排出します。あるいはDNAが傷付いても、簡単に死にません。こうした薬剤耐性を無効にする薬の開発も進んでいます。

・これらから抗癌剤治療は、最初に協力な抗癌剤を使用し、耐性を持つ前に全部殺してしまうのです。ただし重い副作用が生じます。細菌を殺す抗生物質の様に、癌細胞だけを殺す薬を開発すれば副作用は生じません。ところが癌細胞はウイルス/細菌と異なり、元は自分の細胞で、正常な細胞と少ししか違いません。そのため免疫システムも判別できません。ところが癌細胞だけを攻撃する「分子標的薬」が開発されています。

<癌細胞だけを攻撃する分子標的薬>

○分子標的薬
・「分子標的薬」は癌細胞に特徴的な分子を標的にし、癌の成長を止める薬です。例えばトラスツズマブ(商品名ハーセプチン)は乳癌に特徴的な分子に結び付き、免疫細胞が癌を攻撃できる様にしたり、増殖を促す信号を受け取れなくします。ベバシズマブ(商品名アバスチン)は大腸癌の薬です。癌は大量の栄養を必要とするため、血管に特殊な信号を送り、自分の近くに毛細血管を伸ばさせます。これは、その信号を遮断します。

○それでも副作用が生じる
・分子標的薬でも副作用があります。肺癌のゲフィチニブ(商品名イレッサ)は副作用の間質性肺炎を起こします。この原因は癌細胞以外も標的とする分子を持っているからです。あるいは薬の物質が変化したり、想定外の反応を起こすからです。
・分子標的薬は高い効果を示す場合もありますが、効果は一時的で、1~3ヵ月しか延命できません。例外的にイマチニブ(商品名グリベック)は患者の90%以上に効果があります。癌の原因は多様で、複数の遺伝子の異常で発症します。その複数の原因に対応する分子標的薬は開発されていません(※これも抗癌剤と同様で、複数の薬の併用となるのかな)。

第8章 てんかん治療薬

<てんかん発作は神経細胞の過剰放電>

○著名人に多いてんかん
・ドストエフスキーの作品に様々な「てんかん」患者が登場します。それは彼自身がてんかんで苦しんだからです。歴史上の人物には多くのてんかん患者がいます。ソクラテス/アリストテレス/ピタゴラス/シーザー/ナポレオン3世/ベートーベン/レオナルド・ダ・ヴィンチ/預言者ムハンマド/パスカル/チャイコフスキー/ミケランジェロ/バイロン/トルストイ/アガサ・クリスティー/エルトン・ジョンなどです。てんかんは突発的に発作を起こし、全身を硬直させ、意識を失います。

○脳で何が起こるか
・てんかん患者は、いつ発作を起こすか分からないため、運転免許を取れなかったり、水泳の授業に参加できなかったりします。しかし強い発作を起こす患者は全体の3割程度です。また患者は60~120万人と推定されますが、治療を受けているのは半分以下と思われます。
・てんかんの発作は、脳神経細胞の過剰な興奮によります。脳には1千億以上の神経細胞(ニューロン)があり、各神経細胞から数百~数千の枝が伸びています。1個の神経細胞が興奮すると、他の神経細胞にも興奮が伝わります。これにより脳の一部または全体が興奮状態になり、全身痙攣・硬直・意識断絶・失神を起こします。

○1次てんかん、2次てんかん
・脳に異常がないてんかんは、突発性てんかん/原発性てんかん/1次てんかんと呼ばれます。患者の8~9割がこれに該当します。1990年代子供が痙攣発作を起こす「ポケモン事件」が起きます。これは赤と青の光の明滅が原因で(光過敏性てんかん)、これも突発性てんかんの一種です。突発性てんかんは治療で症状の発症を抑えられます。
・2割の患者は脳に異常があります。これは、症候性てんかん/続発性てんかん/2次てんかんと呼ばれます。出産時に脳に十分酸素が供給されなかった、頭蓋内で出血した、先天的な奇形、外傷・脳腫瘍・脳梗塞・脳炎を経験したなどが原因です。高齢になると、脳内出血/脳の変性で症候性てんかんになる場合があります。※1次てんかんも2次てんかんも治療は難しそうだ。

<てんかん治療薬の仕組み>

○興奮を鎮め、抑制を強める
・1868年ブロムカリに、痙攣発作を抑える作用がある事が分かり、治療に使われる様になります。これは食塩に構造が似た臭化カリウムですが、副作用があり、使われなくなります。1912年鎮静剤フェノバルビタールにも痙攣抑制作用がある事が分かります。その後、今でも使用されているバルプロ酸などが登場し、今では約20種類の抗てんかん薬があります。
・初期の抗てんかん薬は偶然発見された物ですが、今の抗てんかん薬はその仕組みが明らかになっています。大半の抗てんかん薬は鎮痛効果を持ちます。脳の神経細胞には興奮を伝える興奮性の神経細胞と興奮を抑える抑制性の神経細胞があります(※これは知らなかった)。バルプロ酸は抑制性の神経細胞の作用を増強するのです。神経細胞の膜には扉(イオンチャネル)があり、そこからカルシウムイオンが流入すると、神経細胞が興奮します。フェノバルビタールはその受け取りを抑制します。

○抗てんかん薬は8割の患者に有効
・抗てんかん薬はなるべく1種類だけ使用します。効果がなければ徐々に減らし、別の薬を徐々に増やします。この方法で8割の患者に抗てんかん薬は有効です。薬が多いと、眠気・吐き気などの副作用があります。一部の薬は胎児に奇形を生じさせます。薬を服用していても発作を起こします。しかしそれには耳鳴り・異臭・味覚・閃光・吐き気などの前兆があり、これらは脳で過剰な放電が始まったからです。薬を飲んでいたら、前兆で終わる場合があります。

○一生薬を飲む?
・薬を服用して3年以上発作や異常がなければ薬を減らします。子供は治る確率が高くなります。発症は睡眠不足/睡眠覚醒の不規則/過労/ストレスなども原因のため、薬の服用だけでなく、規則正しい平穏な生活も重要になります。
・抗てんかん薬は対症療法で、治癒薬ではない。特に突発性てんかんは遺伝子の変異が原因なので、発作が収まっても治癒したと言えません。患者の2~3割は薬の効果がなく、外科手術が必要です。異常興奮が始まる部位を切除しますが、側頭葉の手術は高い確率で成功します(※記憶などが失われ、怖いな)。

第9章 インフルエンザ治療薬

<新型インフルエンザウイルスは世界的大流行に>

○風邪とインフルエンザの違い
・風邪は「病原体の感染による上気道の急性炎症」と定義されています。これにより熱・鼻水などの症状が出ます。原因の9割はウイルスの感染で、その大半が100種類位あるライノウイルスです。残りの1割はウイルスと細菌の中間的なマイコプラズマ/クラミジアと細菌によります。風邪は寒いと罹ると思われていますが、寒さより乾燥です。
・風邪は風邪薬を飲めば治ると思われていまが、風邪薬は治療薬ではなく、対症療法です。風邪の症状は軽いため、熱が下がったり、喉の痛みがなくなればそれで十分なのです。

・一方インフルエンザは悪質です。上気道の急性炎症で同じですが、感染力・毒性は遥かに強くなります。毎年1千万人が感染し、1千人が亡くなっています。インフルエンザウイルスは数十年に1度変異し、大惨事を惹き起こします。

○史上最大の被害-スペイン風邪
・20世紀にはインフルエンザの世界的大流行が3度起きます。1968年「香港風邪」では100万人、1957年「アジア風邪」では200万人が亡くなります。
・しかし1918年「スペイン風邪」は遥かに凌駕する被害を出します。第1次世界大戦で連合軍に広まり、次いでドイツ軍に広まります。米軍での死者は戦闘による死者を上回ります。翌年終息しますが、患者は4億人、死者は5~6千万人と推定されます。当時の人口は12億人で、1/3が感染し、5%の人が亡くなりました。発病すると48時間以内に肺に血液・体液が溜まり、呼吸困難で亡くなります。1933年原因がインフルエンザウイルスの変異と分かりますが、正体は謎でした。※今ならDNA・RNA解析ができるだろうが、当時は顕微鏡しかないかな。

○スペイン風邪のウイルスの発見
・1995年米陸軍病理研究所の研究者が、1918年に亡くなった患者からウイルスの遺伝子の一部を回収します。さらに1997年アラスカ州の永久凍土にある墓地から完全なウイルスを検出します。これによりこのインフルエンザウイルスが解明されました。

<インフルエンザウイルスの種類とワクチン>

○新型インフルエンザウイルスの感染
・インフルエンザウイルスには、A型・B型・C型があります。B型・C型は人だけが感染しますが、毒性は低い。一方A型は水鳥・家禽・ブタ・ウマ・ネズミも感染します。これは水鳥が第1宿主で、消化器に普通に存在しますが、症状は出ません。しかしこれが家禽・ブタに入り、毒性の高いウイルスに変異する場合があります。※A型・B型・C型の構造的な違いなど、もう少し説明が欲しい。
・中国南部は度々インフルエンザの発信地になります。それは秋に水鳥が飛来し、糞をし、それがブタの体内に入るからです。ブタは哺乳類と鳥の両方のウイルスに感染するため、毒性の強いウイルスを生み出すのです(※イスラム教は豚を避けるが、中国人は豚を好むな)。そのウイルスが人口密度が高く、国際交通の要衝の香港に入ると、一気に世界に広まります(※新型コロナもこのパターンかな)。

・対処法にワクチンがあります。インフルエンザウイルスは脂質の殻を持ち、多数のタンパク質が突出し、内に8本のRNAを持ちます(※新型コロナウイルスと似ていそう)。人の細胞に侵入すると、このRNAが細胞内の物質を利用し新たなウイルスを作ります。ただしインフルエンザウイルスは逆転写酵素を持たないため、人のDNAに同化しません。エイズウイルスはレトロウイルスのため同化します。

○A型だけでも百数十種類
・インフルエンザウイルスも種類が沢山あります。問題になっているのが毒性が強い「H5N1型」の鳥インフルエンザウイルスです。H・Nはタンパク質の突起の種類で、HはHA(赤血球凝集素)、NはNA(ノイラミニダーゼ)です。HAは宿主の細胞表面のシアル酸と結合し、細胞に侵入します。16種類のサブタイプ(H1~H16)があります。NAは宿主内で新しく生まれたウイルスの切り離しで働きます(※新しく生まれたウイルスを細胞の外に出すのかな)。9種類のサブタイプ(N1~N9)があります。従ってインフルエンザA型ウイルスには、16×9=144のサブタイプがあります(※これは知らなかった。こんなに種類があるのか)。因みにスペイン風邪はH1N1型、アジア風邪はH2N2型、香港風邪はH3N2型です。また今後別の型が現れる可能性があります。

○ワクチンは作り置きできない
・インフルエンザワクチンは作り置きできません。しかも製造に時間が掛かるので、春に研究機関(国立感染研究所)がその年に流行るだろう種類を予測し、それに基づいてワクチンを製造します。予測が外れると、大流行になります(※今年はその年かな。せめて南半球の状況を確認できたら良いが)。
・HA・NAはウイルスのライフサイクルで最も重要な機能です。この機能を阻害すれば良いのです。その種の薬は古く、1959年抗ウイルス剤「塩酸アマンタジン」(商品名シンメトレル)が開発されます(※古いと言えるのかな)。当時は仕組みが分かっていませんでしたが、HAをブロックする薬です。日本ではこれは、パーキンソン病/脳梗塞の治療薬として使用されていましたが、1998年抗インフルエンザ薬として認可されます。しかしこれに耐性を持ったウイルスが現われます。

○最も有効なタミフル ※この薬は聞くな。
・現在最も注目されるのがリン酸オセルタミビル(商品名タミフル)です。これはNAを阻害し、ウイルスの成熟・拡散を阻止します。それまでの薬は注射・吸引でしたが、これは服用です。感染直後(48時間以内)の増殖前に服用すれば効果があります。これは毒性が強い鳥インフルエンザ(主にH5N1)にも有効です。鳥インフルエンザによる致死率は50%で、スペイン風邪の10倍以上です。鳥インフルエンザの人から人への感染は確認されていませんが、ヒト型に変異すると世界的大流行になります。
・日本はタミフルの最大の消費国で、全生産量の7~8割を輸入しています。世界各国が備蓄し始めたので、製造元ロシュはライセンス供与しました。なおこれには異常行動を惹き起こす副作用があり、十数人の子供が亡くなっています。

第10章 アレルギー治療薬

<ヒスタミンは免疫系が出す危険信号>

○ヒスタミンは重要な物質
・ある作品にヒスタミンで人を殺そうとする場面があります。これは明らかな毒性はないのですが、抗体を持つ人は即時性のアレルギー反応でショック死する場合があります。毎年蜂に刺され、30~40人がなくなっています。以前蜂に刺され、ハチ毒に含まれるヒスタミンに対する抗体を持っているとそうなります(※2度刺されたが、無事に生きている)。花粉症になる人は、ヒスタミンにより鼻水・涙・くしゃみ・じんましん・かゆみを起こします。体内に病原体などが入ると、免疫系が危険信号として放出します。ところが免疫系は時に過剰反応し、危険性がない花粉にも大量のヒスタミンを放出します。

○ヒスタミンが放出されると、どうなる
・ヒスタミンは白血球の好塩基球や血球の一種で様々な場所に存在する肥満細胞(マスト細胞)で作られます。花粉など(抗原)が体内に入ると、血管周辺の肥満細胞がヒスタミンを放出します。ヒスタミンは末梢神経/粘膜/血管内壁の細胞のヒスタミン受容体(H1~H4。※HA(赤血球凝集素)とは異なる様だ)と結合します。結合した細胞は血管拡張作用を持つ一酸化炭素を放出します。一酸化炭素は細い動脈を拡張させ、細い静脈を収縮させます。この反応により、神経はかゆくなり、気管支はくしゃみ・咳を起こし、脳の細胞は頭痛・興奮します。反応が過剰だと、アレルギー反応やアナフィラキシーショックを起こします。

○過剰反応はなぜ起きる
・アレルギーの原因は個人様々で、花粉/牛乳/青魚/甲殻類/ダニの死骸/ペットの皮膚・唾液/冷気/日光などです。過剰反応はこれらの異物に対し抗体を作るからです(※先程の説明に抗体は登場しなかった。説明が欲しい。抗体がアレルギー反応を起こすのかな)。他に免疫細胞の遺伝子の変異により、無害の物資にも反応する様になったからです。これは遺伝子的な場合も後天的な場合もあります。そのため突然ある物にアレルギー反応を起こす様になったり、逆に突然ある物にアレルギー反応を示さなくなったりします。

<抗ヒスタミン剤>

○抗ヒスタミン剤はヒスタミン受容体に結合する
・ヒスタミンは胃酸を分泌させ、食欲・体温・平衡感覚を正常に保ちます。ところが過剰反応すると咳・くしゃみ・鼻水などで体力が消耗します。これらの過剰反応はヒスタミンが受容体(主にH1)と結合する事で起きます。そのため抗ヒスタミン剤はこの受容体と結合する事で過剰反応を起こさない様にします(※同時に正常な反応も抑えられるのでは)。因みにヒスタミンは1910年に麦に付く細菌(麦角)から発見されます(※頭痛薬のエルゴタミンも麦角からだ)。

○今の抗ヒスタミン剤は第3世代
・1933年最初に登場した薬がフェノキシエチラミンですが、毒性が強いため実用化されませんでした。1960年代第1世代抗ヒスタミン剤(ジフェンヒドラミン、プロメタジン、ヒドロキシジン、クロルフェニラミンなど)が登場します。ところが分子量が小さいため脳の神経細胞に結合し、眠気・倦怠感を起こしました。また神経伝達物質アセチルコリンの受容体にも結合するため、口・目の渇き/便秘/閉尿も起こしました。
・1980年代これらの副作用を抑えた第2世代抗ヒスタミン剤(オキサトミド、ケトチフェンアゼラスチン、メキタジンなど)が登場します。現在スギ花粉症/アレルギー性鼻炎などで使われます。近年は脳には侵入せず、H1受容体に結合し、肥満細胞のヒスタミン放出を抑える第3世代抗ヒスタミン剤(テルフェナジン、アステミゾールなど)が登場しています。また抗ヒスタミン剤は胃酸の過剰分泌も抑えるため、胃薬の主流になります。

第11章 エイズ治療薬

<先進国で日本だけHIV患者が増えている>

○免疫力の低下で様々な感染症を発症
・エイズの正式な病名は「後天性免疫不全症候群」(AIDS)です。日本人はエイズ知識が乏しく、先進国で唯一エイズウイルス(HIV、※正式名は「ヒト免疫不全ウイルス」)の感染者が増えています。HIV自体は危険なウイルスではなく、血液・体液が接しないと感染しません。ただ毒性は低いが、免疫力を低下させ、様々な感染症を発症させます(日和見感染)。

○世界を震撼させる
・1981年エイズの存在が明らかになります。カリフォルニアの同性愛者が「カリニ肺炎」で次々亡くなったのです。そして彼らは、結核/カンジダ症/クリプトコッカス髄膜炎/カポジ肉腫などの稀な病気にも感染していました。世界中の研究者がこれに取り組み、十数年後にほぼ解明されます。
・エイズ予防の最初は、HIVへの感染リスクの低下です。セックスの際はコンドームを使う、医療現場では血液に触れる器具は使い捨てるなどです(※スポーツでも出血すると、止血が必要になった)。ところがアフリカ/中国などでは感染者が増えています。

○人のゲノムに侵入し同化
・「ヒト免疫不全ウイルス」(HIV)が危険なのは、免疫系を破壊するからです。HIVは「レトロウイルス」の性質を持ちます。普通のウイルスはタンパク質の殻で包まれた遺伝子を持つだけです。人の細胞は、生命活動に必要な遺伝子を含むゲノム(DNA)を持ちます。必要なタンパク質を作る時、DNAのコピーRNAが作られ、それを基にタンパク質が作られます。
・ウイルスの多くはレトロウイルスではなくDNAウイルスです。DNAウイルスは人の細胞に侵入し、自身のDANで増殖するため、検査すると区別できます。一方レトロウイルスはRNAをDNAに変え、人(宿主)のゲノムに入り込みます(※これが進化の原因とされている)。DNAからRNAが作られるとされていたため、1970年レトロウイルスの発見は世界を驚愕させた。また宿主のゲノムと一体化するため、ウイルスの駆除も不可能です。※正確にはRNAウイルスには逆転写酵素を持つレトロウイルスと、そうでないウイルスがある。

○標的が免疫細胞(ヘルパーT細胞)
・HIVは免疫系を標的にします。動物の細胞には個体を識別するタンパク質「組織適合性抗原」(HLA)を持ちます。免疫系はこれを見て異物と判断すると、攻撃します。この判断を担うのが「ヘルパーT細胞」です。HIVはこのヘルパーT細胞に侵入し、免疫系を乗っ取ります。

<エイズ治療薬>

○RNAレベルの働きに着目
・現在の対処法は、HIVに感染してもその増殖を抑え、免疫系の破壊を防ぐのが目的です。まずHIVが宿主のゲノムに同化する過程に着目しました。HIVは遺伝情報を持つRNAから「逆転写酵素」を使ってDNAに翻訳し、宿主のゲノムに割り込みます。この逆転写酵素の働きを妨げる薬の開発に取り組みました。またウイルスが成熟する過程で使われるタンパク質分解酵素「プロテアーゼ」にも着目しました。HIVはヘルパーT細胞に侵入すると、プロテアーゼを使ってタンパク質を分解し、自分の殻を作るのです(※殻が必要?増殖のためかな?)。このプロテアーゼの働きを阻害する薬です。
・この結果1990年代半ば、逆転写酵素阻害剤(ジダノシン、ラミブジン、デラビルジンなど)とプロテアーゼ阻害剤(インジナビル、ネルフィナビルなど)が開発されます。これらの組み合わせが使用されます(カクテル療法、※多剤併用法があった)。この療法により、米国では死亡率が44%低下します。

○根本的克服はまだ
・この多剤併用法はHIVの増殖を一時的に抑えるだけで、治療を止めるとHIVが増殖し始めます。またこれらの薬には、肝臓障害/腎臓結石/高脂血症/末梢神経障害/吐き気/貧血/好中球減少症/躁うつ病などの副作用があります。また薬も高価で、当初は120万円でしたが、コピー薬で3万円台まで安くなりました。しかしそれでも感染者の7割が集中するサブサハラに届きません(※特許を巡るインドの話は省略)。
・これらから「エイズワクチン」の開発が求められます。ところがHIVは変異が激しいため、開発が困難なのです。30種類以上のワクチンが開発されたが、期待された効果を出していません。

第12章 パーキンソン病治療薬

<震えが全身に広がる>

○パーキンソン病の進行
・医師ジェームズ・パーキンソンは反社会的と見られていました(※詳細省略)。しかし進取の気性に富んでいました。1817年彼は『振戦麻痺について』を書き、意図しない筋肉の振えや体の動きの原因を中枢神経の病気とし、「振戦麻痺」(後のパーキンソン病)としました。これに6人の患者の症状を克明に書いています(※詳細省略)。

・パーキンソン病の患者は、症状は直ぐ治ると考えます。振えが起きても自分が動かすと止まるからです。しかし振えは全身の部位に広がります。さらに顔がこわばる、声が小さくなる、書く文字が小さくなる、体が不器用になるなどになります(※詳細省略)。
・患者は有名人にも多くいます。モハメッド・アリ/マイケル・J・フォックス/ジャネット・リノ/ヨハネ・パウロ2世/鄧小平/アラファト議長/岡本太郎/ダリ/ヒトラーなどです。70歳以上だと100人に1人が発症し、120歳まで生きると全員が発症するとされます。

○脳の黒質の破壊
・パーキンソン病の原因は、脳の下方にある「黒質」の破壊です(※この組織は知らなかった)。黒質の神経細胞の軸索は、脳の他の領域にまで伸びています。人が意図的な動作をする場合、様々な信号を協調させ、動かす部位に伝えます。
・患者が振えなどを自覚した時には、既に黒質の約7割が死んでいます。こうなると脳も白色化します。

<劇的に改善するL-ドーパ>

○脳内でドーパミンに変わる
・1960年代画期的な薬が解発されます。パーキンソン病になると黒質が破壊され、神経伝達物質ドーパミンも減少します。しかしドーパミンを服用しても、ドーパミンは「血液脳関門」(脳血管の内皮細胞)を通過できません。そこで開発されたのが「L-ドーパ」(レボドーパ)で、脳内に入るとドーパミンに変化します。大変な効果があり、投与数日後には会話や移動ができる様になります。ただし効果が絶大なため、吐き気/動悸/興奮などを起こします(※詳細省略)。

○L-ドーパの問題点
・L-ドーパを投与しても脳に届くのは1%で、残りが全身を巡り、副作用を起こしたのです。この問題は、カルビドーパ/ベンセラジドの併用である程度解決できます(※詳細省略)。しかしL-ドーパには「擦り切れ現象」があり、当初は半日効果があっても、その期間が徐々に短くなります。また「オンオフ現象」もあり、効果がいきなり切れるのです。L-ドーパで症状は改善しますが、黒質の死を止められず、治療薬ではない。

○破壊された黒質の修復
・期待される薬が「グリア細胞由来神経栄養因子」(GDNF)で、神経細胞を成長させる「神経栄養因子」です。これも血液脳関門を通過できないため、チューブで脳に直接送られます。臨床試験で患者は投与から数ヵ月後に歩けるなどの改善が見られます。ところが2004年会社が試験を中止します。偽薬との差がなく、偽薬を投与された患者には心理的な効果があった様です(※詳細省略)。またサルでの試験で脳の損傷もあったからです。しかし患者は投与の再開を要求しています。

第13章 経口避妊薬(ピル)

<ピルの効果>

○日本は中絶大国
・動物は子孫を残すため生殖行為します。しかし人は生殖を目的としない愛情表現や性欲のため性行為する。その結果望まざる妊娠となる。日本は中絶大国で、年100万件以上あるとされる。その原因は経口避妊薬(ピル)が使用されていないからだ。日本では避妊法としてコンドーム/リズム式(オギノ式)/膣外射精が使われている。避妊の失敗率は、コンドーム10%(※10回に1回は失敗?)、リズム式20%です。一方ピルは女性が主体的にでき、失敗率は低くなる。欧米では1960年代よりピルが普及した。カトリック教徒は中絶が許されないため、80%が使用している。1999年日本で初めてピルが承認される。

○月経は2種類のホルモンによる
・まず女性器と妊娠の仕組みを解説します。2つの卵巣には多数の卵子が存在し(※複数なんだ)、それぞれ卵胞に包まれています。卵胞は女性ホルモン「エストロゲン」を分泌します。エストロゲンにより4週間で1個、卵巣から成長した卵子が放出されます。卵子が卵管で精子と出会うと受精します。その間子宮はエストロゲンにより着床の準備をします。「子宮内膜」が厚くなり、無数の血管が伸びます。卵巣に残った卵胞はプロゲステロンを分泌しますが、受精・着床しないと壊れます。プロゲステロン/エストロゲンが絶えると子宮内膜は死に、剥がれ落ち、体外に排出されます(※図解あり)。このプロゲステロン/エストロゲンを利用したのが経口避妊薬です。

<女性の生き方を変えた>

○米国の社会背景から生まれた
・経口避妊薬の誕生に看護婦マーガレット・サンガーが深く関係しています。彼女の母は11人の子を産み、健康を損ね亡くなります。そのため彼女は産児制限が必要と考えたのです。因みに中絶容認は今でも大統領選挙や最高裁判事の選任の最重要事項になります。1951年彼女は生物学者グレゴリー・ピンカスに飲む避妊薬の開発を依頼します。これに生物学者M・C・チャンも加わります。当時ウサギにプロゲステロンを投与すると妊娠しない事が分かっており、その人工ホルモンで避妊薬を作ります。1956年プエルトリコの臨床試験に成功し、エストロゲンも配合され、、1960年米国で承認されます。

○エストロゲンの量により3種類ある
・ピルは米国で広まりますが、脳卒中/心臓障害の副作用が現れます。それはピルに含まれるホルモンが多過ぎたからです。そのため1970年代にホルモンを減らした「低用量ピル」が登場します。ピルはプロゲステロン/エストロゲンの組み合わせですが、エストロゲンの量で3種類(高用量、中用量、低用量)に分かれます。低用量は避妊用、高用量/中用量は婦人科の治療に使われます。

・ピルの服用で血液中のプロゲステロン/エストロゲンが増えると、脳は卵巣へのホルモンの放出命令を出さなくなり、排卵がされなくなります。排卵されても子宮頸から分泌される粘液により、膣に放出された精子は子宮に入れなくなります。さらに子宮内膜が厚くならないので、受精できたとしても、受精卵が子宮内膜に着床できません(※3つも効果があるのか)。ピルの服用を止めると、遅くても3ヵ月で排卵・月経が再開されます。

○ピルを避ける日本の事情
・日本でピルが避けられる理由は幾つかあり、「コンドーム・メーカー/産婦人科医がピルの副作用を強調した」「性感染症を懸念した」などがあります。また日本では医師の処方や定期検診が義務付けられています。多くの国では問診と血圧測定だけで処方されます。※コンドーム・メーカーの保護と倫理的な面が強いかな。
・ピルにも副作用(顔・手のむくみ、吐き気、乳房の痛み、月経でない出血など)がありますが、服用から3ヵ月内に消えます。副作用で最も怖いのが血栓症です。癌も指摘されますが、確証はない。逆に卵巣癌/子宮体癌の発症率は下がります。ただし喫煙者/高血圧/乳癌・子宮癌の人は使用してはいけません。

第14章 モルヒネ

<麻薬から神の薬に>

○ドラッグとして流通
・日本ではドラッグの所持・販売で年2万件検挙されます。これは暴力団関係者だけでなく、一般市民まで広がっています。これはドラッグの入手が容易になったからです。ドラッグには入手しやすい覚醒剤/大麻やコカイン/ヘロイン/合成ドラッグ(エクスタシー、フォクシー)/マジックマッシュルーム/エフェドラがあり、医薬品(麻酔薬、鎮痛剤、睡眠薬、リタリン)もドラッグとして流通しています。

・日本での麻酔医の依存症(※この話は知らなかった。自分に使用するのかな)や米国での鎮痛剤/リタリンの依存症が問題になっています。ドラッグは脳の神経細胞に作用し依存状態になります。そのドラッグの中で特異なのが「モルヒネ」です。

○古くから使われた
・「モルヒネ」は鎮痛剤で、末期の癌患者などに使われます。適正に使えば、依存症になりません。モルヒネの歴史は古く、紀元前3~4千年のシュメール人の記録にケシから採取する話がある(※詳細省略)。西洋でも19世紀末まで一般市民が使用していました(※詳細省略)。19世紀中国は英国からのアヘン輸入を阻もうとし、アヘン戦争になり、敗北して香港を割譲します。同じ頃ドイツの薬剤師が、アヘンから生成した結晶が鎮痛作用/多幸感をもたらす事を発見し、モルヒネと命名します(※ずっと利用されていたのに発見?)。
・しかし南北戦争(1861~65年)ではモルヒネ/アヘンの負の側面が明らかになります。負傷した兵士にモルヒネ/アヘンチンキが使われ、南軍では80トン/1千万個の錠剤を消費しました。しかし使用した人がモルヒネ中毒になったのです。

<モルヒネでは中毒にならない>

○痛みを和らげる内在モルヒネ
・現在モルヒネは年230トン使用されます。人は体に攻撃的な刺激があると、大脳皮質で痛みを感じます。これは危険の検知に必要ですが、長く続くのは苦痛です。これを和らげるのがモルヒネです。元々人体は「内在モルヒネ」(ベータエンドルフィン、エンケファリンなど)を神経伝達物質として利用しており、細胞はその受容体を持ちます。モルヒネは脊髄に働き、痛みの信号を弱めます。さらに中脳/延髄でも痛みを和らげます。内在モルヒネも同様に、痛みを感じると分泌され、痛みを和らげます。
・内在モルヒネはストレスを感じた時も分泌されます。また同時に副腎皮質ホルモン(ストレスホルモン)も分泌されます。これにより小動物が襲われたと時、痛みを感じなくなると共に、代謝が活発になり、動作が俊敏になります。女性の出産も同様です。

・ドラッグや内在モルヒネは「報酬系」を活性化させます。これは食欲・性欲などの基本的欲求が満たされた時、満足感・達成感を得る仕組みです。中脳から大脳の側坐核に至る経路で(※随分短いな)、中脳にモルヒネが作用すると、側坐核でドーパミン(快楽物質)が放出され、良い気分になります。そのため同じ行動を何度も取るようになります(依存症)。またドラッグなどは報酬系を刺激するだけでなく、不安感を生み出す神経伝達物質ノルアドレナリンの作用を妨げます。そのためドラッグが効いている間は不安を感じませんが、切れると不安に襲われます(※正しくは正常に戻るかな)。

○脳はモルヒネに依存しつつ、それを抑え込んでいる
・しかしモルヒネを医師の指示に従い使用するのであれば依存症になりません(※詳細省略)。因みに薬物依存症には「精神的依存」と「肉体的依存」があります。肉体的依存は、薬が切れると代謝などが円滑に働かなくなります(退薬症状、離脱症状、禁断症状)。例えば、発汗・涙・下痢・呼吸異常などが起きます。そのため薬を徐々に減らします。
・モルヒネを使用しても精神的依存にならない理由が2つあります。1つは、鎮痛に必要な量で、多幸感・陶酔感をもたらす量ではないからです。南北戦争は量が多かったからです。またベトナム戦争では兵士の40%がヘロインを使用しました。もう1つは、癌患者などでは多幸感をもたらすドーパミンの放出をモルヒネが阻害している様です(※内在モルヒネのミュー受容体・カッパ受容体を解説しているが省略)。