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『挑戦を受ける民主主義と資本主義』竹中平蔵/中林美恵子(2022年)を読書。

2022年はウクライナ侵攻が始まった年で、世界的混乱が始まった。

第1章はウクライナ侵攻、第2章は日本の停滞、第3章は米国の民主主義、第4章は中国の台頭、第5章は日本の安全保障、第6章は日本がすべき事を解説。

第6章は学術的な解説が多く、基礎知識になる。
集産主義の言葉がよく使われるが、一般的な言葉なのか。
全体的に常識的な内容のため、読み易い。

お勧め度:☆☆☆
内容::☆☆

キーワード:<まえがき>体制移行、<体制移行の時代>ウクライナ侵攻、核兵器、NATO、プーチン、バイデン、民主的平和論、キューバ危機、トルコ、EU、国連、外交青書2022、<日本>新しい資本主義、新自由主義、第3の道、渋沢栄一、ケイパビリティ、依存効果、成功体験、<米国>民主主義、軍産複合体制、保守/リベラル、民主党/共和党、特殊性、連邦議会、<中国>経済成長、中国脅威論、RCEP、デジタル人民元、プライバシー、市場経済/計画経済、<安全保障>インフレ、ロシア/中国/インド、クアッド、米国、インテリジェンス、ソフトパワー、<日本の課題>期待超過/依存効果、官僚制度、法律、ピアプレッシャー、外圧、ショックセラピー、リーダー、人的資源、ジェンダーギャップ、<あとがき>国際秩序

まえがき 体制移行の時代 竹中平蔵

・大混乱の時代になった。米中は対立し、多くの国で分断が起こり、政治・経済が不安定になった。極めつけはロシアのウクライナ軍事侵攻(※以下ウクライナ侵攻)で、平和を守ってきた世界秩序が崩れつつある。今は「体制移行」(トランジション)の時代になった。これは過去に幾度もあった。明治維新で封建社会から近代国家に移った。冷戦が終結し、米国を中心とした市場経済になり、グローバリゼーションが決定的になった。今は民主主義・資本主義の転機になっている。

・体制移行には2つの教訓がある。「10年単位の長期を要する」「テクノロジーの変化が伴う」。これへの対応で国家・企業のパワーは大きく変化する(※先日読んだ本に「今は戦国時代」とあり、AIの発展を予測していた。筋書きが全く一致する)。この問題意識から、本書を作成した(※各章の概要を紹介しているが省略)。

第1章 体制移行の時代

○ウクライナとロシアの関係
・2022年2月24日ロシアがウクライナに侵攻した。短期間での終結が予想されたが、戦闘は続いている。1945年E・H・カーは「第1次世界大戦は社会化された国家間の最初の戦争で、その後の「全体戦争」(※国家総力戦だな)の性格を帯びた初めての戦争」「戦争は政府・軍隊だけのものではなくなり。軍人と非戦闘員の区別はなくなった。非戦闘員への宣伝・テロル(※威嚇など)・空爆・攻撃は認められ、戦闘技術になった」とした。正しくこれがウクライナの現状だ。

・ウクライナの歴史は混乱の連続だ(※1917年帝政ロシアから独立、第2次世界大戦での犠牲、チェルノブイリ原発事故、1991年ソ連から独立などを解説)。その後親ロシア派政権と親欧米派政権が交互に成立した。2014年2月親欧米派のポロシェンコ政権が発足すると、クリミアで親ロシア派が武装蜂起し、ドンバス地方にも拡大する。同年9月ウクライナ/ロシア/ドネツク人民共和国/ルガンスク人民共和国が「ミンスク合意」に調印するが、戦闘は続いた。

○ウクライナの苦々しい現実
・2022年2月25日日本経済新聞はウクライナを「苦々しい現実」とする記事を書いた。「ウクライナは戦争が現実になっている。ソ連崩壊後、同国は世界3位の核保有国だった。その核を放棄したためロシアに侵攻された」(※要約)。独立時ウクライナは1240発の核弾頭、176発の大陸間弾道ミサイルを保有していた(※他の戦力は省略)。その後米ロの圧力で核を放棄し、経済危機などにより他の戦力も縮小する。

○ウクライナ侵攻と核使用の恐怖
・1991年冷戦が終結し、米国議会はウクライナの核を解体(ロシアへ移転)するための予算を付ける。軍縮により戦争リスクを下げるのが、米国議会・社会の希望だった。しかしこれがウクライナ侵攻を招いてしまった(※核抑止論だな)。
・ロシア/米国/中国/仏国/英国/パキスタン/インド/イスラエル/北朝鮮の9ヵ国が核を保有する。原発から出るプルトニウムから核兵器を作れるとすると、39ヵ国が潜在的核保有国になる。

○不平等な条約
・「核不拡散条約」(NPT)が存在する。これは米中英仏ロ以外の核保有を禁止する条約だ(1970年発効)。インド/パキスタンは未加盟、北朝鮮は脱退した。結果的に核保有国は核を増強し、核を保有する国も出てきた。

○戦争は不可避か
・2度の世界大戦後、大戦はないものの「戦争」は多発している。1899年オランダのハーグで国際平和会議が開かれ、「戦争の規則」が定まる。第1次世界大戦後、「国際連盟」を設立するが、第2次世界大戦を止められなかった。1945年連合国により「国際連合」が設立され、後に日独伊も加盟する。

○インテグレーション(統合)と経済安全保障
・1945年「国際通貨基金」(IMF)が創設され、1948年「関税および貿易に関する一般協定」(GATT)が発足し、1995年「世界貿易機関」(WTO)が設立される。これらは国際金融の安定・円滑化/自由貿易の推進/世界貿易の拡大を目指す。また世界が自由貿易でインテグレーション(統合)されれば、平和が保たれるとの願いもあった。しかしウクライナ侵攻で、これは幻となった。

・2022年5月「経済施策を一体的の講じる事による安全保障の確保の推進に関する法律案」が成立する。この法律では「安全保障の確保に関する経済施策」に4分野を挙げた。①特定重要物質の安定的な供給の確保(サプライチェーンの強靭化)、②特定社会基盤役務の安定的な提供の確保(基幹インフラのサイバーセキュリティ)、③特定重要技術の開発支援、④特許出願の非公開。この①はインテグレーションの見直しだ。※お役所言葉。

○ロシアはNATO拡大が最大の懸念
・ロシアがウクライナ侵攻したのはNATO拡大を防ぐためだ。1949年NATOが設立され、今は米国/カナダを含め30ヵ国が加盟する。締結国の領土保全・政治的独立が脅かされた場合、それを全締結国への攻撃と見做す。30ヵ国中14ヵ国はソ連崩壊後に加盟している(※東欧諸国だな)。ウクライナが加盟すると、NATOとロシアが大きく接する事になる。フィンランド/スウェーデンの加盟も決定した。ロシアが脅威とするのも頷ける。

○プーチンの価値観と歴史観
・ウクライナ侵攻の別の理由にプーチンの歴史観もある。彼にすればキーウ(キエフ)はソ連の大事な都市で、日本だと京都になる。彼はウクライナはロシアの一部と思っている。
・旧ソ連でウクライナはロシアに次ぐ大国だ。しかし1人当たりGDPは4828ドル(世界107位)と低い。これはロシアの12,198ドル(世界64位)の半分もなく、ウクライナが西側に接近する理由でもある。※日本は3万ドルを越え、ロシアの低さにも驚く。

○民主主義国と集産主義国
・ロシア経済の停滞もウクライナ侵攻の理由だ。ソ連崩壊後ロシア経済は混乱するが、それを正常化したのがプーチンで、支持率が高い。民主主義国だと戦時になると国内の機能が停滞するが、集産主義国だとかえって安定する。集産主義とは生産手段などの集約・計画・統制を国家が行う経済思想だ(※社会主義経済とどう違うのか)。また西側の経済制裁で物価が上昇しているが、情報操作で批判が向かない様にしている。

○プーチンは何を考えている
・プーチンも西側も当初は戦争は数週間で決着すると考えていたが、長期化しそうだ。西側は彼がウクライナに傀儡政権を作り、NATOとの緩衝地帯にすると思っていたが、侵攻するとは思っていなかった。しかし彼は「ロシアは国連安全保障理事会(※以下安保理)の拒否権を持つ」「中国はロシアに味方する」「欧州などロシアのエネルギーに依存する国は多い」と考え侵攻した。

・2022年2月25日ロシアを非難する決議案が安保理に提出されるが、15ヵ国中賛成は11ヵ国に留まった(※この決議2623は、反対:ロシア、棄権:中国/インド/UAE)。2月4日プーチンは北京冬季五輪に出席しており、密約があったと思われる。
・オバマ大統領は「米国は世界の警察でなくなる」と宣言したが、その時の副大統領が現バイデン大統領だ(※任2021年1月~2025年1月)。そして2021年8月バイデンはアフガニスタンから米軍が撤退させる。プーチンはこれを見抜いていた(※米国がウクライナ侵攻に軍事介入しない?)。そのプーチンをトランプ前大統領は「天才的」と称賛した(※これもウクライナ侵攻?)。しかしプーチンが天才なら、ウクライナ侵攻を短期に収束させただろう。彼は諜報員の経験があり、考え方も異なり、想像を超えるメンタリティを持っているのだろう(※彼の父も同様の任務に就き、独ソ戦を戦ったらしい)。

○米国は何をしている
・2021年12月ウクライナ国境にロシア軍が終結し、緊張は高まっていた。ところがウクライナはNATOに加盟していないため、バイデンは米軍のウクライナ派遣を否定した。この発言はミスだったかもしれないが、米国での無用の混乱を避けられた。2022年2月の調査で米国民の55%が派兵に反対し、賛成は1割に過ぎない。

○米国社会はどう考えている
・2022年3月バイデンは「一般教書演説」を行なう。通常は1月に行われ、雇用改善/GDP上昇などの国内政治を強調する予定だった。ところがウクライナ侵攻で内容を変更し、国際秩序に対する姿勢・覚悟を示す。議会は米軍のウクライナ派遣に反対していた。共和党のマルコ・アントニオ・ルビオ上院議員もウクライナ派兵に強く反対し、派兵するなら議会で宣戦布告を審議すべきとした。これは民主主義国では当然で、国民の賛成がなければ派兵できない。

○バイデンの一般教書演説
・バイデンは一般教書演説でウクライナ侵攻に触れ、世界的な連携を呼び掛ける。ただし「米軍がウクライナでロシア軍と戦う事はない」と明言する。結局米国は当事者にならず、武器供与に徹する。5月9日(ロシアの対独戦勝記念日)バイデンは「武器貸与法」に署名する。

○民主主義国は互いに戦争しない
・米国はウクライナ侵攻をある程度予想していた。著者は上院予算委員会の元同僚から「プーチンはウクライナ東部を支配下に置く事を考えている。しかし中途半端だとウクライナで反ロシアが高まるとマズいので、ウクライナ全土の占領を考えるだろう」と聞いている。

・民主主義国だと軍事行動に議会の承認が必要で、大概は話し合いで解決すべきとなる。そのため「民主的平和論」(民主国家は互いに戦争しない)がある。民主的平和論の代表的論者ブルース・ラッセルは国家間の紛争を4段階とした。①口頭による脅し(威嚇)、②軍事力の移動(誇示)、③限定的な軍事衝突(武力行使)、④死者が1千人を超える軍事衝突(戦争)(※今の中国は一部③かな)。米国は民主国家のため容易に派兵しないが、ロシアは不完全な民主国家のため容易に戦争する。

○相互安全保障とシビリアンコントロール
・1951年米国で「相互安全保障法」が施行され、軍事的・経済的な対外援助が始まる。これが米国の安全保障の基本になっている。数年前ダボス会議で米国のジョン・ケリー元国務長官が「今は戦争か平和か」と問い、「グレーゾーンだ」と答える。今は情報戦争/テロリズム/サイバー攻撃などで、戦争の定義が明確でない。さらに中国/ロシアなどの集産主義国は民主主義国が戦争できない事を知っており、自らの陣営の勝利を信じている。また国際秩序も集産主義国を重んじる形にしようとしている。また民主主義国は軍をシビリアンコントロールするが、集産主義国にはそれがない。

○キューバ危機とウクライナ危機
・1962年10月「キューバ危機」があった。ソ連がキューバに核兵器の配備を進めている事が発覚する。米国がキューバを海上封鎖し、緊張が高まり、米ソ核戦争に突入する恐れがあった。一方ウクライナ侵攻で米国はウクライナに派兵せず、直接対決を避けている。
・1962年10月14日米国がキューバに核ミサイル発射台があるのを確認する。その後13日間の政府の対応が『決定の本質』に書かれている。著者グレアム・アリソンは「合理的アクター・モデル」「組織行動モデル」「政府内政治モデル」で政府の対応を導き出した(※専門的だが、この説明はない)。

○真実が分からない「苦々しい現実」
・船橋洋一がキューバ危機を検証しているが、両国はかなり勘違いしていた様だ。それはロバート・ケネディの『13日間-キューバ危機回顧録』にも記されている(※当時司法長官)。
・キューバ危機とウクライナ危機では、情報に対する認識が異なる。前者では諜報機関から情報が上がらない事があった(※詳細を知りたいが、解説なし)。また今はAIによって画像・映像を容易に加工でき、SNSでフェイク情報を流布・発散させる事ができる。私達は真偽の判断ができない「苦々しい現実」に置かれている。※本章序盤でウクライナが核放棄したため侵攻されたとあったが、これも「苦々しい現実」なのかな。

○誇り高きトルコ
・2022年5月フィンランド/スウェーデンがNATOに加盟申請する。これにトルコが異を唱える。トルコはアジアと欧州の結節点で異国情緒に溢れる(※イスタンブールを紹介しているが省略)。16世紀中頃オスマン帝国は最盛期となるが、18世紀中盤以降衰退し、1922年滅亡し、翌年トルコ共和国が成立する。米国にはそのトルコを民主国家なのかと訝る人がいる。

○トルコは巧みな外交
・第2次世界大戦後、トルコはインフレや外交などで激動する。1960・1980年軍事クーデターが起きる。エルドアン政権(※首相:2003~14年、大統領:2014年~)になり専制的な集産主義国家になったが、経済発展し多様化した。地政学的に北にロシア、東にコーカサス諸国、南に中東諸国、西に西側諸国が存在し、巧みな外交を進めてきた。1952年NATOに加盟し(※かなり早期だ)、1996年イスラエルと軍事協力協定・軍事産業協力協定を締結している。2015年中ロが主導する「上海協力機構」への加盟を申請している。軍事装備は西側・中国・ロシアから購入している。

○ウクライナ侵攻に対するEU
・ロシアとウクライナの緊張が高まる中、2022年1月24日フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長はウクライナへの12億ユーロの支援を発表する。翌日シュルツ首相とマクロン大統領が会談し、緊張緩和に向けた外交努力を確認する。「欧州連合」(EU)はウクライナへ第3次支援(3月11日3億ユーロ、4月13日5億ユーロ)を行う。EUは支援では一致するが、対ロ経済制裁では一枚岩でない。5月30日欧州理事会(EU首脳会議)でロシア産原油・石油製品の輸入禁止で合意するが、ハンガリーが反対し、パイプラインでの輸入は除外された(※この問題は侵攻早くからあったのか)。

○SWIFTから排除
・経済制裁不一致の原因はEUの拡大による。侵攻直後から「国際銀行間金融通信協会」(SWIFT)からのロシア排除が議論された。ところがこれが実行されると、石油・天然ガスの輸入ができなくなる。2月24日バイデンはロシア排除を否定するが、2月26日ロシア第2位のVTBバンクなど6行が排除される。

○天然ガスの問題
・ドイツはロシアから大量の鉱物資源を輸入している。第1次エネルギー(※化石燃料、水力、風力、太陽光など)の6割は化石燃料で、その半分程度がロシア産だ(※ノルド・ストリームだな。分散できていないんだ)。これもSWIFTからロシア排除できなかった理由だ。EU創設の動機はドイツを欧州に包み込むためで、そしてドイツをマネージする役割を仏国が担っている。

○EU成立の経緯と通貨統合
・EUは通貨/外交/安全保障/警察・刑事司法などで協力する政治・経済統合体だ。「欧州共同体」(EC)から1993年EUが創立し、今は27ヵ国が加盟している(2020年英国離脱)。欧州がバラバラだと米国・中国に大きく遅れると考えられたからだ(経済的要因)。また欧州は戦争を繰り返した歴史があり、これを避ける目的もあった(政治的要因)。
・EUは壮大な実験だ。「通貨統合しなければEUは成功する」との意見もある。通貨統合(ユーロ)は固定相場制への移行だ。英国は当初からユーロに未加入だ。EU加盟国では19ヵ国が導入しているが、残り8ヵ国はユーロを法定通貨としていない。一方EU未加盟国でもユーロを法定通貨にしていたり、自国通貨をユーロと連動させている国もある。

○国連は動かない
・ウクライナ侵攻になぜ国連は動かないのか。「国際連合」(国連)は第2次世界大戦の連合国が中心になり作られた。そのため日本・ドイツ・イタリアは常任理事国でない。国連に193ヵ国が参加しているが、常任理事国の拒否権で機能不全になっている。国連改革が必要だ。

○外交青書2022
・2022年4月日本政府は『外交青書2022』を発表する(※青書なのは英国に倣った)。巻冒頭に「パワーバランスが変化し、自由・民主主義・人権・法の支配が挑戦にさらされている」「ウクライナ侵攻は国際秩序への挑戦で、この力による現状変更は許容できない」(※要約)とある。本来は2021年の出来事を記すので、ウクライナ侵攻に触れるのは異例だ。第1章に次の文がある(※要約)。
 国際社会は変化の中にある。中国などの新興国・開発途上国が存在感を増している。米国の圧倒的な主導力による安定・繁栄の時代は終わり、米中競争・国家間競争の時代になった。
 加えてロシアはウクライナを侵略した。独自の世界観・歴史観から外国に政策・体制変更を要求し、実現しないと武力を行使し、多くの市民に被害を与えている。これは人類が築き上げた武力行使禁止/法の支配/人権尊重に違反する。ウクライナ侵略は欧州の安全保障を覆し、世界秩序を脅かす。
・当書はまさに「体制移行」を表している。本書は「ウクライナ侵攻」とするが、当書は「ウクライナ侵略」としている。「侵攻」は軍事的に相手国の領土を侵す事だが、「侵略」には相手国の主権・政治的独立を侵す事が含まれる。

第2章 成功体験にしがみ付く日本

○バイデンは新しい資本主義に賛同
・2022年1月岸田首相(※任2021年10月~2024年10月)とバイデンがテレビ会談する。ここでバイデンは「新しい資本主義」に賛意を示す。岸田首相は施政方針演説で「新しい資本主義」を説明している。
 市場に依存し過ぎ、分配が公平でなくなり、格差・貧困が拡大した。効率性を重視し過ぎ、中長期投資は不足し、持続可能性は喪失した。気候変動が深刻化し、中間層は衰退し、民主主義が危機となった。
 市場に任せる新自由主義の弊害により、世界的な「経済社会変革」が動き始めた。私は成長と分配の好循環による「新しい資本主義」を主導する。官民が協働し、国民が豊かで生き生き暮らせる社会を作る。
・成熟期となった日本は潜在的・顕在的な不満・怒りに対処する必要がある。米国などの資本主義国も同様の問題を抱えている。世界は「VUCAの時代」になった。

○資本主義の問題にどう対処するか
・新型コロナ禍でエッセンシャル・ワーカー(必要不可欠な仕事に従事する人)は大変な影響を受けた。一方資本を持っている人はそれ程影響を受けていない。2022年8月ダボス会議の理事会で、国民の怒りへの対処が話題になった。米国でも格差が広がり、バイデンはそれを認識している。米国は2大政党の民主党と共和党で経済政策・経済理念の棲み分けができている(※詳細省略)。今は民主党が多数のため、その方向に向かっている。そのためバイデンは「新しい資本主義」に賛同した。

○ダボス会議でも絶賛
・岸田首相はダボス・アジェンダの特別講演でも「新しい資本主義」に触れ、シュワブ理事長から絶賛される。すなわちこれらの問題は世界的な問題だからだ。ただ自民党内には様々な意見があるし、閣内で「新しい資本主義」について議論された訳ではない。そのためこれは小泉・安倍・菅政権への問題提起と考えられる。

○資本主義の危機は昔からあった
・「新しい資本主義」は新しい言葉ではない。18世紀の産業革命以降、資本主義は変化し続けている。1840年代カール・マルクスは「資本主義は必然的に滅亡する」としたが、これは予想に反する。同時代のJ・S・ミルは「資本主義は終焉するが、労働者が豊かな生活を送れる社会になる」とした。1929年世界大恐慌になり、J・M・ケインズは「政府が需要管理する事で、危機を乗り越えられる」とした。

○福祉国家と石油ショック
・第2次世界大戦後、世界は資本主義陣営(西側)と社会主義陣営(東側)に分かれる。西側は資本主義を維持しながら「福祉国家」を目指す様になり、「大きな政府」になる。1970年代「石油ショック」が2度起き、世界はスタグフレーションに見舞われる(1974・1979年。※詳細省略)。福祉国家路線は行き詰まり、資本主義が危機を迎える。

○新自由主義と日本の民営化
・1980年代福祉国家路線が転換する。英国サッチャー首相・米国レーガン大統領は市場のダイナミズムを重視する政策を採る(新自由主義)。日本でも市場が重視され、日本国有鉄道(国鉄)と日本電信電話公社(電電公社)が民営化される。国鉄は1964年赤字に転落し、1980年から国鉄改革が議論され、1987年JR7社体制になる。電電公社は1985年民営化される。日本は福祉国家で行き詰まった訳でなく(※これは最近の課題かな)、民営化は「追い付き・追い越せ型経済」から「先進国型経済」に移行するためだった(※国営・独占企業だと市場競争が起きないからな)。

○新自由主義とインカム・ギャップ
・1980年代以降、新自由主義が資本主義の主流になる。ところが1990年代に入ると所得格差(インカム・ギャップ)などの問題が表面化する。これは新自由主義だけが要因ではなく、第3次産業革命(IT、インターネット)とグローバリゼーションも要因だ(※経済政策、技術、経済思想の3拍子だ)。
・フロンティア時代になると格差が拡大する。米国の相対的貧困率(2018年)は17.8%で、南アフリカ/コスタリカ/ブラジルに次いで4位と高い(※そんなに高いんだ)。

○第3の道
・1997年英国で労働党のブレア政権が誕生し、新自由主義から「第3の道」に転換する。「第3の道」は対立する2つの思想・政策の利点を組み合わせる考え方で、新自由主義を継承しつつ、「市場の失敗」を修正していく。2000年頃は市場重視を懸念する風潮があった(※ロバート・ライシュ『暴走する資本主義』『Who Is Us?』、トマ・ピケティ『21世紀の資本』を紹介しているが省略)。

○何が解決すべき問題か
・政策論の議論には、「何が解決すべき問題か」が重要になる。「新しい資本主義」では「解決すべき問題」は何なのか。「分配」も重要だが、それより「経済成長」が重要だ。日本はバブル崩壊後、経済成長が止まり、1人当たりGDPは2位から28位に転落したからだ。

○「資本主義の父」渋沢栄一
・渋沢栄一は「日本の資本主義の父」と言われるが、本人は「合本主義」と言う言葉を使っている。これは「公益を最大化するために資本と労働が集まる」を意味する。2021年彼をモデルにした『青天を衝け』が放映されたり、2024年新1万円札の顔になったり、彼の『論語と算盤』がベストセラーになる。逸話がある。1878年岩崎弥太郎が彼と事業を興そうと、彼を料亭に招待する。岩崎が「莫大な富を二人で独占しよう」と提案するが、彼は「富は分配させるもの」と考えていたため、激怒する(※この話は知らなかった)。戦前は4大財閥(三井、三菱、住友、安田)などの財閥があったが、これらは「私益」のための事業だ。一方彼は様々な事業を起こすが、それは「公益」のためだ。

○市場の失敗、政府の失敗
・新自由主義は世界経済を成長させるが、1990年代に入ると問題が出てくる。新自由主義を「市場と競争に全てを任せる」と考えるのは誤解だ。経済学では「完全競争の下では価格メカニズムが働き、望ましい結果になる」としている。ところが独占・寡占が発生したり、公害が発生したり、貧困・格差が生まれる事がある。これが「市場の失敗」で、政府の出番となる。ところが政府が出過ぎると上手く機能しない事があり、これを「政府の失敗」と言う。

○新自由主義の考え方
・新自由主義は「政府の失敗」が経済成長を妨げているので、極力市場に任せようとする考え方だ。従って新自由主義を市場原理主義と批判して、「成長より分配」と主張するのは現実的でない。『論語と算盤』に則れば、「算盤も重要」となる。「新しい資本主義」にける「解決すべき問題」の議論でも、これを共通意識とする必要がある(※財政収支の事かな)。

○メキシコ国境壁建設
・「算盤」の重要性は米国も同様だ。最終的には連邦議会で「算盤」の議論になるが、安全保障・外交も含まれるので「論語」(哲学や価値の積み上げ)も必要だ。そのため国防予算の大枠を決める「国防権限法」を毎年通している。
・2019年トランプはメキシコ国境に壁を建設するため「非常事態宣言」を発令する。これは壁建設が「歳出法」に含められなかったためで、軍事建設費で壁を建設しようとした。これが裁判になるが、最高裁は「非常事態宣言」を認める。しかし壁建設に充てられる金額は僅かだった。

○日本の安全保障も算盤が重要
・分配や安全保障・国防のためには経済成長が必要だ。日本は北方領土/尖閣諸島/竹島/台湾海峡/北朝鮮などの問題を抱えている。これらの問題には「軍事的な抑止」と「経済的な抑止」が必要だ。今はサプライチェーンや技術などの「経済的な抑止」が重要だ。
・日本は「算盤」が重要なのに、そうなっていない。企業は利益追求に走り、不正表示/検査報告偽造などの不祥事を起こし、「論語」(道徳)を失っているとされる。ところが日本の失業率は低く、ステークホルダー・キャピタリズム(※利害関係者の利益)は守られている。日本企業の利益率は米国の半分で、「道徳」より「算盤」をもっと重視すべきだ。※この辺りが著者の思想かな。

○ケイパビリティ
・「新しい資本主義」で何が問題かを考える上で、2つの考え方を紹介する。1つはアマルティア・センの考え方で、著書『不平等の再検討』に事例がある。
 重要な商談である場所に行く途中、高齢の女性が倒れていました。そのため救急車を呼び、商談が纏まりませんでした。会社員としては高齢者をほおって、商談する方が大事です。しかし今は人と社会のコミットメント(繋がり)を重視する時代です。
・また彼は「ケイパビリティ」も重要としている。公的援助に頼るより自助努力が重要とされるが、病気になれば自助努力は難しくなる。ケイパビリティを発揮するには病気を直す必要がある。知識を得るにはパソコンが必要だが、パソコンを買うお金がなければ、それもできない。社会や制度について知識がなければ、投票権があってもケイパビリティを発揮できない。ケイパビリティを発揮するためには、社会の支えが必要だ。※社会福祉の充実かな。

○依存効果
・もう1つの考え方は、J・K・ガルブレイスの「依存効果」だ。内閣府『社会意識に関する世論調査』(2021年)によれば、国民の4割が現代社会に満足していない。70歳以上では7割が満足しているが、30歳代では6割が満足していない。彼はこれを「依存効果」として説明している。人の欲求(需要)は自発的欲望だけから生まれるのではなく、他者(テレビなど)が大きく影響している。これによる欲求が満たされないため、不満となっている(※何か現代病だ)。

○SNSが不満を高める?
・SNSが不満を増長させている。他人が素敵な場所に行ったり、美味しい物を食べていたりするのを見て、不満を増長させている。これは需要を喚起させるが、不満を増長させる。テクノロジーが時代を変化させており、「今何が問題か」を正しく捉えるのが最初の段階だ。その次の段階が「解決」だ。※ネット世論が重要な時代になった。

○変われないニッポン
・日本の最大の問題は「変われない」事だ。「変われない」のは成功体験が積み重なっているからだ。日本は高度成長し、1970年代の石油ショックも乗り越え、バブル景気を享受した。この成功体験が今の日本を作り上げた。※この説は頻繁に聞くが、そうなのか。具体例が欲しい。日本が変われないのは、政治などの保守性にあるのでは。
・今はSNSにより認識が変わるテクノロジーの時代だ。安全保障も米国依存で問題ないのか。今は体制移行(トランスフォーメーション)の時代で、成功体験にしがみ付いていれば世界から遅れる。

○人は成功したものを守ろうとする
・日本が変われない理由のヒントをシュンペーターが示している。彼は「資本主義は成功ゆえに失敗する」とし、その理由を「経済が拡大すると組織が官僚化し、イノベーションが生まれなくなる」とした。これは企業もベンチャーキャピタルも同様だ(※ベンチャーキャピタルは投資機関だが。スタートアップの意味合いかな)。それは人は成功したものを守ろうとするからだ(※日本は成熟し、行き着いてしまったのかな)。※彼は「イノベーション(創造的破壊)が生まれなくなる」としたので、この解釈で正しいかな。

第3章 社会の分断に歪む大国

○民主主義サミットの開催
・2021年12月9日バイデン大統領は「民主主義のためのサミット」(民主主義サミット)をオンラインで開き、110ヵ国と2地域(台湾、EU)が招待される。テーマは「腐敗との闘い」「権威主義からの防衛」「人権尊重の推進」だ。中国/ロシア/トルコ/ハンガリー/エジプトなどの権威主義国は招待されなかった。また米国はウイグル問題により北京冬季五輪(2022年)に政府当局者を派遣しなかった。トランプは米国の利益を第一としたが、バイデンは世界の指導者としての役割を果たそうとしている。

○米国の影響力の低下?
・国連加盟国は193ヵ国で、民主主義サミットには110ヵ国が招待された。バイデンは110ヵ国を「民主」、約80ヵ国を「非民主」としたのだ。「非民主」とされた国はシンガポールやアフリカ37ヵ国(54ヵ国中)などだ。これについて遠藤誉は、「約100ヵ国に「中国に付け」と言っているのと同じだ。これらの国も政治的には米国に向いているが、経済的には中国を頼っている。多くの国は「漁夫の利」を得ながら泳いでいる」と述べている。結局米国の影響力の低下を露呈した。

○中国的民主に見える中国の自信
・2021年12月4日中国は白書『中国的民主』を発表する。冒頭で「民主は全人類の共通の価値だ。中国共産党と中国人民は欧米の民主主義を模倣せず、中国的民主を見い出した」「それぞれの国に様々な民主があり、米国の物差しで測れるものでない」「中国は労働者と農民に基づく民主的独裁政権下にある社会主義国家」とある。そのため民主と独裁は矛盾しない事になる。そしてウイグル問題を前提に「少数を攻撃するのは大勢を守るためで、独裁なのは民主のため」とあり、これも不思議な論理だ。取りも直さず中国の自信が窺われる。

○中国的民主と米国民主の状況
・中国は『中国的民主』に続き、12月6日『米国民主の状況』を発表する。遠藤誉は「当書は米国民主を金権政治とし、実際は少数のエリートが統治し、民主は混乱・崩壊していると酷評している」と述べる。さらに彼は当書の概要を説明している(※簡略化)。
 トランプ支持派の議会乱入事件、人種差別社会、激しい経済格差、コロナ感染を制御できない惨劇、有名無実の言論自由、民主を広めるとの名目による朝鮮戦争・ベトナム戦争・イラク戦争などの戦争。米国が戦争し続けるのは、政権と軍事産業が結びつき、武器を世界に売りさばくためだ。これに虚偽の「民主主義のため」が使われている。※確かに中国は戦争をしないが(紛争はある)、米国は戦争し続けている。
・当書は痛烈な一撃で、米国の「軍産複合体制」を批判した。この言葉は1961年アイゼンハワー大統領(※任1953~61年)が使った言葉だ(※これは知らなかった。自ら使ったのか)。しかし中国も共産党の軍隊(人民軍)で少数民族を迫害し、世界で軍事行動している。

○民主主義の深刻な矛盾
・今は「トランスフォーメーション」(体制移行)の時だ。AIなどのデジタル技術は発展し、地球環境問題は深刻化し、ウクライナなどの地政学的危機が起きている。人類は権力闘争を続けてきた。しかし米国型民主主義は戦争なしに権力交代する制度だ(※国内と国家間を混同してはいけないが、先進国では軍事クーデターは起きないかな)。ところが米国型民主主義が危機に瀕している。

○米国一強時代は終焉?
・米国は新型コロナで膨大な死者を出した。失業率も2020年4月15%近くまで上昇する。人種間の対立も深刻化し、黒人殺人事件(2020年5月)に抗議するデモが起きる。2021年1月にはトランプ支持派が連邦議会を襲撃する。これは民主主義を拒否する事件だ。米国社会の分断は止まりそうにない。「米国一強時代」は終焉の危機を迎えている。
・米国の分断を止める方法はあるのか。日本は古代から天皇がいた。米国は建国250年で象徴も歴史も文化もない。唯一あるのが民主主義の概念だ。そのためバイデンは民主主義サミットを開いた。

○保守とリベラル
・米国には人種間や貧富の格差などの分断がある。これは保守かリベラルかの単純な二分法ではない。『広辞苑』には保守は「風習・伝統を重んじ、それを保存させる」、リベラルは「自由・個性を重んじる。自由主義的」とある。建国当初は「共和党」がリベラルだった。共和党から保守の「民主党」が分裂した。例えば南北戦争(1861~1865年)では、共和党のリンカーンが奴隷解放宣言をしている。当時は共和党が北部の工業地帯を地盤とし、民主党が南部の農業地帯を地盤とした(※今と全く逆だな)。
・1960年代民主党のJ・F・ケネディが黒人の公民権を主張し、民主党と共和党の地盤が入れ替わる。この時上院議員の多くが共和党から民主党に、逆に民主党から共和党に鞍替えした(※何か傑作だな)。例えば新自由主義の「レーガノミクス」を展開するレーガン大統領(※任1981~89年)は、1960年代初めはF・ルーズベルトのニューディール政策を支持し、民主党支持者だった。その後共和党に転じ、1967年カリフォルニア州知事に就く。そのカリフォルニア州は今は民主党が強い。
※確かにケネディを境に東部は南北で支持政党が逆転している。しかし大統領選は西部(大票田カリフォルニア州)の影響が大きく、冷戦終結後に西部が民主党支持に替わり、クリントン-ブッシュ-オバマ-トランプ-バイデンと民主党と共和党の大統領が交互になった。

○「保守かリベラルか」から「上か下か」へ
・リベラルは本来は「新しい事をしたい」「自由に活動したい」で、建国時は共和党がそうだった。1980年代の共和党レーガン政権は個人の自由を認め、自由経済を重視した。この時が保守主義の全盛だった。ところが今のリベラルは国家が社会保障を重視し、個人の自由・権利を保護する。これは共和党からすると「憎むべきリベラル」となっている(※ウォークとかあるな)。
・かつては右=共和党、左=民主党と区別していた。ところが社会を上下で見る必要が出てきた。1990年代「中位投票者定理」から政策を真ん中に置き、両党の政策が似ていた。ところが今は両党とも分裂している(※4象限で見るべきかな)。今は「格差」が基準になり、地殻変動が起こるだろう。極右と極左は似ており、一緒になるかもしれない。

○BBBは上院を通過できなかった
・バイデンは党内を纏められていない。例えば「巨額財政出動法案」(ビルド・バック・ベター:BBB)は、セフティーネットの強化/気候変動対策/富裕者・企業への増税からなり、彼の1丁目1番地の政策だった。2021年民主党は両院で過半数になり、BBB法案を年内に成立させる見込みだった。ところが上院でジョー・マンチン/キルステン・シネマ議員が造反し、不成立になる。バイデンはBBBを法律化し、翌年1月の一般教書演説に載せる予定だっが、一般教書演説を3月に延期する。結局2022年8月BBBの肝となる「インフレ抑制法案」を成立させる。

○混迷を深める共和党
・共和党も混迷を深めている。2021年5月共和党はリズ・チェイニー下院議員を共和党会議議長から解任する。当ポストは下院共和党で3番目のポストだ。解任の理由は1月の議会襲撃事件でトランプを批判したからだ。2022年11月中間選挙で彼は刺客を立てられ、大敗する。

・2020年大統領選で反トランプ派が「リンカーン・プロジェクト」を立ち上げる。そのメンバーのマイケル・スティールが「トランプは共和党創設者のレガシーを分かっていない」と批判し、トランプが敗れた一因になる。共和党もトランプ派と反トランプ派で分裂している。次期大統領にトランプが再選すると、米国はさらに分断し、米国の国家安全保障は危機になり、国際秩序は崩壊するかもしれない(※現在進行中かな)。

○第2次南北戦争の可能性
・米国民(18~28歳)の3人に1人が「生きている間に南北戦争が起きる」と思っている。米国の分断は深刻で、近隣住民同士の会話でも政治・教育で大きな食い違いが生じる。
・年度予算(10月1日~9月30日)は通常であれば前年度末までに編成される。ところが2022年度予算(2021年10月1日~2022年9月30日)は繋ぎ予算で何度も延長され、最終的に翌年3月に成立した。これは社会・政治が分断し、議員間の食い違いが大きいからだ。この危機感からバイデンは「民主主義サミット」を開いた。分断の要因にロシアの情報操作もあるが、これは逆で分断しているからこそ、プーチンが揺さ振りを掛けている。

○アメリカン・ドリームは存在しない
・トマ・ピケティは『21世紀の資本』で「アメリカン・ドリームは存在しない」とした。独立宣言に「幸福追求の権利」があり、この価値を国家的に認めている。しかし彼は「今の米国に貧しい人が豊かになる流動性はない」とした。

・米国は冷戦期に社会保障政策/年金制度を作った。1965年に創設された「メディケア」「メディケイド」は充実した医療保険制度だ。米国は共産圏を意識し、格差是正を試みた。ところが1980年代に冷戦勝利が明白になると、ウォールストリートで巨額の富が生み出され、2000年代にはGAFAに代表される巨大企業が登場し、貧富の格差が広がった。

○米国は特殊な国
・米国は特殊な国だ。日本やドイツに米軍基地があっても表立って反対しない。米国は「世界の警察」だった。一方G7で唯一国民皆保険を持たない。ある意味「成熟国家」ではない。米国だと「生命保険は任意、年金保険も任意だ」となる。それに対し日本・欧州だと「人間は愚かなので、若い時から皆、年金保険に入る」となる。米国は「大きな政府」「上からの支配」を嫌い、民間に任せるのを優先する。特に保守層にこの意識が強い。※共和党は純米国的、民主党は欧州的かな。

○若者には米国は「One of them」
・米国の特殊性を表すものに「連邦準備制度理事会」(FRB)もある。この設立は1913年で日本より30年遅い。日本は日本銀行が銀行券を発行するが、米国は12地区の連邦準備銀行が発行する。※設立が遅いのが特殊?12行あるのが特殊?
・米国は移民の国で、建国以来多様な課題を抱えた。国を纏めるための柱になったのが民主主義だ。そして今その民主主義で課題を解決できるかが試されている。

・第1次世界大戦時、米国は「モンロー主義」を貫いていたが、民主主義の下で国民が1つに纏まり、世界に目を向ける様になる。「ドミノ理論」からベトナム戦争に参戦し、その後も「世界の警察官」としてイラク/シリア/アフガニスタンに派兵する。ただし植民地にする事はなく、時期が来ると撤退した。これはロシアと異なる。米国はこれらの特殊性を持つが、日本の若者には米国は「One of them」だ(※具体例が欲しい)。

○『米国のデモクラシー』
・1835年アレクシ・ド・トクヴィルが『米国のデモクラシー』を書く。1831年彼は米国を視察する。それは「アリストクラシー(貴族政治)に代わるデモクラシーが世界に何をもたらすか」を、デモクラシーが自然の限界(※頂点かな)に達しつつある米国の行政制度を研究するためだった(※仏国が米国を研究するんだ。まあ先進国が新興国を研究するのもありかな)。当時の米国は西漸運動(西への拡大)が本格化し、名望家支配から一般庶民が進出し、デモクラシーが展開され始めていた。彼は草の根的に議論する社会を見て、「米国人はある社会状態にあり、一定の法律・政治的習俗を自然に掲示した」とする。
・1840年彼は第2巻を刊行し、最後に「諸国民は境遇を不平等にできない。平等が国民を隷属に導くか自由に導くか、文明に導くか野蛮に導くか、繁栄に導くか困窮に導くかは彼ら次第」と書いた。因みに第1巻の最後は「異なる展開で出発したが、同じゴールを目指している2大国民がある。米国人とロシア人だ。前者は荒野で自然と闘い、後者は武器を携えて人間と戦う。前者は私人の利害に訴え、個人が力を揮う。後者は1人の男に全権を託す。前者は自由で、後者は隷属だ。両者の道筋は異なるが、いつか世界の半分を手に収めるだろう」と書いた。彼は100年後の世界を予見していた。

○米国議会と大統領の権限
・米国の連邦政府の力は強くない(※憲法の前文を引用しているが省略)。予算案の作成・提出の権限は大統領ではなく、議会にある。皆で決めるのが原則のため、予算が半年も決まらない事がある。合衆国憲法の第1章「立法部」・第1条「連邦議会」には「全ての立法権は連邦議会に属する」とある。ただし大統領には拒否権があり、第7条「下院先議、大統領拒否権」・第2項で規定されている(※引用省略)。
・合衆国憲法の第2章「執行部」は大統領・副大統領などを規定している。日本の総理大臣は強い権限を持っていない様に思われるが、そうではない。予算案作成の権限は内閣にあり、それが与党多数の国会で審議されるので、大きく修正される事はない。

○決められない議会
・日本は米国の民主主義を手本とした。1948年文部省『民主主義』にも「民主主義の根本精神は、全ての人間を尊厳な価値とする」「民主主義を学び、実行すれば、繁栄・平和がもたらされる」とある。戦後多くの日本人が米国に留学し民主主義を学んだが、今の米国は混迷を深めている。
・2021年12月ラーム・エマニュエルが駐日米国大使として米国議会で承認されるが、それまで2年5ヵ月間駐日大使が不在だった。これは日本を軽視しているからではなく、米国議会が「決める事ができない」からだ。民主党・共和党が拮抗し、「政治任用制」が機能しなくなっている。政治任用制は合衆国憲法の第2条・第2節で規定されている(※政治任用制はどちらかと言うと大統領権限と考えていたが)。アフガニスタン撤退も手際が悪かったが、これも専門家の政治任用が遅れたためだ。

○移民議員が拍車を掛ける
・移民が多い事も「決められない議会」に拍車を掛けている。米国には5千万人以上の移民がいて、毎年約70万人を受け入れている。連邦議会議員になる人も多く(※被選挙権省略)、マイノリティ(ヒスパニック、韓国など)が23%を占める(※絶大な影響があるな)。

○民主主義は最悪の政治形態・・
・ウィンストン・チャーチルは「民主主義は最悪の政治形態らしい。これまでに試された全ての形態を別にして」と名言を残している。デモクラシーの語源は古代ギリシア語「デモクラティア」で、「デーモス」(人民)と「クラトス」(支配)の造語だ。当時民主政に参加できたのは貴族・平民の男性だけだ。その後多くの人が参加する様になり、「衆愚政治」になったり、判断力が不十分な統治者に権力が与えられたりした。

○米国の混迷と世界秩序
・米国は社会状況や社会規範が大きく変化し、建国当初の憲法では機能し難くなっている(※憲法改正は過去に27回されたみたい)。建国当時は奴隷制だった。2020年6月BLM運動でジョージ・ワシントンの銅像が倒される。米国が混迷すると、世界秩序も崩れる。ただし米国は世界秩序を作ってきたが、自ら崩してもきた。1971年8月「ニクソン・ショック」でドルと金の交換を停止する。その前月ニクソンは突如中国を訪問し、毛沢東/周恩来と会談する。深刻なのは格差問題だ。米国は自助努力を重視するため、構造上解決が難しくなっている。

○チャップリンは民主主義をどう描くか
・米国や日本で民主主義が成功した要因に、「多くの人が政治に関心がなかった」事がある。多くの人が政治参加せず、関心が高い一部の人が政治参加したため、民主制が維持された。ところがSNSが登場し、誰でも好き勝手に政治・政策を批判できる様になった。
・チャールズ・チャップリンは1936年産業資本主義を批判する『モダン・タイムス』、1940年専制政治を批判する『チャップリンの独裁者』を作る。もし今生きていたら「SNS民主主義」をどうシニカルに描いただろうか。

第4章 暴走か失速か

○中国経済は成長鈍化
・中国はGDP世界2位で世界への影響は大きい。これまで高い成長率を保ってきたが(2020年2%、2021年8%)、長期的には低下するだろう。「国際通貨基金」(IMF)の予想は、2022年4.37%、2023年5.07%となっている。インドは2022年8.15%、2023年6.89%となっており、中国はインドより低い。
・日本は1954~73年飛躍的に経済成長した。仏国も戦後から1975年まで「栄光の30年間」となった。中国は1978年「改革開放」が始まり、約40年間高い成長率を維持してきたが、成長はいつまでも続かない。また世界では様々な矛盾が発生している。2019年末に始まったコロナ禍により世界経済は冷えた。2022年2月ロシアがウクライナに軍事侵攻し、石油・天然ガス・穀物の価格が上昇している。中国はウイグル族への弾圧が西側から批判されている。

○中国は先進国?
・中国の成長率が8%から5%に低下すると世界の成長率は0.5%下がる。世界は中国の動向を注視する必要がある。中国のGDPは世界2位だが、1人当たりGDPは約1.2万ドルで世界63位に過ぎない。10年前著者は温家宝首相から「中国は米国に代わる野望はないし、覇権国にもならない」と言われた。当時から日本は中国に強い警戒感を持っていたが、米国は寛容だった。

○2大強国論から中国脅威論へ
・2012年11月中国は胡錦涛・温家宝体制から習近平・李克強体制に移行する。これにより米国の中国観も変わる。当時はオバマ大統領(※任2009~2017年)で、「2大強国論」が広く使われた。一方中国では「新型国際関係」が使われ、これは米国と中国が世界をリードする意味だ。トランプ政権に替わると、彼は「中国は脅威」(中国脅威論)とし、輸出管理/資本市場規制/中国製品排除などの政策を連発する(※詳細省略)。この中国の再定義は評価できる。※国内外に敵を作るのは、求心力を強める手段でもあるかな。

○小説『1984年』と重なる中国
・2017年1月ジョージ・オーウェル『1984年』が米国で売上1位になる。当書は世界が全体主義国により分割統治されるディストピアSF小説だ。初版は1949年で70年後にベストセラーになった。この要因の1つにメディを恫喝し、独裁色が感じられるトランプの当選がある。当書の主人公は下級役人で、独裁政府から歴史記録の改竄を命じられている。
・もう1つの要因に中国の台頭もある。当書は第3次世界大戦後に世界は独裁体制のオセアニア(英米)/ユーラシア(ロシア)/イースタシア(中国)に分割され、戦争状態になる(※オセアニアは太平洋州で、英米ならアトランティスかな)。オセアニアは「ビッグブラザー党」が支配し、「戦争は平和だ」「自由は屈従だ」「無知は力だ」を掲げている。この一党独裁体制は中国と似ている。

○高まる対中警戒感
・トランプ政権で初めて中国観を語ったのは、2018年10月ペンス副大統領のハドソン研究所での演説で、「米中新冷戦時代」を語る。2020年7月マイク・ポンぺオ国務長官がリチャード・ニクソン大統領図書館・博物館で演説し、習主席による覇権主義を厳しく批判する。彼はそれ以前にもウイグル族弾圧を「ジェノサイド」と批判し、尖閣問題/南シナ海進出/ブータンとの国境問題を批判し、ニクソン政権以降の対中政策を失敗とした。
・米国は中国が豊かになれば民主主義陣営に加わると期待していた。コロナ禍もあり、中国への警戒感・不信感は拡大している。2021年12月著者は安全保障専門家が集まる会合に出席し、中国に対する警戒感が強まっていると感じた(※詳細省略)。

○米国は新冷戦と呼ばない
・米中関係は冷え切っているが、米国は「新らしい冷戦」とは呼んでいない。「米ソ冷戦」は経済的・軍事的に対立し、米国が勝利した。ところが中国に勝てると確信できないため、「冷戦」を使えない。※最初は「分断」を使っていたが「分離」(デカップリング)に和らげた。

○中国は経済における国家の役割が肥大化
・2001年中国は「世界貿易機関」(WTO)に加盟する。その20周年で習主席は「中国は関税を大幅に引き下げ、政府は法律・規制を撤廃させた」と演説する。
・一方2022年2月「米通商代表部」(USTR)はこの20年間を検証し、「2013年習指導部が始動し、経済における国家の役割が肥大化した」とし、政府による産業補助金/知的財産権侵害/輸出制限など約60項目を不公正な貿易慣行とした。キャサリン・タイ代表は「中国は市場原理を受け入れない。国家主導型の経済モデルは世界の企業・労働者に損害を与えている」と非難する。2022年5月バイデンは対抗策として「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)を立ち上げる。国際経済秩序を保つためにはルールに基づき経済・貿易する事が重要だ。中国の存在感が増し、中国が同じテーブルに乗るかがポイントだ。

○RCEPとTPP
・2021年7月習主席は共産党創立100周年で、「現代中国には毛沢東時代、鄧小平時代、習近平時代がある」と演説する。彼は鄧小平が国家資本主義を作り、自分がそれを発展させているとの自信を示した。
・日本がコミットできるのは「地域的な包括的経済連携協定」(RCEP)だ。RCEPは日中韓・ASEAN・豪・ニュージーランドの15ヵ国が参加し、貿易額・人口などで世界の3割を占める。また日本にとっては貿易額の半分を占める。一方「環太平洋パートナーシップ協定」(TPP)は12ヵ国(日豪、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米、ベトナム)で結ばれた高い水準の経済連携協定だが、2017年米国が離脱し、CPTPP/TPP11が署名される。2021年英国が加盟手続きに入り、中国・韓国も名乗りを上げている。
・バイデンはアジアを重視し、RCEPが米国に与える影響を検討し、TPP復帰を目指している。一方中国はRCEPにより存在感を高めようとしている。日本はRCEPで太平洋地域に自由貿易の風を起こすのが役割になる。
※整理すると「地域的な包括的経済連携協定」(RCEP)は15ヵ国、「環太平洋パートナーシップ協定」(CPTPP)は11ヵ国、「アジア太平洋経済協力」(APEC)は21ヵ国・地域が加盟。

○経済成長がないと矛盾が暴露
・中国は貧富の格差や人権・少数民族への弾圧があり、農民による暴動が年10万件を超える。これらの不満を抑えるのに経済成長が不可欠になっている(※農民は増々貧しくなるのでは)。2022年10月共産党大会が開かれる。習主席の暴走を李首相が抑えてきたが、李首相が退陣すると政治的に微妙になる(※微妙って何だろう。不安定かな)。この微妙な時期を乗り越えるため政府支出を増大させ、経済成長路線に突き進むと考えられる(※実際2023年首相を退任)。

○見落とされる現実
・私達が見落としている現実がある。例えば中国は数千年の歴史があるが、漢民族の支配より北方系異民族の支配の方が長い(※隋・元・清はそうだな)。中国は漢民族と55の異民族からなる。そのため民族感情を刺激させないため「中華思想」の言葉は使わず、「華夷秩序」を使っている。他にも中央銀行の中国人民銀行は国務院(中央人民政府)中にあり、為替レートは政府が決めている。

○デジタル人民元
・中国は「中央銀行デジタル通貨」(CBDC)の実現に動いている。多くの国は民間銀行の預金や資金仲介(※融資だな)への影響から慎重になっている。この「デジタル人民元」で中央アジア・東南アジアで決済し、金融支配の拡大を図っている(※東南アジア・中東とは進んでいる様だ)。
・日本・米国などはCBDCの発行に後ろ向きだ。それは民間銀行が不要になるからだ。シュンペーターは「資本主義では銀行が大きな役割を果たす」と言っている。それは企業家が銀行から融資され、イノベーション/創造的破壊を起こすからだ。CBDC問題は、米ドルの基軸通貨が続くのか、デジタル人民元が置き換わるのかの闘いだ。

○一党独裁とビッグデータ
・中国は「中国的民主」を主張するが、実態は共産党による一党独裁だ。しかしこの体制は「ビッグデータ」と親和性があり、これにより中国は発展した。2007年アイフォンが発売され、誰もがデジタル機器を持つようになり、ビッグデータを集め易くなった。※この観点は気付かなかった。情報のコントロールはしていると思うが、経済発展に寄与したかな。具体例が欲しい。
・中国は教育水準が高い人の絶対数も多く、世界の論文を読み漁っている。この能力の違いを「リテラシー・ギャップ」と言う。日本は中国に比べ人口が少なく、大学教員も雑用に追われ、この能力が低い。

○データ・プライバシーがない
・中国には「データ・プライバシー」の問題がない。民主主義国だと、氏名・住所・生年月日・カード番号などの扱いに厳しい規制がある。ところが中国では政府が自由に個人情報を利用できる(※基本的には日本も同様かな。別の本で読んだが、中国では信用情報が共有・活用されている)。中国だと国がプライバシーを管理している事に誰も疑問を持っていない。

・中国の1人当たりGDPは約1.2万ドルで中進国水準だ。そのため経済発展ため、プライバシーを無視する国家主導の政策が望ましい(※開発独裁かな)。韓国は独裁政権下で経済成長した。経済成長すれば政治体制が民主主義に変わる事も期待される。ただし中国は一党独裁のまま経済力・軍事力を肥大化させるだろう。

○リベラル能力資本主義と政治的資本主義
・ブランコ・ミラノヴィッチは『資本主義だけ残った』(2019年)で、「グローバル化により世界の資本主義はアメリカ型の「リベラル能力資本主義」と中ロの「政治的資本主義」に集約され、両資本主義が縄張り争いしている」とした。両者には長所・短所がある。前者は民主主義による自浄作用により不平等を是正できるが(※米国は経済格差が危機的だが)、高い経済成長は望めない。一方後者は資源を効率的に管理でき、高い経済成長は望めるが、自浄作用が欠如する。ただ両者とも不平等の拡大と腐敗が進んでいる。日本は両資本主義に挟まれ、両資本主義を止揚する「新しい資本主義」を探る必要がある。

○個人主義と集産主義
・自由経済(市場経済)は格差を生み、これは「市場の失敗」の典型だ。市場経済は個人の自由を大事にする「個人主義」で、社会主義における計画経済は「集産主義」だ。フリードリヒ・ハイエクは「市場の失敗」より「政府の失敗」の方が恐ろしいとした(※その理由を解説しているが省略)。この議論が米国の資本主義の基礎にある。ただし彼は人々の選択が合理的とは言っていない。ただそれを解決するのが市場と言っている。例えば人は思い付きで高い買物をするが、次は行動を変えるからだ。

○2035年のために何ができる
・集産主義の失敗は多くあり、ソ連のスターリン/レーニン、ドイツのヒトラー、イタリアのムッソリーニ、1930年代以降の日本などだ(※ヒトラーは経済では成功したが、政治で失敗したのでは。ムッソリーニはよく知らない)。「独裁政権下での市場経済で経済は成長する」とされる。そのため中国は1980年以降急成長した。しかし1人当たりGDPが増えると政治的自由を求める様になり、そのため中国の一党独裁も未来永劫は続かないだろう。
・中国経済が修正されると世界経済はその影響を受ける。そのため日本は中国を能動的にコントロールする必要がある。放って置くと世界が集産主義に支配されるかもしれない。

第5章 情報機関とセキュリティ・クリアランス

○経済は力
・戦後日本は概して平和裏だった。しかし世界は朝鮮戦争/ベトナム戦争/中東戦争/湾岸戦争/アフガン戦争と戦争は続いた。しかし脅威は戦争に限らない、日本は1960年代後半より米国と貿易摩擦を起こした(※詳細省略)。1980年代米国は日本製品を締め出した(マーケットスレット)。中国は経済大国になり、巨大な市場であり、世界の工場になった。ロシアは天然ガス・石油を武器に外交している。つまり経済は他国に脅威を与える手段となる。
・日本の安全保障で重要な事が2つある。1つは経済の強化。もう1つは、民主主義を共有し、「法の支配」に基づく「自由で開かれた国際秩序」(リベラル・ワールド・オーダー)を強化し、世界と協調する事だ。

○インフレが経済を変える
・今多くの国で社会は分断し、貧富の格差は拡大し、健全な経済政策が打てなくなっている。しかし発端になりそうなのがウクライナ侵攻によるインフレだ。この背景に金融の肥大化と低金利・ゼロ金利がある。サンフランシスコ連銀総裁が「自然利子率がマイナスになっている」と警告し、これが引き金になった。これは投資と貯蓄を均衡させる実質利子率だ。1960年代は6%、1990年代は2%、2020年0.36%になり、今はマイナスになった。

○自然利子率がマイナス?
・これは投資需要が少ないからだ。これは今の成長産業が非資本集約型のためで、経済は長期停滞している(※今はAIが投資先になっている)。ただIoT・AI・ビッグデータなどの第4次産業革命への期待はある。長期停滞を防ぐには、利子率(金利)を下げる必要がある。「実質利子率=名目利子率-期待物価上昇率」だが、実質利子率を下げると、資産価格(株価、不動産価格)は上昇し、金融緩和により一般物価も上昇する。

○世界経済は急回復
・2021年コロナ禍で落ち込んだ世界経済は急回復した。2022年4月IMFは世界の消費者物価上昇率(2022年)を7.4%と上方修正した。この「超超過需要」はコロナ禍の終息、ウクライナ侵攻による原油・天然ガスの価格上昇、労働コストの上昇による。物価上昇すると人々の不満は募る。インフレを抑えるには金利を引き上げるが、自然利子率が低いまま引き上げると不況に陥いる。

○市場はインフレを警戒
・日本は30年間デフレだったため、政府は財政出動し、金融緩和を行ってきた(デフレ政策)。一方のインフレ対策は痛みを伴う。バイデンは中間選挙(2022年11月)を控え、選挙とインフレ対策のバランスに苦慮している。インフレ対策(ディスインフレ政策)として金利を上げ、財政収縮させると、景気は悪化する。※「サクリファイス・レシオ」(犠牲比率)の説明は省略。

・米国が金利を上げると、円安になる。円安は輸出産業にはプラスだが、日本経済に占める輸出産業のウェイトは大きくない。日本は石油・天然ガスを輸入しているため苦しくなる。今はデフレ対策からインフレ対策への転換が必要で、これは早いに越した事はない(※ここ数年物価上昇が続いている)。

○膨張する米国の財政赤字
・経済政策の妨げになるのが財政赤字だ。米国の2021年度(2020年10月1日~2021年9月30日)の財政赤字は約2.8兆ドル(302兆円)で、GDP比12.4%だ。歳入はコロナ禍からの回復で、約4.5兆ドルと前年度から18.3%増えた。ただ公的債務残高は約30兆ドル(3450兆円)ある(※よくGDPと比較するが、100%を超えている)。
・財政拡大と金融引き締めは1980年代初めの「レーガノミクス」に似ている。大幅減税したが歳出削減できず、財政赤字が増大した。またインフレにより金利を引き上げ、ドル高になり、貿易収支は赤字になった。結果「双子の赤字」になり、不景気なのに物価上昇する「スタグフレーション」に陥り、1985年「プラザ合意」に至る。

○ロシアの拡大主義
・今は安全保障で戦後最大の危機になった。プーチンは自身をピョートル1世になぞらえ、領土収奪を行っている。エマニュエル・トッドはこれを、スラブ民族(ロシア、ウクライナ、ベラルーシ)を統合する「大ロシア構想」とし、英米がウクライナの非軍事化を進めた事が侵攻の原因としている。2016年米大統領選にロシアが干渉したとされ(ロシア疑惑)、議会のロシアに対する嫌悪感は強い。

○領土を拡大する中国
・中国は「屈辱」を梃子に領土拡大を推進している(※中国は覇権主義は採らないと言っているが)。習主席は「1842年香港収奪で受けた屈辱は、返還で終わった」と述べている。中国には数種類の「国恥地図」がある。これは過去100年間に奪われた国土を示し、それは今の中国の2倍以上ある。
・今は中国とロシアは接近しているが、両国の関係は良好でなかった。国境を巡る緊張が絶えず、1969年中ソ国境紛争が勃発する。解決したのは2008年だ。NATOとロシアの対立があり、西側は中国に接近した。中国の経済的存在もこれを後押しした。しかし今の中国は国際秩序の脅威になっている。現状を考えればロシアに接近すべきだった。

○クアッドとインド
・日本の安全保障で重要なのがインドだ。2022年5月東京で「クアッド」首脳会議が開かれる。クアッドは中国を念頭に置いた国際協力で、「基本的価値を共有し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の強化」が目的だ。スマトラ島沖大地震(2004年)で4ヵ国が支援を主導したのが始まりだ(※知らなかった)。2019年初めて外相会合が開かれる。インドの参加が疑問視されたが、中国との国境問題があり、参加した。

○インドは棄権
・2022年3月国連総会でロシア非難決議が採択される。これにインドは棄権したが、理由が2つある。1つはロシアが事前に懐柔策を図っており、またインドは天然ガス・石油をロシアから輸入している。そのためインドは中立に徹した。もう1つは、クアッドは価値観の共有を謳うが、具体的なアプローチは各国に任せられている。日本は中国と経済関係が強いため、ウイグル問題を非難するが制裁はしていない。同様にインドはイスラム問題を抱えており、ロシアを非難できなかった。※1つ目はロシアに経済依存しているからで、2つ目は国内に非難されると困るイスラム問題があるから?
・インドの人口は中国と同規模で、GDPはいずれ凌駕する。首相はモディで、グジャラート州第1首相の時、同州を経済発展させた。インドには根深い人権問題があるが、米国は非難を自重している。

○ブラジルとインドネシア
・日本の安全保障にブラジル/インドネシアも重要だ。ブラジルには日系人社会があり、インドネシアには巨額の対外援助を行ってきた。2050年ブラジルはGDPで日本を超え、インドネシアは日本と同規模になるとされる。両国とも外交で重要だ。
・米国は日本に進駐し、日本の民主主義を洗練した。一方中国が世界の覇権を握るのは脅威だ。これは米国がどれだけ世界に関わるかだが、米国の力が相対的に弱くなる分、中国の脅威が高まる(※「米国は本来は孤立主義」とする新聞記事を読んだ)。デジタル人民元の流通が、これを決定付けるかもしれない。

○米国は目を覚ますか
・日本が自ら行動しないといけない状況になるかもしれない。日本は「火事場の馬鹿力」で、外圧がないと動かない。中国の脅威が引き金になるかもしれない。米国の経済力・軍事力は依然高い。ただ積極的に外に働きかける意欲は低下した。この状況は19世紀にもあった(モンロー主義)。米国が目を覚ますかは定かでない(※トランプ2.0は積極的に和平には動いている)。

○ロシアに対する経済制裁
・ウクライナ侵攻で中国はロシア寄りの立場になっている。一方西側はロシアに経済制裁しているが、これは両者に痛みがある。西側は我慢して続けるしかなく、国民の理解が必要だ(※石油・天然ガスだけでなく、撤退した企業も多い)。経済制裁は保護主義と同じで、事が起きた時に素早く対応できる体制が必要だ。※この体制とは経済制裁する体制?それとも経済制裁しても問題が生じない体制?

○リベラル・ワールド・オーダーにロシアを引き込む
・戦後日本は「自由で開かれた国際秩序」(リベラル・ワールド・オーダー)の恩恵を受けた。これは自由貿易/多国間主義/グローバリゼーションからなり、米国が提唱者だ。この要素に「法の支配」がある。しかし米国の同盟国にこの問題を抱える国がある。インド/サウジアラビアを排除してしまうと、これは成り立たないため、妥協が必要だ(※一時は権威主義を批判していたが、最近はしなくなった)。
・ロシアの人口は米国の半分以下、GDPは韓国の次で世界11位で、以前のソ連の比ではない。※多分「中国よりロシアを味方にしろ」と言いたいのだろうが説明が不十分。本章はそんな記述が多い。

○ファイブ・アイズとセキュリティ・クリアランス
・ウクライナ侵攻は「国際紛争時に日本は何をすべきか」を考えさせた。日本ができるのは、ウクライナ支援と早期解決を当事国や米国に働きかける事だ。国連が機能していないので、新しい国際組織を立ち上げるべきだが、これは簡単でない。
・日本は安全保障を再構築する必要がある。国民の意識を高める事や国として行動する時の大義が求められる(※大義?)。例えば「ファイブ・アイズ」への加盟だ。これは米国・英国・カナダ・豪州・ニュージーランドによる機密情報共有の枠組みだ。日本が加盟するには「セキュリティ・クリアランス」などの機密情報漏洩を防ぐためのスクリーニング制度が必要となる。セキュリティ・クリアランスは「秘密取扱者適格性確認制度」の事だ(※詳細説明しているが省略)。

○日本は情報収集能力を高める必要がある
・日本に確たるセキュリティ・クリアランスはない。今の日本は機密情報がダダ洩れだ(※2024年「重要経済安保情報保護活用法」の成立で満たされたかな)。これに類した組織に「内閣情報調査室」があるが、200人程度で小規模だ。しかも国家公務員はローテーションするので専門知識がなく、インテリジェンス(情報機関)の体裁を成していない(※情報機関は政府内に複数存在し、集中管理できていないらしい)。日本にも情報機関が必要だ。

○スマートパワーの時代
・安全保障では対外的に誇れる「バリュー」が必要となる。例えば「自由」だったり、『論語と算盤』の「論語」だ。台湾のオードリー・タンもバリューだ。2016年彼は蔡英文政権でデジタル担当の政務委員に就く。彼は「台湾はソフトウェアの先進国」のメッセージを世界に発信した。
・ジョセフ・ナイが生み出した言葉に「ソフトパワー」がある。彼は他国に及ぼす影響力は「ハードパワー」(軍事力、埋蔵資源)より「ソフトパワー」(政治的価値観、文化的魅力)で決まるとした。「ソフトパワー」は1980年代の米国一強時代に生まれたが、今は米中二強時代になり、彼は「ソフトパワー」と「ハードパワー」を組み合わせた「スマートパワー」「インテリジェントパワー」を提唱している。

第6章 2035年のショックセラピー

○不便がなくなった時代
・20世紀になり日本・米国などは経済が発展し、不便がなくなった。これにデジタル化が拍車を掛けている。1970年頃までは夏は暑く、冬は寒く、大家族なのでトイレは順番待ちした。今は少人数なのでそんな事はない。そのためわずかな不便が不満に繋がる様になった。ポール・クルーグマンは社会不満が高まり、爆発する現象を「期待超過」とした。そしてJ・K・ガルブレイスは「企業による販売・宣伝が欲望を喚起している」(依存効果)とし、「これが「期待超過」に拍車を掛けている」とした。

○日本の低成長はコンプレックス・スタグネーション
・日本はここ30年低成長だ。これには様々な要因があり「コンプレックス・スタグネーション」(複合的停滞)と言える。1990年代初めは供給サイドのバランスシート調整が必要なのに、政府は公共事業で需要を拡大した(※日米貿易交渉のためかな)。また銀行は不良債権処理(バランスシート調整)を先に延ばした。そのためこの時の真犯人は政府・銀行だ。
・その後デフレになる。これは日銀が金融政策で対応すべきだったのに、何もしなかった。よってこの時の真犯人は日銀だ。日銀は組織に問題があり、金融のプロフェッショナルがいない。日銀が政府から独立する理由は2つある。1つは、国の重要政策は国会で決めるべきだが、金融政策は臨機応変に対応しないといけないからだ。もう1つは、金融は専門的なため、政治家では理解できないからだ。米国の連邦準備制度の理事は、ほぼ全員が金融の博士号を持つ。一方日銀の博士号は1・2名で、メーカーの社長が総裁・副総裁・政策審議委員になる。総裁は財務省と日銀が交互に就いている(※前文と矛盾)。
・30年間の停滞に雇用制度も関係する。企業は何もしなかったが、それは当時の雇用制度では不採算部門を打ち切れなかったからだ。

○官僚制度と政治
・日本がコンプレックス・スタグネーションになった原因に官僚制度がある。日本は政界・官界・財界の結び付きが強く、「鉄のトライアングル」と呼ばれ、そして官界が強い力を持つ。これは明治以来、国家公務員上級試験の合格者が高級官僚になる「官僚促成栽培制度」のためだ。著者が金融担当大臣の時、金融庁の幹部は大蔵省の出向者で、金融取引の経験者はいなかった。※金融庁は1998年以降、徐々に大蔵省から分離した。また官僚は2・3年で所属部署が変わる。

・また日本の官僚は政治と近過ぎる。高級官僚(次官・局長など)は中立的であるべきなのに、政治家回りになっている(※官僚主導から官邸主導になって、より緊密になったのでは)。しかも官僚は与党との繋がりが強く、野党は蚊帳の外に置かれている(※政権交代できない原因かな)。

・2007年堺屋太一が「官僚と政治家の接触を制限すべき」とした。これは実現しなかったが、2008年「国家公務員制度改革基本法」が成立し、内閣が国家公務員の人事を掌握できる様になる(※官邸主導の始まりだな)。さらに第2次安倍政権になり「ポリティカル・アポインティー」(政治任用制)が採用される(※今は「回転ドア」が進んでいるらしい)。著者が金融担当大臣の時、公認会計士・弁護士を採用したが、留まる事はなかった。それは官僚は年功序列で、無能でも次官・局長になれるからだ。

○日本は完璧を求める
・コンプレックス・スタグネーションになったもう1つの原因は、政策が細かい法律的手続きの積み重ねだからだ。これは東大法学部出身の官僚が得意なため、政策の作成が官僚に限られている。法律が完璧なのは当然だが、これが行き過ぎている。
・著者は米国連邦議会上院で公務員として法律作成した。千数百ページの予算案を作り、下院に送った。コピーミスで抜けたページがあったのに、下院で通過した。翌朝『ワシントン・ポスト』が報じ、大問題になると心配したが、全く別件の農業歳出法案に修正を加え、一件落着した(※米国の予算案は複数の法律からなるらしい)。

・法律作成で重要な事が2つある。1つは民主主義国では複雑な法律は作るべきでない。そうすると官僚しか法律が作れなくなる。もう1つは完璧を求め過ぎだ。間違っていれば訂正すれば良い。完璧を求めるため、逆にセキュリティ・クリアランスが整備できない。日本がやらなければいけない事は無限にある。

○目指すべき方向と3つの要素
・日本が目指すべき方向は3つのキーワードで表せる。「スマート」「サステナブル」「インクルーシブ」だ。スマートはテクノロジーを駆使し、経済を豊かにする事だ。サステナブルは持続可能性で、国債発行は考える必要がある。インクルーシブは民族・性別などで差別されない事だ。この3つは「EU指令」にある。EU指令は加盟国の義務で、国内で適切な法令を採択する。※幾つかのEU指令を紹介しているが省略。

○ピアプレッシャーが国を変える
・日本が変わるのに必要な3つの要因を説明する。1つは「ピアプレッシャー」で、「ピア」は仲間の意味だ。EU指令もこれに該当する。かつての日米摩擦もピアプレッシャーだ(※これは外圧の気がするが)。バイデンは日本からのピアプレッシャーを期待しているかもしれない。
・経済政策では、かつては「経済財政諮問会議」がピアプレッシャーだった(※無力になったのは何故?)。今あるのは「選挙プレッシャー」だけだ。小選挙区制になり、党の代表が選挙支援に出向くため、党の代表が大きな力を持つ(※党の有力者が選挙応援に行くと思うが)。第2党・第3党に力がないとピアプレッシャーにならない。国民民主党・日本維新の会が閣外協力する様になればピアプレッシャーになる。

○ユーラシア大陸からの外圧
・2つ目の要因は「外圧」だ。日本はかつてよりユーラシア大陸の東から外圧を受けた。645年「大化の改新」も外圧だ。唐の外圧により天皇を中心とした統一国家になった(※詳細省略)。平安時代末期、日宋貿易は宋の商人が牛耳っていた。これに反発した平清盛が大輪田泊で貿易を始めた(※詳細省略)。今の中国も外圧だ。

○2035年のショックセラピー
・3つ目の要因は「ショックセラピー」(ショック療法)だ。今はカオスの時代で、予想外の事が起きる。それが問題を解決するチャンスになる。1990年代末日本は金融危機になる状況だった。その時小泉内閣(2001~06年)が誕生し、「聖域なき構造改革」を掲げ、不良債権処理を行い、「官から民へ」「中央からち地方へ」を柱に経済改革を推し進めた。※竹中平蔵は小泉内閣で内閣府特例担当大臣(経済財政政策担当、金融担当)と総務大臣に就いている。
・日本は何度もショックセラピーを経験している。1853年ペリー来航により明治維新になった。太平洋戦争の敗戦で、自由な民主主義国に生まれ変わった。2035年までにリテールリスクが顕在化し、ショックセラピーが起きるかもしれない。それは南海トラフ巨大地震や富士山大噴火かもしれない。

○2035年のショックセラピー
・2035年中国がGDPで米国を抜くとされる。日本人の1/3が高齢者になる。2035年頃のショックセラピーに備える必要がある。明治維新から9年後に西南戦争が起き、武士階級が消滅した。つまりショックセラピーには10年の歳月を必要とする。例えば自然災害に対しては社会インフラを整備する必要がある。東日本大震災(2011年)の時はインターネットで安否確認・状況確認ができた。インターネットはスマート/サステナブル/インクルーシブのいずれも満たしている。様々な原因による切断に備え、海底ケーブル/地上設備を強化しておく必要がある。

○CRICサイクルとCRIPサイクル
・ロバート・フェルドマンが「CRICサイクル」(Crisis:危機、Response:対応、Improvement:改善、Complacency:満足)の言葉を使っている。「日本人は危機が起きると、対応し、改善し、満足する」とし、「リアクティブ(受け身)な行動しかしない」とした。ショックセラピーに備えるには、「C:満足」を「P:プロアクティブ(前向き、積極的)」に変える必要がある。

○ゴミ箱理論と米国のショックセラピー
・「ゴミ箱理論」は「政治リーダーになった時、ゴミ箱をひっくり返しなさい。そこには様々なアイデアがある」とする理論だ。この理論からすると、2035年のショックセラピーに備え、様々なアイデアをゴミ箱に貯めておく必要がある。

・またリーダーを選ぶ仕組みやリーダーの権限のガバナンス(統治、管理、支配)の仕組みも重要となる。米国でテレビドラマ『サイバー:宿命の大統領』が話題になった。米国には「デジグネイテッド・サバイバー」(指定生存者。大統領の職権を継承する官僚が議会から離れて待機する)制度がある。ドラマでは議会が爆破され、指定生存者だった住宅都市開発長官が大統領になる。ところが米国同時多発テロ(2001年)では、議員は議会の地下室で右往左往し、テールリスクに対応できなかった。

○リーダー民主主義
・リーダーには様々なタイプがある。例えば河川の水を農民に平等に分配する場合は、コンセンサス(意見の一致)を重視するリーダーが求められる。今は組織に非連続な変化をもたらすリーダーが求められ、それには周囲に優秀なスタッフも必要になる。さらに付け加えると「バルコニーに駆け上がって見る」事も重要になる。目前だけを見るのではなく、高い位置から俯瞰する能力だ。

・リーダーに求められる資質は何だろう。集産主義国はリーダーが強権的に主導する。民主主義国だとリーダーは政策を提案し、国民の賛同を得なければいけない。そこで民意を得られなければ、身を引かなくてはいけない。民主主義国だと、この「指導者民主主義」しか機能しない。なぜなら国民は多忙で、政策・法律に精通していないからだ。
・そのためリーダーはミッション(行うべき事)をパッションを持って提案する必要がある。反対意見もあるので、カリスマ性も必要となる(※小泉首相を想定しているのかな)。また国民の「聞く力」も重要となる。今はカリスマ性を持つ政治家が少なくなった。それはツイッター/ユーチューブなどのSNSで重箱の隅を突く様に攻撃されるからだ。

○人的資源の重要性
・ショックセラピーには「ヒューマンリソース」(人的資源)も重要となる。日本人は謙虚だが、高い能力を持つ。岸田首相の「新しい資本主義」で評価できるのは、「人への投資」だ。堺屋太一は『経済白書』の第1章に、日本が20世紀に経済発展した理由を2つ挙げている。1つは終身雇用・年功序列など、組織を巧みに変えた事だ。もう1つは「人間の力」で、福沢諭吉の「一個人の独立なくして、一国の独立はない」としたのが象徴だ。
・しかし今の日本社会は柔軟性を失い、人的資源も劣化している。大学進学率は49.8%で世界14位だ。各国が高等教育政策を重視している。オバマはコミュニティ・カレッジの卒業生を500万人増やす計画を始めた。実は日本と米国では大学の役割が異なる。米国の大学・大学院は高卒者だけでなく、企業に就職し、退職あるいは勤めながら通学している。日本は有名大学に合格するのが目的で、何を学ぶかは二の次だ。そのため米国だと25歳以上の大学生が25%いるが、日本は2%しかいない。※これは改善したいな。終身雇用や転職などをすると評価が下がる慣習が問題だ。

○長寿化と転職
・日本は新卒一括採用が主流だが、最初に入った会社がベストとは限らない。合わなければ転職すべきだ。労働市場の流動性が高まれば、生産性は高まり、経済が活性化する。日本は長寿化しているので、これも転職を勧める理由だ(※詳細省略)。また世界は長寿化し大きく変化しているのに、4年間しか大学で学ばないのは不十分だ。

○異質なものを受け入れる
・人的資源を外国から受け入れる事も重要だ。介護人材は不足している。これにより異質なものを認める社会になる。歴史的にも日本は異質なものを受け入れて発展してきた。奈良・平安時代は帰化人を受け入れ、日本文化を作った。明治時代は「お雇い外国人」を招聘した。それなのに今の日本人の8割が移民に反対する。これも「依存効果」で、ワイドナショーなどでの発言が影響している。SNSで「移民賛成」と言うと、必ず叩かれる。

○ジェンダーギャップ116位
・日本は「女性」を活用できていない。世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数」で日本は116位だ。これは4分野(経済、教育、健康、政治)の14項目を数値化している。日本は政治/経済(プロフェッショナル)/教育(高等教育)で世界最低に近い。東大入学者で女性は2割しかいない。男女平等選挙なのに衆議院議員で女性は1割しかいない。

○アファーマティブ・アクション
・ジェンダーギャップの解消方法に「アファーマティブ・アクション」(積極的格差是正措置、肯定的措置)がある。欧州では多くの国で「議席割り当て」(クォーター制)が実施されている。米国ではビジネス界で女性管理職・専門職が増え、女性議員も増えた。日本では1985年に「男女雇用均等法」ができるが、今でもジェンダーギャップは解消されていない(※首相が女性になったので、政治は少しは改善されるかな)。穏やかなクォーター制は取り入れるべきだ。例えばクォーター制を政党助成金を受け取れる条件にする。男女平等にする事で、イノベーションが起き易くなる。

○女性のプロフェッショナルを増やす
・女性のプロフェッショナル(専門職)を増やすのも重要だ。女性が子育て・介護などで職場を離れても復帰できる制度が充実しつつある。弁護士・会計士などの士業は、そもそも女性に向いている。数年前東京医科大学の入試で大問題があり、今後は女性の医師も増えるだろう。「プロフェッショナル=男性」の先入観を払拭し、人的資源を活用できる様になれば、世界との競争に伍せる。

あとがき 中林美恵子

・今は国際秩序が急激に変化している。中国は強大な経済力を持ち、他の強権国と連携し、これを行っている。8月にゴルバチョフが亡くなったが、プーチンは葬儀に参列しなかった。これは冷戦が終結していない事を暗に示している。ウクライナ侵攻もまだまだ続きそうだ。多くの人が「独裁者は悲惨な大戦から学ばなかったのか」とショックを受けた。

・米国では『ワシントン・ポスト』の記者クレイグ・ウィットロックが『アフガニスタン・ペーパーズ』を書いた。これは米国政府の虚偽と失敗の記録だ。また『ワシントン・ポスト』はラムズフェルド国防長官(※任2001年1月~2006年12月)のメモを公表した。これらに米国の現地文化への無知、アフガン政権の腐敗、ドローンによる誤爆などが赤裸々に記されている。ただ政府内に失敗の記録を残そうとした人がいた事、メディアの追求姿勢などは民主主義の利点だ。

・中国は5年に一度の共産党大会(10月)に先立ち、習主席の側近で湖北省トップの応勇が最高人民検察院の副検察長に任じられた。警察の公安部部長にも習主席の身辺警護担当の王小洪が、司法相にも習主席に近い唐一軍が任じられた。公安や司法のトップに習主席の側近が就き、独裁化が強まっている(※この辺りは記憶にない)。
・中国には人権問題も存在する。8月国連高等弁務官事務所が新疆ウイグル自治区での人権侵害を報告し、世界の企業に人権侵害を再点検する様求めた(※Nikeが問題になったのはこの時かな)。しかしこの報告書に約40ヵ国から反対署名が届けられた。
・中国は大国になり、日本はその中国経済に頼っている。9月上海で「世界人工知能大会」があり、欧米のハイテク企業(クアルコム、AMD、アップル、メタ、GEヘルスケア、NXPセミコンダクターズ、インフィニオン・テクノロジーズなど)も参加した。米中政府は対立しているが、企業は中国市場を切り離せない。前トランプ政権は米半導体企業と中国のZTE/ファーウェイとの取引を禁止した。バイデン政権は半導体企業に520億ドルの補助金を出す。
・台湾問題も先鋭化している。バイデンは「台湾を守る」と発言し、ナンシー・ペロシ議員など多くの議員が訪台した。さらに11億ドルの武器売却を承認した。

・ウクライナ侵攻で企業のESG(環境、社会、ガバナンス)がジレンマになっている。中国への投資はリターンが望めるが、軍事転用されるかもしれない。また民主主義国の軍事関連企業への投資を抑制する理由はなくなった。ESGは企業の長期的成長における気候変動問題・人権問題などでの重要な指標だ。ウクライナ侵攻がこれに大きなインパクトを与えた。

・2035年の日本を想像するのは、ショックセラピーに備えるのが第一歩になる。中国も順風満帆ではないだろう。その時こそ安全保障の危機になるかもしれない。私達は何に軸足を置くのか。一人ひとりの知恵・行動が2035年を決定づける。