『政策 図解』近藤哲郎/沖山誠(2023年)を読書。
経済・社会を支える政策・制度の概要を図解と共に解説。
コラムにより政策の根本も理解できる。
経済政策ではイノベーションを喚起させる政策が多い。
政策は無限にあるので、これを運用管理する政府・行政法人は大変だ。
これらの政策を利用する個人・法人も熟知するのが大変だ。
幾つか知らない政策があり、また詳しく知らない政策もあり、良かった。
説明が簡潔でお勧め。逆に簡潔過ぎて物足りなさがある。
お勧め度:☆☆☆
内容:☆☆
キーワード:<はじめに>政策、図解、<人材育成>始動、未踏、教育訓練給付、<事業創出>J-Startup、規制のサンドボックス制度、エンジェル税制、<事業活動>特許制度、ローカルベンチマーク、税制適格ストックオプション、国家戦略特区制度、<労働環境>無期転換ルール、同一労働同一賃金、男女雇用機会均等法、労働組合法、<技術開発>SBIR制度、研究開発税制、スマート農業実証プロジェクト、コンビニ電子タグ1000億枚宣言、<市場環境>TPP11、デジタルプラットフォーマー規制、投資協定、コーポレートガバナンス・コード、<教育>大学ファンド、高等教育の修学支援新制度、未来の教室、授業目的公衆送信補償金制度、<地域>地域おこし協力隊、ふるさと納税、地方交付税、政府開発援助、青年海外協力隊、<健康・医療>セルフメディケーション税制、インセンティブ交付金、介護保険制度、国民皆保険制度、健康経営銘柄、<生活>キャッシュレス・消費者還元事業、生活保護制度、NISA、iDeCo、国民年金、<社会基盤>個人情報保護法、PFI、PLATEAU、マイナンバー制度、<自然環境>パリ協定、トップランナー基準、家電エコポイント制度、地球温暖化対策税、グリーンイノベーション基金、<おわりに>政策図解
はじめに
○社会に違和感を持つために
・子供の頃は様々な事に疑問・違和感を持ったが、大人になると、それらに目を向けなくなる。私は校則が厳しい学校に通っていた。学校指定のコートでないと、マフラーを付けれなかった。生徒がこれに反対し、校則が変わった。
○意味の分からないルールは皆で変えられる
・私はルールを変えられる事を知った。思考停止してはいけない。まずは社会を知らなければいけない。それには「政策」を知る必要がある。
○政策は社会を変えてきた
・企業や個人ができなかった事が、政策によって実現可能になる。本書は50個の政策を解説する。政策は複雑で難しい。そのため図解で説明する。
○政策を知ると社会と繋がる
・1961年「国民皆保険制度」ができた。これで医療費の個人負担が3割になった。それまでは3千万人の人が未加入で、全額負担していた。女性の参政権も政策の変更で得られた。今では当たり前のルール・制度も昔は当たり前でなかった。
○自分と社会の課題を切り分けられる
・政策を知らないと、すべての課題を自分が引き受けてしまうかもしれない。政策を知ると、社会構造の歪みなども知る事ができる。
○政策を知るための壁
・政策を知るには2つの壁がある。①政策情報へのアクセスが難しい。②政策の情報量が多く、理解が難しい。これらを打開するため、本書は図解を用いた。
本章の前に
・本書は「第1部 経済を支える」「第2部 社会を支える」で構成される。50の政策を紹介するが、それぞれ「政策図解」(※以下図解)と文章で説明する。図解は3×3のマス目で、上段が対象者、中段が政策、下段が実施者だ。中段の政策は、右マスは政策目的、中マスは政策名、左マスは政策手段だ。対象者・実施者(際組織、国、中央省庁、自治体、独立行政法人、大学、企業、人など)はアイコン化した。(※矢印の説明は省略)。図解は、①本質を見抜く(エッセンス)、②内部での共有・引き継ぎ(インターナル)、③外部に伝える(エクスターナル)が目的だ(※詳細省略)。
第1部 経済を支える
第1章 人材育成
<始動 Next Innovator>
※全ての政策で最初に「政策図解」が記載されているが省略。
・「始動 Next Innovator」はグローバルなイノベーターの育成が目的だ。まず参加者(起業家、専門家)は新規事業の立ち上げに必要なスキル/マインドセットを研修する。事業が選択され、選ばれるとシリコンバレーでの活動が支援される。
・2018年の参加者は最年少21歳、最高齢58歳と幅広い。本政策がグローバルなのは、「シリコンバレーと日本の架け橋プロジェクト」の一部だからだ。なお本政策はアラムナイ・コミュニティが強固で、プログラムの卒業生間の繋がりが深い。
<未踏>
・「未踏」は突出したIT人材の発掘・育成が目的だ。これまでの補助金は企業が対象だったが、本政策は個人が対象だ。2000年に始まったが、現在は3つのプログラムになっている。1つ目は「未踏 IT人材発掘・育成事業」で、イノベーションを起こすような技術力・アイデアを持つ「クリエータ」の発掘・育成だ。クリエータはプロジェクトマネージャー(PM)の下で開発プロジェクトを実施する。
・2つ目は「未踏 アドバンスト事業」で、イノベーションを起こせる技術力・アイデアを持つ「未踏的人材」の発掘・育成だ。既にサービスの企画・構想を持つ個人が対象になる。対象者はPMだけでなく、ビジネスアドバイザ(BA)から経営課題・法律・知財などの支援を受けられる。
・3つ目は「未踏 ターゲット事業」で、ITを駆使してイノベーションを起こせるアイデア・技術力を持つ「未踏的IT人材」のアイデア・技術力を活かすプログラムだ。本プログラムはPM・大学の助言を得られる。テーマは量子コンピューティングに限定されていたが、カーボンニュートラルが加えられた。※量子コンピューティング/カーボンニュートラルについて補足しているが省略。
<教育訓練給付制度>
・「教育訓練給付制度」は労働者の能力開発・キャリアアップを支援するため、教育訓練講座の受講費用の一部を負担する。対象者は雇用保険の被保険者で、正社員・パート・アルバイト・派遣労働者が対象だ。本制度が作られたのは1998年で大変な不況だった。また少子高齢化で労働力不足が懸念されていた。そのため人への投資が重要となった。本制度は企業での教育訓練講座も対象になる。
・対象となる講座は1.4万講座あり、「一般教育訓練給付」「特定一般教育訓練給付」「専門実践教育訓練給付」の3種類に分けられる。「一般教育訓練給付」は学位取得(※労働者なのに)やITパスポート・簿記検定・英検などの資格取得の講座だ。「特定一般教育訓練給付」は労働者の再就職やキャリアアップのためで、業務独占資格(介護職員研修、大型自動車免許、税理士など)の取得が目的の講座だ。「専門実践教育訓練給付」は中長期のキャリア形成が目的の講座だ。業務独占資格(弁護士、公認会計士、社会福祉士、看護師など)の取得が目的の講座や、大学院・大学・専門学校の課程だ。給付額は「一般教育訓練給付」20%、「特定一般教育訓練給付」40%、「専門実践教育訓練給付」70%となっている。※キャリアアップに使えそうな制度だな。
<コラム 政策は日常の延長>
・政策は身近にあり、それを自覚できるかが生活の質を変える。日本は「三権分立」で、立法権・行政権・司法権が独立し、監視し合っている。国会が立法権を持ち、裁判所が司法権を持つ。内閣は行政権を持つが、この内容を説明するのは難しい。「法律に基づいて政治を行なう」と説明すれば良いだろうか。国会で総理大臣が指名され、総理が各国務大臣を選ぶ。内閣は内閣府・省庁・委員会などで構成される。
・政策は普通は11の省のいずれかが担当する(※内閣府の担当もあるのでは)。(※経産省・厚労省を紹介しているが省略)。会計検査院だけは内閣に属さない行政機関だ。
・政策は、①課題設定、②政策立案、③政策決定、④政策執行、⑤政策評価の過程になる。
①課題設定で社会課題を発見し、解決の必要性を検討する。現状に留まらず、将来のあるべき姿も考慮する。
②政策立案で具体的な政策を複数作成する。目的・内容・予算・実現可能性を踏まえ検討する。官民の関係者・専門家が参加する。目的を達成するために「政策ツール」も検討する(後述)。
③政策決定で複数の政策案を政治家・行政機関で審議し、決定する。メリット・デメリット/費用対効果/社会への影響などを考慮する。
④政策執行で具体的な計画・スケジュールを策定し、関係者が協力して政策を実行する。予算管理/プロジェクトマネジメント/リスク管理が必要になる。
⑤政策評価で成果・効果を検証する。改善点などを検討し、政策作りに役立てる。
第2章 事業創出
<J-Startup>
・日本にスタートアップは1万社ある。政策による補助金でまんべんなく支援されている。しかし「J-Startup」は対象を厳選する。日本のスタートアップはグローバルに活躍できていない。世界にユニコーンは1220社あり、米国661社/中国172社/インド72社で、日本は7社(15位)しかない。そのため政府はユニコーン企業/上場ベンチャー企業を20社にする目標を掲げた。本政策はそのためだけでなく、社会全体での起業家マインドの醸成、スタートアップ・エコシステムの強化を目指す(※対象を厳選するとあったが)。
・本政策は、①選定、②支援、③海外展開の3つのフェーズから成る。①選定で、ベンチャー・キャピタリストや大企業のイノベーション担当がスタートアップを推薦する。推薦されるスタートアップはディープテック型・プラットフォーム型・SDGs型のいずれかになる。厳選され「J-Startup企業」となる。
・②支援でJ-Startup企業は官民連携のコミュニティから支援される。コミュニティは行政機関の経産省/NEDO(※正式名省略)/JETRO(※正式名省略)と民間の「J-Startup Supporters」(200社以上)/J-Startup企業で構成される。J-Startup企業は全ての政府調達に入札できる。J-Startup Supportersからは、協業機会の提供、経営層・専門人材へのメンタリング、オフィス・実験場の提供などで支援される。
・J-Startup企業が成長すると③海外展開に進む。現地でのコミュニケーション作りを支援する「JETROグローバルアクセレーション・ハブ」や展示会への参加が可能になる「Startupツアー」などを利用できる。
・スタートアップ企業への期待が高まっている。現在240社がJ-Startup企業に登録されている。
<規制のサンドボックス制度>
・「規制のサンドボックス制度」により企業は規制を気にせず、実証実験できる(※サンドボックスは砂場で、閉ざされた安全な場所を意味する)。AI・ドローン・自動運転などの革新的技術が生まれているが、法律が追い付いていない。本制度により企業は地域・期間を限定して、新技術の実証実験ができる。規制する政府は判断材料が乏しいため、企業が実証実験の計画を作成し、それを政府が認定する。政府はこの結果から規制緩和の内容を判断するため、「実証データの蓄積」も目的になる。
・具体的には企業が実証の事業化計画を政府に提出し、認定されると実証実験できる(※トヨタのウーブン・シティはこれかな)。この結果から、政府は規制緩和を判断する。例えば2019年電動キックボードのシェアリング事業が本制度の対象になり、2021年事業化された(※2年で事業化とは素早い)。
・本制度により新しい事業が生まれるが、事業者が本制度を活用しないと意味がない。現在22件が対象で、手続きのハードルを下げる必要がある。
<エンジェル税制>
・「エンジェル税制」はベンチャー企業に投資した個人投資家を減税する制度だ。因みにベンチャー企業に投資する投資家は「エンジェル投資家」と呼ばれる。ベンチャー企業への投資はリスクが大きいので、本制度で投資を促す。具体的には対象ベンチャー企業に投資すると、株式の取得・売却時に税制優遇される。ベンチャー企業が条件を満たしていれば(都道府県に確認)、「特定新規中小企業」として認められる。個人投資家は直接投資でも認定された事業者経由(ファンド、株式投資型クラウドファンディング業者など)でも認められる(※面倒そうで、利用者は限られるかな)。
・本制度は1997年に創設され、現在322社/投資額126億円/個人投資家1.2万人に拡大した(当初は38人)。それでも日本はベンチャー企業への投資額が少ない。米国はGDP比0.64%、英国0.47%、中国0.26%、韓国0.22%、日本は0.08%だ(※ここでも保守性が見られるな)。そのため2019年度の税制改正で要件が緩和された(※詳細省略)。2023年度にも改正され、投資される企業の実務が簡素化された。
<コラム 政策のスケジュールは1年単位>
・政策は1年単位で検討する。プレイヤー(政治家、官僚、関係する民間)はスケジュールを共有している(※国会・予算・法律・税制の単年度のスケジュールを示す図がある)。予算・法律・税制には伝統的な手法が存在する。これら以外に国家間の条約や拘束力を持たないガイドラインなどがある。
・6月「骨太の方針」などの政府文書が閣議決定される。これには向こう5年位の優先課題が記載される。政策の検討者は自分が担当する政策が政府文書に入るか注目する。各府省庁に政策毎に審議会が設置される。審議会には民間の専門家も参加する(※順番は審議会が先で、その後政府文書が作成される)。
・夏から秋にかけて、省庁間の協議が本格化する。例えば予算の場合、各省庁が財務省に「概算要求」を提出する。その後予算原案・法案・税制原案は閣議決定され、国会で審議される。
・国会には「通常国会」「臨時国会」などがある。通常国会は1~6月に開かれる。臨時国会は必要な場合(災害時、緊急時など)に開かれる。法案・予算は国会で議決され、政策になる。
・政策は実施後に評価される。代表的なのが「行政事業レビューシート」だ。これには政策の効果を測る指標や前年度に実施した結果などが記される。近年ではEBPM/ナッジ/デザインアプローチなどが使われる。
・上記で単年度での政策立案を説明したが、単年度である事が見直されている。例えば2022年度閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」に、「単年度主義の予算では長期的方向性が見えないし、将来の期待成長率も導き出せない。事業の性質に応じて基金を設け、単年度主義の弊害を是正する」とある(※多くの法律は恒久的だが、年度毎に評価しても支障はないと思うが)。
第3章 事業活動
<特許制度>
・「特許制度」は発明を保護する制度だ。発明者に特許権を与え、発明を保護・奨励する。一方で発明内容を公開し、利用を図る。発明者には一定期間、独占的な特許権が与えられる。特許は特許庁に出願する必要がある。同じ知的財産権の著作権は著作物が作られた時点で権利が発生する。
・特許は先に出願した方が優先されるので、早急に出願する必要がある。さらに出願から3年以内に「審査請求」する必要がある。普通は特許を認められない事が多く、拒絶理由通知書が届く。書類を修正し、再度審査を受ける。拒絶理由通知書には「諦めないで欲しい」と書かれる(※詳細省略)。審査請求から権利化までは平均14.3ヵ月だが、その内審査待ちが9.5ヵ月もある。早期に審査を受けれる「早期審査」「スーパー早期審査」もある。
・特許は技術情報を公開し、産業を発展させるのが目的だ。また公開された技術情報から、会社がどんな技術を持っているかも分かる。特許情報は事業の協業先を探すのに使える。これによりスタートアップ企業・中小企業を大企業が支援する「オープンイノベーション」が期待される。
<ローカルベンチマーク>
・「ローカルベンチマーク」(通称ロカベン)は企業の経営状況を可視化するツールだ。ロカベンは知的資産(人材、技術、組織力、ネットワーク、ブランドなど)による経営の入口になる。ロカベンは3つのシート「6つの指標(財務面)」「商流・業務フロー」「4つの視点(非財務面)」から成り、これらに入力すると、経営状況の分析結果が表示される。
・ロカベンは金融機関などが企業の経営課題を把握・分析するために使われる。それは金融機関が企業に融資する際の「事業性評価」を金融庁が重視しているからだ。これまで金融機関は決算書の内容や担保・保証の有無で判断していた。しかしロカベンにより、融資がスムーズに行われる様になった。ロカベンには「診断」「対話」の機能があり、地域の活性化が期待される。
※このツールは知らなかった。企業は積極的に作成・公表しているのかな。
<税制適格ストックオプション>
・「ストックオプション」は会社が社員に報酬として渡す株式だ。上場会社であれば、株価が上がる事で、購入価格と売却価格の差額が儲けになる。「税制適格ストックオプション」だと税制で優遇される。これまでは購入時に給与課税(最大55%)されたが、税制適格ストックオプションの権利が付与されると、購入時に無税になる(※ストックオプションには有償・無償があるが、税制適格が付与されるのは無償のみ)。
<国家戦略特区制度>
・「国家戦略特区制度」は「世界で一番ビジネスし易い環境」の創出が目的だ。そのため区域を限定して規制を緩和する。問題がなければ、それを全国展開する。区域は関西圏・都道府県・市町村など様々だ。現在13区域が指定され、400を超える認定事業が行われている。※よく聞く経済特区はこれかな。先述の「規制のサンドボックス制度」と似ている。
・本制度以前にも特区はあった。以前の特区は自治体・団体が計画するボトムアップ型だったが、本制度の特区は国が主体的に関わる。また国家戦略特別区域会議では国・自治体・民間が対等の立場になる。
・例として「近未来技術実証特区」がある。自動運転(レベル4)の実証実験のため『日本再興戦略 改訂2015』(※自動運転以外にも様々な事業が含まれる)が閣議決定され、実証実験が開始された。※大阪万博の「空飛ぶタクシー」もこれかな。
<コラム 政策ツールと言う手段>
・政策を実行するのに必要な手段が「政策ツール」(法律、予算、税制)だ。国は法律によって秩序を保ち、税金を集め、それを再配分するのが予算だ。ただし政策ツールありきで考えると手段が目的化するので、本来の目的が重要だ。
・法律は社会のルールだ。これにより社会を規制したり、促進する(※「容器包装リサイクル法」を詳述しているが省略)。法律は政策の目標を達成させる大きな役割がある。
・予算によりサービスや補助を提供できる。予算は国の支出(歳出)で、収入は歳入だ。予算は100兆円程度で、社会保障/地方交付税交付金/公共事業/防衛などに使われる。予算には2種類あり、年度毎の「当初予算」と「補正予算」がある。
・税制により税金を集める。2023年度は歳入114兆円の内、税金は69兆円だった(※残りは主に国債かな)。税金は徴収される印象だが、減税で行動変容させる政策もある。例えば「研究開発税制」は、企業の研究開発への投資に対し、法人税を減税する。
※基本的に法律は2種類で、徴税に関するものと、支出を伴う行政サービスに関するものかな。今話題の「給付付き税額控除」は異例かな。
第4章 労働環境
<無期転換ルール>
・労働者の契約は「有期労働契約」「無期労働契約」に分かれる。契約社員/パートタイマー/アルバイトなどは有期労働契約だ(1400万人)。「無期転換ルール」は有期労働者が5年を超えて働き、本人が希望すれば「無期」に転換できるルールだ。これは「労働契約法」で定められている。
・本ルールは「雇い止め」に対する要望から作られた。実際有期労働者は正社員と同等の仕事をしている。本ルールにより労働者を守り、雇用を安定化させる。これは全社が対象なので、各社は有期労働者の就労実態を把握し、転換した場合の処遇などを決めておく必要がある。
・本ルールは2013年施行され、2018年から対象者が発生した。本ルールの認知度は4割で、実際に権利行使した人は3割に留まる。本ルールを知らない企業が15%もあった。
<同一労働同一賃金>
・「同一労働同一賃金」は正規雇用と非正規雇用の待遇の差別をなくすのが目的だ。格差がなくなれば、柔軟な働き方が推進でき、経済・社会を発展できる。日本では非正規雇用が4割を占める。これは1990年代の経済悪化で企業が非正規雇用を増やしたからだ。さらに2000年代にIT技術が進歩し、テレワーク/アウトソーシングが増えたのも要因だ。非正規雇用が増えた事で、「同一労働同一賃金」が求められた。
・同一労働同一賃金の実現のため労働法制(パートタイム・有期雇用労働法、労働者派遣法)を変更した。本政策のために作られたガイドラインは賃金(基本給、昇給、賞与、手当)だけでなく、教育訓練/福利厚生でも待遇差の解消を求めている(※派遣社員の設備扱いは終わったかな)。また同一労働同一賃金に関する紛争解決に労働局が関わる「裁判外紛争解決手続」も設計されている(※裁判外紛争解決手続は労使関係だけが対象ではない。少し調べたが、相当奥が深い)。本政策により事業者は雇用制度の修正が求められる。
<男女雇用機会均等法>
・「男女雇用機会均等法」は労働者が性別に関係なく、機会・待遇を得られるのを目的とする。憲法は「法の下での平等」が理念で、会社での性差別は認めない。本法律はさらにハラスメント対策/妊産婦の健康管理を推奨している。違反した場合、30万円以下の罰金や企業名の公表が科せられる。
・性差別を受けた場合、労働局に訴えると、トラブル解決を支援される。具体的には、性別を理由とした採用・配置・昇進・教育の差別、採用時に身長・体重を要件にする、転勤を昇進の要件にする、婚姻・妊娠・出産を理由とした解雇などだ。他にセクシャル・ハラスメント/マタニティ・ハラスメントに対する対策や「母性健康管理措置」を義務付けている(※詳細省略)。
・労働局への相談は2万件に及び、多くは母性健康管理/セクハラに関する相談だ。本法律は1986年施行だが、いまだ問題が起きている。ジェンダー・ギャップ指数は4分野(経済、政治、教育、健康)での男女格差だが、日本は120位で先進国で最低だ。特に経済分野で低い。女性の7割が働いているが、パートタイムで働いている割合が高く、女性の平均所得は男性の6割しかない。政治分野も低く、国会議員・大臣の女性の割合は1割程度だ。
<労働組合法>
・「労働組合法」は労働者が会社と対等な立場に立ち、より良い労働環境を築くのが目的だ。本法律により、労働者は団結し、会社と公平な立場で話し合いができる(団結権)。他に「労働三権」として、「団体交渉権」「団体行動権」を認めている。「労働組合」の団結を支援し、労働協約により会社と労働者の関係は整理される。労働組合は法的に保護され、労働者も保護を享受できる。
・一方全ての労働者が労働組合に参加できる訳ではなく、役員・管理者は加入できない。また政治的な活動をする団体や社会運動が目的の団体も本法律の対象外だ。
・本法律は公平な交渉を保障するが、実際は会社が不当な妨害を行なう場合があり、不当な解雇の撤回や妨害行為の禁止などの救済措置を提供する(※具体例が欲しい)。
・現在は労働組合の数も人数も減少している。これは雇用形態の多様化や労働環境の変化による。※今は非正規雇用でも労働組合に加入できる。
第5章 技術開発
<SBIR制度>
・スタートアップなどの研究開発に対する補助金は多数ある。その1つに「SBIR制度」(Small Business Innovation Research)がある。これは各省庁が用意し、それらを内閣府が取り纏める。※この制度は知らなかった。
・本制度は1999年創設され、2020年改訂され、その新旧を比較する。米国に同名の制度があり、1999年日本も制度を創設する。当時日本は不況で苦しんでいた。一方米国は高い成長率で、それを支えたのが中小企業で、米国のSBIR制度が機能していた。
・日本のSBIR制度は、各省庁・関係機関が研究開発のための補助金・委託費を「特定補助金等」として支出目標を定める。そして対象となったスタートアップなどは、特許料の減免、日本政策金融公庫からの特別貸付などの事業化支援策を受けられる。。
・旧制度により年間400億円の補助金が支出され、競争力の向上に寄与した。しかし米国と比べると劣るため、2020年3点の変更を行なう。1つ目の変更点は「中小企業の経営強化からイノベーション重視」だ。旧制度は「中小企業経営強化法」が根拠で、イノベーションに繋がり難かった(※当時は不況で、まず強化かな)。そこで「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」を根拠とし、内閣府が司令塔になった。
・2つ目の変更点は、「補助金の支出対象の拡大」だ。旧制度は初期段階の実証実験への支援は少なく、第2段階の研究開発への支援が多かった(※研究開発が初期段階、実証実験が第2段階で逆の気がするが)。そのため支出対象を拡大した。
・3つ目の変更点は、「補助金等の交付に関するルール変更」だ。旧制度は補助金等の交付方法を各省庁が決めていた。そのため統一ルールを定め、研究開発の課題を掲示する事や、フィジビリティ調査などの初期段階から段階的に支援する事になった。
<研究開発税制>
・「研究開発税制」は企業の技術開発や海外競争力の強化を目的とする。1967年「増加試験研究費税額控除制度」として始まり(※随分古い)、2003年に恒久税制になる。本税制により研究開発費の一部が法人税から控除される。当初は企業単独の研究開発だけが対象だったが、今は公共機関(大学など)との共同研究、企業連携による研究開発、スタートアップとの研究開発も対象だ。
・対象には、新規性/創造性/不確実性/計画性/再現可能性が求められる。単なる製品企画・製造は新規性/創造性が欠けるため、対象にならない。
・2020年度は8668件の利用があった。製造業が7割で、金額は8割を占める(※日本はまだ製造業が主軸かな)。研究開発総額(2019年)は日本は米国・中国に次いで3位だが、企業ベースではトップ10に入っていない(※日本は大学の研究開発が多い?)。世界的にはソフトウェア/デジタルデバイス/製薬/自動車が多く(※それぞれAI/半導体/新薬・iPS細胞/自動運転が注目される)、日本でもデジタル分野/メディカル分野での研究開発投資が期待される。
<スマート農業実証プロジェクト>
・「スマート農業実証プロジェクト」は、ロボット・AI・IoTなどの先端技術を使う「スマート農業」の促進が目的だ。本プロジェクトを「国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構」(農研機構)が運営し、分析・公開する事で普及を促す(※こんな法人格もあるのか)。農業従事者は減少し、高齢化している。「農業生産量=労働力×生産性」だが、労働力も生産性も低下している。そのため先端技術で生産性を高める必要がある。
・農業大国米国はドローンにより生産性を高めた。しかし生産性を高めるのは容易でない。農業は経験や勘に頼るところが大きく、農業の担い手自体が高齢化し、先端技術を受け入れ難い。北海道大学とヤンマーが協力し、種まきから収穫までできる無人トラクターを開発した。
・本プロジェクトは2019~23年度に実証研究が行われる。テーマはローカル5G/農業資材・労働力の海外依存の削減/自給率の低い作物の生産性向上だ。生産者・メーカー・自治体などで構成されるコンソーシアムが公募し、全国で217地区が選定された。コンソーシアムは結果を農研機構に提出し、農研機構が分析し公開する。
<コンビニ電子タグ1千億枚宣言>
・2017年経産省とコンビニ大手5社により「コンビニ電子タグ1千億枚宣言」が出される。5社は年間1千億個の商品を扱っており、全ての商品に「電子タグ」を取り付ける事になる(※今はバーコードは付いているが、ICタグは付いていないかな)。実現には2つの条件がある。①電子タグの価格は1円以下、②全ての商品をRFIDで管理するだ。電子タグの需要が1千億枚になり、価格が1円以下になる事で、導入が合意された。
・この背景に大量生産・多頻度配送に耐えられるロジスティクスが存在するのに、一方で大量に廃棄される食品や返品される商品がある。電子タグが導入されれば、在庫数を正確に把握でき、販売効率も高まる。※電子タグとバーコードの大きな違いは、読み取り作業の有無かな。
・コンビニ商品はメーカー・卸・小売が分断されているため、正確な流通が把握できていない。電子タグを付ける事で、商品の所在確認、欠陥品の追跡、消費期限の管理などが容易になる。また人手不足対応、無人レジ、万引防止なども可能になる(※これ程利点があるのに、進んでいるのかな)。因みに同様の取り組みがヘルスケアでも進められている(ドラッグストアスマート化宣言)。
第6章 市場環境
<TPP11>
・TPPは「環太平洋パートナーシップ」(Trans-Pacific Partnership)の略称で、太平洋周辺国の経済連携協定だ。一方TPP11の正式名は「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(CPTPP)だ。TPP11は貿易の関税を下げるだけでなく、サービス・投資の自由化、知的財産の保護、金融サービス、電子商取引(EC)、国営企業の規制に及ぶ。
・例えば著作権は普通は著作者の死後50年までだが、70年まで延長される。知的財産の保護は世界貿易機関(WTO)のルールを上回る。電子商取引も包括的で高いレベルで、関税を掛けない/コンピュータ設備を国内に設置しなくて良いなどの消費者保護のルールがある。
・TPP11の加盟国は11ヵ国だ(※国名省略)。当初は米国も交渉に参加していた(※詳細省略)。TPP11の経済効果はどうなのか。11ヵ国のGDPは10兆ドルで、世界の13%を占める(※オーストラリア、カナダ、メキシコ、シンガポール、ベトナムなど結構重要な国が参加している)。政府はGDPで7.8兆円(1.5%)、労働供給で46万人(0.7%)の押し上げ効果があると試算している。中小企業でもビジネスが容易になり、消費者は牛肉・乳製品を手軽に入手できる(※日本はペルー、チリからも色々輸入しているかな)。2023年英国が加盟し、さらに期待が高まる。
<デジタルプラットフォーマー規制>
・最近世界でGAFAなどのデジタルプラットフォーマーへの規制が強まっている。この気運は日本でも強まっており、それが「デジタルプラットフォーマー規制」で、デジタルプラットフォーマーの透明性を高めるのが目的だ。
・プラットフォームは利用者が増えるほど、より便利になる。便利になれば、さらに利用者が増える。そのため新規参入が難しく、独占・寡占になる。そのためプラットフォーマーは優位性を活かし、自分達に都合の良いルールを敷いてしまう。これにより「経済の自由」が阻害される。
・日本には「独占禁止法」があり、優位な立場にある事業者の一方的で不当な取引を規制する。当然この法律はプラットフォーマーも対象だ。しかしこの法律は事後でないと対応できないため、規制が手遅れになる。そのため本規制が作られた。本規制により、プラットフォーマーは公正な取引のために何を整備しているかを毎年自主的に報告する。ただし本規制には、オンラインモールで3千億円以上、アプリストアで2千億円以上の流通額が条件で、6社5サイトが対象になっている。公正な環境のために政府と事業者の協調が不可欠だ。
<投資協定>
・日本企業が海外に進出しても、法律・慣習などの違いから予期せぬトラブルに巻き込まれる場合がある。「投資協定」は海外の投資家(企業や国)と投資受入国が締結する協定で、「海外投資家の財産の保護」が目的だ。※企業が個別に締結する事はなく、国家間で締結。
・投資協定は1959年西ドイツとパキスタンが結んだのが最初だ。当時アジア・アフリカの植民地が独立するが、外国人の財産が没収される事例が増加した。そうなると海外への投資をためらう様になり、それは投資する企業・国も受入国も望ましくない。世界貿易機関(WTO)は貿易に関してはルールを定めているが、投資に関しては包括的なルールがない。当時は先進国と途上国間で結ばれたが、今は先進国間や途上国間でも結ばれ、2900件以上の協定が結ばれている。日本は1978年エジプトと結んで以来、90ヵ国・地域と結んでいる(※TPP11は投資協定を含むみたい)。
・受入国が違反した場合、投資家はその政府と対話できる。損害の原因が受入国の対応にある場合、紛争解決手段として仲裁人に提訴できる。投資分野の拡大で投資協定も変化が求められている。国連貿易開発会議は気候変動問題の文脈から投資協定の改定を求めている(※具体例が欲しい)。
<コーポレートガバナンス・コード>
・「コーポレートガバナンス・コード」の直訳は「企業統治指針」だ。企業は利益追求などから法律から逸脱した行動を取る場合がある。これを起こさないためにはステークホルダー(株主、取引先、顧客、従業員、地域社会など)の利害を考え、ルールを守る必要がある。コーポレートガバナンス(企業統治)は、企業の透明・公正・迅速な意思決定を監視・統制する仕組みで、これを上場会社に示したのが本コードだ。
・本コードの冒頭に、「本コードが実践される事で、会社は持続的な成長と中長期的な企業価値の向上の自律的な対応が図られ、これは経済社会の発展にも寄与する」とある。
・本コードは第2次安倍政権の「三本の矢」の「民間投資を喚起する成長戦略」と関係する。これを実践する事で、日本企業の収益性・生産性を高める狙いがあった。策定前にオリンパス事件などの不祥事があり、海外投資家から透明性が高い経営が求められていた。
・本コードは5つの「基本原則」があり、さらに「原則」、さらに具体的な行動を示す「補充原則」の3段階で構成される。基本原則1は「株主の権利・平等性の確保」で、株主の権利の確保、そのための環境整備、少数株主・外国人株主などの平等性などだ。基本原則2は「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」で、「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出はステークホルダーに支えられた結果と認識し、彼らと適切に協働すべし」としている。他に「情報開示と透明性」「取締役会の責務」「株主との対話」が基本原則だ。※本コードの内容は知らなかった。
・本コードはあくまでも原則で、義務ではない。これは「コンプライ・オア・エクスプレイン」に基づいており、「原則を遵守するか、あるいは実施が適切でない場合はその理由を説明する」の選択になる。もしどちらも行えないと東証がその旨を公表する。
・本コードは企業の主体性によるが、課題が幾つかある。企業・投資家を形式主義に陥らせる懸念だ。企業の負荷が増え、不要な項目もあると思われる。「企業が考えている事と本コードが不一致の場合、企業の戦略を阻害する」などの懸念もある。そのため「日本経済団体連合会」(経団連)は、本コードの継続的な検証や企業と投資家の建設的な対話の重要性を提言している。
第2部 社会を支える
第7章 教育
<大学ファンド>
・2020年大学政策で大きな変化があった。「10兆円規模の大学ファンド構想」の表明だ。政府がファンドを設立し、その運用益を大学の運営に当てる。政府の予算は106兆円なので、その1割が本ファンドに積み立てられる(※巨額だな)。これは世界的に珍しい事ではない。世界の有名大学はファンドを持ち、その運用益で研究設備の増強、優秀な人材の採用などを進めている。ハーバード大学は4.5兆円、イェール大学は3.3兆円のファンドを持つ。日本でも東京大学は149億円、京都大学は197億円のファンドを持つ(※1/100以下)。
・ファンドは「国立研究開発法人科学技術振興機構」(JST)の下に設置される。政府は長期的な視点からの基本指針をJSTに示し、JSTが運用機関に運用を依頼する。その運用益が対象大学に分配され、研究環境を整える。元本は維持され、運用益だけが大学に分配される。参画する大学には、ミッションの見直し/事業成長/ガバナンス改革などのコミットメントが求められる(※具体例が欲しいな。当然選定に審査もあるんだろうな)。
・本ファンドは50年の期間限定だ。将来は大学が単独で基金を設ける事になる。大学が研究基盤を整え、事業成長するのが目的だ。
<高等教育の修学支援新制度>
・「高等教育の修学支援新制度」は経済的な理由で学べない学生を返済不要の奨学金で後押しする制度だ。対象は大学・短大・専門学校・高等専門学校になる。国公立大学でも資金は500万円必要になり、さらに生活費も掛かる(※入学金・授業料だけなら約250万円)。
・本制度がこれまでと異なるのは、学生の基準と支援段階が明確に決められており、支援額も統一されている。これまでは奨学金・特待生制度の運営元でバラバラで、自分で探し、選択する必要があった。そしてそれが大学を選択する要因になっていた。本制度の対象条件は2つで、1つは世帯収入と資産、もう1つは学生の学ぶ意欲だ。
<未来の教室>
・「未来の教室」は未来を作る子供に新しい教育環境を与える政策だ。教育(Education)と技術(Technology)組み合わせた「エドテック」(EdTech)を活用する(※○○テックの言葉は多い)。今は少子高齢化/デジタル化/消費者選考・社会課題の多様化・複雑化で未来が見通せない。そんな中で取り組むべき課題を自ら設定し、解決策を創り出す人材を育てる。※少し調べると、本政策は小中学校が対象みたいだが、小中学生にこれをさせるのかな。
・本政策は3つの柱を掲げている。「学びのSTEAM化」「学びの自立化・個別最適化」「新しい学習基盤作り」だ。
・「学びのSTEAM化」は、「創る」ために「知る」学びへの転換だ(※詰め込み教育にも思える)。「創る」は課題を発見し、試行錯誤して解決策を見出す事を指す。自ら課題を設定し、情報収集して答えを生み出す「研究型学習」「プロジェクト型学習」を行う(※松下政経塾もこんな感じかな)。「知る」の「STEAM」は、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Art)、数学(Mathematics)を指し、文理融合の習得を目指す。「学びのSTEAM化」は「創る」「知る」を循環させる学習環境の整備だ。※「創るために知る」とSTEAMはイマイチ繋がらないが。
・「学びの自立化・個別最適化」は、生徒の個性を生かし、多様な学び方の選択の実現だ。EdTechにより各生徒の理解度・達成度を蓄積できる。このデータを元に「個別学習計画」を作成し、随時更新する。
・「新しい学習基盤作り」は「学びのSTEAM化」「学びの自立化・個別最適化」のためのインフラ整備だ。各生徒にパソコンを支給し、学校業務をデジタル化し、外部専門家との連携も可能にする。
・これらの改革から、一律一斉の受動的な学習から、各生徒の個性を生かす能動的な学習に移行させる。ただ個人情報の管理、教育効果の判断などの課題がある(※個別指導になれば、教師の負担が数倍になりそう。これこそAIが自動判断したら良い)。これらの課題は、実践事例の蓄積で解決される。
<授業目的公衆送信補償金制度>
・「授業目的公衆送信補償金制度」は著作権に関する制度で、2018年著作権法の改正で実現した。それまでは対面教育で写真・音楽・新聞記事などの著作物を許可なく無償で使えた。これは遠隔地とのリアルタイムでの対面教育(遠隔合同授業)でも同様だった。ただし予習復習のために資料を「公衆送信」するには許可が必要で、使用料も払っていた(※これは複製だな)。
・ところが2018年の改正で、公衆送信は制度を利用する教育機関が負担金(※使用料?)を支払う事になった。この教育機関の窓口として「一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会」(SRATRAS)が作られた。※著作物を使用する教師(教育機関)は、何を何部複製するかを当協会に報告するのかな。
・当初は2021年開始を目指していたが、新型コロナによりオンライン授業が始まり、2020年度は負担金が無償になった。現在では教育機関が支払う負担金(年額)は、幼稚園60円/人、小学校120円/人、中学校180円/人、高校420円/人、大学720円/人となっている。※少し調べると、SRATRASに支払われた負担金は、権利者団体に支払われ、さらに各著作権者に支払われるみたい。
第8章 地域
<地域おこし協力隊>
・日本は東京一極集中し、地方は人口減少・少子高齢化・過疎化している。これらの地域は「課題先進地」と言われる。「地域に課題が多いので、人が来ない」と言えるが、逆に「地域に課題が多いので、人が集まる」とも考えられる。これを制度にしたのが「地域おこし協力隊」だ(※この考え方は知らなかった)。本制度で都市から地方に移住した隊員が、地域ブランド・地場産品の開発・販売・PRなどの地域おこし支援、農林水産業への従事、住民支援活動などを行う。隊員は1~3年活動して、報酬を受け取る。
・本政策の背景に地方消滅の危機感があった(※詳細省略)。2014年この危機感から「まち・ひと・しごと創生本部」が設立され、「長期ビジョン」「総合戦略」が作られ、地方創生政策が本格化する。
・本政策により新たな視点・スキルを持つ熱意ある隊員を呼び込み、地域の魅力を向上させ、その地域への関心を高める。その隊員が任期終了後も住み続ける事が期待される。実際、任期が終了した6500人の6割がその地域に定住している。この割合をさらに高めるため、起業・事業継承の支援にも注力している。
<ふるさと納税>
・普通は住んでいる地域に納税するが、「ふるさと納税」制度は住んでいない地域に納税する。日本は「地域社会の会費」の考え方から、地域のサービスは住んでいる人が負担した。その税金が教育・福祉・消防・救急・ゴミ処理などの行政サービスの財源になっている。ところが人口が都市部に集中し、地方で行政サービスを維持するのが難しくなり、本制度が作られた。
・本制度で納税すると「寄附」の扱いになる。例えば納税額が2万円の場合、2千円を引いた1.8万円が寄附になり、その分税金が減額される(※正確には住民税は減額、所得税は所得控除)。そして寄附先から返礼品を貰える。自治体は寄附獲得のため、返礼品に特産品の「モノ」だけでなく、旅行・体験などの「コト」を返礼するケースもある。本制度の手続きを簡易化する「ワンストップ特例制度」もある。
・2008年度は寄附額81.4億円/件数5.4万件だったが、2019年度は寄附額4875億円/件数2333万件まで増えた(※住民税の納税者は6千万人、所得税の納税者は5千万人なので4割位かな)。2019年度に最も多くの寄附を集めたのは泉佐野市で、寄附額185億円/件数30万件。同市の一般会計予算が539億円なので、3割が本制度の寄附による。高額な返礼品があったため、寄附額の3割以下に定められた。逆に税収が減少する自治体が問題になっている。
<地方交付税>
・「地方交付税」は自治体が最低限のサービスを提供するためにある。人口・産業が少ない自治体ではゴミ処理・消防・学校・道路などの維持が難しいからだ。地方交付税は税収の格差を是正する「財政調整」と最低限のサービスを提供する「財政保障」の機能がある。
・地方交付税には通常の経費を補う「普通交付税」と、災害時などに交付される「特別交付税」がある。なお地方交付税の使途は自治体に決定権がある。
・交付されるのは行政サービスに必要な額が税収を超える場合だ。そのため東京都/浦安市などは交付されていない。国税である所得税・法人税の33%、酒税の50%、消費税の20%、地方法人税の全額が地方交付税に充てられる(※あらかじめ決まっているのか)。しかしこれでも不足する場合、一般会計から加算されたり(特例加算)、地方が借金する(臨時財政対策債)。2023年度の地方交付税は18.4兆円だった。
・地方交付税には長い歴史があり、税金の無駄遣いの指摘もある。同様な制度がない国もある。
<政府開発援助>
・「政府開発援助」(ODA)は先進国が開発途上国の経済発展や福祉向上を援助する国際協力活動だ。ODAには「多国間援助」「二国間援助」がある。多国間援助は「国連児童基金」(UNICEF)・国連世界食糧計画(WFP)・アジア開発銀行などに拠出され、間接的に支援する。
・二国間援助は開発途上国を直接支援し、「資金協力」「技術協力」がある。資金協力はインフラ整備に投じられる。例えばインドでは地下鉄・高速鉄道に使われた。ベトナムでは病院が建設された(※紐付きとかあるのかな。日本は原則禁止しているらしいが)。技術協力は教育・農林水産業・環境保護など広い分野に及ぶ。バングラデシュでは小学校の理数科のアドバイスをしている。アフリカではコメなどの農業支援を行なっている。
・二国間援助の場合、日本が計画策定から実行までを担う。まず内閣の海外経済協力会議が戦略・方向を決め、関係省庁が企画・立案し、国別援助計画を纏める。この計画を基に「独立行政法人国際協力機構」(JICA)がプロジェクトにし、開発コンサルタント・NGO・大学などと連携して実行する。
・ODAは過去に「自国経済だけを守ろう」として戦争を招いた経験から生まれた(※詳細省略)。この反省から1940年代(※戦後直後?)に様々な国際金融機関が設立され、世界経済を安定・復興させる体制が作られた。先進国は回復したが、開発途上国との格差が生じ、開発途上国への支援が求められる。また格差解消だけでなく、資源・食料の安定的な確保などの「経済的理由」、感染症への対応などの「社会的理由」もある。
・日本は賠償を行ないながら(※日本はフィリピン・ベトナム・インドネシア・ミャンマーに賠償を行なった)、ODAも行っている。ODAの金額は米国・ドイツに次いで3位だ。
<青年海外協力隊>
・「青年海外協力隊」は「独立行政法人国際協力機構」(JICA)が実施するボランティア事業で、「政府開発援助」(ODA)の一環だ(※技術協力になるのかな)。主に産業・福祉・教育分野の人材を派遣する。原則2年間派遣され、現地の問題解決や環境改善を行う。それだけでなく、異文化社会の相互理解やその経験の日本での還元も目的だ。
・本事業は途上国からの要請で始まり、JICAが募集・選考して派遣する。派遣先はアジア・中東・中南米・大洋州・東欧に亘る。職種は経済活動に寄与するもの(コミュニティ開発、野菜栽培、自動車整備、観光など)、教育・社会サービスに寄与するもの(小学校教育、看護師、栄養士など)、文化活動に寄与するもの(青少年活動、音楽、柔道、服飾など)がある。
・日本のボランティア事業は1965年に始まり、1974年JICAが設立され青年海外協力隊となった。これまでに100ヵ国/4.5万人が派遣された。近年は「内向き志向」から応募が減少している。そのため一時的に仕事を休職し、帰国後に職場復帰できる「現職参加」制度もある。さらに「帰国隊員奨学金事業」「グローカルプログラム」(※詳細省略)などがあり、帰国後に国際協力や国内での多文化共生・地方創生の人材として活躍してもらう制度がある。
第9章 健康・医療
<セルフメディケーション税制>
・「セルフメディケーション税制」は健康のために医療品を購入した場合、所得控除される制度だ。病院に行かず、市販薬を活用する事で医療費を抑制できる。2019年度の医療費は44兆円で、65歳以上が27兆円で6割を超える。一般の方の自己負担は3割だが、高齢者の負担は更に低く、国民皆保険や国庫負担で賄われている。
・例えば風邪薬・アレルギーなどの医薬品を年1.2万円以上購入すると、確定申告で控除できる(※月1千円なら十分ありえる)。ただ全ての医薬品が対象ではない。2022年の改正で、風邪・アレルギー(花粉症など)・腰痛・関節痛・肩こりの医薬品が追加された。
・本制度を利用するにはレシートが必要だ。さらに予防接種・健康診断を受けている必要がある。また本制度は「医療費控除」の特例なので、医療費控除と本制度を併用できない。年末調整で申請できず、確定申告が必要になる。そのため確定申告に慣れている個人事業者ならともかく、会社員には敷居が高い。※条件は多そうだし、金額は軽微だし、申請も面倒かな。
<インセンティブ交付金>
・各自治体は高齢者の自立を支援しているが、「インセンティブ交付金」はその自治体の取り組みを評価し、交付金を支給する制度だ。厚労省が各自治体の取り組みを評価し、結果を公開する。指標には「公共施設のバリアフリー化」「健康教室の開催頻度」などがある。本制度には「保険者機能強化推進交付金」「介護保険保険者努力支援交付金」の2種類があり、それぞれ200億円が予算に計上されている。※広島市では「高齢者生き生き活動ポイント」をやっていた。高齢者に限定されないが「元気じゃ健診」もある。
・本制度が導入されたのは、自治体が自らの判断・責任で行う地域包括ケアシステムの構築を求められたからだ。良い事例は厚労省が公表している。本制度により地域の高齢者福祉のさらなる向上が期待される。
<介護保険制度>
・「介護保険制度」は高齢者の介護を社会全体が支援する仕組みだ。40歳になると自動的に介護保険に加入し、65歳以上で介護が必要と認定されれば、適切なサービスを受けれる。現在697万人が要介護認定されている。※日本の65歳以上は3600万人、75歳以上は2100万人。高齢者の約2割。実際は後期高齢者の約3割かな。
・かつては介護は家族が担っていたが、介護期間の長期化や重度化が進んだ。また介護する側も核家族化や高齢化が進んだ。これにより1997年介護保険法が成立し、社会全体で高齢者を支える事になった。
・本制度には3つの考え方がある。1つ目が自立支援で、高齢者の自立の支援だ。2つ目が利用者本位で、利用者は様々な保険医療サービス・福祉サービスから利用するサービスを選択する。3つ目が社会保険方式で、40歳以上になると保険料を納める義務があるが、介護が必要になると利用できる。
・例えばホームヘルパーが来て入浴のサポートを受けられたり、施設に通うデイサービスがある。本制度を利用するには、まず自治体に要介護認定の申請をし、全国一律の5段階の要介護認定を受ける。そしてケアプランが作られ、居宅サービス・施設サービスが利用できる様になる。利用者の自己負担は1~3割で、残りは自治体が補填する。
・本制度は度々改正されており、2006年の改正では介護予防が重視される。社会参加や社会的役割を持つのが介護予防になり、地域包括システムが構築される(※詳細省略)。
・本制度は成立から30年経ち、利用者は3倍になった。総費用は今後も増え、給付と負担のバランスが崩れつつある。財源不足から制度改正も必要になった。また介護人材も不足し、現在190万人が従事しているが、2025年には245万人必要になる。本制度は要介護者が最後まで自分らしい生活を送るのが目的だ。課題が山積しているが、あくまでもその中心は要介護者だ。
<国民皆保険制度>
・「国民皆保険制度」は国民全員が加入する公的な医療保険制度だ(※正確には外国人居住者も加入)。公的医療保険は3種類ある。被用者保険-会社などに勤務、国民健康保険-農家・フリーランス・非正規雇用者・退職者など、後期高齢者医療保険-75歳以上。保険料は種類と収入で変わる。被用者保険は加入者と事業者が折半する。
・国民全員が加入するのは医療負担を分散させるためだ。不足分は公費で賄う。そうする事でサービスを受け易くし、個人負担を軽減している。個人負担は基本3割で、残りは保険料と税金による。
・また保険証があれば、どの医療機関でも受診できる(フリーアクセス)。医療保険制度は各国で異なる。英国は保険料はセロだが、決められた医師に受診しなければいけない。米国は加入義務が高齢者・低所得者だけで、それ以外は民間の医療保険に加入し、高い医療費を払っている。※米国の民間医療保険は保険料も自己負担率も高い。保険料は単身で130万円、家族で370万円など。
・日本の国民皆保険は1961年に実現した。当時は経済成長期だが、労働条件は厳しく、生活保障もなかった。1956年『経済白書』に「もはや戦後でない」と書かれたが、生活水準は低く、生活保護すれすれの人が1千万人いた。大企業の労働者と中小零細企業の労働者との格差もあった。1956年時点約3千万人が医療保険に未加入だった。1958年「国民健康保険法」が制定され、1961年国民皆保険が実現した。
・今は財政収支が問題だ。高齢者の人口増と医療技術の進歩で医療費が増えている。一方経済の低迷と労働人口の減少で保険料収入が減っている(※生産年齢人口は減ったが、労働人口は増えたのでは)。支出増・収入減により赤字が拡大している。医療保険制度の再設計が求められる。
<健康経営銘柄>
・「健康経営」とは企業が従業員の健康管理を戦略的に行なう事だ。「健康経営銘柄」は上場企業で健康経営が優れた企業を投資家に紹介する政策だ。日本は高齢化し、医療・介護が財政を圧迫している。そのため健康寿命を延ばす必要がある。企業においては従業員の健康維持は、人材の活躍にも繋がる。2014年「日本再興戦略 改訂2014」により本政策の検討が始まり、2015年より毎年健康経営銘柄が発表されている。※本政策は知らなかった。
・健康経営銘柄は東京証券取引所(東証)に上場している企業から経産省と東証が共同で選定する。対象企業に「健康経営度調査」を配布し、それに回答するとエントリーされる。その中から健康経営銘柄が選定される。エントリーした全企業に偏差値などが記載された「フィードバックシート」が送られる。フィードバックシートは当社が希望すれば公表される。
・2022年は上場3800社の内、1127社が回答した。日経平均株価225社では85%が回答し、多くが公表している。また経産省は未上場企業が対象の「健康経営優良法人」の選定・公表も行っている。同年2042社が回答した。
・機関投資家は投資判断に健康経営を考慮し始めている。企業・従業員・投資家が健康経営に関心を持ち、企業価値が高まり健康寿命が伸びる事が期待される。
第10章 生活
<キャッシュレス・消費者還元事業>
・日本も「キャッシュレス決済が楽な社会」に向かっている。2019年10月~2020年6月「キャッシュレス・消費者還元事業」が実施された。これは小売店・消費者の双方に対するもので、店舗に対しては決済端末の無償提供、決済手数料の引き下げなどが行なわれた。消費者にはポイント還元が行なわれた。ポイント還元の店舗は115万店、決済金額は11.7兆円に及んだ(※手数料・ポイント還元共に数%を国が補助したのかな)。これらの効果によりキャッシュレス決済の比率は2010年13.2%から2020年32.5%に高まった。
・キャッシュレス決済には、「現金を持ち歩かなくて良い」「素早く買物できる」などの他に、店舗の効率化・売上拡大、商品開発・マーケティングでの活用、不透明な現金流通の抑止などのメリットがある。
・国は「日本再興戦略 改訂2014」でキャッシュレス社会の実現に触れ、2018年「キャッシュレス・ビジョン」を策定し、「世界最高水準の80%を目指す」とした。2019年「成長戦略フォローアップ」で、「2025年までに4割に引き上げる」とした。
・キャッシュレス決済を単に支払い方法と見るのではなく、ビジネス環境の変化と見るべきだ。キャッシュレス決済はフィンテック(金融×テクノロジー)、リテールテック(小売×テクノロジー)、自治体DX(自治体×テクノロジー)などで活用されている(※各具体例が欲しい。本政策はリテールテックに含まれるかな)。キャッシュレス決済により場所・時間の制約がなくなる。実際、店舗を持たない金融機関、無人店舗、オンラインで手続きできる役所などが生まれている。
<生活保護制度>
・「会社が倒産したら」「重い病気に罹ったら」などの不安があるが、そのため失業手当・休業手当がある。それでも足りない場合のために「生活保護制度」がある。憲法第25条に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」が記されている。本制度により、困窮の程度に応じた保護を受けられ、自立に向けた支援を受けられる。具体的には最低生活費と世帯収入の差額が「保護費」として支給される。保護費は食費・被服費・光熱費のみならず、住宅・教育・医療・介護・出産・就労・葬祭に充てられる。
・ただし誰でも使える訳ではない。「貯金があればそれを使う」「利用していない土地・家屋があれば売却する」「働けるなら働く」が前提だ。そのため手続きは複雑だ。まず申請希望者は自治体の福祉事務所に相談し、要件を満たしていれば申請でき、調査が始まる。調査では、家庭訪問/資産調査/扶養の可否/就労の可能性が調査される。保護費の支給が始まると、受給者は毎月収入を報告し、生活保護担当者と定期的に面会する。
・受給者は、2014年164万世帯/216万人、2021年163万世帯/204万人だ。「本当に必要としている人に使われていない」との指摘がある。その要因に要件の厳しさとケースワーカーの不足がある(※以前は自動車・携帯を持てなかったはず)。ケースワーカー1人の担当は80世帯と定めているが、80%以上がそれを超え、業務に支障が出ている。
<NISA>
・2019年「老後2000万円問題」が話題になる。これは家計調査で高齢夫婦世帯が平均で月5.5万円支出超過になっていたからだ。日本は金融資産で預貯金が占める割合が高く、現金・預金54.2%/債権証券・投資信託・株式6.7%だ。米国は現金・預金12.6%/債権証券・投資信託・株式56.2%だ(※デフレとインフレの違いもあるかな)。そこで「貯蓄から投資へ」の流れを生むため、2014年「小額投資非課税制度」(NISA)を開始した。
・個人が投資で得た配当金・分配金・譲渡益は通常20%の税金課せられるが、NISAを活用すると非課税になる。2024年NISAが大きく変わるので、そちらを説明する。まず投資の期間が無制限になる。さらに投資対象となる金融商品が広がる。新NISAは「つみたて投資枠」と「成長投資枠」になる(※詳細省略)。2つの投資枠を使い分ける事で、柔軟な資産運用ができる。ただしリスクは存在するため、投資先を慎重に選ぶ必要がある。
<iDeCo>
・「個人型確定拠出年金」(iDeCo)は年金制度の一種だ。「確定拠出年金」は事業者や個人が掛金を拠出し、その運用利益を年金に充てる制度だ。公的年金とiDeCoを組み合わせる事で、豊かな老後を送れる。
・iDeCoも税制優遇措置が備わっている。任意加入のため、申込/運用の全てを本人が行う。商品は定期預金・保険商品・投資信託から選び、掛金も自分で決める。
・日本の高齢化率は高く、65歳以上の割合は28.9%だ。2060年には4割になると試算されている。そのため公的年金は崩壊し、自分の努力で資産形成する必要があり、iDeCoが整備された。
・iDeCoには3つの税制優遇がある。①積み立てた掛金が所得控除。②利息・運用益は非課税。③積み立てた資産の受け取りは所得控除。また積み立てた資金を別の投資先に変更できる(※普通の投資に近い)。2017年から「中小事業主掛金納付制度」(iDeCo+)も設計されている(※詳細省略)。
・2022年4月国民年金の繰り下げ受給が75歳まで延長された。また第2号被保険者の加入可能年齢は65歳まで延長された。10月から「企業型確定拠出年金」に加入している人もiDeCoに加入できる様になった。
・iDeCoのデメリットとしては、受取額が非課税枠を超えると、利息分にも課税される。また「原則60歳まで掛金・運用益を引き出せない」「毎月の掛金に上限がある」「投資枠が少ない」などの指摘もある。また金融商品は自身で選択するため、投資知識が必要となる。また金融機関の選定/口座開設なども自身で行い、その手数料も自己負担だ。※結構面倒くさそう。
<国民年金>
・「国民年金」は20歳から60歳未満の人が加入する公的年金制度だ。年金受け取りには最低でも10年の保険料支払いが必要だ。65歳から老齢基礎年金が支給される。担当は厚労省だが、実質は日本年金機構が運営している。
・日本の年金は退職した人/亡くなった軍人/公務員などへの「恩給制度」に始まる。そして第2次世界大戦中に厚生年金制度が始まる。1961年自営業者を対象にした本制度が始まる。受給資格は当初は25年間の納付期間が必要だったが、今は10年に短縮されている。当初は任意加入だったが、1986年専業主婦なども強制加入になった。学生も強制加入になるが、保険料の納付が猶予される学生納付特例制度がある。
・高齢化により保険料を払う側から年金を受け取る側に移る人が増えた。そのため積立方式から賦課方式に移行した。日本年金機構は保険料を債権・株式で運用している。受給者は4040万人、加入者は6762万人、年金支給額は53兆円、保険料収入は39兆円となっている(※差額の14兆円は主に公費負担かな)。
・本制度の被保険者は第1号・第2・第3号に分かれる。第1号被保険者は日本に住み20歳以上60歳未満で第2号・第3号でない人で、自営業者・学生・農業漁業従事者・フリーター・無職などが入る。第2号被保険者は65歳未満で厚生年金に加入している人だ。厚生年金の保険料は被保険者と雇用主が折半している。給与・賞与に応じて保険料が変わるが、その分支給金額も変わる。第3号被保険者は第2号被保険者の配偶者で年収が130万円以下の人だ。保険料を納める必要はないが、支給金額は第1号被保険者と同額になる。
・全ての人に給付される金額(※基礎年金?)は毎年改定される。今は賦課方式が採用され、少子高齢化でバランスが崩れると支給額が減る。2004年制度の持続性を高めるため、「マクロ経済スライド」が導入された。
・他に障害基礎年金・遺族基礎年金もある。本制度には付加年金もある。毎月の保険料に400円プラスすると、支給金額が増える。
・今後も少子高齢化が進行すると考えられる。保険料収入を定年延長や再雇用で補っていく必要がある。支給年齢の引き上げや現役世代の負担軽減が議論されている。
第11章 社会基盤
<個人情報保護法>
・「個人情報保護法」は個人の権利・利益を保護し、かつ企業が個人情報を活用するルールを定めている。「個人情報」は生存する個人を特定できる情報だ。企業は従業員・顧客などの沢山の個人情報を持っているが、これが流出したり、悪用されてはいけない。一方企業はこれを利用し、事業を拡大している。
・近年企業はデジタル上で沢山の個人情報を集めている。例えば検索履歴から欲しがっていると思われる商品を推薦したりする。個人情報を活用する事でサービスの質を高めている。つまり個人情報の保護と企業による個人情報の活用のバランスが重要で、そのルールを定めたのが本法律だ。
・本法律は2003年公布で、2015年・2020年に大きく改正された。改正の理由は情報化社会が発展し、個人情報のやり取りが増えたからだ。2015年の改正で個人情報が明確になり、利活用の規定も整備された。また3年毎の本法律の見直しも決まった。
・2020年の改正はデータが国境を超えて流通するリスクが考慮された(※個人情報としないでデータとしたのは理由があるのか)。具体的には事業者の守るべき義務が明確化された。例えば個人情報の利用停止・消去のタイミングが拡大された。また個人情報が漏洩した場合の「個人情報保護委員会」への報告が、努力義務から義務に変わった。また違法行為が想定される第3者への個人情報の提供が禁止された。
・今後もデジタル化が進展し、取得する個人情報も増え、イノベーションが創出されるだろう。個人情報の保護と利活用は両輪で進める必要がある。
<PFI>
・公園・学校・福祉施設・ゴミ処理施設など多くの公共施設があるが、その一部は民間企業が運営している。「PFI」(Private-Finance Initiative)は、公共施設・公共サービスを民間企業に委託する政策だ。普通民間企業に委託する場合、設計・建築・維持・運営などの業務毎に発注するが、PFIは全ての業務を纏めて発注する。これにより民間企業のノウハウ・技術を活かせる。これは官民が協働して質の高い公共サービスを提供する「PPP」(Public-Private-Partnership)に基づく。
・PFIは業務範囲が広範囲のため、複数企業からなら「特別目的会社」(SPC)の設立から始まる。SPCは行政機関と「特定事業契約」を結び、SPCの構成メンバーが各業務を担当する。
・PFIにより「低廉かつ良質な公共サービス」「行政の公共サービスへの関わり方の変革」「民間の事業機会を増やし、経済が活性化する(※基本総量は変わらないと思うが)」が期待される。
※一時上下水事業の民間委託が話題になったが、あれはPPPかな。郵便事業も民間委託された公共サービかな。
・1991年PFI法が制定され、2020年までに875件のPFI事業が実施されている。多くが教育・文化領域(社会教育施設、文化施設など)で、次にまちづくり領域(道路、公園、下水道施設、港湾施設など)や健康・環境領域(医療施設、廃棄物処理施設、斎場など)が続く。具体例として山形県東根市の「まなびあテラス」がある。これは図書館・美術館・市民活動センター・都市公園から成り、民間企業6社がSPCを構成した。
・当初は2022年度までに総額21兆円を目標としていたが、2020年度で23.9兆円に達した。さらに今後多くの施設が更新時期を迎える。また良質な公共サービス/財政健全化/地域経済の活性化の手段としてPFIが期待される(※官から民だな)。政府は2022年度から10年間の目標を30兆円とした。
<PLATEAU>
・国主導で都市データの整備・活用・オープン化が進められている。このプロジェクトが「PLATEAU」(プラトー)だ。「3D都市モデル」を整備し、様々なユースケースを生み出している。この活用による持続可能な都市開発・災害対策・パンデミック対策などが期待される。※GSI用の電子国土基本図は知っていたが、これは知らなかった。
・3D都市モデルはオブジェクト(建物、街路など)に都市活動情報(名称、用途、建設年など)を付与した3D都市空間情報プラットフォームだ(※Googleマップと競合するかな)。このモデルには3つの価値がある。①視覚性-都市を立体的に認識し、把握力が高まる。②再現性-空間情報をサーバー上に置き、自動運転・ドローンなどでシミュレーションできる。③双方向性-フィジカル空間とサイバー空間で情報交換できる。PLATEAUはブラウザで確認でき、「PLATEAU VIEW」でデータを見れ、オープンデータも利用できる。
・1995年阪神淡路大震災が起きるが、地図データがないため復興に苦労した。これにより地理情報システム(GIS)の整備が始まる。しかし元となる地図情報はなく、関係省庁が別々に整備していた。そこで分野横断的な地図データが必要になり、2020年本プロジェクトが立ち上がった。
・2022年度に130都市が整備され、2023年度には200都市に拡大する。ユースケースは100件を超えている(※八重洲/渋谷の再開発にも利用されたかな)。実証実験にも力を入れている。それはソリューションとして活用されてこそ価値があるからだ。他にオープンデモやエンジニアコミュニティでの意見交換などが行なわれている(※佐賀関の火災現場もこれかな)。今後は脱炭素やモビリティなどにも取り組む。
<マイナンバー制度>
・「マイナンバー」(正式名は個人番号)は日本に住民票を持つ全ての人が持つ12桁の番号だ。日本は縦割り行政なので、その効率化が目的だ。住民票を確認するのに区市町村に行き、基礎年金番号を確認するのに年金事務所に行く。それはそれぞれ別の番号で管理されているからだ。申請するのに、幾つもの窓口を行き来する必要がある。行政も所得を把握できておらず、不正受給の判断も難しかった。そこで社会保障・税・災害対策の3分野での手続きを簡単にするため、本制度が考えられた。「マイナンバーカード」で個人番号を証明したり、本人確認ができる。「マイナポータル」では個人情報が照会できる。
・本制度の議論は1970年頃に始まり、2013年番号制度関連4法案の成立によりマイナンバーの付与が始まる。本制度が利用できるのは社会保障・税・災害対策の3分野の1221の手続きだ。マイナンバーの提供を求めるのも、国・自治体/勤務先/金融機関/年金・医療保険者に限られる(※年金・医療保険者は本人?)。2020年から年末調整・確定申告の情報取得・提供がマイナポータルでできる。2021年からマイナンバーカードが保険証として使える。同年子育て世帯への特別給付金がプッシュ型で行なわれた。
・今後も活用が増える。マイナンバーカードと免許証の一体化も検討されている。民間企業では金融機関の口座開設やオフィスの入退館で活用されている。一方で普及率を上げるために2万円のポイントを付与し、批判された。また紛失リスクなどが懸念される。
第12章 自然環境
<パリ協定>
・2015年「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議」(COP21)がパリで開かれ、温室効果ガスの削減が採択される(パリ協定)。内容は「世界の平均気温を産業革命以前より+2℃以下にし、+1.5℃以下にする努力をする」だ。地球温暖化は化石燃料の消費による二酸化炭素などの温室効果ガスの排出による。このままだと21世紀末には平均気温が4℃上昇し、水不足/農作物の減少/海面上昇などに陥る。
・気候変動関連では「京都議定書」(1997年)もある。これは「国連気候変動枠組条約第3回締約国会議」(COP3)で採択された。パリ協定は京都議定書の問題点を解消した枠組みで、両者について説明する。パリ協定は途上国も含めた全締約国に排出量目標の設定を義務付ける。一方京都議定書は先進国だけに義務付けていた。2001年最大の排出国米国が協定から脱退し、中国・インドなどの途上国の排出量増加がパリ協定の背景だ。世界が対象になり、画期的な枠組みになった。
・パリ協定はボトムアップで目標が設定される。各国が目標を設定し、達成状況を定期的に報告する。一方京都議定書は「温室効果ガスの排出を1990年比で5%削減」を目標とし、先進国に割り当て、達成できないと罰則を与えた(※現実的でなかったのかな)。パリ協定は自主的になってハードルが低くなり、問題意識を世界で共有する事になった。ただしこの場合、目標が甘くなり、世界全体の目標が達成できなくなる可能性がある。そのため5年毎に目標を高める仕組みになっている(グローバル・ストックテイク)。因みに日本は「2030年度に2013年度比46%削減」を目標にしている。
<トップランナー基準>
・環境に優しい技術は進化しているが、「自分一人なら守らなくても」と思う人がいると悪化する。政府はこのモラルハザードを起こさせないため、自動車などの機械器具メーカーや輸入事業者に対し「トップランナー制度」を設けた。本制度は最も省エネな製品を「基準」とし、目標年までにこの基準を超える製品の開発をメーカーに求める。※省エネだけ?リサイクル/脱炭素などは含まない?
・本制度は最も優秀な製品を基準にするのが特徴だ。目標年に基準を守れなかった事業者はその理由や今後の対応を報告する必要がある(※これもコンプライ・オア・エクスプレインかな)。この対応が不十分な場合、罰則がある。本制度により社会の省エネが進む。
・本制度は日本がエネルギー資源が少ない事で生まれた制度だ。そもそも「エネルギーの使用の合理化に関する法律」(省エネ法)はオイルショック後の1979年に制定された。1997年京都議定書が締結され、翌年省エネ法が改正され本制度が導入された。※今はホルムズ海峡封鎖によりナフサなどが不足している。
<家電エコポイント制度>
・2009年5月~2011年3月エネルギー消費を減らすため「家電エコポイント制度」が実施される。エアコン/冷蔵庫/地デジ対応テレビを買い替えると、その省エネ性能に応じてポイントが付与される(※単に購入はダメ?)。各製品の省エネ性能は「統一省エネラベル」で決まっており、星4つ・星5つの製品だけポイントが付与される。当初は温暖化対策で環境省が検討していたが、経産省と地デジ切り替えのため総務省が加わった。
・4500万件の申請があり、2.6兆円の販売押し上げ効果、5兆円の経済波及効果があった。また年270万トンの二酸化炭素削減の効果があった。地デジテレビの普及率は、2009年3月61%から2010年12月95%に高まった。ポイントは環境団体への寄附、LED電球への交換、東日本大震災への寄附にも使われた。
・本制度により家電の省エネ化が一気に進んだ。2009年度から始まったエコカー減税も類似の制度だ。一方で「需要の喚起は先食い」との批判もあった。
<地球温暖化対策税>
・「地球温暖化対策税」は石炭・石油などの化石燃料を扱う事業者が二酸化炭素の排出量に応じて課される税だ(カーボンプライシング)。カーボンプライシングには3つの効果がある。①価格効果-化石燃料の使用が金銭的な負担になり、化石燃料使用のインセンティブが下がる。②財源効果-税収を省エネ/再生可能エネルギーの普及に使用する。③アナウンス効果-本税が認知される事で、国民一人ひとりが化石燃料の使用を抑制する。※カーボンプライシングには排出量取引も含まれ、日本も2026年に始めた。
・実は本税の前に「石油石炭税」があったが、地球温暖化対策を促進するため、2012年石油石炭税に本税が上乗せされた。税額は二酸化炭素1トン当たり289円で、税収は2千億円になる。しかし税額が低いと指摘されている(ニュージーランド7100円、韓国2900円)。「国際エネルギー機関」(IEA)は2030年130ドル(17500円)、2050年250ドル(34000円)を目標にしている(※EUには炭素国境調整措置もある)。
・日本でもカーボンプライシングの取り組みが始まっている。2023年「GX推進法」が成立し、2028年から化石燃料の輸入事業者に「化石燃料賦課金」が課せられ、2033年から発電事業者に「排出量取引制度」が導入される。しかし導入のタイミングが遅く、2030年度までに2013年度比46%削減ができないとの指摘がある。
・一方政府は化石燃料事業に年1.4兆円の公的支援をしており、政策に一貫性がない。この公的支援は、補助金/途上国での開発/化石燃料事業の公的な保険などだ。本税の税収2千億円に対し、1.4兆円の公的支援を行っている。
<グリーンイノベーション基金>
・「グリーンイノベーション基金」は、カーボンニュートラルの実現・社会実装に取り組む企業を最長10年支援する基金だ。「カーボンニュートラル」は温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にする事だ。事業予算は2兆円で、14分野が対象だ。
・2015年「パリ協定」が締結され、日本も「2050年カーボンニュートラル」を宣言した。本基金はこの実現のため設立され、大量生産・大量消費の抜本的な改革、太陽光発電の様な革新的技術の創造などを支援する(※相当広範囲で、支援可否の判定が難しいのでは)。
・環境対策は必要だが、経済効果も期待される。多くの投資家がESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した企業に投資しており、その資金は世界で3千兆円を超える。2021年このESG投資を呼び込むため「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(グリーン成長戦略)が策定され、成長が期待される14分野が指定された。その中で時間が掛かりそうな取り組みに対し、本基金が設けられた。環境対策と190兆円の経済波及効果が期待される。
・ただ「事業者が集まるのか」「資金が目的の技術開発に使われるのか」などが疑問視される。例えばアンモニアと化石燃料を混焼して発電する事業(アンモニア混焼)に688億円の予算が組まれるが、アンモニアも輸入に頼るためエネルギー安全保障を悪化させるとの指摘がある。アンモニア混焼は技術的ハードルやコストが高く、削減効果は低い。
おわりに
・2019年経産省のビジネスモデルを図解するイベントがあった。そこである官僚から「ビジネスモデルを可視化できるなら、政策もできるのでは」との意見があった。このビジネスモデルの図解は、2018年『ビジネスモデル2.0 図解』として出版されていた。
・ビジネスモデルの図解も政策の図解も3×3のマス目の3段構造になっている。政策図解の構造は様々な省庁とのヒアリングを経て定まった。政策の議論は空中戦になるが、図解があれば対話が容易になる。この構造は5W1Hを基にしているため、特別なものではなく、あらゆる行動に当て嵌る(※システム設計にも使えそう)。実際は政策は複雑で9マスに収めるには捨象する必要がある。しかし図解により理解は容易になる。一般市民に政策を理解してもらうのに本書は有効と思う。
※以下の謝辞は省略。